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2009年4月18日 (土)

都市探検

 この春の定期異動で職場が変わった。今まではこじんまりとした田舎の職場だったのに対して、今度の事業所は大所帯である。今までの約3倍の人数だから、そう簡単には顔と名前が一致しないのである。

 もともと人の名前をおぼえるのは苦手なのだが、こうたくさんいるとこれはもう名前を覚えるだけで一仕事である。あの田中角栄は大蔵省の平職員から事務次官まで名前と顔を覚えていたというが、そういう意味では、さすがに昭和を代表する総理大臣だと思う。決して彼の業績や行いすべてを肯定するわけではないのだが…

  それで新しい職場では、私のようにロック好きの人がいて、そういう意味では心強いものがある。
 ひとりは昔はロック小僧だったという人で、高校生のときはクィーンやエアロスミスのコンサートを見に行ったという。生きているフレディを見た貴重な生き証人である。

 もうひとりはブリティッシュ・ミュージック大好き人間で、仮にA氏としておこう。このA氏は、何とあのパンク、ニュー・ウェーヴ大好き人間、たびたびこのブログに登場しているパンクの神様K氏と高校のとき同級生であるという。世の中狭いものである。
 ただA氏はパンクとは無縁で、正統なロック愛好家である。

 それで転勤祝いとして、そのA氏がレコードからコピーして私にくれたのが、10ccの1983年のアルバム「都市探検」であった。

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 A氏が言うには、『“びっくり電話”や“オリジナル・サウンドトラック”が好きならきっと気に入るはずだし、むしろ“びっくり電話”よりもいい出来』とのことで、それこそ自分はびっくりした。一般的には、このアルバムは失敗作と言われていたからである。

 このアルバムは、10ccが5ccになって約7年、当時としては彼らの最後のアルバムになったものである。

 ゴドリー&クレームが脱退したあとも、「愛ゆえに」や「ブラディ・ツーリスト」などの素晴らしい作品を発表していたエリック・スチュワートとグレアム・グールドマンは、80年代に入ってからは不遇をかこつようになった。「ルック・ヒア」、「ミステリー・ホテル」とアルバムは発表するものの、それまでのように売れなかったのである。

 原因はアメリカナイズされたAOR路線だったといわれている。もともと10ccは一筋縄ではいかない変態的な?ポップ・ロックがウリであったし、長い曲や短い曲をまとめて構成し、一気に聞かせるというストーリー性のあるコンセプトも評価が高かった。

 だから映画音楽ではない「オリジナル・サウンドトラック」やジャスティン・ヘイワードが実際に体験したことをもとにした「ブラディ・ツーリスト」などは評価が高かったのである。

 ところが80年代に入ってからは、どうもその創作性というか独創性が今一歩になってしまったようだ。この辺がエリックとグレアムの限界だったのかもしれない。

 ここからは想像でしかないのだが、彼らはこのアルバムがこけたらもうおしまい、解散だという気持ちでアルバム制作を行ったのではないだろうか。だからひょっとして最後かもしれない(実際そうなったのだが!)という気持ちを抱えたまま、それを払拭すべく気合を入れて作ったに違いないと思うのである。

 だからこのアルバムは、音的にはAOR路線を踏襲しているかもしれないが、実際はなかなかどうして、スルメのように、味わえば味わうほどその良さが滲み出てくるのである。

 最初に聞いた感じでは、おしゃれな10cc、都会的な雰囲気を携えた10ccと思った。ちょうどポール・サイモンの「時の流れに」のような感触だった。両方ともスティーヴ・ガッドが参加しているが、それはあまり関係ないだろう。

 何しろ曲がいい。1曲目が8分を超える大作、あの"パリの一夜"を想起させるものになっていて、相変わらず素晴らしいコーラス・ワークを聞かせてくれる。また邦題は"朝~昼~夜"という。原題は"24hours"なので、一日の出来事をテーマにしているようである。最後にレゲエ風にフェイド・アウトしていくのであるが、このフレーズはアルバムの最後のところでも顔を出している。

 2曲目はサビの部分が覚えやすいポップな佳曲で、レゲエのリズムに乗って歌われている。また3曲目"Yes, I am"もポップで、綺麗なバラード。どうしても"I'm not in Love"を想起してしまうのだが、それでもメロディの美しさは相変わらずである。

 他にも珍しくロック調の"City Lights(夜こそわが人生)"、これまたレゲエのリズムの"Food for Thought(頭脳食)"など印象に残る曲が多い。聞けば聞くほど最初の印象が大きく変わってしまった。

 エリックとグレアムにとって不幸だったのは、このアルバムが、ただのAORアルバムだと片付けられてしまったことだと思う。確かにメル・コリンズやスティーヴ・ガッド、サイモン・フィリップスなど一流のセッション・ミュージシャンを起用して念入りに制作されているし、耳に残るようなポップなテイストが散らばめられている。AORといわれればそうかもしれないが、しかしそこには彼らの原点回帰の試みが行われていたのである。

 しかし彼らのその試みは不発に終わってしまった。メロディはポップで美しいし、いい曲なのだが、10ccが本来持っているユーモアや刺激が乏しかったのであろう。彼らのファンはこういうアルバムを期待していなかったのかもしれない。やはり5ccになっても、「オリジナル・サウンドトラック」を超えるものを待っていたのだろう。

 気合を入れて作った割には評価は低く、それに落胆したのかどうかはわからないが、結局このアルバムを最後に解散してしまった。この解散期間は1992年まで続いた。

 エリックもグレアムも60歳を超えているので、今から2人でアルバム制作、ライヴ活動も期待できないであろう。だからというわけではないが、オリジナル10ccとして最後のアルバムとなった「都市探検」はもう一度見直されてもいいのではないかと思うのである。

 ちなみにA氏は2005年の10cc来日コンサートに行ったという。完璧に10ccフリークである。そのA氏が薦める10ccのアルバムである。もう一度みんなに聞いてもらって、その是非を問うてみたい気がする。


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