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2009年7月24日 (金)

リラプス

 先日、日本で46年ぶりの皆既日食があった。多くの人が空を見上げてだんだんと欠けていく様子を観測したのではないだろうか。
 かくいう自分も60円で買った観測用サングラスを使って見守ったのであるが、雲が多くてサングラスを使わなくても十分見ることができた。中には携帯電話で直接太陽を撮影している人もいて、結構周りでは盛り上がっていたように見えた。

 そして皆既日食といえば、やっぱりこのアルバム、ピンク・フロイドの「狂気」であろう。きっとこの日本でも皆既日食を見ながら、フロイドの「狂気」を聞いていたり、思い出していた人が1万人以上はいたに違いないと思っているし、全世界ではおそらく100万人はいたに違いない。何しろ"狂気日食"なのだから、やはり46年ぶりの日食にはピッタリなBGMだと思うのである。

 それで46年ぶりまでは行かないのだが、約5年ぶりにアルバムを発表した世界的ミュージシャンがいる。その名をエミネム。彼のアルバム「リラプス」は数年間のブランクをまったく感じさせずに英米のチャートで1位を獲得してしまった。相変わらずの人気振りである。

 タイトルの“リラプス”とは、“(悪癖や病気の)再発”という意味らしい。約5年間の充電期間を経て、いよいよまたエミネム・ショウの始まりということだろう。
 またアルバム・ジャケットを見てもやる気が十二分に伝わってくるシロモノになっていて、よく見ると薬の錠剤が集まってエミネムの顔を形作っている。

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 確かに数年間は薬物治療の施設に入院していたといわれているし、その後のリハビリにも頑張ったと言われている。あのイギリスの歌姫、エイミー・ワインハウスともリハビリ仲間らしく、このアルバムの"We Made You"でも彼女のことをライムしている。

 内容的にもちょっとここでは書き表すことのできないR-18指定映画のような、四文字語の連発になっている。また実名で有名ミュージシャンや女優のことを名指しして、“××しようぜ”とも歌っていて、よくこれで名誉毀損にならないなあと感心してしまうのである。

 たぶんあのエミネムからライムされちゃったという感じで、ある意味これは名誉なことなのかもしれない。全世界的に自分の名前が売れるのだから、営業努力をしないでもいいことにつながるし、商業的にもオイシイ話なのかもしれない。それほどエミネムの影響力は凄いということなのだろう。

 ラップ・ミュージックなど、どれを聞いても同じという意見もあるだろうが、自分にとってはエミネムは別口という感じである。

 何しろ攻撃的である。これほど攻撃的な音楽はロック・ミュージックにもそうそうあるものではない。ロックは現実への反抗、初期衝動や疾走感を内蔵している音楽なのだが、激しいシャウトや音の歪みを使用しなくて、単なる早口の押韻だけでこれほど社会に対してアジテーションができる音楽は他に見当たらない。
 
 その中でエミネムはやはり別格であろう。グラミー賞でエルトン・ジョンと共演したことからでもわかるように、エミネムのフックは非常にわかりやすく、かつメロディアスである。
 そして彼の紡ぎだすそのライムは誰も真似ができない。なぜならそのほとんどは彼の私小説的体験から来ているからである。

 彼の幼少時の家庭環境や、いじめを受け自殺未遂まで起こした少年時代の様子などは彼の自伝映画「8マイル」でも垣間見ることはできるし、母親との裁判や元妻キムとの再婚と再離婚、彼女との間にできた愛娘ヘイリーの養育問題など、いまだにスキャンダラスな生活を送っている。

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 これらは決して彼が自ら望んだことではないのだが、結果的にはそういう状況に落ち込まざるを得ないのである。また彼自身の薬物依存も完全に治ったわけではないのだ。

 ハリウッドに豪邸を構え、経済的には何不自由するわけではないのだが、彼の抱えている負のエネルギーは収まりがつかないほど、彼を苦しめているのであろう。彼の口から機関銃のように放射されるライムは跳ね返ったあと、彼自身を照準にしているかのようだ。

 そういう彼の生き様もまたファンにはたまらないものかもしれない。彼が今後どういうふうになるかはまったく予断を許さないからである。薬で廃人同様になるのか、それともクラプトンのように傷つき倒れながらも、そのつど這い上がっていくのか、彼の一挙手一投足、一言一言が注目されていくだろう。

 またラップ・ミュージックにも音楽的進化はあるのだ。このアルバムの5曲目"Bagpipes From Baghdad"ではタイトルのように中近東風のフックが使用されているし、17曲目"Beautiful"でもタイトル通りの非常に美しいメロディにのって彼のライムが流れている。だからワン・パターンの音楽とは違うのである。エミネムのラップは。

 噂では今年の秋にもこのアルバムの続編「リラプス2」が発売されるという。きっとそのアルバムも全世界的な話題になるだろう。皆既日食は世界の限られた地域にだけ見られる現象であるが、エミネムのことはその私生活も含めて、決して地域限定にはならない(なれない)普遍的な現象なのである。


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