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2010年12月

2010年12月31日 (金)

ロン・ウッドの新作など

 いよいよ2010年も終わりである。この1年間いろいろあったけれども、こうして無事に生きている。最近思うようになったのは、命があれば何でも出来るということである。逆にいえば、この日本で生きている限り、常識的に生活していれば、命までとられることは無いということだ。
 そういうわけで、やっと前を向いて生きていけるようになった。こんな簡単なことが、なぜ今までわからなかったのだろう、あるいは分かっていても、なぜ行動まで移せなかったのだろうか。それもまた人生なのだろう。

 それで今年の最後のブログは、今年発表されて印象に残ったアルバムを2枚紹介したいと思う。

 まず1枚目はブライアン・フェリーの新作「オリンピア」である。個人的にはなかなかの力作だと評価したい。今まで「タクシー」や「フランティック」などを購入しては失望感を味わっていた私であった。
 でも今作は、1982年の歴史的名盤「アヴァロン」や1985年の傑作ソロ・アルバム「ボーイズ&ガールズ」以来の素晴らしい出来上がりだと思った。

Olympia Music Olympia

アーティスト:Bryan Ferry
販売元:Astralwerks
発売日:2010/10/25
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 期待された通りのゴージャズな音質感、曲のアレンジ、有名ミュージシャンの結集と話題にはこと欠かない。今年で65歳になったフェリーだが、やっと自分の音楽に自覚的になったのか、80年代の全盛期を髣髴させるアルバムに仕上がっている。

 有名ミュージシャンと書いたが、ピンク・フロイドのデヴィッド・ギルモアをはじめ、クリス・スペディングやレッド・ホット・チリ・ペパーズのフリー、ナイル・ロジャースも参加しているし、何と37年ぶりにフィル・マンザネラ、アンディ・マッケイ、ブライアン・イーノが集結して、アルバム制作に携わっている。

 特にブライアン・イーノとはかつて喧嘩別れした(追い出した)仲であったが、30年以上という時間が2人の緊張を緩和したのであろうか、表面的には和気藹々にお互い協力したようである。
 ただ、フェリーも言っているように、イーノはスタジオ内ではすばらしい活躍をするようだが、ライヴでは参加していない。今年の夏もロキシー・ミュージックのライヴがあったが、フィルやアンディは参加していても、イーノは来日していなかった。この辺は2人の間には割り切った関係というか、微妙な空気が流れているのだろう。

 そういうわけで、アルバム自体はロキシー(フェリー)黄金時代を髣髴させるものだったが、逆に言うと、想定内というか、そこから伸びていないのもまた事実である。昔からのファンには納得させるものがあるが、新しいファンの獲得にはつながらないのではないだろうか。今の時代には、もっと軽くてファンキーで、もっと踊れる音楽が流れているからである。

 もう1枚印象に残ったアルバムは、ロン・ウッドの「アイ・フィール・ライク・プレイング」である。これもまた予想通りのアルバムとなったわけであるが、久々に躍動感のあるアルバムになっていて、想定通りとはいえ、自分には納得の行く音楽世界が展開されていた。

アイ・フィール・ライク・プレイング(初回限定盤) Music アイ・フィール・ライク・プレイング(初回限定盤)

アーティスト:ロニー・ウッド
販売元:WARD RECORDS
発売日:2010/09/22
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 ただアルバム冒頭の曲は、アップッテンポでノリのよい曲で始まるのかなと思っていたのだが、あにはからんや、ややミドルテンポのアーシーな感じの癒し系の楽曲だった。いかにもアメリカ南部に影響されたという感じの曲で、スライド・ギターやオルガンの音色が郷愁を湛えている。

 "Why You Wanna Go and Do a Thing Like That for"という曲なのだが、ギターに元ガンズ&ローゼズのスラッシュ、ベースにはこれまたレッチリのフリーが参加していて、ロニーと当時のロシア人の恋人との関係が歌われている。

 2曲目はこれまた意外にもレゲエのリズムに乗った"Sweetness My Weakness"で、これまたスラッシュやストーンズのツアー・ベーシスト、ダリル・ジョーンズが参加している。

 3曲目の"Lucky Man"で、いつものノリノリのロックン・ロールが披露される。この辺の展開がいい意味で予想を裏切られて、逆にアルバムにグイグイと引き込まれることになった。

 "I Gotta See"は"You Gotta Move"によく似た曲で、ギターにZZ・トップのビリー・ギボンズが参加している。そのビリーが作曲したのが"Thing About You"で当然のことながらビリーとロニーがギターを弾いている。
 またクリームの名演で有名な"Spoonful"も収められていて、全く違うアレンジが斬新的である。

 とにかくこのアルバムには豪華なゲストがたくさんいて、上記以外にもドラムスにジム・ケルトナーやスティーヴ・フェローン、ギターにボブ・ロックやワディ・ワクテル、キーボードにイアン・マクレガン、バック・コーラスにバーナード・ファウラー、ボビー・ウーマックなどなど。みんなで協力しましたという雰囲気が満ちていて楽しいアルバムに仕上がっている。
 また、黒人音楽やアメリカン・ミュージック、ロックン・ロールなどの彼の音楽的なルーツをうかがう事ができる点でも興味深い。

 とにかくロニーは私生活のゴタゴタや自身のアルコール中毒の克服など、大変な時期を乗り越えて、いまはソロ活動と2011年に始まるストーンズの活動、フェイセズの再結成とこれからが忙しくなりそうである。(フェイセズの再結成では、ベースが元セックス・ピストルズのグレン・マトロック、ボーカルがシンプリー・レッドのミック・ハックネルになるという)

 ロニーにとっては、2010年は大変な1年になったのだが、アル中が再発しなければ、2011年は彼にとっては素晴らしい1年になりそうである。

 私自身も生きていれば、何かいいことがあるかもしれないし、たとえなくても、命まで取られることはなさそうだから、ロックを聴き続けることはできるだろう。さて、来年はどんなアルバムを耳にするのか、そのことだけでも生きていける希望にはなりそうである。

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2010年12月29日 (水)

アウル・シティ

 このアルバムは今年の夏によく聞いたものである。アルバム・ジャケットも夏向きだったし、タイトルも「オーシャン・アイズ」というものだったから、この1枚で結構快適に過ごすことができたと思っている。

 曲がイイ、サビがイイ、聞きやすいとくれば売れない方がおかしいわけで、このアルバムから"Fireflies"が見事シングル全米No.1を獲得している。そのせいかアルバムも全米8位にまで上昇した。

 このアウル・シティのアルバム「オーシャン・アイズ」であるが、一言でいうとエレクトロニック・ポップ・ミュージックである。つまりシンセサイザーなどの電子音楽キーボードを中心としたポップ・ミュージックであり、昔で例えると、1985年頃のゲイリー・ニューマンやエコー&バーニーメンのような音だといっていいだろう。

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アウル・シティー/オーシャン・アイズ(CD)
販売元:ぐるぐる王国2号館 ヤフー店
ぐるぐる王国2号館 ヤフー店で詳細を確認する

 ただし一番類似性が強いのは、イギリスの女性デュオのストロベリー・スウィッチブレイドの楽曲だと思う。彼女たちのアルバム「ふたりのイエスタディ」もこのブログで取り上げたのだが、あのアルバムと同じくらい、いやそれ以上にポップでファンタジック、ドリーミィで夢心地のメロディで満たされている。

 今年の夏もまた異常気象で、大雨があったり、熱帯夜が続いたりと、たいへんホットな日々が続いたのだが、そんなときにこのアルバムを聞くと、そんな大暑も忘れてついついうっとり聞き込んでしまい、最後はきまってほんとに寝てしまっていた。
 32,33℃の部屋の中で冷房もきかさずに聞いても寝てしまうほどだから、いかにマジカルなポップ・ミュージックだということがわかるとだろう。(ひょっとしたら熱波に負けて単に寝てしまったのではないかと疑う人もいるかもしれないが、実際に聞いてみればウソではないとわかるはずだ)

 どの曲も素晴らしく、まさに捨て曲無しの1枚なのだが、しいてあげればやはり全米と全英の両方でNo.1になった"Fireflies"やセカンド・シングルになった"Vanilla Twilight"あたりだろうか。
 また女性ボーカルをフィーチャーした"The Saltwater Room"、"Meteor Shower"もいい曲だし、アップテンポの"Tidal Wave"もノリノリで、まさにドライヴのBGMにピッタリだ。

 だいたいエレクトロ・ポップといえば、通常一人で作詞・作曲、演奏、録音というパターンが多いのだが、このアウル・シティもその例外ではない。このクレジット名は夜中も寝らずに一人で宅録している自分を喩えたもので、自分の家の地下室の中で鳥のフクロウのような生活を送っているということをいいたかったのだろう。

 そのフクロウのような生活をしているのがアダム・ヤングという、うら若き男の子であり、アメリカはミネソタ州の人口約2万人の田舎町オワトナで生まれ育った一人っ子である。
 一人っ子だったせいか、引っ込み思案でシャイな性格だったらしく、中学生のときに音楽を始めるもバンドを組むこともせず、結局ひとりでギターを勉強し、そのうちコンピューターのプログラミングやシーケンサーを使って曲作りを行うようになったそうだ。

 さすがコンピューター世代の落とし子というか、アダムは自分で作った曲をネットで流し、それが話題を呼んで最終的にアルバム契約を結んだ。ネットでは彼の曲は4000万回以上再生されたというから、レコード会社も彼のことをほっとけなったのだろう。

 ネットの世界は一瞬で世界に届く。アメリカ国内でなく海を越えたイギリスでも彼の曲は話題を呼び、とうとう全英シングル・チャートでも1位を獲得してしまった。そしてデンマークやオランダ、オーストラリア、アイルランドでも軒並み1位を獲得している。これにはたぶん作った本人が一番驚いているのではないだろうか。

 このアルバムは本国アメリカでは2009年に発表され、日本では今年になって発売された。ただ日本ではそんなに話題にはならなかったような気がする。まだまだ日本人にはエレクトロ・ミュージックは理解されていないのだろう。残念な事である。

 そんな状況を変えようという配給会社の作戦なのか、アダムがまだメジャーデビューする前に制作したアルバムが発表された。彼がスカイ・セーリングという名義で発表したアルバムで邦題は「夢見心地のエアプレイン」といい、確かにタイトル通りのポップなサウンドなのだが、ここではピアノやアコースティック・ギターも重要な地位を占めていて、エレクトロ・ミュージックとのバランスが見事である。

夢見心地のエアプレイン Music 夢見心地のエアプレイン

アーティスト:スカイ・セーリング
販売元:ユニバーサル インターナショナル
発売日:2010/07/28
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 このアルバムを聞くと、昔からアダムはこういうポップな音楽をやっていたということがよくわかると思う。
 新しい年も近づいてきたのだが、来年の夏もおそらくアダムの「オーシャン・アイズ」を聞いているだろう。ひょっとしたらそのときまでに、彼の新しいアルバムが発表されているかもしれないなあ。

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2010年12月27日 (月)

ビッグエルフ

 今年もいよいよあとわずかということで、今年印象に残ったアルバムを何枚か紹介したい。ジェフ・ベックの「エモーション&コモーション」もよかったのだが、ちょっとロックとは違うと思った。できればもう少し彼のギター・ソロを聞きたかったし、確かに円熟味は増して深みはあるのだが、70年代にあった“キレ”というものが薄くなったように思う。

 逆に21世紀の今でも70年代のテイストを持ち続けながら、新たな地平を開こうとしているバンドもいる。それがアメリカのバンド、ビッグエルフなのである。

 このバンドは今年の春ぐらいに新作が発表されたのだが、日本での初めてのメジャー・デビューらしい。本国アメリカや人気の高いヨーロッパでは3枚目のアルバムだという。

 自分はビッグエルフという名前を聞いたとき、どこかで聞いたことがある名前で、ひょっとしたら自分のCD棚にあったかもしれないと思った。それで見てみたら1枚だけあって、ディスク・ユニオンから発売された6曲入りミニ・アルバム(+ボーナス・トラック4曲)であった。
1997年の発売になっているので、レコーディングはその前年ぐらいになるはずだ。アルバムのタイトルは「クローサー・トゥ・ドゥーム」というものだった。

クローサー・トゥ・ドゥーム Music クローサー・トゥ・ドゥーム

アーティスト:ビッグエルフ
販売元:EMIミュージックジャパン
発売日:2010/07/14
Amazon.co.jpで詳細を確認する

 バンド結成は1991年で、アルバム・デビューは2000年である。だからこのミニ・アルバムは正式なデビュー前になるのだが、ヨーロッパでは2001年に発表されている。ひょっとしたら日本での発売も同時期だったのかもしれない。

 自分が手に入れたのはほんの数年前だった。何しろアルバムの帯に“ヘヴィサウンドとエモーショナルなメロトロン/ハモンドが織りなす深紫の幻影”とあり、一読しただけで即購入してしまったのである。

 聞いた印象では、確かにメロトロンを始め、ハモンド・オルガンやピアノ、シンセサイザーが目立つという感じで、曲自体があまりパッとせず、記憶に残るような印象的なものがなかったのを覚えている。時代錯誤のハード・ロックorプログレッシヴ・ロックという感じだった。要するにどっちつかずで、ハード・ロックなのかプログレなのかハッキリしない音作りだった。

 ところが最新アルバム「鍵盤狂想曲第1幕」では、ミニ・アルバムとはうって変わって、実に堂々とした自信のあるサウンドを披露しているのである。これにはびっくりしてしまった。約8年くらいの間に彼らも成長したのだろう。ドリーム・シアター等のアメリカン・ヘヴィ・プログレッシヴ・ロック・バンドとの同伴ツアーも彼らに揺るぎない自信をもたらしたに違いない。

鍵盤狂想曲 第1幕:ビッグエルフ Music 鍵盤狂想曲 第1幕:ビッグエルフ

アーティスト:ビッグエルフ
販売元:HYDRANT MUSIC
発売日:2010/04/14
Amazon.co.jpで詳細を確認する

 またこのバンドの中心人物はキーボーディストのデーモン・フォックスという人なのだが、デビュー時と今とではこのフォックスを除いて、全員メンバーが入れ替わっている。ミニ・アルバムではギターが弱くて、印象的なフレーズも聞かれなかったのだが、メンバー・チェンジのせいか、この新アルバムではギターも充分自己主張しているし、メロディや曲の展開もよく練られている。だから日本でも充分認知されると思ったのだが、どうだろうか。

 アメリカのプログレッシヴ・ロックは商業的にも成功しないと、次の契約はないという。というかこれは自分で勝手に思いついた理論なのだが、これでいけば彼らも次のアルバムへ向けて取り組めるのではないかと思っている。(最初のアルバムはどちらかというとプログレ寄りだったのだが、このニュー・アルバムでは基本はハード・ロックに、プログレ風キーボードが鳴っている感じである)

 というのもこのアルバムでは聞きやすくてポップな感じの"Money, It's Pure Evil"という曲もあるし、どことなくクィーンを想起させる"Gravest Show on Earth"や"Counting Sheep"という曲もあるからだ。最初に聞いたようなアマチュアっぽいアンダーグラウンドな感じはもうどこにもない。

 またメンバーのうちギタリストとベーシストはフィンランド出身で、そのせいかもしれないが、彼らが北欧独特のメロディアスな曲調や北欧メタルの影響をバンドにもたらしたのかもしれない。
 だからこのアルバムはカラフルでバラエティ豊かなのである。特にボーナス・トラックの"Demon Queen of Spiders"ではギターが目立っている。デーモンはギターも弾くのでこの曲では彼も演奏している可能性は高い。

 とにかく最初のミニ・アルバムよりも音的にクリアになり、音楽的にも深化している事は確かだ。また以前はデーモン一人が目立っていたが、このアルバムではバンドとしてのまとまりが出てきている。この調子でいけば次のアルバムはもっと期待できそうである。

 ちなみに彼らが契約している会社の設立者は、あの伝説のバンド、イーソスのギタリストのウィル・シャープである。このブログでもイーソスのことには触れたのだが、時代は巡るというか、伝統の継承というか、類は友を呼ぶというか、確実にアメリカン・ロックの一断面として、この手の音楽は受け継がれているようである。

 ラップやダンス・ミュージック隆盛のアメリカン・ミュージック・シーンであるが、来年以降も負けずに、このアルバム以上の音楽を表現できるように頑張ってほしいものだ。

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2010年12月23日 (木)

ジェントル・ジャイアント(3)

 本来なら前回でジェントル・ジャイアント(以下GGと略す)については終わる予定だったのだが、先日ふとのぞいたCDショップにまだ未購入の彼らのアルバムがあったので、輸入盤ではあったが、唐突に購入してしまった。いわゆる衝動買いである。
 しかし長年の習慣から、買うか買わないか迷った場合は、即購入というのが一番正しい対処方法だと思っている。買って後悔してもあきらめはつくが、買わなくて後悔した場合はあとあとまで尾を引く場合が多いからだ。これは音楽CDだけでなく、何事にも当てはまるのではないかと思っている。

 そんな事はどうでもいいのだが、自分が購入したGGのアルバムは初期から中期にあたる1973年、74年の「イン・ア・グラス・ハウス」、「ザ・パワー・アンド・ザ・グローリー」と1976年のヨーロッパ・ツアーを録音したライヴ「プレイング・ザ・フール」の3枚だった。

 GGは5枚目のアルバム「イン・ア・グラス・ハウス」の発表後に、カルト的な人気から広く一般の人たちにも名前が知られるようになった。特にアメリカではこのアルバムの成功のおかげで、前作「オクトパス」もさらに売れていったといわれている。

In Glass House Music In Glass House

アーティスト:Gentle Giant
販売元:Alucard Records
発売日:2010/01/26
Amazon.co.jpで詳細を確認する


 確かにこのアルバムは、以前に比べて聞きやすい曲で構成されている。1曲目の"The Runaway"などは7分以上もある長い曲なのだが、曲構成が巧みで、手を変え品を変え次々とソロ・パートが展開されていく。まるでジェスロ・タルの"Thick as a Brick"のようである。途中でリコーダーやマリンバのソロまであるのだから、聞いていて飽きない。

 続く"An Inmates Lullaby"はタイトルが表しているような幻想的な夢心地の曲。GG風子守唄なのだろう。しかしテクニカルな子守唄である。こういう曲を聞かされたら、なかなか寝付けないと思うのだが…

 3曲目の"Way of Life"は逆に躍動感のある曲で、途中に転調して室内管弦楽になるのだが、また元のリズムに戻るところがGGらしい。8分という長さを感じさせない曲である。
 さらに"Experience"では教会音楽とロックが合体したような雰囲気を湛えている。前作までのアルバムにはこういう傾向の曲が多かったのだが、このアルバムではこの曲くらいだろうか。

 基本的にこのアルバムは1曲1曲が洗練されていて、とっつきにくいところや理解しがたい傾向の曲はほとんどないのである。5曲目の"A Reunion"はバロック音楽に歌詞をつけたような曲で聞きやすいし、最後のアルバム・タイトルと同名の曲は、変幻自在な彼らの実力が遺憾なく発揮された曲でもある。
 ジェスロ・タルにも近いものがあるし、イタリアのプログレッシヴ・ロック・グループのバンコやP.F.M.の雰囲気も備えている。通常のロック・グループで使用される楽器以外にヴァイオリンやリコーダー、サックスなども使われていて、なるほど彼らがイタリアで人気が高かった理由も分かるような気がした。

 1974年に発表された「ザ・パワー・アンド・ザ・グローリー」では、また初期のGGに戻った感がある。アヴァンギャルドとロックの融合のような曲とGG流ポップ・ミュージックが配置されている。

Power & The Glory Music Power & The Glory

アーティスト:Gentle Giant
販売元:Alucard Records
発売日:2010/01/26
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 さしずめ2曲目の"So Sincere"は前者であり、1曲目の"Proclamation"や3曲目の"Aspirations"は後者にあたるだろう。"Aspirations"はGG流バラードかもしれないし、どことなくスティーリィ・ダンに通じるものもあるように感じた。

 また"Playing the Game"はギターのリフが印象的で、初期の彼らの曲に比べればとても聞きやすいものに仕上がっている。続く"Cogs in Cogs"はアップテンポの疾走感を伴う曲で、畳み掛けるように目まぐるしくリードが変わっていく点は相変わらずである。

 そして"No God's A Man"では、得意のコーラスを聞くことができるし、"The Face"ではバイオリンと、何といってもギターのゲイリー・グリーンの演奏を堪能することができる。正直言って彼がここまで弾けるとは思わなかった。バイオリン、キーボード、ギターと三つ巴という感じである。

 このアルバムでは前半は割と長めの曲が置かれ、後半は短めの曲が配置されているが、全体的にコンパクトで耳に馴染みやすい。
 この73~74年頃から彼らがイギリス以外の欧米諸国で人気が出てきたのだが、その理由は芸術性といい意味での商業性がうまく均衡しているのである。

 それで高まった彼らの人気を確かめるかのように76年にヨーロッパ・ツアーに出かけたのだが、それを記録したのが彼らの公式ライブ・アルバム「プレイング・ザ・フール」だった。

Playing the Fool: The Official Live Music Playing the Fool: The Official Live

アーティスト:Gentle Giant
販売元:Alucard Records
発売日:2010/02/09
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 このアルバムには1stアルバムからの曲"Funny Ways"や4枚目の「オクトパス」から同名タイトル曲を演奏しているのだが、やはり「イン・ア・グラス・ハウス」からの曲"The Runaway"、"Experience"、「ザ・パワー・アンド・ザ・グローリー」からの曲、"Proclamation"、"So Sincere"、またこの前年に発表された「フリー・ハンド」から"Just the Same"、"On Reflection"、"Free Hand"などが収められていて、この時期の彼らの代表曲が網羅されて非常に聞きごたえがある。

 何といってもスタジオ盤の音をそのまま再現できるのかという、まるでイエスのライヴ・アルバムのような不安があったのだが、まるで問題なく普通に演奏している。コーラス・ハーモニーは当然のことながら、ボーカル、ギター、ベースの3人がリコーダーを吹いたり、ベースがバイオリンを、キーボードがチェロを担当して、すぐさま自分の楽器の戻ったりと本当に曲芸のように、しかも正確に演奏しているのだ。

 聴衆の拍手のおかげで、自分も面前で行われているかのような錯覚を覚えたのだが、あれだけ複雑な曲をいとも簡単に演奏する彼らの力量には、本当に驚かされたし、まさに驚異としか言いようがない。

 キーボード担当のケリー・ミネアーは、ロイヤル・アカデミー音楽院を首席で卒業したらしく、作曲法の学位を取得したとのことだが、そういう人が一介のロック・バンドに所属して、ツアーをしているのだから、イギリスのロック・ミュージックは伝統と革新が同居しているというか、奥が深いということがよくわかった。

 前回でも述べたが、彼らが再結成をすることはほとんど期待できないが、シャルマン兄弟を除いたメンバーで“スリー・フレンズ”というバンドを作って、GGの曲をコンサートで演奏しているようだ。昨年は来日公演を行ったとのことである。

 でもやはりシャルマン兄弟あってのジェントル・ジャイアントだと思う。今となっては彼らの残影を追いながらGGのアルバムに耳を傾けるしかないのかもしれない。もっともっと評価されてもいいプログレッシヴ・ロック・バンドだと思うのは私一人ではないはずだ。

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2010年12月19日 (日)

ジェントル・ジャイアント(2)

 ジェントル・ジャイアント(以下GGと略す)は1973年に4枚目のアルバム「オクトパス」を発表した。このアルバムのジャケットはイエスの一連のジャケットを手がけたあのロジャー・ディーンが手がけており、タイトル通りの大きなタコが描かれているものだった。(アメリカ盤は異なっている)

Octopus Music Octopus

アーティスト:Gentle Giant
販売元:Polydor
発売日:1997/02/01
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 このアルバムはまた彼らの最高傑作ともいわれているものだが、確かにそれまでのアルバムと比べて、曲の時間は短いものが多くなり、その分1曲ごとの完成度は高くなったといえよう。
 ただ自分はこれを最初聞いたときは、はっきりいってよくわからなかったし、今でも大好きなアルバムとはいいがたい。理由は複雑な曲構成に幻惑されてしまい、彼らの水準の高い演奏を充分に味わうことができなかったからである。

 だからGGの良さというものが理解できないでいた。1曲目の"The Advent of Panurge"はジャズかロックかよく分からない曲だし、2曲目の"Raconteur, Troubadour"では他のアルバムと同じように、ロックではほとんど聞かれないチェロやバイオリンが使用されている。むしろ3曲目の"A Cry for Everyone"の方がロック的で、理解はしやすい。しかしGGにとってはこういった曲の方が珍しいだろう。

 自分が感動したのは4曲目の"Knots"と次の"The Boys in the Band"だった。4曲目の"Knots"では4人のボーカル・ハーモニーを聞くことができるのだが、これほどハーモニーを使うプログレ・バンドはイエスとGGくらいだろう。むしろイエスより多用しているし、重視している。またマリンバのソロも聞くことができるし、かなり他のプログレ・バンドとは異なっている。
 "The Boys in the Band"はインストゥルメンタルなのだが、ここで聞かれる彼らの一糸乱れぬ演奏は見事というほかはない。基本はピアノやオルガンだが、サックスやバイオリンも鳴り響き、それを新加入のドラマー、ジョン・ウェザーズが手数の多いドラミングで支えているという感じだ。

 とにかくこのアルバムは後半が素晴らしい。"Dog's Life"はビートルズの"Eleanor Rigby"を複雑にしたような曲だし、"Think of Me with Kindness"は牧歌的で、どことなくスタックリッジを思い出させる。最後の曲"River"ではやっとギターが全面にでてきて華麗なフレーズを奏でるのだが、そういう当たり前のことが目立つのもGGの特長であろう。

 その後彼らは長兄のフィル・シャルマンが脱退して5人組となり、2枚のアルバムを間に挟んで、レーベルもクリサリスに移籍するという変化もあったのだが、新レーベルで発表された第一弾が1975年の「フリー・ハンド」だった。

Free Hand Music Free Hand

アーティスト:Gentle Giant
販売元:Alucard Records
発売日:2010/01/26
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 実は70年代後半のGGについては自分はほとんど知らなくて、噂では70年代前半よりも後半の方に名盤が多いといわれていたので、やっとも思いで通販で探し出しては聴いた思い出がある。

 相手がGGなので、何を基準にして名盤と判断するのか非常に判断が難しい。この「フリー・ハンド」というアルバムも以前のアルバムと同じように、複雑な曲構成や自分にとっては前衛的で難解な部分も相変わらず存在していて、やはり聞きやすさという言葉にはそぐわないのであった。
 とはいえ"On Reflection"、"His Last Voyage"などは好きな部類に入れてもよい曲だと思う。"On Reflection"では5人組になったとはいえ、相変わらず素晴らしいハーモニーを聞かせてくれるし、"His Last Voyage"は哀愁溢れるGG流バラードである。特にメインのメロディ・ラインが素晴らしく、こういう名バラードをさり気なくアルバムの中に潜ませているのも彼らの手腕といえるだろう。
 また"Talybont"はGG流のトラディショナル・フォークである。ただしインストゥルメンタルなのだが、この曲だけ聞けば、まるでフェアポート・コンベンションのようだ。

 そして自分はもう1枚彼らのスタジオ・アルバムを持っていて、そのアルバム「インタビュー」が翌年発表された。これはGGが自分たち自身を客観的に振り返ってインタビューに応えるという内容や今までのバンド活動を振り返ったもの、ミュージック・ビジネス界の様子やそれに対する感情などを披瀝する曲で構成されている。いわゆるトータル・アルバムとして考えた方がいいかもしれない。

Interview Music Interview

アーティスト:Gentle Giant
販売元:Alucard Records
発売日:2010/02/09
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 このアルバムはそれまでのGGのアルバムよりはポップ化しているといわれているのだが、自分にはそうとは思えない内容だった。相変わらず曲は複雑だし、サビのフレーズはヘンテコリンで、よくわからない。逆に見事なコーラス・ワークは健在なのだが。

 それでも2曲目の"Give It Back"は10ccもビックリのレゲエ・ミュージックだったし、これはこれで確かにポップだった。クールなレゲエだ。
 4曲目の"Another Show"は3分少々の彼らにしては珍しく短いロック寄りの曲。それでも通常のロック・ミュージックよりは複雑なリズムを伴っていて、断続的なキーボード、ギターの音がこれまた変なのである。でもこのアルバムの中ではポップで聞きやすい。

 他の"Empty City"はスローな曲ながら、メロディラインがよくわからないうちに終わってしまったし、"Timing"はバイオリンやギターの使い方がクリムゾンっぽい。クリムゾンがもっと前衛的になった感じがする。
 最後の曲"I Lost My Head"はパート1、2と分かれていて、ミュージシャンのドラッグ体験のことを歌っているらしい。ライヴではパート2の方が演奏されていたとか。ドラムスが入るところからパート2になるのだが、確かにこちらの方が聞きやすい。でもリズムには乗りにくい。

 自分の家にはさらにもう1枚ライヴ盤「ラスト・ステップス」があるのだが、これは彼らの解散後に発表されたもので、1980年のアメリカ・ツアーを収録したものである。演奏場所はロサンジェルスのクラブ、ロキシーである。Photo
 彼らはライヴの途中で、各人が楽器を持ち替えて演奏したり、全員コーラス、全員リコーダー、全員パーカッションなどの見せ場を用意していたらしい。できればCDではなくDVDでその勇姿を見てみたいものだ。

 ともかく今までのプログレッシヴ・ロックの中で、高度に複雑かつ技巧的で、それにもかかわらず商業的にも少なからず成功したという珍しいバンドであった。
 イタリアのP.F.M.やバンコなどにも多大な影響を与えたともいわれていて、本国イギリス以外では知名度も高かった。いわゆる玄人受けする職人集団なのである。おそらく同業者からすれば、とんでもないことをやっているように感じるに違いない。

 たぶん二度とオリジナル・メンバーでは復活しないだろうけれども、できればリアル・タイムで経験したかったバンドであった。30年以上たった今でも充分通用するのであるし、もし21世紀の今復活したならどんな曲を提供してくれるのだろうか。興味は尽きないだけに、残念で仕方がない。

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2010年12月16日 (木)

スペイス・バトルシップ・ヤマト

 今日は木曜日ということで、映画の日、映画鑑賞券が1000円だった。貧乏人の自分はこういう機会を見逃さないようにして、昼から仕事を休んで見に行った。前回は父親が危篤で見舞いに行くという理由を使ったので、今回は母親の看病という理由を使った。ちなみに父親は20年以上前に亡くなっているし、母親とは3歳から会っていないのだが…

 それで何を見に行ったのかというと、今話題の木村拓哉主演「Space Battleship YAMATO」だった。これには職場にいる隣の上司から、その面白さや必ず泣けるからハンカチを持っていくようにと、常日頃言われていたことも影響していた。とにかく“ヤマト世代”は絶対に見に行った方がいいとシツコク言われていたのである。6

 だから、1000円だったら、たとえ良くなかったとしてもまあ何とか許せるだろうと思って、見に行ったのであったのだが、これがまあ意外と面白かった。ストーリー展開はほぼ原作に近いようだったので、安心して見られたという理由もあっただろうし、最初は、エッ、キムタクが古代進を演じるの?という不安というか、ミスキャストではないかという恐れもあったのだが、時間が経つにつれて映画に慣れ、不安感も薄れ、むしろ期待感が高まっていった。

 ただ何というか、粗探しをするのではないのだが、古代進が元戦闘隊員という設定なのに、首から下げているメダルの認識番号のことを知らなかったり、西暦2199年という設定にもかかわらず、AEDを持ってきて救命活動をしたりするというところが不自然だった。
 しかもアナログ感とデジタル度が統一されておらず、ちぐはぐな気がした。もっと徹底的に未来感覚の視覚効果などを用意してほしかった。

 またイスカンダル星に突入するシーンやアナライザーの役割などは、映画「スター・ウォーズ」のパクリだったし、原作にもあるとはいえ、イスカンダル星での自爆シーンなどは「アルマゲドン」を髣髴させるものだった。

 さらに違和感が残ったのは、ラスト・シーンの子どもが森雪に向かって“お母さん”と呼ぶシーンだった。これは完璧に「パイレーツ・オブ・カリビアン」の第三作のエンディングのパクリであり、そりゃないだろうと思った。5
 だいたい、進と雪のキス・シーンは最後まで取っておいてほしかった。進がひとりでヤマトに残って、雪を艦に残らないように説得するときに設定してもらうと、もっと盛り上がったのにと思った。

 途中のワープ突入前でやるにはちょっと早いのではないかと思ったし、それは艦長代理という職権乱用、一歩間違えればパワハラ、セクハラにもなりかねないような行為なので、ちょっと映画とそぐわないような気がした。いくら木村拓哉と黒木メイサといえども、もうちょっと我慢してほしかったと思う。何しろ地球救出という重大な使命を担っているのだから、個人の感情はグッと抑えてほしいのである。4

 しかしそうなると、森雪に向かってお母さんと呼ぶ子どもは生まれなかっただろうし、映画のストーリー展開も少し変わってしまうことになる。なかなか思うようにはならないのだが、この一作で終わらせずにpart1、part2などとシリーズ化しても良かったように思う。

 それにしても木村拓哉の演技は良かったのだが、彼ももう38歳だし、やんちゃな性格を演じるにはもうそろそろ限界が来ているような気がしてならない。これからは年齢なりに落ち着いた役柄が求められてくると思うのだが、どうだろうか。

 ところで今回のサウンド・トラックで、主題はあのエアロスミスのボーカリストであるスティーヴン・タイラーが歌っている。彼が歌う映画の主題歌というと、やはり彼の実の娘も出演した「アルマゲドン」を思い出してしまうのだが、今回もスローなバラードで徐々に盛り上がっていく形式などはとてもよく似ている。まるで類似品、柳の下のドジョウ狙いだ。2
 しかし、売れる曲というのはだいたいこういう形式になってくるのであろう。映画の感動的なシーンを思い出させるには、やはりこういうバラード形式が一番であろう。

LOVE LIVES Music LOVE LIVES

アーティスト:スティーヴン・タイラー
販売元:SMJ
発売日:2010/11/24
Amazon.co.jpで詳細を確認する

 ともかくオリジナルに近いストーリー展開だったせいか、おじさんたちには郷愁を誘う映画だったし、SMAPファンやキムタク・ファンには当然のことながら見逃せない映画だっただろう。
 そのせいか12月1日の公開初日から5日間までの興行収益は9億4000万円以上、観客動員数は79万人を突破し、ハリー・ポッターを抑えて、見事初登場1位を記録している。

 この結果を受けて、ひょっとしたらシリーズ化になるかもしれないし、あるいは「銀河鉄道999」や「ルパン3世」の実写版も制作されるかもしれない。「あしたのジョー」も上映されることだし、時代は70年代の有名キャラクターの復活を待望しているのだろうか。

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2010年12月15日 (水)

ジェントル・ジャイアント(1)

 管楽器を使用するプログレッシヴ・ロックを特集してきた。他にもいろいろとあると思うのだが、とりあえず主なバンドを例として紹介してきたつもりだった。
 それで今年も大詰めでもあり、このシリーズもそろそろ幕引きをしたいと思った。最後に登場するのは、イギリスが誇る大物バンド、ジェントル・ジャイアントの登場である。(以下GGと略す)

 このバンド、とにかくユニークである。何がユニークかというと、全員がマルチ・ミュージシャンであり、ライヴ中でもお互いに楽器を持ち替えて演奏を続けるというのである。
 またイギリス本国ではさっぱり売れず、他のヨーロッパ諸国やアメリカなどでは逆に有名で、商業的にも成功しているというのだ。そしてもちろん音楽的には、ジェネシスやカンタベリー・シーン以上に複雑な曲構成を誇り、変拍子を多用する純然たるプログレッシヴ・ロック・ミュージックなのである。

 彼らはGGとしては1970年にヴァーティゴ・レーベルよりデビューしたが、6人のメンバーのうち3人は、デレク、レイ、フィルというシャルマン姓の兄弟だった。この3人、もともとはサイモン・デュプリー&ザ・ビッグ・サウンドというR&Bバンドを結成していて、1967年からシングル中心にヒットを連発していたのだが、単なるビート・バンドで終わるのを嫌った3兄弟は、このバンドを解散させてニュー・グループを結成したのである。

ジェントル・ジャイアント(紙ジャケット仕様) Music ジェントル・ジャイアント(紙ジャケット仕様)

アーティスト:Gentle Giant,ジェントル・ジャイアント
販売元:ユニバーサルインターナショナル
発売日:2010/04/01
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 ヴァーティゴ・レーベルは、イギリスのフォノグラム・レコード傘下のレーベルで、当時はブラック・サバスやコロシアム、ユーライア・ヒープ、シン・リジィなどのロック・バンドが所属している有名なレーベルだった。なおこのレーベルは他のネオン・レーベルなどが閉鎖になる中でも経営難に陥ることもなく、現在でも続いており、今はレイザーライトやキラーズなどの有名バンドを抱えている。

 それでGGのことに戻る。彼らは「ジェントル・ジャイアント・ファースト」を発表したのだが、このアルバムにはビート・バンドの残り香みたいなものがあって、まだ聞きやすいのである。たとえば4曲目の"Isn't It Quiet and Cold?"は3分強の曲で、ヴァイオリンやチェロが使用された穏やかな雰囲気を湛えている。
 また彼らはプログレッシヴ・ロック・バンドなのにハーモニーの付け方がとても上手で、この曲だけでなく次の"Nothing at All"でも美しいハーモニーを聞くことができる。

 この1stアルバムでは1曲目の"Giant"と2曲目の"Funny Ways"が動と静を対比しているようで面白い。"Giant"はGG風ハード・ロックともいうべき曲で、メイン・フレーズが繰り返される中でオルガンやギター、サックスなどが次々と登場するという複雑なものである。もちろんメロトロンも使用されているのだが、目立つ使い方はこのアルバムくらいで次作からのメロトロンの使用頻度は少なくなっている。

 2曲目の方はライヴでも頻繁に演奏される曲で、彼ら自身も気に入っているようである。ヴァイオリンやストリングスが効果的で、一転して叙情的な雰囲気になる。ただし途中からタムタムが叩かれ、ブラスやギターが一気に全面に出てくるのだが、すぐにまた穏やかなメロディに戻ってしまう。こういうところは伝統的なイギリスのプログレ・バンドの手法だと思う。

 彼らは翌年には2ndアルバム「アクワイアリング・ザ・テイスト」を発表するのだが、自分にはこのアルバムは理解するのが難しかった。1枚目のアルバムはまだロック臭を残しているのでわかりやすいのだが、このアルバムはプログレを通り越して前衛的な要素も見られるのである。

Acquiring the Taste Music Acquiring the Taste

アーティスト:Gentle Giant
販売元:Fontana Island
発売日:1990/04/20
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 全8曲なのだが、いずれも聞きやすいメロディはなく、ポピュラー・ミュージックとは対極の位置にある。また反復されるフレーズは明確なメロディ・ラインを有しているのだが、全体的なアンサンブルはなぜか複雑怪奇にして、自分には理解困難なのである。

 ただロック・ミュージックにおける通常の楽器だけでなく、管楽器や弦楽器も使用しての高度な演奏テクニックを有し、複雑な曲構成を行っているということぐらいは、凡人の自分にも理解はできた。でもどうしても繰り返し、今日も明日も聴きたいとは思えない。例えていうなら、フランク・ザッパが英国流の陰影のある音楽をやっている感じだ。

 1972年には「スリー・フレンズ」というアルバムを発表したが、このアルバムは3人の友だちの子ども時代からおとなになってそれぞれの人生を歩むというトータル・アルバムになっており、その分聞きやすいし、わかりやすかった。GGを聴き始めるにはこのアルバムあたりから始めるといいかもしれない。

Three Friends Music Three Friends

アーティスト:Gentle Giant
販売元:Sbme Special Mkts.
発売日:2008/02/01
Amazon.co.jpで詳細を確認する


 アルバムのテーマはバンド内でのたわいもない内輪話から発展していったらしい。たぶん“3人の友だち”というのは自分たちシャルマン3兄弟のことにも掛けているのであろう。
 どうでもいいことだが、輸入盤のジャケットは国内盤の1stアルバムと同じである。これはアメリカでは3枚目のアルバムが1stアルバムとして発表されたからで、購入するのなら国内盤の「スリー・フレンズ」の方が違うジャケットなので楽しみも倍増するかもしれない。
Three Friends (Dig) Music Three Friends (Dig)

アーティスト:Gentle Giant
販売元:Repertoire
発売日:2008/01/29
Amazon.co.jpで詳細を確認する


 内容的には学校では友だちだった3人が、チャンスや能力や運命でそれぞれ別の人生を歩んでいくというストーリーなのだが、3人が具体的にどんな人生を歩むのかということは歌われてはいなくて、一般的な出来事として人はそれぞれ自分の道を歩んでいくということを述べているようだ。

 演奏的にも、もちろん高度なことをやっているのだが、このアルバムでは聞きやすいパフォーマンスを行っていてとっつきやすい。1曲目は6分以上もある"Prologue"で、トータル・アルバムのオープニングにふさわしく、繰り返されるフレーズとそれにからんでさらに展開する演奏の広がりが素晴らしい。

 "Peel the Paint"ではギター・ソロもあるし、"Mister Class and Quality"ではギターとオルガンの掛け合いや、最後の曲"Three Friends"では壮大なメロトロンをバックにボーカル・ハーモニーとギター、ベース、ドラムスによるタイトな演奏を聞くことができる。隠れた名盤とはこういうアルバムを指すのであろう。

 この3枚目のアルバムでは、それまでの彼らのアルバム中で一番ギターが目立っているアルバムかもしれない。もちろん使用楽器の種類の多さは相変わらずなのであった。

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2010年12月11日 (土)

ジョーンズィー

 前回、前々回とネオン・レーベルに所属していたバンドの紹介をしてきた。それで今回はほぼ同じ時期に存在していた違うレーベルと、そこにいたバンドのことを紹介したい。

 1970年代初頭のイギリスでは、次々と新しいバンドが生まれては消えていっていた。やはりビートルズが解散し、レッド・ゼッペリンやキング・クリムゾンなどの新しいバンドが生まれるという時代背景がそういう状況を作り出したのだろう。もちろんそれとともにアメリカでのフラワー・ムーヴメントや時代の閉塞感を打破しようとする状況も後押ししたのだろう。

 そういう流れに乗って、各大手レコード会社も自分たちの傘下に中小レーベルを作り、そこで新人バンドやミュージシャンにチャンスを与えてデビューさせていた。このシステムもビートルズがアップル・レーベルを作り、そこからバッド・フィンガーやジェイムス・テイラーなどをデビューさせたのに似ている。

 それでネオン・レーベルは大手のRCAに所属していたし、ハーヴェスト・レーベルはEMI、ヴァーティゴはフォノグラムに所属していた。今回のドーン・レーベルはパイ・レコードの傘下で、以前紹介したアトミック・ルースターやタイタス・グローンなどは、このレーベルに在籍していたのである。
 そして中小レーベルの中で、売れると判断されたバンドや音楽は大手のレコード会社に引き上げられメジャー契約となるが、売れないバンドはアルバム1枚で解散という結果になった。まさに群雄割拠の時代である。

 それでネオン・レーベルは、資金不足から早々に倒産してしまったが、ドーンの方は70年代の終わりまで生き残ったようだ。

 そのレーベルから1972年にデビューしたプログレッシヴ・ロック・バンドがいた。その名をジョーンズィーという。4人組のバンドだったが、このバンドにはジョン・エヴァン・ジョーンズというギタリストと、途中から加入したジョンの実兄でベーシストのトレヴァー・ジプシー・ジョーンズがいて、この兄弟の名前からグループ名をジョーンズィーにしたらしい。(正確にいうと、トレヴァーは2作目から参加したので、ジョン・エヴァン・ジョーンズの名前から引用されたものである)

 彼らが1973年に発表した2ndアルバム「キーピング・アップ」は、当時日本ではそのジャケット写真から「紅薔薇刑」と言われていた。Photo
 このアルバムはなかなかの名盤で、聞けば聞くほど感銘度が増す。何しろ1曲目から疾走感があり、しかもメロトロンも使用されているのだ。アルバムの1曲目にはふさわしいジャンプ・ナンバーなのだが、問題はメロトロンの使い方である。

 普通メロトロンは静かな曲や緩やかな曲で使用されるもので、例えばムーディ・ブルーズの諸作品であり、ビートルズの"Strawberry Fields Forever"などを聞けばわかると思う。
 
 ところが1曲目の"Masquerade"では、違う。こういうアップテンポのハード・ロックの曲にメロトロンが使用されるのは大変珍しいことなのである。メロトロンは、通常は鍵盤を押すとテープが回転してその音を出すために、タイム・ラグが発生する。そのため速いテンポの曲では間に合わないために使用できないとされてきたのだが、ここでは躊躇なく使われている。これこそ逆転の発想というべきものだろう。キーボーディストのジェイミー・カレスはもっと賞賛されてもいいと思う。

 このアルバムに収められている8曲は、5曲目のやや前衛的な"Critique"を除いて、いずれもメロディがよく、曲自体が締まっている。1曲目はハードながらも、どこか微妙に親しみやすいフレーズがあり、2曲目、3曲目と2,3分台の曲が並ぶが、小粒でも叙情性に溢れている。
 2曲目"Sunset and Evening Star"はクリムゾンの"Island"をメロトロンが全面バックアップしているような曲で、3曲目の"Preview"はアラン・ボウンのトランペットをフィーチャーした哀愁味のあるインストゥルメンタルである。

 そういえばこの2ndアルバムではメンバー・チェンジが行われていて、管楽器奏者としてアラン・ボウンが参加して5人組になった。この人はイギリスのR&Bやジャズ・シーンでは名うてのトランペッターで、60年代中頃から活躍していて、なぜこんな無名のバンドに参加したのかよくわからない。記録によると、バンド加入前にメル・コリンズとツアーをしているから、ひょっとしたらメルの影響で、第2のクリムゾンを考えたのかもしれない。

 翌年の74年には3thにしてラスト・アルバムとなった「グローイング」を発表した。このアルバムは6曲ながら、単なるプログレッシヴ・ロックではなくて、プログレにロック・テイストやジャズ・テイストが混じりあい、さらに完成された演奏を繰り広げている。

グロウイング(紙ジャケット仕様) Music グロウイング(紙ジャケット仕様)

アーティスト:ジョーンズィー
販売元:Webkoo
発売日:2006/01/27
Amazon.co.jpで詳細を確認する

 1曲目は"Can You Get That Together"で、キーボードよりもギターが目立っているジャズ・ロックである。しかもかなり疾走感があり、ノリがよい。ただ残念ながらメロトロンはそんなに強調されていないが、前作と同様にスピード感のある曲で使用することは異例である。
 2曲目"Waltz for Yesterday"はタイトルが象徴しているように、静かなバラード系の曲。室内アンサンブルのような弦楽奏が演奏されているのだが、これはキーボードによる演奏なのだろうか。クレジットがないのでよくわからない。
 途中からエレクトリック・ギターが登場して、ワルツのリズムになるところがユニークである。
 3曲目の"Know Who Your Friends Are"はポップなテイストを持っていて、シングル・カットされてもおかしくないような曲。アップ・テンポからスローに転換し、また元に戻るという構成は陳腐だが、それを補って余りあるほどのメロディ・ラインとメロトロン、リード・ギター、トランペットの演奏が見事である。

 アルバム・タイトル曲の"Growing"は軽快なロックン・ロールで、ここでもギターが目立っている。2ndアルバムはメロトロンを含むキーボードが、3thアルバムはギターが目立っているようだ。またアラン・ボウンのトランペットも途中でリードを聞かせてくれる。

 続く"Hard Road"も60年代風のメロディ・ラインを持った曲で、非常に聞きやすい。2作目までのキング・クリムゾン風味はどこかに消し飛んだ感がある。これが吉と出たのか凶と出たのか、プログレ・ファンはちょっと失望したに違いないと思う。ここではギターとトランペットの掛け合いを聞くことができ、アラン・ボウンの存在感を示している。

 最後の曲は11分を超える大曲で、"Jonesy"という自分たちの名前を冠した曲。このアルバムでは、この曲のみクリムゾンというか、むしろVDGGに近い音空間を提示している。前衛的で即興的、他の5曲とは対極の位置にあり、自分たちのやりたいことをやりたいように演奏したという感じである。こういう曲が好きな人にはいいかもしれない。

 大雑把に言って、イギリスのメロディアスなハード・ロック・バンドにクリムゾン風のジャズ・テイストを用いたサウンドということができるだろう。彼らは一部では有名になったものの、結局大きな支持を得ることはできなかった。たぶんアルバムごとに音楽的志向がブレたためだろう。個人的には2ndアルバムのような作風で続けてほしかった。何事も信念を貫き通すことは難しいことのようである。

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2010年12月 7日 (火)

インディアン・サマー

 前回のトントン・マクートに続いて、今回は同じネオン・レーベルに所属していたインディアン・サマーというバンドについて書くことにした。

 このバンドは4人組で、メインはキーボードとギターだが、メロトロンなどを使用しているキーボードの方がどちらかというと目立っている。キーボーディストはボブ・ジャクソンという人で、この人がリーダーだと思われる。メイン・ボーカルもこの人である。 

 彼らは1969年に結成され、70年にデビューし、71年にアルバム「インディアン・サマー」を発表した。アルバムのプロデューサーはブラック・サバスの1stアルバムをプロデュースしたロジャー・ベインだった。Photo

 全体的にはプログレッシヴ・ロックというよりは、ギターが目立たないディープ・パープルという感じである。特に第1期あたりの雰囲気に近い。ただしボーカルは高音に伸びがあり、イアン・ギランに近いようだ。

 1曲目の"God is the God"ではハモンド・オルガンやときおりメロトロンが目立っていて、幻想的な感じがするが、2曲目の"Emotion the Sun"では逆にギターが目立っている。1曲目はどちらかというとジャズっぽい感じだが、2曲目は完全にロック寄りである。
 リード・ギターはほとんどエフェクトのない単音主体の速弾きなのだが、もちろん泣きのフレーズではなくて、無機質的で硬派なプレイである。音数の少ないジャズ・ギターといえばわかりやすいと思う。イエスの1stアルバムのギターの音に近い。

 続く"Glimpse"はわかりやすいリフで組み立てられた曲で、キャッチーな印象を与えてくれる。ギター・ソロのバックで鳴り続けるメロトロンがカッコよくて効果的である。ギターも決して下手ではなくて、むしろ上手な方だと思うのだが、少しインパクトに欠けるようだ。

 "Half Changed Again"はよく分からない曲で、最初はギターもキーボードも目立たず、アフリカの部族のようなタムタムと呟くようなボーカルで始まり、続いてドラムのロールからキーボードなどの演奏が伴奏してくる。ここでも目立つのはキーボードである。そしてなぜかギター・ソロになるとバックでメロトロンが鳴り響くのである。

 "Black Sunshine"は、このアルバム中一番ロックしている曲だと思う。ある意味同郷だったブラック・サバスに近い音で、スローながらも重く引きずるようなリズムがよく似ている。ギターレスのサバスといった感じだろう。ただ途中のキーボード・ソロが単調だと思った。

 "From the Film of the Same Name"は唯一のインストゥルメンタル曲で、前半はハモンド・オルガンなどのキーボードが、後半は速いパッセージを弾くギターが曲を引っ張っている。確かにそれなりに躍動感はあるが、もっとギターにディストーションなどをかけると、よりロックっぽくてよくなると思うのだが…この曲もエンディングに一工夫ほしい。

 7曲目の"Secrets Reflected"ではスローなイントロで始まり、ギターとメロトロンがボーカルに陰影を付けている。自分的には気に入っている曲で、まるでピンク・フロイドの「雲の影」に収まっていてもおかしくない曲調である。
 後半残り1分あまりから無理やり盛り上げようとするかのように、ボーカルが高音を叩き出すのだが、このハイトーン・ボーカルも結構イケルのである。もう少しこのボーカルが強調できる曲を準備して、これで売り出してもよかったような気がした。

 最後の曲"Another Tree Will Grow"も変則な曲で、最初はミディアム調なのだが、徐々に速い展開へと移り変わり、速弾きギターとタムタムが曲を引っ張っていっている。ここでのギターはかなり目立っていて、しかも結構速い。これだけ弾けるのなら他の曲でももっと弾いてほしかった。リーダーのキーボーディストには逆らえなかったのだろうか。
 ともかくこのアルバム中一番ギターが目立っていた曲であった。最後はボーカルが静かに歌い上げ、エンディングを迎えるのである。

 この1枚で彼らも解散してしまったのだが、このアルバムでは管楽器などは使用されていない。最初に書いたように、キーボードが主体であり、それにギターが絡む展開が多い。だからキーボードとギターがメインのリード楽器になっている。

 ただ楽曲はまあまあなのだが、もう少しギターがキーボードと対等に演奏してもらえたなら、このバンドもまた有名になったかもしれない。そうなれば、たとえ所属レーベル会社は倒産したとしても、他の会社に移籍してもっとアルバムを発表できたのに、と思う。

 新人に門戸を開いたネオン・レーベルだったが、あまりにも開きすぎたようで、結局倒産してしまった。ヴァージンの「チューブラー・ベルズ」が売れて、ヴァージンという会社が大きく成長したように、当時のマイナー・レーベル会社は多くのバンドに機会を与えながら、一攫千金を狙っていたのかもしれない。

 インディアン・サマーも70年代という時代背景を反映していて、混沌とした音作りのようだった。もう少しクリアでメリハリのある音作りをすれば、もっと売れたような気がする。バンド名のように、小春日和は長続きしなかったようである。

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2010年12月 3日 (金)

トントン・マクート

 ブラス・サウンドを用いたプログレッシヴ・ロックの続きである。しかもマイナーなバンドが中心で、ここまでくるとプログレなのかジャズ・ロックなのか判然としない。こうなると聞いている人の判断になってしまうのだが、そういう曖昧なところもロックの雑食性を示しているようで興味深い。

 今回紹介するトントン・マクートも70年代の初頭、イギリスでデビューし、彗星のように消えていったバンドの一つである。

 このバンドは1968年に、メロディ・メイカーという音楽雑誌のミュージシャン募集という広告にドラム担当のナイジェル・レヴェラーとキーボード&ボーカル担当のポール・フレンチという人が応募したところから始まった。

 彼ら2人はギター&ベース担当のクリス・ギャヴィンとサックス&フルート担当のデイヴ・ノウルズと組んで、やがてRCAレーベル傘下のネオン・レーベルからデビューした。1971年のお話である。

 このバンド名と同名アルバムの名前の由来は、カリブ海の国ハイチの秘密警察から借用したようである。トントンとは“お父さん、おじさん”、マクートは“麻袋”を意味し、これは悪い子どもは誘拐するという意味らしい。つまり悪い子は麻袋に入れて連れて行くぞということである。
 逆によい子には、“トントン・ノエル”(クリスマスおじさん)が訪れてプレゼントをくれるとのこと。だからいい子にしましょうというのだが、60年代当時のハイチは、かなり抑圧されていたらしい。

 それはともかく、このネオン・レーベルはかなりユニークな経営方針だったようで、こういう奇妙な名前を持つバンドやユニークな演奏形態を持つバンドを積極的に売り出そうとしていた。以前にもこのブログで紹介したメロトロンを演奏するプレイヤーが3人もいたスプリングなども、このレーベルに所属していたバンドの1つであった。

 こういうB~C級バンドを持つレーベルが経済的に潤うはずもなく、1972年には倒産してしまった。だから実質1年弱の経営だったのだが、逆に今ではそれが幸いして、珍しくて希少価値のあるアルバムやバンドが所属していたレーベルと言われるようになった。
 ネオン・レーベルには11枚のアルバム・カタログが存在するらしいが、それを収集しようとするコレクターもいるようである。

 それでこのトントン・マクートも、一部のコレクターの間では話題になったバンドだった。要するにジャズ・ロックとプログレッシヴ・ロックの中間に位置するバンドなのだが、確かにジャジーでダークな印象がする。Photo_2

 1曲目の"Just Like Stone"は穏やかなフルートの音から静かに滑り出し、意外にはっきりとしたボーカルが聞こえてくる。ジャズといっても白熱したインタープレイは期待できそうにはない。このバンドのビートは一定していて、そういう過激な遊びを嫌うからだろう。

 2曲目の"Don't Make Me Cry"はサックスが最初から暴れまわっているのだが、聞いていてそんなに熱くはなれない。奇妙なクールさを湛えているのは、このバンドの特徴なのだろう。途中からエレクトリック・ピアノ・ソロが始まりそれに伴ってボーカルとサックスもハモっていくのだが、この辺もすぐに小康状態になっていく。
 本来ならここからそれぞれのテクニックを披露したり、バトルを展開するのだろうが、そういうのがないのが残念である。だから1作で消えていったのであろう。

 次の"Flying South in Winter"はこのアルバムの唯一のインストゥルメンタルである。この曲もフルートが全体をリードしていくのだが、リズムが淡々としていて、ある意味ハイチというイメージを意識しているのだろうか、呪術的な印象を醸し出している。

 4曲目の"Dreams"の後半に至って、初めてギターが目立つロックになった。前半はタイトルのように夢幻的で、はっきりいってメロディ・ラインがわかりづらい。その分後半が目立つ。こういうギターをもっと聞きたかったが、ベースとギターが同一人物だからだろうか、全体的にギターは目立たないのである。

 次の"You Make My Jelly Roll"は、これはもう完全なジャズの世界である。中盤のジャズ・アンサンブルはサックスとピアノ、ベースのトライアングルであり、終盤では最初のボーカルが再び登場しエンディングにいたる。

 最後の2曲は"Natural High Part1"、"Part2"と名づけられていて、合計10分を超える大曲になっているが、強いていえばこの曲がプログレに近いかもしれない。
 キーボードとサックスがメインの曲なのだが、自由にして幻想的、ジャズ的でかつ幻惑させられる雰囲気だと思う。
 Part1はエレクトリック・ピアノが曲を盛り上げようとするところで終わり、続くPart2ではフルートが囁くように語りかける所から始まり、やがて繰り返し絶叫するボーカルとサックス、ピアノが渾然となって締めくくるのである。

 とにかくこのアルバムは、イマイチ盛り上がりに欠ける。それはリズム陣が一定したクールさを保ったままで、暴走しないからであり、それに伴走するかのようにギターもサックスもキーボードも大きく乱れないからである。
 だからロックのダイナミズムやカタルシスを感じることができない。クリムゾンには寂寥感や空虚感とともに、爆発しやがて収束する音的レンジの広さを感じるのだが、このバンドには存在しないのである。

 彼らは2枚目のアルバムを制作中に、レーベル会社が倒産し、資金不足から制作中止、果てはバンド解散の憂き目を見てしまった。しかし、たとえ2枚目が完成したとしても、たぶんメジャーにはならなかっただろう。そういう売れる要素はほとんどないからである。もう少し何かが目立っていれば、もっと違った評価が与えられたかもしれない。

 秘密警察の名前を借用した彼らだったが、結局、彼ら自身も秘密のままで終わってしまったようである。

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2010年12月 1日 (水)

タイタス・グローン

 プログレッシヴ・ロックの中でサックスやフルートなどの管楽器を使っているバンドがある。例えばキング・クリムゾンであり、ヴァン・ダー・グラフ・ジェネレイターなどであるが、そういうバンドは、やはりジャズの影響も多少受けているように思えてならない。

 特にこのブログでも紹介したコロシアム、テンペストなどのブリティッシュ・ジャズ・ロックの影響が、大なり小なりあるのではないかと考える次第なのだが、どうだろうか。

 通常のロックの形態であるギター、ベース、ドラムスにキーボードなり、ブラスが加わると、サウンドに対しての表現欲求が拡大されてきて、どうしてもジャズ的インプロヴィゼーションに発展していくような気がする。やはりバンドやサウンドをリードするのは、ギターだけではないはずで、キーボードや管楽器なども同様の働きをするのであれば、それらを使用して音の広がりを図ろうとするのは、ミュージシャンにしてみれば自然な感覚なのかもしれない。

 そういう管楽器を用いて、表現の拡大を図ったバンドは他にもあり、例えば1970年に1枚だけアルバムを発表して解散してしまったタイタス・グローンは、ジャズ・ロックとプログレッシヴ・ロックの要素が絶妙にブレンドされた素晴らしいバンドだった。

 バンド名と同じアルバムには5曲収められており、それこそロックの疾走感とプログレッシヴな展開が程よいバランスで同居しているのだ。個人的には隠れた名盤だと思っている。

Titus Groan Music Titus Groan

アーティスト:Titus Groan
販売元:Universal
発売日:2005/05/23
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 このバンドは4人で構成されているのだが、他のバンドと違うところはサックス、フルート、オーボエ担当プレイヤーがいるということだろう。

 1曲目の"It Wasn't For You"はサックスがフィーチャーされた完全なジャズ・ロックである。もちろんサックスだけでなく、ギターやハモンド・オルガンも演奏されているのだが、サウンドを彩っているのは、やはりサックスなのである。

 次の曲"Hall of Bright Carvings"はまさにジャズ・ロックとプログレッシヴ・ロックが融合した名曲で、このアルバム中この曲だけには耳を傾けてほしいと思わせるような演奏力を示している。
 このバンドいずれもなかなかのテクニシャンだと思う。特にリズム陣がしっかりしていて、安定した演奏を聞かせてくれる。ギターもそこそこの実力だと思うのだが、この曲ではギターよりもむしろオーボエやフルートの方が目立っている。

 また1970年という時代を反映してか、ボーカル・コーラスなどが60年代のビート・グループのような感じで、なかなかポップなのである。だから11分36秒という長さながら、途中でダレルこともなく、一気に最後まで聞かせてくれる。特に途中のギター・ソロや終盤のオーボエ・ソロなどの配置が巧みで、曲構成もしっかりしている。

 3曲目"I Can't Change"ではフルートが強調されている。まるでロックする“ブルー・コメッツ”という感じで、歌のメロディは60年代風、演奏は70年代の雰囲気をまとっているように思う。
 途中でブレイクが入り、転調後ギター・ソロが入るのだが、このギターはアメリカン・ロックといった感じだ。様々な要素が散りばめられている曲なのだが、妙に統一感があるのはフルートのせいであろう。

 続く"It's All Up With Us"はミディアム・テンポの佳曲である。前の曲がスピード感があるので、くつろぎ感がある。メロディ自体はむしろポップなので、もう少しコンパクトにして、シングルで発表してもいいような感じだ。演奏よりもボーカルが目立っているのが面白い。もちろんサックスやギターも強調されている。

 アルバム最後の曲は"Fuschia"という曲で、これもまたジャズ・ロックの範疇に入る曲である。ギターやフルートがフィーチャーされているが、むしろギターがメインといっていいかもしれない。ただ、バックのコーラスがどことなくビートルズ的であり、そんなことを思いながら聴くと、ギター・サウンドもジョージ・ハリソンっぽく聞こえてしまう。

 このアルバムは、ボーカルと演奏とがほぼ同じ割合で構成されていて、インストゥルメンタルを重視した一般的なプログレッシヴ・ロックとは異なっている。そこがロック的、ポップス的な部分であり、だから聞きやすさがあるのだろう。VDGGやニドロログとは違って、安心して聞くことができる。
 あるいは明るいジャズ・ロック、プログレッシヴ・ロックというのも珍しいのだが、自分はこういうバンドも好きなのだ。

 逆にいうと、プログレッシヴ・ロックの範疇に入るかどうかは微妙なところなのだが、ロックからの進行形、発展形と考えれば、プログレッシヴなのである。70年代初頭はこういうカテゴライズが難しいグループが多かったのであろう。

 たぶんレコード会社のプッシュが足りなかったのだろうか。商業的にはヒットしなくて、彼らはこの1枚で解散してしまった。

 メンバーの中で解散後一番有名になったのは、ベーシストのジョン・リーで、ジャズ・メンとしてラリー・コリエルなどと共演しながら、自身のアルバムを3枚も発表している。

 そしてドラマーのジム・トゥーミーは、何故かあのアニー・レノックスがいたザ・ツーリストに加入して、解散までの3枚のアルバムで演奏している。見事な転身というべきなのだろうか。

 いずれにしても1枚で解散してしまうには惜しいバンドだった。今ならもっと受けたに違いないと思うのだが、どうだろうか。その音楽形態といい、楽曲といい、時代の過渡期を象徴するようなユニークなバンドだったと思っている。

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