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2009年4月16日 (木)

ハンブル・パイ

 ハンブル・パイとは英語で"Humble Pie"と書く。直訳すれば“粗末なパイ”、“つまらないパイ”という意味になるが、詳しくは主人が鹿を狩猟したあとの内臓で作ったパイのことで、ハンティングの記念に使用人に与えたものを指すようである。あるいはスラングでは、他の意味もあるのかもしれない。

 それでイギリスのロック・バンド、ハンブル・パイのことであるが、彼らは1969年に結成された。当時はブラインド・フェイスのように、スーパー・バンドという言い方が流行していたが、彼らもそのうちの一つに数えられたらしい。個人的にはピンとこないのだが…

 もともとバンドのギタリストであるピーター・フランプトンがドラマーのジェリー・シャーリーと計画していたところに元スモール・フェイシズのスティーヴ・マリオットと元スプーキー・トゥースのグレッグ・リドレーが参加したのであるが、こういうふうに書いても、どうしてもこれがスーパーバンドとは思えないのである。ただピーターとスティーヴの知名度はかなりあったとは思う。両方ともそれぞれのバンドでヒットを出していたからだ。

 だからこの2人にスポットライトが当たっていたと思うし、曲作りもこの2人がメインのソングライターだった。
 ただ彼らにとって不幸だったのは、2人の方向性に違いがあったことだ。ピーター・フランプトンの願いは、簡単にいうとヒットを出してもっと名声を手に入れることだったのに対し、スティーヴ・マリオットは黒人音楽を追求する事だった。はっきりいうとスティーヴはレイ・チャールズになりたかったのである。

 このことは、この2人のその後のあゆみを見ればわかると思う。実際にピーターは、77年に「カムズ・アライヴ」を出して全世界で1000万枚以上の売り上げを記録し、富と名声を一時的ではあるが手に入れたし、スティーヴはさらにR&B、ソウル路線を追求していった。
 だから初期のハンブル・パイでは大まかに言って、ポップでアコースティックな曲とソウルフルでハードな曲とに大別されているように思われる。
 
 彼らが1970年に発表した4枚目のアルバム「ロック・オン」ではピーター・フランプトンの作った曲"Shine On"や"The Light"とスティーヴ・マリオットの曲"79th And Sunset"、"A song for Jenny"、"Red Neck Jump"を聞き比べてみると、その違いが分かるかもしれない。

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 71に発表された彼らのライヴ・アルバム「パフォーマンス~ロッキン・ザ・フィルモア」を聞いたときは、かなりハードで泥臭い音に驚かされた。フランプトンのギターも音数が多く、けっこう上手に弾きこなしている。もともと美形でルックスがいいために、ギターの腕はそれほどでもないのかなと思っていたのだが、全くの思い違いであった。天は二物を与えたようである。

パフォーマンス~ロッキン・ザ・フィルモア Music パフォーマンス~ロッキン・ザ・フィルモア

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 結局、2人の路線の違いからピーターが脱退して自身のバンド、フランプトンズ・キャメルを結成した。一方のスティーヴは元コロシアムの凄腕ギタリストであるデイヴ・“クレム”・クレムソンを加入させ、さらに“黒っぽい”路線を進めていった。

 デイヴが加入したアルバム「スモーキン」を聞くと、これはもうハードなロックが基本になっている事がわかるし、スティーヴの歌い方も敬愛してやまないレイ・チャールズに近づこうとしているようだ。
 ちょうど同時期のフェイセズ、あのロッド・スチュワートが在籍していたフェイセズからポップさを取り払い、もっとハードにしてよりソウルフルにしたような感じである。

 "Hot'n'Nasty"、"C'mon Everybody"はハードでノリのよい曲であるし、"You're so Good for me""Old Time Feelin'"はアメリカ南部のR&Bとカントリーを混ぜ合わせたような感じの曲になっている。それまでのアルバムよりもリズム陣が重くなっていて、しっかりとした音作りを感じさせてくれる。

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 自分が一番好きなアルバムは1973年に発表された「イート・イッツ」である。レコードでは2枚組だったが、CDでは1枚にまとめられている。これは絶対にお買い得、買いである。
 アルバム構成が素晴らしくよく考えられていて、最初の4曲が彼らのオリジナル曲、次の4曲がレイ・チャールズやアイク&ティナ・ターナー、モータウンなどのカヴァー、次の4曲はポップで、時にアコースティックな面ものぞかせる曲、最後の3曲がライヴ音源となっている。

イート・イット Music イート・イット

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 どの曲も捨てがたい。最初の2曲はノリノリのロックン・ロールだし、3曲目は一転してスロー・バラードになっている。

 カヴァー曲の中では、特にレイ・チャールズの"I Believe to My Soul"が素晴らしい。この曲でのスティーヴ・マリオットの熱唱は歴史的な名演だと思う。バックのコーラスやサックスのせいもあるのかもしれないが、ポール・ロジャースやクリス・ファーロウ、ロッド・スチュワートを凌駕しているのではないだろうか。

 アルバムではこのあとアコースティックな曲が3曲続き、スタジオ録音として最後には軽快なロック曲"Beckton Dumps"で締めくくられる。そしてライブ録音が3曲続く。

 このライヴがまた素晴らしいのだ。ライヴ・アルバム「パフォーマンス」も素晴らしかったが、この3曲も負けず劣らず素晴らしいものに仕上がっている。

 何しろデイヴ・クレムソンのリード・ギターがよい。コロシアムのところでも述べたが、ライブに映えるギタリストである。
 そして何といってもスティーヴ・マリオットのボーカルは本当に魂を振り絞って歌うかのような印象を与えてくれる。曲もワイルドなロックン・ロール"Up our Sleeve"、ストーンズの"Honky Tonk Women"、モータウンの"Road Runner"とまさに汗と熱気に満ち溢れたものになっている。

 まだまだ彼らの音楽を聞きたかったのだが、残念な事にスティーヴ・マリオットは1991年4月20日に火事で亡くなってしまった。海外から帰宅して、疲労困憊?の中での寝タバコが原因だったという。享年44歳。早すぎる死であった。

 一時はピーター・フランプトンとオリジナル・ハンブル・パイを再結成しようという話もあったのだが、火事の煙とともに消えてしまった。もう二度と彼の熱唱を聞くことはできない。もっともっと評価されてもいいバンドだったと思う。

 これは余談だが、ピンク・フロイドのアルバム「おせっかい」に"シーマスのブルース"という短い曲があるが、この“シーマス”とはスティーヴ・マリオットの飼っていた犬の名前である。この犬の鳴き声も同曲に収録されている。ピンク・フロイドのメンバーとスティーヴは交流があったのだろうか。


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