2008年の問題作(3)
さてこの“問題作シリーズ”も3回目、今回で最後である。最後を飾る2008年の“問題作”はポール・マッカートニーが関わったプロジェクト、ザ・ファイアーマンの「エレクトリック・アーギュメンツ」である。
このザ・ファイアーマンのアルバムであるが、今作が3作目で、前作の「ラッシズ」から10年ぶりの新作となる。
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エレクトリック・アーギュメンツ アーティスト:ザ・ファイアーマン |
それでザ・ファイアーマンについて簡単に述べておくと、元ビートルズのポール・マッカートニー(御年67歳)と70年代のニュー・ウェイブ・バンド、キリング・ジョークのベーシストのユース(49歳)の2人が結成したプロジェクトで、歌や演奏は基本的にポールが、編集やプロデュースをユースが担当している。
彼らの最初のアルバムは1993年に発表された「ストロベリーズ・オーシャンズ・シップス・フォレスト」であり、最初の2枚は完全な実験音楽、環境音楽、アンビエント・ミュージックだった。要するにブライアン・イーノのような音楽だったということだろう。
それでこのアルバムのどこが問題作と言われるのかというと、今作ではボーカルが入っている点であり、しかも前々作、前作と比べて聞きやすくポップな音になっている点である。
要するに昔の「マッカートニー」や比較的新しい「フレイミング・パイ」のようなアルバムなのであるが、むしろそれらより荒削りでワイルドでロックしている感覚である。まさにニュー・ウェーブ版ポール・マッカートニーという感じである。
こういう感覚のアルバムになったのも相方のユースの影響が大きかったのだろう。もともとニュー・ウェーブ・バンド出身の彼なので、こういう感覚は得意の分野なのだろう。
しかも前回紹介したガンズ・アンド・ローゼズの14年間で14曲録音したアルバムとは大きく異なり、1日に1曲、全13曲を13日間で録音したという。
ただ、毎日ではなく10年間にちびちびと録りためていったということで、間が空いたようである。
雑誌のアルバム評などを見ると、結構好意的に書いているものが多く、21世紀に入っての彼の最高傑作とまで言い切るものも見受けられた。
しかし、自分の中ではそこまではちょっと言いすぎかもという感じである。やはり基本はアバンギャルドな環境音楽であり、あくまでも今回は聞きやすいものになっただけという感じだからだ。
特にアルバム後半になるにつれて、段々と前衛的な傾向が強くなり、最後の曲などは10分以上もあるマイナー調のロック・ミュージックになっている。
逆に前半は短く聞きやすいポップな曲が連なっている。"Sing the Changes"、"Travelling Light"、"Highway"あたりは、出来れば違う彼のアルバムの中で聞きたかったと思ってしまった。
もともと80年代から、ポールは他人とコラボレートする機会を増やしてきた。決して才能が枯渇したわけではないのだろうが、ジョン・レノンという偉大なる友人かつライバルが亡くなってからそうなってきたようである。
例えばスティーヴィー・ワンダーやマイケル・ジャクソンと「タッグ・オブ・ウォー」や「パイプス・オブ・ピース」で共演したほか、「フラワーズ・イン・ザ・ダート」ではエルヴィス・コステロと、1997年の「フレイミング・パイ」では元E.L.O.のリーダー、ジェフ・リンと一緒に制作している。
またミュージシャンだけでなく、レディオヘッドなどを手がけたプロデューサー、ナイジェル・ゴドリッジなどとも協力して制作している。
この分だとそのうち本当にスティーヴ・リリーホワイトやブライアン・イーノ、ロバート・フィリップあたりとコラボレートするかもしれない。
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Flaming Pie アーティスト:Paul McCartney |
とにかく他の人と一緒にアルバムを作った方が、刺激になっていいのであろう。確かにこのアルバムでは異様に若々しいポールを実感することができる。音の処理がそう感じさせるのかもしれないが、ともかく普通の67歳の人が出せるような音ではないことは確かである。
そういう意味ではポールは天才なのかもしれない。でもはっきり言って、この中のいくつかは次の彼のソロ・アルバム用に取っておいてほしかった。
でもいい曲を惜しげもなくどんどん発表していくところが、天才たるゆえんかもしれない。次回からは、このアルバムからアバンギャルドな要素を除いた楽曲の詰まったソロ・アルバムを期待しているのである。
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