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2007年10月18日 (木)

ヴィーナス&マーズ

 1973年に発表されたポール・マッカートニー&ウィングスのアルバム「バンド・オン・ザ・ラン」は、"Jet"、"Band on the run"などのヒット・シングルの影響もあって、7ヶ月以上にわたってヒット・チャートのベスト10内に残るという記録的なものになった。

 おかげで元ビートルズのポール・マッカートニーからウィングスのポール・マッカートニーというふうに呼び方も変わってきて、70年代でもメロディ・メイカーとして通用することをじゅうにぶんに世間に認めさせることができた。

 このアルバムの成功のおかげで、バンドとしてライヴ活動に意欲を見せたポールは、ウィングスとしてもう1枚アルバムを制作し、ワールド・ツアーに出ようとしたのであった。そのアルバムこそ名盤の誉れ高い「ヴィーナス&マーズ」なのである。

Photo Music Venus and Mars

アーティスト:Wings
販売元:Parlophone
発売日:1993/06/07
Amazon.co.jpで詳細を確認する

 このアルバムは1975年5月に発表され、9月からヨーロッパ、オーストラリア、アメリカというワールド・ツアーに出かけたのである。
 そのツアーの影響からかイギリスとアメリカではアルバム・チャートNo.1に輝き、特にアメリカでは1年半以上もの長きに渡って、アルバム・チャートに居座るというロング・セラーを記録したのだ。

 確かテレビでもTBSかどこかがポールのオーストラリア公演を特番で扱っていたような気がする。また当時あった音楽雑誌のミュージック・ライフが別冊の増刊号を発刊して、大きく取り上げていた。その雑誌は購入した思い出があるので、覚えているのである。

 ちなみにコアラを抱いたポールの写真や生まれて間もない男の子ジェイムズの写真などが掲載されていたのを思い出す。またデニー・レーンがジミー・ペイジばりのダブル・ネック・ギターを抱えてステージで演奏していたり、リード・ギターのジミー・マッカロウがサンタクロースのような真っ赤なステージ衣装を着ていた写真などもあった。

 それで9月からのワールド・ツアーに合わせたのかどうか忘れたが、その年の秋になってこのアルバムを買った。だからこの季節になると、いつもこのアルバムのことやこのアルバムの中にある曲を思い出すのである。

 このアルバムは「架空のコンサート」という演出がなされており、"Venus and Mars"はコンサート開演の前のイントロのようなものであり、2曲目の"Rock show"からいよいよショーの幕開けという感じである。
「スポーツ・アリーナのスタンドに座って
ショウが始まるのを待っている
赤いライトや緑のライト、イチゴワイン
友だちの一人が夜の星に従って
金星と火星は今夜もきらめいている」(訳:プロフェッサー・ケイ)

「ステージを横切っているのは誰?
昔ジミー・ペイジが使っていた物によく似ている
まるで違う時代の遺跡のようだ」(from "Rock show")
(訳:プロフェッサー・ケイ)

続いてスロー・バラードの"Love in song"になるのだが、この最初の3曲はメドレー形式になっている。以下コンサートのように曲が続いていくのだが、途中でもう一度"Venus & Mars"(Reprise)が出てくる。まだまだコンサートは続くぞという決意表明みたいな感じだ。(当時のLPではB面の最初の曲だった)

 このアルバムでの新しいギタリスト、ジミー・マッカロウは、まだ22歳の若さでウィングスに加入した。ザ・フーのピート・タウンゼンドから将来有望との太鼓判を押されていて、彼もポールのファンだったそうである。
 このアルバムでも、"Letting go"ではブルージーな演奏を披露し、"Medicine jar"では以前のバンド、ストーン・ザ・クロウでも歌っていたこの歌を彼自身が歌っている。ポールがこのアルバムの中に入れるのを許可しただけあって、けっこういい曲だと思う。

 ちなみにジミーは、1979年の9月に26歳の若さで亡くなった。死因は薬物中毒による心不全であった。"Medicine jar"とはドラッグの入っているビンのことであるが、そんなものに手を出してはいけないと歌っていた本人が薬物中毒で亡くなるのだから、皮肉な話である。 

 このアルバムの中での一番の盛り上がるところは、コンサートと同じように最後のところ"Listen to what the man said"~"Treat her gently-lonely old people"の部分である。最初の曲は"あの娘におせっかい"という意味不明な邦題がつけられていた。いまだにどういう意味なのかよくわからない。邦題は意味不明だったが、全米ではビルボードNo.1を記録した。
 この2曲もメドレー形式になっていて、"Listen to what the man said"ではデイヴ・メイソンがギターを、トム・スコットがサックスをそれぞれ演奏している。
 "Treat her gently-lonely old people"はポールお得意の2曲を1曲にまとめたもので、枯葉の舞う公園のベンチに座っている年老いたカップルを連想させてくれる。
「少しずつ 年老いた2人が
一日を過している
ここに座っている年老いた人たちは
人生を眺めている」(訳:プロフェッサー・ケイ)

 曲自体もバラードで、聴くたびにじわっと感動してしまう。本当にこの頃のポールの才能は溢れるばかりで、メロディが泉のようにこんこんと湧き出ているようだった。

 CDではボーナス・トラックがついているが、LPレコードでは"Crossroads"がエンディングになっている。この曲はTV番組のテーマ曲らしい。リード・ギターを弾いているのはポール自身である。

 このアルバム発表後のワールド・ツアーで、アメリカを10年ぶりに訪れたポールは、ビートルズの曲を数曲演奏した。これはその後発表された「ウィングス・オーヴァー・アメリカ」の中に収められている。

ウイングス・オーヴァー・アメリカ Music ウイングス・オーヴァー・アメリカ

アーティスト:ウイングス
販売元:EMIミュージック・ジャパン
発売日:1989/12/20
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 また、ニュー・ヨークでは非公式に突然ジョンの自宅を訪れ、数年ぶりに直接話をしたということだ。2人のわだかまりも少しずつ解けていったのだろう。実は2人でTVに突然出て世間をびっくりさせてやろうと思ったらしいのだが、取りやめている。たぶん2人が直接会ったのは、これが最後になったのではないだろうか。

 とにかく、この時期のポールの才能がぎっしりと詰め込まれている。「バンド・オン・ザ・ラン」が直球勝負のアルバムだとしたら、「ヴィーナス・アンド・マーズ」はバラエティ豊かな変化球主体のアルバムなのである。


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