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2009年12月 2日 (水)

Jay-Z

 今年も師走を迎えて、ますます街の雰囲気も何となくあわただしさを感じさせてくれるようになった。年をとると、本当に1年間があっという間に過ぎ去ってしまう。子どもの頃はもっと長く感じられたものなのだが…

 それでこのブログでも、そういう今の時期にピッタリなテーマを考えてみた。題して「今年印象に残ったベスト・アルバム選」である。
 これは今年発売されたアルバムの中から、印象に残ったものを10枚取り上げて感想を述べるものである。これには再発もの(紙ジャケ・シリーズなど)も含むものとする。

 それで今年発表されたアルバムの中で印象に残ったものの中で、まずはグリーン・ディの「21世紀のブレイクダウン」とエミネムの「リラプス」を挙げたい。

 グリーン・ディは前作「アメリカン・イディオット」から約5年、エミネムの方はベスト・アルバム「カーテン・コール」から約4年のインターバルをそれぞれ空けての新作発表であった。いずれもチャートでNo.1を記録しているのだが、それだけ全世界中のファンやリスナーが待ちに待っていたということであろう。このブログでもこの2枚のアルバムについては既に取り上げている。

 この2枚以外で今回3枚目として紹介したいのは、Jay-Zの「ザ・ブループリント3」である。基本的に自分は“ラップ・ミュージックはゴミの山”という偏見を持って生きてきたのだが、エミネムとJay-Zのこのアルバムについては別物だと認識している。それはラジカルで攻撃的であり、なおかつ歌心のあるラップを披露していると思っているからだ。

The Blueprint 3 Music The Blueprint 3

アーティスト:Jay-Z
販売元:Roc Nation
発売日:2009/09/11
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 自分はこのアルバムの中の曲をラジオで聞いて、即購入を決めた。それくらいインパクトがあった。逆に普段からあまりラップ・ミュージックを聞いていなかったから、かえって新鮮に感じられたのであろうか。

 Jay-Zといえばビヨンセと結婚したラッパーとしか知らなかったのだが、今年で39歳ながら、かなり危ない橋を渡ってきた人らしいということも知った。
 彼はニューヨークはブルックリン出身で、子どもの頃に両親の離婚を経験し、生活保護を受けて暮らしてきた。この辺は自分の人生と重なってきて親近感を覚える。

 しかしここからが違うところで、彼はまた3度の刑務所暮らしと3度の銃撃戦を経験してきた。1997年にラッパー仲間のノートリアス・BIGは対立するラッパー・サイドから射殺されたが、彼はJay-Zとは高校時代の親友だった。90年代の東海岸のラッパーたちは、本物のギャング並みに自分たちの勢力維持に力を注いでいたのである。

 まるでやくざがラップをしているのか、ラッパーがやくざになったのか判然としないところに、ファンやリスナーは本物のストリートの匂いを嗅ぎ、リアルな現実感を手にするのだろう。だから彼らのライムは多くの人に支持され、人気があると思うのである。

 そしてこのアルバムの素晴らしいところは、ライムの内容だけでなく、メロディ(フック)と共演しているゲストのケミストリーもまた良いのである。

 ゲストといっても自分はカニエ・ウェストとアリシア・キーズしか知らないのだが、それ以外にも数多くのミュージシャンが参加している。
 1曲目"What We Talkin' About"ではオープニングにふさわしい焦燥感のあるライムを聞くことができるし、2曲目"Thank You"は意外にソウルフルな味付けがされている。

 ラップにソウルフルとは変な感じがするのだが、手拍子にあわせてのライムが微妙にメロディアスなのである。

 このアルバムの中のお薦め曲は4曲目"Run This Town"と5曲目"Empire State of Mind"である。前者ではリアーナとカニエ・ウェストが、後者ではアリシア・キーズが共演している。
 どちらもフックの部分(メロディ)とライムの部分(ラップ)がマッチしていて、非常に聞きやすい。ラップ・ミュージックであることを忘れさせてくれるくらい歌心に満ちている。

 特に"Empire State of Mind"はまるでミュージカルの中で歌われる挿入歌のようである。タイトルのようにニューヨークという街をライムしているのだが、さすが自分が育ったところ、表も裏もすべて知り尽くしているからリアリティが違うのである。アリシア・キーズのボーカルもまた一聴の価値あり☆☆☆

 またそれ以外にも"Real As It Gets"や"A Star is Born"もよい。(前者にはヤング・ジージー、後者にはJ.コールという人が参加している)やはりこのアルバムはフックとライムが微妙なバランスで絡み合っていて、スローな曲でもそれが強いインパクトを与えてくれる。

 アルバム後半部分はまるでエミネムのアルバムを聞いているかのようなヒリヒリとした絶望感や圧迫感みたいなものを感じさせてくれる。特に"Venus vs. Mars"、"Already Home"、"Hate"には圧倒された。この辺では誰がどの曲に参加しているといったことは、本当に瑣末なことであり、まったく必要ない。どうでもいいことであり、それを知る前に曲の力に気圧されるのである。

 最終曲"Young Forever"ではすべてを一掃するかのように、"Forever Young I want to be forever young"というフックとそれを後押しするようなライムが印象的である。バックの演奏もまるで80年代を懐古させるようなシンセや音処理がされていて、エンディングにはピッタリの曲である。

 このアルバムは、Jay-Zが今まで生きてきた道のりを振り返りながら、次のステップに一歩踏み出したようなものだと思う。まさに通過点としての指標みたいなものなのだが、聞く側にとっては(もちろんやっている方も)時代を共有している息吹を感じてしまうのである。

 そして“ラップはゴミ”だと思っていた自分にとっては、そういう陳腐な認識を一変させる1枚になっているのだ。


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