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2009年12月

2009年12月31日 (木)

マット・カーニー

 「今年の印象に残ったアルバム」シリーズもいよいよ大詰め、最後の1枚になってしまった。最後のアルバムは、来年への期待も込めて、新人ミュージシャンの紹介をしたいと思う。

 その新人の名前はマット・カーニーという。31歳の彼は2004年にデビューし、今年3枚目のアルバム「シティー・オブ・ブラック&ホワイト」で日本でも初デビューしている。

 彼は小さい頃から音楽に慣れ親んで将来はミュージシャンになろうと思っていたとか、音楽の英才教育を受けていたとかいう経歴とはまったく無関係であった。
 むしろ逆に、音楽は趣味程度で、それよりもむしろスポーツに熱心で、大学にはサッカー推薦を受けて進学したくらいである。

 音楽に目覚めたのは大学2年生のときで、同室の友人がギターを持っていて、それを興味半分に爪弾きだしてからだという。初めてギターを弾いたのがそのときで、弾きはじめると同時に作曲も始めた。
 もちろん才能もあったのだろうが、他人の曲を弾いても際立ってうまいというわけではないので、自分で曲を作れば曲の方に注意がいくから作曲を始めたという理由らしい。

 それで3年生のときにカリフォルニアからテネシー州ナッシュビルに赴き、そこで友人と居座り始めて曲作りや演奏を行うようになった。決して自分の強い意志からでなく、友人から車の運転を手伝ってくれと頼まれたからナッシュビルに出かけたということで、世の中何が幸いするかわからないものである。

 結局、その地でアルバムを自主制作し、様々な場所で演奏しているところをスカウトされて、デビューできたのである。
 そして彼の曲はアメリカの多くのテレビ番組の中で、テーマソングや挿入曲として使用され、その影響もあって知名度も上がっていった。それほどメロディ・センスが抜群なのである。

 例えて言えば、イギリスのバンド、コールドプレイのボーカル、クリス・マーティンの歌い方や彼の作るメロディ・ラインによく似ている。特にファルセットの出し方などは二番煎じといわれてもしょうがないほどよく似ていると思う。クリス・マーティンとマット・カーニーはほぼ同年齢なので、そういう意味でも似通ってくるのかもしれない。

 しかし、曲全体はコールドプレイよりももっとアコースティックで、繊細である。70年代のシンガー・ソングライターのような作風は、とてもアメリカ的であり、ジャクソン・ブラウンやジェイムス・テイラーのような温かさと、冷静さを備えている。ある意味イギリスの音楽が海を渡ってアメリカの個人主義と融合した感じだ。

 このアルバム「シティー・オブ・ブラック&ホワイト」でも、そんな彼のメロディ・センスの豊かさを味わうことができる。

シティー・オブ・ブラック&ホワイト Music シティー・オブ・ブラック&ホワイト

アーティスト:マット・カーニー
販売元:SMJ
発売日:2009/07/08
Amazon.co.jpで詳細を確認する


 1曲目や2曲目はリフレイン部分のメロディが美しい。ミディアム・テンポで、こういう曲がアルバムの冒頭に来ると、思わず引き込まれてしまい最後まで聞きとおしてしまう。ドライブしながら聞くと、遠くへ出かけたくなってしまうほどだ。

「僕は君が街に戻ってきたと聞いた
君が出歩いていると聞いた
君が以前通っていた通りから
離れようとしてしるんだろ
僕は君が通っていた通りへと出かけ
君のぬくもりを感じているんだ

君は僕のことを考えた事があるかい
僕の名前を呼んだことがあるかい
僕に聞いて、そうしたら理由を教える
僕の愛がまだ消えていないことを
火や雨を通しても消えていないことを」
(from"Fire and Rain")
訳プロフェッサー・ケイ

 5曲目の"Lifeline"は静かな曲で、基本はアコースティックなのだが、それにエレクトリックな音などが絡んできて、最近のU2のバラード系のような曲に仕上がっている。また次の"New York to California"はピアノ1台で始まり、スティール・ギターやシンセやチェロが重なってきて、これも心に染み入る曲になっている。

 こうやって聞いてみると、確かにメロディは素晴らしいものがあるが、アレンジもまたよく練られていると思う。
 また大陸的な広がりを感じさせてくれるし、本当に自分探しの旅に出かけてみようと無謀なことを思わせる罪作りな曲群なのである。

「この街全部が白黒だ
君の色を教えてくれ
たぶん僕と同じように
君も同じ色だと思う
消え入る緑色や青い通りの灯
海から空まで
燃えるような赤い色もある

明日まで待ちたくないから
僕の残りの人生について
どう思っているか話そう
君は時間を無駄にしたくはない
君が理解したときは

日の沈む暗がりを歩きながら
僕の目を開かせたのは
君だと思っている
水の上の火のように燃え上がる
白黒のこの街で

ここにいてくれないかい
ここにいてほしい

暗い通りの下で
灯りがともる
誰も知らないはず
僕の手を取って
僕は君を運べるし
君も僕を運べるよ」
("City of Black & White")

 確かに様々なミュージシャンの影響をうかがわせるものの、これだけの曲が書ける新人がまだまだいるというところが凄いと思うし、デビューして当然のごとく売れるというアメリカの音楽マーケットも懐が深く、健全に機能している点がうれしい。

 さて来年はどんな新人がでてくるのか、このアルバムを聞きながら期待を持って新しい年を迎えようとしている。2010年がすべての人に良い年でありますように。happy01

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2009年12月28日 (月)

ワーキング・オン・ア・ドリーム

 今年は「変革」の年だったと思う。海の向こうでは初のアフリカ系アメリカ人が"Yes, we can."と呼びかけて大統領になり、日本でも“明治維新”と並び称されるほどの政権交代が起こり、新しい総理大臣が誕生した。

 そんな年にふさわしいアルバムは、やっぱり“ザ・ボス”のニュー・アルバム「ワーキング・オン・ア・ドリーム」ではないだろうか。今年の印象に残った、いや今年を象徴するようなアルバムだと思う。

ワーキング・オン・ア・ドリーム Music ワーキング・オン・ア・ドリーム

アーティスト:ブルース・スプリングスティーン
販売元:SMJ(SME)(M)
発売日:2009/01/28
Amazon.co.jpで詳細を確認する

 前作「マジック」が昨年発表されているから、約1年少々でニュー・アルバムの発表になったわけである。一説によれば、アルバム「マジック」収録曲からのアウトテイクになるのではないかといわれていたのだが、ほとんどはこのアルバムのために書かれたものだという。恐るべし、スプリングスティーン、御年60歳でありながら創作意欲はまったく衰えていないのである。

 ご存知のようにスプリングスティーンは、民主党政権樹立のために(というか打倒ブッシュ政権のために)、様々なキャンペーンに参加してきた。前回の選挙では"Vote for Change"ツアーまで行ってジョン・ケリー上院議員を応援したのだが、残念な結果になって、かなり落ち込んだといわれていた。

 しかし今回は違う。見事に自分の応援した候補が大統領になったのである。しかも新大統領は“自分が大統領に立候補したのは、自分がブルース・スプリングスティーンになれなかったからだ”といって、ブルースへの尊敬を表しているし、彼の選挙時のテーマソングにはスプリングスティーンの2002年の曲"Rising"を使用するほどだった。

 だからというわけでもないだろうが、このアルバムには“明るさ、力強さ”が漲っている。90年代の彼のアルバム群とは違って、かなり受ける印象が違うのである。70年代の彼の良さが戻ってきた気がするのだ。

 アルバム1曲目を飾るのは8分にもなる"Outlaw Pete"で、彼お得意の、社会からドロップアウトしたアウトローを主人公にした寓話である。あの名作「ネブラスカ」を髣髴させる物語であるが、演奏としてはアコースティックではない。E・ストリート・バンドが強力にバックアップしている。

 続く"My Lucky Day"はまさに70年代のアルバムの中の曲のようにパワフルで、明るい。まるで21世紀の"Thunder Road"のようである。そして次の1stシングルでもある"Working on a Dream"が"Hungry Heart"なら、4曲目のロイ・ビタンの叙情的なピアノから始まる"Queen of the Supermarket"は"Backstreets"のようである。

「俺は夢のために働いている
それは遠くにあるように感じるけれども
俺は夢のために働いている
俺たちの愛はいつか現実になるだろう
俺は夢のために働いている
それは遠くにあるように感じるけれども
俺は夢のために働いている
そしていつか俺たちの愛は現実になるんだ」
from"Working on a Dream"
(訳プロフェッサー・ケイ)

 アメリカの現実を歌ってきた彼にとっては非常に肯定的で、直接的でもある。逆にこちらが少し楽観視しすぎではないかと心配してしまうくらいだ。こういう曲もある。

「今日はおまえの誕生日
俺たちは2人でかなり旅をしてきた
さあケーキのロウソクを吹き消そう
そして2人でグラスを傾けるんだ
明日、太陽が昇ったら
新しい一日が始まる
そしておまえが願う事は
きっとおまえの途上にあるはずだ」
from"Surprise,Surprise"

 音的にも明るくて、何となくこちらまでがスィングしてしまいそうな感じである。E・ストリート・バンドが一体となってボスを支えている。できればもう少しギターやサックスのソロが欲しいところで、ちょっと残念ではある。

 もうひとつ大事なことは、このアルバムは2008年4月に皮膚癌で亡くなったE・ストリート・バンドのオリジナル・メンバーだったダニー・フェデリーシに捧げられていることである。
 彼はオルガン、アコーディオンを担当していて、それこそまだ彼らがニュージャージーの地元クラブで歌っていた頃からの長い付き合いだった。
 “毎晩8時なると俺たちはお前と一緒にステージに立ち、そこでは奇跡が起きるのを見た。お前とともに奇跡が存在していたことをお前は忘れないだろう”と、このアルバムにスプリングスティーンの弔辞が載っているが、さぞかし辛かったに違いない。

 "The Last Carnival"は、ダニーに捧げられた曲であり、アコーディオンは彼の息子のジェイソン・フェデリーシが演奏している。

「今夜はおまえなしで俺たちは列車に乗る
走り続ける列車は黒い煙を上げ
深まりつつある夜空を焦がす
何百万もの星が俺たちの上で輝く
まるで生者や死者の魂が神により
一緒に集められておまえの遺骨に
賛美歌を歌うかのように」
from"The Last Carnival"

 アルバムの帯には“ボス史上最もポップな作品”と書かれていたが、確かにポップには違いないが、驚くほどのポップではない。一番ポップなアルバムは、やはり一番売れた「ボーン・イン・ザ・U.S.A.」だろう。

ボーン・イン・ザ・U.S.A. Music ボーン・イン・ザ・U.S.A.

アーティスト:ブルース・スプリングスティーン
販売元:ソニーレコード
発売日:1995/11/22
Amazon.co.jpで詳細を確認する


 むしろ90年代のボスの視点が内省的だったのが、一転して前向き、ポジティヴになり、そういう印象がポップさを引き出しているのであろう。

 この前向きさが来年以降も続いてほしいと願っている。そしてスプリングスティーンには前向きであれ、後ろ向きであれ、常にシーンの第一線に立って、様々な視点から社会や人間を歌ってほしいと思っている。

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2009年12月25日 (金)

21st・センチュリー・スキッツォイド・バンド

 この号を書いている11月末現在ではまだ発売されていないのだが、キング・クリムゾンの「クリムゾン・キングの宮殿」発売40周年を記念して、5枚組CD+オーディオDVDの6枚組ボックスセットが発売される。今頃は店頭で販売されているだろうが、価格は13650円というから、1枚あたり2200円程度であるが、個人的には安い買い物ではないと思う。

In the Court of the Crimson King Music In the Court of the Crimson King

アーティスト:King Crimson
販売元:Discipline Global Mobile
発売日:2009/11/10
Amazon.co.jpで詳細を確認する

 内容的には"Moon Child"(完全版)や"I Talk to the Wind"(別バージョン)、ライヴ音源やアメリカのラジオ局用に作られたアナログ音源などマニア向けともいえるもので、基本的には1stアルバムからの5曲が繰り返し繰り返し、手を変え品を変え登場しては演奏されるというものである。

 確かにあの1stアルバム「クリムゾン・キングの宮殿」は、その音楽性だけでなく、ジャケットの衝撃性といい、その後のロックの歴史を変えてしまうほどのインパクトのあるものだった。当然のことながら、その後のロック・ヒストリーにクリムゾンのフォロワーを大量に排出する事にもなったのだが、どのバンドも本家を超えることはできなかったし、クリムゾン自身も1stアルバムを超える作品を発表することができたかどうかは意見の分かれるところである。

 彼ら自身の中でも、少なくとも常に1stアルバムのことが意識のどこかに存在し、時代ごとに違うメンバー構成で、それを超えようとしていたに違いない。たぶんそれは意識されなかっただろうけれど、ファンの間でもやはり心のどこかに期待している部分はあったのではないだろうか。

 というわけで完全限定盤なので、予約の段階からすでに品薄で完売状態だという。おそらく入手困難になるのは時間の問題だと思われる。この号がアップされた頃はもう手に入らないかもしれない。

 貧乏人の自分としては、ボックス・セットの代わりに2枚組のCDを手に入れて聞いている。それは2007年に発表された21st・センチュリー・スキッツォイド・バンド(以下21stバンドと略す)の「ピクチャー・オブ・ア・シティ~ライヴ・イン・ニューヨーク」である。21th

21STセンチュリー・スキッツォイド・バンド/ピクチャー・オブ・ア・シティー-ライヴ・イン・ニュー・ヨーク-
販売元:新星堂ショッピングサイト
新星堂ショッピングサイトで詳細を確認する

 このアルバムでのメンバー構成は、ベースはピーター・ジャイルズ、ドラムスにイアン・ウォーレス、サックス・フルートにメル・コリンズ、同じくサックス・フルート・キーボードにイアン・マクドナルド、ギターにジャッコ・ジャクスジックという5人組である。

 元々このバンドは2002年に結成されたもので、オリジナル・メンバーにはイアン・ウォーレスの代わりにマイケル・ジャイルズが参加していた。
 ちなみにギタリストでボーカルも担当しているジャッコは、マイケル・ジャイルズの娘婿でもある。彼は1958年ロンドン生まれで、子どもの頃にハイド・パークでのクリムゾンのコンサートを目撃した事をきっかけにして音楽の道に専念するようになったそうだ。

 それでクリムゾンの同窓会的なメンバー構成なのだが、来日公演も行われているし、クリムゾンのファンは世界各地にいるせいか、世界各国で公演を行っている。またライヴ・アルバムも4枚ほど発表されている。

 ただ残念なことに2007年にイアン・ウォーレスが食道癌で亡くなったことから、ドラマーが空席になっている。そのせいかどうかわからないが、現在では活動休止中である。個人的にはマイケル・ジャイルズが復帰すればいいと思うのだが、そういうわけにはいかないのだろう。

 それでこの2枚組アルバム「ピクチャーズ・オブ・ア・シティ~ライヴ・イン・ニューヨーク」は同窓会的とはいえ、一流のミュージシャン、しかもいずれもクリムゾンに何らかの形で関わっているのだから、結構イケルのである。全15曲とヴォリュームもあり、ほとんどがクリムゾンの1stから4thまでのアルバムからの曲なので、感情移入しやすい。

 特に"Cirkus"、"Cadence and Cascade"、"Ladies of the Road"など渋めの曲も聞けるし、"Formentara Lady"から"Sailors Tale"へと流れていくメドレーは何度聴いてもゾクゾク興奮する。スタジオ・アルバムを髣髴させる曲展開なのである。
 またジャッコはマルチ・ミュージシャンでギターもキーボードも堪能なのだが、何とフルートも演奏するそうである。それで"Cadence and Cascade"ではメル・コリンズ、イアン・マクドナルドとともにジャッコもフルートを吹いている。“トリプル・ギター”という言葉や演奏は聞いたことがあるが、“トリプル・フルート”というのは初めて聞いた。

 そして最後に"Starless"が演奏されているのだが、これもまた絶品である。オリジナル・アルバムの「レッド」にはイアン・マクドナルドもゲスト参加していたが、これもスタジオ・アルバムを再現していて、オリジナルがいいだけに、この曲もまたステージで映えるのである。まるでビートルズの「アビー・ロード」の後半のメドレーを思い出させてくれて、ひょっとしたら二度とこのメンバーでの演奏はないのではないかと妙に実感させてくれるのである。

 ただ唯一残念なのは、ジャッコのボーカルは線が細くて、深みがないのである。まるで繊細なグレッグ・レイクもしくはジョン・ウェットンのようだ。
 ただギターは上手すぎる。ロバート・フィリップよりもフィリップらしい。アラン・ホールズワース系のギタリストである。
 だから、"The Court of the Crimson King"のコーラス部分が薄っぺらくてスカスカしているのが悲しい。テープ編集でも良かったからもう少しコーラス音をかぶせてほしかった。 

 しかしそれ以外は満点である。本来のコンサートではさらに「マクドナルド&ジャイルズ」の"Birdman"もアンコールで演奏されたそうだが、それは収録されていない。日本公演では演奏されたそうである。2002年に発売された「ライヴ・イン・ジャパン」では聞くことができるとのこと。

 TOKYO 2002(DVD付) TOKYO 2002(DVD付)
販売元:TSUTAYA online
TSUTAYA onlineで詳細を確認する

 自分にとっては40周年ボックスセットもいいが、それよりもリーズナブルで懐古に浸れるアルバムであった。同窓会的とはいいながら聞きたい曲を聞かせてくれるアルバムでもあるし、本家のクリムゾンはこういうセットリストを組むことはまずないだろうから貴重でもある。今年の印象に残った8枚目のアルバムであった。

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2009年12月23日 (水)

クリアライト

 先日、時間があったので中古CDを見ていたら、クリアライトというグループのアルバムを見つけてしまった。タイトルを「フォーエヴァー・ブローイング・バブルズ」というアルバムなのだが、日本ではあまり有名でないフランスのプログレッシヴ・ロック・バンドが発表したものである。
 もちろん再発アルバムなのだが、1stアルバムは紙ジャケットでも再発されていたからそれなりに有名なのだろう。

 フランスといえばアトゥールやアンジュなどが有名だが、同じ70年代のグループのクリアライトについては自分は知らなかった。ただ1stの紙ジャケのアルバム・デザインは見たことがあったので、名前だけは知っていた。

クリアライト・シンフォニー(CLEARLIGHT SYMPHONY)(紙ジャケット仕様)(PAPER SLEEVE) Music クリアライト・シンフォニー(CLEARLIGHT SYMPHONY)(紙ジャケット仕様)(PAPER SLEEVE)

アーティスト:クリアライト
販売元:CAPTAIN TRIP RECORDS キャプテン・トリップ・レコーズ
発売日:2008/10/30
Amazon.co.jpで詳細を確認する

 だからこのグループについてはほとんど何も知らない。CDの帯にはデヴィッド・クロスを迎えての2作目とあったので、思わず触手が伸びてしまい購入してしまった。しかも中古だったし…

 聞いた第1印象は、これはフランスのカンタベリー・ミュージックということである。カンタベリーは比較的フランスに近いので、ドーバーを越えてフランスに渡ったのだろうか。

 冗談はともかく、1stアルバムの「シンフォニー」はゴング系のミュージシャンが参加していたというが、確かにゴングはフランスでも活躍していたから、ティム・ブレイクやスティーヴ・ヒレッジなどが参加していたのであろう。

 このアルバムは聞いたことがないので何とも言えないのだが、全2曲すべてインストゥルメンタルという構成で、当時はヴァージン・レコードからデビューしているから、ある意味実験的な要素も含んでいたのだろう。

 それで1975年に発表されたこの2ndでもインストゥルメンタルが中心である。ただ若干ボーカルが入っているのだが、当然のことながらフランス語で歌われている。
 カンタベリー系のミュージシャンは今回はあまり参加していないのだが、ハットフィールド&ザ・ノースの女性コーラス隊ノーセッツのメンバーだったアマンダ・パーソンズやアン・ローゼンサルがここでもコーラスで参加している。

フォーエヴァー・ブロウイング・バブルス(FOREVER BLOWING BUBBLES)(紙ジャケット仕様)(PAPER SLEEVE) Music フォーエヴァー・ブロウイング・バブルス(FOREVER BLOWING BUBBLES)(紙ジャケット仕様)(PAPER SLEEVE)

アーティスト:クリアライト
販売元:CAPTAIN TRIP RECORDS キャプテン・トリップ・レコーズ
発売日:2008/10/30
Amazon.co.jpで詳細を確認する

 そしてこのアルバムでは曲数が多くて10曲も収められていて、その分時間が短くなっている。
 バンドの中心人物はシリル・ヴェルドーというキーボード・プレイヤーで、ほとんどの曲を手がけている。

 曲の時間は短くなったとはいえ、7分台の曲が3曲、8分台が1曲あるし、トータルで50分以上になっている。それなりに充実している曲も多いと思った。
 とにかく雰囲気がジャズ・ロック系でカンタベリーっぽいし、特にギターの音はエフェクトが効いていて、やはりスティーヴ・ヒレッジを連想してしまった。

 またキーボードが主体のアルバムのせいか、ピアノからハープシコード、メロトロンと幅広く使用されている。それらがアルバム全体を微妙にリードしていたり、逆にギターの陰に隠れたりしている点もカンタベリー系の音楽に似ている。

 リーダーのシリルは現在でも活躍中で、カンタベリー系からワールド・ミュージックを経てヒーリング・ミュージックを演奏しているという。キーボード系のミュージシャンには最終的に癒し系に落ち着く人が多いような気がする。

 しかし70年代にフランスでもカンタベリー系の音楽が流れていたというのが興味深い。それだけ当時は流行の先端を走る音楽だったのかもしれない。

 そして個人的にも今年はカンタベリー系の音楽をよく聞いた1年になってしまったのであった。

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2009年12月20日 (日)

ハート

 先日、WOWOWを見ていたら、昔大人気だったハートのライヴ演奏を放映していた。2002年のシアトルでのライヴだそうで、それを見ていた自分はビックリしてしまった。

 ハートといえばアン&ナンシー・ウイルソンの美人姉妹で有名なロック・バンドだったのだが、金髪でギタリストの妹ナンシーはガンガンギターを弾いていた。ところがお姉さんのアンが見当たらないのである。あの黒髪のアンは、ひょっとしたら脱退したのだろうか。

 すると後ろからバック・コーラスの女性らが前にしゃしゃり出て歌おうとするのである。なんだお前たちは、コーラス隊は普通後ろで歌うでしょ、と思っていたら、"Crazy on You"という曲を歌いだした。

 そのコーラス隊と思われた女性は、じつは一人で歌っていたのであった。つまり一人で三人分の体型だったのである。

 例えていうと、60年代のママス&パパスのキャス・エリオット、70年代のアメリカ人ミュージシャン、ミートローフ、80年代ではマイケル・ジャクソンの"BAD"をパロディしたアル・ヤルコビックの"FAT"みたいなものである。

 あるいは元ゴダイゴのミッキー吉野やタレントの森久美子が"These Dreams"や"Magic Man"を歌う姿を想像するとわかりやすいと思うのだが…

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 自分は体型で人を差別したり、好悪の感情を普通は表したりはしないのだが、このときだけはビックリしたのである。何とまあ70年代の姿かたちと変わったのだろうかと。

 もともとハートはアメリカのワシントン州、シアトル付近で結成されたバンドなのだが、ウイルソン姉妹が加入してからはカナダのバンクーヴァーに活動の拠点を移した。だから本来ならアメリカのバンドなのだが、とりあえずカナダで有名になったということで、ここではカナダのバンドとして扱うことにした。

 ハートは76、77年には"Magic Man"や"Barracuda"のヒットで日本でも人気があった。しかもメインのボーカルとギターは美人姉妹ときているので、視覚的にも評判はよかった(と思う)。
 ミュージック・ライフでは頻繁に写真が掲載されていたし、アルバムが発表されるたびに大きく取り上げられていた。

 音楽はいわゆるハード・ロックで、女性がハード・ロックするのはその頃は珍しい方だった。ライヴではレッド・ゼッペリンの音楽をやっていて、"Rock'n'roll"や"Black Dog"を演奏していた。自分は彼女たちのアルバム「ライヴ&ベスト」を持っているのだが、それにも演奏が残されている。デビュー当初からゼッペリンの影響が大きかったのだろう。Photo

 そのコーラス隊、いやアン・ウイルソンは体型だけでなく、声量も豊かになっていて、このライヴでもゼッペリンの"Battle of Evermore"や"Black Dog"を歌っていた。

 ゼッペリンもハード・ロック一辺倒のグループではなくて、C,S&Nやバッファロー・スプリングフィールドばりのアコースティック・ミュージックを演奏するほどの音楽性の広いグループであるが、ハートも彼らのように幅の広い音楽性を備えている。

 彼らの初期から指摘されていたことであるが、ハード・ロック・バンドというわりには音が薄っぺらとか、アコースティックな曲が多いと文句をいわれていたが、それはゼッペリンのように音楽性を広げようとしていたからだろう。今になってやっと彼女たちの音楽性が理解できた気がする。

 彼女たちは80年代初期に低迷を迎えたのだが、外部の作曲陣や当時の売れっ子プロデューサーを迎えて制作したアルバム「ハート」が全米No.1になり、ここから"These Dreams"、"Alone"などのシングル・ヒットも生まれ、MTVでも頻繁に彼女たちのクリップが流されていた。

Heart Music Heart

アーティスト:Heart
販売元:Capitol Records
発売日:1991/08/21
Amazon.co.jpで詳細を確認する

 この85年から90年までが彼女たちの全盛期だったと思う。連続して3枚のアルバムが、アルバム・チャートのそれぞれ1位、2位、3位になっているからだ。もちろんそれには外部の作曲家チームやMTV時代にふさわしい彼女たちの絵になる姿も影響していると思うのだが、いずれにしても時代の波に乗って大きく飛躍した時だった。

 なおこの当時のドラマーは、このブログでも取り上げた元モントローズのデニー・マッカーシーである。彼は10年間ハートでプレイした後、ホワイトスネイクに参加している。

 というわけで、21世紀の今でもハートは活動を続けている。アンは2年前に初めてのソロ・アルバムを発表しているし、妹のナンシーの方は彼女の旦那の映画監督キャメロン・クロウの作品に曲を提供している。

 またこの「アライヴ・イン・シアトル」でもアンはフルートや琴のような楽器を演奏していたし、ナンシーもギターやマンドリンを使って曲に彩りを備えていた。まさに多様な音楽性を志向しているのだ。

 どうでもいいことだが、アン&ナンシーは姉妹なのに、髪の色は違うし体型は違うし、同じDNAを共有しているとは思えない。不思議だ。ひょっとしたら結婚生活がうまくいっているナンシーは旦那がいるせいか体型を常に気にしているのかもしれない。(だからといってアンが既婚かどうかは不明なのだが。いい加減な考えだと自分でも思う)

 体型だけでなく貫禄もあるアンを中心にして、ここらで日本でももう一度一花咲かせてほしいものである。ナンシーの旦那に頼んで、映画音楽に使ってもらうといいと思うのだが、どうだろうか。彼女たちの音楽性なら様々な場面に対応できると思うのである。

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2009年12月17日 (木)

ステュワート&ガスキン(2)

 自分でいろんなミュージシャンのことを書き綴っていると、時々“あっ、このアルバムはまだ未聴だった。じゃあぜひ買って聞いてみよう”と思うときがある。

 たとえば最近では、マウンテンの「悪の華」やホワイトスネイクの「カム・アンド・ゲット・イット」、モット・ザ・フープルの「すべての若き野郎ども」などは、どうしても聞きたくなって購入してしまった。こういうときにただで試聴させてくれるところがあればいいのだが、世の中そんなに甘くはないのである。

 だからいつも財布の中は1万円以下しか入っていないのである。ガソリン代も1回につき3000円しか使用しないし、すべてはCD購入のために切り詰めている。何という音楽至上主義だろうか!自分でもうれしいような悲しいような感じなのである。

 それで今年の印象に残ったアルバムの7枚目はデイヴ・ステュワート&バーバラ・ガスキンの新作「グリーン&ブルー」である。これも彼らのことを書きながら、今年の夏前に発売された彼らの新作をぜひ聞いてみたいと思ったからだった。

 このアルバムは彼らの5枚目?のアルバムで、オリジナル・アルバムとしては1991年の「スピン」以来18年ぶりのものである。一口で18年といっても、オギャーと生まれた赤ちゃんが18歳にまで成長する時間なのだから、どれだけ長かったかがわかると思う。

グリーン・アンド・ブルー Music グリーン・アンド・ブルー

アーティスト:デイヴ・スチュワート&バーバラ・ガスキン
販売元:(株)ディスクユニオン
発売日:2009/03/18
Amazon.co.jpで詳細を確認する

 カンタベリー・ミュージックのところでも述べたのだが、デイヴ自身はずっとプログレッシヴ・ロック畑を歩んできたのだが、なぜかバーバラ・ガスキンと組むと、超ど真ん中のポップ・ミュージックをやってしまうのである。この辺が面白いと思う。

 確かにバーバラの声は、時間を超越したかのように相変わらず澱みも濁りもなく、さわやかで清々している。80年代の初めとまったく変わっていない。まるで不老不死の歌姫のようだ。

 このアルバムは全9曲で、カヴァーは1曲、残りはすべてデイヴ・ステュワートが作詞・作曲、編曲、プロデュースを行っている。もちろんキーボードも演奏している。
 カヴァー曲はビートルズの"Good Morning Good Morning"で、アルバム「サージャント・ペパーズ・ロンリー・ハーツ・クラブ・バンド」に収められている曲である。

 なぜ"She Loves You"や"Ticket to Ride"ではなくて、"Good Morning Good Morning"なのかというと、このアルバムの曲配列が“夜の訪れ~就寝~朝~旅立ち”というふうになっているからで、この“朝”の部分でこの曲が使用されている。
 だからアルバム前半は一種のトータル・アルバムのようになっていて、1曲目"Jupiter Rising "(昇る木星)、3曲目"Let me Sleep Tonight"(今夜は寝かせてくれ)、4曲目"Good Morning Good Morning"(おはよう おはよう)というふうになっているのだ。

 アルバム・タイトルにもなっている"Green and Blue"とは地球のことを意味しているようで、生命を生み出した唯一無二の星である地球のかけがいのない大切さや地球環境の保全を訴えるようなメッセージを包含している。

 音的にはとにかくどの曲を聞いてもポップで聞きやすい。1曲目からノリのよいリズムと軽やかなメロディで聞き手を誘ってくれる。6分30秒以上もあるのだが、長さを感じさせない。
 ドラムスを担当しているのはギャヴィン・ハリソンという人で、古くからのデイヴの友人らしい。ちなみに彼はキング・クリムゾンの最新メンバーだといわれていて、イギリスのプログレ・バンド、ポーキュパイン・ツリーのメンバーでもある。

 2曲目、3曲目と“夜”の部分ではしっとりとしたスローな曲が展開し、まさにリラックスできて安らかな吐息を立ててしまいそうになってしまう。そして“朝”になると"Good Morning Good Morning"が動物の鳴き声も含めてオリジナルに忠実に再現されるのである。

 アルバム後半はデイヴ流ロックン・ロール、"Any Guru"(どんなグールーでも)で始まり、人の死をテーマにした"Bed of Leaves"(木の葉のベッド)へと続いていく。まったく対照的なこの2曲。この辺が単なるポップ・デュオではない実力とプライドを感じさせてくれる。

 最後の曲"The Sweetwater Sea"(スウィートウォーター海)では途中でピーター・ブレグヴァッドのナレーションが入ってくるのだが、この最初の部分を聞いたときは、ムーディ・ブルースの「ディズ・オブ・フューチャー・パスト」やリック・ウェイクマンの「地底探検」のナレーション部分を思い出してしまった。

 しかし途中からこのナレーションと曲がシンクロし、絶妙のコンビネーションを発揮しているのである。この辺はやはり元プログレッシヴ・ロック・ミュージシャンの肩書きを持つデイヴ・ステュワートの本領発揮といったところだろうか。9分を超えるアルバム中一番長い曲でもある。

 とにかく18年ぶりのアルバムは相変わらず表向きはポップなものの、中身はしっかりと自己主張しているアルバムでもあった。この辺が昨日今日出てきたミュージシャンとは違うところでもあり、ファンから見れば次のアルバムもまた期待できるのである。
 しかし次もまた18年後というのはちょっと長すぎると思うのである。Photo

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2009年12月14日 (月)

ジョー・ボナマッサ

 今年の印象に残ったマイ・ベスト・アルバム・シリーズ第6弾は、ブルーズ・ギタリストのジョー・ボナマッサのアルバムである。

 ジョー・ボナマッサといってもあまり多くの人は知らないと思う。彼は日本では配給元がないというか、契約しているレコード会社が存在しなかったのである。だから今まで彼のアルバムの国内盤は発売されていない。

 しかし今年の秋に「ベスト・オブ・ジョー・ボナマッサ」というアルバムがエイベックスより発売されて、やっと日本でも陽の目を見ることができた。これをきっかけに彼の人気は高まっていくものと思われる。

The Best Of Joe Bonamassa Music The Best Of Joe Bonamassa

アーティスト:ジョー・ボナマッサ
販売元:tearbridge international
発売日:2009/09/02
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 彼は今まで7枚のスタジオ・アルバムと2枚のライヴ・アルバムを発表している実力派ブルーズ・ギタリストなのだが、今年でデビュー20周年を迎え、5月には20周年の総決算ということでロンドンのロイヤル・アルバート・ホールでクラプトンと共演している。

 デビュー20周年とはいえ、驚くなかれまだ32歳である。7歳にしてスティーヴィー・レイ・ヴォーンのフレーズを弾きこなし、10歳の時にはB.B.キングをして“稀な逸材”と言わしめたジョーは、12歳でそのB.B.キングの前座を務めデビューしたのだった。

 ただアメリカでは天才ギタリストと騒がれ15,6歳ぐらいでデビューしても、やがて音楽的に行き詰まりを感じてしまい、人気も大きく下降線を下って尻すぼみになってゆくということは、よくあるパターンである。

 1985年に17歳でデビューしたチャーリー・セクストンや1997年に16歳でデビューしたジョニー・ラングなどはその良い例である。確かに彼らは今でもコンスタントに活動中ではあるが、以前のようなネーム・ヴァリューはもう見られない。やはりこの業界で人気を保つのは並大抵の努力だけでは難しいのだろう。(チャーリーの2007年の「明日への轍」は渋い名盤である!)

 ところでジョーの音楽性なのだが、これがまたブルーズという枠に収め切れないほどの才能を秘めていると思われる。
 自分が聞いたのはベスト盤だから、良い曲が厳選されて収められているはずで、どの曲もいい曲だとはわかるのだが、ブルーズ臭はほとんどなく、むしろ良質のブリティッシュ・ロックの優秀なギタリストのアルバムを聞いている錯覚に陥ってしまった。

 誤解を恐れずにいうと、“ブリティッシュ・ロックを演奏するスティーヴィー・レイ・ヴォーン”という感じなのである。9曲目の"Sloe Gin"なんかは、もろブリティッシュ・ロックの湿った質音と泣きのギターが堪能できる名曲なのである。これはもう完全に21世紀のブルーズ・ロック・ギター・アルバムなのだ。

 また3曲目の"Woke up Dreaming"ではアコースティック・ギター1本で表現していて、これがまた緩急見事な演奏だし、7曲目の"The Ballad of John Henry"はストリングスも入っていて、まるでゼッペリンの"Kashmir"なのである。こういう表現の幅広さもまた彼の魅力なのだろう。

 本人は子どもの頃からレッド・ゼッペリンやクリーム、ロリー・ギャラガー、フリー、ゲイリー・ムーアなどを聞いていたらしい。だからニューヨーク州生まれのアメリカン人なのだが、その音楽性はブリティッシュ・ブルーズ・ロックに影響されているのであろう。このアルバムでもロリー・ギャラガーの"Cradle Rock"を演奏している。

 ちなみに2000年には「ニュー・デイ・イエスタディ」というソロ・アルバムを発表したが、このアルバム・タイトル曲はあの超有名なイギリスのバンド、ジェスロ・タルの曲から取ったもので、この辺の感覚が今までのブルーズ・ギタリストとは違うようだ。

 だから良質なブリティッシュ・ロックと豪快なアメリカン・ロックがうまい具合に折衷されていて、新鮮に聞こえるのである。自分のような年寄りにも新鮮に聞こえるのだから、若いリスナーにとってはもっとエキサイティングでフレッシュに聞こえるのだろう。

 とにかくスティーヴィー・レイ・ヴォーン以来の逸材であることは間違いない。9月には来日公演も行ったようだし、日本でもますます人気が出てくるであろう。今後の彼の活躍が大いに期待できるし、次のオリジナル・アルバムが待ち遠しいが、日本では果たして発売されるのだろうか。それだけが心配である。

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2009年12月11日 (金)

追悼;加藤和彦

 60年代から日本の音楽シーンを牽引してきたミュージシャン、加藤和彦が亡くなって約2ヶ月経ったが、最近あらためて彼の残した音楽を聞いては、彼のことを偲んでいる。Photo

 彼は生涯で3000曲以上を作曲したといわれていて、代表的なものではアグネス・チャンの"妖精の詩"、ベッツィ&クリスの"白い色は恋人の色"、竹内まりあ"不思議なピーチパイ"など主に70年代、80年代に歌謡曲、ニュー・ミュージック路線を歩んでいる。

 また彼の活躍はそれだけにとどまらず、CMや映画音楽、舞台音楽と多岐に渡っていた。これも70年代に有名になった“家を建てるなら 家を建てるなら 草の萌える匂いのするカーペットを敷きたいと思っております”というCMも彼の手によるものだし、最近では映画“パッチギ”シリーズやスーパー歌舞伎シリーズで使用された曲も彼が手がけたものだった。

 享年62歳だったから、いわゆる“団塊の世代”に属する人なのだが、少しも年寄りじみたところがなく、いつも若々しい印象を与えていたように思える。
 ただ最後はうつ病から来るノイローゼということで自ら命を絶ってしまった。本当に惜しい人を亡くしたと思う。

 巷間知られているように、彼はザ・フォーク・クルセダーズに所属していて、1967年にシングル"帰って来たヨッパライ"が280万枚以上を売り上げて、当時としては破格な数字を残した。
 この曲だけを聞くと、このザ・フォーク・クルセダーズはコミック・バンドのような感じがするが、実際は豊かな感性を持ったフォーク・グループであった。

 自分は1969年に発表された「フォークル大百科事典」を、しかも再発CDでしか持っていないのだが、全14曲中加藤が作曲したものは5曲で、いずれも瑞々しい感受性をたたえた楽曲だと思う。

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 "花のかおりに"のイントロはバロック風の味付けが施されていて、中期ビートルズをイメージさせてくれるし、"日本の幸福"ではマリンバの音が新鮮に聞こえてくる。また五木寛之が作詞した"青年は荒野をめざす"ではストリングスや管楽器が曲に勢いを与えている。
 このアルバムは、彼らが解散をした後に発表されたもので、おそらくベスト・アルバム的な要素を持っているのであろう。

 加藤が作曲した曲以外にも、のちにはしだのりひことシューベルツで有名になった"風"や民謡の"こぎりこの唄"、なぜか某国営放送の"ひょっこりひょうたん島"まで収められていて、単なるコミック・ソングやフォーク・ソングで彼らを判断してはいけないような、そんな幅広い音楽性を味わうことができるのである。

 自分が持っている彼に関するアルバムはもう1枚あって、1974年に発表された歴史的名盤の「黒船」である。当時の加藤はサディスティック・ミカ・バンドのリーダーだった。

 サディスティック・ミカ・バンドは1972年に結成され、加藤和彦とその妻ミカ(旧姓福井ミカ)、ギターには高中正義、ベースは小原 礼、ドラムスは角田ひろという結成メンバーで、やがてドラムスが高橋幸宏に代わり、3枚目のアルバムではベースも後藤次利に交代した。

 この2枚目のアルバム「黒船」では加藤夫妻に、高中、小原、高橋とキーボード、サックスに今井 裕が加わり、より強力なラインアップになっている。当時は無名だったかもしれないが、今となっては日本を代表する錚々たるミュージシャンたちである。こんなメンバーで臨んだアルバムが悪かろうわけが無いのだ。

黒船 Music 黒船

アーティスト:サディスティック・ミカ・バンド
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 しかもプロデューサーはビートルズやピンク・フロイドのアルバム制作に携わったイギリス人のクリス・トーマスである。
 彼は彼らの1stアルバムを聞いて、次のアルバムのプロデューサーを買って出たということで、当時としては珍しくロンドンでの録音となり、しかも録音に約3ヶ月かかったらしい。

 ちなみにクリスはエルトン・ジョンと学生時代に一緒にバンドを組んでいたようで、そのせいかエルトン・ジョンのアルバム制作にも一役買って出ている。
 なお加藤ミカは、これをきっかけにクリスと恋仲になって和彦と離婚し、同棲を始めている。しかし2人のイギリスでの生活は長くは続かなかったようだ。

 このアルバム、30年以上たったいま聞いてもまったく色あせていない。全然古臭くないのである。特にインストゥルメンタルの"黒船(嘉永6年6月2日)"~"黒船(嘉永6年6月4日)"のところは映像的なイメージを喚起させる音作りになっていて、スリリングな演奏を楽しむことができる。

 このアルバムで加藤の作曲している曲は、メロディアスでポップであり、なおかつインパクトがある。
 あの有名な"タイムマシンにお願い"は、まるでPuffyの"アジアの純真"のようなナンセンスな歌詞と躍動感のあるロックン・ロールになっていて、これは時代が彼に追いついたことを表す証拠なのかもしれない。

 それ以外にも"どんたく"、"四季頌歌"、"さよなら"なども聞きやすく、彼の非凡なメロディ・センスぶりを感じさせてくれる。
 アルバム後半の"塀までひとっとび"と"颱風歌"には、ベーシストの小原 礼が曲作りに参加しているせいか非常に躍動感があり、当時の日本人の感覚から完全に脱却したものになっている。この点でもやはり時代の一歩先を行っていたということであろう。

 このアルバムを発表した翌年に、彼らはロキシー・ミュージックと組んでイギリス・ツアーを行った。当然のことながら彼らは前座だったのだが、ツアーが進むにつれて完全にロキシーを超えていったという。

 確かのこのメンバーなら当時のロキシー・ミュージックの演奏技術を確実に超えていただろうし、新しもの好きのイギリス人なら拍手を持って迎えたことは想像に難くない。このときの模様はライヴ盤に収録されているそうなので、機会があれば聞いてみたいものである。

 最後のインタビューになった9月28日の夕刊フジで、彼はこう述べている。『89点から92,93点くらいの曲ならすぐできるが、120点じゃないとまずい』
 これは音楽を追求する彼の姿勢や意欲を表している言葉だが、自分の望む音楽を求めてはいても、自分の人生については意欲を発揮することはなかった。

 ポール・マッカートニーは現在67歳だが、62歳のときはモスクワの赤の広場でコンサートを行っているし、その後もアルバムを発表し続けている。
 ポールも2回離婚を経験したが、それでも創作意欲だけでなく生きる意欲も失っていない。できれば加藤和彦もポールのように生きてほしかった。今となっては是非もないことである。

 今年の7月に昭和女子大学で行われた松任谷由美のコンサートに飛び入り参加をして、彼女と一緒に"黄色いロールスロイス"を元気に歌っていたのだが、残念ながらそれから3か月後に帰らぬ人となってしまった。たぶんこれが人前で歌った最後の映像になったのではないだろうか。

 とにかく偉大な日本人ミュージシャンであった。年間3万人以上が自ら命を絶っている日本の現状があるが、彼の死もその中の数字の1つとしてカウントされることは悲しいことだし、自分の中では清志郎の死とともに、いまだに信じられないのである。

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2009年12月 8日 (火)

マウロ・パガーニ

 今年の印象に残ったアルバムのうち5枚目は再発紙ジャケものである。いま流行りのSHM-CDなのだが、自分はそんなに音響には詳しくないのでよくわからない。何となくいい音だとは思う。

 「マウロ・パガーニ~地中化の伝説」と題されたこのアルバムは、1978年に発表されている。

マウロ・パガーニ~地中海の伝説(紙ジャケット仕様) Music マウロ・パガーニ~地中海の伝説(紙ジャケット仕様)

アーティスト:マウロ・パガーニ
販売元:ディスク・ユニオン
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 マウロ・パガーニといえば、あのイタリアのプログレッシヴ・バンド、PFMのオリジナル・メンバーだった人で、バイオリンやフルートなどを担当していたミュージシャンであった。

 PFMについては、このブログでも既に紹介しているので詳細は省くが、とにかくイタリア出身のプログレ・バンドとしては知名度、人気、実力ともにNo.1といえるバンドだろう。

 それで彼はPFMの75年のアルバム「チョコレート・キングス」発表後に脱退した。理由は音楽的見解の違いというものだが、それまでのPFMの活動で自分のやりたいことは一通りやりつくしたのであろう。

 自分の音楽的キャリアを追求し始めたマウロ・パガーニだが、副題にもあるように地中海の音楽と西洋音楽との融合を目指したものになっている。

 最初に聞いたときは、「何コレ?」というような感じだった。それまであまり聞いたことがない音楽だった。インド音楽とも違うし、イタリア音楽とも違う。強いてあげれば、イスラム音楽の旋律に近いものがある。例えばクィーンのアルバム「ジャズ」の1曲目"Mustapha"のような感じである。

 しかし何度も繰り返し聞いていくと、ハマッて来る楽曲なのである。飽きがこないというか、リズムに躍動感があるせいか、よくわからないが新奇な旋律なので、耳新しく聞こえてくるのであろう。

 1曲目の"Europa Minor"では手拍子も加わってのリズムにバイオリンが絡んできて、斬新なものになっているし、2曲目の"Argiento"(アルジェント)では女性ボーカル(たぶんイタリア語!)とフランコ・ムッシーダのアコースティック・ギターとマウロのフルートが三位一体となって展開していく。

 3曲目は邦題"悲しみのヴァイオリン"とあるように、マウロのバイオリンをフィーチャーした曲。2分30秒あまりの短い曲だが、幻想的なソロを聞くことができるし、続く曲"La Citta' Aromatica"(馨しき街)では、バイオリンとエレクトリック・ギターがメインの曲で、これも3分半ぐらいの小品となっている。

 続いて後半は4つの組曲形式になっていて、"L'Albero Di Canto"(木々は歌うpart1)妖しい男性ボーカルに導き出されてバイオリンの旋律が始まる。
 途中で高速リズムに転換し、ピアノ、ベース、ドラムス、妖しい男性ボーカルとともに、まさに宙を舞うバイオリンが奏でられるのである。ある意味マウロ流ジャズ・ロックといえるかもしれない。

 続く"Choron"(コロン)ではマウロのフルート・ソロで始まり、地中海というよりは中近東に近い音楽につながっていく。ひょっとしたらイタリアの音楽的ルーツというものは、このような中近東やイタリア近辺の古曲が融合したものかもしれない。リズムは泥臭いものだが、バイオリンは高速で動き回っている。

 アコースティック・ギターのさわやかなアルペジオで始まる"海の調べ"は、1曲目と並んでこのアルバムを代表する曲である。まさに地中海の豊穣な海を連想させる曲調になっている。
 
 ところで自分はてっきりアコースティック・ギターだと思っていたのだが、これは“ブズーキ”という民族楽器ということであった。ギリシャやバルカン半島でよく使用されるギターやマンドリンによく似た楽器らしい。Photo 2曲目のバックでも演奏されている。だからフランコ・ムッシーダのギターというのは間違いであった。
 でも7曲目の"海の調べ"ではアコースティック・ギターとの共演が行われているのは間違いないようだ。

 

 そして最終曲"L'Albero Di Canto"(木々は歌うpart2)では、再び怪しい男性ボーカルというかスキャットというかが登場し、バイオリンと絡み合いながら、力強くアルバムの幕を閉じるのである。

 イタリアや自分の音楽的ルーツを探るようなアルバムなのだが、リズムのある曲では躍動感があり何回聞いても飽きがこないし、フルートやバイオリン・ソロのところでは彼の卓越した技術とともに、非常に豊かなメロディを堪能することができる。

 決してプログレッシヴ・ロックの王道路線を歩むアルバムではなく、むしろエスニック・ミュージックに分類されるものであるが、マウロの音楽性がよく表れているアルバムだと思う。

 彼はソロ・アルバムに関しては寡作で、だいたい10年に1枚ぐらいしか発表していないのだが、78年のソロ・アルバム以降は自分のボーカル中心のアルバムを制作していて、映画音楽や企画ものを除いては、全曲インストゥルメンタルというのは、現在のところこの1枚しか発表されていない。

 だから彼の演奏を味わうためには、事実上このアルバムしかないのである。そういう意味でも貴重なアルバムだと思う。
 現在63歳のマウロ・パガーニ、あと何枚ソロ・アルバムを作るつもりなのかわからないが、できればこのアルバムのようなものを制作してほしいと願っている。

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2009年12月 7日 (月)

2012

 久しぶりに映画を見に行った。久しぶりに行った映画館は改装されていて、どこがチケット売り場なのか最初は戸惑ってしまった。最近は3D映画が公開されるようになって、それに対応した設備を準備したのに伴い、場内も改装されたようである。やっぱり21世紀の映画館は違うようである。

 それで見に行った映画は「2012」であった。2時間38分もある大作なのだが、見ていて飽きなかったし、時間も気にならなかった。とにかくテンポが速くて一気に見せてくれるのである。

2012 オリジナル・サウンドトラック Music 2012 オリジナル・サウンドトラック

アーティスト:サントラ,アダム・ランバート
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 特に特撮シーンが凄い。地割れに地震、火山の噴火や津波と自然の恐怖を連続して体験することができる。特に噴火で火山硫や溶岩などが降り注ぐ様や巨大な津波が襲ってくる様などは映画だとわかっているにしても臨場感があった。これが3D映画ならもっと凄く感じただろう。

 「2012」とはマヤ文明の暦からとられたもので、マヤ文明によると2012年の冬至の日、つまり12月21日までしか暦がなくて、それは人類の終末が訪れるという理由からである。要するにノストラダムスの予言のような、終末思想に基づく映画なのだが、結構リアリティがあった。

 以前にもニコラス・ケイジ主演の「ノウイング」というディザスター・ムーヴィーがあったが、それに近いものがある。ただあの映画よりは現実的で、終末に対する人類の戦いというか挑戦というか、そういう抵抗が描かれている点でまだ希望は持てるというメッセージが伝わってくると思う。

 監督は「インディペンデンス・デイ」や「ディ・アフター・トゥモロウ」のローランド・エメリッヒで、主演は「ニューオーリンズ・トライアル」や「1408号室」のジョン・キューザックである。

 昔、「ポセイドン・アドヴェンチャー」という映画があったが、そういう映画に共通な点が伺えて面白いと思った。アメリカ映画に共通することかもしれないが、数組の登場人物の人生がお互いに交差し、運命に翻弄されながらそれぞれの人生を歩む点や、「アルマゲドン」のように、やがて1人の主人公がヒーロー的な活躍をして、全員を救うという点である。

 作品によってはその主人公は殉死したり、助かったりと様々なのだが、アメリカン・ムーヴィーではそういうストーリー展開が好まれるのであろう。さすが個人主義のお国柄である。映画にもその精神が反映されているのであろう。

 ここから先は“ネタばれ”につながるので詳細は避けたいのだが、アメリカ政府のトップやG8の先進主要国首脳はこの事実を知っていて、ノアの箱舟のように避難する準備をするのだが、もちろん一般庶民には何も知らされていない。

 ただ超VIPや富豪と呼ばれるような人は、お金を払ってその避難に参加できるのである。その金額が10億ユーロだったように思う。日本円にすると約135円×10億=1350億円ということになるだろうか。こういう現実的なのもアメリカ的なプラグマティズムの表れなのかもしれない。

 ともかく映画としてはよくできているし、もともとありえない話をありえるように上手に加工しているのだから、多少の不自然さには目をつぶるとして、充分にエンターテインメントを味わえる作品だと思う。

 ただこういう話がいまだに世界的に流布しているわけだから、いつの世でも終末観というのは映画や小説では魅力的なテーマなのかもしれない。逃れられない極限的な状況から人間が努力し、奮闘してそれを打開していくというのは、やはりこころ動かされるものがあると思う。
 私のような庶民にとっては、願わくば現実にこのようなことが起こらないことを祈るのみである。

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2009年12月 5日 (土)

MIKA

 “MIKA”と書いて“ミーカ”と読む。「今年印象に残ったベスト・アルバム」の4枚目に紹介するのは、レバノン生まれのロンドン在住のシンガー・ソングライターであるMIKAの「ザ・ボーイ・フー・ニュー・トゥー・マッチ」である。日本語に訳すと“知りすぎた少年”という意味になるだろう。まるでヒッチコックである。

 とにかくこの人の特徴は…
①とにかく背が高い。190cm以上はある。
②超ポップ・ソングばかり歌う。
③レバノン人としては初の世界的歌手。
④難読症という病気である。
⑤アニメおたくである。

 この人の歌う曲を聞いて、こう思った。誤解を恐れずにわかりやすく例えると、“3オクターブの声域になったフレディ・マーキュリーがエルトン・ジョンのピアノをバックに、ジョージ・マイケルの作った歌を歌う”という感じである。

 例えに出てきた3人が3人とも“アッチの世界”の人である。だからひょっとしてMIKAもアッチの世界の人かもしれないのだ。自分は全然気にしないけれども…

 とにかくエルトン・ジョンとジョージ・マイケルとフレディ・マーキュリーを足して3倍したようなポップ・ソングなのである。マイケル・ジャクソンが“キング・オブ・ポップス”なら、MIKAは“プリンス・オブ・ポップス”だ。
 今すぐCDショップに行って、このアルバムを買ってきてもおかしくない、むしろ当然というか、他人からうらやましがられるような感じなのである。

 今年の秋に発売されたこのアルバムは、間違いなく全世界中で爆発的に売れているに違いない。デビュー・アルバムは全世界で500万枚以上売り上げたというが、このアルバムはそれ以上、800万枚以上は売り上げるのではないかと思っている。

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アーティスト:MIKA
販売元:ユニバーサル インターナショナル
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 特に1stシングル"We are Golden"は超ポップで、過去50年の中でも1,2を争うほどの覚えやすくて、歌いやすい曲に仕上げられている。この曲と比肩できるのはビートルズの"She Loves You"、クィーンの"My Best Friend"、ワム!の"Wake Me Up Before You Go Go"などではないだろうか。

 2ndシングル"The Girls"もキャッチーでメロディアス、テンポのよい佳曲である。これで売れない方がおかしいというものだ。

 しかし、このアルバムは単なるポップ・ソング集に終わっているわけではない。上にも書いたけれども、英語は堪能とはいえ、所詮イギリス人から見れば外国人、しかもアニメおたくで、書かれた文字は理解できないのである。そのことなどで子どもの頃はひどいいじめも受けていたらしい。

 だからこの超ポップ・アルバムの中には、とても軽快でハッピーなメロディに乗っかった本人の悲しい思い出や心情が歌いこまれているのである。何という落差だろう。
「この平凡な心は壊れ
君がしたことやまだ知らないこと
語られていない言葉とともに
僕をほっといてくれ
君は戻った方がいい
なぜなら僕は準備ができているから

今以上に何があっても
僕はこんな日が嫌いだ
罠にはまって
僕は振り返ることができない
僕はこんな日が嫌いだ」
(from "Rain")
(訳プロフェッサー・ケイ)

「おお、Dr.ジョン
僕は何をしているんだろう
何が間違っているのだろう
一生懸命努力しているのに
何かがうまく行かない
何かがうまく行っていないんだ」
(from "Dr.John")

 こういう失望や落胆の内容が軽快でポップなシンセやピアノをバックに歌われている。本当に奇妙な感じがする。極めつけは次の曲だ。
「僕はひっくり返った世界の
ゼンマイ仕掛けの人形
君が僕を一人にするなら
間違いなく混乱を引き起こすよ

僕は金の心を持つ
こんなにちっちゃいサイズでも
僕を暗闇に置いたなら
僕の悲しみの叫びを
君は聞くことは無いだろう
(中略)
僕が耐え忍ぶのは
残酷な十字架さ
もう少し近くに来てみたら
君の髪の毛なんか
引っ張ってやる」
(from "Toy Boy")

 自分を子どもの人形に例えながら、対象化し、批評している。しかもそれが決して楽しいものではなく、ある種の毒を含んでいる。
 たぶんこれは自分の幼いころのことを思い出しながら、そのときの体験と自分の姿を重ね合わせて生まれたものであろう。

 もちろんすべてがこの手の歌詞ではないのだが、全部が全部ハッピーというわけではないというところに、MIKAの悲しみがあり、それを乗り越えてきた今の姿があるということだろう。

 こういう現実との対面から喜びや悲しみが生まれ、それがメロディや歌詞を孕み、その落差が大きければ大きいほど、多くの人の感情を揺さぶる名曲が生まれるのである。この辺はエルトン・ジョンやフレディ・マーキューリーという先人が証明していることでもある。

 とにかくこのMIKA、単なるヒット・メイカーやシンガーではない。2ndアルバムを制作するときにピート・タウンゼンドにアドヴァイスを求めたところ、ピートは“職人のように作るべきだ。そうすればアートは生まれてくる。自分はアーティストだと気取ってはいけないよ”と言った。それでMIKAは規則正しい生活を続けながら曲つくりに励んだという。

 1stアルバムが売れても地に足をつけて歩んでいく。この調子でゆくなら必ずや歴史に残るミュージシャンになるだろう。21世紀はMIKAのためにあるかもしれない。

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2009年12月 2日 (水)

Jay-Z

 今年も師走を迎えて、ますます街の雰囲気も何となくあわただしさを感じさせてくれるようになった。年をとると、本当に1年間があっという間に過ぎ去ってしまう。子どもの頃はもっと長く感じられたものなのだが…

 それでこのブログでも、そういう今の時期にピッタリなテーマを考えてみた。題して「今年印象に残ったベスト・アルバム選」である。
 これは今年発売されたアルバムの中から、印象に残ったものを10枚取り上げて感想を述べるものである。これには再発もの(紙ジャケ・シリーズなど)も含むものとする。

 それで今年発表されたアルバムの中で印象に残ったものの中で、まずはグリーン・ディの「21世紀のブレイクダウン」とエミネムの「リラプス」を挙げたい。

 グリーン・ディは前作「アメリカン・イディオット」から約5年、エミネムの方はベスト・アルバム「カーテン・コール」から約4年のインターバルをそれぞれ空けての新作発表であった。いずれもチャートでNo.1を記録しているのだが、それだけ全世界中のファンやリスナーが待ちに待っていたということであろう。このブログでもこの2枚のアルバムについては既に取り上げている。

 この2枚以外で今回3枚目として紹介したいのは、Jay-Zの「ザ・ブループリント3」である。基本的に自分は“ラップ・ミュージックはゴミの山”という偏見を持って生きてきたのだが、エミネムとJay-Zのこのアルバムについては別物だと認識している。それはラジカルで攻撃的であり、なおかつ歌心のあるラップを披露していると思っているからだ。

The Blueprint 3 Music The Blueprint 3

アーティスト:Jay-Z
販売元:Roc Nation
発売日:2009/09/11
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 自分はこのアルバムの中の曲をラジオで聞いて、即購入を決めた。それくらいインパクトがあった。逆に普段からあまりラップ・ミュージックを聞いていなかったから、かえって新鮮に感じられたのであろうか。

 Jay-Zといえばビヨンセと結婚したラッパーとしか知らなかったのだが、今年で39歳ながら、かなり危ない橋を渡ってきた人らしいということも知った。
 彼はニューヨークはブルックリン出身で、子どもの頃に両親の離婚を経験し、生活保護を受けて暮らしてきた。この辺は自分の人生と重なってきて親近感を覚える。

 しかしここからが違うところで、彼はまた3度の刑務所暮らしと3度の銃撃戦を経験してきた。1997年にラッパー仲間のノートリアス・BIGは対立するラッパー・サイドから射殺されたが、彼はJay-Zとは高校時代の親友だった。90年代の東海岸のラッパーたちは、本物のギャング並みに自分たちの勢力維持に力を注いでいたのである。

 まるでやくざがラップをしているのか、ラッパーがやくざになったのか判然としないところに、ファンやリスナーは本物のストリートの匂いを嗅ぎ、リアルな現実感を手にするのだろう。だから彼らのライムは多くの人に支持され、人気があると思うのである。

 そしてこのアルバムの素晴らしいところは、ライムの内容だけでなく、メロディ(フック)と共演しているゲストのケミストリーもまた良いのである。

 ゲストといっても自分はカニエ・ウェストとアリシア・キーズしか知らないのだが、それ以外にも数多くのミュージシャンが参加している。
 1曲目"What We Talkin' About"ではオープニングにふさわしい焦燥感のあるライムを聞くことができるし、2曲目"Thank You"は意外にソウルフルな味付けがされている。

 ラップにソウルフルとは変な感じがするのだが、手拍子にあわせてのライムが微妙にメロディアスなのである。

 このアルバムの中のお薦め曲は4曲目"Run This Town"と5曲目"Empire State of Mind"である。前者ではリアーナとカニエ・ウェストが、後者ではアリシア・キーズが共演している。
 どちらもフックの部分(メロディ)とライムの部分(ラップ)がマッチしていて、非常に聞きやすい。ラップ・ミュージックであることを忘れさせてくれるくらい歌心に満ちている。

 特に"Empire State of Mind"はまるでミュージカルの中で歌われる挿入歌のようである。タイトルのようにニューヨークという街をライムしているのだが、さすが自分が育ったところ、表も裏もすべて知り尽くしているからリアリティが違うのである。アリシア・キーズのボーカルもまた一聴の価値あり☆☆☆

 またそれ以外にも"Real As It Gets"や"A Star is Born"もよい。(前者にはヤング・ジージー、後者にはJ.コールという人が参加している)やはりこのアルバムはフックとライムが微妙なバランスで絡み合っていて、スローな曲でもそれが強いインパクトを与えてくれる。

 アルバム後半部分はまるでエミネムのアルバムを聞いているかのようなヒリヒリとした絶望感や圧迫感みたいなものを感じさせてくれる。特に"Venus vs. Mars"、"Already Home"、"Hate"には圧倒された。この辺では誰がどの曲に参加しているといったことは、本当に瑣末なことであり、まったく必要ない。どうでもいいことであり、それを知る前に曲の力に気圧されるのである。

 最終曲"Young Forever"ではすべてを一掃するかのように、"Forever Young I want to be forever young"というフックとそれを後押しするようなライムが印象的である。バックの演奏もまるで80年代を懐古させるようなシンセや音処理がされていて、エンディングにはピッタリの曲である。

 このアルバムは、Jay-Zが今まで生きてきた道のりを振り返りながら、次のステップに一歩踏み出したようなものだと思う。まさに通過点としての指標みたいなものなのだが、聞く側にとっては(もちろんやっている方も)時代を共有している息吹を感じてしまうのである。

 そして“ラップはゴミ”だと思っていた自分にとっては、そういう陳腐な認識を一変させる1枚になっているのだ。

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