« ステュワート&ガスキン | トップページ | Jay-Z »

2009年11月29日 (日)

ジョージ・ハリソン帝国

 11月29日はジョージ・ハリソンの亡くなった日である。2001年だから今年は8回忌ということになる。
 そこで今回は彼の1975年のアルバム「ジョージ・ハリソン帝国」について述べることになった。原題を“Extra Texture”というアルバムだが、日本語では“格別な生地”とか“格別な手触り”というような意味になるだろう。

Extra Texture Music Extra Texture

アーティスト:George Harrison
販売元:Toshiba EMI
発売日:1992/01/20
Amazon.co.jpで詳細を確認する

 そういう意味にふさわしく、ジョージを中心にして、今回も一流ミュージシャンが参加している。特に目立つのは、当時は無名だが今ではプロデューサーやアレンジャー、ソングライターとして有名になったデヴィッド・フォスターが参加していることだろう。

 デヴィッドは、このアルバムではピアノやストリングス・アレンジを担当しているのだが、当時は前年にジョージ自らが設立したレーベル、ダーク・ホースに所属していた“アティテュード”というグループのメンバーだった。

 このアティテュードには、デヴィッド以外に、ギターにダニー・クーチマー、ベースにはポール・ストールワース、ドラムスはジム・ケルトナーが在籍していて、ジョージはかなりこのグループをプッシュしていたらしい。残念ながら売れなかったけれども…

 それでこのアルバムにもダニー以外は全員参加して、セッションをしている。グループは売れなかったけれども、ベーシストのポール以外はそれなりに名前は知られている。ちなみにこのアルバム・タイトル名を考案したのはポールだったようである。

 この時期のジョージはかなり苦悩の時代だったようで、前年の北米ツアーは集客が悪く営業的に失敗したし、個人的にも妻パティは親友エリック・クラプトンのもとに走ってしまった。
 おまけに力を入れて制作したこのアルバムも全米8位、全英22位と元ビートルズとしては不本意な結果になってしまったのだ。前作「ダーク・ホース」が全米4位だったから、段々と下降気味で、70年代の半ばともなると“元ビートルズ”という称号も通用しなくなったのだろう。

 そんな背景の下に発表されたアルバムなのだが、どうしてどうして今聞くとなかなか良い曲も含まれていると思う。

 最初にシングルカットされた"You"はジム・ホーンの吹くサックスが印象的なメロディアスな曲で、60年代風味の味付けがされた名曲でもある。

 それもそのはずこの曲だけは1971年に作られていて、本当はフィル・スペクターの奥さんだったロニー・スペクターがシングルとして発表する予定だったのだが、それが変更されてお蔵入りになってしまった。で、結局ジョージはそれを思い出し、この曲をこのアルバム用にアレンジしたのである。だからこのアルバムでもどこか違う雰囲気をもっている。

 ドラムスはジム・ゴードンとジム・ケルトナー、ベースはカール・レイドル、ピアノはレオン・ラッセル、エレクトリック・ピアノはゲイリー・ライトという豪華布陣であるが、これは71年の録音に音をかぶせたものだから、こうなったのだろう。それにしても名前だけ聞くと、まるでデレク&ザ・ドミノスのようである。

 2曲目"The Answer's at the End"はバラード・タイプの曲で、あの名曲"Isn't it a Pity"にインスパイアされて作ったという。そういえば確かに似ているような感じはする。

 3曲目はジョシ・エド・デイヴィスのスライド・ギターが堪能できる"This Guitar (Can't Keep From Crying)"で、あのビートルズ時代の名曲"While My Guitar Gently Weeps"の続編として作られたとのこと。
 ビートルズ時代の曲は有名になったのだが、残念ながらこの曲はシングルカットされたものの、売れなかった。やはりエリックが演奏していないとダメなのだろうか。ちなみにエリック・クラプトンはこのアルバムにはまったく参加していない。それまでのアルバムには参加していたのだけれど…

 4曲目の""Ooh Baby (You Know That I Love You)"は眠くなりそうな曲で、スローな子守唄タイプだ。いつの間にか終わってしまう。ソウル・ミュージシャンのスモーキー・ロビンソンを意識して作ったそうで、ジョージは彼を尊敬していたようである。しかし“煙のように”消えてしまいそうな曲ではシャレにもならない。

 5曲目"World of Stone"はデヴィッド・フォスターの美しいピアノで始まる曲。これもスローなバラードで終わるのかと思いきや、途中からミドル・テンポになるのがうれしい。エンディングではジョージのギター・ソロもあって、曲自体は面白みがないものの、サービス精神は見られる。

 後半の"A Bit More of You"は1曲目"You"のリプライズで、わずか45秒で終わる小曲。続いての"Can't Stop Thinking About You"は名曲である。前作に収められていた"Far East Man"を思い出させるようなバラードになっていて、ジョージ特有のいきなりサビの部分から始まる構成になっている。またこの曲にだけニッキー・ホプキンスが参加している。

 こういう涙が出そうな名曲を、ときどきさりげなくアルバムに収録しているのがジョージ・ハリソンの素晴らしさなのである。この謙虚さ、この奥ゆかしさ、ジョンとポールの陰でひっそりと佇んでいたビートルズ時代を思い出させる。まるで王、長島に対する野村監督のようだ。

 続いての"Tired of Midnight Blue"にはピアノにレオン・ラッセルが参加しているが、たいした曲ではない。飛ばして聞いても差し支えないだろう。"Grey Cloudy Lies"は渋い曲だが、メロディは美しい。ベースはアティテュードのポール・ストールワースが弾いている。

 最後の曲"His Name is Legs (Ledies & Gentlemen)"はレッグス・ラリー・スミスという人にちなんで作った曲で、彼自身もゲスト・ボーカルで参加している。

 このレッグスという人は、ボンゾ・ドッグ・バンドのドラマーらしいのだが、彼らのアルバムは1枚持っているのだけれども、自分はくわしくは知らない。ただコミック・バンドのようで、メンバーの何人かはビートルズの“マジカル・ミステリー・ツアー”に参加していて、以前からビートルズとのつながりは深かったようだ。
 後のジョージのアルバム「ゴーン・トロッポ」のアルバム・ジャケットは、レッグスが担当していた。

 またメンバーのニール・イネスは、のちにラトルズというビートルズのパロディ・バンドを結成して、アルバムも発表している。これはかなりの名盤?だと個人的には思っている。

 いい曲も含まれているのだが、後半になるにつれてパワー・ダウンしてしまうアルバムでもある。逆に考えれば、全米8位になっただけでもラッキーだったのかもしれない。元ビートルズという称号の影響力かもしれない。

 ただ今までの“抹香臭さ”というか“宗教的救済”のような楽曲はなくなり、その分聞きやすさは増したと思う。こういう音楽をもっと追求してほしかったというのが個人的な意見である。

 というわけで今年は「ジョージ・ハリソン帝国」を紹介したのだが、ますます厳しい状況に取り巻かれてしまうジョージだった。そういう自身の状況ややるせなさなどが反映しているアルバムなのかもしれない。
 来年はこの次のアルバム「33 3/1」について述べたい。そして一応の締めくくりにしたいと思っている。


« ステュワート&ガスキン | トップページ | Jay-Z »

ブリティッシュ・ロック」カテゴリの記事

コメント

コメントを書く



(ウェブ上には掲載しません)




トラックバック


この記事へのトラックバック一覧です: ジョージ・ハリソン帝国:

« ステュワート&ガスキン | トップページ | Jay-Z »