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2009年11月24日 (火)

ヘンリー・カウ/スラップ・ハッピー

 基本的にこのブログでは、自分の聞いた音楽や所持しているCDを紹介していて、自分が聞いたことのないものや知らない音楽やミュージシャンは、当然のことながら記されない。というか当たり前のことだが書けない。

 今まで延々とイギリスはカンタベリーを中心として生まれた音楽や音楽集団を紹介してきたのだが、それらも一応は聞いたことのある音楽だった。

 ところがここに同じカンタベリー系ミュージックには属するものの、自分ではほとんど聞いたことのないグループを紹介しなければいけなくなった。そうしないとこのシリーズが完結しないからである。

 そのグループの名はヘンリー・カウという。グループの結成は意外と古く1968年である。当時ケンブリッジ大学の学生だったフレッド・フリスとティム・ホジキンソンがそれぞれギター、バイオリンとサックス、キーボードを担当してバンド結成を行ったのである。

 彼らは直接カンタベリー系ミュージックと関わったわけではないのだが、カンタベリー系ジャズ・ロック(特にソフト・マシーン)の影響を受けたのは間違いない。しかしベース担当のジョン・グルーヴスやドラムス担当のクリス・カトラーが加入するにしたがって、その音楽性はジャズ・ロックよりももっと即興性を尊重した前衛音楽、現代音楽として発展していくのであった。

 また思想的には共産党的左翼思想に基づいており、グループ運営の手法や創作活動の方法も民主的かつ組織的でもあったのである。こういうグループはロック・ミュージックでは珍しい方である。
 ただイギリスでは左翼思想は珍しくなく、ロバート・ワイアットも80年代は積極的に活動をしている。アメリカでは共産党的な左翼思想はあまり普及せずに、ロック・ミュージックはヒッピー的コミューンになっていった。これは国民性の違いだろうと思っている。

 彼らの1stアルバムは1973年に発表された「レッグエンド」である。これは"Legend"と書いて“レッグエンド”と読むらしい。文字通り“脚の終わり”=“つま先”の写真がアルバム・ジャケットになっていて、一目見ただけで忘れられないほどの話題性も充分にあった。こういうユーモア精神は、カンタベリー系ミュージシャンに共通するものである。この点でも彼らは、カンタベリー系にくくられる原因かもしれない。

Leg End Music Leg End

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 自分はこのアルバム・ジャケットを見たことはあるのだが、聞いたことは記憶に残っていない。おそらく当時の“師匠”が見せてくれたような気がするのだが、真剣に聞いたことはないのである。たぶん“師匠”が気を利かせてくれて、聞かせてくれなかったのであろう。
 むしろ同時期に出たマイク・オールドフィールドの「チューブラー・ベルズ」の方を聞いた覚えがあり、これは確かに素晴らしいアルバムであった思い出がある。途中だれる事もなく一気に聞きとおした思い出がある。

 だからヘンリー・カウという名前は知っていても、その音楽を味わうことはなかった。子ども心にはジャズ・ロックといってもよくわからず、さらに前衛音楽といえば、これはもう宇宙人の音楽のように思えたからである。

 設立当時のヴァージン・レコードは、商業主義よりも芸術主義を優先していて、売れる音楽よりも芸術性や話題性を包含している音楽を大切にしていた。そして結果的にみれば、時代的にそういう音楽も売れたのである。何といい時代であったことか。

 だからマイク・オールドフィールドは別格だが、ヘンリー・カウやスラップ・ハッピーなどがデビューできたのも当時の営業方針によるのであろう。

 前衛音楽といってもあくまでもジャズを基調としたものであり、その演奏水準は並大抵のバンドは太刀打ちできないものであった。だからこの1stアルバムは歴史に残るアルバムとなったのである。

 自分が持っているアルバムで関連のあるものは、ヘンリー・カウとスラップ・ハッピーがコラボレイトしたアルバム「悲しみのヨーロッパ」である。
 これはスラップ・ハッピーの3作目にあたるもので、オリジナル・リリースは1975年であった。

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 スラップ・ハッピーはイギリス人アンソニー・ムーアとアメリカ人ピーター・ブレグヴァド、当時ムーアの恋人だったドイツ人のダグマー・クラウゼが集まって結成されたバンドで、スラップ・ハッピーとは“めちゃくちゃ幸せ”、“ぶっ飛んだ状態”、“とりあえず気楽に行く”というような意味らしい。語源はギリシャ語に由来しているという。

 彼らはドイツのハンブルグで結成されたのだが、ドイツのバンド、ファウストと交流があり彼らの協力を得てアルバムを発表するも失敗し、結局ヘンリー・カウのクリス・カトラーを介してヴァージン・レコードからアルバムを発表するようになったのである。

 自分は恐る恐る聞いたのであるが、やっぱりかなり異色であった。彼らの目標は前衛性と大衆性の融合にあるというが、このアヴァンギャルドとポップ性が、よくいえばうまく止揚されているアルバムである。
 逆に悪くいうと、前衛性と大衆性は確保できても、商業性からはまったく見離されている音楽である。

 ちょっと音のずれたような、オペラがかったボーカルと、メロディがあるような無いような不思議な音楽である。最初はどうしても拒否反応が強かったのだが、聞き込んでいくうちに耳に馴染んできた。
 しかし自分にとっては、少なくともアルバム棚から引っ張り出して何回も聞いてみようとは思われない音楽ではある。(9曲目の"Strayed"はポップよりである)

 しかしスラップ・ハッピーの方は、このあとやがて解散してしまう(のちに一時再結成を行い、アルバムを発表した)。どうもヘンリー・カウとのコラボレイトが、アルバムは高い評価を得ることができたものの!、メンバー間の関係が悪化したようである。

 ヘンリー・カウの方は音楽活動だけでなく、RIO(ロック・イン・オポジション)という組織体を結成して、彼らの思想性や音楽性をはじめ、ヨーロッパ各国の優れたアンダーグラウンド・グループを紹介しようと動き始めたのである。こういうところに社会主義運動の影響があったのだろう。1978年頃のことである。

 結局彼らは1979年に解散してしまうのだが、よく言われるような売れなかったからとか、メンバー間の不和などという理由ではなく、やるべきことはすべてやってしまってグループとしての存在理由がなくなったからという極めて思惟的な理由からであった。

 彼らの最大の功績はその音楽性とともに、RIOのような運動を起こし、その結果世界的に彼らの名前や影響力が広がったということであろう。商業主義とは無縁の純粋な芸術至上主義的音楽が存在していけるということを実証してみせたからだ。もちろんその規模は大きくはないけれども。

 ヘンリー・カウのおかげで、カンタベリー系ミュージックもある意味広がっていったのである。だから21世紀の今でもカンタベリー系ミュージシャンはアルバムを発表し続け、過去の音源も発掘されては話題を呼び、関連ミュージシャンが亡くなると世界中で追悼イベントが行われるのである。

 そういう意味でもヘンリー・カウとカンタベリー系ミュージックは相互に影響を与えてきたのであった。
 ちなみにナショナル・ヘルスの2ndアルバムには元ヘンリー・カウのジョン・グリーヴスと元スラップ・ハッピーのピーター・ブレグヴァドが参加しているし、ヘンリー・カウのメンバーだったジョージー・ボーン(チェロ)とリンゼイ・クーパー(オーボエ)も一時ナショナル・ヘルスでプレイしている。


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コメント

カンタベリー系 Richard Sinclair 11 月公演決まりました。ご案内まで。

http://invs.exblog.jp/22251863/

投稿: invs | 2014年8月 5日 (火) 06時51分

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