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ザ・ストーリー・オブ・i

 梅雨どきになると、イエスの「危機」を思い出してしまう。初めて聞いたのが、ちょうど今頃だったからである。
 あれから何年たったのだろうか、初めて聞いたときに鳥のさえずりのところで鳥肌がたったことは忘れることができないし、いまだに時々聞いている。まさに歴史的名盤であろう。

危機 Music 危機

アーティスト:イエス
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 それでイエスというグループが大好きになったのだが、彼らはテクニック集団だった。構築美を誇る音楽集団であった。

 前回はその中でドラム一筋何十年というアラン・ホワイトの紹介や彼が中心となって結成されたホワイトというグループのアルバムについて述べたのだが、今回はここはやっぱり平等にということで、キーボーディストのパトリック・モラーツがイエス在籍時に発表したアルバム「ザ・ストーリー・オブ・i」について記しておきたい。

i~ザ・ストーリー・オブ・アイ(紙ジャケット仕様) Music i~ザ・ストーリー・オブ・アイ(紙ジャケット仕様)

アーティスト:パトリック・モラーツ
販売元:ディスク・ユニオン
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 パトリック・モラーツ本人については“レフュジー”のところで述べたので、ここではすっ飛ばしておく。

 1976年に発表されたアルバムなのだが、このアルバム、聞けば聞くほどイイのである。何がいいのかというと
①とにかく彼のキーボード・プレイを堪能することができる
②テクニックをひけらかすのではなくて、バンド・アンサンブルの中で有機的に彼のプレイが機能している
③リズムにもしっかりした配慮ができている
④1枚のトータル・アルバムとして成立している
⑤途中でダレルこともなく、最後まで緊張感を保っている

 などが挙げられると思う。

 とにかくモラーツ自身がインターナショナルなミュージシャンである。スイスで生まれ、フランス語と英語を操り、ブラジル舞踊団と極東ツアーを行うプログレ・ミュージシャンは珍しいのではないか。彼の豊かな音楽的センスというのは、彼自身の音楽的な素養と経験から醸し出されているに違いない。

 このアルバムでも冒頭からブラジリアン・パーカッションが展開されていて、思わず腰が浮いてしまいそうになる。ここはサンバの国かと勘違いしてしまうほどだ。
 ブラジル音楽とプログレッシヴ・ロックの融合、すべてが成功しているとは言えないかもしれないが、こういう音楽を聞いたのは初めてであった。だから自分の耳には新鮮に聞こえたのだ。

 また参加しているミュージシャンも素晴らしい。ギターにはジャズ・ギタリストのレイ・ゴメス、ベースには後にイエスのツアーにも参加した名手ジェフ・バーリン、ドラムはアメリカ人のセッション・プレイヤー、アンディ・ニューマーク(後半のみ)などで、メンバーを見る限りではジャズ系のミュージシャンを起用している。

 6曲目"indoors"、7曲目"Best Years of Our Lives"ではとてもメロディアスなフレーズを耳にすることができる。たぶん当時のレコードではこのあたりがサイドAのクライマックスだったのだろう。しかし、ある意味モラーツはリズム感覚だけでなく、メロディにも素晴らしい才能を持っている気がする。曲自体は短いのだがメロディアスでポップなのである。この辺は映画音楽のスコアを書いてきただけあって、その経験が生かされているのであろう。

 後半部分では、途中で彼のピアノ・ソロを聞くことができる。(11曲"impressions")ここはクラシックで培った彼の本領発揮みたいなものである。でも早弾きなどの自己満足でお茶を濁してはいない。あくまでもアルバムの流れに沿ったもので、トータル・アルバムとしての構成を壊すことのない演奏に徹している。

 そしてボーカルがそれに絡み合い、再びブラジリアン・パーカッションと融合し、最後はモラーツのキーボード・オーケストレーションで締めくくられる。まさに圧巻である。

 リック・ウェイクマンのソロと聞き比べると面白いのだが、リックの場合はキーボードがメインで他のパートはあくまでもサポート役である。またリックはクラシック志向が強い。

 その点、モラーツはあくまでもバンド・アンサンブル重視である。その中で自己主張をしていく。またモラーツはクラシックの素養は当然のこと、それ以外にもジャズやブルーズについても豊富な知識、技能を備えている。アルバム前半を聞くと、このことがよくわかると思う。結局、キーボードのテクニックは2人とも甲乙つけがたいが、その用い方はまったく違うのである。

 パトリック・モラーツが参加した唯一のイエスのアルバム「リレイヤー」にもこのアルバムで聞かれるプレイやリズムが多用されている。この頃のモラーツはこういう異国情緒のリズムやメロディ、流麗で豪快なキーボード・プレイに凝っていたのだろう。

 モラーツは、このアルバムの成功で自信を持ったのだろうか。イエスのアルバム「究極」の録音に取りかかる前にソロ・ミュージシャンとして独立し、イエスから離れていった。その後ソロ・アルバムを数枚、ドラマーのビル・ブラッフォードとのコラボレーション・アルバムを数枚発表してムーディ・ブルーズに加入し、そこで全米No.1アルバム「ロング・ディスタンス・ヴォイジャー」を発表している。

 最近ではピアノ・ソロによるクラシック・アルバムも発表しているモラーツである。

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アーティスト:パトリック・モラーツ
販売元:ベガ・ミュージックエンタテインメント
発売日:2006/05/11
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 とにかく彼の豊かな音楽性やイマジネーションには目を見張るばかりで、彼の加入によってイエスやムーディ・ブルーズの音楽もまた活性化された。そういう意味で、彼は縁の下の力持ち的なキーボーディストなのかもしれない。もっと正当に評価されていいミュージシャンだと思うのである。

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