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2011年1月 9日 (日)

イリュージョン

 イリュージョンといっても、マジック・ショーでも手品のことでもない。イギリスのプログレッシヴ・ロック・バンドのことである。
 前回のブログで、ルネッサンスのアニー・ハズラムのことについて書いたのだが、それに関連して今回はイリュージョンのことについて述べてみたい。

 イリュージョンは元ヤードバーズのボーカリスト、キース・レルフとドラマーのジム・マッカーティが中心となって結成したバンドで、元々の名前をルネッサンスといっていた。オリジナル・メンバーにはキースの妹のジェーン・エルフもボーカルで参加していた。
 ちょっと紛らわしいのだが、ルネッサンスという名前のバンドはひとつしかなくて、1970年の結成当時と1972年以降ではメンバーが違っている。だからバンド名は同じでも、そのメンバーと音楽的性格は別物と考えた方がいいと思う。

 それでオリジナル・ルネッサンスは、1970年にデビュー・アルバムを発表し、翌年にはセカンド・アルバム「イリュージョン」を発表した。
 1stアルバムは全英60位とまったくもって振るわず、セカンドはヨーロッパだけで発売されたらしい。要するに結成当時は意欲的だったものの、まもなくキースもジムもやる気を失ってしまい、ましてや妹のジェーンは素人だったせいか、バンドが空中分解してしまったようなのである。

 キース・エルフもジム・マッカーティもヤードバーズ出身だったせいか、それまでとは違う音楽をやってみたかったのだろう。アンプで増幅された音楽よりも、もっとクラシカルでフォーキィーな音楽ということで、ルネッサンスを結成したのだろうが、当初の目的と違うと判断したのか、バンドは1971年に一時解散し、ルネッサンスというバンド名だけを引き継いだアニー・ハズラム以下、新メンバーが活動を続けるようになった。

 それでキースもジムも振り子が元に戻るように、ハード・ロックに回帰した活動を行うのだが、1976年になると、またクラシカルな音楽に振り戻される形で、オリジナル・ルネッサンスのメンバーを集めてバンド活動を始めようとしたのだが、もう“ルネッサンス”というバンド名は使えなかったので、とりあえず“ナウ”と名づけた。しかし、残念ながら音楽活動を行うことはできなかった。キース・レルフが自宅でギターの感電事故で亡くなったのである。76年の5月14日のことだった。

 そこで故人の遺志を継ぐために、あるいは残された2人の遺児を育てるために、バンド名を“イリュージョン”として、残されたメンバーは活動を開始したのである。このイリュージョンという名前は、彼らがまだルネッサンスと名乗っていたときに発表したセカンド・アルバムにちなんで名づけられたのだが、オリジナル・ルネッサンスの音楽を継承しようとする意志を表しているのであろう。

 それで1977年に発表されたアルバムが「醒めた炎」(原題は"Out of the Mist")であるが、内容的にも英語のオリジナル・タイトルにふさわしい音楽だと思う。Photo
 アニー・ハズラムがいるルネッサンスの音楽は、どちらかというとクラシックに近い雰囲気があり、大曲中心といった感があるが、こちらのイリュージョンの方は、クラシカルというよりもフォーキィーな感じが強い。
 イギリスのトラッドなフォーク・ソングに音を重ねたような雰囲気が強く、アニーの5オクターブともいわれるオペラ的な歌唱方法とは違って、ジェーンの低く落ち着いた歌声を耳にすることができる。

 特にアルバム冒頭を飾る"Isadora"はジムも歌っており、ジムとジェーンのデュエットという感じがする。また6曲目の"Face of Yesterday"は、彼らが1971年に発表し、グループ名にもなった「イリュージョン」に収められていた曲で、デリケイトなジェーンのボーカルを堪能することができる。

 全体的に薄い水墨画のような幽玄な境地を携えた作品であり、派手さやロック的な躍動感を味わうことはできないのだが、4曲目の"Solo Flight"ではギターが目立っている。
 また、最後の曲"Candles are Burning"は、ルネッサンスの1973年の曲"Ashes are Burning"に間違いなく対抗している曲だと思う。徐々に盛り上がっていく曲調だけでなく、途中でエフェクティブなギターが強調されるという点もよく似ている。ジムやジェーンには、オリジナル・ルネッサンスを立ち上げたのは自分たちだという自負心みたいなものもあったに違いない。

 このアルバムはそこそこ有名になったものの、残念ながらそんなには売れずに、アニーのいるルネッサンスの方が人気も商業性も上回っていた。(ちなみにこの「醒めた炎」は、アメリカのビルボード、アルバム・チャートでは最高位163位だった)

 1978年には「幻想の翼」を発表したが、これも基本的には1stアルバムと似たようなもので、クラシカルなピアノをバックにジムとジェーンが歌っていくというものであったが、1stよりもバックの演奏が強調されていて、それに伴ってジェーンのボーカルにも力強さが溢れているようだ。

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 個人的にはメロトロンが前作よりも多く使用されている点がうれしい。またギターも大きくフィーチャーされていて、そういう意味では音楽的に深化していると思う。

 1曲目の"Madonna Blue"は後半のシンセとギターの演奏が印象的だし、次の曲"Never Be the Same"はアコースティック・ギターとピアノをバックにまさにフォーク・デュオといった感じで、ジムとキースが爽やかに歌っている。
 また"Louis' Theme"や"Wings Across the Sea"は、ジェーンの切々と歌うさまが耳に残る佳曲で、聞き込んでいくとしんみりと落ち着いた心境になってしまう。

 前半は動から静へという感じであるが、後半はリズムがニューウェイヴっぽい"Cruising  Nowhere"から始まり、エレクトリック・ピアノが幻想的な雰囲気を作り出している"Man of Miracles"へと続き、最後はこのアルバムでは大作にあたる"The Revolutionary"で結んでいて、動~静~動という感じである。ただ最後の曲にもう少しクライマックスな部分を持ってきてくれると、もっと印象が強くなったのではないかと思っている。

 この2枚のアルバムはそれなりに水準は超えていたものの、いずれも商業的には失敗した。理由は時代の流れである。

 77年、78年当時はパンク/ニュー・ウェイヴ全盛期であった。イエスやジェネシス、ムーディー・ブルーズなどのプログレ・バンドもコンパクトでキャッチーな楽曲にシフトしていき、延命策を探っていくという時代だった。
 だからこの時代に70年代前半のようなプログレッシヴ・ロックは受け入れられず、イリュージョンもその例外ではなかったのである。キース・レルフの悲劇的な死やその妹ジェーン・エルフの懸命な努力もすべては水泡に帰してしまったのだ。

 現在もジェーンやジムは活動を行っているようで、2001年にはルネッサンス・イリュージョンというバンド名で、「Through the Fire」というニュー・アルバムも発表している。これもひょっとしたらアニー・ハズラムのいるルネッサンスに対する自意識の表れなのかもしれない。


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コメント

 大変申し訳ありません。新年早々とちっています。”イリュージョン”のお話に喜んでおりまして、コメントを書かせていただいたのですが、1月3日の記事に投稿してしまいました。お許し下さい。
 ケイさんの歩む道をこれからも楽しみにしています。

投稿: 風呂井戸(*floyd) | 2011年1月 9日 (日) 11時32分

 新年さっそくのコメントありがとうございます。それにしても風呂井戸さんはよくご存知ですね。まるで音楽関連の社員のようです。こちらは聞いたことしかわからないので、気の向くままです。今後もいろいろと教えて下さい。m(_ _)m

投稿: プロフェッサー・ケイ | 2011年1月 9日 (日) 18時29分

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