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2009年6月

2009年6月27日 (土)

追悼;マイケル・ジャクソン

 6月25日は、12月8日や11月29日のように洋楽好きの人にとっては忘れられない日になるだろう。先日からTVやラジオで繰り返し流されているように、“キング・オブ・ポップス”といわれていたアメリカのエンターティナー、マイケル・ジャクソンが亡くなったからである。

 享年50歳。死因は心不全といわれているが、LAの検視局ははっきりとした死因の結果が出るのは4~6週間かかるコメントしている。結果がどうであれ、マイケルが生き返ることはない。

 確かに才能のある素晴らしいエンターティナーだったと思う。特に1980年代のマイケルは、まさに飛ぶ鳥を落とす勢いだったと思う。出す曲、出す曲世界中で大ヒットを記録し、彼の名前を聞かない洋楽番組はないほどであった。

 また1998年と2003年にはノーベル平和賞の候補にノミネートされるなど、音楽活動以外でも世間を賑わせていた。

 しかし最近では、様々なゴシップが彼の周りを取り囲み、まるで犯罪者か精神異常者のように扱われたりもした。有名人ならではの扱いといえばそれまでだが、かつての栄光が崩れ落ちたかのようだった。

 彼の整形疑惑や借財の規模、その評判については80年代との落差が大きくて、とても信じられなかった。どこまでが本当でどこまでが偽りだったのか、今でもよくわからない。よくわからないまま彼は亡くなってしまった。つまり伝説がまた一つ生まれたのである。

 とにかく彼は時代の流れにうまくマッチしていた。よくいえば時代の流れに敏感であり、悪くいえばそれを利用していたということだろう。

 彼が有名になったのは、子どもの頃(11歳)からの芸能活動のおかげだった。ジャクソン5として有名になり、ソロでもシングルを出してNo.1にもなった。確かに歌もダンスも子どものころから上手で、それについては誰しもが認めるところである。

 そして1979年、80年代のさきがけとしてアルバム「オフ・ザ・ウォール」が発表された。このアルバムからのシングル"Don't Stop 'Til You Get Enough"(今夜はドント・ストップ)が売れ、アルバム自体も世界中で約1900万枚売れたといわれている。

オフ・ザ・ウォール(紙ジャケット仕様) Music オフ・ザ・ウォール(紙ジャケット仕様)

アーティスト:マイケル・ジャクソン,クインシー・ジョーンズ,ロッド・テンパートン
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 ただ別に文句を言うわけではないのだが、このアルバムの好セールスの影には、アルバム・プロデューサーであるクインシー・ジョーンズの手腕がかなりあったのではないかと思っている。

 またMTV(ミュージック・ビデオ)という影響もまた見逃すことはできない。確かにそれまでのMTVは黒人を放映することを避けていた。その障壁を破ったマイケルの功績は見過ごすことはできないのだが、そのMTVに何度も登場することで、彼のアルバムは全世界的に売れたということもまた事実である。
 そしてあの"Thriller"のようなビデオを制作することができたのもMTV全盛時代のなせる業なのである。
  ちなみにマイケルはPV(プロモーション・ビデオ)のことをショート・フィルムといっていた。まるで短編映画のようだが、実際にジョン・ランディスやマーチン・スコセッシなどの監督が担当していた。こういうところでもマイケルのプライドみたいなものが感じられる。

 ところでまた、あのきらめくようなサウンド・メイクやヒップ・ホップの要素などの時代の動きをうまく取り入れることができたのもクインシーやアルバムの中の楽曲を提供した人たちの力だと思うのである。実際、クインシーと一緒にプロデュースしたアルバムは売れている。(「オフ・ザ・ウォール」、「スリラー」、「BAD」)
 唯一の例外は1991年に発表された「デンジャラス」だが、これも彼一人のセルフ・プロデュースではなくて、テディ・ライリーやR・ケリー、ベイビー・フェイスなどと共同制作している。

デンジャラス(紙ジャケット仕様) Music デンジャラス(紙ジャケット仕様)

アーティスト:マイケル・ジャクソン
販売元:SMJ
発売日:2009/07/08
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 彼一人で制作したアルバムはこれまで発表されていない。彼にはそういう信頼できるパートナーというかアドヴァイザーが必要だったのだろうと思っている。

 また彼自身が作詞・作曲してヒットした曲は前述の"Don't Stop 'Til You Get Enough"、アルバム「スリラー」からは"Wanna be Startin' Something"、"The Girl is Mine"、"Beat it"、"Billie Jean"の4曲、「BAD」では"BAD"、"The Way You Make Feel"、"Another Part of Me""I just Can't Stop Loving You""Dirty Diana""Smooth Criminal""Leave me Alone"であるが、「BAD」で全米No.1になったのは最初の5曲だけである。

 確かに凄いのだが、一方で他のミュージシャンや作曲家との共作も多いのである。決して彼一人の曲だけでヒットしたアルバムを作ったわけではないのだ。

 彼にとっての最後のオリジナル・アルバム「インヴィンシブル」には彼一人で作った曲は"Speechless"、"The Lost Children"の2曲だけで、この2曲はシングル・カットされていない。アルバム自体も全米・全英ともにNo.1にはなったものの、往年の頃の売り上げに及ぶことはできなかった。

インヴィンシブル Music インヴィンシブル

アーティスト:マイケル・ジャクソン
販売元:ソニー・ミュージックジャパンインターナショナル
発売日:2001/10/29
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 だから彼の黄金時代は1979年から1991年までだと思っている。しかし音楽的な進化という点で見ると、クインシー・ジョーンズとタッグを組んでいた1979年から1987年だったと思う。それはアルバム「BAD」までで、「デンジャラス」以降についてはそれまでの勢い、余勢で売れたと見ている。

 だから彼は最高のエンターティナー、パフォーマーであり、決して最高のミュージシャンではないのである。チーム・MJとして活動できたから“King of Pop”と呼ばれたのであり、彼一人では到底無理であっただろう。ただ彼には子どものころからカリスマ性があったのだろう。

 だから彼には信頼できるパートナーやスポンサーが常に必要だった。それが表面的な友だちや取り巻きになってしまったところに彼の悲劇があったのだと考えている。

 いずれにしても突然の訃報であり、まさにエルヴィス・プレスリーやジョン・レノンと同じような衝撃を与えられた。7月はロンドンのO2アリーナで50回の公演が予定されていた。最後のライヴだといわれていただけに残念な結果になってしまった。今後は何らかの追悼公演や偲ぶ会が催されるだろう。今夜は時代の流れに乗ったスーパースターに哀悼を表したい。

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2009年6月25日 (木)

ザ・ストーリー・オブ・i

 梅雨どきになると、イエスの「危機」を思い出してしまう。初めて聞いたのが、ちょうど今頃だったからである。
 あれから何年たったのだろうか、初めて聞いたときに鳥のさえずりのところで鳥肌がたったことは忘れることができないし、いまだに時々聞いている。まさに歴史的名盤であろう。

危機 Music 危機

アーティスト:イエス
販売元:Warner Music Japan =music=
発売日:2008/12/17
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 それでイエスというグループが大好きになったのだが、彼らはテクニック集団だった。構築美を誇る音楽集団であった。

 前回はその中でドラム一筋何十年というアラン・ホワイトの紹介や彼が中心となって結成されたホワイトというグループのアルバムについて述べたのだが、今回はここはやっぱり平等にということで、キーボーディストのパトリック・モラーツがイエス在籍時に発表したアルバム「ザ・ストーリー・オブ・i」について記しておきたい。

i~ザ・ストーリー・オブ・アイ(紙ジャケット仕様) Music i~ザ・ストーリー・オブ・アイ(紙ジャケット仕様)

アーティスト:パトリック・モラーツ
販売元:ディスク・ユニオン
発売日:2006/09/22
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 パトリック・モラーツ本人については“レフュジー”のところで述べたので、ここではすっ飛ばしておく。

 1976年に発表されたアルバムなのだが、このアルバム、聞けば聞くほどイイのである。何がいいのかというと
①とにかく彼のキーボード・プレイを堪能することができる
②テクニックをひけらかすのではなくて、バンド・アンサンブルの中で有機的に彼のプレイが機能している
③リズムにもしっかりした配慮ができている
④1枚のトータル・アルバムとして成立している
⑤途中でダレルこともなく、最後まで緊張感を保っている

 などが挙げられると思う。

 とにかくモラーツ自身がインターナショナルなミュージシャンである。スイスで生まれ、フランス語と英語を操り、ブラジル舞踊団と極東ツアーを行うプログレ・ミュージシャンは珍しいのではないか。彼の豊かな音楽的センスというのは、彼自身の音楽的な素養と経験から醸し出されているに違いない。

 このアルバムでも冒頭からブラジリアン・パーカッションが展開されていて、思わず腰が浮いてしまいそうになる。ここはサンバの国かと勘違いしてしまうほどだ。
 ブラジル音楽とプログレッシヴ・ロックの融合、すべてが成功しているとは言えないかもしれないが、こういう音楽を聞いたのは初めてであった。だから自分の耳には新鮮に聞こえたのだ。

 また参加しているミュージシャンも素晴らしい。ギターにはジャズ・ギタリストのレイ・ゴメス、ベースには後にイエスのツアーにも参加した名手ジェフ・バーリン、ドラムはアメリカ人のセッション・プレイヤー、アンディ・ニューマーク(後半のみ)などで、メンバーを見る限りではジャズ系のミュージシャンを起用している。

 6曲目"indoors"、7曲目"Best Years of Our Lives"ではとてもメロディアスなフレーズを耳にすることができる。たぶん当時のレコードではこのあたりがサイドAのクライマックスだったのだろう。しかし、ある意味モラーツはリズム感覚だけでなく、メロディにも素晴らしい才能を持っている気がする。曲自体は短いのだがメロディアスでポップなのである。この辺は映画音楽のスコアを書いてきただけあって、その経験が生かされているのであろう。

 後半部分では、途中で彼のピアノ・ソロを聞くことができる。(11曲"impressions")ここはクラシックで培った彼の本領発揮みたいなものである。でも早弾きなどの自己満足でお茶を濁してはいない。あくまでもアルバムの流れに沿ったもので、トータル・アルバムとしての構成を壊すことのない演奏に徹している。

 そしてボーカルがそれに絡み合い、再びブラジリアン・パーカッションと融合し、最後はモラーツのキーボード・オーケストレーションで締めくくられる。まさに圧巻である。

 リック・ウェイクマンのソロと聞き比べると面白いのだが、リックの場合はキーボードがメインで他のパートはあくまでもサポート役である。またリックはクラシック志向が強い。

 その点、モラーツはあくまでもバンド・アンサンブル重視である。その中で自己主張をしていく。またモラーツはクラシックの素養は当然のこと、それ以外にもジャズやブルーズについても豊富な知識、技能を備えている。アルバム前半を聞くと、このことがよくわかると思う。結局、キーボードのテクニックは2人とも甲乙つけがたいが、その用い方はまったく違うのである。

 パトリック・モラーツが参加した唯一のイエスのアルバム「リレイヤー」にもこのアルバムで聞かれるプレイやリズムが多用されている。この頃のモラーツはこういう異国情緒のリズムやメロディ、流麗で豪快なキーボード・プレイに凝っていたのだろう。

 モラーツは、このアルバムの成功で自信を持ったのだろうか。イエスのアルバム「究極」の録音に取りかかる前にソロ・ミュージシャンとして独立し、イエスから離れていった。その後ソロ・アルバムを数枚、ドラマーのビル・ブラッフォードとのコラボレーション・アルバムを数枚発表してムーディ・ブルーズに加入し、そこで全米No.1アルバム「ロング・ディスタンス・ヴォイジャー」を発表している。

 最近ではピアノ・ソロによるクラシック・アルバムも発表しているモラーツである。

RESONANCE Music RESONANCE

アーティスト:パトリック・モラーツ
販売元:ベガ・ミュージックエンタテインメント
発売日:2006/05/11
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 とにかく彼の豊かな音楽性やイマジネーションには目を見張るばかりで、彼の加入によってイエスやムーディ・ブルーズの音楽もまた活性化された。そういう意味で、彼は縁の下の力持ち的なキーボーディストなのかもしれない。もっと正当に評価されていいミュージシャンだと思うのである。

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2009年6月22日 (月)

ターミネーター4

 今回は「ターミネーター4」を見に行った。もう一つの話題作「トランスフォーマー・リヴェンジ」の公開翌日だったためか、お客さんはそちらに行っていたようで、イマイチ少なかったように思う。やはり日本人は“ジャイアント・ロボ”の昔から、巨大ロボが好きなのだろう。ちょっと残念である。ちなみにこの「ターミネーター4」にも巨大ロボは登場しているのだが、宣伝不足だったのだろう。

ターミネーター4 Music ターミネーター4

アーティスト:サントラ,アリス・イン・チェインズ
販売元:ワーナーミュージック・ジャパン
発売日:2009/06/17
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 それで映画の内容については、なかなかの迫力があって見どころ満載であった。少なくとも「ターミネーター3」の女殺人マシーンよりはよかったと思う。あれはいまだにシリーズにかこつけてのアイデア不足の象徴だったと思っている。あれでシュワルツネッガーのターミネーター役は終わったのだから、最後はもう少し華々しいものして欲しかった。

 また間違いなく「5」もできると思った。今回はターミネーターのT600からT800へのグレード・アップの過程を見ることができたのだが、これで終わってはならないと思うからで、たぶんこの次は、T1000がどのように誕生したかが描かれるのではないかと予想している。(T600は機械だけのターミネーターで、T800がシュワルツネッガーが演じた殺人機械であった。そしてT1000は例の姿かたちを自由に変化させることのできる水銀のような機械のことである)

 内容的には、「ターミネーター」でシュワルツネッガーが演じたT800が送られてくる前の人類対機械(スカイネット)の全面対決が描かれている。その中でジョン・コナーが反乱軍のリーダーの一人として活躍しているのだが、彼の父親になるはずのカイルとの出会いや捕虜となったカイルの解放などのエピソードも散りばめられている。
 
 自分は何となく“スター・ウォーズ”シリーズを思い出してしまった。あのルーク・スカイウォーカーと実の父親だったダース・ヴェイダーとの関係は複雑だったが、ここではそこまで込み入ってはいない。共通する点はシリーズ化とクローン(機械)vs人間いうことだけか。

 しかし、スター・ウォーズでは皇帝軍と反乱軍との闘争は、エピソード6で一応終結を見ているが、スカイネットと反乱軍との戦いは終結してはいないのである。この後、ジョン・コナーがどのように反乱軍を組織化し、レジスタンスを続けていくか、そして最終的にどちらが勝利するのかがポイントになるだろう。だからシリーズの映画化は続くのである。

 さてこの映画の中で使われていたのは、アリス・イン・チェインズの"Rooster"だった。アリス・イン・チェインズはアメリカのシアトル出身のバンドで、ニルヴァーナやパール・ジャムなどと同類のオルタナティヴ系として知られている。
 オルタナティヴ系とはごくごく大雑把に言うと、90年代のパンク・ロックであり、かつまた新型ハード・ロックのことで、現在のヘヴィー・ロックの遠因ともなった音楽といえるだろう。

 自分はこの手の音はあまり好きではないので、詳しく知らない。せいぜいパール・ジャムとニルヴァーナのアルバムは聞いたことがある程度である。ただこの映画の中では曲のさわりの部分が流れるのだが、それを聞いた主人公が“当時はよく聞いたものだ”と呟いているのが印象に残っている。ちなみにこの曲は1992年に発表されたアルバム「ダート」の中に収められている。

Dirt Music Dirt

アーティスト:Alice in Chains
販売元:Columbia
発売日:1992/09/30
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 もう1曲効果的に使われていたのは、やはりターミネーターといえば、映画「ターミネーター2」の主題歌でもあったガンズ&ローゼズの"You Could Be Mine"である。当然のことながら、このシリーズではこの曲が一番印象深いし、あの金属的なアクセル・ローズの声は映画にもぴったりと合っていると思う。この曲は1991年に「Ⅰ」「Ⅱ」と2作同時に発売された「ユーズ・ユア・イリュージョンⅡ」の方に収められている。

ユーズ・ユア・イリュージョンII Music ユーズ・ユア・イリュージョンII

アーティスト:ガンズ・アンド・ローゼズ
販売元:USMジャパン
発売日:2008/11/22
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 ちなみに今回の映画の主題歌はナイン・インチ・ネイルズが歌っている。このグループも90年代に活躍したアメリカのオルタナティヴ、インダストリアル系のバンドであった。主題歌自体は1999年に発表されたアルバム「ザ・フラジャイル」からの曲である。(主題歌のタイトルは"The Day The World Went Away"で、アルバムは全米1位を獲得している)
 

The Fragile Music The Fragile

アーティスト:Nine Inch Nails
販売元:Nothing/Interscope
発売日:1999/09/21
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最近また活動が活発になり、来日公演も予定されているのだが、2009年をもって活動を終了すると宣言をしている。さてどうなるのだろうか。

 このシリーズの主題歌についても007シリーズのように、毎回その時輝いているような時代を代表する旬のロック・バンド(ミュージシャン)が主題歌を担当して欲しいと願っている。

 戦闘型マシンについていうと、冒頭に述べた巨大なターミネーターや水中を蛇のように動くマシン、750㏄のバイクのようなマシン、空中から追尾するマシンなど、様々な形のマシーンが登場しては反乱軍を苦しめているし、ターミネーターの進化していく様子を知ることができる。シリーズ化された映画にはこういう楽しみ方もあるということだろう。

 ロック・ミュージック的には楽しみは少なかったのだが、前作よりもよく練られたシナリオとシリーズ1作目より格段に進歩した特撮映像が素晴らしかった。ターミネーター好きにとっては、映画料金に似合った内容だったと思っている。こうなると次の作品を期待してしまうのである。

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2009年6月19日 (金)

ホワイト

 自分が書いた昔のブログを読んでいると、イエスのメンバーがソロ・アルバムを発表していたことについて書いてあったのを見つけた。2007年の11月頃のブログである。

 なぜ読み返したのかというと、最近ボケ始めてきたせいか、ひょっとしたら以前書いたアルバムを再び取り上げて似たようなことを、あるいはまったく違うことを書く恐れが出てきたからである。
 こうなったらもう自分でも終わりだと思っているので、ときどき昔のブログを見ながら確認をしているのである。実際、ピンク・フロイドの「狂気」や「炎~あなたがここにいてほしい」などは何度も書きそうになった。それだけ優れたアルバムであるという証明なのであろうが、同じことを何度も言うのは年をとった証拠でもあろう。気をつけたいと思っている。

 それでそのイエスのメンバーのソロ・アルバムについては、ジョン・アンダーソンをはじめ、スティーヴ・ハウやクリス・スクワイア、リック・ウェイクマンについては書いていたものの、なぜかパトリック・モラーツとアラン・ホワイトについては言及されてなかった。

 当時のリックは、当時というのは1975年頃なのだが、すでにイエスを脱退していた。第1回目の脱退である。数えたことはないのだが、たぶん4回ぐらい彼はイエスを脱退しているのではないだろうか。

 そんな事はどうでもいいのだが、だから正確にいうとイエスのメンバーのソロ・アルバムではない。パトリック・モラーツこそ当時のイエスのメンバーであり、彼の発表した「ザ・ストーリー・オブ・アイ」こそがイエス関連のソロ・アルバムだったのだ。

 しかし、とりあえずパトリック・モラーツは“レフュジー”のところで述べたので、今回はもう一人のメンバーであったドラマーのアラン・ホワイトのことについて触れたい。

 彼は1976年に「ラムシャックルド」を発表している。これはなかなか素晴らしいアルバムだった。
 ドラマーの作ったソロ・アルバムというと、テクニックに走って演奏だけで終わったり、ジャズやクロスオーヴァーになって、自己満足的なセッションを記録したものに終わってしまう傾向があるが、このアルバムに関してはそういう心配は一切ない。きわめてロック的なアルバムなのである。

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 プログレッシヴ・ロックとかけ離れた、純然たるロック・アルバムであった。1曲目からソウルフルなボーカルを伴っており、中にはスティール・ドラムを使用したレゲエ風の曲やアコースティック・ギターとフルートをメインにしてドラムレスのインストゥルメンタルもある。
 
 趣味的な音といえばそれまでだが、様々な音楽を楽しみながら演奏している姿勢が伺えて彼の本質的な一面を垣間見た思いがしたものだった。逆にバンド仲間のジョン・アンダーソンが歌っている曲の方が浮いているという印象をもった記憶がある。

 もともとアラン・ホワイトは、6歳からピアノを始めていたのであるが、彼の演奏を見た(“聞いた”のではなくて“見た”である!)叔父さんが、ドラマーに向いているのではないかということで、ドラムを叩くようになったそうである。その叔父さん自身もドラマーだったようだ。
 だから15歳でプロ・ミュージシャンとして活動をはじめ、20歳にはあのジョン・レノンに見出され、プラスティック・オノ・バンドで活動するようになったのである。もちろん同時並行で数々のセッション活動を行い、ビートルズ関係以外にも、ジェシ・エド・デイヴィスやゲイリー・ライト、ジンジャー・ベイカー、ジョー・コッカーなどとも活動をしていた。

 アランのドラミングはアラン以前にイエスに加入していたビル・ブラッフォードのそれと対照的な感じがする。ビルのドラミングはジャズ的であり、細かいビートを連続して刻むことができ、音質も硬い。
 一方、アランのドラミングは、ロック的であり、もちろんテクニックもあるのだが、それを感じさせる前に、すでにビートが刻まれている感じである。だから頭で考えるよりもまず体が動くという感じであり、音質も(ビルと比べると)“バシャバシャ”と聞こえるように思う。このドラミングは、数多くのロック・ミュージシャンと活動してきた体験から生まれてきたからではないかと思っている。

 そのアラン・ホワイトが「ラムシャックルド」以来、約30年ぶり2006年にバンド名義で発表したアルバムが「ホワイト」だった。

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アーティスト:ホワイト,クリス・スクワイア,アラン・ホワイト
販売元:Ward Records
発売日:2007/01/24
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 全10曲で、日本盤にはボーナス・トラック1曲が付いている。まずメンバーはアラン以外は一人を除いて無名のミュージシャンで構成されている。
 解説書によると、アランは現在アメリカのシアトルに住んでいるそうで、そのシアトル周辺のバンド、メルカバ、トリーズンからメンバーを招いて制作した。

 いずれも日本ではマイナーなバンドであるが、音を聞く限りはなかなかの実力者集団だと思った。この辺がアメリカのミュージシャンの懐の深さというか、日本とは違うところである。これだけの実力があるなら、日本ではそこそこ活躍できるのだろうが、アメリカでは実力プラス運も必要なのだろう。チャンスは万人にあるが、それをものにする運は万人には備わっていないのである。

 しかし面白いことに、一人だけ有名なミュージシャンがいる。それがジェフ・ダウンズである。1980年にトレバー・ホーンとともにイエスに加入したあのジェフ・ダウンズである。

 彼が参加したアルバムは、あのエイジアのアルバムのように、きわめてポップな音になるのが普通だ。“4分間プログレ”や“有線プログレ”などと非難されたこともあったが、売れることは悪いことではない。ただ果たしてこれをプログレッシヴ・ロックといっていいかどうかは意見の分かれるところであろう。

 ところがこのアルバムは、そういう音にはなっていない。理由はジェフは演奏だけで、作曲にはまったく関わっていないからである。作詞や作曲はアランと前述のシアトルのミュージシャンで行われていて、ジェフはキーボード・プレイヤーが録音に参加できなかったために代わって参加したようなのだ。

 だから音はプログレッシヴ・ロックというよりも、極めてブリティッシュ・ロック的である。ブリティッシュ・ロック特有のマイナー調の湿った印象を与えてくれる。また、ほとんどの曲が5分前後で、長い曲で7分6秒である。なかなか渋い楽曲で占められている。

 お薦めは"Crazy Believer"、"Dream Away"、"Waterhole"あたりだろうか。いずれも哀愁を帯びたメロディとリフを持っている。特に"Waterhole"はアコースティック・ギターの使い方がブリティッシュ・トラッドを連想させる。また最後のスライド・ギターが泣かせる。一聴に値する曲だと思う。
 また、ボーカリストのケヴィン・カーリーという人の声は、湿ったピーター・ガブリエルのようで、けっこうその気で歌っているように聞こえた。ジェネシスに加入しても通用するのではないだろうか。

 残念なのは、ボーナス・トラックの"Run with the Fox"の歌詞が省略されていることだ。歌詞ぐらいどうでもいいではないかと思うだろうが、この歌詞、あのピート・シンフィールドが作っているのである。しかもこれはクリスマス用に作られたクリスマス・ソングだったというから、ぜひ見てみたかったのだ。

 ちなみに作曲したのはクリス・スクワイアとアラン・ホワイトで、ベースと歌っているのはクリスだろう。相変わらずアタックの強いベースを弾いている。1981年12月の作品で、イエスの4枚組ボックス・セット「イエス・イヤーズ」に収録されている。でもいまさらこの歌詞のために「イエス・イヤーズ」を購入しようとは思わないし、思っても既に廃盤である。

 とにかくこの「ホワイト」というアルバム、どこまでアランが曲作りに関与しているかわからないが、一聴の価値があるなかなかのアルバムだと思った。イエスもいまや開店休業中だし、年齢的に見てアルバム作って、ツアーを行うのは厳しいだろう。

 それなら今年還暦を迎えたアランにもうひと踏ん張りして、これに続くアルバムを期待したい。意外と彼はメロディ・メイカーではないかと思うのである。これも若いうちからロックやポップ・ミュージックの録音制作に携わった結果ではないだろうか。

 歴史には残らないし、おそらく記録にもまた記憶にも残りにくいアルバムではある。しかし、ここには真摯に音楽に向き合い、自分のやりたい音楽を追求した一人のミュージシャンの想いが刻まれているのである。

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2009年6月17日 (水)

トマス・ボーディン(2)

 ほとんど誰も知らないようなアルバムを紹介することには人後に落ちないことで定評のあるプロフェッサー・ケイである。自分の中ではけっこう有名だと思っているのだが、やはり他の人からみれば、まったくチンプンカンプンなものに聞こえるのだろう。

 それを承知で今回紹介するのは、以前にも紹介したスェーデンのプログレ・バンド、ザ・フラワー・キングのキーボーディストであるトマス・ボーディンのソロ・アルバム「アイ・アム」である。

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 このアルバムは2005年に発表されたもので、彼のソロ作品としては5作目にあたる。一応現時点での最新作といえるだろう。なおトマス・ボーディンについては以前にも一度このブログで触れているので、今回はこのアルバムに限って紹介したい。

 内容はというと、これがまた全3曲という時代錯誤的な傑作なのである。プログレ・ファンなら泣いて喜ぶ垂涎ものといえるに違いない。この21世紀の時代にこういう音を聞くことができるとは、正直思ってもみなかった。

 このトマス・ボーディン(日本語の表示では“ボディーン”になっている)は、現在のプログレ界を代表するキーボーディストのようで、テクニック的にも申し分ないのだが、それをひけらかすというよりは、曲のモチーフを生かすような創造性や表現力を発揮するタイプのプレイヤーのようである。

 だからこのアルバムでも全曲作詞・作曲、アレンジと彼のもとで制作されている。1999年の1stソロ・アルバム「An Ordinary Night in My Ordinary Life」もバンド形式で録音されていたが、ところどころ彼の短いソロを収めた小曲もあった。しかし、今回のこのアルバムでは20分前後の長い曲3曲のみで占められていて、非常に聞き応えのあるボリュームになっている。

 3曲とも組曲形式になっていて、最初の組曲"I"は11曲、次の組曲"A"は8曲、最後の組曲"M"は6曲で構成され、タイトルを続けて読むと“I AM”となる。ただ“アイ,エイ,エム”と読む人もいて、はっきりとは決まっていなくて、読む人のイマジネイションに任せているのかもしれない。
 これはこのアルバムのテーマみたいなもので、“I AM”つまり自分自身の存在や存在意義について歌っている。ちょっとした哲学的なものを秘めているのである。

 3曲とも似たようなものであるが、微妙に違う点がある。1曲目は23分を超える曲で、イエスのような構築性と叙情性を備えている。19分過ぎに女性ボーカリスト、ヘレネがしっとりと語りかけるように歌い上げるところが聞きどころかもしれない。
 この女性、写真で見る限りはなかなかの体躯をなしているが、声は素晴らしい。この素晴らしい声を発声するために、この体があるのだろう。オペラ歌手のようである。

 2曲目は1曲目よりややハードで、ギターが目立っている。このギタリストはグレン・ヒューズ・バンドのギタリスト、ヨッカ・JJ・マーシュという人であり、粘っこくかつスリリングなソロを披露してくれる。それにしてもグレン・ヒューズがまだ活動していたとは驚きである。

 また動-静-動-静という展開になっていて、“動”のところではギターが全開になっている。逆に“静”のところでは派手な電子楽器などは使用されずに、グランド・ピアノを使ってリリカルに演奏されている。この辺の落差が素晴らしいと思う。

 3曲目はアルバムの中で一番短い曲で、18分少々しかない。(それでも普通の曲に比べると長い方である)
 最初はモノロローグのような歌声から始まり徐々に盛り上がっていく展開である。まるでピンク・フロイドの「ザ・ウォール」のような始まり方をして、イエスのようにバンド・アンサンブルにつながる感じである。

 途中でデス・メタルのような声が入っているのが気に入らないのだが、曲のアクセントと受け止めれば何でもないかもしれない。また曲の終わりでフルートが使用されていて、これがまたデヴィッド・ギルモアのようなギターと絡み合って、何ともいえない情緒を醸し出している。そしてエンディングへと流れていく。

 できれば印象的なリフなりフレーズなりを繰り返すとか途中で数回にわたって差し挟んでいくと、もっと記憶に残るアルバムになったのではないかと思うのである。
 イエスの「危機」にしろピンク・フロイドの「おせっかい」、ジェスロ・タルの「ジェラルドの汚れなき世界」などにはそういう手法がとられているが、歴史に残る組曲形式のアルバムにはそんな工夫が施されている。

 しかし何であれ、こんな御時世に3曲しか入っていない65分以上もあるアルバムを作ったという事実が大事であり、それを実行したトマス・ボーディンには素直に脱帽してしまう。全世界で何枚売れたかわからないが、そういう商業主義とは無縁に、純粋に自分の音楽だけを追求できる姿勢や環境が大切であり、それを認めたレコード会社も大いに評価されるべきではないだろうか。

 まだまだロック・ミュージック界も捨てたものではない気がするのだ。

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2009年6月13日 (土)

フィンチ

 以前から聞きたかったバンドの中に、オランダのプログレッシヴ・ロック・グループのフィンチというのがあった。
 以前にもオランダのプログレ・グループを特集したときには、このフィンチとトレースは未聴だったからコメントを書くことができなかった。だからチャンスがあればと日頃から思っていたのである。

 しかもややこしいことにフィンチというグループはオーストラリアやアメリカにも存在し、前者はサーフ・ミュージックに近いような音楽で、後者はハードコア・パンクに分類されるようである。CDショップに行って、フィンチというグループを目にしても、実際に手にとって見ると、違うグループだったということはよくあった。

 そして今回、まさに奇遇というか行幸というか、店頭で運良く彼らのCDを手に入れることができたのである。アルバム・タイトルを「ガレオンズ・オブ・パッション」という。1977年の作品である。

Photo Finch (Holland) / Galleons Of Passion 国内盤
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 アルバムは全5曲で、今回特別にボーナス・トラックが3曲収録されている。全曲ともにインストゥルメンタルで、ごく大雑把に言うと、オランダのフォーカスとイギリスのキャメルを足して2で割ったような曲調である。

 音的にはだいぶ洗練されていて、非常に聞きやすいし、ギターのトーンもマイルドかつサスティーンがよく効いている。確かにフォーカスのヤン・アッカーマンのようである。
 また、ギターが宙に舞い、キーボードが音に厚みをつけるという構図で、特に3曲目の"As one"などを聞くと、実感できると思う。

 ただ1977年当時の流行としては、フュージョン/クロスオーヴァーというのがあって、あのジェフ・ベックもそれに便乗しながらソリッドで曲想豊かなアルバムも発表したりしていた。
 このアルバムでも若干ベース音がそういう音を聞かせてくれるところもあった。(2曲目"Remembering the Future")

  しかし何といっても一番の聞かせどころは4曲目"With Love as the Motive"であろうか。これはa) Impulse, b) Reaching, c) Sinful Delightに分かれている組曲で、フォーカスよりもジェネシスに近い調べを奏でている。
 特にキーボードが一段落したあとのギターのアルペジオやフルートの入り方などがそういう印象をもたらしてくれた。9分20秒という長い曲だが、起承転結が明快で、あっという間に終わってしまう充実した楽曲である。

 オリジナル・アルバムでは最終曲だった"Reconciling"も激情の嵐が過ぎ去った後のような、ゆったりとたよやかなバラード系の楽曲だ。あるいは映画のエンドロールのときに流される曲にしてもいいかもしれない。ただ惜しむらくは、できればシンセサイザーだけでなく、メロトロンも使用してほしかった。
 彼らの1stや2ndアルバムではけっこう使用されているとのことである2

 彼らは3枚のアルバムを発表していて、1975年に1st「グローリー・オブ・ジ・イナー・フォース」、76年に「ビヨンド・エクスプレッション」、77年に本作という順番である。
 その中では76年の「ビヨンド・エクスプレッション」のできが一番いいらしい。 しかも全3曲、1曲目から20分を超える超大作になっていて、キーボーディストが3作目と違う人なので、シンセだけでなくオルガンやグランド・ピアノ、メロトロン、エレピにソリーナ・ストリング・アンサンブルまで使用している。

 しかしほんとにオランダのポップスやロックは日本人に親近感を与えてくれる。60年代のショッキング・ブルーから80年代のヴァレンタインまで、ジャンルを問わずメロディアスで耳に馴染みやすい。
 これは長崎の出島のせいか、シーボルトのおかげか、鎖国中も関係があったからだろうか。とにかくオランダとの関係は、その音楽も含めて日本人の無意識の中に浸透しているのかもしれない。

 というわけで、次はぜひ2作目をゲットしようと虎視眈々と狙っている。ただ店頭で見つけることは不可能に近いと思われるので、ネットで探すしかないようである。

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2009年6月11日 (木)

向日葵の咲かない夏など

 自分は推理小説が好きで、古今東西の小説、シャーロック・ホームズから古畑任三郎まで、ちょくちょく本屋をのぞいては気に入ったものを購入して読んでいる。

 それで最近読んだ本の中に幻冬舎文庫刊「悪夢のエレベーター」を読んだ。木下半太というまだ30歳半ばの若い人が書いた本であるが、なかなか面白かった。

悪夢のエレベーター (幻冬舎文庫) Book 悪夢のエレベーター (幻冬舎文庫)

著者:木下 半太
販売元:幻冬舎
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 この人は劇団を主宰していて脚本や演出を担当しているのだが、確かに舞台演劇という表現方法にも適しているストーリー展開だった。実際、昨年の9月に大阪の梅田劇場で上演されている。演出を行ったのはたけし軍団のダンカンだった。

 内容をかいつまんで言うと、とあるマンションのエレベーターの中に、男3人、女1人が閉じ込められてしまい、お互いの素性がわかったあとに、暗闇の中で1人の男性が殺されてしまうという展開である。
 その際のお互いの会話が説明的、演劇的で、ユーモラスに富んでいる。また殺されたあとはその死体をどう処分するかというふうになり、そこから二転三転して、最後はこういうオチだったのか、とわかる次第である。

 一見、密室殺人かと思ったりしたのだが、実はサスペンスなのであった。とにかく字が大きくて読みやすく、ストーリーに工夫がこらされているので、あっという間に読むことができる。自分は日曜日の夕方から夜にかけて読んでしまった。だから電車の中とか、病院の待合室とか時間をつぶすには格好の読み物だと思う。お勧めである。

 この作家のこの「悪夢の~」シリーズは他にも2冊あり、それぞれ「悪夢の観覧車」、「悪夢のドライブ」と出版されている。おそらくこの“エレベーター”のように、限定された(あるいは密閉された)空間の中で、事件が起こり、それが進行し、最後は意外なオチで終わるというものだろう。頭が疲れたときには、何も考えずにストーリーを追うだけで、疲労解消につながると思っている。

 もう一冊は新潮文庫の「向日葵の咲かない夏」という小説で、道尾秀介というこれまた30歳代半ばの若者が書いた小説である。

向日葵の咲かない夏 (新潮文庫) Book 向日葵の咲かない夏 (新潮文庫)

著者:道尾 秀介
販売元:新潮社
Amazon.co.jpで詳細を確認する


 この本、何といっていいのかよくわからない。結果的には推理小説なのだが、最初はホラー、サスペンス的展開で、途中親友のS君が蜘蛛に生まれ変わってきて、主人公の小学校4年生と一緒に真犯人を探すというふうになってくる。まるでカフカの「変身」のような非日常的・不条理の世界である。

 とにかくこの小説は、とてもよくできている内容構成を持っている。確かにホラー的展開から不条理の世界を経て、論理的帰結にたどりつくのである。S君が蜘蛛になったことについても全く異論を差し挟める余地はない。作者のアイデアにはまさに脱帽である。

 しかし、ダークである。読んだあと全然心が晴れないのである。“変身”以外にも、幼児性愛や動物への虐待、自殺や家庭不和など、これでもかというくらい現代社会の暗部を再現しているかのようである。

 また主人公の意味不明な言動も最後には納得のできる結論を与えられているのだが、頭で納得はできても気持ちは晴れない。感情的には許せないのである。これは読んだ人で違う感想があると思うのだが、少なくとも自分は嫌いな本である。本屋で面白そうな本と思って買って読んだのであるが、二度と読みたくないと思った。

 あんまり書くとネタばれしてしまうので書かないが、最後は映画「オーメン」のような結果に落ち着くのである。
 しかし好悪が分かれるとはいえ、印象には残る小説である。たとえ本は嫌われても作者はしてやったりとほくそえんでいるかも知れない。どういう感想を持つにしろ作者の意図は十分達成されているとは思う。

 推理小説自体、何か事件が起こり(たいていは殺人事件であるが)、探偵がそれを論理的に解決する読み物である。犯罪を描いているのだから、きれいな内容、さわやかな推理小説というのを期待してはいけないのかもしれない。何しろ世の中で一番大事な生命を粗末に扱う小説なのだから…

 しかしたとえ凄惨な事件を描いていたとしても、読んだあとで清々しく思える小説もあると思うのである。たとえば古典ではガストン・ルルーの「黄色い部屋の謎」が挙げられるだろうし、推理小説ではないが映画では「スティング」、五十嵐貴久の小説「フェイク」などである。

 スプラッター的犯罪小説でも、その解決方法が論理的で納得がいけば、その落差が大きければ大きいほど、読後感が満足のいくものになると思うのである。

 その点からいって「向日葵の咲かない夏」は、暗くて救いようのない世界が描かれすぎていて、いかに理論的に破綻がなく合理的な解決が描かれていたとしても、虚しさややるせなさしか残らないのである。ただ一気に読ませる描写力や構成力は、若い作家の中では格段に優れていると思う。

 最近はロック・ミュージックのことしかこのブログでは書いてないのだが、久々に自分の読んだ本のことを書いた。もちろんこういう小説ばかり読んでいるわけではないのだが、あまりにも印象が強くて書いてしまった。今度は梅雨空の下で心が晴れやかになれる本を読んでみたいと思っている。

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2009年6月 9日 (火)

スティーヴ・マリオット

 最近あさったCDの中から、前回は名盤ではなかったが、今回は“これは結構いける名盤”を紹介したいと思う。それはハンブル・パイの8枚目のアルバム、1974年に発表された「サンダーボックス」である。

 以前にも述べたように、個人的にハンブル・パイのお薦めアルバムは「スモーキン」であり「イート・イッツ」と思っている。そしてそのお薦めにもう1枚加えられるのが、この「サンダーボックス」ではないだろうか。

サンダーボックス Music サンダーボックス

アーティスト:ハンブル・パイ
販売元:ユニバーサル インターナショナル
発売日:2006/06/21
Amazon.co.jpで詳細を確認する

 だから1972年からこの74年頃までが彼らの全盛期だと思う。つまりギタリストがピーター・フランプトンからクレム・クレムソンに代わってから彼らの栄光の歴史が始まったのだ。ただその歴史は長く続かなかったが…

 とにかく曲が良い。まるで同時期のローリング・ストーンズのようである。1曲目のアルバム・タイトル曲"Thunderbox"、2曲目"Groovin' with Jesus"とノリの良い曲が続くのである。
 "Thunderbox"とは“携帯用便器”、“公衆便所”のことを指すらしいのだが、その猥雑な内容といい、それをモチーフにしたアルバム・ジャケットといい、1971年に発表されたストーンズの「スティッキー・フィンガーズ」のジッパー付きジャケットを想起させてくれた。

 (今回の初回限定盤ではオリジナル・ジャケットで発売されていて、トイレの鍵穴から用をたしている女性が覗けるというスケベ心いっぱいの仕様になっている。ちなみにストーンズのものは本当にズボンにジッパーがついていて、それを下げると…という作りになっている)

スティッキー・フィンガーズ(初回受注完全生産限定) Music スティッキー・フィンガーズ(初回受注完全生産限定)

アーティスト:ザ・ローリング・ストーンズ
販売元:ユニバーサルインターナショナル
発売日:2009/06/24
Amazon.co.jpで詳細を確認する

 しかも全体的に黒っぽい。同時期のストーンズよりも黒人音楽の影響が強いと見た。彼のタメがきいた歌い方もさることながら、オリジナル以外のカヴァー曲の選択眼が素晴らしいと思う。
 2曲目もそうなのだが、それ以外にも"I can't Stand the Rain"、"Anna"、"Ninety-Nine Pounds"、"No Money Down"、"Drift Away"、"Oh La-De-Da"と、全12曲中7曲がカヴァー曲になっている。

 "Anna"はビートルズが歌って有名になったアーサー・アレキサンダーの曲だし、"No Money Down"はチャック・ベリーの作品、"Drift Away"は1975年に発表されたロッド・スチュワートの歴史的名盤「アトランティック・クロッシング」でも取り上げられていた。ほぼおなじ時期にこの2人が歌ったことになるのだが、このアルバムの曲の方がよりシンプルで逆に深みがあると思う。ちなみに歌っているのはベーシストのリドリー・スコット。

 オリジナル曲についてもカバー曲と甲乙付けがたく、カヴァーですよといわれても区別ができないほど水準が高い。マリオットは、本当に黒人音楽が好きな人だったのだろう。"Thunderbox"も素晴らしいし、"No Way"、"Every Single Day"あたりもロックしている。
 ただ残念なことに、売り上げ的にはよくなくて、それだけが原因でもないだろうが、下り坂を転げ落ちるかのようにバンド活動は下降線をたどり、翌年には解散状態に陥ってしまった。

 その解散後に制作したソロ・アルバムが「マリオット」だった。1976年のことである。このアルバムは全10曲、前半5曲がブリティッシュ・サイド、後半がアメリカン・サイドになっていて、ブリティッシュ・サイドではイギリス人ミュージシャンを、アメリカン・サイドではアメリカ人ミュージシャンを起用して演奏している。

 Steve Marriott/Marriott 1976 Steve Marriott/Marriott 1976
販売元:HMVジャパン
HMVジャパンで詳細を確認する


 イギリス人ミュージシャンでは、ベースに盟友グレッグ・リドリー、ドラムスは元キング・クリムゾンのイアン・ウォーレス、リズム・ギターにミッキー・フィンがそれぞれ担当している。(ミッキー・フィンとは元T・レックスのパーカッショニストのミッキー・フィンのことだろうか。同一人物かはよくわからない)
 アメリカ人ミュージシャンは、キーボードにデヴィッド・フォスター、ギターにデヴィッド・スピノザ、ベン・ベネイなど、ほとんどは自分にとってよく知らないのだが、有名なセッション・ミュージシャンが参加している。

 前半のブリティッシュ・サイドは、これはもうハンブル・パイの延長線上にある音で、オリジナル曲もいいが、レオン・ラッセルの"Help me through the Day"やヴァレンティノズのカヴァーでJ・ガイルズ・バンドもやっていた"Looking for a Love"などカバー曲も秀逸である。

 ただ後半になると、ロック色は薄れソウル・シンガーになってしまい、ファンキーだがちょっとオーヴァープロデュースのような印象が歪めない。たぶんやっている本人は気持ちよく歌っているのだが、元ハンブル・パイというイメージからはほど遠くなっている。
 本人はレイ・チャールズになりたかったそうだが、確かにファッショナブルなレイ・チャールズという気はする。

 でも自己満足だけではファンの支持は得られないのである。このアルバムもセールス的には失敗し、ソロではなく、再びハンブル・パイを結成しアルバムも発表するのだが、かつての栄光は甦ってこなかった。あとは以前述べたハンブル・パイの項と重複するので省略する。

 確かに英国を代表するソウルフルなミュージシャンだったと思う。ただ彼の悲劇はソウルフルなミュージシャンではなくて、ソウル・マンになろうとしたことだろう。あくまでも個人的な意見だが、もう少しロック寄りに立てば、彼の音楽性はもう少し伸びやかになったのではないだろうか。それがかえすがえすも残念でならない。
 しかしアルバム「サンダーボックス」は素晴らしいアルバムだと思っている。

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2009年6月 7日 (日)

神様と野球王

 最近は休みの日になると、CDショップに通っているような気がする。これはもうほとんど病気みたいなもので、自分でもどうしようもないと思っている。これをやめたりすると、病気になるかもしれない。

 たとえばランナーズ・ハイみたいなもので、長距離を走り続けると脳内麻薬成分であるエンドルフィンが分泌されて気分が高揚してくるようだが、自分の場合も、面白そうなCDをあさっているときに、このような状態になっているのかもしれない。だから止められないのだと自分で勝手に解釈している。

 それでこの前あさっていたら、以前から興味のあったCDを2枚見つけてしまった。1枚はイギリスのザ・ゴッズというグループが1968年に発表したアルバム「ジェネシス」のことである。

ジェネシス(紙ジャケット仕様) Music ジェネシス(紙ジャケット仕様)

アーティスト:ゴッズ
販売元:EMIミュージックジャパン
発売日:2009/05/13
Amazon.co.jpで詳細を確認する


 何でこのグループに興味があったのかというと、メンバーに有名ミュージシャンがズラリとそろっているということだったのだが、でもアルバムのライナーノートを読んで、正確にいうと自分がそう思い込んでいたに過ぎないということがわかった。

 もともと自分が思い込んでいたメンバーは次の通りであった。
ギター・・・ミック・テイラー
ベース・・・グレッグ・レイク
キーボード・・・ケン・ヘンズレー
ドラムス・・・リー・カースレイク

 なかなか豪華メンバーだと思っていたのだが、実際はちょっと違うのである。もともとこのメンバーのリーダーはキーボード&ボーカルのケン・ヘンズレーで、みんなも知っているように、彼とドラマーのリー・カースレイクは後にユーライア・ヒープを結成することになる。

 もともとケン・ヘンズレーはギターを弾いていたようで、10代の頃はB.B.キングやベン・E・キングの英国公演のバック・バンドのメンバーだったようである。だからブルーズやソウル・ミュージックに興味があったのだろう。
 ところが20歳を超えたあたりから、ロックに走り始め、1965年にザ・ゴッズを結成した。彼が21歳のときである。

 このときのメンバーは
ギター・・・ミック・テイラー
ベース・・・ジョン・グラスコック
キーボード・・・ケン・ヘンズレー
ドラムス・・・ブライアン・グラスコック

 名前を見ればわかるように、ベースとドラムのリズム隊は兄弟である。このときにギターはミック・テイラーに任せて自分はキーボードに替わったらしい。だからケン・ヘンズレーはもともとキーボードを弾いていたというわけではないのである。そういえばユーライア・ヒープでも華麗なキーボード・プレイというのはあまり覚えがないような気がする。

 このメンバーで何とあのクラプトンのいたクリームの前座を務めていたというのだから大したものである。それで1967年にシングルを出してデビューしたのだが、ギター担当のミック・テイラーがジョン・メイオール&ザ・ブルースブレイカーズに引っこ抜かれてしまった。

 代わりにジョー・コナスという人が加入し、やがてはリズム陣も新メンバーになった。そのときにグレッグ・レイクが入ってきたのだが、彼は数ヶ月しか在籍していなかったようである。

 だから自分の思い込みは間違っていた。でも在籍期間がずれていただけでメンバー的には間違っていなかった。だからザ・ゴッズのベスト・メンバーを拾い出すとこうなるのだろうと思ったりもする。
 もし可能ならこのメンバーで作ったアルバムを聞いてみたい気がする。なかなか面白そうな音になると思うのだが、どうだろうか。意外とブルースに影響を受けたロックをやっていそうな気がする。

 最終的にこの1stアルバムでのメンバーは以下の通り。
ギター・・・ジョー・コナス
ベース・・・ジョン・グラスコック
キーボード・・・ケン・ヘンズレー
ドラムス・・・リー・カースレイク  

 ベース担当のジョン・グラスコックは、後にジェスロ・タルに加入するわけだから、これはこれで小規模なスーパー・グループなのかもしれない。

 音的には当時のビート・グループの音とハード・ロックの音が混ざっていて、曲によって違ってくる。ただギタリストのジョー・コナスが結構自己主張していて、素晴らしいソロを聞かせてくれる。3曲目の"You're my Life"のソロなんかかなりカッコいいのだ。
 ユーライア・ヒープのミック・ボックスよりも上手ではないかと思ったりもした。このバンドを辞めたあとのジョーは、カナダに移住してギターを教えながら楽器店などで働いていたという。

 曲自体は短いのだが、繰り返し聞いていくと、やはり後のユーライア・ヒープの音と重なってくる気がしてきた。そういう意味ではヒープの原型バンドと言ってもいいだろう。

 もう1枚のアルバムはベーブ・ルースというイギリスのバンドで、1975年に発表された彼らの3枚目「ベーブ・ルース」である。

ベーブ・ルース(紙ジャケット仕様) Music ベーブ・ルース(紙ジャケット仕様)

アーティスト:ベーブ・ルース
販売元:EMIミュージック・ジャパン
発売日:2008/02/14
Amazon.co.jpで詳細を確認する


 このバンドの1st「ファースト・ベイス」はあのロジャー・ディーンがジャケットのデザインを担当していた。昔も今も“ロジャー・ディーン”という言葉に弱い自分は、だからこのグループのことが気になっていたのである。
ファースト・ベイス(紙ジャケット仕様) Music ファースト・ベイス(紙ジャケット仕様)

アーティスト:ベーブ・ルース
販売元:EMIミュージック・ジャパン
発売日:2008/02/14
Amazon.co.jpで詳細を確認する

 アルバムの帯には“演奏・楽曲ともに最も完成度が高く、ベーブ・ルースの最高作と称される超名盤!”と書かれているのだが、聞いてみて失望してしまった。これが最高傑作なら残りのアルバムは聞かない方がいいに決まっていると思った。残念ながら個人的にはそういう内容だと思っている。

 このバンドの売りは、女性ボーカリストとギタリストのアラン・シャックロックのスパニッシュ風味のある演奏なのだが、そんなに声量もないし、ギター演奏も特に印象に残るものでもなかった。マカロニ・ウエスタン映画「荒野の用心棒」のテーマをインストでやっているのだが、だから何という感じである。

 イギリスのバンドなのに、アメリカの野球選手の名前をバンド名にしたのは、ボーカル担当のジェニー・ハーンが元々アメリカで活動していて、アメリカ帰りの彼女が命名したらしい。彼女はスライ・ストーンの妹のバンドに所属していたという。

 全体的に音的にもバンド名的にも中途半端な気がする。もっとハードな楽曲とバラード系とメリハリをつければよかったように思えた。
 こんな感じで1976年頃まで活動を続けていたらしい。その頃の自分はこのバンドの名前すら聞いたことがなかったから、当時の極東ではあまり有名ではなかったのだろう。

 というわけで、最近手に入れた2枚のCDではあるが、決して名盤ではない。ただ昔から気になっていたアルバムであった。そして40年以上も前のアルバムが手に入る日本の洋楽状況については、まだまだ捨てたものではないと思っている。

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2009年6月 3日 (水)

マイク・マクギア

 今年はアイランド・レコード50周年ということで、70年代のアルバムが続々と紙ジャケで再発されているようである。たとえばスパークスの「キモノ・マイ・ハウス」やルネッサンスの前身バンドでキース・エルフの妹、ジェーン・エルフがボーカルを務めていたイリュージョンのアルバム、珍しいところではツトム・ヤマシタの「ゴー」や「ゴー・ライヴ」などもある。

 その中で店頭にあったマイク・マクギアのアルバム「ウーマン」を衝動的に買ってしまった。彼の作品は以前から聞いてみたかったのだが、国内盤はおろか輸入盤でさえもなかなか見つけることができなかったからだ。

 ご存知のように、マイク・マクギアとは世を忍ぶ仮の姿で、本名はピーター・マイケル・マッカートニーという。マッカートニーという名前からわかるように、あの世界で最も有名な4人組の中の一人、ポール・マッカートニーの実弟である。

 ポールとは2歳下ということだから、今年で65歳になる。今はもうミュージック・シーンから足を洗っているようだが、60年代の半ばから演劇などの芸能活動を始めていたようである。
 特にコメディが得意らしく、地元の仲間たち2人と一緒に“スキャッフォールド”と名乗り、自分たちのTV番組も持っていた。

 またTVだけでなく音楽も手がけて、1966年にあのジョージ・マーティンのプロデュースでシングルも発表している。特に6枚目のシングル"Lily the Pink"は全英No.1にもなったそうである。

 当然マスコミも、あのポールの弟を放っておくわけもなく、彼に取材が殺到してしまい、それが嫌で彼は名前をマイク・マクギアと変えて芸能活動を続けていった。そんな彼が1972年に発表したソロ・アルバムが「ウーマン」だったのである。

[枚数限定][限定盤]ウーマン/マイク・マクギア[SHM-CD] [枚数限定][限定盤]ウーマン/マイク・マクギア[SHM-CD]

販売元:Joshin web CD/DVD楽天市場店
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 内容はポールの弟として聞くと、そんなによくはない。しかし一ミュージシャンとして聞くと私の中の水準点は越えていると思う。コメディや演劇の役者が片手間に歌いましたという印象ではなく、まじめに音楽に取り組みましたという姿勢は伺うことができるからだ。

 兄ポール・マッカートニーとは比較にはならないが、それでも音楽的な才能は一般人よりは高く、すべての曲作りにかかわっており、中には作詞・作曲というのもある。そしてプロデュースは彼自身が行っている。

 特にアルバム・タイトルにもなった"Woman"は乳癌で亡くなった母親のことを歌っているようで、印象深いものになっている。アルバムのジャケット写真も母親の写真を使用しているという事で、この兄弟は母親の死がトラウマになっているのか、家族愛が強いのか、あるいは違う意味でマザ・コンになったのではないかと思っている。(だからポールは年上のリンダと結婚したと思うのだが、マイクはどうだったのだろうか)

 また全体的に一本調子になることはなく、バラエティ豊かな内容になっている。この辺は役者としての才能が音楽面にも影響を与えたのかもしれない。

 1曲目の"Woman"はバラード系で、2曲目の"Witness"は結構渋いポップ・ソングに仕上げられている。曲間のブルーズ・ハープやブラス、アコースティック・ギターが曲に彩を添えている。

 3曲目の"Jolly Good Show/Benna"はボーカルの多重録音がパーカッシヴに聞こえる意欲的な実験作になっていて、この辺は兄譲りの非凡なアイデアだといえると思う。
 またバックの演奏も堅実で、ドラムスはフェアポート・コンヴェンションのメンバーだというし、他のミュージシャンもそれなりに実績のある人たちらしい。マイクが声をかけたというから、音楽関係の人脈もあったのだろう。あるいは兄の後押しがあったのかもしれない。

 マイクの声は兄ポールとは違って、結構中音域が目立つ。"Wishin"という曲はアップテンポのロックン・ロールでシャウトしているのだが、高い音が出ていない。ポールなら高音が伸びるのだが、マイクはそうではない。この辺が面白い。だからこのアルバムはポールの「ラム」をかなり淡白にしたような感じがする。

 "Bored as Butterscotch"という曲もこのアルバムのお薦めである。ピアノがニッキー・ホプキンスしているし、バックのコーラスがビートルズっぽい。メロディもストレートに覚えやすく非常に聞きやすい曲になっている。

 へたに凝らずに、素直に作った曲の方がよかったと思う。たぶんファースト・アルバムだからワン・パターンにならずに気を遣って制作したのだと思うが、確かに音楽的才能は弟にもあると思う。一聴に値するアルバムではある。

 個人的にはマイクの次のアルバム、1974年に発表されたセカンド・ソロ・アルバム「マクギア」を聞いてみたいと思っている。これにはポール・マッカートニー&ウィングスが全面的にかかわっており、プロデュースはポール・マッカートニーで、曲作りも弟一緒に行っているからだ。

 そして曲自体もウィングスのアルバムに入っていてもおかしくないというから、かなりポップな音だと思うのである。
 しかし、残念ながらこのアルバムは売り上げ的には悪かったようで、マイク・マクギアはこれ以降アルバムは制作していない。音楽業界から手を引いたようである。

 その後のマイクは、趣味の写真をいかして、そこから本格的な写真家として歩み始めたようだ。個展や写真集も発表しているという。やはり芸術的な才能は兄弟ともに備わっていたのだろう。

 とにかく衝動的に買った割には、結構いいアルバムだった。次は彼の2ndアルバムを手に入れようと思うのだが、果たして再発されるかどうかわからない。癌の再発は嫌だが、こういう再発はこれからどんどんやってほしいものである。

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2009年6月 1日 (月)

エヴァ・キャシディ

 休みの日に例によってCDを漁りに行った。今回は目的があって、今まで自分でブログに書いたCDを手に入れようと思った。

 それでやっぱり、イッツ・ア・ビューティフル・ディの2ndアルバムは廃盤だったが、1stと2ndを1枚にまとめた企画盤は販売されていた。ただ、ジャケット・デザインが版権の問題があって使用できないようで、黒字にタイトル名だけの非常に地味なジャケット・デザインだったし、値段的に高かったのでやめた。
 またクィックシルヴァー・メッセンジャー・サーヴィスの「ジャスト・フォー・ラヴ」も置いてなかった。

 しかし、ジャニス・ジョップリンの「ライヴ・アット・ウィンターランド」とエヴァ・キャシディの「ソングバード」はあったので、即購入してしまった。両方とも輸入盤である。

 ジャニスのアルバムはビッグ・ブラザー&ザ・ホールディング・カンパニーとのもので、1968年のアルバム「チープ・スリル」が発表されて間もない頃のライヴである。
 地元サンフランシスコで4月12,13日の両日にわたって行われた公演から収録されているのだが、全14曲、通して聞くと、もうお腹いっぱいという感じになってしまった。

Live at Winterland '68 Music Live at Winterland '68

アーティスト:Janis Joplin with Big Brother and the Holding Co.
販売元:Sony Mid-Price
発売日:2008/02/01
Amazon.co.jpで詳細を確認する

 確かに素晴らしいアルバムなのだが、自分は「チープ・スリル」に聞きなれてしまっているせいか、コンパクトにまとまっている「チープ・スリル」の方が良かったように思えた。
 途中でジャニスが休憩を取っているのか、ギタリストやベーシストがボーカルを取っている曲もあって、ほぼ当時のコンサートの再現をしているのはいいのだが、途中だれてしまう場面もあったことも事実である。

 もう1枚のアルバム、エヴァ・キャシディの「ソングバード」、これはもう傑作である。1998年に発表された彼女のコンピレーション・アルバムなのだが、一度聞いただけで忘れられないアルバムになってしまった。

 もともとこのアルバムは、写真芸術家の風呂井戸氏から教えられたもので、このアルバムを聞くとジャニスを思い出すということだった。それでエヴァ・キャシディがジャニスと同じような歌い方をするとか、何か共通性があるのだろうと思って聞いたのだが、1曲目の"Fields of Gold"を聞いて正直驚いてしまった。ジャニスと声質は異なるが、むしろ表現力や抑制されたボーカリゼーションはこちらの方が上だと思ったのである。

Songbird Music Songbird

アーティスト:Eva Cassidy
販売元:Blix Street
発売日:1998/05/19
Amazon.co.jpで詳細を確認する

 ジャニスの場合は、若さからか迫力や突っ走っていこうとする衝撃などは十二分に兼ね備えているのだが、逆にそれが若すぎる死につながったのではないかと思っている。ある意味、自暴自棄というか充実した刹那主義というか、危険と隣り合わせの幸福感であったと思う。

 その点、エヴァ・キャシディの方は非常に歌う事に誠実であり、しかも完璧に自分をコントロールする事ができる感情や表現力を身に着けていると思う。オリジナルのスティングが歌った"Fields of Gold"がこんなにいい曲だと知らなかった。エヴァのおかげで逆にオリジナルを聞きたくなってしまったのである。

 ジャニスとの共通点は、両名とももうこの世にはいないということだろうか。エヴァは1996年に33歳の若さで亡くなっている。死因は皮膚癌であった。だからこのアルバムは、彼女の死後に制作されて発売されたということになる。

 たった10曲しかないアルバムだが、私にとっては名盤である。基本的には「ライヴ・アット・ザ・ブルーズ・アレイ」「エヴァ・バイ・ハート」の2枚のアルバムから編集されているのだが、1曲だけジャズ・ミュージシャンのチャック・ブラウンとの共演アルバムから収録されている。

 "Fields of Gold"、"Autumn Leaves"、"People get ready"などは、ライヴ盤から編集されているのだが、心に染み渡る曲というのはまさにこういう曲群を指すのだと思う。
 逆に"Wayfaring Stranger"、"Time is a Healer"などでは、押さえるべきところは押さえ、シャウトすべきところはシャウトしている。この落差がたまらない。この辺はジャニス・ジョップリンと似ているかもしれない。

 でも同一人物が歌っているとは思えないほど、ライヴ盤とスタジオ盤の曲は印象が違ってくるのだ。スタジオ盤の曲は本当に白人が歌っているのだろうかと疑問に思えるほど、艶っぽくてソウルフルなのである。
 基本的に彼女はジャズ畑の人だとは思うのだが、その豊かな声量や確かな表現力などはジャズやポップスのフィールドを軽々と飛び越えている。まさにスィート・ヴォイス、彼女独壇の世界である。

 確かに彼女の死後、その才能に対して評価が高まり、数々のアルバムが発表されている。生前よりも亡くなった後の方がアルバム数が多いというのも、彼女の人気の根強さを表しているようである。
 事実、このアルバムは英米のチャートで1位を獲得しているし、2002年と2003年に発表されたアルバム「イマジン」、「アメリカン・チューン」はイギリスで1位を獲得している。さらには昨年発表された最新アルバム「サムホェア」はイギリスで4位、スゥエーデンでは12位、ノルゥエイーで11位を記録している。

Somewhere Music Somewhere

アーティスト:Eva Cassidy
販売元:Blix Street
発売日:2008/08/26
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 確かにロックには初期衝動が必要なのだが、しかしこういうアルバムを聞くと、本当に心が洗われる気持ちになる。一服の清涼剤のようだ。

 彼女が癌で亡くなったという事も、彼女の悲劇性に拍車をかけているようだが、でも彼女の生死に関係なく、彼女の歌は素晴らしいと思っている。今度は彼女の亡くなる前のライヴ盤である「ライヴ・アット・ザ・ブルーズ・アレイ」を購入したいと思っている。

 ネットのユーチューブでは「ライヴ・アット・ザ・ブルーズ・アレイ」の動画が掲載されている。1曲だけではなく数曲あるようだが、ひょっとしたらこのときの映像が残されているのかもしれない。
 だとすれば某国営放送で深夜にでも流してほしいものである。ジャニス・ジョップリンが放送できるのなら、エヴァ・キャシディもできるのではないだろうか。

 いずれも27歳、33歳と若くしてこの世を去ったシンガーであるが、おそらく今後も彼女たちの名前はロック・ミュージックの歴史に刻まれて残っていくに違いない。
 年をとっても新しい音楽やミュージシャンを知り、しかもそれが素晴らしいとわかったときの喜びは何ものにもかえがたいものがあると思う。

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