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2010年7月

2010年7月28日 (水)

インペリテリ

 昔々、エリック・クラプトンというギタリストはギターを弾くのがとても速くて、まるで手が動いていないように見えたという。だから彼のニックネームは、“スローハンド”となったそうだ。1960年代後半のお話である。

 それから約20年後、今度はアメリカにクリス・インペリテリというギタリストが現れた。この人はあまりにも速くギターを弾くので、一瞬手が見えなかったという。だから当時、世界最速のギタリストと呼ばれたのである。

 彼は、レインボーを脱退したグラハム・ボネットの結成したアルカトラスというバンドのオーディションを受けた。そのときのアルカトラスのギタリストはイングウェイ・マルムスティーンだったのだが、彼はソロの道を歩き出したので、後任のギタリストが必要になったのである。

 結局、クリスは合格せず、代わりに採用されたのはスティーヴ・ヴァイだった。クリスの場合は、あまりにもイングウェイに速弾きなどが似ていたので、採用されなかった。しかし彼は、それならばと1987年に4曲入りのミニ・アルバムを発表して、自身のバンド、インペリテリを結成し、活動を始めたのである。

 翌88年に今度はグラハム・ボネットの方がクリスのバンドに参加するようになった。そして制作されたアルバムが「スタンド・イン・ライン」で、このアルバムがクリスにとってのメジャー・デビューになった。

Stand in Line Music Stand in Line

アーティスト:Impellitteri
販売元:Century Media
発売日:2009/05/18
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 このアルバムには9曲しか入っていないのだが、1曲目の"Stand in Line"や3曲目の"Secret Lover"などはクリスとグラハム・ボネットの作曲、作詞になっていて、彼は曲も書けることを実証してみせた。
 ただレインボー時代の"Since You've Been Gone"を歌っていたり、ミュージカル“オズの魔法使い”の中の"Somewhere Over the Rainbow"をクリス流に解釈してインスト曲として収録していたりと、結構荒っぽいプロデュースも目立つのである。恐らく制作準備に時間をかけることができずに、手持ちの曲だけで何とか作ったのであろう。

 確かに荒削りな部分は目立つのだが、グラハム・ボネットにしてもクリス・インペリテリにしても両者の利益が一致したのだろう。クリスはグラハム・ボネットと組む事で、ワールドワイドな知名度を獲得することができたし、グラハムの方はまだまだ現役選手として、80年代後半のメタル界でも生き残っていくことができたからである。

 また"White&Perfect"はレインボー時代の"Lost in Hollywood"のようだし、他の曲も疾走感のあるものが多くて同じような印象を受けてしまい、全体的にパッとしない。もっとバラードを入れるとかして、メリハリをつけたらよかったと思う。

 しかしグラハム・ボネットはいいギタリストを見つけてくる才能がある。そういう嗅覚が働くのだろうか。レインボー時代は自分が採用されたのだが、リッチー・ブラックモアと働き、アルカトラス時代には、イングウェイ・マルムスティーンやスティーヴ・ヴァイに世界で活動するきっかけを与えている。
 そして今度はクリス・インペリテリである。彼は1964年生まれだから、当時は24歳くらいである。イングウェイより1歳若いのだが、ほぼ同年代。速弾きギタリストの当たり年みたいなものがあったのかもしれない。

 ただグラハム・ボネットとはこのアルバムの後、2002年までコラボレートしていない。彼と一緒にいると、どうしてもレインボーやイングウェイのイメージが付きまとい、オリジナリティが出せないのかもしれない。

 自分が聞いた彼のアルバムはもう1枚あり、1994年に発表された「アンサー・トゥ・ザ・マスター」というタイトルが付けられたものである。

アンサー・トゥ・ザ・マスター Music アンサー・トゥ・ザ・マスター

アーティスト:インペリテリ
販売元:ビクターエンタテインメント
発売日:2008/07/23
Amazon.co.jpで詳細を確認する


 このアルバムはインペリテリ名義の3作目にあたり、全9曲で、短くて3分少々、長くて5分8秒であり、全体的にコンパクトにまとめられている。
 ボーカルはインペリテリのオリジナル・メンバーだったロブ・ロックという人で、ハイトーンの伸びはないのが、逆に中音域に伸びがあり、迫力のあるボーカルを聞かせてくれる。

 「スタンド・イン・ライン」のように、勢いで作ってみましたというような部分はなく、楽曲もよく練られていると思った。
 そしてクリスのギターは相変わらず速い。ここまで速いともう驚愕することはできずに、慣れてしまう。実際は、とんでもないフィンガリングやテクニックを使っているのだろうが、音だけ聴いていると、比較対照するものがなくなっていって、驚きの感覚が薄れてしまうのだ。

 4曲目の"I'll Wait"なんかはアコースティック・ギターも使用してのミディアム・バラードになっていて、まさに新境地を開いた感がある。作曲はすべてクリスが担当し、歌詞も曲によってはロブと一緒に書いている。段々と才能が開花してきたのだろうか。ファンはこういうアルバムを待っていたと思う。

 自分はイングウェイ・マルムスティーン、スティーヴ・ヴァイ、ジョー・サトリアーニ、クリス・インペリテリを新世代のギタリスト四天王と思ってきた。そのうちクリスだけはちょっと知名度は落ちるのだが、弾きの速さでは4人の中で一番だと思っている。

 しかも誰かさんとは違い、きちんとオルタネイト・ピッキングをするから、難易度は高くなるのだが、それにあえて挑戦している姿勢は素晴らしいものがある。あとは歴史に残るような曲が1曲でも生まれれば、もっと全世界的に名が売れると思うのだが、それがなかなか易しそうに見えて難しいようである。

 彼は子どもの頃に両親を飛行機事故で亡くしている。そのせいか敬虔なクリスチャンになって信仰心も厚いらしい。だから何だと言われても困るのだが、きっと人を思いやる心はあると思うのだ。
 ただ逆に言うと、信仰心が厚いせいかイマイチ自分の壁を破れないというか、思いっきりバカになれないということも考えられる。やはりロック・ミュージシャンは、YMのようにわがままで傲岸不遜、自己の欲望が肥大化したような人の方がインパクトがあって、売れるのかもしれない。

 でも自分はクリスのようなミュージシャンには心から応援をしたいと思っている。いくらロックン・ローラーでもやはり他者とコミュニケートする限りにおいては、人間性の方も大事だと思うからである。

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2010年7月24日 (土)

イングウェイ・マルムスティーン

 何だかんだと今は2010年、よく考えたら80年代から30年もたっている。90年代から考えても20年もたっている。年をとってくると時間の感覚が鈍くなってくるのかもしれない。

 だから自分がこのブログの中で取り上げているミュージシャンなどは、自分ではちょっと昔の出来事のような気がして書いているのだが、冷静に見てみれば、20年~40年くらい前のことなのである。何となく空恐ろしい気がしてきて、いまどきの若者が読んでもイマイチピンと来ないだろうなぁと思いながら書いている。

 それで今回は80年代後半からギター・ヒーローとして一世を風靡したイングウェイ・マルムスティーンの登場である。名前が長いので、以後、略してYMとする。

 名前からわかるように、彼は日本人ではない(当たり前だ!)。彼はスウェーデンのストックホルム出身で、1963年生まれだから今年で47歳になる。まだ40代のギタリストなのだ。もっと年食っているのかと思った。

 自分の中では彼の人気はもう終わったと思っている。確かに80年代の後半から90年代初頭にかけては日本やヨーロッパで圧倒的な人気を誇ったYMである。ただその演奏スタイルは、基本的にはリッチー・ブラックモアの継承者といっていいと思う。

 ヨーロッパのクラシック的様式美とハード・ロックを結びつけたのがリッチーなら、それを発展継承したのがYMだと思っている。ある意味、リッチーよりも速弾きを強調したフレーズを多用し、それにスウィープ奏法などの新しい技やタッピングなどを加味したようなものである。

 それはそれでカッコよかったのだが、どうもリッチーの二番煎じという印象が拭えなかったし、それに当時はポール・ギルバートやヌーノ・ベッティンコート、ジョージ・リンチなどの新しいギター・ヒーローが登場してきた背景もあって、どれも似たように思えてきてイマイチのれなかった事を覚えている。

 自分が持っている彼のアルバムは2枚だけで、いずれも80年代のものである。1枚は1986年発表の「トリロジー」で、彼にとっては3rdアルバムにあたる。

Trilogy Music Trilogy

アーティスト:Yngwie Malmsteen
販売元:Universal Japan
発売日:1990/10/25
Amazon.co.jpで詳細を確認する


 確かに速い。特に"Crying"や"Trilogy Suite OP:5"などのインストゥルメンタルは凄い。世界はおまえを待っていたといっても過言でないほどの速弾きである。確かにリッチーの影響は受けたのだろうが、だからどうした、“芸術は模倣より生まれる”という言葉を知らないのか、といわれそうなくらい素晴らしい内容である。

 それにYMは単なるパクリ屋ではなくて、曲自体のメロディもよい。いかに速くても曲が悪ければ、印象にも残らないものだが、彼の書く曲はどれも水準が高いと思う。哀愁を帯びた旋律であり、いかにも欧州人や日本人が好みそうなメロディである。

 もう1枚は88年に発表されたイングウェイ・マルムスティーン・ライジング・フォース名義のアルバム「オデッセイ」である。

Odyssey Music Odyssey

アーティスト:Yngwie J. Malmsteen's Rising Force
販売元:Universal Japan
発売日:1990/10/25
Amazon.co.jpで詳細を確認する


 このアルバムの特長は、ボーカルがあのジョー・リン・ターナーに交代したことである。しかしボーカリストが交代しようともYMのギターは変わらない。1曲目の"Rising Force"から飛ばしまくりである。

 それにこのアルバムはかなりキャッチーで、それこそかつてのポップでコマーシャル路線を走っていたレインボーを思い出させてくれる。YMもその辺は意識していたのかもしれない。YMのギターもジョーの歌の部分はバッキングに徹しているし、ソロの部分は思いっきり表に出ている。

 3曲目の"Heaven Tonight"は、まるでレインボーの"Since You Been Gone"のようである。YMのギターもあまりにも速すぎて、慣れてしまいインパクトを感じさせない。それくらいメロディがポップなのである。
 そして次の"Dreaming(Tell Me)"は泣きのバラードになっている。最初はアコースティック・ギターから入り、ジョーが切々と歌い上げ、最後はエレクトリック・ギターが渦巻くように全体をまとめあげ、結果として壮大な曲に仕上がっている。このアルバムの中の聴き所のひとつだと思う。

 また"Heaven Tonight"と同じくらいポップな要素を持っているのが、"Crystal Ball"であり"Now is the Time"だ。特に後者はイントロからキーボードを使用してのコーラスなど華やかな印象を持たせて、それにジョーの多重コーラスとYMのギターがかぶさっていく。YM流"I Surrender"のようだ。

 面白いのは"Faster Than The Speed of Light"(光速よりも速く)という曲があり、このギター・ソロは速い。タイトル通りのことを述べている。これでもか、これでもかと聞き手に迫ってくるスピードである。一度この曲のライヴ演奏を見てみたいものだ。

 このアルバムには3曲のインストゥルメンタルが収められているが、そのうち2曲は1分少々と短い。もう1曲の"Krakatau"は6分以上もあり、このアルバムの中で一番長い曲である。これ以外の曲でもYMのギターは充分目立っているのだが、この曲はインストだけあって、ガンガン弾きまくっている。またギターだけではなくて、途中キーボードとの掛け合いバトルもある。

 この曲をアルバムの終わりから2曲目に持ってきて、最後をアコースティックな雰囲気の"Memories"で閉めるという構成の仕方もよく考えられている。この頃のYMはまさに向かう所敵なしの観があった。

 結局、彼の素晴らしさはテクニックだけでなく、その気になれば長い曲も短い曲も書くことができ、しかもそれ自体に魅力がある点にある。だから彼の亜流が続いても、彼自身はそれに埋没せず、孤高を貫き通すことができたのである。

 逆に問題は彼自身の性格にある。彼自身3人姉兄の末っ子に生まれ、かなり甘やかされて育てられたというし、学校では友だちとうまくゆかず、不登校気味になって家でギターばかり弾いていたという。

 そして学校の廊下をバイクで走るなどという暴挙を起してしまい、退学処分を食らった。ロックン・ローラーは、洋の東西を問わずやはりこういう道をたどらないといけないのだろう。

 その素行の悪さは大人になっても変わらず、アルバムごとにメンバーを首にし、他のミュージシャンには暴言を吐き、気に入らないことがあればプロモーターに八つ当たりするという。だから熱狂的なファン以外は彼から離れていったのである。

 一時はぶよぶよの体に成り果てていったのだが、これも彼自身の節度のなさの表れである。プロ・ミュージシャンはサウンドだけでなく私生活や体型に関してもストイックでなければならないのだ。ジェフ・ベックやロバート・フリップを見よ。もともと太っているミュージシャンは別として、太ってしまったミュージシャンは自己鍛錬ができていないのである。Photo

 確かに彼は、自分にとってはもう終わっているミュージシャンだが、しかしロックの歴史に果たした功績は決して小さくはなく、むしろその歴史に名を残したミュージシャンなのだと思っている。

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2010年7月20日 (火)

スティーヴ・ヴァイ

 昔は三大ギタリストといって、イギリスのヤードバーズというグループ出身のギタリスト、エリック・クラプトン、ジェフ・ベック、ジミー・ペイジの3人がロック界を代表していた。実際に彼らはクリームやジェフ・ベック・グループ、レッド・ゼッペリンなど優れたグループのメンバーとしても活躍したし、ロック・クラシックを代表するようなアルバムや楽曲を発表してきた。

 そして彼らの演奏技法や演奏スタイルから様々なギタリストが学習していき、それを踏まえて各々の個性を発揮してきて、そのギタリストの系譜は大きく拡散しながら発展してきた。
 それは80年代にはマイケル・シェンカーやイングウェイ・マルムスティーン、ジョー・サトリアーニなどの新しいギター・ヒーローを生むようになってきた。

 もちろんその流れは今でも続いているのだが、残念ながら音楽の中でギターが占める割合は先細りになってきていて、ロック古典主義者が泣いて喜ぶようなニュー・ギター・ヒーローが生まれる可能性は少なくなってきているようだ。彼らが活躍する場所はロックではなく、ジャズやブルーズの世界なのかもしれない。ギター・キッズは悲しむだろうなあ。

 それで今回は、前回のジョー・サトリアーニからギターを直接学んだというスティーヴ・ヴァイの登場である。

 この人、調べてみたら1960年6月6日生まれで、まるで映画「オーメン」の中に出てくるような星の下に産声を上げている。そのせいでもないだろうが、まさに特異な人生を歩んでいる。

 6歳でオルガンを、11歳でアコーディオンを習ったといわれているが、真剣に音楽に向かい始めたのは13歳のときで、5ドルで買ったギターと弦を持って、当時近所で有名だったギター講師で習い始めた。その講師がジョーだったといわれている。

 彼が世に出たきっかけになったのは、その驚異的な読譜力である。高校時代から音楽理論を学び、さらにバークレー音楽院でもロックからクラシックまでの作曲、編曲方法を学んだという。

 だから彼は楽譜を読むことができた。しかも初見で楽譜を見ながら演奏することもできたし、他人の演奏を楽譜にすることも可能だった。
 それでその特殊能力?を買われて、フランク・ザッパのギター・インストゥルメンタルを採譜するようになり、最終的にはザッパ・バンドのギタリストとして活動するようになったのである。まさに“芸は身をたすく”だ。

 1984年には初めてのソロ・アルバムを発表したのだが、ザッパのスタジオから借りてきた機材を利用して制作したらしく、元手はほとんどかかっていなかったといわれている。
 そしてそのアルバムが評判を呼び、グラハム・ボネットはイングウェイの抜けた後釜としてアルカトラスに招いた。

 スティーヴ・ヴァイはここから華やかな芸歴を重ねていくことになる。アルカトラスから今度は、ヴァン・ヘイレンを脱退したデヴィッド・リー・ロスに呼ばれ、彼のアルバムに参加し、86年から88年まで2枚のアルバム制作に力を貸している。Photo

 さらにスティーヴは、89年にはホワイトスネイクのアルバム「スリップ・オブ・ザ・タング」に参加し、ツアーにも同行したのだが、この頃はすでにロック界ではトップ・ギタリストの仲間入りをしていた。

 ただホワイトスネイクのデヴィッド・カヴァーデルは彼のギター奏法を嫌っており、彼のせいでライヴはイマイチのれなかったようである。理由は彼のギターがあまりにもテクニック重視というか、見せる演奏のために、観客の注目がデヴィッドよりスティーヴの方に移ってしまったからである。ある意味、嫉妬というかやっかみ半分の気持ちも働いているのであろう。

 1990年には6年ぶりのセカンド・アルバム「パッション&ウォーフェア」を発表した。このアルバムは、いかにもギタリストのアルバムらしく全編インストゥルメンタルである。
 そして途中でナレーションを挟みながら進行しているために、ある意味トータル・アルバムの要素も含んでいる。

Passion and Warfare Music Passion and Warfare

アーティスト:Steve Vai
販売元:Relativity
発売日:1997/06/26
Amazon.co.jpで詳細を確認する

 彼にとってはこのアルバムこそ自信を持って制作したものであり、「ブロウ・バイ・ブロウ」のようなものである。"For the Love of God"は非常に美しいバラードに仕上がっているし、"Blue Powder"は彼流のブルーズになっている。

 また"Sisters"ではアコースティック・ギターがメインに使用されていている。彼はエレクトリック・ギターしか使用しないのではないかと思っていたから、これには少々驚かされた。

 自分は彼のことを、例えは悪いが“変態チックな”ギタリストと思い込んでいた。それは上の写真を見てもわかるように、へんてこりんなギターを使って、軽々と難易度Cの技を見せるからで、テクニック重視主義の権化みたいに彼のことを見ていた。
 しかしこのアルバムを聞く限りは、そうではなくて、そのテクニックを如何に音楽に反映させていくかを考えているし、メロディも豊かで聴かせ所もよく考えているということがわかった。

 自分はこのアルバムを気に入ってしまって、続く彼のソロ・アルバム「セクス&レリジョン」も買ってしまった。
 1993年に発表されたこのアルバムは、ヴァイ名義のアルバムになっていて、前作とは打って変わってボーカリストを入れてのバンド・アンサンブル重視のサウンドになっている。

Sex & Religion Music Sex & Religion

アーティスト:Steve Vai
販売元:Sony
発売日:1995/06/22
Amazon.co.jpで詳細を確認する

 ドラムスはテリー・ボジオ、ベースはT.M.スティーヴンスで、ボーカルは無名のデヴィン・タウンゼントという人が担当している。写真で見る限りは、まるで清国の辮髪のような髪形をしていて、この人も相当イッテいる人のように見えた。

 自分は人様に偏見を持ってはいけないと小さい頃から教え込まれてきたにもかかわらず、どうもスティーヴ・ヴァイを見ては、この人は違う、アッチの世界の人だとずっと思い込んでいた。あの頬こけた顔や耳だけでなく鎖骨付近にもピアス(というか、もはやリング)をしている様は、どうしても常人には見えなかったのだった。
 またこのアルバムの裏ジャケットの顔写真は、まるで戦国武将の落武者のようで、かなり不気味でもあった。

 久しぶりにこのアルバムを引っ張り出して聞いたのだが、意外と聞きやすかった。これも自分の思い込みだったのかもしれない。確かにところどころには思いがけないギター・フレーズや歪んだ音を聞くことができる。
 例えば後半の"The Road to Mt. Calvary"はアヴァンギャルドである。アルバム解説にはキリストの磔の様子を表現したものとあり、そういわれればそうかもしれないが、聞き様によってはエキセントリックで、前衛的、なかなか言葉で表現し辛いものがある。

 また"Down Deep into the Pain"の終わりでは、スティーヴの子どもが生まれたときの状況が流されて、なかなか終わらない。結果的に8分を越える曲になっているし、最後の曲もスティーヴのソロが延々と披露されて、これまた8分25秒という大作になっている。(ただしこのソロは素晴らしい!)

 まぁいくつか欠点はあるものの、このアルバムは彼なりの意識でバンドとして取り組んだものになっている。

 このあと自分はスティーヴ・ヴァイから距離を置くようになったので、どういう変化をしていったのかよくわからないのだが、最新アルバムは実況録音盤になっていて、それには2本のバイオリンとスティーヴのギターが絡んでいるという。相変わらず発想といい、演奏といい奇抜である。

Where the Wild Things Are Music Where the Wild Things Are

アーティスト:Steve Vai
販売元:Favored Nations
発売日:2009/09/29
Amazon.co.jpで詳細を確認する


 彼はタッピングを多用する演奏方法をとることが多く、場合によっては両手を使ってギターを叩く。こうなるともはやギターは打楽器になってしまう。彼はジミィ・ヘンドリックスから多大な影響を受けたといっているが、ギターを使って常人の作り出せない音や楽曲を創造することに努力しているようだ。2
 ジョー・サトリアーニとともに現代ロック界のギタリストの重鎮の一人であることは間違いないスティーヴである。そんな彼がこれからどんな音楽を展開していくのか、恐る恐るながらも遠くから眺めていきたいと思っている。

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2010年7月18日 (日)

チキンフット

 “チキンフット”、そのまま日本語にすると“鶏の足”である。この言葉にどういう意味があるのかわからないが、魔よけや幸運のお守りとしての役割があったように思う。

 それでここに紹介したいのは、アメリカのロック・グループの“チキンフット”のことである。このグループもまた俗に言われる“スーパー・グループ”で、それぞれがかなり素晴らしい経歴を持っている。

・サミー・ヘイガー(ボーカル&ギター)・・・元ヴァン・ヘイレン
・ジョー・サトリアーニ(ギター)・・・スーパー・ギタリスト
・マイケル・アンソニー(ベース)・・・元ヴァン・ヘイレン
・チャド・スミス(ドラムス)・・・現レッド・ホット・チリ・ペッパーズ

 現役のミュージシャンも含まれていることから、これはパーマネントなグループというわけではないことがわかる。

 もともとは元ヴァン・ヘイレン組のサミー・ヘイガーとマイケル・アンソニーが、活動休止状態に陥ったレッド・ホット・チリ・ペッパーズのドラマー、チャド・スミスとセッション活動を行ったことがきっかけだった。

 3人でジャムっているときにギタリストが必要だと感じて、彼らはジョーに声をかけたそうである。ジョー自身もバンドとしての制約があるわけでもなく、自分のソロ活動と並行して続けられることから参加したそうである。

 バンドの中心人物は、今年63歳になるサミー・ヘイガーだ。このブログのモントローズのところでも触れたように、70年代から第一線で活躍してきたミュージシャンである。彼の頭の中には、やはりヴァン・ヘイレンのようなバンドを結成しようというような思いがあったのではないか。
 だからエドワード・ヴァン・ヘイレンと同等、いやそれ以上のギタリストということで、現在最高峰のギタリストの一人であるジョー・サトリアーノの名前が挙がったのだろう。

 彼らのアルバム“チキンフット”は約1年前に発売されて、かなり話題になった。何しろアルバム・チャート初登場4位であった。また本格的なアメリカ&ヨーロッパ・ツアーを行って、アルバム・プロモーションやライヴ活動にも励んでいた。

チキンフット Music チキンフット

アーティスト:チキンフット
販売元:WHDエンタテインメント
発売日:2009/07/08
Amazon.co.jpで詳細を確認する


 そして今年になって、そんな彼らの北米ツアーの様子を収めたDVDも発売される予定だという。(5月19日に発売予定というので、このグログが更新されたときは店頭に並んでいるはずである)

 ライヴでは、もちろんチキンフットの曲も演奏されているが、それ以外にもサミー・ヘイガーの在籍していたモントローズの曲やディープ・パープルの曲も演奏されたという。版権の関係ですべてが収録されるとは限らないが、ぜひ見てみたいと思わせる内容だと思う。

 アルバム自体は、典型的なアメリカン・ハード・ロックで、陽気でメジャー調の曲が並び、全編にわたってジョーのギターが鳴り響いている。まさにヴァン・ヘイレンの再来といった感じであり、ヴァン・ヘイレンよりもハードな雰囲気を湛えている。

 最初自分が聞いたときは、何となくパッとしない感じだったのだが、聞けば聞くほど結構ハマってしまった。何しろジョーのギターが素晴らしい。ソロ・パートでは早弾き中心だが、あくまでもバンドの音を大事にしようとする心意気が伝わってくる。決して目立たず、しかしその楽曲を引き立てるサウンドを発している。さすがジョー・サトリアーニだ。

 そしてリズム・セクションもタイトで力強い。1曲目"Avenida Revolution"の地を這うようなリフを聞いていると、こちらの体まで自然とスウィングしてしまう。
 どの曲もハード・ロックである。聞いていてとても平均年齢5?歳の人たちがやっているとは思えないほどパワフルでもある。

 中盤の"Runnin' Out"や"Get It Up"などは、文句なしの“血涌き、肉踊る”楽曲だ。そして最もポップで、サミー・ヘイガー時代のヴァン・ヘイレンを想像させる曲は、アルバム後半の"My Kinda Girl"、"Learning to Fall"あたりだろう。この辺はメロディアス・ハード・ロックといってもいいだろう。

 "Turnin' Left"でのジョーのギターは凄まじい。まさに弾きまくっている。特に5分前後からのソロはこれでもかというような暴れ具合である。ギター・キッズにはたまらないパートだと思う。
 全体を通して、前半はグルーブ感溢れる21世紀的なハード・ロックで、後半部分はヴァン・ヘイレン後期のような安心して聞けるハード・ロックである。この1作で消えてしまうには惜しいミュージックだ。

 現在レッド・ホット・チリ・ペッパーズは新ギタリストを迎えて、いよいよ活動を再開したようで、そうなるとチャドはそちらで活動するだろうから、ドラマーがいなくなってしまう。

 そうなったら新しいドラマー、例えばカーマイン・アピスとかデニー・マッカーシーとか、テリー・ボジオなど、アレックス・ヴァン・ヘイレン以外の誰かが参加して、活動を続けるのではないだろうか。そうなることを心から願っているし、この1作で終わってしまうのは本当に惜しいバンドだと思うのである。

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2010年7月14日 (水)

ジョー・サトリアーニ

 “夏も近づく八十八夜”ではないが、もう季節は夏である。ちょっと気を許すと、すぐに汗をかき、肌も焼けるという夏である。そしていつも思うのだが、そういう季節にこそスカッとさわやかな音楽がほしい。

 今回はそんな夏にふさわしい音楽を紹介することにした。ちょっと古いけれど80年代の「ブロウ・バイ・ブロウ」といわれた名作「サーフィング・ウィズ・ジ・エイリアン」である。
 知っている人は知っているけれども、知らない人は誰も知らないという名盤の誉れ高い?アルバムなのである。

 演奏している人は、ご存知ジョー・サトリアーニ、あのディープ・パープルにリッチー・ブラックモアのピンチヒッターとして日本公演にも参加した名うてのギタリストである。

 このアルバムは1987年に発表されていて、当時彼は31歳だった。このアルバムは実は2作目なのだが、実質、彼の知名度はこのアルバムで高まったのでる。
 アルバム・ジャケットも、まるでアメリカン・コミックから抜け出たようなものになっていて、見ただけでも楽しさが伝わってくるようになっていた。

Surfing with the Alien Music Surfing with the Alien

アーティスト:Joe Satriani
販売元:Sony/BMG
発売日:1999/08/05
Amazon.co.jpで詳細を確認する

 彼の素晴らしさは、もちろんテクニック的にも文句の付けようはないのだが、その楽曲のよさである。
 一般的なギタリストに見られるような、テクニック重視でも曲としてはイマイチ印象に残らないというものではなく、コンポーザーとしても優れている。だから商業的にも成功したし、有名ミュージシャンや有名バンドから声をかけられたのであろう。

 1曲目のタイトル通りの躍動感を伴う"Surfing with the Alien"や音色が艶やかで豊かな"Always with Me, Always with You"など曲ごとに様々な音を伴っている。違う言い方をすれば、ジェフ・ベックのような"Satch Boogie"からロバート・フリップのような"Hill of the Skull"まで、才能と技術と表現方法が相乗作用を起して本当にカラフルなアルバムに仕上がっている。

 ジョーは若き日のスティーヴ・ヴァイやメタリカのギタリスト、カーク・ハメットにギターの手ほどきをしてあげたことで有名だが、技術的なものだけでなく、ミュージシャンとして必要な心構えというか精神的な面でも指導したそうである。だからそこには目に見えない絆みたいなものが漂っていて、スティーヴなどはいまだにジョーのことを師匠と仰いでいるそうである。まるで中世の徒弟制度のような感じだが、そういうところに芸術の伝承や深化が生まれてくるのであろう。

 自分はもう1枚彼のアルバムを持っていて、このアルバムもなかなかの優れものである。ただ「サーフィング・ウィズ・ジ・エイリアン」のようないい意味でのポップさはなくて、芸術至上主義的な音楽に昇華されている。

Joe Satriani Music Joe Satriani

アーティスト:Joe Satriani
販売元:Sony
発売日:2008/02/01
Amazon.co.jpで詳細を確認する


 ある意味クールなブルーズ的アプローチからロック・インストゥルメンタル・アルバムを制作しましたという雰囲気を湛えている。
 また、アルバム・タイトルが「ジョー・サトリアーニ」という自身の名前になっていることからもわかるように、ある意味、決意発表をこめて制作したという感じなのである。お薦めはアコースティック・ギターをバックに従えた"Down,Down,Down"や、サトリアーニ流ブルーズを堪能できる"S.M.F."や"Slow Down Blues"だろうか。

 ちなみにプロデューサーはザ・フーやザ・ローリング・ストーンズの仕事で有名なグリン・ジョンズ、バックアップ・ギタリストとしてクラプトンとツアー経験もある腕利きギタリスト、アンディー・フェアウェザー・ロウも参加している。なかなか聴かせるアルバムになっている。

 ただこのアルバムと「サーフィング・ウィズ・ジ・エイリアン」とどちらのアルバムが好きかと聞かれれば、やはり「サーフィング・ウィズ・ジ・エイリアン」の方が好きだと答えるだろう。
 「ジョー・サトリアーニ」の方はストイックすぎて、ちょっと堅苦しい面もあるが、「サーフィング・ウィズ・ジ・エイリアン」の方は、遊び心があってユーモアやゆとりが感じられる。肩に力が入っていない分、自由でクロスオーヴァーな雰囲気を味わうことができると思った。

 やはりテクニックだけではある程度有名になっても、そこから先へはなかなか抜け出せないことがわかる。いい音楽とは技術プラスいい楽曲なのである。それを支えるのが音楽への溢れんばかりの愛情なのだろう。彼の音楽を聞きながらそんなことを思ったりもした。

 彼の最新DVDは2008年のパリ公演を収録したもので、全22曲、120分以上の2枚組仕様になっている。好きな人にはたまらないDVDだと思う。

LIVE IN PARIS:I JUST WANNA ROCK [DVD] DVD LIVE IN PARIS:I JUST WANNA ROCK [DVD]

販売元:SMJ(SME)(D)
発売日:2010/04/21
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2010年7月10日 (土)

キッス

 1970年代半ばの日本では3大アメリカン・ロック・バンドといえば、キッス、エアロスミス、チープ・トリックだった。この3つは洋楽雑誌にもよく取り上げられていて、特に女子には人気があった。以前にもその辺の様子はこのブログでも取り上げているから、わかっていただけると思う。

 これにクィーンが入れば四天王であった。これらのバンドは人気、実力ともに兼ね備えていたから幅広く受け入れられていったのであろう。例えばスコットランド出身のベイ・シティ・ローラーズなんかは、これはもう圧倒的に女子の人気に支えられていたようだった。

 で、KISSなのである。最初アルバムのジャケットを見たときは、これはもうキワモノ・バンドだと思った。そして音を聞かずして彼らは一発屋であり、たぶん数ヶ月で消え去るだろうと思った。なにしろスーツを着てあのメイクなのである。ただの受け狙いだと思われても仕方ないのではないか。

Dressed to Kill Music Dressed to Kill

アーティスト:Kiss
販売元:Universal Japan
発売日:1997/07/15
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 ところがどっこい彼らはその後もしぶとく生き残った。もう30年以上も現役として活躍しているし、発表したスタジオ・アルバムも20作以上になる。ライヴ盤も5作を数える。ここまで続くとは正直言って思ってもみなかった。

 彼らのアルバムの中で一番印象深いのは、やはり「地獄の軍団」であろう。1976年に発表されたこのアルバムには、"Detroit Rock City"、"Shout it Out Loud"、"Beth"などの代表的なシングル・ヒットが含まれていた。それまで単なるロックン・ロール・バンドだと思っていた自分は、印象的なリフやフレーズの含まれているこれらの曲を聞いてビックリした思い出がある。

Destroyer Music Destroyer

アーティスト:Kiss
販売元:Universal Japan
発売日:1997/08/12
Amazon.co.jpで詳細を確認する

 プロデューサーのボブ・エズリンは、アリス・クーパーやルー・リードなどのアルバムを手がけている人で、ドラマティックな演出方法やプロデュースに長けている人でもあった。だから、それまでの彼らからは想像もつかないようなアルバムになったのであろう。

 自分の中ではキッスの黄金時代は1970年代だと勝手に決め付けている。80年代以降は人気や売り上げが低迷して、自分たちの素顔をさらしたり、メンバー・チェンジが頻繁に行われたりと、苦労している様子が伝わってきたからだった。

 でも実際には売り上げが低迷したのは80年代の前半ぐらいで、ギタリストのエース・フレーリーが脱退した83年頃からは、アルバムも売れるようになっている。またアルバムは売れなくても、ライヴでの人気は相変わらずだったようだ。

 確かにキッスはライヴ・バンドである。メイクや衣装はもちろんのこと、ベーシストのジーン・シモンズが口から火を吹いたり、血を流したり、あるいはエース・フレーリーのギターから火が出たり、宇宙人としての証明なのかワイヤー釣りになったりと、まるでサーカスかミュージカルである。そしてそのお約束事がまた受けるのである。これがないとキッスのライヴではないのだ。

 これを70年代から続けていることが凄いのである。観客もわかっていてそれを期待しているのだから、やる方も期待に応えようとする。この辺はロックン・ロールというよりも、アメリカン・ショー・ビジネスの世界だ。この徹底振りが30年以上も人気を維持している秘訣に違いないと思っている。

 それで今年の8月に東京と大阪で行われるサマーソニックにキッスはやってくるらしい。もちろん大トリとしての出演である。オリジナル・メンバーのピーター・クリスとエース・フレーリーはいないのだが、メイクや衣装はほとんど変わっていない。だから安心して観ていられる。2

 今年でジーン・シモンズは61歳、ポール・スタンレーは58歳と、もう決して若くはないのだが、いまだにショーマンシップに燃えてライヴを続けている。またキッスのファンも世界中にいて、まるでかつてのグレイトフル・デッドのファンような結束で、メイクや衣装を着飾ってコンサート会場に現れている。

 まさに生きる国宝、人間文化財である。こんなキッスから何かを学びながら自分も日々毎日頑張っていきたいと思っている。

【追記】
 残念ながらキッスの来日は土壇場になってキャンセルされたようだ。理由はポール・スタンレーが家族とともに過ごす時間がほしいからというものだった。
 もしこれが本当なら、キッスもついに保守化というか、自分たちを護るようになってしまったということであろう。残念なことだが、ロックの本来の姿と大きくかけ離れてしまったようである。キッスももう限界なのだろう。できればストーンズを見習ってほしいものである。

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2010年7月 6日 (火)

エアロスミス

 最近エアロスミスのDVDを見る機会があった。というか何か無性に見たくなって、廉価版の彼らのライヴDVDを2枚も購入して見てしまった。それでも2枚合わせて通常のCD1枚分以下の値段だから安いものである。

 1枚は1977年のライブ映像で、映像自体は乱れもなく美しいのだが、残念ながらワン・カメラによるステージ正面から撮られたもので、細かい動きやインパクトには乏しく、ワイドとズームによるものであった。

 公式的には彼らの70年代の映像というのはほとんど残っておらず、現時点で見られるものは、同じ77年のヒューストンでのライヴ・ステージとこのメリーランド州、ラーゴにおけるライヴだけのようである。
 以上のことは買ったあとでわかった事で、かなりのレア映像をゲットしたということになる。当時のスティーヴン・タイラーやジョー・ペリーはとても痩せていて、エネルギッシュに全17曲をプレイしていた。

 77年当時の彼らは、まさに飛ぶ鳥を落とす勢いというか、第1期黄金時代の真っ只中だった。75年の「闇夜のヘヴィ・ロック」はビルボード・アルバム・チャートの11位を記録し、翌年発表された「ロックス」は第3位、77年の「ドロー・ザ・ライン」も11位と商業的にも大成功していた。
 またこの頃の曲は、いまだにライブでも演奏されていて、特に"Walk This Way"、"Back in the Saddle"、"Draw the Line"などはロック・クラシックとしてもその地位を確立している曲群である。

 個人的にも「ロックス」は大好きなアルバムで、特に最初の3曲を聞いただけで、もう完璧にノック・アウトされた思い出がある。"Back in the Saddle"や"Last Child"などはベスト盤にも入っていたから有名だが、"Rats in the Cellar"のカッコよさは何ものにも代えがたい魅力がある。冒頭の数秒を聞いただけで、これはもう降参という感じだった。

 それにアルバム自体も34分少々と非常に短い。まるで無駄な装飾がそぎ落とされたようで、非常にスリムだ。そして次々と曲が続き、あっという間に終わってしまう。だからもう1回、もう1回と何回も繰り返し聞いたものだった。まさにライヴ・バンドとして本領発揮したようなアルバムだった。これもプロデューサーであるジャック・ダグラスの作戦だったのかもしれない。

Rocks Music Rocks

アーティスト:Aerosmith
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 またアルバム・ジャケットも5つのダイヤモンドが並んでいるだけという非常にシンプルなものだったし、逆にこのジャケットがアルバムの音を象徴しているかのようだった。

 もう1枚のDVDは「You Gotta Move」というもので、これは本国でTV放送されたものらしい。だからライヴ映像の合い間にメンバーのインタヴューが挿入されていて、ちょうどストーンズの“シャイン・ア・ライト”のようだった。ひょっとしたらマーティン・スコセッシ監督はこのTV放送をお手本にしたのかもしれない。たぶんそんなことはないと思うけれども…Photo

 内容は2004年当時の北米ツアー時のライヴで、フロリダ州オーランドでのステージが収録されている。"Toys in the Attic"(闇夜のヘヴィ・ロック)から始まって、"Love in an Elevator"や"Cryin'"、"Jaded"、映画“アルマゲドン”での挿入曲"I Don't Want to Miss a Thing"など80年代~90年、00年代の曲も選曲されていて、彼らの幅広いファン層に充分対応できるようになっている。まさにベスト・ライヴ盤というような楽曲だ。

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 市販されている同名のDVDには、ライヴCD付きの2枚組になっていて時間数も長くなっている。自分が購入したのはたぶんそれの編集版なのだろう。それでも93分、充分満足できる内容だと思っている。これが本当のライヴ・ブートレッグかもしれない。

 自分は主に80年代のヒット曲を集めた「ビッグ・ワンズ」、2001年の「ジャスト・プッシュ・プレイ」なども聞くのだが、やはりエアロは70年代のやけっぱちというか、その場限りというか後先考えないような時代の彼らが一番好きだ。

 もちろんその代償は大きく、彼らはドラッグやアルコールで自分たちを見失っていくのだが、やはり人気がピークを迎える中でライヴや創作活動を行っていくには、普通の精神状態を保つことはできなかったのだろう。

 最近ではまたまたスティーヴン・タイラーとジョー・ペリーの仲が怪しくなり、スティーヴンが脱退するとかしないとか噂されているが、62歳のスティーヴンには休暇が必要なのかもしれない。結局、スティーヴン以外のメンバーはまだまだ活動を続けたいのだろう。
 リンゴ・スターは今年で70歳になるがアルバムを発表している。それに比べればまだまだ若いエアロスミスにはもっと活動の余地があると思うのだが、どうだろうか。

【追記】
 最新のニュースでは、スティーヴンもバンドに復帰して、無事にヨーロッパ・ツアーを行っているらしい。彼らのファンならずとも一安心したことだろうが、これも彼らの演出だとしたら、何とも罪作りなことである。

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2010年7月 2日 (金)

チェイス

 ブラス・ロックの発祥はビートルズだとしても、イギリスではあまり発展しなかったように思える。それよりもむしろジャズの方が盛んで、サックスやトランペットなどの金管楽器は、ジャズ・ロックもしくはプログレッシヴ・ロックの範疇に飲み込まれてしまった。

 ブラス・ロックという音楽はアメリカにおいて発展してきたようで、シカゴやB,S&Tなどがその代表格に挙げられる。ただその人気のピークは短く、1968年頃から70年初頭までの数年間であろう。
 だからチェイスがデビューしてきたときは、すでにそのブームに翳りが生じてきた頃でもあった。

 チェイスは1971年にデビューしている。バンドは9人編成で、そのうち4人がトランペット奏者で、中心人物はビル・チェイスという人だった。だからリーダーの名前にちなんだグループということになる。またビル自身もトランペッターだった。

 自分はこのバンドについては詳しくは知らない。知っているのは彼らのシングル曲"Get it On"(邦題は“黒い炎”)ぐらいで、子どもの頃ラジオからよくかかっていたから、この曲と彼らの名前を覚えてしまった。

 もちろん"Get it On"といってもT・レックスの曲とは別ものである。T・レックスの曲も1971年に発表されているのだが、チェイスの方が数ヶ月早かったようである。だからアメリカでは、T・レックスの方は"Bang a Gong (Get it On)"と曲名を変えられて発売された。理由はチェイスの方が先に売れていたからである。

 この“黒い炎”はチェイスを代表する曲で、チェイスといえば“黒い炎”、“黒い炎”といえばチェイスといった感じである。実際、公式的に彼らは3枚のアルバムしか残していなくて、一番売れたのは当然のことながら、1stアルバムの「チェイス」(邦題は“追跡”)だった。

 このアルバムは数回しか聞いたことがなくて、今回久しぶりに棚から引っ張り出して聞いてみたのだが、ロックのダイナミズムという点ではシカゴやB,S&Tよりも上回っているかもしれないと思った。

追跡 Music 追跡

アーティスト:チェイス
販売元:エピックレコードジャパン
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 その理由は、4本のトランペットである。このトランペットがリード・ギター的な役割を果たしたり、お互いに追いかけっこをしたりして、演奏に疾走感や緊張感をもたらしてくれるのだ。

 1曲目のインストゥルメンタル曲、"Open Up Wide"などはその際たる例で、ベースが地を這い、その上をオルガンとトランペットがバトルを行っている。またトランペットも相互に牽制しながら時にリードし、時に相手にエールを持たせながら演奏されている。だから、アルバムのオープニングとしてはなかなかの迫力を感じさせてくれる。

 ボーカル曲もまた傑作で、2曲目や3曲目でも情熱的なボーカルをトランペットがリードしたりサポートしたりしている。確かに"Get it On"は名曲だが、それ以外にも聴き所は多いのである。

 2曲目の"Livin' in Heat"ではトランペットの洪水の中に出てくる短いリード・ギターが印象的だ。全くもってジャズ的なリードである。また3曲目の"Hello Groceries"も黒っぽいボーカルとトランペット、ギターのリズムが渾然一体となって鳴り響いている。

 旧レコードのA面に当たる1曲目から5曲目はどの曲もよい。特にボーカルが入っている2曲目~5曲はメロディも優れている。だから逆にトランペットなし、もしくはもう少し控えめに使用されたらスタンダード曲として、後々までに語り継がれる曲もあったのではないかと思われる。

 4曲目の"Handbags and Gladrags"などは逆にブラスが騒がしくて、もしなかったなら名バラードとしても鑑賞に耐えうるものになったのではないだろうか。

 確かにデビュー・アルバムとしてはインパクトのあるアルバムだと思う。だが逆にアルバムごとに手を変え品を変え、新しいサウンドを導入することは困難だったに違いない。よくいわれていることだが、トランペット4本というバンド構成が逆に彼らの可能性を狭めたものといえるだろう。

 そう考えれば、シカゴやB,S&Tのようにサックスやトロンボーンもあった方が、楽曲としてもバンドの方向性としても幅が広がるのであろう。

 後半には14分を越える組曲"Invitation to a River"という曲があるのだが、こういう曲を入れないと、アルバム1枚として、もたなかったのかもしれない。この辺はジャズ色が濃厚であるが、途中からボーカルも導入されていて、何となく映画音楽的でもある。彼らにマカロニ・ウェスタンのサウンドトラックなんかを担当させたら、結構上質のアルバムが誕生したかもしれない。

 彼らは2ndアルバムを発表したあと、一度解散をしてしまう。理由は当初の目的を達成したからという理由だった。そして1974年に第2期チェイスを結成して、新たな旅立ちをしようとした矢先、ビル・チェイス以下メンバー3名の乗った小型ジェット機が悪天候のため墜落し、全員死亡してしまった。3rdアルバムを発表した直後の出来事だった。ちなみにビル・チェイスは39歳だった。

 その後残りのメンバーが結成したバンドがサヴァイバーである。80年代になって彼らは映画音楽の主題歌を歌って一躍有名になったが、バンド名はそういう出来事にちなんで名付けられたのだった。

 確かにチェイスは、同類だったシカゴやB,S&Tのように長続きはしなかった。ある意味“一発屋”と見られてもしようがないところもあるかもしれない。しかし、そのセンセーショナルなデビューといい、ショッキングな結末といい、首尾一貫して“ロック”していたバンドだったと思うのである。

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