« 2011年1月 | トップページ | 2011年3月 »

2011年2月

2011年2月26日 (土)

グレイシャス

 70年代を彩ったプログレッシヴ・ロック・バンドを紹介しているのだが、どのバンドもプログレ・ファンにはかなり有名なバンドばかりである。だからいずれも紙ジャケットとして再発されていて、今では容易に入手できてしまう。かつてはレア盤で高価に取り引きされていたのかと思うと、隔世の感がある。

 今回は70年代の初めに2枚のアルバムを残して解散してしまったバンド、グレイシャスの登場だ。このバンドは語尾に!のマークがついていたり、ついていなかったり、表記が紛らわしいときがあるが、正式にはついていないようだ。

 メンバーは
ポール・ディヴィス…ボーカル、ギター
マーティン・キットキャット…キーボード
アラン・コーデュロイ…ギター
ティム・ホィートリー…ベース
ロバート・リプソン…ドラムス

 以上の5名で、ポールとアランがスクールバンドとして活動を始めた。彼らはカトリックの学校に通っていたのだが、彼らのバンド名は“悪魔の弟子たち”(Satan's Disciples)というものだった。1964,65年頃のお話である。
 のちにマーティンとバンドのローディをしていたティムが加わり、ポールは、最初はドラムとボーカルを兼ねていたのだが、ボーカルに専念したいという事で、最後にロバートが加わった。

 60年代の終わりには、彼らはドイツにライヴ活動に出かけては腕を磨いた。60年代のイギリスのバンドは、だいたいこういう活動を行っているが、彼らも例外ではなかったようだ。

 最初は3分間のポップ・ソングを演奏していたのだが、キング・クリムゾンとのライヴを経験してから、もっと複雑で野心的な曲に興味を覚え、取り組むようになった。
 曲のすべては、ポール・ディヴィスとマーティン・キットキャットが書いているのだが、マーティンはクリムゾンの影響で、メロトロンを弾くようになったのである。ここからプログレ・バンドとしてのグレイシャスが始まったのだった。

 メンバーのうちの一人、ロバート・リプソンがいうには、当時のロック・バンドでメロトロンを使用していたのは、クリムゾンとムーディ・ブルーズと彼らだけだったらしい。これが本当なら、先駆的なバンドといえるかもしれない。

 彼らは1970年に1stアルバム「グレイシャス!」をかの有名なヴァーティゴ・レーベルから発表した。

Gracious Music Gracious

アーティスト:Gracious
販売元:Repertoire
発売日:2004/05/10
Amazon.co.jpで詳細を確認する


 アルバムは60年代と70年代の架け橋ともいうべき雰囲気をもっていて、曲のどこかに60年代のビート・バンド風のサウンドを有しているし、一方では、前衛的な演奏も含んでいる。1曲目の"Intoroduction"のギター・ソロなどはロバート・フリップを意識しているようなエフェクト処理がなされているのが、おもしろい。一方で、ボーカル・ハーモニーはまさにポップ・バンドの感じだ。

 全部で5曲しかないのだが、2曲目の"Heaven"と"Hell"は対になっていて、"Heaven"はタイトル通りの穏やかで透明感のある曲。ポップで聞きやすく、いつまでも耳に残るのだが、もうひとつの"Hell"の方は、幻想的というか、ある意味アバンギャルドで、おどろおどろしく不協和音の塊のような箇所もある。わかりやすいといえば、わかりやすい構成である。

 続く"Fugue in 'D' Minor"はハープシコードがメインになっていて、まるでバッハの曲のようだ。オルガンの代わりにハープシコードを演奏すると、こんな感じになりましたといった雰囲気である。でもはっきり言ってロック的ではなく、衝撃度も緊迫感もない。
 最後の"The Dream"もベートーベンの“月光”のようなイントロで始まる。この辺はまるでクラシックである。途中の演奏は、もう少しドラムスの手数が多ければ、クリムゾンの2ndアルバムのような感じになるだろう。

 1stアルバムはどちらかといえば、クラシックよりの音で、テクニックはあるかもしれないが、大衆性には欠けていた。だからさっぱり売れなかったようだ。しかもヴァーティゴ・レーベルの経営状況も悪くなるばかりで、だから2枚目のアルバムはフィリップス・レコードから発売された。

 71年のアルバム「ディス・イズ・グレイシャス!!」は全体的に前作よりもメロディが強調されていて、聞きやすくなっている。Photo
 それでも1曲目の"Super Nova"は4部形式の組曲になっていて、しっかりプログレッシヴしている。a)Arrival of the Travellerはインストゥルメンタルの序章という感じで、アバンギャルドな効果音も使用されて、しっかり盛り上げてくれる。続くb)Blood Red Sunは、ボーカル入りで、ジャージーなオルガンとハードなギターがメインである。これだけ聞けばハード・ロック・バンドといってもおかしくないだろう。

 c)Say Goodbye to Loveは、タイトルどおりの優しげなバラードであり、この部分だけ切り取って聞いても、じゅうぶん満足できると思う。映画かTVのBGMとしても使えるのではないかと思ってしまう。バックのメロトロンも好感度が高い。そしてd)Prepare to Meet thy Makerでは、不穏な空気から潮が引くかのように、たおやかで和らぎのある情緒豊かな曲調が展開され、クライマックスへと結んでゆくのである。

 トータルで22分近い大作であるが、後半のd)の部分でもう少しハードに持ち上げてから終章へと向かっていけば、"Close to the Edge"や"Tarkus"並みの名曲になったかもしれない。それが残念でならない。

 2曲目の"C.B.S."はテレビ局の名前でも会社名でもない。これももう少しギターが強調されたらディープ・パープル並みのハード・ロックになっていただろう。 ギターをただ漫然と弾いているような気がして、耳に残るようなリフが少ないのである。

 基本的に彼らは、キーボード主体のバンドなのだろう。続く"What's Come to Be"ではメロトロンがバックで鳴り響き、手数の多いドラムが叩かれて、まるでクリムゾンのコピーのようであるが、3分あまりでフェイド・アウトしてしまう。もう少し膨らませてほしかった。

 また"Blue Skies and Alibis"では一転してアップテンポの曲調になり、途中のバック・コーラス・ハーモニーが面白い味を出している。ただ中途半端という印象も残ってしまう。最後の"Hold Me Down"もこの時代の音楽という感じがして、プログレ風混沌とビート・バンド風ポップさがミックスされている。聞いていて長く感じたのだが、実際は5分程度の曲だった。

 彼らも、結局売れずに解散してしまう。メンバーの一人のティムはスーパートランプのオーディションを受けるものの、採用されず、マーティンはアメリカに移住して、音楽ビジネスから足を洗ってしまった。

 ティムとロバートとアランは、日本のレコード会社からのオファーで、1996年に“エコー”というアルバムを発表しているが、詳細についてはよくわからなかった。

 ともかく60年代~70年代へと時代が移りゆく中で、キーボードを主体として独特の個性を表出していたバンドだった。いまだに彼らのアルバムが復刻されているということは、B級バンドながらもその存在感を発揮していたからであろう。

| コメント (0) | トラックバック (0)

2011年2月22日 (火)

フループ(2)

 アイルランド出身のプログレッシヴ・ロック・バンド、フループの続きである。1stアルバムも2ndアルバムも売れなかった彼らは、それでも時代に妥協することもなく、自分たちの音楽を信じて活動を続けていった。前回にも書いたが、年間230回以上にも及ぶライヴ活動を続けたのである。

 そんな彼らが1974年の10月に、意を決して発表したアルバムが3枚目の「ザ・プリンス・オブ・ヘヴンズ・アイズ」(邦題を“太陽の王子”というらしい)だった。
 ジャケットを見ればわかるように、何やらマンガチックでもあるのだが、これも物語が付随しているトータル・アルバムだったからだ。

Prince of Heaven's Eyes Music Prince of Heaven's Eyes

アーティスト:Fruupp
販売元:Esoteric
発売日:2009/03/31
Amazon.co.jpで詳細を確認する


 オリジナルのアルバムには14ページに及ぶブックレットが付いていたそうであるが、要するにジャケットの人物であるマッド・フラネガンが虹の終わりを探しにアイルランド中を旅するというものである。その旅行のBGMにあたるのが、このアルバムの音楽なのである。

 彼らの残したアルバムの中では、一番物語性が高いもので、前作や前々作と比べてその完成度は高い。またこのアルバムを引っさげてツアーに出た彼らを待っていたのは、賞賛の声だった。

 理由のひとつは、今まではギター&ボーカルのヴィンセント・マッカスカーが主にソングライティングを行っていたのだが、このアルバムでは8曲中5曲をキーボード&オーボエ担当のスティーヴン・ヒューストンが手がけていることが考えられる。
 キーボーディストの手によるものとはいえ、キーボードばっかりが目立つという事はなく、全体的に楽器のバランスもよく、ポップな雰囲気も漂っている。

 1曲目"It's All Up Now"から7分20秒の曲なのだが、その長さを全くといっていいほど感じさせない。間奏の演奏部分も聴き応えがあるし、名曲の部類に入れられてもおかしくない曲だと思う。

 また理由のもうひとつは、歌い方にも変化が生じてきたからだろう。2曲目の"Prince of Darkness"ではSE効果も加わって非常に劇的なのだが、歌い方にも工夫されていて、まるでピーター・ゲイブリエルかフィル・コリンズかという感じだ。
 また2分程度のインストゥルメンタルもあり、これにもし歌詞をつけたらシングル・カットできるほどの聞き易さなのである。("Jaunting Car")

 さらに"Annie Austere"もポップかつメロディアスな曲で、ギターとバックのキーボードのバックアップが素晴らしい。アルバム・ジャケットはパッとしないのだが、音楽的には進化していることがわかる。そのうえ2分程度の曲と7分、9分という大曲の配置が絶妙で、聞いていて飽きないのである。

 最後の"The Perfect Wish"は大いに盛り上がる感動的な曲であり、まるで90年代のピンク・フロイドの曲のようである。まさにトータル・アルバムという形式なのだが、形だけでなく内容まできちんと結実している点が見事である。

 そういう変化が加わってか、このアルバムは好評だったようで、彼らも気を良くした。ところが、皮肉にもこのアルバムの成功で自信をつけたスティーヴンは、バンドを脱退し、ソロで活動を始めたのである。バンドにとって初めてのメンバー・チェンジだった。

 それでジョン・メイソンというキーボーディストを迎えて、翌1975年に彼らの4枚目でラスト・アルバムになる「モダン・マスカレーズ」を制作・発表した。邦題は“当世仮面舞踏会”といった。

Modern Masquerades Music Modern Masquerades

アーティスト:Fruupp
販売元:Esoteric
発売日:2009/03/31
Amazon.co.jpで詳細を確認する


 
 このアルバムはまた、プロデューサーが元キング・クリムゾンのイアン・マクドナルドが担当したことでも有名になった。というか、むしろその方が優先されてしまい、はたして正当にアルバムが評価されたのかどうか疑わしかった。

 それでもこのアルバムは、彼らにとって最高傑作だといわれている。アルバム・タイトルに“モダン”という言葉が使われているが、確かに1作目よりはハイカラな感じがする。それは、スキャット風のバック・ボーカル・ハーモニーやメインのメロディに表れていて、ポップでより洗練された印象を与えてくれているからだろう。少しジャズっぽい雰囲気も都会的な空気をもたらしてくれている。

 それがよく表れているのが1曲目6分55秒の"Misty Morning Way"であり、続く7分15秒の"Masquerading with Dawn"であろう。喩えは悪いかもしれないが、長尺の曲にビートルズ風のハーモニーが乗っかっているようなのだ。しかしこの時代にこういうプログレッシヴな曲をよく演奏していたなあというのが正直な感想である。

 8分20秒ある"Mystery Might"は疾走感溢れるイントロから始まり、それが静まったあとに力強いボーカルが聞こえてくる。そして徐々に盛り上がりドラマティックな展開になるのだが、途中のエレクトリック・ピアノのソロやそれを支えるベース・プレイが素晴らしい。またラテン風味のパーカッションや後半のギターのバッキングも目立っていて、このアルバム中一番の出来ではないだろうか。

 他にもピアノ一台で歌われる美しいバラードの"Why"や逆にポップなテイストの"Janet Planet"など聞きどころは多い。最後の"Sheba's Song"も8分26秒もある大曲。やはりキーボーディストが交代すると、全体の雰囲気も変わってくるのだろう。ブリティッシュ的な音というよりはエレクトリック・ピアノとシンセサイザーが音空間を占めていて、何となくスペイシーな感じがしてしまう。できれば最後のギター・ソロでもっと弾きまくって盛り上げてほしかった。それがあれば言うことはないだろう。

 でも彼らの1stアルバムからみれば、確かに成長していることがうかがえるし、この4枚目のアルバムが彼らの代表作といわれることは間違いない。これがイアン・マクドナルドのおかげなのかどうなのかはよくわからないが、イアンの功績もあるのだろう。

 ただ残念なことに、彼らはこのアルバムを最後に解散してしまった。やはり商業的な問題や時代のせいもあるだろうが、それにしてもこの時代に4枚もプログレッシブなアルバムを発表することができたこと自体、奇跡に近いことだろう。

 フループは21世紀に入って、再結成しようという動きがあるようだが、まだ実際には何もアクションはないようだ。これは再結成を画策しているのが、途中で脱退したスティーヴンだからだろう。ひょっとしたら今後何か動きがあるのかもしれない。

 とにかく、彼らはアイルランドが生んだ初めてのメジャーなプログレッシヴ・ロック・バンドだった。最初は素朴な感じが、徐々に都会的な音に変わって行くところも面白かったが、基本はアイリッシュらしい幻想的で、ファンタジー精神溢れるロック・バンドだったのである。

| コメント (0) | トラックバック (0)

2011年2月20日 (日)

シナモン

 先ほどシナモンのライヴを見に行った。シナモンは"CINNAMON"という綴りの日本のロック・バンドである。ロック・バンドといってもただのバンドではない。あの有名なイギリスのレッド・ゼッペリンのコピー・バンドなのだ。2

 自分は初めて彼らの演奏を見たのだが、コピーだからという偏見がぶっ飛ぶほどの本物よりも本物らしい演奏だった。

 特にジミー・ペイジ役のギタリスト、ジミーさんは顔つきからしてよく似ていた。ステージから2列目で見たから間違いない。お腹には少し脂肪がついていたようだが、年齢的に考えればやせている部類に入ると思った。

 彼ら4人は名古屋を中心に活動していたようで、パンフによると、1972年の本家の来日公演に影響されて活動を始めたという。ということはもやは還暦近いということだろう。あるいは還暦を越えているのかもしれない。また詳細は不明なのだが、ドラマーとボーカルはオリジナル・メンバーではないらしい。

 とにかく徹底して細部にまでこだわっているところがすごい。ドラム・セットは透明のスケルトンで、26インチのバス・ドラムにティンパニー、後ろにはpaisteの銅鑼まで用意されていた。頭にはバンダナを巻いていたし、もちろん"Moby Dick"では素手で叩いていた。

 ベーシストのジョンジー氏は、1962年製?のフェンダー・ジャズ・ベースを使用しているし、キーボード類はハモンド・オルガンだけでなく、スウェーデン製のメロトロンを演奏していた。しかもこのメロトロン、"Stairway to Heaven"のイントロ部分のみに使用されただけであった。わざわざそのためだけに持ってきたのである。これだけでも素晴らしいプロ根性だ。

 ボーカルの自称ロバート・プラントは見かけはちょっと厳しかったが、歌唱力は素晴らしかった。現在の本物よりも声は出ていると思うし、声域も広いと思った。またブルース・ハープを使うところも本物そっくりである。
 問題は髪型である。サラサラの長い黒髪は問題だと思う。できればカーリー・ヘアーにしてほしかったし、金色に脱色してほしかった。でもそれ以外はお腹も出ていなくて胸毛もあって、首から下は本物ソックリだと思った。

 ただ片言の日本語で挨拶やメンバー紹介するところがおかしかった。見た目は日本人なのにロバート・プラントになりきっているところが面白いし、笑いを誘うのである。

 そしてジミー・ペイジである。いきなり白のドラゴン・スーツで登場し、ギブソンのダブル・ネック・ギターを下げては"The Song Remains the Same"を演奏するところから既に本物である。アンプは当然のごとくマーシャル社製で、しかも“フォー・シンボルズ”と呼ばれる例のロゴ入りだった。
 また1959年製のギブソン・レス・ポールのチェリー・サンバースト仕様やダン・エレクトロのギターも"In the Time of Dying"で使用していた。もちろんボトル・ネック奏法である。

 さらには"Whole Lotta Love"ではSonic Wave製のテルミンを使ったし、そのアクションも映画「永遠の詩」で見たジミーにソックリだった。
 アクションに関していうならテルミンだけでなく、ギター演奏時もギターを足の横に下げて歩きながら演奏するところや手で観客に挨拶をするところなどソックリであった。何度もいうようだが細部にまでトコトンこだわっているのだ。3

 歌、演奏、アクションから機材、照明、演出方法と本物を凌ぐ出来映えであった。単なるコピー・バンドだからという思い込みや突っ込みは不要であるし、そんな余裕もない。とにかく初めての人は、きっと度肝を抜かれるに違いない。自分なんか一発で虜になってしまった。

 途中10分の休憩を挟む約2時間少々で2回のアンコールに応えてくれた。最初のアンコール曲"Whole Lotta Lovel"では本家と同じくロックン・ロール・メドレーをやってくれた。こんなところにもこだわりを見せてくれたのである。

 ただ惜しむらくは"Dazed and Cofused"でのバイオリン弦演奏が見られなかったことと、アコースティック・セットでマンドリンや“キングギドラ”と呼ばれるトリプル・ネック・ギターが使用されなかったことだろう。

 でも彼らは毎年この時期にやってくるそうだから、来年もまたライヴを行うだろう。それらは来年までのお楽しみということである。これであと1年生きていく希望がもてた気がした。シナモン様々なのである。

| コメント (0) | トラックバック (0)

2011年2月18日 (金)

フループ(1)

 フループは、1971年に北アイルランドで結成されたプログレッシヴ・ロック・バンドである。1971年当時の北アイルランドといえば、まだまだIRAなどの一部過激派が派手に活動していた時期にあたるのだが、彼らにとってはあまり関係なかったようだ。

 当時のフループは、同郷のギタリスト、ロリー・ギャラガーの公演の前座などを務めている。そして1976年に解散するまで、平均して年間230回くらいのステージ活動を行っていたという。なかなかハードな活動履歴である。当時のロック・バンドは、ジャンルを問わずに昼夜2公演など平気にこなしていたから、これぐらいの数字になったのだろう。

 バンドの中心メンバーはボーカル&ギター担当のヴィンセント・マッカスカーで、同郷のベーシスト、ピーター・ファレリー、キーボード&オーボエ担当のスティーヴン・ヒューストン、ドラマーのマーティン・フォイらと語らって、バンドを結成した。
 グループ名はイラストやレタリングで使用する用紙名frupから借用したようで、著作権の関係でuとpを付け加えて、Fruuppとしたようである。

 それで演奏活動を行う中で、デモ・テープを制作しては各レコード会社に送っていた。結局、キンクスなどが所属していたパイ・レコードの傘下であるドーン・レコードと契約して、ジェフ・ベックも使用していたイギリスはケント州のスタジオ“エスケイプ”で1stアルバム「フューチャー・レジェンズ」をレコーディングした。

 このアルバムは1973年に発表されたのだが、プログレッシヴ・ロックの形式をとりながらも、音楽的にはギター主体のハード・ロックとミックスされたような中途半端な感じになっている。

Future Legends Music Future Legends

アーティスト:Fruupp
販売元:Esoteric
発売日:2009/03/31
Amazon.co.jpで詳細を確認する

 アルバムの最初と最後は"Future Legends"という非常に短いインストゥルメンタルで構成されていて、トータル・アルバム形式になっている。また曲自体も6分台が3曲、5分台と7分台が1曲ずつとプログレの基準を満たしているのだが、無理に曲を長くしましたという印象も拭えない。

 "Lord of the Incubus"では途中でロックン・ロール調に転調するし、"Olde Tyme Future"では急にバラード調からハードな展開になってあまりしっくりこなかった。ただ一番長い曲"Song for a Thought"は叙情的に統一されていて無理がない。途中のオーボエがクリムゾンっぽく、またボレロ調からギターが切れ込んでくる展開がナイスだった。
  また2曲目の"Decision"はなかなかの佳曲で、特に後半の引っかかり引っかかりのギター・ソロが印象的である。

 このアルバムには逸話が挿入されていて、牧師と放浪者が出会い、放浪者が牧師に夢の中で見た未来の出来事を語って聞かせるのだが、それを牧師が“Future Legends”としてまとめたのがこのアルバムの内容というものであった。そしてアルバム自体は全英チャートで114位を記録した。

 次の年に発表された2ndアルバム「セヴン・シークレッツ」は前作の延長線上にある音楽性で、一聴した感じではかなりこなれた演奏で、マイルドになった気がした。また1曲あたりの時間も長くなり、技術的にも自信がついたのだろう。

Fruupp / Seven Secrets 輸入盤 【CD】 Fruupp / Seven Secrets 輸入盤 【CD】

販売元:HMV 楽天市場ストア
楽天市場で詳細を確認する

 タイトル通りの7つの曲で構成されているこのアルバムは、しかし残念ながら商業的には成功しなかった。バックのストリングスが美しい"White Eyes"やアコースティック・ギターの響きが美しい"Three Spires"などのいい曲はあるのだが、このアルバムもまた時代の波に乗れなかった。やはり9分09秒の曲は時代にマッチしなかったようだ。

 またこのアルバムもトータル・アルバム形式で、“The Planet Suite”(惑星組曲)という物語というより太陽系の抒情詩のようなものがメインテーマになっている。

 アイルランドは“妖精の国”などと呼ばれ、幻想文学でも名高い作家を輩出しているが、日常耳にする音楽にもこのようなファンタジー性に満ちているのであろう。

 ちなみに1stと2ndのアルバム・ジャケットのイラストを手がけたのはメンバーのピーター・ファレリーだった。これもまあ何というファンタジックなイラストレーションだろうか。

| コメント (0) | トラックバック (0)

2011年2月15日 (火)

第53回グラミー賞

 先日、第53回グラミー賞の授賞式が衛星放送で放映された。昨年度のグラミー賞のところでも述べたのだが、個人的にはレディ・ガガやエミネム、ジェフ・ベックなどが、どの程度健闘するのか期待していたのだが、残念な結果になってしまった。

グラミー・ノミニーズ2011 Music グラミー・ノミニーズ2011

アーティスト:オムニバス
販売元:SMJ
発売日:2011/02/02
Amazon.co.jpで詳細を確認する

 これはあくまでも個人的な意見なので、多くの人から反発を受けることは仕方ないと思うのだが、昨年度のグラミーはテイラー・スイフトが話題をさらい、今年度はレディ・アンテベラムが最優秀楽曲賞、最優秀レコード賞など主要部門を独占してしまった。いずれもロック・ミュージックではなくて、カントリーの匂いのする音楽からである。

 そういえば、ロバート・プラントもクラウス何とかという女性とアルバムを発表して、グラミー賞を受賞したが、あれもカントリー系の女性シンガーと組んだものだった。不況になると、保守的になってカントリー・ミュージックが盛んになるという説もある。ここ数年来の傾向もそれを裏付けているようだ。

Need You Now Music Need You Now

アーティスト:Lady Antebellum
販売元:Capitol
発売日:2009/12/22
Amazon.co.jpで詳細を確認する

 こうしてみると、アメリカの音楽界の底流に流れているのは、保守本流というか、アメリカの心の故郷ともいえるような音楽なのだろう。だから白人層の人口割合が減少しても、逆にカラードが増加しても、こういう授賞式では選考者の意識としては革新的な音楽潮流に乗るということはないのだろう。

 エミネムは10部門にノミネートされ、レディ・ガガは6部門、ジェフ・ベックは5部門と他部門に渡ってノミネートされていたのだが、ノミネート数と実際の受賞数は当然のことながら、全く違うのである。

 だからおそらくここ数年の傾向として、ノミネート数と受賞数は反比例するというか、ノミネートされたから受賞できるとは限らない。むしろノミネートされればされるほど、受賞数は限定されるようだ。そしてそれが比例するのはカントリー系の音楽ということになるのだろう。

 また今回はB'zの松本孝弘氏がラリー・カールトンと組んで最優秀ポップ・インストゥルメンタル・アルバム賞を受賞したが、これも個人的にはどうかなあという気がした。決して僻んでいるのではないのだが、松本氏が受賞するのであれば、坂本龍一や矢野顕子らとともに“KYRYN BAND”を結成していた渡辺香津美や、ジャズではないが高中正義などもっと玄人受けするようなギタリストに行ってもおかしくなかったのではないかと思うのだが、あくまでも個人的な意見である。

TAKE YOUR PICK Music TAKE YOUR PICK

アーティスト:Larry Carlton & Tak Matsumoto,松本孝弘,Tak Matsumoto,Larry Carlton
販売元:バーミリオンレコード
発売日:2010/06/02
Amazon.co.jpで詳細を確認する

 それでやはり正しいグラミー賞の楽しみ方は、誰が受賞したかということも含めて、その場のステージングを楽しむ方がいいと思っている。
 今回はミック・ジャガーも歌ったし、エミネムやケイティ・ペリーも登場した。来年もビッグ・アーティストの共演を期待しているのである。Photo

| コメント (0) | トラックバック (0)

2011年2月14日 (月)

ファンタジー

 ファンタジーというと、幻想的なあるいは空想的な物語などを連想してしまう。また映画や小説にファンタジーという語がつくと、場合によっては女、子ども専用で、男には無縁のものという偏見を抱いてしまう。

 そんなイメージがある言葉なのだが、この語をバンド名にしていたイギリスの5人組がいた。でも名は体を現すというが、確かにファンタスティックで幻想的な音楽を奏でてくれるバンドだった。

 彼らは1970年頃にバンドを結成して、ドゥルイドと同じように、メロディ・メイカー主催のコンテストに出場して、プロ・デビューの機会をうかがっていた。当時はチャペル・ファームと名乗っていたらしい。

 でもそれではカントリー系のバンドと間違われやすいのではないかということで、ファイヤークィーンと名前を変えた。火の女王というわけである。それでこの“火の女王”はライヴ活動を続けながらデモ・テープを作成しては、様々なレコード会社に送った。

 結局、ポリドールと契約するようになったのだが、ファイヤークィーンでは当時人気が出てきたフレディ・マーキュリーなどがいるクィーンと間違いやすいということで、これまたバンド名の変更を余儀なくされたのである。そして結局、ファンタジーに決まったという。

 彼らが1973年に発表した1stアルバムは「ペイント・ア・ピクチャー」と名づけられ、市場に出回るようになった。

Music Paint a Picture

アーティスト:Fantasy
販売元:Aurora
発売日:2010/10/11
Amazon.co.jpで詳細を確認する

Photo
 音楽的には、全体としてはまるで水彩画のように起伏がなく、淡い印象だ。またメロトロンやキーボードが目立ち、それにギターが効果的に奏でられているという感じである。だから個人芸が目立つというよりは、全体の音作りで勝負しましたというサウンドなのだ。

 だからすぐに口ずさめるようなフレーズやメロディには乏しい。あるいは後世に残るような名曲というのもほとんどない。
 確かに平板な印象は拭えないのだが、しかしキーボード奏者1名とギター奏者が2名いるので、音の厚みはあるし、演奏水準はむしろ高い方で、その分聞き応えのあるアルバムにはなっていると思う。

 全10曲なのだが、"Widow"は2分少々の短い曲で、チェロとピアノにアコースティック・ギターが絡む様子は、デビューしたてのバンドの音というよりは百戦錬磨のバンドの曲のようである。
 また1曲目のアルバム・タイトル同名曲は、ややスローな感じながらもバックのキーボードがとても印象的だった。結構多種多様なキーボードを操っているようである。

 自分はサウンドの方は良いと思うのだが、ジャケット・デザインがイマイチだと思っている。いかにもタイトル通りのデッサンで、どうせ絵を描く(Paint a Picture)のなら、もう少し図柄を選んでほしかった。ちょっと素人過ぎる絵ではないだろうか。

 それはともかく、実は自分は彼らの1stアルバムよりは2ndアルバムの方が好みなのであった。
 彼らの1stアルバムは一部のマニアには好意的に受け入れられたものの、残念ながら商業的には失敗した。売れなかったのである。以前にもこのブログで述べたが、時代はこのような重厚長大なものを受け付けなくなっていたのである。

 “流行、廃り”は世の常であるが、それにしてはつい数年前には受け入れられた音楽が受け入れられなくなるというのは、当事者にとってみれば至極残念な出来事に違いない。
 
 しかもこの2ndアルバム「ビヨンド・ザ・ビヨンド」は1974年に録音され、リリースの予定まで決まっていたにもかかわらず、音を聞いたポリドールの経営陣が売れないと判断をして、最終的にはお蔵入りにさせてしまった。そして世の中の音楽メディアがレコードからCDに移り変わる中で、1992年になって、突如としてこのアルバムが世の中に出てきたのであった。実に18年間もどこかの蔵の中で眠っていたのだった。

 制作当事者はさぞ悔しかったであろう。結局、メンバーのうちのキーボード奏者のデヴィッド・メトカルフはバンドを脱退し、ファンタジー自身も解散してしまったのである。

 はっきりいって、プログレ・ファンを自認する人ならば、1stと2ndを聞き比べたなら、86%の人は2ndの「ビヨンド・ザ・ビヨンド」の方が優れていると判断するだろう。こちらの方が1曲1曲に特長があり、かつアルバム全体としても統一感がみられるからである。

FANTASY/Beyond The Beyond (1974/Unreleased 2nd) (ファンタジー/UK)
販売元:ショッピングフィード
ショッピングフィードで詳細を確認する 2_2

 まずベースの音がはっきりと強調されて、よりロック的になっている。これだけでも印象が前作と違っている。同時にボーカルも力強くなり、バックの演奏もそれを支える部分は支えて、自己主張するところはしっかりと主張できている。やはり音楽制作に慣れてきたからだろうか。あるいは前作よりもっとよいものを作ろうと意欲に満ちていたのだろうか。

 アルバムは短いイントロから始まり、すぐに2曲目の"Beyond the Beyond"が始まる。リズム陣も切れがよく、曲にメリハリが効いている。メロディも1作目よりもポップでありながら、よりこなれていて繰り返し聞いてみたくなる要素を備えている。リード・ギター担当のピーター・ジェイムズも1作目よりも目立っていて、それなりの実力を発揮している。

 続く"Reality"はアコースティック・ギターの爽やかなストロークから始まるフォーク調の曲。次の"Alanderie"は一転してエレクトリックな曲調で、メロディの起伏が激しく思わず耳を引き寄せられてしまう。途中のメロトロンやアコースティック・ギターのアルペジオがいい味を出している。

 "Afterthought"は曲がいい。哀愁を帯びたマイナー調なのだが、もしシングルとして発売されたら、ヒットも期待できたのではないだろうか。後半の珍しくハードなギター・ソロが、カッコいいのである。
 また"Worried Man"はバンドのハードな一面を表し、"Just a Dream"はソフトなボーカルが耳に優しく響いてくる。両方の曲とももう少し長く聞かせてほしいと思ってしまうほどだ。

 このアルバムは後半になるにつれていいメロディやアレンジを耳にすることができる。ハードな曲とソフトな曲が交互に並んでいるようで、そういうアルバム構成にも配慮しているのであろう。最後の曲"Church Clock"ではアコースティック・ギターを主体にしてクラリネットやチャーチ・オルガン、ダブル・ベースが添え物のように付け加えられた小曲であり、最後には鳥の声まで入っている。

 こんな素晴らしいアルバムがお蔵入りになっていたのだから、これを試聴した会社の役員連中は何を持って判断したのかさっぱりわからない。たとえイギリスでは売れなくても、ヨーロッパや極東の日本では間違いなく話題になり、それなりに売れたのではないだろうか。
 彼らのバンド名はファンタジーだったが、実際はリアリティー(現実)の壁に立ちふさがれて壊れてしまった悲劇のバンドなのである。

| コメント (0) | トラックバック (0)

2011年2月10日 (木)

エニド

 世の中にはプログレッシヴ・ロックのバンドは数多く存在するが、このジ・エニド(ここではエニドと称することにする)ほど興味深いバンドは珍しいと思う。

 何しろこのバンドは、ロックと全く対極に位置する音を発するのである。要するに、オーケストラを使わずキーボードやギターを使って、クラシックな音楽を演奏するのであった。だから最初に聞いたときは、ちょっと戸惑ってしまったのである。

 バンドのリーダーは、ロバート・ジョン・ゴドフレーという人で、彼はそれ以前はあの有名な?イギリスを代表する叙情派プログレ・バンドであるバークレイ・ジェームズ・ハーヴェストのオーケストレーションを担当していた。

 その経験を生かしてか、彼は1974年にエニドを結成した。ギターやベース、ドラムスにキーボードといった通常の楽器を使用しながらクラシックというか、ジャンル分けを敢えてするならば、シンフォニック・プログレッシヴ・ロックを演奏するという手法が受けて、人気を博するようになった。

 1974年といえば、イエスは「リレイヤー」を発表するものの、大作主義が災いして人気は下降していくし、クリムゾンは「レッド」という最後の輝きを残して解散してしまう時期だった。またピンク・フロイドやE,L&P、ジェネシスなどは次作までしばらく間を置くという状況だった。コンスタントにアルバムを発表していたのはジェスロ・タル、キャメル、キャラヴァンぐらいだろうか。
 ともかく、1974年という年は、ビッグ・ネームのプログレッシヴ・ロック・バンドにとっては、大きな転換期だったのである。

 また折りしも時代はパンク・ロック黎明期を迎えようとしていた頃でもあり、いわゆる重厚長大な音楽は敬遠されがちだったのである。
 そんな中で結成されたのだから、彼らは時代と逆行していた。それでも人気を集めることができたのだから、よほどインパクトが強かったのだろう。

 また彼らには"The Stand"というファン・クラブが追随していて、どこの場所でライヴを行っても、彼らはゾロゾロとついて行ったといわれている。まるでイギリス版グレイトフル・デッドである。
 さらにライヴ会場だけではなく、彼らはバンドと一体化してついには農場敷地内でコミューンを結成するまでになってしまった。まるで60年代のヒッピー・カルチャーのようだ。

 彼らは満を持して1976年にデビュー・アルバムを発表したのだが、王室非難をするパンク・バンドを罵倒し、ライヴでは"God Save the Queen"を演奏したという。
 一方で、反核運動を支持するなど政治的・社会的な活動にも熱心だった。自分たちで自給自足の生活を送りながら、自分たちの信じる音楽を作り出し、それを元手に、閉ざされた環をさらに強固にしていったのである。反核国粋バンドと一時は囁かれたのだが、彼らの外部から見れば、カルトな雰囲気が漂っていたのだろう。

 思想的には偏った集団だったのかもしれないのだが、音楽的には壮麗で雄大かつクラシカルな音楽を奏でていた。自分は2枚しかアルバムを持っていないのだが、確かにクラシカルである。

 1978年に発表されたサード・アルバム「タッチ・ミー」は2台のキーボードと2本のギターが中心となって制作されたオール・インストゥルメンタルのアルバムである。
 全6曲であるが、どこを切ってもクラシックという感じである。この手の音楽が好きな人にはたまらないだろう。

タッチ・ミー Music タッチ・ミー

アーティスト:エニド
販売元:WHDエンタテインメント
発売日:2006/12/20
Amazon.co.jpで詳細を確認する

 もう1枚は1983年に発表された5枚目のアルバム「サムシング・ウィックド・ディス・ウェイ・カムズ」である。
 このアルバムの特長は、何といってもボーカルが入ったことである。歌っているのはたぶんリーダーのロバート・ジョン・ゴドフレーだろう。決して上手なボーカルではないが、「タッチ・ミー」と比べて聞いてみると、非常に聞きやすく、わかりやすい音楽になっている。

サムシング・ウィケッド・ディス・ウェイ・カムズ Music サムシング・ウィケッド・ディス・ウェイ・カムズ

アーティスト:エニド
販売元:WHDエンタテインメント
発売日:2006/12/20
Amazon.co.jpで詳細を確認する

 またロバート・ジョン・ゴドフレーの片腕ともいうべきギター担当のスティーヴン・ステュワートが活躍していて、そういう意味でも、よりロック寄りのサウンドになっている。特にアルバム・タイトル曲の"Something Wicked This Way Comes"でのギター・ソロや、"Song for Europe"でのキーボード演奏などは、まるで何か吹っ切れたようにヴィヴィッドに聞き手に迫ってくる。

 ちなみにアルバム・タイトルはアメリカのSF小説家レイ・ブラッドベリの作品“何かが道をやってくる”から借用されたものであり、ここでは核兵器拡散の恐怖を例えているようだ。
 そしてアルバム・ジャケットには、3人の子どもたちが核兵器の爆発と衝撃で消えていくさまを描いている。ここにも彼らの思想が表明されている。(3人の子どもというのは、このアルバムを制作したときの3人のミュージシャンを指しているのかもしれない)

 とにかくこのアルバムは聞きやすく、まるで黄昏ゆく夏の日の夕方のような感じなのである。だからきっと夏の夜空を眺めながら聞くと気持ちがいいに違いない、そんな感じのアルバムなのだ。

 彼らは80年代後半に一旦は解散するものの、90年代に復活し、1997年、1999年、2010年には新作アルバムも発表している。まだまだやる気は充分なのである。ただし、オリジナル・メンバーはロバート・ジョン・ゴドフレー一人であるが、それでも現在でも活躍中なのはうれしい。

 一般的には1stアルバムの評価が高いようであるが、自分はまだ未聴である。ぜひ聞いてみたいのだが、やはり自分としてはボーカル入りの方が何となく取っ付きやすいのである。

In the Region of the Summer Stars Music In the Region of the Summer Stars

アーティスト:Enid
販売元:EMI Import
発売日:2010/09/21
Amazon.co.jpで詳細を確認する

| コメント (0) | トラックバック (0)

2011年2月 8日 (火)

追悼;ゲイリー・ムーア

 昨日の夕方、インターネットのヤフー・ジャパンのニュースを見ていたら、何とゲイリー・ムーアが死去したというニュースが載っていた。一瞬、目を疑い何度も読み返したのだが、間違いなくそこにはゲイリー・ムーアと書かれていた。2

 ショックである。信じられなかった。しかもまだ58歳。クラプトンが65歳でまだ現役ということを考えれば、彼もまだまだ活躍する場はあったであろうに、まことに残念なことである。
 死因は不明だが、休暇先のスペインのホテルということだから、やはり突然死なのだろう。

 個人的な意見だが、彼のことを一言でいうと、“器用貧乏”といえるだろう。とにかくギターは巧い。クラプトン世代からやや離れてはいるものの、間違いなくブリティッシュ・ブルーズ・ロックの継承者だった。

 かつてのゲイリーは、ハード・ロック・ギタリストだった。シン・リジィで活躍したことは有名だが、そのあとはジャズ・ロックのコロシアムⅡに参加しているし、80年代の活躍のあとはブルーズ・ロックに回帰して、ブルーズ・アルバムを発表している。

 ハード・ロックからジャズ・ロック、ブルーズ・ロックと彼は何でもこなすことができた。どの演奏もシャープで、正確無比だったし、エモーショナルな感情表現も巧みに表現することができた。
 テクニック的には申し分なかったのだが、どうしても二番煎じという印象が強く、彼のオリジナリティというものがイマイチ、ダイレクトに伝わりにくかったと思う。

 シン・リジィのときはエリック・ベルやブライアン・ロバートソンの代わりに加入したものだったし、コロシアムⅡもその名の通り、コロシアムの後継バンドだった。
 また90年代に入ってからはブルーズ・ロックを演奏するようになったが、話題性はクラプトンのブルーズ・アルバムの方が大きくなり、先に試みたゲイリーのお株を奪うかたちになった。

 そして元クリームのジンジャー・ベイカー、ジャック・ブルースとBBMを結成したのは1994年だったが、音楽性もスタイルもクリームの焼き直しの観があった。個人的には大好きだったのだが、長続きはしなかった。時代はインプロビゼーション主体のそういう音楽を求めていなかったのだろう。Bbm

 だからゲイリーは“器用貧乏”だったと思う。何でもできて、どれも一級品だったが、革新性というか、時代性にマッチしていなかった。それが彼にとっての唯一最大の特徴だったと思うのである。

 でも彼はギター・キッズには熱狂的に受け入れられているし、彼の楽曲のうちの何曲はロック・クラシック的な扱いを受けている。当然のことながら彼から影響を受けた人たちはかなりの数にのぼるだろうし、今回の彼の突然の死を知って嘆き悲しんでいる人は、全世界で数え切れないほどいるはずだ。

 しかし、それでも彼は“器用貧乏”なのである。ギター・ヒーローにはなったが、ジミ・ヘンやクラプトンのような全世界的な評価を受けることはなかった。

 自分にとっては彼の生き様自体がロックだと思うし、世の評価にとらわれずに自分自身の信念を貫き通した人生こそが尊いと思っている。だから“器用貧乏”こそ何ものにも代えがたい彼にとっての称号だと考えている。
 心から彼の冥福を祈るとともに、彼のギター・プレイだけでなくそのライフ・スタイルもまた継承されることを願っているのだった。

| コメント (0) | トラックバック (0)

2011年2月 6日 (日)

ドゥルイド

 ドゥルイドというのは、古代ヨーロッパに存在していたケルト人の社会における祭司の役割をした人たちのことだという。この人たちは祭りごとをつかさどるだけでなく、裁判官や政治家の役割もこなしたそうだ。
 時代がたつにつれて、彼らの役割はさらに幅広くなり、戦士や吟遊詩人として活躍する人たちも現れたそうである。そういえば映画「スター・ウォーズ」シリーズでもドゥルイドという戦士が出てくるのだが、このドゥルイドと何か関係があるのだろうか。たぶんないと思うが…

 それで同名のイギリスのプログレッシヴ・ロック・バンドのドゥルイドのことである。昨年秋に彼らのオリジナル・アルバム2枚がペーパー・スリーヴ版で国内販売されたのだが、やはり何回聞いても“遅れてきたイエス・フォロワー”という感じなのである。

 彼らは4人組でボーカリストがギターを兼ねているほかは、通常のバンドと同じように、ベース、ドラムス、キーボードという編成だった。面白いのはドラマーのセドリック・シャープリーという人がアフロ・ヘアーをしているということだろう。プログレのバンドでアフロとはちょっと珍しい気がした。まるでジョー山中のような感じなのである。

 そのアフロ・ドラマーとベース担当のニール・ブリューワー、ボーカル&ギターのデーン・スティーヴンスの3人がメロディー・メイカー主催のバンド・コンテストで優勝したことから、プロ・デビューが決まった。その後に、ロンドン音楽アカデミーを卒業したアンドリュー・マックローリー・シャンドがキーボード・プレイヤーとして加入している。

 サウンド面においては、このキーボーディストのアンドリュー・マックローリーがいい味を出していて、メロトロンやハモンド・オルガンなど多種多様なキーボードを操り、音に広がりを与えている。それに早弾きもなかなかのもので、まるでリック・ウェイクマン2世という感じだ。

 一聴して彼らからイエスの匂いが漂ってくる理由は、それ以外にもベースのアタック音の強さが挙げられるだろう。ビンビン響くベースの音はクリス・スクワイヤのそれに極似している。ここまで強いとワザとやっているとしか思えないほどだ。
 それにボーカルの声質もジョン・アンダーソンに似ている。むしろジョンより高音で透き通っていて、時として女性ボーカルではないかと思わせるほどだ。このデーンという人は、写真でみると髭をはやしていて、まるで写真と声がマッチしていないのである。

 1stアルバムの「トゥワード・ザ・サン」は1975年に発表されたのだが、何度もいうようだがイエスのファンタジックな面を強調したかのようなサウンドで、例えていえば、1973年に発表された「海洋地形学の物語」の"Rememberance"のような雰囲気を全編にわたって携えている。

【中古レコード】 DRUID / Toward The Sun UK EMI DRUID / Toward The Sun UK EMI

販売元:ユークリッド
楽天市場で詳細を確認する


 1曲目の"Voices"は最初はアップテンポで緊張感溢れる演奏が続くのであるが、3分を過ぎてボーカルが入ってくると、もうビックリ、180度世界が変わるのである。8分以上もある曲だが、全然長さを感じさせない。最後の方は叙情的なエレクトリック・ギター・ソロで締めくくられ、変に早弾きに走らないところに好感が持てた。

 2曲目の"Remembering"はアコースティックな雰囲気と、まさにイエス的なコーラスを堪能することができるし、続く"Theme"はメンバー全員で作曲したインストゥルメンタルである。何のテーマかは不明だが、バンドのアンサンブルの美しさと、ギターやキーボードのソロ・パートが強調されていて、ボーカルのデーンは歌だけではなくて、ギターの腕前もなかなかのものである。

 全7曲なのだが、"Red Carpet for an Autumn"のイントロのピアノとボーカルの絡みは背筋がゾクッとくるほど美しく印象的である。この部分だけでもこのアルバムを購入する価値はあると思う。3分あまりの小曲なのだが、短いからこそ生きてくる曲で、この辺の構成は新人バンドとは思えないほど、巧緻に長けている。イエスをもっとマイルドに、牧歌的にさせたバンドがドゥルイドであろう。

 2枚目は翌年の1976年に発表された。これも前作を踏襲したような内容なのだが、9曲と曲数が増えていて、少しポップ化を試みたような感じがした。Photo_2
 ただこのアルバムには2曲のインストゥルメンタルが含まれていて、"FM145"と名づけられた曲は、キーボードが強調されて、少しエレ・ポップのような感じで2分少々と短い。クレジットをみると、キーボーディストのアンドリューが作曲したもので、当時流行した音にも敏感なところを見せているかのようだ。

 もう1曲のインスト曲"The Fisherman's Friend"はアルバム最後の曲で、これは40秒少々と非常に短いものになっていて、アンドリューのキーボードが軽く遊んでいるかのようで、まるで「アビー・ロード」の"Her Majesty"のキーボード版である。曲自体も彼の手によるものだ。
 驚いたのは"Barnaby"を聞いたときである。この曲は何とレゲエ調で、まるでイエスがレゲエ・ミュージックをやったら、こんな風になりますよといっているようだった。

 アルバム後半は短い曲が続いていて、曲のメロディ・センス自体は前作とあまり変わらないのだが、確かに演奏時間は短くなっている。そのせいか前作にみられたアルバム全体の統一感というものは薄れている気がした。

 これは1976年のイギリスという時代状況を外して考えることはできない。当時はパンク全盛期で、イギリスの若者を中心に、世界はロックの初期衝動的な音楽を求めていたのである。
 だから短く、性急で焦燥感溢れるリズムが求められ、社会的メッセージを伴う曲やそれを演奏するバンドの人気が高く、ドゥルイドのような一昔前のプログレッシヴ・ロックをやるバンドなどは、時代遅れの遺物とみなされていたのである。

 事実、ドゥルイドは当時のEMIレコードと契約していたのであるが、EMIは当時社会現象までになったセックス・ピストルズと契約して、彼らを売り出そうとしていた。だから売れないグループは次々と契約を打ち切られたのである。残念なことだが、ドゥルイドもその例外ではなかった。

 結局、彼らは2枚のアルバムを残して解散してしまったのだが、その後ドラマーのセドリックはエレクトロニクス・ポップ・バンドのチューブウェイ・アーミーに加入し、ゲイリー・ニューマンとともに活動をした。
 キーボーディストのアンドリューは、作曲家や音楽プロデューサーとして数々のTV番組の音楽を手がけている。
 ベーシストのニールとボーカル&ギターのデーンは一時期、ネヴァー・ネヴァー・バンドというバンドを立ち上げたが、その名の通り1枚のアルバムも発表することなく消えてしまった。

 個人的には、もう5年早く、あるいはもう5年遅れてデビューすれば、もっと賞賛されたのではないかと思っている。確かにイエスの二番煎じとはいえ、音楽的にはしっかりしているし、楽曲的にも優れているからだ。もう数枚はアルバムを発表してほしかった。

 彼らのアルバム2枚が1セットになっている輸入盤もあるので、興味のある方はぜひ購入してみてはいかがだろうか。

【送料無料】Druid / Toward The Sun / Fluid Druid 輸入盤 【CD】 【送料無料】Druid / Toward The Sun / Fluid Druid 輸入盤 【CD】

販売元:HMV 楽天市場ストア
楽天市場で詳細を確認する

 ともかく自分の中では優れたバンドだと思っている。古代ケルト人の呪術も現代まで及ばなかったのか、彼らの音楽が消えていったのが何とも残念でならない。

| コメント (2) | トラックバック (0)

2011年2月 2日 (水)

クレシダ

 昨年のブログで60年代の終わりから70年代初頭にかけてのイギリスの音楽レーベルのことに触れたことがあった。その中でネオン・レーベルやヴァーティゴ・レーベルなどは特徴的な音を備えたアルバムを数多く輩出していたことを述べたのだが、今回もそのヴァーティゴから発表されたアルバムを紹介することにした。

 それは1970年に発表されたクレシダというバンドのアルバムである。このバンドは自分の中では一応、プログレッシヴ・ロックにジャンル分けされているのだが、実際はブリティッシュ・ロックとプログレッシヴ・ロックの中間点に位置するようなバンドではないかと思っている。

Cressida Music Cressida

アーティスト:Cressida
販売元:Akarma Italy
発売日:2005/02/15
Amazon.co.jpで詳細を確認する

 自分は彼らのデビュー・アルバムしか聞いたことがないのだが、音を聞いた限りではジャズっぽいオルガン・プレイが中心となっていて、いかにも70年代初頭を飾るような曖昧模糊としたサウンドに仕上がっているのが興味深い。

 このバンドのキーボードは、ピーター・ジェニングスという人が担当しており、オルガン以外にもピアノやハープシコードも演奏している。
 当然のことながら、テクニック的には申し分ないし、自分ひとりが目立つようなプレイではなくて、バンド全体のことを考えているところが好感できる。たぶん専任のボーカリストがいるから、そのことも考えているのではないだろうか。

 またジョン・ヘイワースという人がギターを弾いているのだが、エンディングや間奏の部分では少なからず目立とうとしているところも面白い。とにかく全体的にバランスが取れているのである。

 曲自体は3分、4分程度と短く、長い曲でも5分19秒である。だからアルバム1枚に12曲も入っている。これは後世の感覚からみれば、決してプログレッシヴ・ロックとはいえないだろう。
 例えていうならクリアな音の初期イエスといえるかもしれない。ピーター・バンクスというジャズに影響を受けたギタリストはいるものの、どちらかといえばトニー・ケイの弾くオルガン・プレイが音楽面では重要な鍵を握っていた頃のイエスである。

 ただし曲構成のほうは、クレシダの方がシンプルである。ジャズっぽいが、曲自体は短いし、耳にすんなりと馴染んでくる。"Lights in My Mind"などはシングルでもヒットしそうな感じの2分45秒の曲である。

 すべての曲はボーカリストのアンガス・クーリンという人が書いているのだが、たぶん歌詞と基本的な曲の進行を決めているのではないだろうか。ギターやキーボードのアレンジなどは後で作っているのであろう。
 それにインストゥルメンタルの曲はなくて、すべてボーカル入りである。この辺はボーカリストが曲を作っているからだろう。

 6曲目の"Depression"などは5分少々の曲であるが、途中でギター・ソロとオルガン・ソロがプレイされているが、あとでオルガン・ソロが展開されるため、どう聞いてもオルガンの音しか印象に残らない。バンドのリーダーはボーカリストかもしれないが、演奏面ではピーターが仕切っていたのだろう。

 3曲目の"Time for Bed"ではアコースティック・ギターが目立っているし、7曲目の"One of a Group"ではファズのかかったエレクトリック・ギターがフィーチャーされているのだが、決して演奏能力は低くなく、むしろ高度なテクニックが使用されている(ように聞こえるのだ)。
 だけどやっぱり目立つのはキーボード・サウンドの方なのである。ただし12曲目のアルバム最後の曲"Tomorrow is a Whole New Day"ではエンディングに印象的なギター・ソロを聞くことができる。最後なので、めだってみましたという感じだ。

 1stアルバムだけを聞けば、オルガンメインのロックかプログレッシヴ・ロックなのか、音楽的にどっちつかずな中途半端な印象を受けるに違いない。彼らがさらに有名になったのは、1971年に発表された2ndアルバム「アサイラム」後のことであろう。

 ただ確かに音楽的な進化はあったものの、それ以上にアルバム・ジャケットがショッキングで印象に残ったのは確かである。

Asylum Music Asylum

アーティスト:Cressida
販売元:Repertoire
発売日:2010/06/22
Amazon.co.jpで詳細を確認する


 当時の有名デザイナーだったマーカス・キーフが制作したこのジャケット。ダブル・ジャケット形式になっていて、アルバムを広げると、マネキンの首が倍増したという。あまり気持ちのいいものではないと思うが、そのぶん彼らの名前が広がったのは事実だろう。

 1stは12曲だったが、このアルバムには8曲しか収められておらず、しかも中にはギターが大きくフィーチャーされた曲やストリングスも導入されていて非常にドラマティックな曲もあるという。曲も9分や11分を超えるものもあり、曲構成も複雑になっているそうだ。ぜひ一聴したいものである。

 バンド解散後は、ドラマーはユーライア・ヒープに加入し、2代目ギタリストのジョン・カーリーはブラック・ウィドウで1981年から3年間活動した。ちなみに初代ギタリストのジョン・ヘイワースは2010年の1月に亡くなっている。

 たぶん2ndアルバムのおかげでプログレッシヴ・ロックの範疇に入ることができたバンドだと思っている。残念ながら彼らは2枚のアルバムを残して解散してしまったのだが、2ndアルバムのジャケット・デザインのおかげで21世紀の今でも語り継がれるバンドになっているようだ。

| コメント (4) | トラックバック (0)

« 2011年1月 | トップページ | 2011年3月 »