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2009年5月

2009年5月28日 (木)

ラヴ

 自分の棚にあるサイケデリック・ロックのアルバムを探していたら、1枚のアルバムが見つかった。1枚といっても国内盤2枚組のベスト・アルバムなのだが、いつ手に入れたのか皆目見当がつかない。丁装や仕様から判断して中古盤ではなさそうである。

 ということは、大金を払って2枚組アルバムを購入したということだろ うが、よほどお金が余っていたのか、それとも思いつきだったのか、その辺の事情を思い出せないでいる。もし今だったら、購入するのにかなり躊躇するに違いないのだが…

 その2枚組アルバムとはラヴという当時アメリカ西海岸で有名だったグループのものだった。このラ2ヴというグループは、様々な音楽性を兼ね備えているようで、フォーク調の曲からロック系、日本のグループサウンズが演奏していたような曲まで、このベスト盤には本当に種々雑多な曲が収められている。

 彼らの活動期間は1966年から1972年までと短かったのだが、その中で彼らの代表作は1968年に発表された3rdアルバム「フォーエヴァー・チェンジズ」である。このベスト盤にもこのアルバムの曲、全11曲すべてが収録されているから、いかにこのアルバムが彼らにとって誇るべきものだったかがわかると思う。

 この「フォーエヴァー・チェンジズ」の基本はアコースティック・ギターであり、それもロサンジェルスという土地柄を反映してか、スパニッシュ系のギターがメインになっている。それにトランペットが加わったまさにメキシコ音楽という感じの曲もあって、国際色豊かな音楽を聞かせてくれる。

 もちろんすべてがスパニッシュというわけではなくて、柔らかなアコーステック調のフォーク・ロックもあれば、エレクトリック・ギターを使用した曲もある。ただ比重としてはアコーステックの方が高いのである。

 また中にはストリングスが重なってきて静かな落ち着いた雰囲気の曲もあるし、ホーンやトランペットを使用した曲も出てくる。ただ全体としては抑制されたいて、よく考えられ練られて制作されたという感じである。
 最後の曲は6分を超える大曲になっていて、まさにアルバムの最後を締めくくるにふさわしい曲になっている。

Forever Changes Music Forever Changes

アーティスト:Love
販売元:Rhino/Elektra
発売日:2001/02/20
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 彼らは5人組のグループなのだが、リーダーが黒人のアーサー・リーという人だった。1966年当時では、いかにアメリカ西海岸でも黒人がリーダーのバンドは珍しかったそうである。アメリカではいかに人種問題が深刻な問題なのかがわかると思う。

 ちなみにアーサーは、もともとメンフィス生まれで5歳のとき一家そろってロサンジェルスに引っ越してきたそうである。だから彼の作る楽曲にはR&Bだけでなく、子どもの頃に育ったロサンゼルスで身につけたフォークやロックなどの要素が備わっていたのだろう。
 またジミ・ヘンドリックスとも共演しており、お互いに影響しあっていたようである。

 彼らの与えた影響は意外に大きくて、レッド・ゼッペリンのロバート・プラントもラヴの音楽からも影響を受けたといっているし、80年代のイギリスのバンド、エコー&ザ・バーニーメン、スージー&ザ・バンシーズ、オレンジ・ジュースやXTCなどもラヴから様々な影響を受けたといっている。

 確かにラヴは、現役当時でもアメリカよりイギリスでの評価が高かったグループである。だから今も昔もアメリカ人よりもイギリス人ミュージシャンの方に受けが良かったのであろう。「フォーエヴァー・チェンジズ」もイギリスでは100位以内にチャートインをしたそうである。

 残念ながらリーダーのアーサー・リーは、2006年8月3日に生まれ故郷のメンフィスで亡くなってしまった。白血病が死因ということである。ラヴは70年代以降もたびたび再結成を行っていたようだが、もう二度と結成することはない。グループは“フォーエヴァー・チェンジズ”(永遠の変化)をもう手にすることはなくなったのである。

 彼らはサイケデリック・ロックという範疇に入れることのできないバンドだった。時期的に“サマー・オブ・ラヴ”に活躍したグループだったが、むしろ一線を画した面が強かった。それもリーダーであるアーサー・リーの音楽的な才能の故だろう。

 そしてその影響は80年代のイギリスに受け継がれ、今もなお着実に息づいているようである。解散した後、歳月を経るにしたがってその音楽性に光があたっていったバンド、それがラヴなのではないだろうか。

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2009年5月22日 (金)

コープランド

 ソフト・ロックというジャンルがあるのだが、自分はあまり聞かない。いわゆるロックの衝動性や破壊性とは音的には180度真逆の音楽だからだ。ハード・ロックの対極に位置する音楽と考えるとわかりやすい。
 
 だからソフト・ロックには、ビンビン響くベース音やチョーキングで音を歪ませるということはほとんどない。むしろ軽めのストリングスやクラリネットなどあまりロックでは聞くことの少ない楽器を使用したりする。またコーラス・ワークにもこだわりを見せたり、スタジオでの録音作業に凝ったりするのも特徴である。

 日曜日の午後のFM放送で山下達郎の“サンディ・ソングブック”(という名前だったと思う)という番組があるが、その番組でよくかかる音楽のようなものと考えればわかりやすいと思う。

 60年代の終わりから70年代の初めにかけて、アソシエイションやザ・サークル、ハーバース・ビザール、ミレニウム、サジタリアスなどのソフト・ロックが流行した。あのブレッドもこのジャンルに当てはまるバンドだろう。よく見ると基本的にアメリカのバンドばかりであるが、もちろんイギリスにもこの手の音楽はあるが、どちらかというとソロ活動の方がグループ活動より目立つようである。この辺は英米の違いが出て面白いところだと思う。

ソフト・ロック Book ソフト・ロック

著者:江村 幸紀
販売元:シンコーミュージック
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 その後、70年代の喧騒の中で、あるいはまたラップやヒップホップなどの新しい黒人音楽の台頭に押されて、だんだんとこのジャンルの音楽は廃れてきたのだが、最近になって、イギリスのコールドプレイの影響のせいか、アメリカでもこの手のバンドが伸びてきたようである。

 まさに“History repeat itself”(歴史は繰り返す)というか“過ぎたるは猶及ばざるが如し”というか、ラップのようなリズム重視の音楽の反動なのかもしれない。

 それで現代に生きるソフト・ロックの最有力は、個人的にはフロリダ州出身のコープランドだと思っている。
 雑誌のアルバム評を読んで購入した彼らの3枚目のアルバム「イート、スリープ、リピート」はまさに春の日の日曜の午後にまどろみながら聞くような音楽だといえるだろう。

 しかも初回限定盤ではDVD映像付きで2500円という価格だったため即行で購入してしまった。

Eat, Sleep, Repeat Music Eat, Sleep, Repeat

アーティスト:Copeland
販売元:Militia
発売日:2006/10/31
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 彼らは4人組(現在では3人組)のバンドで、2000年に結成された。中心人物はボーカル担当のアーロン・マーシュという人で、ほとんどの曲を彼が手がけている。
 確かにロックの衝動性とは無縁の音楽だと思うのだが、それでもメロディの美しさや曲構成の巧みさなどは素晴らしいと思う。アルバムの帯に“美しいガラス細工のようだ”と記載されていたが、まさにその通りである。

 お薦めの曲は"Control Freak"、"By My Side"、"I'm a Sucker for a Kind Word"だと思う。特に"By My Side"はサビに向けて徐々に盛り上がるような曲になっていて、忘れがたい印象を与えてくれる。また"I'm a Sucker for a Kind Word"も一度聞くと忘れ難い旋律を持っている。

 このアルバムは2006年に発表されたのだが、いま聞くとイマイチかなあという気がした。なぜなら今年の1月に発表された国内盤「マイ・サンシャイン」の出来がすこぶる良いからである。

マイ・サンシャイン Music マイ・サンシャイン

アーティスト:コープランド
販売元:EMI MUSIC JAPAN(TO)(M)
発売日:2009/01/14
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 アルバムのキャッチ・コピーを紹介すると“美しいメロディ、繊細なタッチ、切ないハーモニー…21世紀のアート・ロック・バンドが綴る究極の叙事詩。透明感を増した待望のニュー・アルバム”ということである。さすがこれで飯を食っている人は書く事が違う。私も見習わなければならない。

 前回のアルバムがビルボードのチャートで初登場90位だったのだが、このアルバムは初登場48位であった。来た、来た、来た、徐々に知名度を上げ、売り上げも伸ばし、この調子で行けば次のアルバムで爆発的なブレイクは間違いないであろう。

 とにかく悪く言えばアメリカのコールドプレイであり、よく言えば日常から脱却し、夢心地にさせる天上の音楽である。特にこの「マイ・サンシャイン」を聞けば、前作があまりにも貧弱に聞こえる。それぐらいの素晴らしい内容で、特に冒頭の3曲"Should you Return"、"The Grey Man"、"Chin up"には脱帽である。このアルバムがどんな内容なのかを示してくれる。

 確かにロックの衝動性や攻撃性は薄いのだが、それでもギターは叙情的にかき鳴らされ、ベースやドラムスはしっかりとしたリズムを刻んでいる。決して感性だけに訴える音楽ではないのである。

 要するに現代に生きる“ソフト・ロック”とはこういうバンドの音楽を指すのであろう。60年代末からのソフト・ロックの命脈は、まだまだ枯れることはないのである。

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2009年5月18日 (月)

天使と悪魔

 今日は休日なのに珍しく朝早く起きてしまった。別に起きようとして起きたのではなくて、トイレに行きたくなったので起きてしまったのだ。ところが年をとると朝一度起きたら、もうなかなか寝付けなくなってくる。それで仕方なく起きてしまって何をしようかと考えていた。

 そういえばカバンの中に「天使と悪魔」の前売り券があったのを思い出した。3月くらいに買っていたのをすっかり忘れてしまっていた。年をとると、このように忘れっぽくなってしまうのである。

 「天使と悪魔」は、あの世界的に超ベストセラーになった「ダ・ヴィンチ・コード」で有名なアメリカの作家ダン・ブラウンの小説を映画化したものである。ただ作品の順番としては「天使と悪魔」が先で、そのあとに「ダ・ヴィンチ・コード」が書かれている。

 「ダ・ヴィンチ・コード」はテンプル騎士団の残したとされる財宝をめぐって、キリストの聖杯やマグダラのマリアの謎などが絡み合ってサスペンスフルな出来事が続くノンストップ・アドヴェンチャーなのだが、確かに読んでみて面白かった。わずか数日の間に事件が起きて解決するのだが、とにかく切れ目のない展開が続き、ページを繰る暇も惜しいほどであった。

ダ・ヴィンチ・コード(上) (角川文庫) Book ダ・ヴィンチ・コード(上) (角川文庫)

著者:ダン・ブラウン
販売元:角川書店
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 ただ映画化してみると、あまりにも展開が早くて原作を読んでいないとおそらく付いていけなかったのではないだろうか。

 それで今回の「天使と悪魔」も早すぎる展開になるのかなと思ってみたら、これが意外にというか、むしろ非常に面白かったのである。原作を読んでいなくても十分に楽しめるエンターテインメント映画になったと思う。

 むしろ原作の突拍子もない展開が抑えられているのが良かったと思っている。原作では上昇中のヘリコプターからシートだけを持って落ち、うまい具合に川に落ちて骨折もせず助かるという都合のいいストーリーが展開されたが、映画ではさすがにそれは描かれていない。

 逆に映画では、顔を見られた暗殺者から“お前たちを殺せという指示を受け取ってないので生かしておく”といって主人公たちを見逃すシーンがあるのだが、それはないだろうと思う。すでに10人近く殺している犯人である。あとでモンタージュ写真でも作られたら高飛びもできなくなってくるではないか。ましてや相手は丸腰なのだから、有無を言わさず射殺して逃走したほうがいいに決まっている。どうせ脚色するのならもっとディテールにこだわって欲しかった。

 それで前回はシオン修道会という怪しい宗教組織がでてきたが、今回は“イルミナティ”という秘密結社が出てきて、宗教と科学の対立を科学の側からリベンジしようと教皇候補者を拉致し、順に殺害していき、最後は“反物質”の性質を利用してヴァチカンもろとも吹っ飛ばそうとするこれまた壮大なストーリーが描かれている。

天使と悪魔 オリジナル・サウンドトラック Music 天使と悪魔 オリジナル・サウンドトラック

アーティスト:サントラ
販売元:ソニー・ミュージックジャパンインターナショナル
発売日:2009/05/13
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 ダン・ブラウンの描く小説の面白さは、ジェットコースターのようなノンストップのストーリー展開と史実や事実に基づく薀蓄の面白さである。
 この映画や小説でも“イルミナティ”という秘密結社と宇宙創生の鍵を握るといわれる“反物質”の存在である。

 地動説を唱えて宗教裁判にかけられたガリレオ・ガリレイは“イルミナティ”のメンバーであり、彼の報復を行うためにヴァチカンを破壊しようとするのであるが、それに用いられたのが“反物質”なのである。

 反物質は実際に存在する粒子であり、普通の物質と電荷が反対になっている粒子で、物質と反物質が接触すると光となって消滅してしまうそうである。
 宇宙の誕生、いわゆる“ビッグ・バン”のときは物質と反物質がほぼ同量に存在していたらしいのだが、今では反物質は存在していない。それを人工的に作り出しているのが、スイスのジュネーヴにあるCERN(セルン;欧州原子核研究機構)で、日本人を含む多くの科学者が研究にいそしんでいる。

 ただ1gの反物質を作るのには約600億年かかるというから、映画のように簡単に数gの反物質が作れるというのは間違いである。さすがにこれはフィクションであるが、それでもこういう話をストーリーのあちこちに散りばめているのだから、やはり本の方もノンストップで読んでしまうのである。

 “イルミナティ”の方も実際に存在した結社であるが、ガリレオが所属していたという事実はない。イルミナティは16世紀ではなく18世紀のドイツで結成されたもので、自由と平等を求めた組織であって、決して宗教、特にローマカトリックを否定しようとするものではなかった。要するに政治結社のようなものである。

 ただカトリックでは当然教条主義だから、聖書の記述を科学よりも優先するものであり、地動説を認めたのは1992年、ダーウィンの進化論を認めたのは1996年であった。最近になって科学を認めるようになったのだが、それもあくまでも聖書の記述に反しないという制約つきである。だから人工中絶や人工授精は当然のこと、遺伝子組み換えのクローン技術は当然ながら認めていない。おそらく今世紀中に認められることは困難であろう。

 ともかく息をもつかせぬ展開と謎解き、意外な犯人とサスペンスを構成する要素は十分に備わっている映画である。ローマ・カトリック教会の内部やコンクラーベ(新教皇選出のこと)などの自分の知らない世界を垣間見せてくれることも楽しい要素である。
 興味のある人はぜひ映画館まで足を運んで欲しいと思う。満足する2時間半を送ることができるはずだから。

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2009年5月17日 (日)

エレクトリック・フラッグ

 このところサイケデリックなロック・バンドのことをずっと述べてきたが、この1967年から68年にかけてのアメリカ西海岸では本当にいろんなバンドが登場してきては、消えて行ったなあと思うようになった。自分で書きながらそう思うようになった。これもブログの効用かもしれない。

 自分で勝手にマイナー・サイケデリック・バンドと名づけてしまったが、本当はマイナーなバンドではなくて、その当時は結構人気も高く、集客力もあったと思っている。ただ、活動期間が短くて、その後知名度が下がってしまった不運なバンドなのである。

 それでメジャーなサイケデリック・バンドといえば、やはりグレイトフル・デッドであり、ジェファーソン・エアプレインであり、ドアーズだと思っている。この3つのバンドは比較的活動期間が長く、またそれだけでなく後世に与えた影響も他のバンドと比較にならないほど強かった。
 だからそう簡単に書くことができない。もう少しじっくり聞きこんでからにしたいと思っているが、いつになるのかよくわからない。

 それで今回は、あの「スーパーセッション」、「フィルモアの奇蹟」で有名なギタリスト、マイク・ブルームフィールドが率いたバンド、エレクトリック・フラッグを紹介したいと思う。

 このバンドもご多分に漏れず短命なバンドだった。結成されたのは1967年でかの有名な“モンタレー・ポップ・フェスティバル”にジャニス・ジョップリンやジミィ・ヘンドリックスとともに出演している。

 そしてデビュー・アルバム「ア・ロング・タイム・カミン」を68年に発表したあと、自然消滅してしまった。アルバムは全米チャートで31位まで上昇したのだから、まずまずの成功だと思うのだが、なぜかマイクの関心はほかに移ってしまったかのようである。個人的にはもっとアルバムを発表してもらいたかったのだが、残念でしようがない。

 紙ジャケ盤では全14曲だが、オリジナル盤では10曲だった。内容的にはサイケデリックというよりは、ブラスを用いた普通のアメリカン・ロックである。メロディ的にも聞きやすいし、ブルーズやソウル・ミュージックなど様々な要素の音楽が詰め込まれていると思う。

ア・ロング・タイム・カミン(紙ジャケット仕様) Music ア・ロング・タイム・カミン(紙ジャケット仕様)

アーティスト:エレクトリック・フラッグ
販売元:ソニー・ミュージックジャパンインターナショナル
発売日:2008/12/24
Amazon.co.jpで詳細を確認する

 全体的にブラス色が強い気がするし、もう少しロック色があったらよかったのにと思ってしまう。そういえば一緒にセッションを行ったアル・クーパーの音に近いといえそうな気がする。"Over Lovin' you"や"She should have just"などはポップでシングル・ヒットしそうな曲である。

 その中でも"Texas"、"Another Country"では、マイクは結構弾いている。前者は渋いブルーズで、後者は9分近いナンバーだが、途中からジャズっぽく、ライトな雰囲気で始まり、ブラスを従えて段々と力がこもってくるのが素晴らしい。こういう曲が欲しかったのだ。

 最後の曲"Easy Rider"はインストゥルメンタル。もちろんマイクのギターは聞こえるのだが、何か霞がかかっているようでぼんやりとしか聞こえない。しかも51秒しかないからこれはもうエンドロールみたいなものである。

 ボーナス・トラック4曲はいずれもボーカル入りで、要するにこのアルバムは演奏よりもボーカルに比重を置いた作りになっている。もしくはボーカルと演奏をほぼおなじに設定しているかのようだ。だから彼のギター演奏もそんなに目立たないのであろう。(4曲目の曲"Going down slow"の演奏は素晴らしい)
 しかしさすがにチャートの上の方まで行っただけあって、曲自体はよくできていると思う。

 メンバーは8人で、ボーカル、ギター、ベース、ドラム、キーボードにサックス2人、トランペット1人という構成である。
 有名どころでは、ドラムスがこの後ジミ・ヘンと一緒に活動してするバディ・マイルス、ジャニスの"生きながらブルースに葬られ"を作曲したニック・グラヴィナイテスがボーカルを担当している。

 この1枚で自然消滅したとはいえ、彼らは1974年に一度再結成し、アルバムも発表した。しかしこれも1枚で終わってしまった。マイクは飽きっぽい性格なのだろうか。

 そして1981年の2月15日、マイク・ブルームフィールドはサンフランシスコの自宅近くの車の中で死んでいるのが発見された。薬物の過剰摂取、いわゆるオーヴァードーズであった。37歳という若すぎる死である。
 運命とはどうにもならないものだが、もし自分が若くして死ぬことがわかっていたのであれば、もっとガンガン弾きまくっていたことだろう。曲はいいのだが、ちょっと物足りないアルバムだと思った。これも“サマー・オブ・ラヴ”という季節の悪戯なのかもしれない。

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2009年5月13日 (水)

ジャニス・ジョプリン

 ジャニス・ジョプリンの歌を初めて聞いたのは、いつのことだろう。確か中学生の頃だったと思う。ラジオから流れてきたイギリスのロック・バンド、スレイドの"Move over"を聞いて、ぶっ飛んだことがあった。何というヘヴィな歌だろうか、きっと彼らの新曲に違いないと思った。

 確かに新曲には違いなかったのだが、彼らのオリジナル・ソングではなかった。あとになって、確かFM放送でかかっていたオリジナルの"Move over"を聞いて、ジャニス・ジョプリンという人が歌っていたということを知った。そして彼女は故人だということも、その時知った。

 彼女は美声ではない。むしろお酒の飲みすぎが原因か、場末のバーのママさんのようにしゃがれている。それでも迫力があるし、圧倒的なパワーを備えている。一度聞けば、二度と忘れる事のできないボーカルである。
 若い頃はクリアな美しい声だったという。それがドラッグとお酒でここまで変わってしまった。かなり習慣化されていたのであろう。間接的にそれが彼女の死の原因にもなったほどである。

 そして写真で見る限りは美人ではない。実際、彼女自身も述べている事だが、高校生の頃は学校一の不細工な女の子だったらしい。彼女の言葉をそのまま信じる事はできないが、少なくとも自分ではそう思い込んでいて、周囲になじめずに常に孤独感を味わっていたようである。

 とにかく歌にかける情熱や気持ちは半端なものではないと痛感できるほどのボーカルである。姿を見なくても、アルバムを聞くだけでそれを感じさせるミュージシャンやボーカリストは滅多にいない。しかし彼女はそれを感じさせてくれる凄みを持っている。

 ジャニスは1943年生まれで、1970年の10月に亡くなっている。ということは27歳で亡くなったわけだが、申し訳ないがアルバム「パール」の写真を見る限りでは27歳には見えない。貫禄がありすぎて30歳は越えているように見える。また着ているものを見ても、まるで大阪のおばちゃんのようである。
 まるで物心ついたときから、死に急ぐかのようにストレートに生きて死んでしまったジャニス・ジョプリンであった。

 初めて聞いたアルバムは「チープ・スリル」だったが、もうそのときには彼女はこの世にいなかった。これも“師匠”の家で聞いたような気がするが、ジャケットがコミック風でちょっとがっかりした思い出がある。

 しかし歌は凄かった。"Summertime"も"Piece of My Heart"もよかったが、何といっても"Ball and Chain"は圧巻だった。アルバム自体がライヴ・レコーディングだったため、何ともいえぬ雰囲気や迫力が周囲に発散されていた。“ボール”と“鎖”が何を意味しているかよくわからなかったが、ともかくいまだに記憶に残っているところを見れば、かなりの印象が残ったのであろう。

チープ・スリル Music チープ・スリル

アーティスト:ジャニス・ジョプリン
販売元:Sony Music Direct
発売日:2004/08/04
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 それでしばらくは彼女の歌を聞かなかったのだが、もっとあとになって、歴史的名盤といわれる「パール」を聞いた。“パール”とは彼女の当時のニックネームだったらしい。

 このアルバムは1971年に発表されているから、彼女の死後にあたる。でも彼女はまるで自分の死を予期したかのように、このアルバムに全エネルギーを注いでいるかのようで、曲の出来もさることながら、曲の配置、アルバムの構成、ジャケット・デザインとすべてが完璧にパッケージされていると思う。

パール Music パール

アーティスト:ジャニス・ジョプリン
販売元:Sony Music Direct
発売日:2004/08/04
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 冒頭"Move over"から始まり、圧倒的な歌唱力で歌われている"Cry Baby"、ソウルフルな歌唱とバックのオルガンがサザン・テイストを含んでいる"A Woman Left Lonely"と最初から聞くものを圧倒させるのだ。

 また"Buried alive in the Blues"では逆に彼女の歌を聞くことができない。バック・トラックが完成していて、あとは彼女の声を録音するだけというときに彼女が亡くなったのだから、聞こうにも聞けないのは当然のこと。
 演奏しかないこの曲に涙が誘われてしようがない。まるでウソのようなエピソードだが、演奏のみの曲がこんなにも印象的なのも、彼女の持つ不思議な魅力の一つだと思うのである。

 逆に"Mercedes Benz"では、バックの演奏がなくて彼女のボーカルだけになっていて、本当に彼女の遺作だと実感させるトラックになっている。聞くたびに切なさが募る。まるで黒人霊歌のように聞こえてくるからだ。そして次に続く曲"Trust me"の導入部のやさしい歌い方には参ってしまい、彼女の人生を考えるうちに身も心も思い乱れてしまうのである。

 他にもまさにカントリー&ウェスタンの影響を濃く受けている"Me & Bobby McGEE"や 生きることの肯定感に満ちた"Get it While You can"など、一つひとつの曲が光彩を放っていて、どの曲にもジャニスの息吹や歌う喜びがパッケージされているかのようだ。

「この世界では
新聞を読めば分るように
みんなお互いに争っている
信じられる人が誰もいない
自分自身の兄弟さえも
信じられない

でももし誰かがついてくるなら
その人はあなたに
愛情や信頼を与えてくれるはず
できるうちに手に入れなさい

もしあなたが誰かを愛しているなら
それは悲しい賭けかもしれない
だけど誰も気にしないはず
なぜなら私たちは明日は
もうここにはいないかもしれないから

そしてもし誰かがついてくるなら
その人はあなたに
愛情や信頼を与えてくれるはず
悪いことはいわないから
できるうちにそれを手に入れなさい
愛に背を向けてはいけないわ」
"Get it While You can"より
(訳:プロフェッサー・ケイ)

 評論家の間では1998年6月に発表された「ライヴ・アット・ウィンターランド'68」の評判が高いようで、「チープ・スリル」以上の内容、できばえとまで言われている。これは1968年4月12、13日の2日間にわたってサンフランシスコのウィンターランドで行われたライヴで、ちょうど「チープ・スリル」発表直後というせいか、かなり力の入ったライブが堪能できるという。全14曲、私も店頭で見かけたら購入したいと思っている。

ジャニス・ジョプリン/ライヴ・アット・ウィンターランド’68 Music ジャニス・ジョプリン/ライヴ・アット・ウィンターランド’68

アーティスト:ジャニス・ジョプリン
販売元:Sony Music Direct
発売日:2004/08/04
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 いずれにしても、ジャニスは全身全霊をかけて歌い、人生を駆け抜けていった不出世のボーカリストだった。彼女もまた短い“サマー・オブ・ラヴ”のシンボルだったのかもしれない。

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2009年5月11日 (月)

クィックシルヴァー・メッセンジャー・サーヴィス

 60年代末のアメリカ・サイケデリック・ロックのマイナー・バンド四天王について書いてきた。アイアン・バタフライから始まって、イッツ・ア・ビューティフル・ディ、モビー・グレイプときて、今回はいよいよ最後の大物、クィックシルヴァー・メッセンジャー・サーヴィス(以下QMSと略す)の登場である。

 と、その前にサイケデリック・ロックとは何かについて、簡単に触れておきたい。基本的にまじめな?ミュージシャンほど自分の求める音楽の表現方法について心を砕くものである。頭の中に鳴っている音を、如何に他者に提示するかであるが、ロック・ミュージックの歴史も他のジャンルの音楽と同様である。

 ロックという歴史の浅い音楽でも、その表現方法の拡大を求めて多くのミュージシャンが格闘してきた。中には音響機器や使用楽器の開発、発展を利用してその達成を目指した人もいれば、斬新なメロディやリズム、西洋音楽だけでなく東洋や他の地域のルーツ・ミュージックを借りて図ろうとする人もいた。

 そしてミュージシャンの中には、新しい音楽を求めるあまりに、自己の意識の拡大を図ろうとして薬物(要するに麻薬等のドラッグのこと)に手を伸ばし、その力を利用して表現の拡大を図ろうとする人も出てきたのである。あのビートルズもその例外ではなかった。

 サイケデリック・ロックとは、60年代の終わりに生まれたそういう新しい音楽の中の一つであり、特にドラッグなどを使用しなくても、人間の精神の拡大を図ろうとする意図が見え隠れする音楽なのである。だから、
 ①電子(電気)音楽や大音響を使用している
 ②演奏時の照明に工夫をこらしている
 ③従来のロックにない新しい楽器を使用する
 ④斬新なメロディ、リズム、音階を使用する
 ⑤人を酩酊状態にさせようと工夫をこらす

 などの特徴が挙げられると思うのである。要するに“トリップ・ミュージック”とか“アシッド・ミュージック”などと呼ばれるものも、広義のサイケデリック・ミュージックと考えていいと思う。そして個人的にはサイケデリック・ロック・アルバムの最も古いものは1967年に発表されたザ・ビートルズの「サージャント・ペパーズ・ロンリー・ハーツ・クラブ・バンド」だと思っている。

Sgt Pepper's Lonely Hearts Club Band Music Sgt Pepper's Lonely Hearts Club Band

アーティスト:Beatles
販売元:EMI UK
発売日:2009/09/09
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 現在のクラブなどで使用される音楽の中にも人をトランス状態にさせるダンス・ミュージックがあるが、同じようなリズムやメロディを延々と繰り返すことで、ハイな気分にさせ、何時間踊っても疲れない気持ちにさせるのも、ある意味、サイケデリック・ミュージックといっていいかもしれない。だからダフト・パンクなどは現在のサイケデリック・ミュージック・ユニットだと思う。

MUSIQUE VOL.1 1993-2005 Music MUSIQUE VOL.1 1993-2005

アーティスト:ダフト・パンク
販売元:EMIミュージック・ジャパン
発売日:2006/03/29
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 それでQMSであるが、結成は1965年のサンフランシスコと意外と古く、アルバム・デビューまでライヴ活動を優先していた。当時のメンバー全員がおとめ座であり、おとめ座の象徴である“水銀”という語をグループ名に使用したという。(“水銀”には“移り気な性質”という意味があるらしい)

 結局、レコード会社と契約をしたのは67年末で、翌年になって初めてバンド名と同じタイトルのアルバムが発表された。
 自分が持っているのは初期の最高傑作といわれた彼らの2ndアルバム「愛の組曲」と輸入盤の「What About Me」の2枚だけで、だからこれまたあまり大したことは言えないのである。

愛の組曲 Music 愛の組曲

アーティスト:クイックシルヴァー・メッセンジャー・サーヴィス
販売元:EMI MUSIC JAPAN(TO)(M)
発売日:2008/12/10
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 ただ聞いた感想は、「愛の組曲」は完全なトリップ・ミュージックだと思う。電気を消して酒でも飲んで聞くと、60年代当時の雰囲気を味わえるかもしれない。
 基本はジョン・シポリナのギターである。約25分にわたって延々と弾きまくっているのだ。それも特に早弾きなどのテクニックやエフェクト類を使ったりするのではなく、ほとんどナチュラルなトーンのまま弾いているのだ。もちろんボーカルはあるにはあるのだが、25分の最初と最後にあるだけで僅かである。

 まあ組曲だからと割り切って考えればいいのかもしれない。また面白い事に"Who do you love-part1"から始まって、"When you love"、"Where you love"、"How you love"、"Which do you love"、"Who do you love-part2"と、まるで英語の疑問詞の勉強のような感じでタイトルが付けられている。これだけでも十分にサイケデリックである。また一部にライヴ音源が使われているため、ノリの良い演奏も楽しめる。

 他の曲も似たようなもので、"Mona"は7分01秒、"Calvary"は13分31秒もある。内容はほとんど愛についての曲で、思想や哲学のかけらもない。あるとすればヒッピー・カルチャーからの影響であろう。

 もう1枚のアルバム「What About Me」は1971年の作品で、オリジナル・メンバーでボーカリストのディノ・ヴァレンティとピアノにあの有名なセンション・プレイヤー、ニッキー・ホプキンスが参加している。

What About Me Music What About Me

アーティスト:Quicksilver Messenger Service
販売元:Toshiba EMI
発売日:2001/08/14
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 ディノ・ヴァレンティは元々のメンバーだったのだが、ドラッグ所持で65年頃に逮捕され、69年までバンドに戻る事ができなかった。しかしこのアルバムは彼の復帰第2作目にあたり、歌いまくっている。またニッキー・ホプキンスもこのアルバムが3作目にあたっていた。

 このアルバムはかなり聞きやすくなっており、歌ものアルバムになっている。しいて言えばパーカッションとホーンの比重が高まっていて、ラテン風味が見られることと、シポリナはスライド・ギターも弾いていて、サイケデリックからウェスト・コースト風になったということだろうか。

 特に冒頭の"What About Me"はシポリナのアコースティック・ギターが聞けるし、ホプキンスの美しいピアノ・ソロ"Spindrifter"はリリカルで素晴らしい。またスライド・ギターが目立つ"Local Color"もナイスな曲である。

 このままの路線で行けば、イーグルスやポコのようなグループになったかもしれないのだが、それを嫌がったのだろう、残念なことに、ギタリストのジョン・シポリナとニッキー・ホプキンス、ベース、ギター担当のデヴィッド・フライバーグはバンドを離れていった。
 前者2人はバンドを脱退し、後者はドラッグ所持で逮捕されてしまったからである。だからこのアルバムまでが彼らのピークだと思う。

 自分としてはこのアルバムは結構気に入っているのだが、このアルバムの前作「ジャスト・フォー・ラヴ」はもっといいらしい。今度購入して聞いてみたいと思っている。

Just for Love Music Just for Love

アーティスト:Quicksilver Messenger Service
販売元:Bgo - Beat Goes on
発売日:2000/04/04
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 バンドの顔でもあったジョン・シポリナは89年に心臓麻痺で亡くなっているし、ボーカルのディノ・ヴァレンティとピアノのニッキー・ホプキンスは94年に亡くなっている。
 短い“サマー・オブ・ラヴ”の季節のように、このバンドのピークも実質数年だったようである。この辺がマイナー・サイケデリック・バンドとメジャーなサイケデリック・バンドとの違いだろう。

 いずれにしてもこのQMSを入れて、マイナー・サイケデリック・バンド四天王が完成した。当時のアメリカではかなりの知名度はあったのだろうが、現在の日本ではほとんど化石のようなものである。強いていえばアイアン・バタフライの"ガダ・ダ・ヴィダ"ぐらいだろう、有名なのは。

 これらの四天王以外にもサイケデリック・ロックに分類されるバンドはいろいろあるのだが、また次の機会に紹介したいと思う。次の機会があればの話だが…

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2009年5月 9日 (土)

モビー・グレイプ

 60年代末のアメリカ西海岸サイケデリック・マイナー・四天王の中で、たぶん一番知名度は低いと思われるバンド、それがモビー・グレイプだと思う。

 彼らは1967年にデビューしたサンフランシスコ出身の5人組だった。バンドの売りは3人のギターとコーラスで、内容的にはブルーズからフォーク・ロック、ソフト・ロックまで幅広い音楽性を備えていた。

 デビュー当時は人気が高かったそうだが、1stアルバムから5枚同時シングル・カットとか盛大な新作発表パーティなど、音楽面以外の話題が先行してしまい、だんだん若者からの支持が薄れていったようである。

 今ではカルト・バンドとして認識されているモビー・グレイプであるが、日本では当時“はっぴいえんど”のメンバーであった細野晴臣氏のフェイヴァレット・バンドだったらしい。ちなみに細野氏のあげたフェイヴァレット・バンドは、モビー・グレイプとバッファロー・スプリングフィールドだった。

 自分は彼らのアルバムを2枚しか持っていないので、たいしたことは言えないのだが、世間で有名な2ndアルバム「WOW」(ワウ)を聞くと、評判通りの多彩な音楽性を楽しめることができた。

ワウ Music ワウ

アーティスト:モビー・グレープ
販売元:ソニーレコード
発売日:1997/05/21
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 1968年に発表されたアルバムなのだが、ひょっとしたらビートルズのサージャンと・ペパーズの影響もあるのかもしれない。
 1曲目はちょっと凝ったC,S&Nのようで、軽めのストリングスや効果音、エフェクトなどが散りばめられているし、2曲目も同系列の曲で、この辺はやっぱりウエスト・コースト・サウンドといった感じである。

 3曲目の"Bitter Wind"や6曲目の"HE"を聞くと、美しいコーラス・ワークに驚かされる。このコーラスの美しさというのは、バッファロー・スプリングフィールドから連綿と続くウエスト・コースト・サウンドの伝統といってもいいだろう。あとストリングスの入れ方や美しさもそうである。

 これらの曲以外にも、ロックン・ロールで身も心も躍りだすような"Can't be so bad"や古いボードヴィル調の"Jsut Like Gene Autry; A Foxtrot"、完全なカントリー&ウェスタンである"Funky-Tunk"、渋いブルーズの"Miller's Blues"など本当に多彩な曲で埋め尽くされている。

 メンバー5人とも曲が書けるのだが、その中でベース・ギター担当のボブ・モズレリーの書いた曲が印象的であった。"Bitter Wind"もそうであるが、ストリングスが哀愁をかきたててくれるバラードの"Three-Four"、コーラスが見事な"Rose Colored Eyes"など、いずれもメロディがきれいであった。

 彼らは1st、2ndアルバムまでは人気があったらしいのだが、だんだん下降線をたどっていった。全盛期は68年から1年間くらいで、69年には解散してしまった。

 その後のメンバーの動向については、ギター担当のスキップ・スペンスは初期のドゥービー・ブラザーズに参加したことしかわかっていない。(しかしアルバムにはクレジットされていない!かなりの薬物中毒症で病院にも入っていたようだ。1999年に52歳で死去)

 その後も再結成を行ったようだが、オリジナルで人気がなかったのに、再結成しても一部のカルトなファンを除き、人気が出るわけがなかった。だから再結成してもまたすぐに解散しているようだ。

 なぜか知らないが、彼らの2枚組ベスト盤が私のCD棚にある。しかも輸入盤である。今となってはなぜこんなCDがあるのか皆目見当がつかないのだが、あるものはあるのである。

Vintage: The Very Best of Moby Grape Music Vintage: The Very Best of Moby Grape

アーティスト:Moby Grape
販売元:Sony International
発売日:2004/06/15
Amazon.co.jpで詳細を確認する

 今回この項を書くにあたって、あらためて聞いてみたのだが、確かに当時としては流行の先端を行っていたような音楽性であった。単なるロックン・ロールだけでは終わらずに、ボーカル・ハーモニーの美しさとギターの先鋭さが光っていると思う。

 確かにバッファロー・スプリングフィールドの影響も垣間見えるし、ギターが強調された楽曲も見られる。3人のギタリストだったのだから、どうしてもギターがメインになるのは仕方のないことなのかもしれない。

 このアルバムで拾い物だったのは、当時のライヴ音源が収録されている事である。ギターが売り物だけあって、ライヴでの演奏はかなり素晴らしい出来であった。特に「WOW」にも収録されていた"Miller's Blues"はまるでブルーズ時代のフリートウッド・マックか音数の少ないクラプトンのようで一聴に値する。

 最終的には3枚のアルバムと数枚のシングルを残して、バンドは解散してしまうのだが、ウッドストックの成功とともに“サマー・オブ・ラヴ”の季節も終焉を迎えるのである。あとに残されたのはユートピア思想の崩壊と現実という名の牢獄であった。モビー・グレイプの名前を聞くたびに、60年代から70年代への変遷を考えてしまうのである。

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2009年5月 7日 (木)

イッツ・ア・ビューティフル・ディ

 今日は25℃を超える気温だったということで、これは6月中旬の気温だったらしい。やはり地球温暖化のせいか、年々早めに夏が近づいてくるような気がしてならない。あと10年もすれば、それこそ旧暦のように4,5,6月が夏というように定義されるかもしれない。その場合は秋がなくなるか、あってもごく短期間になるだろう。

 洋楽では“サマー・オブ・ラヴ”(Summer of Love)という言い方をする場合があるのだが、普通この場合のサマーは1967年の夏を指すことが多い。ただ、個人的には60年代後半のLove&Peaceの時代や社会状況全般だと解釈している。そうした方が自分の知らないその時代を理解しやすいからだ。

 それでそのサマー・オブ・ラヴの時代を代表するサイケデリック・ロック・バンド四天王というのを自分で考えた。ちなみにこの場合の四天王とはグレイトフル・デッドやジェファーソン・エアプレインなどのメジャー・バンド以外のマイナーなカルト・バンドを指すとしよう。

 その四天王のうち、前回はアイアン・バタフライだったが、今回はイッツ・ア・ビューティフル・ディについてである。しかし、残念ながらこのバンドについても自分は1枚しかアルバムを持っていないのだ。いかにマイナーかがわかると思う!?

 彼らは1967年にサンフランシスコで結成され、69年に1stアルバム「イッツ・ア・ビューティフル・ディ」を発表した。発表当時のメンバーは6名+ゲスト・ミュージシャン1名で、ゲスト・ミュージシャンはハーモニカで1曲のみ参加している。
 中心人物はデヴィッド&リンダ・ラフレイムという夫婦で、ほとんどの曲が彼らかもしくはデヴィッドが作っている。

 一般的に言われるのは、ジャケットがいいということで、カリフォルニアを象徴するかのような青空の下に、少女が遠くを眺めている。このジャケットだけでも購入した人が当時は多くいたという。

【CD】イッツ・ア・ビューティフル・デイ(紙ジャケット仕様)/イッツ・ア・ビューティフル・デイ イツツ・ア・ビユ-テイフル・デイ 【CD】イッツ・ア・ビューティフル・デイ(紙ジャケット仕様)/イッツ・ア・ビューティフル・デイ イツツ・ア・ビユ-テイフル・デイ
販売元:バンダレコード ヤフー店
バンダレコード ヤフー店で詳細を確認する

 またバンド名も、録音スタジオを出たときに、誰かが“It's a beautiful day!”(今日は天気がいいね)といったところから名づけられたといわれている。サマー・オブ・ラヴ当時の様子を垣間見せるようなエピソードである。

 アルバムは7曲で構成されていて、最初の曲"White Bird"と次の曲"Hot Summmer Day"は名曲だと思う。特に1曲目の"White Bird"は、まるでジェファーソン・エアプレインの"White Rabbit"のようである。
 理由の一つはボーカルが男性と女性であるということと、リード楽器にヴァイオリンが用いられているというところから来ている。先輩格のジェファーソンを見習っているのだろうか。

 またこの“白い鳥”は当然のことながら平和の象徴であり、自分たちの理想のコミューン建設をこめているのかもしれない。

 "Hot Summer Day"も間奏ではヴァイオリンが目立っている。最初の曲よりもアップテンポであり、メロディ的にも聞きやすく良い。また、ゲスト・ミュージシャンはこの曲でハーモニカを演奏している。
 次の曲の"Wasted Union Blues"は唯一このアルバムには似合わない曲である。全面的に歪んだエレクトリック・ギターが活躍しているのだが、先鋭的であり、自分から調和を破ろうとするかのように走り回っている。ロック的といえばロック的なのだが、このアルバムには不調和である。でもそれがバンドの狙いなのかもしれない。

 4曲目の"Girl with No Eyes"は、これはもう完全にトラッド・ミュージックである。繊細なアコースティック・ギターとハープシコード、男女のボーカルで構成された気品あるワルツだ。最後にヴァイオリンで締めくくられるのだが、まさに60年代末のサンフランシスコの音楽という気がする。絶品!

 昔のレコードではBサイドの1曲目、問題のインストゥルメンタル曲"Bombay Calling"が始まる。初めてこの曲を聞いたとき、思わずびっくりして椅子から落ちそうになった事を思い出した。完全にディープ・パープルの"Child in Time"なのである。
 パープルの曲は1970年に発表されているので、こちらの方が早い。ということはジョン・ロードか誰かがサビをパクッて、イアン・ギランが歌詞をつけたのだろうか。よくまあ裁判沙汰にならなかったなあと思った。

 ジョン・レノンの"Come together"はチャック・ベリーの"You can't catch me"のパクリであるというのは有名な話だが、裁判まではならなかった。示談で済んだらしい。ジョージ・ハリソンの"My Sweet Lord"の場合は裁判になって、確か著作権の侵害になったと思うが、ディープ・パープルの場合は話題にもならなかった。さすがサマー・オブ・ラヴ、おおらかな時代だったのであろう。

 「ロックの部屋」というブログの2007.6.22.の項によると、イッツ・ア・ビューティフル・ディのセカンドでは、逆にディープ・パープルの"Hard Road"をパクっているという。ぜひ聞いてみたいものである。

 次の曲"Bulgaria"は一聴するとシュールな曲であるが、よく聞くと渋い楽曲である。暗闇の中に一条に光が差し込んでくるような印象を与えてくれた。バックのピアノやヴァイオリンがダークな印象を与えるのだが、それを男女の力強いボーカルが打ち破っていく。
 個人的には不透明な戦争や社会状況を迎えていたアメリカ社会を彷彿させるような出来栄えだと思う。

 Bサイドの3曲はいずれも曲がつながっている。"Bulgaria"と最後の曲"Time is"もつながっていて、"Time is"は軽快なリズムで始まり、ピアノ、ギター、ヴァイオリン、ボーカル、途中のドラム・ソロと一緒くたになり聞き手に迫ってくる感じだ。
 このアルバムの最初の曲と対照的である。しかも9分42秒とこのアルバムの中で一番長い曲になっている。こういうところからこのバンドをプログレッシヴ・ロックにカテゴライズする人もいるが、やはり基本はサイケデリック・ロックだと思う。彼らのサイケ感覚が一番よく出ているのがこの曲であろう。

 というわけで、駆け足で各曲について私見を述べたのだが、全体的に見てやはり60年代末のサマー・オブ・ラヴを象徴しているアルバムだと思う。
 ジャケットもそうだし、音楽的にもシュールでポップ、ピースフルでダーク、安楽で不安な混沌とした状況を飲み込むようなものになっている。こういうところに当時の若者が惹かれた原因があったのではないだろうか。

 あれから40年以上たったのだが、社会の抱えている問題の本質はいまだに変わらないように思われる。こういう音楽がいまだに聞かれるのも、今の若者とかつての若者の中に共通した想いがあるからだと思うのである。

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2009年5月 6日 (水)

アイアン・バタフライ

 最近、アイアン・バタフライのことがよく出てくる。キャプテン・ビヨンドやラマタムというバンドを紹介したときに、元アイアン・バタフライのメンバーという言葉が飛びかっていたのだ。

 それでアイアン・バタフライのことについて書いてみたいと思った。しかし、思ったまではいいのだが、残念ながら彼らのアルバムは1枚しか持っていない。1枚しかもっていなくてバンドが語れるのかと自問自答したのだが、答えは“できる”ということになってしまった。

 基本的にアイアン・バタフライについては、ほとんど誰も知らないか、知っていても"ガダ・ダ・ヴィダ"しか知らないから、適当に書いても大丈夫だろうと判断した次第である。

 それで彼らは1967年にカリフォルニアで結成された。バンドの中心メンバーはキーボード担当のダグ・イングルとドラム担当のロン・ブッシーであろう。
 “あろう”と書いたのは、結成から解散までオリジナル・メンバーはこの2人しか続けていなかったからである。

 アイアン・バタフライという名前は、文字通り“鉄”と“蝶”を表しており、これは“重いもの”と“軽いもの”の象徴だという。つまり対義語のようなものであり、さらに推測すると“自由”と“束縛”、“戦争”と“平和”という二律背反のようなものを、彼らは言いたかったのではないだろうか。

 当時は泥沼化するベトナム戦争が社会問題化していたアメリカである。世の中の動きに敏感な若者ほどそれを問題視し、この時代に対して自分はどう対峙すればいいのかと悩んでいた時代である。たぶん。

 60年代後半にデビューしたアメリカのバンドには、たいていそういう社会に対しての音楽、もしくは時代からの影響という側面を持っているものだが、彼らもまたグループ名を比喩的に考えたと思うのである。そしてそれは彼らの音楽性にも表れている。

 1968年に1stアルバム「ヘヴィ」を発表した。そのあと、ドアーズやグレイトフル・デッド、ジェファーソン・エアプレイン、ザ・フー、トラフィック、クリームなどとツアーを行っている。そのせいか、デビュー・アルバムはビルボードのチャートにずっと残っていたという。

ヘヴィ(紙ジャケット仕様) Music ヘヴィ(紙ジャケット仕様)

アーティスト:アイアン・バタフライ
販売元:ビクターエンタテインメント
発売日:2009/03/18
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 そして彼らの最高傑作、というか、これしかないといわれる2ndアルバム「ガダ・ダ・ヴィダ」を発表した。これも1968年である。

In-A-Gadda-Da-Vida Music In-A-Gadda-Da-Vida

アーティスト:Iron Butterfly
販売元:Atlantic
発売日:1987/07/07
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 全6曲なのだが、最初の5曲はどちらかというとポップでちょっとサイケがかった小曲になっている。"君が望むもの"、"花とビーズ"、"終末"タイトルからわかるようにまさに当時のヒッピー・ムーヴメントの影響を受けている。やはり当時のウェスト・コーストは時代の影響をもろに受けていたのであろう。

 問題は最後の曲"In-A-Gadda-Da-Vida"である。当時のレコードのB面全部を使って表現したこの17分03秒の曲名は、日本語では“生命の庭”というらしい。聖書でいうところの“エデンの園”である。
 要するに“現実の社会ではなくて、安息の地(生命の庭)で愛し合おうよ”という安直なヒッピー・コミューンについてのものなのだが、なぜそういう考えが出てきたのかは、やはり時代状況のせいであろう。

 とにかくキーボードやギターを中心とした即興演奏がダラダラ続くし、途中シンプルなドラム・ソロもある。確かにクスリでもキメてこの音楽を聞けば、現実逃避にはなるし、聞いて(効いて)いる間は幸福感が満たされるであろう。要するにトリップ・ミュージックである。

 たぶん時代とマッチした音楽でなおかつトリップできる音楽だから、西海岸の若者を中心にヒットしたのだと思う。いや西海岸だけでなく世界中にヒットしたのだ。それは世界的にヒッピー・ムーヴメントやLOVE&PEACEという言葉が流行っていたからである。

 このアルバムはビルボードのチャートに140週以上にわたってとどまり、そのうち81週はトップ10にあった。今日までトータルでだいたい3000万枚以上売り上げているという。彼らの音楽がいかに若者から支持を受けていたかがわかると思う。

 21世紀の今から見れば、音の古臭さや演奏力の点でちょっとどうかなという面も確かにあるのだが、(特に団塊の世代の人たちにとって)歴史的な功績から見れば、決して外してはならない名盤なのである。

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2009年5月 5日 (火)

マーズ・ヴォルタ

 最近のバンドで一番感動したのは、アメリカのロック・バンド、マーズ・ヴォルタである。これは凄いバンドだ。凄すぎる。ぜひ一度手にとって耳を傾けて欲しい。80年代以降のキング・クリムゾンが好きな人なら必ずや気に入るはずであろう。間違いない!

 というわけでのっけから我を見失うほどなのだが、とにかくこのマーズ・ヴォルタの音は素晴らしい。彼らは自分たちではそう思ってないのかもしれないのだが、間違いなく21世紀における第1級のプログレッシヴ・ロック・バンドである。実際、米のローリング・ストーンズ誌か何かの雑誌が彼らの音楽をプログレッシヴ・ロックと呼んでいたが、まさにその通りの“進歩的な”音なのである。

 自分は彼らのアルバムを発表順ではなく聞いたのであるが、2枚聞いた中で2枚とも素晴らしかった。

 最初に聞いたアルバムは2006年に発表された3rdアルバムの「アンピュテクチャー」だった。タイトルは造語で“AMPUTATE”(手足を切断する)、“AMPUTEE”(手足を切断された人)と“ARCHITECTURE”(建築)とをくっつけたらしい。のっけからR15指定のタイトルである。

 アルバム・ジャケットもそれに沿ったもので、トータル・デザインといえば聞こえはいいのだが、やっぱり不気味である。このタイトルに沿った絵画を探していたそうで、それが見つかるところがアメリカの文化の奥深いところかもしれない。

アンピュテクチャー Music アンピュテクチャー

アーティスト:マーズ・ヴォルタ
販売元:USMジャパン
発売日:2009/03/04
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 そして全体の雰囲気はというと、「プレゼンス」を発表した頃のレッド・ゼッペリンがクリムゾンの曲をやったり、壮大な実験作品を演奏しているという感じである。だいたいわかってもらえるだろうか。

 とにかく音圧が他のバンドと圧倒的に違う。例えば、ドリーム・シアターもまた現代を代表するプログレ・バンドだが、あれには少しというか、かなりヘヴィ・メタル的なリフや個人のテクニカルなプレイが強調されているが、このマーズ・ヴォルタにはそういう点は見られない。
 逆にドリーム・シアターよりも音が一つの塊となって聞き手に迫ってくる、そんな感じなのである。

 確かに個人個人の技術は大したものなのだが、アルバム録音はとりあえずそれぞれの楽器からの音を録音して、あとはテープ編集、ミキシングで行っているという。
 だからある意味彼らのアルバムは、ライヴで再現できるできないは別として、スタジオ芸術作品として存在しているのである。

 全8曲でCD収録の限界に挑むように70分以上の音楽が収められているが、とにかく圧倒的な音圧が駆け抜けていくような感じである。もちろん曲のある部分では静かなところもあるし、逆に違うところでは激情的なドラミングや切り裂くようなギター、一つの楽器でないかと思われるような高音のボーカルが入り混じって、曲を構成している。

 2曲目の"Tetragrammaton"だけでも17分近くあるのだから、いまどきこんなバンドは珍しい。しかもその前後の曲は5分程度で、アルバム構成も凝っているといっていいかもしれない。
 また最初の曲と最後の曲がほぼ同じ曲調であり、連環している。これはプログレッシヴ・ロックの得意とするところでもある。

 こういうアルバムを聞きながら車を運転していると、思わずアクセルを強く踏んでしまいそうだし、高速道路なら軽く時速120km以上は出してしまいそうである。

 基本的にバンドの音はベース、ドラムス、ギター、ボーカルとときおりのキーボード、サックスなどのブラスなのだが、メインはギターとドラム、ボーカルの3つであろう。この3つが三つ巴となって鳴り響いている。
 彼らはテキサス州エル・パソ出身なのだが、そのせいかときおりスパニッシュの香がする。ラテン・パーカッションもわずかだが使用されている。

 このアルバムに感銘して(もう一つ別の理由は期間限定の廉価盤1600円だったから)、彼らの2ndアルバム「フランシス・ザ・ミュート」を購入した。

フランシス・ザ・ミュート Music フランシス・ザ・ミュート

アーティスト:マーズ・ヴォルタ
販売元:USMジャパン
発売日:2009/03/04
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 これは2005年に発表されているので、セカンドとサードの間は1年間しかなかった事になる。これは現代のビッグ・ネームのバンドでは大変に珍しいことである。

 しかもこのアルバムは初登場で全米4位を記録したというから半端ではないほどの力作である。
 全5曲で76分以上、最後の曲"Cassandra Geminni"にいたっては30分以上もある。昔でいうと組曲形式なのだが、そういう曲が他にも2曲あるから、これはもう誰が見ても聞いてもプログレッシヴ・ロックであろう。

 このアルバムが2作目なのだが、とても2作目とは思えない内容であり、イギリスのヴェテラン・プログレ・バンドより十分に貫禄と迫力がある。
 2曲目の"The Widow"はシングル・カットされたのでメロディは哀愁を帯びて素晴らしいものになっているし、曲も5分少しで短い。ただ、エンディングがしつこくてアヴァンギャルドだと思う。もっとさっくり終わって欲しかった。

 とにかくマーズ・ヴォルタの音は形容しがたいものであり、言葉で定義してしまうとせっかくの音楽が限定されてしまう。この唯一無二の音は自分で確かめてみるほかはなく、体験の中から味わうほかはないと思っている。卑怯なようだがそれが正直な感想でもある。

 マーズ・ヴォルタは数名のミュージシャンから構成されている集合体であるが、中心となるミュージシャンはギター、キーボード担当のオマー・ロペスとボーカル担当のセドリック・ザヴァラである。

 彼らは2008年に4枚目のアルバム「ゴリアテの混乱」を発表し、さらに今年の6月には新作「八面体」を発表するらしい。何が“八面体”なのか、八面山という山はあっても、八面体は八面体である。

ゴリアテの混乱~デラックス・エディション(DVD付) Music ゴリアテの混乱~デラックス・エディション(DVD付)

アーティスト:マーズ・ヴォルタ
販売元:UNIVERSAL INTERNATIONAL(P)(M)
発売日:2008/01/23
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 とにかくよくわからないのだが、よくわからないのがこのバンドの特徴でもある。新アルバムは8曲らしいが、おそらくこのアルバムも75分以上はあるだろう。恐るべし、マーズ・ヴォルタ、とりあえず「ゴリアテの混乱」を買って聞くことにして、潔く新作を待つことにしよう。“21世紀のスキッゾイド・マン”とは彼らのことを指すのかもしれない。

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2009年5月 4日 (月)

ラマタム

 先日、いつもの職場の上司A氏がキャプテン・ビヨンド3枚組のお礼にということで、アメリカのロック・バンド、ラマタムをCDに焼き付けたものを渡してくれた。

 それまでそんな名前のバンドは聞いたことも見たこともなかったので、何じゃこりゃと口には出さずに(出せずに)心の中で思いながら受け取ったのである。

 実際、ラスマスとかラモーンズとかは知っていたが、1970年代の初期のアメリカにラマタムとかいう名前のバンドがあるとはつゆ知らず、きっとラテン系の、サンタナの子分みたいなバンドだろうと高をくくっていた。

ラマタム(紙ジャケット仕様) Music ラマタム(紙ジャケット仕様)

アーティスト:ラマタム
販売元:ビクターエンタテインメント
発売日:2006/10/21
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 さらにこのバンドはアトランティック・レコードからデビューしていた。当時のアトランティック・レコードといえば、レッド・ゼッペリンやE,L&P、クリームやイエスといったハード・ロックやプログレッシヴ・ロックの先端を走っており、泣く子も笑うという超一流レーベルであった。

 そこから鳴り物入りでデビューしたらしいのだが、当時の自分は全然気づかなかった。きっと売れなかったに違いないと自己弁護しているのだが、このバンドは2枚くらいはアルバムを発表しているらしい。ということはそれなりに知名度はあったということになる。

 自分がもらったのは1stアルバムの方で、アルバム・タイトルはバンド名と同じ「ラマタム」であった。
 そして当時はハード・ロック・バンドというふれこみだったが、それ以外にももう一つ売り物があった。それはリード・ギタリストが女性であるということだった。

 今でこそ女性ギタリストは珍しくもないが、当時はロックン・ロール自体が男のものという間違った刷り込みが世間一般になされていて、確かに、特にハード・ロック系の歌詞には(ブルーズ・ロック系も似たようなものだが)、女をナンパして…とか、女にフラれて…とか、場合によっては女を買って…などという明らかに男性優位、女性蔑視と受け取られてもしょうがないことを公共の電波やパッケージされた商品を通じて平気で社会に流していたのである。

 だから女性がギタリストで、しかも男性以上に上手にリード・ギターを弾いているということは、これはもう天動説が地動説に取って代わったコペルニクス的転回以来の出来事だったのだ。
 さらにこの女性ギタリストのエイプリル・ロートンという人は、類まれな美貌も兼ね備えていたのだから、当時の若き男性どもは耳目をそばだてたに違いないのである。

 そして音を聞いてビックリである。実はこの女性ギタリスト、弾いているまねだけで実際は違うギタリストがいるのではないのかと思ったりもしたのだが、何と何ともう一人のギタリスト、マイク・ピネラと同等、いやそれ以上のできばえなのであった。

 これには異聞があって、実はエイプリル・ロートンは性転換した女性であって、もとは男性だったという説がまことしやかに流れていたそうである。だからあれほどギターが上手なのであると…たぶんそんなことはないと思うのだが、それほど当時は女性ギタリストというだけで偏見があったのである。

 マイク・ピネラといえば、元アイアン・バタフライというアメリカのサイケデリック・ロック・バンドにも在籍していたギタリストであり(そういえばキャプテン・ビヨンドのギタリストも元アイアン・バタフライであった)、アメリカでは有名人なのであるが、彼は基本的にボーカルを担当しているので、ギター・パートはエイプリルの方が多いと思う。

 またドラマーがジミ・ヘンドリックスと一緒に活動していたミッチ・ミッチェルだから、ある意味スーパー・バンドとまでは行かないが、期待されるバンドだったことには間違いないであろう。

 アルバム全体的にはハード・ロックというよりはアメリカン・ロックという感じで、サザン・テイストもちらほら垣間見える音作りだ。
 サウンドの要は、もちろんエイプリルのギターなのだが、それと同等にキーボードやサックス、フルート等を受け持っているトミー・サリヴァンのプレイがけっこう重きをなしている。

 それは1曲目でのサックスや2曲目でのフルートなど、ハード・ロック系には無縁の存在であるこれらのブラス・セクションを曲の中にアクセントとして色付けをしており、それが音の広がりを促しているからである。

 だから1曲目"Whiskey Place"はハード・ロック系なのだが、2曲目"Heart Song"は落ち着いたジャズ系ロックン・ロールという仕上がりになっている。
 3曲目ではバックのキーボードが音に厚みを加えており、それがかえって2人のギタリストのプレイをより一層鮮烈なものにしている。
 また5曲目の"Wayso"という曲にもトランペットやオルガン・ソロが挿入されていて、ある意味マイク・ピネラやミッチ・ミッチェルよりも重要なポジションを占めているのではないかと思われるのである。

 意外といけると思ったのは4曲目"What I dream I am"や6曲目"Changing Days"である。4曲目はアコースティック・ギターが主体であり、この部分だけ聞くとまるでC,S&Nのようなフォーク・ロックになっている。そして自分にとっては、こういう曲がたまらないのである。21世紀の今ではこういう曲は、なかなか耳にすることができないからだ。

 "Changing Days"ではスライド・ギターが使用されていて、いかにも大陸的なアメリカン・ロックというイメージを掻き立たせてくれる。これはサザン・ロックといっても通用するのではないだろうか、そんな気がしてならない。自分としてはこの路線で押して欲しかったと思ってしまった。

 7曲目の"Strange Place"はその名の通りのストレンジな曲想から作られたようで、忍び寄るキーボードの音や引っ掻くようなギターの音が特徴的である。決して名曲とはいえない曲であるが、そのイントロやエンディングも含めてストレンジな構成の曲である。

 8曲目の"Wild like Wine"ではトーキング・モジュレイターが使用されているのであろう。当時としては珍しい曲だと思う。しかし何もこんなギミックを使わなくても、もっとエイプリルのギターをメインにすればよかったのにと思ってしまう。あるいはもっとアコースティックな面を見せると本格的な正統的アメリカン・ロック・バンドという印象を植え付けられることができたのにと思ってしまった。

 だからハード・ロック路線の曲は1曲目と最後の曲"Can't Sit Still"ぐらいで、あとは例のアコースティック路線か、ブラス・ロックともいえるサックスやフルートの入り混じった曲である。だから収拾がつかず、焦点化されていないのが残念である。

 もっとこういう方向性でいくと方向付けがしっかりとしていれば、さらにメジャーになったのではないだろうか。
 彼らは1972年にデビューしたのだが、翌年2ndアルバム「暁の妖精」を発表している。そしてそこにはミッチ・ミッチェルやマイク・ピネラの姿はなく、バンドのイニシアチブはエイプリルとトミー・サリヴァンが握っている。

暁の妖精(紙ジャケット仕様) Music 暁の妖精(紙ジャケット仕様)

アーティスト:ラマタム
販売元:ビクターエンタテインメント
発売日:2006/10/21
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 自分は聞いたことがないのだが、そのアルバムではエイプリルがギター、ベース、キーボード、ハーモニカと八面六臂の大活躍をしており、しかも1曲だけリード・ボーカルを取っている曲があるという。彼女の声を聞けるのはこの1曲しかないはずで、ファンには貴重なものになるに違いない。ただしファンがいればの話だが…

 エイプリル・ロートンのその後についてはHoochie Coochie Manという人のブログに詳しく語られているのでここでは省略したい。2作目が売れなかったということもあるし、あまりにも世間が女性ギタリスト云々というのでそれに嫌気が差し、グラフィック・デザイナーに転進したという説もあるらしい。

 これも伝聞なのだが、彼女は2006年の11月23日に心臓麻痺で58歳で亡くなったということである。
 ちなみに2008年の11月12日にはドラマーのミッチ・ミッチェルがオレゴン州のホテルで亡くなっている。病死だったらしい。享年61歳だった。ジミ・ヘンのトリビュート・コンサートの途中だったらしい。天国のジミが彼を呼んだのかもしれない。

 いずれにせよ70年代の初めに流星のようにあらわれて、花火のように消えたアメリカのバンドだった。それでも線香花火ではなく、ちょっとは高く飛んだ打ち上げ花火だったと思われる。もう少し方向性を絞れば、かなりの線までは行ったと思うのだがどうだろうか。
 
 しかしA氏はブリティッシュ・ロック専門と思っていたのだが、実際はアメリカン・ロックも得意な部分だということがわかった。これからもマニアックなアルバムを紹介してくれることを期待してこの項を閉めたいと思う。

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2009年5月 3日 (日)

追悼:忌野清志郎

 残念なことに忌野清志郎が亡くなってしまった。享年58歳という早すぎる死だった。これで日本のR&B、R&Rはしばらく停滞していくに違いない。本当に悲しいことである。

 昨年の10月13日のこのブログでも彼のことを取り上げて、一日も早く回復する事を願っていたのだが、そうならなかった。最初は喉頭癌だったのだが、進行性の癌だったから転移してしまったのだろう。

 最近も彼の回復を願って、彼のCDを購入していた。タイトルを「入門編/忌野清志郎」というもので、全18曲のベスト盤である。

入門編 Music 入門編

アーティスト:忌野清志郎,忌野清志郎&Char,忌野清志郎&THE 2・3’S,忌野清志郎 Little Screaming Revue,THE TIMERS,DANGER,忌野清志郎+坂本龍一
販売元:UNIVERSAL MUSIC K.K(P)(M)
発売日:2008/05/28
Amazon.co.jpで詳細を確認する

 彼のソロ・キャリアでのシングルやベスト曲を集めたもので、"サンシャイン・ラヴ"、"パパの歌"、"Jump"や"い・け・な・い ルージュマジック"までも入っていた。

「曲がり角のところで ふり向いただろ
こっちを見てたんだよね ベイビー ベイビー
あの曲がり角のところで
バックミラーにとんでいった 
あの曲がり角のところで

BABY BABY おまえに会いたい
BABY BABY おまえに会いたい 会いたい
BABY BABY おまえに会いたい
BABY BABY おまえに会いたい 会いたい」
(AROUND THE CORNER/曲がり角のところで)

 清志郎にはもう会えないのである。彼の作る曲や歌詞は特異なものであるとともに、ときに非常に美しい言葉やメロディを伴っていた。
 彼のステージ衣装やメイクアップとは正反対な印象を受けたものである。そのギャップもまた素晴らしかった。日本における真のロックンロール・エンターテイナーであった。3_3

 また彼に生き方自体がロックンロールでありブルーズであった。過激な発言や反原発、反権力といった彼の信念もまた素晴らしかった。
 歌を通して彼のステイトメントを発表する潔さが多くのミュージシャンやファンを魅了していったと思うのである。

 “言行一致”という言葉があるが、多くのミュージシャンが理想的な言葉を吐きながら実生活では自分本位な言動を取っているが、忌野清志郎ほど自分の言葉と行動を結び付けているミュージシャンはいなかったように思える。ときにそれが、放送自粛に結びついたり、オンエア禁止につながったりしたのだが、最終的にそれが許されるのが清志郎の人柄であり、偉大さであった。

 そういう意味では日本のジョン・レノンだったかもしれないし、ステージ・パフォーマンスは日本のジェイムズ・ブラウンを目指していたのかもしれない。

 もう彼の新しいアルバムが発表される事がないのが悲しい。できれば復活をして、年に1作は最低発表して欲しかったのだが、それも叶わぬ夢となってしまった。

 以前、TVで放映された(たぶんNHKのBSだったと思う)彼のライヴ「ナニワ・サリヴァン・ショー」を録画してDVDに焼き付けている。もう一度これを見ながら彼のことを偲びたいと思う。今年は悲しい連休になってしまった。2

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2009年5月 2日 (土)

ザ・ナイス

 レフュジーについて書いたなら、ついでにその原型となったザ・ナイスについて書いてみようと思った。

 キース・エマーソンがいたこのバンドは、もともとはP.P.アーノルドというアメリカ人の女性シンガーのバック・グループからスタートしたらしい。1966年の結成というから今からもう40年以上も前のことになる。

 最初はギタリストもいて4人組だったのだが、1stアルバム発表後に脱退して、3人組になりそこでキース・エマーソンをメインにして活動を続けていったようである。1968年に1stアルバムを発表しているので、3人組になったのは1969年ごろと思われる。

 自分が持っているザ・ナイスのアルバムはたった1枚しかなく、タイトルを「Five Bridges」といい、オランダからの輸入盤である。
 ただ5曲のボーナス・トラックがついているのでお得といえばそうかもしれない。

Five Bridges Music Five Bridges

アーティスト:The Nice
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 タイトル曲"Five Bridges"は組曲で4つのパートに分かれていて、ジョセフ・イーガーというクラシック奏者がロンドン・シンフォニアというオーケストラを指揮して一緒に演奏している。さらにはこれが1969年10月17日にクロイドンのフェアフィールド・ホールで行われたライヴ演奏の実況録音盤だから大したものである。ロックとクラシックの融合を目指していたのであろう。

 メンバーのリー・ジャクソンは、おそらくニューキャッスル生まれのようで、その地にかかっている橋をモチーフにして制作されたようである。その橋が5つあるかどうかはわからないが、たぶんなさそうである。
 ただある1つの橋の上部には電車が、下部は車道になっているようで、彼ら3人はそれをイメージしながら建設中の建物などが環境を変えている様も描こうとしたという事である。

 クラシック好きならこのパートはあの曲のこの部分のパクリだとか、模倣とかわかるのであろうが、残念ながら自分はクラシック好きでもないし、当然のことながら耳もよくないので、音を聞き分けることもできない。

 だから詳しい事はいえないのだが、インターネットで調べると詳しい人は結構いるので、そういう人の評論や意見をみていくとかなり楽しいと思う。
 自分は、とにかくこれが後のエマーソン、レイク&パーマーにつながったのかと思うと、発展段階の途中を見ているようで面白い。確かにキース・エマーソンのプレイは目立っているのだが、それ以外はオーケストラに圧倒されがちで、イマイチかもしれない。

 組曲以外では、シベリウスの"カレリア"の演奏途中で、おそらくオルガンを揺り動かしていたり、スィッチを切ったり入れたりしているのであろう、後にE,L&Pで見せるような音を出している点が興味深い。

 また、チャイコフスキーの交響曲「悲愴」第3楽章をアレンジして全く違う形で聞かせてくれたり、ボブ・ディランの"Country Pie"とバッハのブランデンブルグ協奏曲の一部をくっつけて演奏したりと、昔からクラシック好きだったことがわかる。
 当時はこういうのが流行だったのだろう。ディープ・パープルもやっていたし、プロコル・ハルムも後にオーケストラと共演している。

 ボーナス・トラックは当時のカリスマ・レコードの企画アルバム用に制作されていた曲がほとんどで、時間も3分から4分程度のポップなシングル曲である。前半の組曲形式やクラシックとの融合を図った曲に比べると、全く違うバンドが演奏しているかのような印象を与えてくれる。

 特筆すべきはシングル"America"が用意されていることで、この曲がアメリカでヒットしたことでザ・ナイスはアメリカでも知られるようになったのである。1968年の7月に全米29位にまでなったこの曲は、ミュージカル“ウェスト・サイド・ストーリー”の挿入曲で、これもまた彼ら流にアレンジされている。

 ただ以前にも書いたが、このアルバムを聞いて満足するかと問われると、素直にイエスとはいえないのだ。

 キーボード主体のバンドが長続きしない理由は、当然売れないからである。グリーンスレイドやレア・バード、E,L&Pにレフュジー、ザ・ナイスと、売れても10年も持たなかったのはやはりキーボード主体のバンドには限界があると思うのである。

 最大の要因は、聞いてもカタルシスを得る事ができないという点ではないだろうか。いくらキース・エマーソンがオルガンにナイフや日本刀を突き刺して音をゆがませても、ギタリストがギュイーンと音をゆがませる方がカタルシスを得ることができる。
 不思議な事だが、キーボードよりもギターのチョーキングやベンディングの方がロック本来の持つ疾走感や衝動性をうまく表現できると思うのだ。だからギターレスのキーボード・バンドは最初は注目を集めても長続きしないのではないだろうか。

 それはともかく、ザ・ナイスの音はキース・エマーソンや後のE,L&Pの雛形のようだが、残念ながら自分にとってはナイスな音楽ではなかったようだ。ただ当時のミュージシャンの一部の人は、ロックとクラシックの融合について真剣に模索していた点には興味深いものがあると思う。

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2009年5月 1日 (金)

レフュジー

 やはり3人組でギターレス、キーボード中心のバンドといえば、エマーソン、レイク&パーマーが知名度、実力ともにNo.1であろう。
 カール・パーマーの手数の多いドラミングやグレッグ・レイクの深みのあるボーカルとベース・プレイ、そして何といってもクラシカルでありながら攻撃的なキース・エマーソンのハモンド・オルガン、3人それぞれが自分の個性を十二分に発揮しながら、後世に残る名盤を残してくれた。

 E,L&Pについては以前にもこのブログに書いたので、今回は省略するが、そのキース・エマーソンがE,L&P以前に在籍していたバンドがザ・ナイスだった。そしてこのザ・ナイスも3人組だったのだ。

 もともとはギタリストが入って4人組だったのだが、途中で脱退したため3人組になってしまった。1969年頃のお話である。
 またその頃からキース・エマーソンと他の2人との音楽的な見解の相違が目立ち始めたために、最終的に解散してしまった。キース・エマーソンが一緒にアメリカ・ツアーをしていたキング・クリムゾンのグレッグ・レイクとの間にバンド結成の構想が生まれたからだった。

 こうやってエマーソン、レイク&パーマーが生まれたのだが、問題は残されたメンバーたちである。"エマーソン、お前一人がなぜ目立つ"と言ったか言わないかわからないが、それじゃ俺たちも新しいメンバーを探そうぜといって探してきたのが、スイス生まれのキーボーディスト、パトリック・モラーツだった。

 もともとパトリック・モラーツが元ザ・ナイスのベーシスト、リー・ジャクソンのアルバムに参加したのがきっかけだった。リーがパトリック・モラーツの演奏をみて加入を促したという。それで元のドラマーを呼んで、3人でバンドを結成したのが“レフュジー”だった。"ザ・ナイスの夢よもう一度"ということだろうか。

 モラーツの演奏はなかなかのものである。さすがキース・エマーソンの後釜に入れようとしただけのことはあって、エマーソンと比べても決して引けを取らない演奏水準である。

 1974年に発表された彼ら唯一のアルバム「レフュジー」を聞いてみればわかると思うのだが、1曲目"Papillon"は空を舞う蝶のように、華麗かつテクニカルにキーボードを弾きまくっている。クラシカルな要素と同時にジャズっぽい演奏も聞かせてくれる。キース・エマーソンよりも攻撃的な演奏は目立たないのだが、技術的にはそれ以上かもしれない。

Refugee Music Refugee

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 リック・ウェイクマンの華麗さとキース・エマーソンのジャズ的演奏を兼ね備えているような感じである。また何台ものキーボードを使って音に厚みをつけており、聞きごたえがある。
 
 中には"Someday"などのボーカルを主体とした曲もあるが、バッキングでもキーボードを使ってのオーケストレーションを行っているし、リードの部分ではシンセサイザーやハモンド・オルガンを使って鬼気迫るプレイを聞かせてくれている。

 アルバムのハイライトは、3曲目の組曲"Grand Canyon"だろう。一部ボーカル部分ではリリカルなピアノ・ソロやメロトロンを使用してのバッキングに徹し、インスト部分ではシンセやエレクトリック・ピアノでの驚くほどの早弾きを展開している。

 この曲はドボルザークの「新世界」を意識して作られたのだろうか。モチーフとして選ばれた“グランド・キャニオン”はヨーロッパの人たちから見れば、アメリカの“大自然”の象徴として感じられたのだろう。
 この曲のインスト部分を聞くと、そういう気がしてならない。ワイルドな部分はドラムとベースが暴れまわっており、それをキーボード群が取り囲むようにして構成されている。曲想にあった演奏だと思う。

 パトリック・モラーツのジャズ的側面は、インストゥルメンタルの部分で目立つようだ。特に"Ritt Mickley"という曲では、カンタベリー系のバンド、キャラバンやデイヴ・スチュワートのような雰囲気を携えていて、とても30年以上も前に録音された音楽とは思えない。いま聞いても新鮮である。

 キース・エマーソンというとハモンド・オルガンかムーグ・シンセサイザーというイメージが先立ち、それ以外のキーボードはピアノくらいしか印象がないのだが、パトリック・モラーツの場合は、それ以外にもクラヴィネット、パイプ・オルガン、メロトロン、ミニ・ムーグと多彩である。そういう器用さがキース・エマーソンにない可能性を秘めていたように見られたのかもしれない。

 ただ残念なことに、彼ら3人でのスタジオ・アルバムはこの1枚で終わってしまった。できれば続編を聞きたかったのであるが、それは今ではもう不可能である。

 リック・ウェイクマンの抜けたイエスのキーボーディストとして引き抜かれたのだった。そして制作されたのが問題作「リレイヤー」だった。個人的には大好きなアルバムなのだが、イエス・ファンの間ではアルバム「ドラマ」と並んで、評価はあまり高くない。

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 しかしそこでのモラーツの演奏は、いままでのイエスにはない斬新で緊迫感のあるキーボード・サウンドだったと思うのである。特に"Sound Chaser"でのスティーヴ・ハウとの共演はいまだに鳥肌ものである。

 一方の残されたリズム・セクションの2人は、皮肉な事にまたまたキーボーディストがいなくなってしまった。さすがに三度目はなかったようで、もうキーボーディストを探してバンドを継続しようとは思わなかったようである。

 考えようによってはかわいそうというか、そうなるように運命付けられたリズム陣だったのかもしれない。それにしてもこの「レフュジー」は隠れた名盤だと思う。この3人でもう2,3枚はアルバム制作して欲しかったのであるが、夢のまた夢というものであろう。

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