2018年5月16日 (水)

ホース・ソルジャー

 久しぶりに映画について書く。今までそれなりに映画を見てきたのだが、なかなかコメントする機会が得られなかった。「スター・ウォーズ;最後のジェダイ」、「オデッセイ」、「ゼロ・グラヴィティ」などのSF洋画や「破門 ふたりのヤクビョーガミ」、「三度目の殺人」、「ユリゴコロ」などの邦画など、気の向くままに見てきた。

 書こうと思ったものの、なかなかその時間がなかったというところが本音である。ところが、なぜか今回は短いながらも書こうと思った。それはあまりにも期待が外れたからだ。

 この映画「ホース・ソルジャー」は、原題を"12 Strong"といって、12人の勇敢なアメリカ軍兵士のことを意味している。A2ub7950
 この映画は実話に基づいたもののようで、今まで表ざたにならなかったのは、計画自体が極秘だったかららしい。

 12人の兵士は、陸軍の特殊部隊に所属していて、イラクの軍閥と協力して、約5万人のタリバン部隊と戦うという内容だった。

 これは、2001年の「9・11」に対して、アメリカ軍が極秘に行った最初の反撃と言われていて、この功績を讃えるための馬に乗った陸軍兵士の銅像が、グラウンド・ゼロの跡地に建てられているそうだ。744af604
 ここからはネタバレになるので、まだ見ていない人は、読まない方がいいと思う。一応、注意しておきます。

 この映画は、国策映画である。どこをどう見ても、アメリカの国威発揚と正統性を示しており、逆に、宿敵アルカイダを徹底的に悪者として描いている。
 だから、勧善懲悪主義であり、結果的に、アメリカ軍兵士の英雄的行為が描写されている。したがって、非常にわかりやすく、しかも面白く展開していて、安心してみていられるのである。

 映画の冒頭では、アメリカにおける「9・11」のニュースやそれを受けての人々の対応などが描かれているし、一方のアフガニスタンでは、自分の娘たちに勉強をさせた母親が、公開処刑されるシーンがあった。アルカイダは、8歳以上の女子には教育は必要ないと考えていて、その決まりを破った母親が処刑されたのだろう。

 この辺は、誰が正しくて誰が悪いというのが一方的に示されているので、非常にわかりやすい。しかし、アフガニスタンに旧ソ連からの共産主義が広がるのを防ぐために、1979年からのアフガン戦争時に、現地のゲリラに武器を供給したのはアメリカだった。
 また、アメリカは、中東の地にアメリカの威光を示すために、当時のサウジアラビアと仲良くして、武器や資本を供与したのだ。そういう歴史的な経緯は置いといて、一方的にアフガニスタンの一部の人たちを悪者として描くのもどうなのかなあと思った。

 また、途中で投降してきた兵士たちの中に、自爆テロを行うものがいたが、彼らの宗教というか思想では、死んだ方が豊かで幸せに過ごせるというのだから、生きていても毎日が戦争状態なら、むしろ死を選んで報われたいと願うだろう。

 これは価値観の違いなので、否定も肯定もできないが、もし彼らが、今の日本のように豊かな環境の中で生活していたら、果たして死を選ぶだろうかとも思った。(でもやっぱり死を選ぶだろう。先進国と呼ばれている欧米社会の各国でも、たびたび自爆テロが行われているからだ。宗教的価値観こそ絶対的基準なのである)

 確かに、アルカイダは暴力的で独善的だし、少なくともテロリズムも容認するつもりはない。それはないものの、もう少し批判的に描いてほしかった。世界で一番大切な人の命を奪っているのは、アメリカもアルカイダも同じだからだ。Horsesolider_jpg_pagespeed_ce_tikby
 だからこの映画には、批評性がない。自分はロック・ミュージックが大好きで、今でも聞いているのだが、ロックには批評性が備わっている。カントリー・ミュージックとブルーズやゴスペルが融合して、ロックン・ロールが生まれた。だから、ロック・ミュージックには、旧来の音楽、音楽のみならず社会体制への批判が内包されていると考えている。

 批評性のない音楽などの表現活動には、興味がわかない。それは映画も同じ。ただ、興味がわかないだけで、その存在までは否定するつもりはない。
 それはともかく、だからと言ってこの映画は、全くつまらないというわけではない。アメリカ映画の素晴らしい点は、良い意味でも悪い意味でも、娯楽性が備わっている点だ。

 この映画でも、21世紀の戦争という状況の中で、空からピンポイントで攻撃するところと、馬に乗って戦闘するシーンがあった。この対比が面白かった。まるで、日中戦争のさなかに、満洲国を馬に乗って戦う馬賊のような、そんな感じなのだ。張作霖と関東軍の戦いが、そのままタイムスリップしたような、現代に置き換えられている感じがした。あるいは、戦国自衛隊ともいうべきか。

 それに現代のテクノロジーを集結した最先端の兵器と馬に乗った兵士という、ある意味、ミスマッチというか落差が、この映画を一層面白くさせている。
 また、戦闘シーンは確かに迫力があって、ワクワクさせてくれた。この辺のカメラワークというか、描き方は素晴らしいと思った。Hs10332src
 ただし、突っ込みどころは満載で、12人のうち1人は重傷を負ったものの、それ以外は無傷に近かったというのは信じられなかった。相手の敵陣の中を馬に乗って突っ込んでいくのである。アルカイダから集中砲火を浴びているのである。それでも主人公は無傷だった。
 まるで、織田信長が今川軍の中に突っ込んでいった桶狭間の戦いのようだった。日本でも起きたのだから、アフガニスタンでも起こりえるのだろう。

 正確に言えば、1人は負傷したので、残りは11人だったが、2人は狙撃手として別の場所にいたので、戦闘に参加したのは最大でも9人だ。実際は、後方に位置していた人もいたので、ひょっとしたら5~6人だったのではないだろうか。8fb85322
 映画の最後で、主題歌らしきものが流れた。ザック・ブラウンという人が歌っていて、この人は、アメリカのカントリー・シンガーらしい。この辺もまさに国策映画というような気がしてならなかった。昔の日本でも、さだまさしなどの歌手が戦争映画の主題歌などを歌っていたが、当時は、ニュー・ミュージックの歌手が映画とタイアップしていた。当時というのは、1980年代初頭の頃だ。

 ちなみに、ザック・ブラウンはバンドで活動していて、ザック・ブラウン・バンドはグラミー賞も受賞している人気バンドのようで、ジョージア州アトランタを中心に活動している。彼自身はまだ40歳である。Zacbrownbandrealthing
 いずれにしても、何も考えないで観るだけなら、何の問題もない映画である。むしろハラハラするし、兵士たちは勇敢だし、ある意味、感動するだろう。ただ、それで満足するかどうかは、また別の問題だと考えている。

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2018年5月14日 (月)

エンブレイス

 CDラックを整理していたら、エンブレイスという名前のバンドのアルバムがあった。しかも2枚。自分は気に入ったバンドのアルバムは2枚以上購入するようにしているので、2枚あったということはそれなりに気に入っていたということだろう。

 ただ、今までこのバンドのことを思い出すことがなかったということは、気に入った割には長続きしなかったということだろう。そんなことを考えながら、もう一度聞くことにした。

 エンブレイスは、1990年にダニーとリチャードのマクナマラ兄弟を中心に、イギリスのヨークシャーで結成された。最初はベースレスの3人組だったが、1994年にベーシストが加入して4人組になり、1996年には当時の(今でも?)有名バンドだったヴァーヴも所属していたハット・レーベルと契約し、翌年にシングル"All You Good Good People"を発表している。

 デビュー当時の彼らは、はっきり言って“第2のオアシス”だった。それはミディアム・テンポで広がりのある楽曲やスローで叙情的なバラードなど、当時のオアシスと比べて、あまり変わりもないような歌を歌っていたからだ。

 ただ、確かに“第2のオアシス”だったかもしれないが、楽曲は優れているし、曲も聞いていて気持ちいい。彼らのアルバムを聞いていて時間を無駄にしたとは思わないし、アルバムを購入しても損をしたとは感じさせなかった。だから2枚目も購入したのだろう。

 デビュー当時のメンバーは次のようなことを言っていた。『俺たちの曲のスケールには今やウェンブリーにすら大きすぎやしないぜ』
 ウェンブリーとは当時のロンドンにあったウェンブリー・アリーナのことで、今はSSEアリーナ・ウェンブリーと呼ばれているが、楽に1万人以上収容できる施設でもある。

 『俺たちがアルバムを発表したとき、ヴァーヴがセカンド・ベスト・バンド、オアシスがサード・べストになるのさ』
 何とも新人らしいふてぶてしさというか、大言壮語というか、音楽のみならず言動もオアシス並みのビッグ・マウスだった。

 この時はまだデビュー・アルバムは発表しておらず、編集されたEP盤が全英アルバム・チャートの34位や21位まで上昇していた。だから1997年の最後のロンドン公演では、『こんな小さな会場で俺たちを観れるのは最後だからな!』と叫んだらしい。よほど自信があったのだろう。

 実際、翌年発表された彼らのデビュー・アルバム「ザ・グッド・ウィル・アウト」は、50万枚以上の売り上げを記録し、全英チャート1位、見事プラチナ・ディスクを獲得した。有言実行なのである。51kbtozleyl
 全14曲60分のこのアルバムには無駄な曲はひとつもなく、どの曲も起承転結がはっきりしていて、美しいメロディで構成されている。
 2曲目の"My Weakness is None of Your Business"や3曲目の"Come Back to What You Know"における壮大なストリングスや管弦楽器などの使い方などは確かにオアシスの影響は感じさせられるが、それ以上にドラマティックな印象を与えられる。

 また、"One Big Family"や"I Want the World"におけるノイジーなギターには、粗削りながらも計算された演奏が感じられるし、"Fireworks"や"That's All Changed Forever"ではピアノやアコースティック・ギターを基調として、叙情的でドラマティックな美しさを漂わせている。やはり売れるアルバムには、売れるだけの理由が備わっているようだ。

2年後の2000年に、彼らはセカンド・アルバム「ドローン・フロム・メモリー」を発表した。率直な感想を言わせてもらうと、デビュー・アルバムよりも幾分丸くなった感じがした。
 “丸くなった”というのは、ハードでノイジーなギター・サウンドが影を潜め、むしろ"Save Me"のようにブラスがフィーチャーされ、R&Bの影響を感じさせるコーラスなどが目立つのだ。
 ひょっとしたら、このアルバムからメンバーになったキーボーディストのミッキー・デイルのおかげなのかもしれない。 988469_0_embraceguests_1024
 キーボーディストが加入したおかげで、前作では少し過剰装飾とも思えたストリングスも、このアルバムではそんなに目立ってはいない。むしろ適切に使用されているようで、わざとらしさや鼻につく(耳につく?)ことはない。

 それでも、美しいストリングスやピアノをあしらえた"Drawn from Memory"や、ドラマーのマイク・ヒートンが担当したクラリネットが目立つ"I Had A Time"のような叙情的なバラードも収められていて、彼らのファンなら感涙ものだろう。いや、彼らのファンだけでなく、このアルバムを聞いたほとんどの人は感動するのではないだろうか。

 また、"Hooligan"には遊び心が漂っていて、カズーという楽器(というよりもオモチャだろう)が使われているし、メロディー自体もシンプルだ。間違ってもこういう曲をオアシスはやらないはず。そういう意味では、自分たちの方向性をリセットしたのかもしれない。

 もちろん、以前からのハードな曲調のもの、ここでは6曲目の"New Adam New Eve"や8曲目"Yeah You"のような血湧き肉躍る曲も用意されているし、"Liar's Tears"のようなアコースティック・ギターとキーボードを基調としたメロディアスなバラードも聞くことができる。

 だから従来のファンも安心して耳を傾けることができるし、新しいファンも彼らの音楽的な冒険や方向性に対して大いに賛成するだろう。ある意味、理想的なセカンド・アルバムと言ってもいいのかもしれない。61nnom8qxpl
 このアルバムは、全英チャートで8位を記録し、ゴールド・ディスクを獲得した。アルバムのタイトルは、イギリス人の有名なイラストレーターのE.H.シェパードの自伝のタイトルを借用したもので、彼は“クマのプーさん”などを手掛けていた。

 このあと、自分はエンブレイスから離れていったのだが、その後の彼らは2004年と2006年にアルバムを発表し、連続して全英1位に輝いている。
 ここまでは順調に来たのだが、彼らには“バラード・バンド”というイメージが定着したみたいで、そのせいかバンドとしての音楽的な方向性に迷いが生じてしまい、2007年から2011年までは活動を停止していて、個人での活動が目立っていた。

 彼らは今でも活動中で、今年の3月には7枚目にあたる最新アルバム「ラヴ・イズ・ア・ベイシック・ニード」が発表されている。全英チャートでは最高位5位まで上昇して、彼らの健在ぶりを証明した。410v7sma1l オアシスの亜流としてスタートした彼らだが、今では自分たちの居場所を確保し、確固たる存在意義を示している。本家のギャラガー兄弟とは違って、喧嘩別れもしていないし、一緒に曲を書いて発表している。やはり兄弟の仲がいいことも音楽性に反映されるのに違いない。

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2018年5月 7日 (月)

キャットフィッシュ&ザ・ボトルメン

 滅多にないことなのだけど、CDの再生ができないということがあった。これは車の運転中に起きたことで、古くて汚れたCDならともかく、新品のCDでは珍しいと思った。でも、今までの経験でも何回かはあったので、これは相性の問題なのだろう。

 車のCDデッキも購入して10年以上にもなるので、ひょっとしたらCDデッキの不具合かもと思ったのだが、ほかのCDが再生できたのでデッキのせいではないようだ。

 ということは、どう考えてもCD自身の問題なのだろう。車のデッキとの相性が悪いせいで再生できないだろうと思って、家にあるCDプレイヤーでかけたら無事に音が鳴った。やはり車のCDとのマッチングがよくなかったに違いない。

 ところで、その問題のCDが、イギリスのバンド、キャットフィッシュ&ザ・ボトルメンの「ザ・ライド」だった。2016年の春5月に発売されているから、もう2年前になる。しかし、とりあえずは彼らの最新アルバムだし、今のイギリスのギター・バンドを代表するアルバムだと思っている。

 全11曲でトータル・タイムが39分49秒という短さが、いかにも若々しさを感じさせるし、若者らしい潔さが漂っている感じがしてならない。51ln3wvdal
 バンドは4人で構成されていて、しかもシンプルに、ボーカル、ギター、ベース、ドラムスという古典的なものである。一応、メンバー名を下に記すことにする。

ヴァン・マッキャン(ボーカル)
ジョニー・ボンド(ギター)
ベンジー・ブレイクウエイ(ベース・ギター)
ボブ・ホール(ドラムス)

 彼らは、イギリスの北ウェールズのランディドノという街出身で、2007年に結成された。中心メンバーはボーカル担当のヴァンで、彼と元ギタリストの2人で活動がスタートした。
 当初はアマチュア・バンドのような活動が主で、地元のクラブやパブを中心に演奏活動を続けていたが、ドラマーが交代してから彼らを取り巻く環境が変わったようだった。

 2013年には、マイナー系列のレコード会社から"Homesick"を含む3枚のシングルが発表されて話題となり、翌年には天下のアイランド・レコードと契約をしてそこからデビュー・アルバム「ザ・バルコニー」が発表された。

 ところが、やっとこれからメジャーで活動できるという時に、ギタリストのビリーが脱退してしまった。彼はヴァンにもギターの手ほどきをしてくれたのだが、このバンドでの活動の意義を見失ってしまったようだった。
 結局、新ギタリストのジョニー・ボンドが加入して、再び活動を始めた。イギリスを含むヨーロッパ・ツアーを始め、最大の売り込み先であるアメリカへも足を延ばしてライヴ活動に取り組んでいった。

 自分はデビュー・アルバムの「ザ・バルコニー」は未聴なので何とも言えないのだが、チャート・アクションで見ると、全英アルバム・チャートでは10位、アメリカのビルボードでは121位だった。ただ、アメリカのロック・アルバム・チャートでは13位になっていたので、それなりには売れたようだ。

 このチャートの結果に気をよくした彼らは、新メンバーでさらに気合を入れて新作を作っていったようだ。916kvjqoe1l__sl1500__2
 当初はメディアもそんなに彼らをプッシュしていなかった。イギリスのメディアは新しいバンドに対しては冷たくて、例えばクィーンがデビューしたときのニュー・ミュージカル・エクスプレス誌は、彼らを“しょんべん桶”と称し、『このバンドのアルバムが売れたら帽子でもなんでも食ってやる』とまでレビューしていた。

 そういう伝統を背負っているイギリスのメディアは、当初の無視から徐々に注目を寄せ始め、ついに“ベスト・ニューカマー2014”に認定した。また、2016年のブリット・アワードでは、“ブリティッシュ・ブレイクスルー・アクト賞”が授与されている。

 今さら“ブレイクスルー”(新人賞)と言われても彼らは戸惑ったと思うのだが、それもこれもこまめにイギリス中をツアーした結果だろうし、イギリス国内だけでなく、アメリカ国内でも殺人的なライヴ・スケジュールを組んでいったからだろう。

 だからセカンド・アルバム「ザ・ライド」もイギリスではなく、アメリカのロサンジェルスで録音されている。
 この時のプロデューサーは、デイヴ・サーディという人で、彼はフォール・アウト・ボーイからZZトップのようなアメリカン・ロック・バンドからスノウ・パトロールやゴリラズのようなブリティッシュ・バンドまで幅広く手掛けるアメリカ人だった。

 彼はギター・ロック・バンドを手掛けて世界的に売り出すことを得意にしており、キャットフィッシュ&ザ・ボトルメンのメンバーの目指す方向性と一致したから起用されたのであろう。

 実際、このセカンド・アルバムには、若者が求めるような切迫感、焦燥感などがギューギューに詰め込まれていて、何度聞いても聞く側にもその雰囲気が伝わってきて、思わず気持ちが入ってしまう。
 それに、グッド・メロディーもまた良い。こちらも聞いていて思わずハミングしてしまうようなそんな感じなのである。51rby0ow6l
 “ザ・ビートルズの再来”とまでは言えないけれど、初期のビートルズの持っている疾走感やメロディ・センスを兼ね備えているのは確かで、イギリスのギター・バンドとしてのDNAを所持していることは間違いないだろう。

 ただ残念なことは、印象的なギター・ソロがないことだ。これはこのバンドだけの問題ではなくて、90年代以降のバンドに共通している点だ。
 60年代や70年代は、ある意味、“ギタリストの時代”と言ってもいいほどで、有名なバンドには必ず偉大なギタリストが存在していた。そして、その人の奏でるギター・サウンドには甘美なメロディのみならず、印象的なギター・リフやフレーズが含まれていたものだ。

 ところが、そういう時代は過ぎ去ってしまったのか、90年代のオアシスでさえもメロディアスな佳曲は多いが、印象的なギター・フレーズを挙げろと言われると、ちょっと躊躇してしまうのである。

 だからこのアルバム「ザ・ライド」でもその傾向は同じで、ギターは搔き鳴らされてはいるものの、ギター・フレーズには乏しい。
 しかし、それをグッド・メロディと特徴的なソング・ライティングで補っている点は、とても新人バンドとしては(そんなに新人ではないけれど)優れていると思っている。

 特に、4曲目の"Postpone"の転調の仕方や5曲目の"Anything"の哀愁味のあるメロディラインや緩急つけたリズム、エンディングのファズをかけたギター・ソロなどは、シングル・カットに相応しいと思ったのだが、なぜか違う曲がシングルになっていた。

 ちなみに、アコースティック・ギター1本で歌われる"Glasgow"もある。なぜかこの曲はこのアルバムからの3枚目のシングルに選ばれていて、イギリスのチャートでは128位と低迷した。なぜこの曲を選んだのか、ちょっとそのセンスが分からない。

 "Red"というと、あの有名なプログレ・バンドの名曲を思い出してしまうのだが、このアルバムの中の"Red"も規模は異なるものの、ドラマティックで性急な曲構成や畳み掛けるドラミング、空間を生かしたエコー・サウンドで盛り上げるギターなどは、このバンドがただものではないことを教えてくれている。

 このアルバムにはもう1曲アコースティックの曲があって、こちらの方がオアシスっぽくてヒットしやすいと思った。
 "Heathrow"という曲なのだが、中間部にエレクトリック・ギターが鳴っているだけで、全体としてはアコースティックなのである。"Glasgow"も"Heathrow"も地名なのだが、個人的には"Heathrow"の方がシングル・ヒットしそうな気がした。

 ともかく、このアルバムは全英で1位、全米でもビルボードのアルバム・チャートで28位を記録した。これはイギリスの新人バンドとしては(新人ではないと思うけれど)、異例のヒットである。A1f6ktkne8l__sl1500_
 その後彼らは、イギリス国内ではオープニング・アクトからヘッドライナーに昇格して、ツアーを続けているようだ。

 自分の車のCDデッキでは聞けなかったけれども、このアルバムは傑作アルバムだったと思っている。キャットフィッシュ&ザ・ボトルメンは、今後も目の離せないバンドのひとつなのである。

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2018年4月30日 (月)

21世紀のZZトップ

 さて、今月はZZトップについて記してきた。こんなに長く続けるつもりはなかったのだけれど、つい勢いに任せて書き綴ってしまった。
 熱狂的なZZトップ・ファンから見れば、物足りないだろうし、もっとよく知りたい人にとっては、中途半端な情報にしかならなかっただろうが、今回でとりあえず区切りをつけることにしたので、お許し願いたい。Zz
 さて、2000年代に入ってからのZZトップは、結成30周年記念のツアーを行っていて、アメリカ国内はもとより、オーストラリアやニュージーランドの英語圏を始め、ヨーロッパ各国において活動を続けていた。

 2002年に入ると、バンドはヒューストンにある自分たち所有のアルバムに集まり、新しいスタジオ・アルバムの制作に取り掛かった。そして翌年発表されたのが14枚目のスタジオ・アルバムである「メスカレロ」だった。61slnlaj0l
 アルバムのタイトルは、かつてテキサス州近辺に住んでいたネイティヴ・アメリカンのことを指していて、彼らは11月の1日と2日の2日間に、死者に弔意を示すと同時に、生前の姿を偲ぶという風習を持っていた。日本でいうところの“お盆”みたいなものだろう。だから、アルバムジャケットにも、ドクロ姿の人が手に飲み物を持って立っている。

 ひょっとしたら、バンド結成30年を過ぎて50歳代半ばを迎えた彼らもまた、過去の有名無名のミュージシャンやバンドに敬意を表すとともに、自分たちもやがては伝説化していくに違いないという自覚や自負もあったのではないだろうか。

 このアルバムには、通常の楽器だけではなく、アコーディオンやマリンバ、ペダル・スティール・ギターやハーモニカなども使用されていた。
 だからアルバム・タイトルからも想像できると思うのだが、このアルバムには地元テキサスやメキシコの音楽“テックス・メックス”、それにカントリー・ミュージックの影響が強く出ていて、通常のロック・アルバムとは少し違った印象を受けた。

 それだけ彼らの地元愛というか、自分たちを育んでくれた郷土テキサスやその風土、環境への愛情や憧憬などが込められているのだろう。まさにZZトップが地元のファンのために、ファンの皆さんと一緒に作り上げましたよとでもいいそうな、そんな感触が伝わってくるのだ。

 アルバムの冒頭は、"Mescalero"で始まる。この曲には全編にわたってマリンバが使用されていて、曲のエンディングにはソロまで用意されていた。
 このマリンバを演奏しているのは、無名の親子のメキシコ人ミュージシャン?で、たまたま彼らが昼食をとっていたレストランで演奏をしていたのを気に入って、レコーディングに招いたらしい。この親子は、他の曲("Que Lastima")でも演奏している。

 アコーディオンは3曲目の"Alley-Gator"で使用されている。この曲はワニの“アリゲーター”ではなくて、それを“アレイ・ゲイター”と譬えているようで、通りに立っている門番みたいな恐ろしい彼女のことを歌っている。

 それからペダル・スティール・ギターは、ブギー調の"Back Nekkid"やスロー・バラードの"Going So Good"で使用されている。
 特に、"Going So Good"はお涙頂戴の典型的な泣きのバラードで、久しぶりにバラードで泣ける曲を聞いた感じがした。この曲を聞くためにアルバムを購入してもおかしくないだろう、もちろん中古盤なら即買いだ。

 ギタリストのビリーがエンジニアのジョー・ハーディとゲイリー・ムーンの2人で書いた曲が6曲目の"Me So Stupid"というミディアム・ロック調の曲で、バックの“うぅっ、うぅっ”というコーラスというか囁きが面白い。

 また、スペイン語で歌われる"Que Lastima"は日本語で“残念だ”、“お気の毒に”という意味らしい。この曲には先にも述べたようにマリンバやハーモニカなどが使用されていて完全にスペイン歌謡になっている。

 さらに13曲目の"Tramp"というどこかの誰かと同じ名前のような曲は、1967年の古いブルーズ曲を録り直したもので、アルバム唯一のブルーズになっている。70年代はこういう曲が何曲もアルバムに収録されていたのだが、今は逆に珍しいといえるだろう。

 他にも爆音ハード・ロックの"Piece"、"Two Ways To Play"、80年代のコンピューターを導入した曲の感触に近い"Stackin' Paper"、"Crunchy"、ZZトップ風ポップ・ソングの"What Would You Do"等々、かなりバラエティに富んだ作りになっていて飽きさせない。5144tvx5gll
 しかもこのアルバムは曲数が多くて16曲(国内盤は17曲)も収められており、結構なボリュームなのである。時間にして1時間以上もあるし、とにかく自分たちがやりたい音楽をやりましたよという感じだった。

 ちなみに、隠しトラックとして、映画「カサブランカ」の中でも歌われた“時の過ぎゆくままに”("As Time Goes By")が収められていたが、これは国内盤だけでなく輸入盤でも歌われているのだろうか。

 そのせいか、久しぶりにこのアルバムは、ビルボードのアルバム・チャートで57位まで上昇した。それでも全盛期の成績から見れば、満足できるものではなかっただろう。
 それに、国内盤の配給については、このアルバムが最後になってしまった。アメリカでもRCAレーベルからユニヴァーサル傘下のアメリカン・レコーディングスというマイナーなレーベルに移っていた。心機一転というつもりだったのだろうか。

 さて、「メスカレロ」から約9年たって、彼らは15枚目のスタジオ・アルバム「ラ・ヒュートゥラ」を発表した。この間彼らは、2004年にはロックの殿堂入りを果たしているし、その後はベスト盤やライヴ盤を定期的に発表していた。
 このアルバム「ラ・ヒュートゥラ」はスペイン語で「未来」という意味である。ビリーは、“過去と現在を混ぜ合わしてできた結果、「未来」になった”と言っている。

 これは、昔のシンプルでブルージーなロックン・ロールと現代テクノロジーの影響を受けた音楽とを融合して、これからも新しいロックン・ロールを目指していこうという趣旨だと思われる。81hlmlmsp3l__sl1400_
 実際に、このアルバムのプロデューサーは、ビリーとともにあのリック・ルービンがあたっている。リック・ルービンといえば、アデルやジョニー・キャッシュからレッチリまで、洋の東西を問わず、数多くのミュージシャンやバンドから支持されている超有名プロデューサーである。そんな彼がZZトップとタッグを組んだのだ。これが悪かろうはずがない。

 1曲目の"I Gotsta Get Paid"は"25 Lighters"という曲のカバーで、ヒップホップの曲だと思われる。オリジナルはDJ.DMDという人の手によるもので、アルバート・ジョセフ・ブラウンⅢというミュージシャンも曲作りに参加していた。

 続く、"Chartreuse"はフランス産のシャンパンのことで、フランスでのライヴの時に楽屋に置かれていたものだ。メンバーたちが大変気に入っていたという逸話がある。
 この曲のリフは、レインボーの名曲"Long Live Rock'n'roll"とそっくりで、ひょっとしたらパクったのではないかと思ったほどだった。ただ、メロディー自体は全く違うので、訴えられることはないだろう。

 このアルバムの特徴は、10曲しか収録されていないこと。つまり昔の、70年代のフォーマットに戻ったということだ。しかも最初の3曲は、曲間がほとんどないから次々と曲が流れてきて、疾走感がみなぎっている。冒頭の3曲は本当に素晴らしい。
 さすがリック・ルービン、こういうところでも彼らの魅力を上手に引き出しているのだろう。やはりグラミー賞受賞プロデューサーは違うのだ。

 そして疾走感のある3曲の次には、渋いスロー・バラードの"Over You"が続く。この辺の押しと引きのバランスの良さなども、リックの手腕だろう。ただ何となくこの曲は、ブラック・サバスの"Solitude"に似ていた感じがした。

 続く"Heartache in Blue"はブルージーでミディアム・テンポの曲。ハーモニカも使用されていて、昔の曲を焼き直したような感じがした。こういう“古くて新しい”感触が、このアルバムの決め手なのだろう。だから、ビリーが述べたように過去と現在を融合して新しいものを生み出そうとしていたと言っていたのは、このことだったのかもしれない。

 とにかく音がクリアでシンプル、無駄のないプロデュースだと思う。"I Don't Wanna Lose, Lose, You"はシンプルだからこそカッコいいし、"Flyin' High"などは、AC/DCのようでスリム化して耳に残りやすい。

 同じスロー・バラードでもこちらの"It's Too Easy Manana"は力強く美しい。このアルバムの成功した原因は、リック・ルービンのおかげもあるが、外部ライターのサポートもあったからだろう。
 このバラードは、元はデヴィッド・ローリングスとギリアン・ウェルチという人の曲で、歌詞の一部をビリーが書き換えている。

 "Over You"と"I Don't Wanna Lose, Lose, You"はビリーとトム・ハムブリッジというミュージシャンとの共作だし、"Heartache in Blue"もトレイ・ブルースというカントリー・ミュージシャンとのものだった。

 全10曲中、ビリーひとりで作った曲は、3曲目の"Consumption"と最後の"Have a Little Mercy"の2曲だけで、あとは外部のミュージシャンや、以前も共演したエンジニアのゲイリー・ムーンなどとの制作だった。611gezbsvil
 そういう変化というか、外部からの力を借りつつも、自ら本来の音楽性に立脚した楽曲を提供することに成功して、見事このアルバムは、全米ビルボードのアルバム・チャートで6位まで上昇した。
 全米チャートで10位以内に入ったのは、1990年の「リサイクラー」以来、22年振りの出来事だった。また、イギリスでも久しぶりにアルバム・チャートに登場し、29位を記録している。復活の手ごたえ十分なアルバムになった。

 国内盤の配給は打ち切りになったものの、アメリカでは久しぶりに大成功したアルバムである。結成40周年を過ぎてもなお彼らには、このアルバムのタイトル通りに、「未来」はまだ大きく横たわっているに違いない。

 というわけで、アメリカの“至宝”ともいうべきZZトップの歴史をたどってきた。外部ライターの手を借りるなど、様々な方法を駆使して彼らはまだまだ生き延びていくだろう。結成50周年の来年には、記念のアルバムか何かが発表されるに違いない。彼らは、もはやアメリカの国民的ロック・バンドのひとつなのである。

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2018年4月23日 (月)

90年代のZZトップ

 さて、前回からの続きで、今回は90年代のZZトップである。1990年に発表された「リサイクラー」は、「テクノ3部作」の最後の作品としてだったが、その前のアルバム「アフターバーナー」よりは、テクノ色は幾分抑えられていて、むしろ70年代の原点回帰というような印象が強かった。

 個人的には、このアルバムから彼らと距離を置くようになってしまい、彼らの「グレイテスト・ヒッツ」を購入したあとは、しばらく音信不通になっていた。売れすぎてしまって興味が薄れてしまったのだ。81zufgipjnl__sl1425_
 何しろ「イリミネイター」だけでも全世界で1000万枚以上売れたというし、「アフターバーナー」は初回発売だけで200万枚以上の予約オーダーがあった。つまり予約だけでダブル・プラチナ・ディスクの認定を受けたということで、この時期の彼らの人気がいかに高かったかが分かると思う。
 その「アフターバーナー」もアメリカ国内だけで500万枚以上売れたし、「リサイクラー」も100万枚以上売れている。この時期のZZトップは、まさに向かうところ敵なしだっただろう。

 そんな彼らが、1992年にレーベル会社をワーナーブラザーズからRCAに移して、ニュー・アルバムの制作を開始した。理由は定かではないが移籍金が3500万ドルということだったから、経済的な意味合いが強かったのだろう。

 そして、1994年に「アンテナ」という11枚目のスタジオ・アルバムを発表した。これはアルバム内にある"Antenna Head"という曲名から引用されたもので、彼らにとっては曲名をアルバム・タイトルにした初めてのアルバムになった。612mhkcuol
 全11曲(国内盤は12曲)で構成されていて、テクノ路線はすっかり後退していて、ハード・ロック寄りになっていた。それは冒頭の"Pincushion"を聞けばわかると思う。ビリーのギターもフィーチャーされたノリのよい曲だ。イギリスのシングル・チャートでは15位を記録している。

 続く"Breakaway"はギターのエフェクターを効かせたスローな曲で、ブルーズの影響がうかがえるし、"World of Swirl"もミディアム調の、思わず体が動いてしまいそうな曲だ。70年代のZZトップがハード・ロック路線に走ったらこうなりましたというような曲だった。

 このアルバムには4分台の曲が多くて、11曲中8曲が4分台だ。残りは3分台が1曲、5分台の曲が2曲含まれていた。そのうちの"PCH"という曲は幾分ポップな香りを漂わせていて、時間的にも3分57秒と4分以内になっていた。
 また、"Cover Your Rig"はスロー・ブルーズで、5分49秒とアルバムの中では一番長い曲だ。ビリー・ギボンズのギターも多重録音されていて、伸びのある艶やかな音色を出している。

 このアルバムは、全米14位、全英で3位とセールス的にも申し分のない結果を残している。まだまだZZトップの魅力は衰えないぞとでもいいそうな力のこもった内容だったからだろう。また、MTVの影響力に対してラジオの復権を強く訴えているところもあり、全米のラジオ局は喜んでこのアルバムをリスナーに届けたことも影響したに違いない。

 これは余談だが、ジャーニーというバンドも「レイズド・オン・レディオ」というアルバムを1986年に発表していたが、ラジオで育った世代には音楽状況の変化に対して共通した思いがあったのだろう。ZZトップも同じ意識だったに違いない。

 このハード路線は続く1996年のアルバム「リズミーン」でも継承されていて、前作以上に音圧も高く、ギターもギンギン鳴っていた。
 特に、アルバムの最初の3曲"Rhythmeen"、"Bang Bang"、"Black Fly"は強力で、70年代のハード・ロックとR&B風のリズムのハイブリット型を提示しているようだ。
 それにただ単に音がハードだけではなくて、リフ主体の曲作りに間奏のギター・ソロとAメロ、Bメロ、サビのブリッジというスタイルもまた昔を知る者には郷愁を感じさせてくれるのである。512atvn6mrl
 また、"What's Up With That"は、ミディアム・テンポのブルーズ・ロック系で、これもまた聞き捨てならない曲だ。曲間のハーモニカはジェームズ・ハーマンという人が吹いているし、この曲自体が、ビリーだけでなくマック・ライスやルーサー・イングラムという昔のR&Bシンガーやソングライターとの共作だった。だから70年代のような昔の匂いがプンプン漂ってくるのであろう。

 そういえば、9曲目の"My Mind is Gone"には曲作りにスティーヴィー・ワンダーという名前が記載されていたが、あの盲目の天才スティーヴィー・ワンダーのことだろうか?
 他にはエンジニアのジョー・ハーディーやアシスタント・エンジニアのゲイリー・ムーンなども参加していたが、バリバリのハード・ロック・サウンドなので、そんなにメロディアスでもなくファンキーでもなかった。とてもスティーヴィー・ワンダーが参加していたとは思えないほどの重たいサウンドだ。

 他にもスロー・ブルーズの"Vincent Price Blues"やジョージ・クルーニーやクゥエンティン・タランティーノが出演した1996年のホラー映画「フロム・ダスク・ティル・ドーン」に使用された"She's Just Killing Me"、往年のノリの良さを感じさせる"Loaded"、ブルーズの影響を感じさせる"Prettyhead"など、聞きどころの多いアルバムに仕上げられている。

 ただ残念ながら、チャート的には全米で29位、全英で32位と、前作よりはあまり振るわなかった。時代の流れは、こういうハードなギター・サウンドを求めなくなっていて、わずか10年ほど前は全米を熱狂させていたとは思えないほど、徐々にその人気を失いつつあった。

 それから約3年後の1999年に、彼らは90年代では最後となるアルバム「XXX」を発表した。このタイトルは、デビューから30周年を表していて、英語ではなくローマ数字を意味していた。だから本来は“トリプルエックス”と読むのは間違っていて、“サーティ”が正しいと思うのだが、どうだろうか。

 このアルバムの素晴らしいところは、デビュー以来一貫して変わらない彼らの姿勢である。ブルーズに影響されながらも時代の流れやその時の流行を巧みに取り入れながら、ハードでノリのよいブギー・ロックを奏でている。51hv3dvvltl
 しかも、デビュー以来メンバー・チェンジのない不動の3人組で音楽活動を続けているという点も、古くて新しいZZトップ・サウンドの要なのだ。

 ただ、このアルバムではデビュー以来の付き合いだったプロデューサーのビル・ハムが参加していない。前作が最後のプロデュース作品になったわけである。ただそんなに大きな変化は見られない。基本はギタリストのビリーがプロデュースしているので、ギターがフィーチャーされている気がした。

 例えば、4曲目の"36-22-36"にはエフェクトかけまくりのギター・ソロが展開されているし、同じくシングル・カットされた"Fearless Boogie"もダビングされたギター・サウンドが強調されていた。
 また、"Made into a Movie"は典型的なスロー・ブルーズだし、しかもことさらギターが盛り上げようとするところなどは、わかっていても感動してしまったりする。

 個人的には2分48秒と短い"Beatbox"や流行りのEDM(エレクトロニック・ダンス・ミュージック)とブギー・ロックが融合したような"Dreadmonboogaloo"などが面白いと思ったのだが、彼らのこのアルバムでの新趣向は後半のライヴ4曲だったようだ。

 ただ、この方法論は1975年の傑作アルバム「ファンダンゴ!」で試されていて、今回はそれを踏襲した形になっている。しかもこのアルバムには最初のライヴ曲の前に、30秒余りのMCによるバンド紹介から始まっていた。

 このMCは13歳からラジオのディスクジョッキー(昔はそう呼ばれていたのだ‼)を始めたという伝説のMCのロス・ミッチェルという人で、そこからアルバム「アンテナ」の中に収められていた"Pincushion"の別バージョンの"Sinpusher"、あのエルヴィスも歌った名曲"Teddy Bear"、"Hey Mr. Millionaire"、"Belt Buckle"と続いていく。

 しかも"Hey Mr. Millionaire"にはジェフ・ベックがボーカルを分け合って歌っているから、ファンにはたまらない。客席も大盛り上がりの様子が伝わってくる。ハーモニカ奏者も加わって非常に楽しそうに演奏しているのだ。

 久しぶりにスタジオ曲とライヴ音源をミックスしたアルバムを発表したのだが、“柳の下の二匹目のドジョウ”はいなかったようだ。
 個人的には大好きなアルバムなのだが、アメリカのアルバム・チャートでは100位、イギリスではチャート・インもしなかった。

 レーベル会社のRCAのプッシュが足りなかったのか、はたまた時代と合わなくなってきたのか、それともデビュー以来の盟友ビル・ハムの不在のせいだろうか、恐らくそれらの複合的な理由のせいなのだろうが、セールス的には失敗してしまった。

 ただ、ビル・ハムは「ローン・ウルフ・プロダクション」を設立して、様々なミュージシャンのプロデュースやマネジメントを手掛けているから、ZZトップと完全に関係を絶ったというわけではなかったようだ。

 このように90年代のZZトップは、音楽的な水準は決して衰えてはいなかったのだが、80年代の反動か、自ら追い求める音楽と時代の求める音との乖離からか、セールス的には下降していった。

 しかし、彼らの根強いファンは、決して彼らのことを見捨てることはなく、どこまでも彼らのことを追いかけていった。流行に左右されない不変の音楽性がそこにあったとともに、セールスの結果に左右されないファンとミュージシャンの理想的な姿もそこに存在していたと思う。2cbfe47807f74445a6fb4b2689a1bbc6
 この時、ビリー・ギボンズとダスティ・ヒル、フランク・ビアードの3人は全員ともに50歳。まだまだキャリアの追及は、終わっていなかったのである。

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2018年4月16日 (月)

80年代のZZトップ

 さて、ZZトップはまだまだ続く。今回は80年代の彼らのアルバムについて調べてみた。80年代に入って最初に発表されたアルバムは、1981年の「エル・ロコ」だった。71stbfw9t0l__sl1102_

 これは彼らにとって7枚目のスタジオ・アルバムにあたり、80年代に隆盛を迎える彼らの人気のプロローグを飾ったアルバムだった。
 このアルバムを聞いたときに思ったのは、今までのブルーズ臭のする楽曲が目立たなくなったということだった。

 冒頭の"Tube Snake Boogie"は相変わらずのブギー調の曲で、安心して聞くことができる。こういう曲を聞きながら、春の花が咲いているドライブコースを運転すれば、ご機嫌というものだろう。ディストーションのあまりかかっていないシンプルなギター・ソロが余計にかっこよく聞こえてくるから不思議なものだ。

 続く、"I Wanna Drive You Home"はミディアム調のブルーズ・ロックで、これもまた予定調和的な音楽だ。次の"Ten Foot Pole"ではエフェクターのかかったギターが印象的だった。後半のギター・ソロをもっと聞きたいと思うのだが、ビリーのギター演奏は上図なのに、いつもフェイド・アウトしてしまうような気がする。

 意外だったのは、4曲目の"Leila"だった。曲名からして、クラプトンの名曲を思い出させてくれるのだが、これがなんとまあ、超ポップな曲なのである。
 何しろスティールギターがフィーチャーされていて、70年代後半のウエストコースト風に仕上げられている。ビリーの声までソフト&メロウな感じで、シャウトすらしていない。今までのZZトップの曲から見れば、ちょっと異質な感じがしてならない。81kur02kz2l__sl1272_
 5曲目の"Don't Tease Me"では再びZZトップの音楽観を耳にできるのだが、次の"It's So Hard"では、70年代後半のイーグルスやポコのようなミディアムスローの曲になっていて、またまたビックリした。
 曲自体は悪くないのだが、何というか最初からヒットを狙っているような、あるいは、ナイトクラブで演奏されるような、そんな感じの曲なのである。

 そして"Pearl Necklace"もまたちょっと違う感じがしていて、これはチープ・トリックやカーズのようなポップ・ロックのバンドが演奏する曲だと今でも思っている。
 ちなみにビルボードのシングル・チャートでは、"Leila"が77位、メインストリームロック・チャートでは、"Pearl Necklace"は28位だった。

 一番の問題作は、2分44秒の"Groovy Little Hippie Pad"だろう。この曲に初めてシンセサイザーが使用されたからだ。正確に言えば、前作の「皆殺しの挽歌」でも少しだけ使用されていたので、初めてとは言えないのだが、でも曲全体に目立つように使用されたのはこの曲が初めてだろう。
 これはこの時のプロダクション・エンジニアだったリンデン・ハドソンのアドバイスによるもので、当時の流行りを取り入れたことと、それによって曲やアルバムが目立つことを狙ったものであった。

 そのせいか、このアルバムは、チャートで17位まで上昇して、ゴールド・ディスクを獲得した。イギリスでも88位に顔を出して、これは1975年の「ファンダンゴ!」以来のチャート・インになった。ちなみに、「エル・ロコ」とは“気のふれた人”という意味のスペイン語らしい。

 ただ、個人的にはどうしても受け入れ難かった。今までのブルーズ・ロックやブギー調の曲は、悪くいえば、どこを切っても金太郎飴っぽいワン・パターンに陥りやすかったが、それでもZZトップならではの個性的で、ノリのよい雰囲気の曲が多く、個人的に大好きだった。

 それが、急にシンセサイザーで色づけたり、ウエストコースト風のAOR軟弱路線に走ったような気がしたのだ。バラエティに富んでいると言えば聞こえはいいが、昔からのファンには方向転換したと思ったのではないだろうか。

 そんな考えを見事に吹き飛ばしたのが、1983年の「イリミネイター」だった。このアルバムは売れに売れた。どのくらい売れたかというと、当時のアメリカだけで650万枚以上、今では1000万枚以上の売上げを記録しているし、アルバム・チャートでは全英3位、全米9位、アルバム・チャート内に135週以上にわたって留まっていた。約3年近くチャート・インしていたことになる。91hxfcfciol__sl1500_

 この大ヒットのおかげで、彼らはアメリカのバンドから世界的に有名なバンドへと成長していった。
 皮肉にもヒットの要因は、ZZ風シンセサイザーやドラム・マシーンの活用、もしくはテクノ風ZZトップの曲が新鮮に響き、それまでのファンのみならず、新しいファン層の開拓にも成果があがったからだ。

 このアルバムからは5曲がシングル・カットされ、特に、1984年に発売された"Legs"には、一聴してわかるようにシンセサイザーやシーケンサーが使用されていて、大人も子どもも受け入れていき、これが全米8位にまで上昇してしまった。

 “ブルータス、お前もか”という心境だったのだけれど、でも聞けば聞くほど気持ちよくなってくるのである。ZZトップらしい疾走感というかノリの良さは備わっているし、ギター・ソロも含まれているし、オールド・ファンにも受け入れやすい要素は確かにあった。

 まあ、ZZトップがディスコ・ミュージックにだけは走らなくてよかったと胸を撫で下ろしたのだが、"Legs"や"Thug"、"TV Dinners"などのアルバム後半の曲には、正直、違和感だけは残ったのである。71d3tuzzbl__sl1262_

 そんな彼らが、さらに柳の下の二匹目のドジョウを狙ったのが1985年の「アフターバーナー」だった。
 最初の3曲を聞いただけで、これは売れると思った。実際に、"Sleeping Bag"は全米シングル・チャートで8位、"Stages"は全米21位、"Woke Up With Wood"はメインストリーム・ロック・チャートで18位まで上昇していた。

 それ以外にも、お涙頂戴のバラード"Rough Boy"、タイトル通りのロックン・ロール"Can't Stop Rockin'"、ギターよりもシンセが目立つ"Velcro Fly"、アルバムの最後を飾っている"Delirious"などもシングル・カットされていて、全曲シングル・カットされてもおかしくないと思われるほどのアルバムだった。71w5lxskh0l__sl1400_
 だから目をつぶってZZトップと思わないで聞けば、確かにすごいアルバムだと納得できたし、売れても当然と思ったのだが、これがZZトップだと思うと、何となくもの哀しくなったのである。

 例えて言えば、初めて90125イエスを聞いた時の反応に近いと思う。「危機」や「海洋地形学の物語」を聞いた後で「ロンリー・ハート」を聞くと、どういう反応をするだろうか。往年のファンと新しいファンは、当然そのリアクションは違ってくるだろう。そんな感じなのだ。

 そして、このアルバムもまた売れた。アルバム・チャートでは全英2位、全米4位、ニュージーランドでは3週にわたって1位を記録している。
 確かに当時はこういうシーケンサーを使っての打ち込みやドラム・マシーン系の音楽が全盛期だった。シカゴ、スターシップやハート、a-haなど、当時のチャートの上位を占めていたバンドの楽曲は、たいていこういう傾向を示していた。そういう時代だったのだ。71cwuafsyql__sl1256_
 そして80年代最後のアルバムが「リサイクラー」だった。これは前作から約5年たった1990年に発表された。“シンセ三部作”の最後を飾るアルバムだったものの、前作の「アフターバーナー」よりはシンセサイザー等の使用度が下がっていたため、個人的にはまあまあ気に入っている。

 ただ、このアルバムも売れた。全英アルバム・チャートでは最高8位、全米では6位を記録したし、アメリカではプラチナ・ディスクに認定されている。
 シングルもアルバム10曲中6曲もカットされていて、そのうちメインストリーム・ロックのチャートでは、"Concrete and Steel"、"Doubleback"、"My Head's in Mississippi"が1位を、"Burger Man"が2位を獲得した。91rjnz1pevl__sl1500_
 また、"Doubleback"は映画「バック・トゥ・ザ・フューチャーpart3」の主題歌にも使用され、映画のヒットとともに、シングル、アルバムともに売れるという相乗効果を発揮した。80年代はロック・ミュージックが映画音楽に使用されて映画も音楽も売れるという、わかりやすい傾向があった。ある意味、幸せな時代だったのだ。

 また、このアルバムでは、"Give It Up"のような前作のアウトテイクのような曲はあるものの、以前のような露骨なシンセサイザー等の使用は控えられていたので、オールド・ファンにも受け入れやすかったのだろう。

 同時に、"2000 Blues"のような現代的なスロー・ブルーズも収められていたことから、俺たちのZZトップが戻ってきたぞという感覚があったのだろう。ターニング・ポイントのような少しだけ原点回帰し始めたような雰囲気があった。A14j5zmuxjl__sl1500_
 とにかく、この80年代に、時流に乗ったZZトップ一行は、アメリカのバンドから世界を代表するバンドへと成長していった。それは自分のようなZZトップのファンからすれば、好き嫌いは別として、確かに喜ぶべきことには間違いないのであった。

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2018年4月 9日 (月)

ZZトップ(3)

 久しぶりのZZトップの登場である。最近、このバンドのアルバムを全部手に入れて聞いてみようと思い、徐々に集めてきた。すでに何枚かのアルバムは手に入れていて、このブログでもその感想などを綴らせてもらっている。

 それで今回は、彼らのデビュー・アルバムやライヴ・アルバムを聞いてみようと思って、早速手に入れて聞いてみた。
 本当は「70年代のZZトップ」ということで、発表順にアルバムについて書いてみようと思ったのだが、すでにセカンドやサード・アルバムについては既出しているので、今回は割愛した。

 今回も輸入盤を購入して聞いてみた。詳細についてはよくわからないところもあるのだが、個人的に耳にした音の感想を記しているので、多少異議があってもお許し願いたいと思う。

 その前に、“ZZトップ”という名前の由来について調べた。前々から気になっていたのだ。これはギタリストのビリー・ギボンズのアイデアから来たものである。
 ある時、ビリーが自分の部屋にはっていたミュージシャンのポスターを見ていた時、B.B.キングとZ.Z.ヒルのポスターに目が行った。 

 B.B.キングは有名なので今さら説明するまでもないが、Z.Z.ヒルという人は、テキサス出身のソウル&ブルーズ・シンガーだった人で、50年代後半から活動していたが、人気が出たのは80年代になってからだった。
 ただ残念ながら、1984年に自動車事故による怪我が悪化して亡くなっている。享年49歳だった。

 その2人の名前を合体させて、“Z.Z.キング”という名前を思いついたのだが、それではB.B.キングとあまり変わり映えがしないと思ったようだ。
 それで、『“キング”は頂上を意味しているだろう』と考えて、結局、“ZZトップ”という名前になったのである。

 そんなビリーは、ベーシストのダスティー・ヒルとドラマーのフランク・ビアードと一緒にバンドを結成した。1969年という昔の頃のお話だ。

 そして、プロデューサーのビル・ハムと一緒にアルバムを作り上げた。それが1971年に発表されたデビュー・アルバムの「ZZトップス・ファースト・アルバム」だった。71mr7nisdpl__sl1425_
 これがまた渋いブルーズ・アルバムで、個人的には気に入っている。アルバムはシングルカットされた"Shakin' Your Tree"で幕を開ける。ミディアム・テンポの曲で間奏のギター・ソロがキラリと光っている。

 2曲目の"Brown Sugar"はストーンズのそれとは真逆のテンポの曲で、スロー・ブルーズで始まり、2分後からノリのよいミディアム・ブルーズに変わる。5分32秒と、このアルバムの中では最も時間が長い。これも間奏とエンディングのギター・ソロがカッコいい。決して速弾きではないのだが、的確でノリがよい。ビリーのリズム感が優れているのだろう。

 3曲目の"Squank"と次の"Going Down to Mexico"にはベーシストのダスティーも曲作りに加わっているせいか、ボーカルで参加している。"Squank"にはバックアップ・ボーカルとして、"Going Down to Mexico"ではリード・ボーカルを取っていた。彼の声の方が幾分高く聞こえてくる。

 "Old Man"はカントリー・フレイバー漂うスロー・ブルーズで、多重録音されたスライド・ギターがタイトルのような雰囲気を醸し出している。

 ただこのアルバムは、こういうスローな曲やミディアム・テンポの曲がほとんどで、アップテンポの曲がほとんどというか、まったくない。強いて言えば、最初の曲"Shakin' Your Tree "と最後の曲"Backdoor Love Affair"くらいだろうか。71qsgsnyopl__sl1264_
 だからというわけでもないだろうが、セールス的には今一歩だった。ただ、3人組のシンプルなバンド構成ながら、粘っこいサウンドで注目を集めたのは間違いない。以後、毎年スタジオ・アルバムを発表して、徐々に人気、セールスともに向上していき、3枚目の「トレス・オンブレス」はビルボード8位まで上がって、ゴールド・ディスクを獲得した。

 これで自信を得たバンドが次なる作品として発表したのが、1975年の「ファンダンゴ!」だった。バンドにとって4枚目になったこのアルバムは片面はライヴ音源、もう片面はスタジオ録音による新曲で占められていて、いわゆる変則アルバムになっていた。

 最初の3曲はニューオーリンズにおける1974年4月のライヴ音源から収録されていて、最初の"Thunderbird"と次の"Jailhouse Rock"はカバー曲だった。81mnimbq4sl__sl1425_
 "Thunderbird"という曲は、元はテキサスでは有名だったローカル・バンド、ザ・ナイトキャップスの持ち歌で、ノリノリのパーティー・ソングだ。この曲の著作権をめぐってZZトップとザ・ナイトキャップス側で訴訟問題が起こったが、結局のところZZトップ側が裁判で勝訴した。

 "Jailhouse Rock"はエルヴィス・プレスリーも歌った曲なのでほとんどの人はご存知だと思う。残りの"Backdoor Medley"はオリジナルとカバーのメドレーになっていて、全体で9分25秒になっている。中身はファースト・アルバムの最後に収められていた"Backdoor Love Affair"をベースにして、その間にウィリー・ディクソンの"Mellow Down Easy"と最後にジョン・リー・フッカーの"Long Distance Boogie"が配置されていた。

 後半のスタジオ録音では、軽快でファンキーな"Nasty Dogs And Funky Kings"、レッド・ゼッペリンの"Since I've Been Loving You"のような"Blue Jean Blues"、ギターのカッティングが印象的な"Balinese"などが収められていて、どの曲も個性的で印象的だ。特に、最後の曲"Tush"はシングルカットされて全米19位まで上昇している。

 このアルバムの2006年にリマスターされたバージョンでは、1980年8月のニュージャージーにおけるライヴ音源による曲が3曲収められており、「ファンダンゴ!」のスタジオ録音曲である"Heard It on the X"と"Tush"がボーナストラックとして収録されていた。残りの1曲は"Jailhouse Rock"だった。51ofrhmfml
 確かに彼らのライヴ曲を聞けば、優れたライヴ・バンドということが分かるだろう。ファーストのようなミディアム曲中心の単調さはなく、ホットでエネルギッシュで、素晴らしくノリの良い曲が中心なので、本物のライヴを見てみたくなる。これもデビュー以来、南部を中心にアメリカ中をまわって培ったテクニックや演奏力の結果に違いない。

 彼らは、翌年にはこれまた素晴らしいアルバム「テハス」を発表し、ビルボードのチャートでは17位を記録した。前作の「ファンダンゴ!」が10位だったから、この頃の彼らはまさに第一次のピークを迎えていたことになる。

 それから約3年たって新しいスタジオ・アルバムが発表された。この間、彼らはアルバム「テハス」のプロモーションを兼ねての大掛かりなワールド・ツアー、“ワールドワイド・テキサス・ツアー”を続けた。その後、約3ヶ月にわたる完全休養期間を設けている。だからニュー・アルバム発表までに時間がかかったのであろう。

 そのアルバム「皆殺しの挽歌」は、再びZZトップのメインテーマであるスピードの速い車やゴージャスな女性、愛するテキサスの大地や音楽を反映させたものになっていた。
 タイトルはスペイン語で『虐殺』を意味するようで、これは1836年2月から3月にかけて行われた“アラモ砦の戦い”におけるスペイン軍のかけ声を意味しているという。81qv8ooxwcl__sl1079_
 肝心の内容はというと、これまたブルーズを基盤とした密度の濃いアルバムに仕上げられている。全10曲中、カバーは2曲だがこの2曲がまた素晴らしい。

 アルバム冒頭の"I Thank You"は1968年にサム&デイヴが歌ったもので、原曲はアイザック・ヘイズとデヴィッド・ポーターが手掛けている。スローな曲だが、独特の粘りと引きずるようなリズムが特徴で、非常にカッコいい。

 もう1曲の"Dust My Broom"はロバート・ジョンソンの曲。ビリーの演奏するスライド・ギターがエルモア・ジェイムズ風に演奏されていて、曲がいいから演奏も際立って聞こえてくる。
 それ以外にもシンプルなブギーの"She Loves My Automobile"、曲の途中にギターによる三連符が3回入る"I'm Bad, I'm Nationwide"などの佳曲が多い。

 これら以外にもスローなブルーズの"A Fool for Your Stockings"、語り風の、いわゆる“トーキング・ブルーズ”である"Manic Mechanic"、アルバムから最初にシングルカットされたファンキーな"Cheap Sunglasses"などもあって、どの曲もZZトップ印が付いているような彼らの特徴を示していた。

 それに、最後の曲の"Esther Be the One"は、意外とポップな曲になっていて、これをシングルカットした方がいいような気がした。大ヒットにはならないけれど、ベスト50内には入ったのではないだろうか。81qszdidfnl__sl1238_
 このアルバムから、彼らはレコード会社を移籍していて、当時のワーナーブラザーズから発売されている。大手であるワーナーのプロモーションのおかげで、チャート的には24位だったものの、セールス的にはプラチナ・ディスクを獲得している。ZZトップはアメリカでは押しも押されぬメジャーなバンドに成長したのであった。

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2018年4月 2日 (月)

リバイバル

 エミネムのアルバムが昨年末に発表された。自分はラップ・ミュージックが嫌いで、あんなものはゴミみたいなものだと思っていたけれど、エミネムのアルバムを聞いて考えが一変した。ラップはロック・ミュージックの進化形であり、恐らくこれからも発展していくだろうと確信したのである。Main17121_2
 ロック・ミュージックが本来持っている衝動性や破壊性、批判精神などは、確実にラップ・ミュージックの中に息づいている。
 特に、エミネムのアルバムの中にはそれらが備わっていて、聞き返すたびに、彼の感情や息づかいまでもがリアルに伝わってくるような気がしてならない。

 彼のファンならよく知っていると思うけれど、2004年のアルバム「アンコール」から2009年の「リラプス」までの間に、薬物依存症を克服するために治療リハビリを行っていて、そこから徐々に全盛期の姿に近づきつつある。

 彼は今でも2000年に発表されたアルバム「ザ・マーシャル・マザーズLP」を自身の最高傑作だと位置付けていて、それを超えるために新作を出し続けている。

 それで昨年の12月に発表されたアルバムが「リバイバル」だった。このアルバム・タイトルから思うに、彼の完全復活宣言を告げるアルバムに違いない。だから、思い切って購入して聞いてみたのだが、相変わらずの攻撃性と先鋭性、衝動性などが伝わってきて、2000年代初めと変わらないスキルを伴っていたようだ。81jq0lcrrl__sl1000_
 例えば、2013年の「ザ・マーシャル・マザーズLP 2」には"Rap God"という曲があって、この6分4秒の長さの曲の中に、1560語がリリックされていて、“最も単語数の多いヒット・シングル”としてギネス・ブックに認定されている。

 なぜエミネムの人気は衰えないのか、どこが他のラッパーと違って自分にとって魅力的なのか、考えてみた。それは次のようなことではないかと思っている。
①彼の紡ぎ出すリリックが攻撃的なリズムを伴っていること
②聞くたびに気持ちが高揚してくること
③リリックを繋ぐトラックがメロディアスであること
④自分のトラウマなどの過去を曝け出していること

 特に3番目のトラックがメロディアスであるということは重要で、以前は過去のヒット曲などのサンプリングで、美メロを引用していたこともあったが、最近では他のミュージシャンと共作してのオリジナルが目立ってきたようだ。

 そして、リハビリ前のエミネムは、自らの生い立ち、母親との確執、妻との愛憎劇、娘への愛情などを包み隠さず、あるときは攻撃的に、あるときは慎み深く、ライムを重ねながらラップしていった。
 そういう自らのプライベートまでも対象化し、世界中に広く訴えてきたところも、人気に拍車をかけていったのではないだろうか。

 彼の自伝的映画である「8マイル」では、幼い頃に父親が家を捨てて出ていき、母親はトレーラーハウスに男を引っ張り込んでよろしくやっている様子が描写されていたが、等身大の彼らの姿だったのだろう。5142870mf1l
 また、デキちゃった結婚をした妻のキムとの離婚や再婚、再離婚などの確執では、楽曲の中でその愛憎を披露するなど、世間も注目するような関係が披露されていた。

 そういう直接的な心情の吐露が、2009年以降は影を潜め、むしろエミネム自身の内面性というか、沈潜した感情の表出が目立ち始めていて、彼の人間的成長とともにリリックにおいても大きな変化が目立ってきているのだ。

 45歳になったエミネムは、情熱は今でもあるがデビュー当時の怒りはなくなりつつあると言っていて、その分、ライムのテクニックやリリックの早さなどでの成熟さを自覚しているようだ。
 彼がデビューする前のラップ・バトルでは、最初から4行ぐらいまでのリリックの中で、皆の注目を集めないとすぐに飽きられてしまうから、なるべく最後まで聞いてもらえるように、刺激的で注視されやすいテーマやコンテントを発しなければならなかった。

 だから、デビューしてから世界的注目を集めるようになっても、彼は自分自身の生い立ちなども含めて過激なラップを展開してきた。そのせいか、逆に性差別者や人種差別者などの間違ったイメージが彼に与えられてきたのである。
 さらには、"Just Lose It"のマイケル・ジャクソンや"Mosh"における当時のブッシュ大統領などの有名人をディスったり、"Cleaning Out My Closet"や"Kim"での母親や元妻などとの裁判などをモチーフにするなど、とにかく世間の注目を集めてきた。

 ところが最近のアルバムでは、そういう過激性が影を潜め、むしろ今までのリリックの内容を反省するような、自省的で他の誰にも備わっている普遍的な感情を曲に込めるようになってきたのである。

 それに伴って、トラックのメロディが聞きやすくなってきたような気がするし、オリジナルで勝負するようになってきたのだろう。
 昔はエアロスミスの"Dream On"をサンプリングした"Sing for the Moment"や、最近でも前作のゾンビーズの"Time of the Season"を一部引用した"Rhyme of the Season"など、ポップなメロディーを伴ったトラックを用意していたが、徐々にその使用比率は少なくなっているようだ。

 それに、以前は“スキット”と呼ばれる曲間での短い出し物があったのだが、これもその出現回数は減って来ていて、前々作の「リカバリー」では0、前作の「マーシャル・マザーズLP 2」では1回しかなかった。今作では“イントロ”や“インタールード”はあるものの、“スキット”自体は0だった。

 逆に、大物ミュージシャンとのコラボレーションが目立っていて、前々作ではPINKやリアーナ、前作でもリアーナやケンドリック・ラマーをフィーチャーしたメロディアスな楽曲が目立っていた。

 今作の「リバイバル」においてもそれは同様だ。リード・トラックの"Walk on Water"では大物ビヨンセが、"River"で今をときめくエド・シーランが、歌姫とも呼ばれたアリシア・キーズは"Like Home"で、そして再びPINKは"Need Me"でフィーチャーされている。71hmrykrrel__sl1169_
 もちろんこれら以外にも何人かの優秀なミュージシャンが関わっているのだが、自分はあまりよく知らないので詳細は省きたい。

 また、内容的にも元妻や娘に対する謝罪を内容にしたものや、"Rap God"とまでいっていた自分自身を、“氷の上を歩けるのは 凍っているときだけ”とまで冷静に見つめるようなものも含まれていて、彼が現実的かつ内省的になっていったのが分かるのだ。

 彼がリハビリから戻って来て約9年、この間に4枚のアルバムを発表したエミネムが、徐々にその姿や精神性を変化させていった。

 思えば彼もすでに45歳である。若い頃は怒りや、それを含む感情のみで突っ走っていったし、それだけでも彼の才能からすれば十分インパクトはあったのだが、もはやそれだけでは済まされない時代の変化や彼自身を取り巻く環境の変化が彼の音楽性に影響を与えていったのだろう。

 今作でもその制作意欲の原動力のひとつになったのは、アメリカの新大統領の登場である。エミネムはあいつを見ていると、怒りで血が煮えたぎると述べており、弾劾されるのならいくらでも協力するとまで言い切っている。

 実際、白人のエミネムがポピュラリティーを得たのは、黒人のDr.ドレーのおかげである。貧しかったエミネムは、当初は白人からも黒人からも疎まれ、嫌悪される存在だったのだが、逆にそれをバネとして、怒りや爆発した感情をもって非難や嘲笑の声を押し倒し、押さえ込んでいった。

 それをDr.ドレーが見つけ、育てていったのだ。こういうアメリカの多様性や懐の深さに自分は敬意を表したいのだが、それを分断し、溝を広げていこうとする新大統領の施策や考え方、メッセージに彼は強い怒りを感じているのである。

 ただ、彼を応援している人は、白人の低・中所得層が多いという。それはまた新大統領を支援している人たちと重なるわけで、エミネムのこの表明がファン離れにつながるのではないかと心配されていた。

 しかし、それは杞憂に終わったようだ。この「リバイバル」は全英、全米のアルバム・チャートで首位を獲得している。特に英国では初登場No.1に輝いた。4年ぶりのアルバムだったが、相変わらずエミネムの人気は衰えていないようだ。

 ともあれ、デビュー時の“怒れる若者”だったエミネムが自分のトラウマや家族関係に素直に向き合い始め、同時に政治的・社会的には積極的にコミットメントをしようとしている。この人間的な成長が、ニュー・アルバム「リバイバル」に込められている。Eminemwalkonwaterpressshotweb730opt
 エミネムが薬物中毒を克服してから、約9年がたった。彼の吐くリリックやライムは相変わらず先鋭的でアグレッシヴなのだが、それが彼の内面的な成長とともに、これからどう変化していくかが楽しみでもある。
 それに伴って、ラップの可能性はまだまだ広がるだろうし、それはまたロック・ミュージックのもつ極限値を広げることにもつながるに違いない。

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2018年3月26日 (月)

ソングス・オブ・エクスペリエンス

 今回も昨年の終わりごろに発表されたアルバムについてである。それで3月も終わりを迎えた頃ではあるが、アイルランドから生まれて世界的に有名になったU2のアルバム「ソングス・オブ・エクスペリエンス」について記すことにした。

 ご存知のように、このアルバムは2014年に発表された「ソングス・オブ・イノセンス」と対をなすアルバムであり、最初からそういう目的で制作されていたものである。U2mojo254770
 このアルバムを制作するにあたって、ボーカル担当のボノは、次のように述べている。『前作が自分たちの青年時代の出来事やその影響などをもとにして制作してきたのに対して、このアルバムでは自分たちの家族や友人、ファン、自分自身といった親しい人たちに宛てた手紙のかたちをとった曲が集められている』

 手紙といっても、普段のお互いの近況を知らせ合うようなものでは、当然のことながら違う。アルバム・タイトルにもあるように、"Experience"つまり彼らが今まで約40年間たどってきた経験から、今の世界の状況を踏まえて記した手紙なのである。

 だから、その内容は多岐にわたる。基本的には通常のラブ・ソングのように聞こえる楽曲も、よく聞けば(見れば)、ソマリアの内戦や地中海を渡るイラク難民、「万人に機会ある国」から「分断と差別に彩られた国」に変貌しつつある国に対するメッセージ・ソングとなっているのだ。

 ボノはまた、こうも語っている。『自分は十代ならではの感情から、あまり卒業できていないように感じるよ。怒りこそがロックン・ロールの核だろう?それがロックとポップスの違いなんだ。苦痛を美に昇華するのが芸術の仕事であり、怒りをロックン・ロールに転じる、というのが俺たちのやっていることだ。
 今回のアルバムに関して、とりわけ気に入っているところは、そういうエネルギーがこの作品にはあるという点だ。パンク・ロックではないけれど、このアルバムにはそういったエネルギーがある、そういう挑戦的で反抗的な態度が備わっているんだ』

 アイルランドのダブリンの高校生が掲示板を見てバンドを結成してから約40年余り、今では彼らの発するメッセージが世界中で話題になるほど現在を代表するバンドになってしまったU2だけのことはある。音楽的な深化はあっても現状認識については、デビュー当時と変わらないようだ。

 サウンド的には、80年代のようなエッジの効いた尖った音楽はやっていない。むしろ年相応に落ち着いていて、聞きやすくポップで、部分的には、同時期に発表されたマルーン5のようなメロディアスな部分もある。
 しかし、それはあくまでも彼らが音楽的な“エクスペリエンス”を経た結果であり、成熟した姿といっていいだろう。61rnsredsll
 不穏な雰囲気を醸し出す"Love is All We Have Left"から"Lights of Home"では、愛の姿やその源となる“家庭の灯り”が綴られているし、最初のシングルでもあり堂々たるU2節を備えた"You're the Best Thing About Me"では、自分と相手との分かち難い愛の証が込められている。

 U2はまた、貪欲に音楽を吸収し続けている。例えば、サンプリングに関しては、何かをサンプリングするのには大きな自由がある。ヒップホップがあれほど楽しいのは、自由に取り入れることができるからさ、とボノは述べているが、このアルバムでも"Get Out of Your Own Way"と"American Soul"のつなぎには、アメリカの今をときめく有名ラッパーであるケンドリック・ラマーが参加している。

 これは、まだ制作中だった"American Soul"をボノがケンドリック・ラマーに送ったところ、彼が自身のアルバム「ダム」でサンプリングしたからで、そのアンサー・ソングとして、この曲と前曲の間にケンドリックの声を入れたからだ。

 ケンドリック・ラマーだけでなく、レディー・ガガは"Summer of Love"に、ジュリアン・レノンは"Red Flag Day"に参加している。
 両方の曲とも、イラク難民やアジアやアフリカで今なお起きている紛争等の避難者のことを歌っているが、前者ではループやサンプリングがかなり使用されているが、それが分からないように巧みに加工されていた。

 後者の"Red Flag Day"とは、“遊泳禁止の日”を意味していて、ギターのハードなカッティングがリスナーにも切迫感を与えてくれる。泳ぎが禁止されていても泳がざるをえない状況の人たちが抱く感情なのだろうか。

 このアルバムの中で一番ポップで、というかポップ過ぎて驚いたのは"The Showman"だろう。50年代から60年代にかけてのバブルガム・ポップをU2流に焼き直したらこうなりましたよという曲なのだ。とても「WAR」や「焔」の時のU2とは思えない曲であり、こういう曲も書けて演奏できるようになったという進化を表しているのかもしれない。

 続く"The Little Things That Give You Away"は往年のU2の姿がよみがえってくるスローな曲で、ジ・エッジの反響するようなギター・サウンドを味わうことができる。昔を知っている人には素敵なプレゼントになるだろう。ボノはこの曲を書きながら、自分自身に宛てた曲だということが最後になって分かったと言っていた。

 "Landlady"もまた懐かしさ満載の名曲だと思う。モチーフは家族のことを歌っているのだが、ボノが個人的に愛する妻アリのために作った曲とも言われている。確かボノはまだ離婚をしていないのではないかな。

 ロックスターともなれば、グルーピーもいるし、言い寄ってくる女性も多いだろうに、ボノの周辺では不思議とそんな話は聞かない。
 ボノのみならず、結成以来不動のメンバーで活動を続けてきたU2には、ドラッグやアルコール中毒、不倫などで話題になったメンバーはいない。そういう潔さも人気の一因なのだろう。

 90年代初頭のU2が味わえるのが"The Blackout"で、ユーロビートのようなリズムや装飾されたキーボード・サウンドなどは「アクトン・ベイビー」や「POP」のようなアルバムに相応しいように思える。
 また、自分の息子に宛てた曲が"Love is Bigger Than Anything in Its Way"で、なかなか感動的なバラードに仕上げられている。

 息子といえば、このアルバムのジャケットには、ボノの息子のエリとエッジの娘のシアンが手を握って正面を向いている写真が使われているが、ここにも家族を大事にする姿やその礎となる愛情や友情や信頼などがシンボライズされているようだ。81dhj8n2l2l__sl1400_
 アルバム本編の最後を飾る曲は"13(There is A Light)"であり、本来は収録する予定はなかった曲である。
 ボノは12曲で終わらせるつもりだった。入れるとすれば隠しトラックで、と考えていたようだが、前作のアルバム「ソングス・オブ・イノセンス」の中に収録されていた曲である"Song for Someone"の一節をこの曲の中に取り入れることで前作と今作の2枚のアルバムを繋ぐことができるというアイデアを気に入り、13曲目を作ったのである。

 この曲の中では、“若い時の自分たち”と“経験を積んだ自分たち”を重ね合わせていて、それはまた、自分が恋に落ちた十代の少女のためと、その彼女の子どもたちのためという意味も込められている。そういう成長した姿も示すことが、このアルバムのタイトルや内容構成に込められているのである。

 思えば、U2は、80年代のアルバム「ボーイ」と「WAR」でも成長した子どものアルバム・ジャケット写真を通して、自分達の成長や状況の変化を示していた。そういう対比する姿勢はデビュー以来変わっていない。こういう首尾一貫性もまたU2が支持される所以であろう。

 ボノは、このアルバムを評して、永久不滅の作品は政治的であると同時に個人的でもあることが多いと述べていたが、確かに個人的な内容のようだが、それはまた普遍的なメッセージを放っているアルバムなのである。

 音楽的には、今までの集大成的で丸くなったところも感じられるのだが、内容的には時代にしっかりと対峙していて鋭いメッセージを放っている。デビュー40年を過ぎても、ますます彼らから目が離せないのである。

 

*ボノのインタビュー等の発言に関しては「ロッキング・オン2月号」を参照しました。ありがとうございました。

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2018年3月19日 (月)

マルーン5の新作

 今月は、テンプルズやサム・スミスなど、ファルセット(裏声)を上手に使って熱唱するシンガーの特集のような気がする。特に意識してそうしているわけではないのだが、何となくそうなってしまった。

 ファルセットといえば、元ロキシー・ミュージックのブライアン・フェリーやもう亡くなって久しいけれど、元ユーライア・ヒープのデヴィッド・バイロンなどが記憶に残っている。1970年代の当時では、ハード・ロック・バンドのボーカリストには高い声を出すことが求められていて、例えばロバート・プラントやイアン・ギランなどは、その最たるものだった。

 それをファルセットによる高音で歌ってしまうと、ちょっと邪道じゃないのというような風潮が漂っていた感じがしたものだ。ファルセットならある程度の高い声は出せるからである。
 可哀そうなデヴィッド・バイロン、上手なボーカリストだったのに、正当な評価を得られないままと言い切ってしまっていいのか躊躇するが、少なくとももう少し有名になってもよかったのではないかと、ずっと思っているのである。

 まあそれはともかく、今回もファルセットの上手なシンガーのいるバンドの最新アルバムを紹介することにした。アメリカのバンドであるマルーン5の「レッド・ピル・ブルース」で、昨年の11月に発表された。81wm40a9dl__sl1500_
 マルーン5といえば、2001年のデビュー以来、世界中で2500万枚以上のアルバムと9000万枚以上のシングルを売り上げているモンスター・バンドだ。名前の由来はメンバー間で秘密にされていて、口外されていない。
 ただ“5”については5人メンバーだからという理由が濃厚なのだが、いつの間にか彼らは7人編成のバンドになってしまったので、そうなると“マルーン7”と改名しないといけなくなるだろう。77294
 いずれにしてもマルーン5は、相変わらず素晴らしいアルバムを発表してくれた。前作の「Ⅴ」から約3年がたっての発表だが、R&Bやソウル・ミュージックをベースにしたポップ・ソングの数々は、流行をきちんと押さえながらもキャッチーでポップな楽曲で占められている。

 このアルバムのタイトルについて、リーダーのアダム・レヴィーンは次のように述べている。『タイトルは映画の「マトリックス」に出てくる赤い錠剤から取ったんだよ。映画の中でレッド・ピルが象徴していた「知識、自由、苦痛を伴う真実」とともに、ポップ・カルチャーが持つ楽しさも反映させているんだ』

 しかし、このアルバムが象徴しているものは、楽しさだけではなくて、今のアメリカ社会の怒りや悲しみも込められているようだ。再びアダムのコメントに耳を傾けてみよう。

 『僕たちはみんな辛い日々を送っていると思う。良いとは言えないようなことがたくさん起きている。ものすごく醜いことが、ものすごい毒が、ものすごい人種差別が、ものすごい悲しみが、ものすごい怒りが、少なくとも僕らの国には間違いなく渦巻いている。
 だからこそ、その中でどうやってそれに向き合い、生きていくのか、それなりの方法を見つけなくてはいけない。このタイトルにしたのもそういう理由だったんだ』

 とにかく、時代に自覚的なミュージシャンたちは、今の時代が恵まれているとは思っていないようだ。上のアダムのコメントにもあるように、アメリカ人のみならずヨーロッパのミュージシャンたちも先行き不透明で混沌とした時代状況に警鐘を鳴らしていて、そういうメッセージを含んだ曲や、ダークでヘヴィな音を鳴らしている気がしてならない。

 もちろんマルーン5の場合もまた、そのような時代にいる自分達の存在理由を自分たちのサウンドや楽曲で詳らかにしようと取り組んでいる。

 彼らは、音楽の力を信じている。音楽には人の気持ちを癒す力があると考えている。アダム自身も音楽があることによって、人生がより良いものになっていると述べていた。

 自分たちの作品が必ずしもそうとは言えないと謙遜はしているものの、音楽には抗えない力とパワーがあると考えていて、そしてそれを証明するかのように、このアルバムの中でも悲しい曲は悲しいままに、ハッピーな曲は周囲を巻き込むかのように、曲を通してエネルギーを発散しているのである。

 もう一つの特徴としては、最近のヒット・アルバムは、個人やバンドの力というよりは、プロジェクト・チームのように集団でアルバムを作り上げていくパターンが多い。昔はせいぜいプロデューサーやエンジニアの意見を取り上げて、あとはバンドのメンバーで決定するくらいだったのが、今では優秀なメンバーで構成されるプロダクションが楽曲を提供したり、アルバムの方向性を決定づけたりする場合が多い。

 例えば、イギリスのアデルやサム・スミス、エド・シーランなどのアルバムも同様で、ミュージシャンは曲作りには参加するものの、すべて自分の力でマネージメントはしていない。

 マルーン5のこのアルバムも同様に、ベニー・フランコやジェイソン・エヴィガン、ジョン・ライアンなど大物有名プロデューサーが関わっている。(彼らはマドンナやワン・ダイレクションなどを手掛けたようだが、残念ながらそのほとんどの人をよく知らない。悲しいかな、時代に追いつけない自分がいる)

 また、曲作りにもジャスティン・ビーバーの曲を作ったジャスティン・トランターやジュリア・マイケルズが参加しているし、さらにはミュージシャンとして、第60回グラミー賞で5部門を受賞したラッパーのケンドリック・ラマーや、急成長中の今をときめく女性R&Bシンガーのシザ、2012年のデビュー以後、瞬く間に全米を代表するラッパーになったフューチャーなど、今の最も旬なミュージシャンを起用しているところも、このアルバムの特徴だろう。

 このアルバムには捨て曲などはなく、どの曲も生き生きと輝いている。相変わらず起伏の激しいマルーン5節で歌われており、アダムのファルセットも効果的に使用されている。

 その中でも、やはりシザをフィーチャーした"What Lovers Do"やセカンド・シングルになった"Wait"、それにケンドリック・ラマーによるエド・シーランの雰囲気に似た"Don't Wanna Know"、フューチャーのライムが印象的な"Cold"などは聞き逃せないだろう。

 そして一番の問題作は、このアルバムのボーナス・トラックを除いての最後の曲になる"Closure"に違いない。何しろこの曲、11分28秒もあるのだ。
 普通、これくらいのタイムなら2、3曲分にして収録曲を増やすのだが、ここではあえて1曲でまとめている。519jlxgdhal
 しかもこの曲のボーカル部分は、最初の3分5秒くらいで終わるので、残りの8分あまりは演奏のみなのだ。
 そしてこのインストゥルメンタル・パートでは、ジャズっぽいギターと断続的なキーボードやサックスが淡々と流れて行く。まるで、スティーリー・ダンの曲のようだった。

 この辺が今までの5人組のアルバムの曲とは違う点で、ひょっとしたらマルーン5はR&Bやソウル・ミュージックをベースにしながらも、ジャズ的な雰囲気も持ち合わせたインストゥルメンタルのバンドとしても成長していくのかもしれない。そういう意味では、新たな旅立ちを予想させるアルバムでもあった。

 彼らは、今でもデビュー・アルバムの「ソングス・アバウト・ジェーン」を超えるアルバムを作るのを目標にしていて、このアルバムはそれを超えている自信があると言っていた。ポップ・ソングとヒップ・ホップを最初に結び付けて成功させたバンドという点にこだわっているのだ。如何にもマルーン5らしい話である。

 とにかくトータルな意味で、今を代表する素晴らしいポップ・アルバムである。上記にもあるように、プロダクション・チームの力に負うところが多いようだが、アダムの美しいファルセットは、このアルバムの全編を覆っている。
 神が人類に与えた最高の楽器は、声だとよく言われるけれど、このアルバムを聞きながら、まったく同感だと思っている。

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