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2007年9月19日 (水)

レイト・フォー・ザ・スカイ

 「レイト・フォー・ザ・スカイ」である。あのジャクソン・ブラウンが1974年に発表した歴史的名盤の「レイト・フォー・ザ・スカイ」のことだ。結論からいって一家に一枚の必需品である。

レイト・フォー・ザ・スカイ Music レイト・フォー・ザ・スカイ

アーティスト:ジャクソン・ブラウン
販売元:ワーナーミュージック・ジャパン
発売日:2005/09/21
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 自分はこれを聴くまで、パープルやゼッペリン、クィーン、イエス、クリムゾンなどの、どちらかというと音のでかいイギリスの音楽を聴いてきた。それでというわけでもないのだが、いわゆるアメリカのウェスト・コースト・ミュージックに対しては、軟弱な音楽だなあと思っていたし、AORなんかはハッキリいって、ロックではないと思っていた。

 ところが違うのである。ジャクソン・ブラウンのこのアルバムを聴けば、それは浅い了見に過ぎないということがよくわかったのだった。やはりいい音楽は、万人を納得させるような普遍性を内包しているのである。

 ジャクソン・ブラウンは、1948年に当時の西ドイツで生まれた。両親はアメリカ人だったので、3歳のときに両親の生まれ故郷であるカリフォルニア、LAに移ってきた。
 19歳のときにニュー・ヨークに行き、そこで音楽活動を始めたようである。やがてバーズなどが彼の曲を取り上げるようになり、ソロ・デヴューすることになった。

 当時も今も、いわゆるシンガー・ソング・ライターの部類に入るのだろうが、単なる恋愛や自分の心象風景を歌うのではなくて、彼のメッセージは社会的批評性を含んだ棘のある美しいバラのようである。

 また彼は歌に込めるだけでなく、行動するアーティストでもあった。1979年ニューヨークに近くのスリーマイル島原子力発電所で放射能漏れ事故が起きたが、これに抗議するかたちで「ノー・ニュークス」コンサートが行われた。これを企画した人たちの中にジャクソン・ブラウンがいた。この事故やコンサートの影響で、アメリカの原子力発電所建設計画が一時頓挫したといわれている。
 さらに当時の南アフリカ共和国の人種分離政策に反対したり、最近ではネイティヴ・アメリカンの人権擁護活動に協力したり、その他のチャリティ活動にも積極的だ。

 そういうことを差し引いて、純粋に音楽として聴いてもこのアルバムは素晴らしい。メロディは美しく、彼の歌声は澄み切っている。"Late for the sky"の出だしのピアノとギターの音を聞いただけで、このアルバムの良さがわかるはずだ。
 アップ・テンポの曲は5曲目の"The road and the sky"ぐらいで、あとはミドル・テンポかゆったりとしたスローな曲である。
 全8曲しかないので、捨て曲などはない。特にタイトル曲は何度聞いてもいい。静かな夜にひとり聴いていると何ともいえない気持になる。孤独という感じでもないし、淋しさが募るわけでもないのだが、音楽が持つ力というものを改めて感じさせてくれる。

 他にも"Fountain of sorrow"、"Farther on"、"For a dancer"など最初がFで始まる曲が良いが、ラストの"Before the deluge"は彼の批評精神が表れている名曲である。淡々とした演奏をバックにしながら、混迷を深める現代人の精神を歌っている。
    "彼らの中には、無垢な気持で未来をのことを計画したり
     考えたりする夢想家や愚か者がいる
     彼らはそのための道具を集めたり、自然に戻ろうと
           旅行を計画しようとする
     砂が最初から流れ落ち、彼らの手が金の指輪に届く間に
     避難するため彼らはお互いの心に向き合うだろう
     やがて来る困難な時代の中で 大洪水の前に"
      (訳プロフェッサー・ケイ)

 全米14位になったアルバムだが、チャート・アクションに関係なく、歴史に残るアルバムだと思う。ここから彼の黄金時代が始まったのである。

 ただ人生、すべてがいいことばかりではない。こんな素晴らしいアルバムは、そう簡単にできないことは私のような素人でもわかる。かなり時間的にもかかったことだろう。おそらく家庭的な団欒の時間も結果的に犠牲になったのではないだろうか。

 このアルバムの制作、発表後、ライブ活動やアルバム・プロモーションを行い、さて次のアルバムの制作にかかろうとした矢先に、愛妻のフェリスが自殺してしまうのである。

 当時はノイローゼからの自殺といわれたのだが、今でいう鬱病だったのだろう。夫のジャクソン・ブラウンは責任を感じた。もしもう少し妻と時間を分かち合っていたならこんな事は起きなかったに違いない、と。何にも手をつけることができなかったし、何かをしようとする意欲も起きなかったそうである。

 だから次にアルバム「プリテンダー」ができるまでに2年以上も時間がかかってしまったのである。身に降りかかった不幸を乗り越えて素晴らしい作品を完成させていくジャクソン・ブラウンについては、次の機会に譲りたい。

 ただ、この「レイト・フォー・ザ・スカイ」ができた頃、まだ彼はそんな悲劇が自分の身に起きるとは微塵も考えていなかったに違いない。だからいい意味で理想を謳い、人生を肯定的に捉えて、力強く歌う彼の姿を目にすることができる。しかし、本当に人生の意味を理解してメッセージを放つようになったのは、次のアルバムからなのである。

 そういった彼自身のプライベートな事実を考慮に入れて聞くと、また違った感想が浮かぶかもしれない歴史的な名盤なのである。


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