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2008年3月 7日 (金)

氷の世界

 自分は個人的に井上陽水が好きである。それは同郷ということもあるかもしれない。正確にいうと、井上陽水は飯塚生まれの田川育ちになるのだが、自分は田川郡伊田出身だから、やはりこれは同郷と言ってもいいとおもう。

 中学生になる前から、すでに彼の歌はラジオから流れていた。"傘がない"、"夢の中へ"などは、ほんとによく耳にすることができた。
 そういうこともあって、子どものときから陽水には親近感があった。当時、「平凡」「明星」などの芸能雑誌が出版されていて、それには“歌本”という簡単なコードと歌詞が載っている付録がついていた。

 だから雑誌本体は差し置いて、その“歌本”を見ながら歌ったり、歌詞を書き写したりしていた。ヒマな子どもだったのである。
 特に洋楽の曲では、親切にもカタカナで振り仮名が付けられていて、簡単な大意もあったり、そのミュージシャンの紹介や近況もあったので、情報が少なかった地方都市の少年にとってみれば、これほど貴重な情報源はなかったのである。

 それで井上陽水の「氷の世界」についてであるが、このアルバムは1973年12月に発表されたもので、時期的にもまさにアルバム・タイトルにふさわしいものであった。

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Music 氷の世界

アーティスト:井上陽水
販売元:ポリドール
発売日:2001/12/19
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 先行シングルとして、"心もよう"がヒットしていたが、今でいうところの遠距離恋愛中の女性が愛する男性に書き送った手紙のようなものだったので、何と女々しい歌なのだろうかと反発を覚えた記憶がある。

 当時の写真ではカーリー・ヘアーにサングラスをかけている大柄な男性として写っていたので、なおさら見かけと歌とのギャップに驚いた。

 自分がアルバム全体を聴いたのは、もう少し後だったと思う。1年後くらいかもしれない。そしてそのときに感動した曲は、"心もよう"よりも、"あかずの踏切り"から"帰れない二人"へと続く、冒頭の3曲だった。

 この展開は見事だと思ったし、有無を言わせない展開だった。よくプログレで“組曲”などといわれるが、まさにそういう組曲形式だった。
 もし聴いていない人がいれば是非一度聴いてほしい。この意味がよく分かると思う。

 特に"あかずの踏切り"は前作のライヴ盤「もどり道」と180度アレンジが違う曲に仕上がっている。
 いきなり切れのいいドラミングとスキャットから始まるこの曲は、ノリのいいロックンロールになっているし、続く"はじまり"は最終曲"おやすみ"と対を成している曲だ。そういう意味ではこのアルバムもまた、トータル・アルバムといえるかもしれない。テーマは“氷の世界のような孤独感、寂寥感”だろう。

 "はじまり"と"帰れない二人"の立役者は、ギターの高中正義とキーボード、シンセサイザーの深町純である。この二人の援護があったからこそ、名曲になったのではないだろうか。深町はメロトロンも使用しているし、自分のようなメロトロン愛好家にはそういう点でも忘れがたい印象を残してくれるのである。

 それにしても"氷の世界"での“窓の外ではりんご売り”というのはいまだに分からない。今までりんご売りを見たことも聞いたこともないからである。
 また、“そのやさしさをひそかに 胸に抱いている人は いつかノーベル賞でももらうつもりでガンバってるんじゃないのか”というフレーズもいまだに意味不明である。

 この辺が井上陽水の天才的に凄いところなのだと思う。この言葉の使い方やメロディとリズムの組み合わせなどは、いま聴いても新鮮で斬新でさえある。

 このアルバムには名曲が多い。上記の曲をはじめ、"チエちゃん"、"自己嫌悪"、"白い一日"、"Fun"、"おやすみ"なども隠れた名曲だと思う。

 その中で個人的に好きなのは、"桜三月散歩道"である。自分が三月生まれということもあるかもしれないが、イントロのアコースティック・ギターがかっこよかったのと、“川のある土地へ行きたいと思っていたのさ”というフレーズが自分の郷里の伊田を想起させるのだ。

 伊田には犀川という川が流れていて、そこはきれいな川で魚釣りやもちろん川泳ぎもできた。河川敷ではテントを張ってキャンプをすることもできたはずだ。やったことはないので、“はず”としか書けないのだが…

 というわけで3月弥生である。3月になると陽水の「氷の世界」を思い出して、ついつい聴いてしまうのである。しかし歴史的名盤とはこのアルバムのことである。
 オリコン・チャートで100週以上ベスト10に入り、日本で初めてミリオン・セラー(100万枚以上)を記録したのだが、当時のミリオン・セラーは1995年現在の規模でいうと800万枚~1000万枚以上の売り上げになるという。

 一家に一枚とはまさにこのアルバムのことだと思うのである。


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