ウインガー
前回のブログで、ジョーダン・ルーデスのアルバムについて述べたのだが、そのときに参加していたミュージシャンにキップ・ウインガーとロッド・モーゲンステインという人たちがいた。
それで今回は、この2人に焦点を当ててみようと思った。彼らが以前所属していたバンド、ウインガーについてである。
時は80年代末、ところはアメリカ。時代はまさにMTV全盛期で、流れてくる音楽はマドンナ、マイケル・ジャクソンなどのポップ・ミュージックか、ロックといっても聞きやすく、かつ派手な化粧や衣装をまとった見栄えのするものがほとんどだった。
だからハード・ロックといえば西海岸のガンズ・アンド・ローゼズ、東海岸のボン・ジョヴィが代表格みたいなものだったし、ヴァン・ヘイレンはボーカリストが交代して新たなファン層を獲得しつつあり、エアロスミスはRun D.M.C.のおかげで復活したときでもあった。
いま考えてみると、この時期のアメリカのハード・ロック界は、まさに百花繚乱、いろんなバンドが登場しては消えて行った。中にはいまだに現役で活動しているのもあるのだが、そういうバンドはやはり何がしかの特長、例えばいい曲をたくさん書けるとか、ギタリストが有能、速弾きであるなどを有しているようである。
だからウインガーがいまだに活躍しているということを聞いて、ビックリしてしまった。なぜならウインガーがそんなに素晴らしいバンドとは思っていなかったからで、ヒット曲といってもすぐには思い出せなかったし、優秀なミュージシャンが在籍していたとも思えなかったからである。
自分が彼らを知ったのは、90年代に入っていた頃だった。80年代後半は、ドッケンやラット、ナイト・レンジャーにモトリー・クルー、スキッド・ロウやMr.Bigなど、本当に同じようなバンドが多くて、中にはライオットとクワイエット・ライオットなど似たような名前のバンドもあったから、まさしく十把ひとからげという感じだったのである。
そんな中で、ウインガーの名前を知ったのは、音楽面ではなくて、アルバム・ジャケットを偶然見かけたからであった。また妙にそのペインティングが印象的でもあったし、たまたまセカンド・アルバムがその当時売れていたこともあり、ラジオでもよく耳にしていた。
それである日、中古CD屋さんに彼らの1stアルバムがあったので、購入したのである。だからもともと彼らの熱狂的なファンというわけではなかったのだ。
それでこのバンドのドラマーがロッド・モーゲンステインで、ベース&ボーカルがキップ・ウインガーだった。またギターがのちに数多くのバンドを渡り歩くことになるレブ・ビーチ、キーボード・プレイヤーはポール・テイラーという人だった。
もともとキップとポールは、アリス・クーパー・バンドに所属していて、全米ツアーを行っていたのだが、ツアーの合い間にポールと曲を制作していたらしい。1987年にはアトランティック・レコードとの契約を結ぶことができて、レコーディングが開始された。
ただベースとキーボードだけでは始まらないので、バークリー音楽院中退ではあるが、東海岸では有名なスタジオ・ミュージシャンだったレブ・ビーチと現ディープ・パープルのギタリストであるスティーヴ・モーズも在籍していたディキシー・ドレッグスからロッドを呼んで、セッションをしたのである。
これがうまくいったようで、2人は即正式メンバーとして参加することになった。だからウインガーというバンドは、新人バンドというわけではなかった。いずれもキャリアを重ねたミュージシャンで構成されていたからだ。
1988年に発表された1stアルバムは全米で200万枚以上を売り上げ、プラチナ・ディスクを獲得した。当時はシングル・ヒットがないと、アルバムは売れなかったし、次の契約は打ち切られるという時代だったから、このアルバムからも"Hungry"、"Seventeen"の2枚がシングル・ヒットした。(前者は全米85位、後者は26位)
"Hungry"は、いきなり意表をついてストリングスから始まり、そこから当時お決まりのハードなギターと厚いコーラスがかぶさってくる。
アリス・クーパーの"Eighteen"をまねたわけではないのだろうが、"Seventeen"は若者の激情を描いていて、それに呼応するかのようにレブのハードなギターが宙を舞っている。
それにバラードの"Without the Night"もまたいい曲で、当時はアルバムの中に最低1曲はこういうシンセを使ったゴージャスなバラードを入れるというのが暗黙の了解だったのだが、まさにピッタリな感じでアルバムに収められている。
一番感心したのが"Purple Haze"で、ジミ・ヘンの曲をアレンジしていて、あのフランク・ザッパの息子ドゥージル・ザッパとギター・バトルをしているのがとても印象的だった。自分はこのバンドは他のハード・ロック・メタル・バンドとは一線を画する本物志向のバンドだと思ったものだった。
当時の時流に乗ったということもあっただろうし、それぞれプロ・ミュージシャンが集まっていたから、安定した演奏力やキャッチーなメロディ・ラインなどが評価されたのであろう。またギタリストのレブは凄腕ギタリストで、バリバリ弾きまくっている。いま考えれば、当時はそれほど評価されなかったような気がするのだが、実力派ギタリストだった。
のちに彼はドッケンやホワイトスネイク、ナイト・レンジャーなどの有名バンドに加入して、来日公演も行っている。実は隠れた“器用貧乏的”名ギタリストだったのである。
ウインガーは実は1stアルバムよりも1990年に発表されたセカンドの方が売れていて、1stは全米21位で留まったが、セカンドの方は15位まで上昇している。ただ自分は深く足を踏み入れることもなく、80年代のハード・ロック&メタル・ロックから離れていったので、その後の彼らのことは全く知らなかった。
結局、彼らは1993年に解散し、2001年にベスト盤を出してツアーを行ったもののすぐに解散。その後2006年に再々結成を行ってアルバム発表やツアーを行っている。基本的にはキップとロッド、レブの3人が中心となって活動を継続しているようである。
ウインガーはニューヨークで結成されているので、東海岸のハード・ロック・バンドだった。東海岸にはハード・ロックは育たないとよく言われるのだが、その悪習を断ち切ったバンドのひとつでもある。
この辺はミュージシャン自身の音楽観・価値観に関わってくるので、一概に言えないのだが、もし彼らがボン・ジョヴィのように、シングル・ヒットを輩出していたなら、その後の彼らの歩んだ道は違ったものになっただろう。
ヒットを出さなかったのか出せなかったのかは分からないが、才能あるミュージシャンほどプライドが邪魔をして世間に迎合することなく、自分の信念を貫き通し、そして時代から消えていくというパターンが多い。アメリカで成功するには、やはり“売れてなんぼの世界”だということを意識しないといけないのである。
ウインガーが今もなお売れることを意識しているかどうかはわからないが(たぶん意識していないと思うけれど)、ともに時代を歩んだものとして、頑張ってほしいと応援せずにはいられないのである。
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