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2009年1月

2009年1月30日 (金)

ジェイソン・フォークナー

 ジェリーフィッシュ関連でのミュージシャンをもうひとり紹介する。それは元ギタリストだったジェイソン・フォークナーである。

 彼はジェリーフィッシュの1stアルバム「ベリーバトゥン」に参加し、ツアーに出た後、バンドを脱退したそうである。
 理由はメンバー間のトラブルだった。1stアルバムのクレジットを見てもわかるように、ジェイソンが作った曲は、残念ながら見当たらない。

 これはバンドの中心メンバーだったアンディ・スターマーとロジャー・マニングがバンドに合わないということで却下したからで、プライドを傷つけられた?ジェイソンは、バンドを去っていったということだ。

 確かに練りに練られたジェリーフィッシュの音からすれば、ジェイソンのようなロックの鼓動や躍動感を与えてくれる音作りは似合わないのかもしれない。

 それがよくわかるのがジェイソンの1996年の1stアルバム「アーサー・アンノウン(詠み人知らず)」である。

 ...Nobody Knows ...Nobody Knows
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 このアルバムで彼は全曲ひとりで演奏し、自分でプロデュースしている。彼もアンディやロジャーと同じく自宅録音主義者なのである。あらためてジェリーフィッシュというバンドがどういうバンドなのか納得してしまった。

 それでこのアルバムを聞くと、彼がどういう音を志向していたのかがよくわかる。他のメンバーの作り出すマジカルなポップ・ソングとは違って、男性的な力強い音、ロック・ミュージックの持つ疾走感というものがよく表れているのである。

 だからアンディやロジャーたちは、ジェリーフィッシュのアルバムに合わないとして採用しなかったのだろう。
 実際に、はきりいってそんなにポップではないし、売れ線メロディもあまり聞くことができない。口ずさめるようなシンガロングな曲ではないから、あまり売れなかったように思う。

 その後彼は数枚のアルバムを発表しているが、この1stアルバムの路線を追求して行っているようだ。

 21世紀になって、他のミュージシャンのアルバムに参加しているいて、特に2005年にはポール・マッカートニーの「ケイオス・アンド・クリエイション・イン・ザ・バックヤード」でギターを演奏している。

 昨年は日本のフジ・ロック・フェスティバルのロジャー・ジョセフ・マニングJrのステージに飛び入りして、ジェリーフィッシュの曲を演奏したという。客席はきっと拍手大喝采だったに違いない。

 ジェイソンは1968年生まれなので、まだまだ41歳。できるならば、もう一度ジェリーフィッシュを再結成するか、ロジャーと新しいバンドを結成して、ポップな要素とロックン・ロールの要素をうまくブレンドした作品を発表してほしいものである。

 どうも彼一人で制作すると、独りよがりな作品になってしまいそうな気がするからだ。彼の才能をうまき引き出してくれる片割れがいれば、もっと人気も出てくるだろう。頑張れ、ジェイソン。アンディやロジャーを見返してほしいものである。 

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2009年1月29日 (木)

ロジャー・ジョセフ・マニング・Jr

 ジェリーフィッシュつながりで、このバンドのオリジナル・メンバーであったキーボーディストのロジャー・マニングのソロ・アルバムについて簡単に述べたい。

 彼は自分の名前を使用してのソロ・アルバムは2枚発表していて、最初はバンド解散から13年たった2006年に発表した「ソリッド・ステイト・ウォリアー」だった。

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Photo
 この13年の間に、彼はインペリアル・ドラッグやムーグ・クックブックというバンドを結成してアルバムを発表していたし、一方でアメリカのミュージシャン,ベックやフランスのバンドAirのアルバム作りに参加して、一緒にツアーに出たりしていた。だから結構忙しくしていたと思うし、この間にソロ・アルバム用の構想を練っていたのであろう。

 それで最初のアルバム「ソリッド・ステイト・ウォリアー」なのだが、これがまたポップでファンタジックな音作りになっている。

 ポップといっても、ジェフ・リンのようなビートルズライクな音作りではなく、どちらかというと練りに練った音でポップな音空間を構築しましたという感じだ。
 アメリカのミュージシャンにマシュー・スゥイートという人がいるが、彼の音に近い。言葉を換えると、トッド・ラングレンのサウンドに近いといった方がわかりやすいだろうか。

 彼らに共通している点は、いづれもスタジオに篭って、ひとりですべての楽器を操り、サウンドメイクをして、プロデュースするというところである。だから時としてオーヴァー・プロデュースすることもあるのだが、でも全般的に様々な楽器が有機的に絡み合っているような音になる。
 だからポップであると同時に、ちょっとプログレッシヴ・ロック的なアプローチも聞こえてくる。

 このアルバムでは1曲目の"The Land of Pure Imagination"や4曲目の"Loser"などがそうであり、"The Land of~"は5分くらいの曲の中に転調が多く使用され、プログレの縮小版のようである。
 また、"Loser"のイントロはセバスチャン・ハーディの「哀愁の南十字星」の中の曲に似ている。

 だから体が自然と動くようなポップ・ソングではなく、知的な香りのするポップ・ソング、ポップ・アルバムになっている。
 でも本当によくできたポップ・ソング集なのである。カラフルできらびやかで“万華鏡のような”ポップ・センスは、ジェリーフィッシュ時代の面影を確かに受け継いでいる。

 そして2年後に彼の名義のアルバムの第2弾が発表された。それが「キャットニップ・ダイナマイト」というアルバムであった。

キャットニップ・ダイナマイト Music キャットニップ・ダイナマイト

アーティスト:ロジャー・ジョセフ・マニング・Jr.
販売元:ポニーキャニオン
発売日:2008/03/19
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 このアルバムは前作よりもよりロックのダイナニズムや“ノリ”みたいなものが表に出てきていて、1曲目なんかはチープ・トリックが演奏しているみたいだった。
 また60年代のバート・バカラックのような音楽性の曲も聞けて、彼の音楽センスの進化が伺われるようだ。

 だからはっきり断言できるけれども、“クラゲ”のDNAは確実に彼に受け継がれている。このアルバムも彼一人で制作したようだが、ロック調やカントリー調、バラードなどバラエティ豊かな曲が12曲(日本盤にはボーナス・トラック1曲含む)もずらりと並んでいる。

 こういうアルバムがもっと売れていいと思うのだが、この洋楽不況時代に売れるのは、なかなか厳しいものがあると思う。

 だからこういう状況を打破するには、一発ビッグ・ヒットを飛ばすしかないだろう。どの曲もいい曲なのだが、これはという決め手にかけるのが玉に瑕。

 もしヒット・シングルを出せば、彼だけでなく、ジェリーフィッシュ時代も見直され、やがては洋楽不況も吹き飛ばしてくれるかもしれないのだ。
 彼に期待するしかない。頼むから一発でかいヒットを飛ばしてくれ。そうすれば誰もが彼の真価に気づき、あらためて彼を見直し、そしてポップ・ミュージック史に名前を残す事ができるだろう。

 たぶん彼はそんな事なんかぜんぜん気にしていないだろうけど、一ポップ・ファンとしては、彼に売れてもらうことも夢見ているのである。

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2009年1月27日 (火)

シャイン・ア・ライト

 日曜日に映画を見に行った。久しぶりの映画だったし、しかもその映画があのアカデミー賞も獲得している巨匠マーティン・スコセッシ監督のローリング・ストーンズを撮ったものだったから、これはもう見なければ末代までの恥辱とばかりに、ひとりで見に行ったのだ。

 雑誌などでは紹介されていたから、映画の内容は知っていたのだが、まさかこんな地方の田舎の映画館で上映されるとは思ってもみなかった。
 しかも以前見たロック・フィルムはプリンス主演の「パープル・レイン」だから、まさに四半世紀以上も昔の事。久方ぶりのロック・フィルムである。

 そして監督がマーティン・スコセッシとくれば、誰も文句のつけようがない中身になるのは当然の事だった。

 マーティン・スコセッシといえば、「タクシー・ドライバー」や「レイジング・ブル」、新しいところでは「ディパーティッド」など現代社会の光と闇、そこで生きていく人間模様を丹念に描くことで定評がある。

 またフィクションだけでなく、ロック・ミュージックにも造詣が深く、ザ・バンドの解散コンサートの模様を映像化した「ラスト・ワルツ」、若かりし頃のボブ・ディランを描いた「ノー・ディレクション・ホーム」、ブルーズ・ミュージックのルーツを描いた「フィール・ライク・ゴーイング・ホーム」など、ロック・ファンにもなじみの深い作品を撮り続けている。さらに、マイケル・ジャクソンのプロモーション・フィルム"Bad"を監督したのも彼である。

 それで肝心の映画なのだが、これがまた素晴らしい内容で、まさにロック・フィルムの見本のようなドキュメンタリー映画になっている。万人に見てもらいたい映画なのだ。

 時は2006年10月29日と11月1日、所はNYのビーコン・シアターというキャパ2800席ほどの小さいホールでのライヴ演奏。最大18台ものカメラを用いて、バックステージから演奏終了までくまなく撮り続けている。

 最初はスコセッシ監督とストーンズ側、つまりミックとのやり取りから始まる。実際に撮影するに当たっての確認をしようとするのだが、ストーンズはワールド・ツアー中なので連絡が取れない。特に、当日どの曲を演奏するのか曲目がわからないため、監督も構想の仕様がないのである。

 仕方なく過去のセットリストを参考にしたり、最初はアップテンポの曲だろうと予想を立ててみたりして、結局、最終的にわかったのが、当日本番の30分前というものであった。さすが世界最高のロックンロール・バンドのストーンズである。

 とにかくこの映画でわかる事は、ミック・ジャガーは怪物であるということ。ストーンズは現役最高のロック・バンドであることではないだろうか。

 ミックはこのとき63歳。さすがに顔の皺は隠せないものの、体は30代といっていい代物である。贅肉なんか微塵もない。77年のヨーロッパのツアーのときの体型と全く変わらないのである。いったいどういう生活を送っているのであろうか。体型維持だけでも並大抵の努力ではないだろう。

 そしてバンド演奏もプロに徹している。映画の撮影という緊張感を逆手にとって、普段通り、いやそれ以上の素晴らしい演奏を繰り広げている。
 たぶん普段はスタジアム級のツアーをやっているのであろうが、このように客席の顔や服の色まで見えるクラスのツアーは久しぶりなのであろう。客席との距離感もまた、彼らの演奏をより完璧なものに近づけたのに違いない。

 またビーコン・シアターでのライヴ映像の合間に、60年代や70年代初期のミックや他のメンバーのインタビュー・ショットなどを差し入れて、昔と今を対比している。
 その中には“あなたは60歳になってもバンドを続けていますか”という質問があったのだが、そこでミックは“Yes”と答えている。

 そして「ラスト・ワルツ」と同じように、このライヴにもゲストが参加している。ひとりはホワイト・ストライプのジャック・ホワイトで、ミックと一緒に"Lovin' Cup"を歌っているが、どことなく緊張しているかのようだ。

 びっくりしたのはバディ・ガイが登場して歌ったときの事。このとき70歳のブルーズ・ギタリストは、ミックをも圧倒する声量でマディ・ウォーターズの"Champagne & Reefer"を歌ったのである。
 キースはいたく感激してしまい、このブルーズ・ミュージシャンに演奏していたギターを手渡し、ステージ上でプレゼントしている。

 また3人目のゲスト・ミュージシャンはクリスティーナ・アギレラで、ミックと"Live with me"を歌ったのだが、この人の声量も豊かで、とても29歳とは思えない見事なボーカルとセクシーな振り付けを披露してくれた。

 演奏曲は全部で19曲、"Jumpin' Jack Flash"から"Satisfaction"まで、一曲たりとも手をぬかずに熱演をしている。
 映画の撮影という事もあったのだろうが、ベネフィット・コンサートとして企画されてもいたようで、開演前のバックステージでは、クリントン元大統領夫妻やその親戚、元ポーランド大統領なども集まり、記念撮影をしているし、コンサートのMCではクリントン元大統領自らがバンドの紹介をしていた。

 このときの模様はライヴ音源として販売されているので、自分も購入しようと思っている。本当に"The Rolling Stones is ALIVE"と印象付けられてしまった。それほど素晴らしいのである。

ローリング・ストーンズ×マーティン・スコセッシ「シャイン・ア・ライト」オリジナル・サウンドトラック Music ローリング・ストーンズ×マーティン・スコセッシ「シャイン・ア・ライト」オリジナル・サウンドトラック

アーティスト:ザ・ローリング・ストーンズ,バディ・ガイ,ジャック・ホワイト,クリスティーナ・アギレラ
販売元:UNIVERSAL INTERNATIONAL(P)(M)
発売日:2008/04/09
Amazon.co.jpで詳細を確認する


 確かにスコセッシ監督の手にかかれば、こういう素晴らしい映像になるのであろう。とにかくミックが銀幕から飛び出すのではないかと思われるほどの、ステージ・アクションだった。吸入器が必要なのではないかと余計な心配までしてしまうほどだ。

 それでも編集作業が大変だったのではないだろうか。すべてのカメラのフィルムを見て、それを1本のフィルムにまとめるのだから、それだけでも数ヶ月もかかる作業ではないかと思うのだが、実際はどうだったのだろう。

 しかし、まさか本当に映画館で見られるとは思わなかった。このときの映画館での観衆は、自分を入れてわずか5名。日曜日の昼下がりにもかかわらず、この動員数である。たぶんあと1~2週間で興行打ち切りになるのではないか。やっぱり田舎の人にはストーンズの偉大さはわからないのだろう。

 でも、このフィルムを見て、ミックが63歳(今年66歳!)という事を知れば、驚くと同時にどこにその秘密が隠されているのだろうかと、多くの人がさらに映画館に押しかけてくると思うのだが、どうだろうか。

 そしてできればストーンズよ、ニュー・アルバムなんか期待していないから、もう一度来日してコンサートを開いてほしいのだ。あのミックの勇姿は、まさに世界遺産級なのだから。

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2009年1月25日 (日)

ジェリーフィッシュ

 ジェリーフィッシュとは、英語で“くらげ”を意味する。あるいは俗語で“骨なし野郎”という意味もある。要するにつかみ所のない、自由自在に存在していく、そんなイメージであろうか。

 それでそういうバンド名を持つ4人組が90年代のアメリカ西海岸のサンフランシスコで活動していた。彼らの音楽は、今でいうパワーポップであり、70年代のラズベリーズやチープ・トリック直系のメロディアスなロック・バンドであった。

 バンドのメイン・ソングライターはアンディ・スターマーとロジャー・ジョセフ・マニングで、彼らの作り出すポップな楽曲は、この手の音楽が好きな人たちに熱狂的に迎えられた。
 彼ら2人は、90年代のレノン&マッカートニーとまで呼ばれ、確かにその音楽にはビートルズにも通じるエヴァーグリーンなポップネスが封印されているかのようである。

 もともとアンディとロジャーは高校時代からの友だちで、2人でお互いの好きなレコードを交換したり、楽器を演奏しあったりしていた。そのうちどちらからともなくバンドを始めるようになり、1989年ごろジェリーフィッシュが結成されたようである。

 彼らはアルバム2枚、シングル4枚、EP1枚を残して解散してしまった。1990年に発表された1stアルバム「ベリーバトゥン」では、まだまだシンプルな曲が多い。

Bellybutton Music Bellybutton

アーティスト:Jellyfish
販売元:Virgin
発売日:1992/06/29
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 日本編集盤ではオリジナル曲に、ライヴ演奏が追加されているが、バッドフィンガーの"No matter what"やポール・マッカートニー&ウィングスの"Let 'em in"、"Jet"などの王道ポップを直球勝負で演奏している。このライヴ音源でもわかるように、やはり彼らには70年代のポップ・ミュージックが脈々と息づいている。

 1993年に発表した2ndアルバム「こぼれたミルクに泣かないで」は、彼らのラスト・アルバムでもあるのだが、最高に充実した彼らのエンターテイメント性を味わうことができる。
 曲によってはクィーンやビーチ・ボーイズのような曲も見られる。前作よりも豪華にプロデュースされており、“万華鏡のようなポップネス”を味わえる。

Spilt Milk Music Spilt Milk

アーティスト:Jellyfish
販売元:Toshiba EMI
発売日:1993/02/09
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 1曲目の"Hush"からビーチ・ボーイズのようなコーラスを聞くことができるし、4曲目の"New Mistake"は、まるで10ccかスーパートランプのようである。また8曲目"All is forgiven"はクィーンのメンバーがコーラス・ハーモニーに参加しているといっても通じるだろう。

 ジェリーフィッシュが解散した後、ロジャー・ジョセフ・マニングとオリジナルメンバーでギタリストだったジェイソン・フォークナーは、それぞれソロアルバムを発表している。いずれもジェリーフィッシュの命脈を保つようなポップな仕上がりになっている。
 またこの2人は解散後も連絡を取り合っているようであり、お互いにライヴに飛び入り参加などもしているようだ。

 ただメインライターだったアンディ・スターマーはあまり活動をしていない。日本のPuffyの名付け親になったり、Judy and Maryの曲をプロデュースしたりと、結構日本と関係は深いようなのだが、ソロ・アルバムは発表していないようである。
 もし発表すれば、かなりポップな名盤になると思うのだが、本人にはその気がないらしい。残念な事である。

 彼らの影響を受けたバンドは多い。ヴェルヴェット・クラッシュやウィーザーなど彼らの系譜をつなぐバンドは確かに存在するし、これからも増え続けるだろう。活動期間や作品数は少なくとも、その影響力はかなりのものである。そういう意味では、疑いもなくアメリカのポップ・ミュージック史に残るバンドなのである。

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2009年1月22日 (木)

アル・クーパー

 2008年の問題作ではないのだが、話題作には間違いないと思われるアルバムがあった。それがアル・クーパーのアルバム「ホワイト・チョコレート」である。

ホワイト・チョコレート Music ホワイト・チョコレート

アーティスト:アル・クーパー,キャサリン・ラッセル
販売元:SMJ(SME)(M)
発売日:2008/11/26
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以前のアルバム「ブラック・コーヒー」が3年前の2005年に発表されたから3年ぶりのアルバムという事になる。
ブラック・コーヒー Music ブラック・コーヒー

アーティスト:アル・クーパー
販売元:Sony Music Direct
発売日:2005/07/27
Amazon.co.jpで詳細を確認する

 ただその「ブラック・コーヒー」が約30年ぶりのアルバムということだったから、そのときは結構話題になったのだが、タイトルから見てわかるように、この2枚のアルバムは表裏一体、対のようなアルバムになっている。

 アル・クーパーは今年の2月で65歳になるアメリカのミュージシャンである。12,3歳頃からギターやピアノに親しみ、大学を中退してスタジオ・ミュージシャンになっている。

 彼の名前を一躍有名にしたのが、ボブ・ディランとのレコーディングであった。ディランの「追憶のハイウェイ」の中の"Like a Rolling Stone"でのハモンド・オルガンの荒々しいプレイで彼の名前は多くの人の記憶に残ったのである。
 実はこのときにほとんど初めてといっていいほどハモンド・オルガンを演奏したというエピソードも残っているのだが、フォークとロックの融合というディランの願いはこのときに叶ったのかもしれない。

 だから欧米ではミュージシャンというよりも、演奏者やプロデューサーとしての評価の方が高いのである。ディランとの共演やマイク・ブルームフィールドやスティーヴン・スティルスとのセッション活動は世間の注目を集めていたし、ブラス・ロックのB,S&T結成の中心人物として活躍したこともその理由になっているのであろう。

 ところが日本では、プロデューサーとしてのアルよりもパフォーマーとしてのアルの方が人気があったし、ソロ・アルバムも評価が高かった。だからアメリカでは彼のソロ・アルバムはほとんどが入手不可能らしいのだが、ここ日本では逆に、ほとんど入手可能である。この点が日米の違いを表しているようで興味深いと思う。

 だから海外では、意外と彼は過小評価されているような気がしてならない。もちろん演奏者やプロデューサーとしての彼は素晴らしいのだが、それに負けず劣らず、表現者としての彼もまた素晴らしいということをもっとわかってほしいと個人的に思っている。

 彼は1969年に「アイ・スタンド・アローン」という素晴らしいアルバムを発表して以来、80年代まで7枚のアルバムを発表している。その中で1972年に発表された「赤心の歌」は彼の最高傑作だと思っている。

赤心の歌 Music 赤心の歌

アーティスト:アル・クーパー
販売元:Sony Music Direct
発売日:2005/09/21
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 もともと彼は、職業作曲家として活動し始めた。彼が制作にかかわったシングルで全米No.1になった曲もあった。だから彼のソングライティング能力はかなりのものなのである。特に70年代の表現者としての彼はシンガー・ソングライターのようであった。

 しかもかなりポップで耳になじみやすいメロディの書けるミュージシャンであった。このアルバムでも名曲"Jolie"をはじめ、サム・クックの"Touch the Hem of his Garment"など、数々の名曲で占められている。そしてどの曲にも覚えやすいサビの部分がある。

 確かにこのアルバムも名盤だし、それ以前の「イージー・ダズ・イット」や「紐育市(お前は女さ)」も名盤の域に達していると思う。この時期のアルは、最高に乗っていて、本当にソウルフルなシンガー・ソングライターだったと思うのである。

 それで約30年以上もたってのニュー・アルバムは芳醇な香りに満ちたブランディーやワインのようなコクのある味わい豊かなものになっている。その辺のポッとでの新人バンドやミュージシャンには絶対にまねのできない音なのだ。

 だから何度でも繰り返し聞くことができる。車の中で聞いていると、エッもう終わったのというくらい60分以上あるアルバムも短く感じてしまう。
 そしてソウルフルな楽曲はより黒っぽく、その歌声はますます艶っぽくなっている。相変わらずスモーキー・ロビンソンなどの他のソウル・シンガーのカバーもあるし、ブラスを用いてのゴージャスなジャズのスタンダード・ナンバーのような曲もやっている。

 「ブラック・コーヒー」の"How my ever gonna get over you"や"Imaginary Lover"などを聞くと、感動の余り胸が熱くなってしまう。本当にこの人は当時61歳だったのだろうかと驚くほどである。

 最新アルバムの「ホワイト・チョコレート」も前作の路線を踏襲したものになっている。本人曰く、『ホワイト・チョコレートとは白人の男が奏でるブラック・ミュージックということだ。21世紀版ブルー・アイド・ソウルという意味をタイトルに込めたんだ』ということなのである。

 だからオーティス・レディングの"I love you more than words can say"やベン・E・キングの"I(who have nothing)"のカバーなどが収録されているし、ゲストにスティーヴ・クロッパーやドナルド・ダック・ダンやジェリー・ゴフィン(元キャロル・キングの旦那)を迎えて制作した曲もある。
 後者の"You make me feel so good"はこのアルバムを代表する曲である。おそらくここ日本や本国アメリカでもヒットはしないだろう。しかしヒットするしないなど関係なく、彼にとっては記念となる曲にしたかったのではないだろうか。そういう思いが伝わってきそうな曲なのである。

 できれば毎年こういうアルバムを出してほしいのだが、それはまず無理だろう。だが彼のブラック・ミュージックに対する愛情は年を経るにつれてますます高まっていくと思うのである。(できればアルバム・ジャケットに彼の70年代の写真と現在の写真を一緒に載せない方がいいと思う。時の流れとは何と無情なのかがよくわかるからだ)

 蛇足だが、このアルバムを聞きながら、アイルランドのソウル・シンガー、ヴァン・モリソンを思い出した。声質などは全く違うのだが、その経験から来るいぶし銀のような楽曲には多くの共通点があるような気がしてならない。

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2009年1月19日 (月)

クライシス(マイク・オールドフィールド)

 あの映画「チューブラー・ベルズ」のサウンドトラックに用いられた音楽を作曲したマイク・オールドフィールドが1983年に発表した「クライシス(ムーンライト・シャドー)」を聴いた。

Crises Music Crises

アーティスト:Mike Oldfield
販売元:Virgin
発売日:2000/08/15
Amazon.co.jpで詳細を確認する

 彼の80年代のアルバムは、どれも甲乙つけがたいほどのポップな内容になっている。特にこのアルバムは「チューブラー・ベルズ」から10年を経て発表されたもので、彼にとっては一区切りつけるという意義もあったのかもしれない。

 また、70年代はインストゥルメンタル中心の作風だったのに対して、この時期の彼は、積極的にボーカル入りの楽曲を準備し、アルバムに入れていた。そういう意味でも“聞きやすさ”は増している。

 これは当時の音楽会社ヴァージンが売れるアルバムを作るようにプレッシャーをかけたようである。時代はパンクからLAメタル、ジャーニーなどの産業ロックに移行していたために、そういう力が働いていたのであろう。それでもそういうアルバムが作れるところが彼の凄いところでもある。

 表題曲"Crises"でも20分を超える曲の途中にボーカルを入れて、変化をつけている。またそれまでのトラッド風の雰囲気は残しつつも、フェアライトなどの新しい楽器を使用して、現代風でロック感覚のある曲作りを行っている。
 実際に、曲の3分過ぎと15分過ぎ頃になると、躍動感のあるリズムと印象的なメロディを伴って曲が進行している。

 この曲のベース・ギターはGTRに在籍したフィル・スパルディング、ドラムスは名手サイモン・フィリップスが担当している。だから土台がしっかりしているのであろうか、曲が引き締まって聞こえ、20分を超えても長さを全く感じさせないのである。

 後半の5曲は3分前後の短いポップな曲で、特にマギー・ライリーという女性歌手が歌った"Moonlight Shadow"は、イギリスでは4位、ドイツ、オランダでは2位、イタリア、オーストリア、スイス、ノルウェーでは1位を獲得するほどの大ヒットになった。
 2002年では日本、カナダの歌手がカバーし、あのルネッサンスのアニー・ハズラムもアルバムの中に収録している。そういう意味では息の長いヒット曲である。

 曲の内容は、殺された恋人にいつか天国でまた会えることを祈るというものであるが、これは当時ジョン・レノンの暗殺の事を歌ったものではないかといわれていたが、実際は違うらしい。

 またこの曲以外では、イエスのボーカリスト、ジョン・アンダーソンやファミリーのリーダーでボーカル担当のロジャー・チャップマンもそれぞれ1曲ずつ歌っている。
 さらにドラムスのサイモン・フィリップスとたった2人で録音した曲"Taurus 3"ではマイクの意外にも素晴らしいスパニッシュ・ギターを聞くことができる。

 というわけで、ポップで聞きやすくなったせいか、アルバム自体も全英6位というヒットを記録した。
 現在でも旺盛な創作意欲を見せる音の錬金術師とも言うべきマイク・オールドフィールド。まだまだ56歳である。
 
 もう80年代のようなポップなアルバムを制作する事はないだろうが、今後も手を変え品を変え、様々なジャンルの音楽を発表し続けるだろう。彼こそ“一人プログレッシヴ・ロック”といっていい才人なのかもしれない。

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2009年1月18日 (日)

ジョン・ウェットン

 自分のCD棚にはジョン・ウェットンのソロ・アルバムが数枚ある。「クロスファイヤー」、「ヴォイス・メイル」、「ライヴ・イン・ジャパン」、「アークエンジェル」であるが、このアルバムを聞くと、ジョン・ウェットンとは何とまあポップな音が好きなミュージシャンという事がよくわかるのである。

 もともと彼は“ベースを抱えた渡り鳥”と呼ばれた人で、メジャーなところでも“ファミリー”、“キング・クリムゾン”、“ロキシー・ミュージック”、“ユーライア・ヒープ”、“U.K.”、“ウィッシュボーン・アッシュ”、“エイジア”などがあるし、“スティーヴ・ハケット・バンド”や“ブライアン・フェリー・バンド”で来日をした事もある。
 またユニットとして、フィル・マンザネラやジョフ・ダウンズ、ユーライア・ヒープのケン・ヘンズレーとも組んでいたし、U.K.結成前には、リック・ウェイクマン、ビル・ブラッフォードと3人でバンドを結成する計画まであったという。こうなるとまるで“生きるブリティッシュ音楽史”みたいなものである。

 それでU.K.という時代錯誤の素晴らしいプログレッシヴ・ロック・バンドが解散した後に、発表されたのが「クロスファイヤー」というアルバムだった。これを初めて聞いたときは、確かにびっくりした。それまでの彼のイメージが壊れてしまった。

コート・イン・ザ・クロスファイアー(紙ジャケット仕様) Music コート・イン・ザ・クロスファイアー(紙ジャケット仕様)

アーティスト:ジョン・ウェットン
販売元:ISOL DISCUS ORGANIZATION
発売日:2008/08/20
Amazon.co.jpで詳細を確認する


 それまでの彼はキング・クリムゾンやU.K.というプログレ畑を渡り歩いていたから、ソロ・アルバムもプログレっぽい長い構成の曲と巧みな演奏力、男性的で情緒を喚起させる表現力豊かなボーカルを期待していたのであるが、見事に裏切られたのである。

 今で言うB級ポップなアルバムなのだが、聞き込んでいくと、そのチープなポップ感がなぜかたまらなく愛しくなるのだ。

 そしてソロ・アルバムから約14年ぶりとなったセカンド・アルバム「ヴォイス・メイル」では、もっと洗練されたA級に近いポップな音になっている。
 たぶんこれは1981年にエイジアで大成功した“4分間のプログレ・ポップ”という経験に基づいているのではないだろうか。Photo

 だからどこを切っても“金太郎飴”のように、どの曲もよく練られたラグジャリーな雰囲気を漂わせてくれるのである。
 だから“一人エイジア”のような感じで、1曲目から弾けるようなポップな曲を聞く事ができるし、"Battle Lines"や"Hold me now"ではエイジアよりも壮大なバラードになっている。

 だからこんなアルバムを聞かせられると、ジョン・ウェットン本来の資質というか才能というのは、ビートルズ直系のポップ・サウンド・クリエイターなのだということがよくわかるのである。

 事実、彼自身も自分に影響を与えた音楽家として、“バッハ、ベートーベン、モーツァルト、ビートルズ、ブライアン・ウィルソン”をあげているが、今になってこの言葉の意味がよくわかる。

 97年に発表された「アークエンジェル」でも相変わらずゴージャスでポップな音を聞かせてくれる。

アークエンジェル(紙ジャケット仕様) Music アークエンジェル(紙ジャケット仕様)

アーティスト:ジョン・ウェットン
販売元:イゾル・ディスカス・オーガニゼイション/ユニバーサルミュージック
発売日:2007/10/24
Amazon.co.jpで詳細を確認する


 とにかく90年代まではクリムゾンやU.K.、エイジアなどグループで活動する時期とソロで活動するときとバランスよく行っていたように思う。そしてソロのときはポップで、グループではそれなりに“脚色した”音楽をやっていたように思うのである。

 そういう彼も今年の6月11日で還暦を迎える。以前にも触れたが、心臓のバイパス手術を受けて一時治療に専念していたようであるが、昨年からオリジナル・エイジアの一員としてアルバム発表、ライヴ活動を行っている。

 病気のせいか、以前に比べてかなり太ってしまって表現力豊かなボーカルを期待するのは厳しいかもしれないが、頑張ってもらってもう一度ポップなソロ・アルバムを発表してほしいものである。
 彼のことだからきっと素晴らしいアルバムを発表してくれるに違いない。それが“渡り鳥”としての彼の使命だと思うからである。

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2009年1月15日 (木)

ダリル・ウェイズ・ウルフ

 最近1枚の紙ジャケットのアルバムを手に入れた。それがダリル・ウェイズ・ウルフというバンドの「ナイト・ミュージック」(邦題:群狼の夜の歌)というものである。

 ところがこのアルバムは2800円もしたのである。基本的に紙ジャケットは高額なのだが、それでも2600円を超えるぐらいで、2800円というのはいかにも高い。
 理由はSHM-CDという通常のCDとは異なり、限りなくマスター・クォリティに近づいた高音質、高品質のCDだからということらしい。

群狼の夜の歌(紙ジャケット仕様) Music 群狼の夜の歌(紙ジャケット仕様)

アーティスト:ダリル・ウェイズ・ウルフ
販売元:USMジャパン
発売日:2008/11/26
Amazon.co.jpで詳細を確認する

 それで貧乏人の自分は、一瞬躊躇したものの清水の舞台から飛び降りるつもりで購入してしまった。それで実際に耳を通すと、結果的には結構いけるアルバムだったのである。

 まずジョン・エサリッジのギターが素晴らしい。この人はこのバンド解散後に、ソフトマシーンに加入するのだが、とにかく早弾きなのである。
 ソフトマシーンというバンドは、ジャズを基本としたロック・バンドなのだが、そのバンドにはアラン・ホールズワースという天才的な早弾きギタリストがいた。どのくらい早いかというと、とにかく弾いている指が一瞬見えなくなるくらい早いという事である。

 そんなギタリストの抜けた穴を十分補うことができたというのだから、このジョン・エサリッジという人もまた天才的ということがわかる。このアルバムでも"Black September"やインストゥルメンタルの"Flat2/55"を聞くと、その事がよくわかると思う。

 そしてダリルの弾くヴァイオリンもまた効果的に使用されていて、ギターとヴァイオリンが相乗効果を及ぼしている"The Envoy"は必聴曲だと思う。とにかくスリリングな演奏とはこの事を言うのではないだろうか。

 そして彼らの3枚目のこのアルバムからボーカリストが加入している。ジョン・ホジキンソンという人なのだが、この人が歌に専念しているおかげでボーカル・パートとインストゥルメンタル・パートが充実していて、これまたこのアルバムの価値を高めているのである。

 だから最初は非常にマイナーなアルバムと思ったのだが、聴いているうちに結構名盤の域に達するようなアルバムではないかと気づいたのである。

 このアルバムのオリジナルは、1974年に発表されているのだが、彼らの残した3枚のアルバムのうちベストではないかと思ったりもした。

 最初のアルバム「カニス・ループス」は叙情的ではあるものの少し中途半端な感は否めないし、セカンド・アルバムの「サチュレーション・ポイント(飽和点)」はインストゥルメンタル重視になっていて、演奏力には特筆すべき点があるものの、歌ものとしての要素は少ない。

カニス・ループス+2(紙ジャケット仕様) Music カニス・ループス+2(紙ジャケット仕様)

アーティスト:ダリル・ウェイズ・ウルフ
販売元:USMジャパン
発売日:2008/11/26
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 その点、このアルバムは前2作を反省したような音作りになっていて、非常にバランスの取れた内容になっているのである。

 だから売れた、というのは真実ではなく、それでも売れなかったようである。結局、セールス的にも不振を極めたために?、彼らはこの後、解散してしまいロック史から消えてしまった。残念な事である。

 その後、ダリル・ウェイは以前いたバンド、カーヴド・エアに再加入し、ジョン・エサリッジはソフトマシーンに、ドラマーのイアン・モズレーはオランダのバンド、トレースに加入した後、1984年からはイギリスのマリリオンに加入してプレイしている。
 また、ベーシストのデク・メセカーはこの後、キャラヴァンに加入している。

 こうやって見ると、確かにマイナーなバンドなのだが、個人個人を見れば、その後、結構活躍しているのである。こういう人脈図ができるのもプログレッシヴ・ロックの特長なのかもしれない。
 決して歴史に残るような名盤ではないのだが、歴史を彩ったアルバム群の一枚ではないだろうか。

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2009年1月10日 (土)

2008年の問題作(3)

 さてこの“問題作シリーズ”も3回目、今回で最後である。最後を飾る2008年の“問題作”はポール・マッカートニーが関わったプロジェクト、ザ・ファイアーマンの「エレクトリック・アーギュメンツ」である。

 このザ・ファイアーマンのアルバムであるが、今作が3作目で、前作の「ラッシズ」から10年ぶりの新作となる。

Photo_5 Music エレクトリック・アーギュメンツ

アーティスト:ザ・ファイアーマン
販売元:TRAFFIC
発売日:2008/11/24
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 それでザ・ファイアーマンについて簡単に述べておくと、元ビートルズのポール・マッカートニー(御年67歳)と70年代のニュー・ウェイブ・バンド、キリング・ジョークのベーシストのユース(49歳)の2人が結成したプロジェクトで、歌や演奏は基本的にポールが、編集やプロデュースをユースが担当している。

 彼らの最初のアルバムは1993年に発表された「ストロベリーズ・オーシャンズ・シップス・フォレスト」であり、最初の2枚は完全な実験音楽、環境音楽、アンビエント・ミュージックだった。要するにブライアン・イーノのような音楽だったということだろう。

 それでこのアルバムのどこが問題作と言われるのかというと、今作ではボーカルが入っている点であり、しかも前々作、前作と比べて聞きやすくポップな音になっている点である。

 要するに昔の「マッカートニー」や比較的新しい「フレイミング・パイ」のようなアルバムなのであるが、むしろそれらより荒削りでワイルドでロックしている感覚である。まさにニュー・ウェーブ版ポール・マッカートニーという感じである。

 こういう感覚のアルバムになったのも相方のユースの影響が大きかったのだろう。もともとニュー・ウェーブ・バンド出身の彼なので、こういう感覚は得意の分野なのだろう。
 しかも前回紹介したガンズ・アンド・ローゼズの14年間で14曲録音したアルバムとは大きく異なり、1日に1曲、全13曲を13日間で録音したという。
 ただ、毎日ではなく10年間にちびちびと録りためていったということで、間が空いたようである。

  雑誌のアルバム評などを見ると、結構好意的に書いているものが多く、21世紀に入っての彼の最高傑作とまで言い切るものも見受けられた。
 しかし、自分の中ではそこまではちょっと言いすぎかもという感じである。やはり基本はアバンギャルドな環境音楽であり、あくまでも今回は聞きやすいものになっただけという感じだからだ。

 特にアルバム後半になるにつれて、段々と前衛的な傾向が強くなり、最後の曲などは10分以上もあるマイナー調のロック・ミュージックになっている。
 逆に前半は短く聞きやすいポップな曲が連なっている。"Sing the Changes"、"Travelling Light"、"Highway"あたりは、出来れば違う彼のアルバムの中で聞きたかったと思ってしまった。

 もともと80年代から、ポールは他人とコラボレートする機会を増やしてきた。決して才能が枯渇したわけではないのだろうが、ジョン・レノンという偉大なる友人かつライバルが亡くなってからそうなってきたようである。

 例えばスティーヴィー・ワンダーやマイケル・ジャクソンと「タッグ・オブ・ウォー」や「パイプス・オブ・ピース」で共演したほか、「フラワーズ・イン・ザ・ダート」ではエルヴィス・コステロと、1997年の「フレイミング・パイ」では元E.L.O.のリーダー、ジェフ・リンと一緒に制作している。
 またミュージシャンだけでなく、レディオヘッドなどを手がけたプロデューサー、ナイジェル・ゴドリッジなどとも協力して制作している。

 この分だとそのうち本当にスティーヴ・リリーホワイトやブライアン・イーノ、ロバート・フリップあたりとコラボレートするかもしれない。

Flaming Pie Music Flaming Pie

アーティスト:Paul McCartney
販売元:Capitol
発売日:1997/05/12
Amazon.co.jpで詳細を確認する

 とにかく他の人と一緒にアルバムを作った方が、刺激になっていいのであろう。確かにこのアルバムでは異様に若々しいポールを実感することができる。音の処理がそう感じさせるのかもしれないが、ともかく普通の67歳の人が出せるような音ではないことは確かである。

 そういう意味ではポールは天才なのかもしれない。でもはっきり言って、この中のいくつかは次の彼のソロ・アルバム用に取っておいてほしかった。
 でもいい曲を惜しげもなくどんどん発表していくところが、天才たるゆえんかもしれない。次回からは、このアルバムからアバンギャルドな要素を除いた楽曲の詰まったソロ・アルバムを期待しているのである。

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2009年1月 7日 (水)

2008年の問題作(2)

 さて2008年の問題作シリーズのパート2である今回は、約17年ぶりにオリジナル・アルバムを発表したガンズ・アンド・ローゼズ(以下ガンズンと略す)の「チャイニーズ・デモクラシー」についてである。

 ある意味、2008年最大の話題作(問題作?)と断言してもいいアルバムではないだろうか。
 昔から(正確には2001年頃から)、“アルバム制作に取り掛かった”とか“もうすぐアルバムの発表だ”などとボーカリストのアクセル・ローズ自らが言ってきていたにもかかわらず、ライヴ音源として非公式には発表されていたものの、1枚のアルバムとしては全く雲をつかむようなものであった。

 また、余りにも長い時間待たされてきたので、このアルバムの存在自体を疑う人も出てきて、本当に作っているのだろうかと多くの人が疑心暗鬼になっていた。

 だから「もしも2008年中にガンズンの新作が発表されたら、わが社の飲料水を1本無料でプレゼントする」と全米中にCMを流した清涼飲料水会社まで現れるのである。
 このCMは2008年の3月に流されたものだが、実際にアルバムが発表された後、この会社は自社のホームページに無料クーポン券をダウンロードできるようにしたのだが、あまりにも多くのアクセスが殺到したためクラッシュしたそうである。こうなるともう社会現象である。

 このアルバムの制作は、1994年に始まったということなので、完成までに約14年かかったということになる。またこのアルバムの制作費が約14億円といわれているらしいので、単純に考えて、1年間で約1億円このアルバムに投資したということになる。

 またアルバムは14曲で構成されているので、これまた単純に考えて、1曲につき約1億円かかったということになる。素晴らしいではないか、ガンズンよ!

チャイニーズ・デモクラシー Music チャイニーズ・デモクラシー

アーティスト:ガンズ・アンド・ローゼズ
販売元:UNIVERSAL INTERNATIONAL(P)(M)
発売日:2008/11/22
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 その内容もこの14年間何をやってきたのだろうか、14年という年月はいったい何だったのだろうかと思えるような、昔とほとんど変わらない音を出している。

 確かにギタリストはいっぱいいて、確認は出来ていないのだが、あのクィーンのギタリスト、ブライアン・メイも参加している曲もあるという。

 確認できたギタリストだけで5人はいるから、これはもうリーダーであるアクセル・ローズのソロ・プロジェクトと言ってもいいだろう。その名前がガンズ・アンド・ローゼズというだけのことである。

 個人的に気に入った楽曲は3曲目の"Better"である。全体的なメロディがきれいだからだ。また次の曲"Street of Dreams"はピアノのイントロが印象的だし、曲自体もいかにもロックしていてよい。それにストリングスがかぶさってくるところは、昔の"November Rain"を髣髴させる。

 また"I.R.S."や"Madagascar"などはライヴでもたびたび披露されているので、熱心なファンには周知の曲かもしれない。前者はヘヴィ・ロックに近い音圧で迫ってくるし、後者の曲の詩には様々な断片的な台詞がちりばめられている。

 "Madagascar"にはマーティン・ルーサー・キング牧師の演説の一説や映画の台詞が引用されている。例えばブラッド・ピットが熱演した“セヴン”や黒人差別の実態を描いた“ミシシッピー・バーニング”、メル・ギブソンが主演した“ブレイヴハート”、マイケル・J・フォックスやショーン・ペンが出演した反戦映画“カジュアリティ-ズ”、昨年亡くなったポール・ニューマンの“暴力脱獄”などである。

 次の"This I love"などはアルバムの終わりを飾るにふさわしいバラード系の楽曲になっている。確かに1曲に1年と1億円をかけただけあって、昔と変わらないロックを聞かせてくれる。

 彼らはといっても正確にはアクセルは、1985年にデビューして、87年に発表したアルバム「アピタイト・フォー・デストラクション」は、50週かけて、全米No.1を獲得した。
 このアルバムは全米だけで1800万枚以上、全世界で2800万枚以上の売り上げがあったモンスター・アルバムになった。

Appetite for Destruction Music Appetite for Destruction

アーティスト:Guns N' Roses
販売元:Geffen
発売日:1990/10/25
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 この売り上げのおかげで、14億円を費やせるだけの元手ができたのかもしれない。実際、17年間はアルバムも出さず、ライヴ活動だけで(時にそのライヴ自体も急にキャンセルされたりしたが)生活できたのも、当時のファンの熱烈な応援があってのことだろう。

 この最新アルバムの方は、ビルボード初登場3位と好調であったが、次の週には大きくベスト10から外れて30位以下になったと聞いた。今後どう変わるかわからないが、たぶん1000万枚以上も売れないだろう。

 アクセル自身は今年で47歳なので、まだまだこれから活動すると思うのだが、もう1曲に1年もかけないで、せめて1ヶ月くらいにしてほしいものである。

 しかし本当に年末になって急に発売されたアルバムだった。本当に発売されるとは思わなかったし、そう思っていた人は結構いたのではないだろうか。そういう意味では2008年を揺るがした奇跡のようなアルバムであったと思うのである。

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2009年1月 4日 (日)

2008年の問題作(1)

 これから3回にわたって、2008年に発表されたアルバムの中から、個人的に問題作(話題作)となっているものを紹介していきたいと思っている。
 それで第1回目の問題作は、昨年秋に発表されたクィーン+ポール・ロジャースのアルバム「ザ・コスモス・ロックス」である。

 改めていう必要もないと思うのだがあえて言うと、クィーンのフレディ・マーキュリーがエイズという病に倒れたのが、1991年11月24日のことであった。
 その死から17年、デビュー・アルバム「戦慄の女王」発表から35年、残されたメンバーのブライアン・メイとロジャー・テイラーがUKを代表するロック・ボーカリスト、ポール・ロジャースと一緒になってアルバムを制作したのである。それが「ザ・コスモス・ロックス」だった。

ザ・コスモス・ロックス Music ザ・コスモス・ロックス

アーティスト:クイーン+ポール・ロジャース
販売元:EMI MUSIC JAPAN(TO)(M)
発売日:2008/09/17
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 はっきり言ってこのアルバム自体の出来はすこぶるよい。ポール・ロジャースのボーカルは深みがあり、バックの演奏に負けることなくしっかりと自己主張している。
 また、バック演奏も古臭さを感じさせない現代的な音処理が施され、ベテランとしての味と“キープ・オン・ロッキン”しようとする姿勢が伺え、今時の若者にも訴えかけるだけの力を備えている。

 だからロックのアルバムとしては、よく出来たアルバムなのである。決して“アルバム・オブ・ザ・イヤー”には選ばれないだろうが、それでも“2008年を代表するこの100枚”には選ばれるだろう!?

 しかし個人的には、これをクィーンの新作としてカウントしてほしくないし、間違ってもアーティスト名にQueen+Paul Rodgersという名前を入れてほしくなかった。もし入れるならポール・ロジャースの新作として、あくまでもブライアン・メイとロジャー・テイラーは全面的に協力して制作したものとして発表してもらいたかった。これをクィーンといってほしくなかったのである。

 それは自分が別にクィーンの大ファンだからとか、名前を汚してほしくないからとかいう理由ではない。クィーンという名前から受ける音のイメージとこのアルバムから受ける音のイメージは全然違うものだからである。

 やはりポール・ロジャースはロック界を代表するボーカリストである。彼が全編を通して歌うと、どうしても彼の個性や表現力が表に出てしまうのである。だからこのアルバムはブルーズ・ロック+ハード・ロックが中心の音世界になっている。

 逆に言うと、やはりフレディ・マーキュリーの存在はクィーンに欠かせなかったということになる。彼の創り出したクラシカルでオペラティックかつドラマティックな音世界があったからこそ、クィーンがここまで世界的に有名になったということができるだろう。(もちろんパフォーマーとしてのフレディも素晴らしかった!)

 ブライアン・メイのあの独特な“津軽三味線”的ギターはアルバムの冒頭と13曲目の"Surf's up...School's out!"(まるでビーチ・ボイーイズとアリス・クーパーのアルバム・タイトルのようだ)の最初でしか聞くことができない。ポールのボーカルが活かせるように、また曲を盛り上げていくことに徹しているかのようである。
 7曲目の"Call me"は3分足らずの短い曲なのだが、そこではあの名盤「オペラ座の夜」の中にあった"My best friend"のようなポップな彼のギターを聞くことができる。

 1曲目"Cosmos Rockin'"はロケンロールだし、5曲目"Warboys"はハードロックしているし、8曲目"Voodoo"は完全なブルーズ・ロックである。ミック・ラルフスの代わりにブライアン・メイが弾いているバドカンといってもおかしくない。
 また6曲目"We believe"と9曲目"Some things that Glitter"はバラードしている。そのバラードでのギターで盛り上げるところは、あのブライアン・メイ独特の印象的なギターの音色を聞くことができるのだが、結局のところそれだけで終わっている。

 12曲目の"Say it's not true"は2003年にエイズ撲滅キャンペーン用に作られたもので、最初のボーカルはブライアン・メイが歌っていて、途中からポール・ロジャースの声がかぶさってくる。また間奏のギターは確かにクィーンのブライアン・メイしている。この曲は名曲だと思う。

 だからこのアルバムはポールのソロ・アルバムとして発表してほしかったし、それがだめならプロジェクトとして発表してほしかった。例えばベック、ボガート&アピスのように…
 もしくは彼らの名前の頭文字をとって、“MRT(メイ、ロジャース、テイラー)”。これで“マート”と読むのだが、スーパーのようでよくない。それでは“RMT”はどうかと考えたのだが、何と読むのかわからない。母音が入っていないから読みづらいのである。

 とにかくこのアルバムはイギリスで5位、アメリカで47位というアルバム・チャートを記録している。これはチャートの順位だけで見るなら、1974年に発表された「クィーンⅡ」とほぼ同じチャート・アクションである。

 しかし彼らの欧米での人気は凄いようで、特にヨーロッパではどこの会場も満員御礼のようである。たぶんこの勢いをかって、北米南米ツアー、そしてやがてはおそらく日本にもやって来るのであろう。

 余談だが、ドラムス担当のロジャー・テイラーとポール・ロジャースの年齢が同じだと知って驚いた。両名とも今年で60歳である。ポール・ロジャースは60年代の終わりから、つまり10代から活動していたから芸暦は長いので、もっと年齢は上かと思っていたら、ブライアン・メイの方が年上だった。

 要するにクィーンの中で一番若かったベーシストのジョン・ディーコンだけが、一番若くて既に引退しているのである。(今年で58歳)
 そういう意味では一番賢明だったのかもしれない。“クィーン”という名前に溺れることなく、また他のメンバーを非難することもなく、世間の喧騒から離れて静かに人生を送っているからだ。

 バンドの中で一番若かったという点では、ビートルズのジョージ・ハリソンと同じであり、長く引退同然の生活を送っていたのも似ている。クィーンの中で一番ポップな音楽性を備えていたのはジョンだったのではないかと思うこともある。彼は今どんなふうにこのアルバムを聞いているのであろうか。

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2009年1月 3日 (土)

ポール・スティール

 2009年の新年にふさわしい新人を紹介したい。イギリス出身のポール・スティールという人である。
 1986年生まれということなので、今年で23歳というヤングマンであるが、この年齢にしてはなかなかどうして、今後のポップ・ミュージックの動向を左右しかねないほどの技量を持っている人だと思っている。

 はっきりいってポール・マッカートニーやブライアン・ウィルソン、ジェフ・リン直系のポップ・ミュージックを奏でてくれるミュージシャンなのである。
 それは昨年秋に発表された1stアルバム「ムーン・ロック」を聞けばわかると思うのだが、第一印象は一人ビーチボーイズなのである。

ムーン・ロック Music ムーン・ロック

アーティスト:ポール・スティール
販売元:EMI MUSIC JAPAN(TO)(M)
発売日:2008/11/12
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 特に1曲目の"In a Coma"には、ファンタジックでマジカルでキャッチーなフレーズが詰め込まれている。また2曲目以降もほぼ同様で、"I will make you disappear"なんかは多重録音の極みみたいな曲になっている。

 もともとポップ・ミュージックを志す人にはいくつかの共通点があり、この人もその例外ではない。つまり、ポップなメロディだけでなく、なんでも一人でやらないと気がすまないというか、納得できないという気質である。
 だからポール・マッカートニーやブライアン・ウィルソン、ジェフ・リンだけでなくトッド・ラングレンやマシュー・スゥイート、XTCのアンディ・パートリッジ、のように、このアルバムでも一人ですべてのボーカル・パートと楽器演奏を行っている。

 要するに“ポップおたく”なのだが、この“ポップおたく”という存在は、60年代から21世紀の現在まで、目立つ目立たないはともかくとして、常にミュージック・シーンにい続けているというのが素晴らしいと思う。

 需要と供給のバランスではないのだが、やはりそういう存在を必要としている人がいるから、マルチ・ミュージシャンや一人ビーチ・ボーイズのような人が出てくるのであろうし、その逆に、そういうエヴァーグリーンなメロディはいつ聞いても人の心の琴線を打つのであろう。

 ちなみに、このアルバムは日本では大手のEMIミュージック(元東芝EMI)から配給されているのだが、本国イギリスでは自主レーベルからリリースされたという。イギリスでは大手のレーベルから見放されているらしい。2007年に自主制作した「April&I」というアルバムが不調だったからで、今のイギリスではこの手の音は敬遠されやすいのだろうか。頑張れ、ポール・スティールである。

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