ハットフィールド&ザ・ノース
カンタベリー系・ミュージックのバンドを紹介しているわけだが、だいたい時系列にそって古い順から紹介しているので、今回はハットフィールド&ザ・ノースの登場となる。
日本でも絶大な?人気を誇るハットフィールド&ザ・ノースなのである。あの日本のジャズ・ロック・プログレ・バンド、アイン・ソフもハットフィールド&ザ・ノースをもじって「帽子と野原」というタイトルのアルバムを発表しているくらいである。
しかもこのバンド、カンタベリー系のミュージシャンの代表メンバーで構成されていて、いわゆるスーパー・バンドなのである。1973年のデビュー当時のメンバーは以下の通り。
キーボード・・・デイヴ・ステュワート(元エッグ)
ギター・・・フィル・ミラー(元マッチング・モウル)
ベース・・・リチャード・シンクレア(元キャラヴァン)
ドラムス・・・ピップ・パイル(元ゴング)
実に堂々たる布陣である。“ディス・イズ・カンタベリー”といっても過言ではないメンバー構成で、この面子での音楽がどういうものになるのか結成当初から期待されていたようである。
自分が最初に聞いたのは、彼らのデビューから少し遅れてからだったが、まだ子どもだったせいか音の印象については、残念ながらよく覚えていない。
しかし、そのアルバム・ジャケットの手触りはよく覚えている。普通のアルバム・ジャケットよりも上質紙で出来ていて、まるでコーティングされたような手触りだったのである。しかもデザインがカッコよくて、夜のような昼のような街の情景が記憶に残っている。
よくみるとキリスト教の宗教画のように、天上の部分に様々な人々の姿が薄く描かれているのだが、それに気づいたのはもっと後で、当時はよくわからなかった。
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Hatfield and the North アーティスト:Hatfield and the North |
そしてこれも師匠の家で拝見したものであるが、そのデザインや手触りだけが記憶に残っていて、たぶん音楽も一緒に聞いたと思うのだが、その点については記憶にない。たぶん師匠もあまり推薦しなかったのではないだろうか。カセット・テープにも録音した覚えはないのである。
それはともかくとして、この1stアルバムのゲスト・ミュージシャンの中には後にデイヴ・ステュワートとコンビを組むバーバラ・ガスキンが女声コーラス隊の一人として参加しているし、内ジャケットには車椅子に乗っているロバート・ワイアットが描かれていて、事故の後にレコーディングに参加したことがわかる。こういう交流が普通に行われていたのもカンタベリー・ミュージックの特長であろう。
曲数は全15曲(CDでは17曲)と多いのだが、最初と最後の曲はサウンド・エフェクトのように短くて、曲間もほとんどなく、短い曲を連ねてトータル・アルバムのような形式になっている。
ジャズ・ロックという分野に入るのだろうが、メロディがはっきりとしていて堅苦しくないし、聞きやすい。そういう意味ではソフト・マシーンやマッチング・モウルと全然違い、同じカンタベリー系とは思えないほどである。
そしてメロディの優しさとともに、リチャード・シンクレアの声質も柔らかく温かみがあり、何となくこちらまで和んでしまうのである。初期のキャラヴァンもそうだったのだが、彼が歌うと不思議と安心してしまう。
このアルバムでは中盤から後半にかけて素晴らしいと思う。前半は何となく聞き過ごしてしまうのだが、7曲目の"Rifferama"や9曲目の"Shaving is Boring"などは躍動感があって聞き応え十分である。こういう演奏を聴くと、やはりジャズ・ロックだなあとつくづく実感してしまう。
さらに10曲目の"Licks for the Ladies"は一転して静かなバラードになるし、13曲目"Lobster in Cleavage Probe"と14曲目"Gigantic Land Crabs in Earth Takeover Bid"はアルバムの最後を飾るかのようにメンバー全員で白熱したプレイを繰り広げている。しかしその激しさを感じさせないのが、このグループの特長なのだ。
CDではイギリスでシングルとして発売された曲のサイドAとBが収められていて、これがまたボーカル入りのポップ・ソングなのである。この表現の幅の広さもハットフィールド&ザ・ノースの素晴らしさなのであろう。
そして彼らの素晴らしさがパッケージされたのが、翌年の1975年に発表された2ndアルバム「ザ・ロッターズ・クラブ」である。これは彼らの最高傑作であり、カンタベリー・ミュージックの中でも最高に位置するアルバムの1枚と評価されている。
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The Rotters' Club アーティスト:Hatfield and the North |
どのアルバム評やプログレ関係の雑誌を読んでみても、このアルバムに関しては最高の賛辞で埋め尽くされているのである。
最初の曲"Share it"のリチャードのボーカルを聞いたとたんに、安らかな気持ちになる。彼のボーカルを耳にすると、そのほんわかとした歌い方や声質のせいで、和んでしまう。そこが幻惑の落とし穴なのである。
彼のボーカルで安らいだ気持ちになり、さらに聞きているうちに複雑な演奏に絡め取られ身動きできなくなってしまい、そのまま一気に最後まで聞いてしまう。途中下車はできない。
4曲目"Chaos at the Greasy Spoon"から"The Yes No Interlude"を経て"Fitter Stoke has a Bath"への流れは見事である。疾走感のある高度な演奏と温かみのあるボーカルとのマッチングが素晴らしい。この部分のほとんどをドラマーのピップ・パイルが手がけている。
そして圧巻は何といっても20分を超える"Mumps"であろう。たたみかけるようなビートとおのおのリードを取るギターとキーボード、合い間に流れる透明感溢れる女声スキャットとゲスト陣による管楽器演奏、どこを切り取っても一糸乱れぬアンサンブルである。20分という時間を感じさせない名演であろう。
イエスの"Close to the Edge"、ピンク・フロイドの"Echoes"、ジェネシスの"Supper's Ready"、キャラヴァンの"Nine Feet Underground"と比べても全く遜色はない。
このスキャットを含むボーカル部分と、軽快かつ複雑なインストゥルメンタルの対比が歴史に残るアルバムを形作ったに違いない。自分にとっては大人になるまで(大人になってからも)この良さがよくわからなかったのだが、じっくりと聞き込むにつれてお灸のようにジワジワと効いてきたのだった。
とにかく聞き流していては、このバンドや音楽の良さはわからない。リチャードのボーカルやポップな躍動感に騙されてはいけないのだ。しかし本人たちはそういうつもりはないのだろうけれど、リスナーにそんな思いをさせては、きっとニンマリしているに違いない。まさに歴史に残るグループなのである。
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