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2011年3月

2011年3月30日 (水)

インクレディブル・ストリング・バンド

 前回はアメイジング・ブロンデルを紹介したのだが、アメイジング・ブロンデルの次は、やはりこのバンドしかないだろうということで、今回はインクレデブル・ストリング・バンドの登場になる。名前が長いので、以下ISBとする。

 アメイジング・ブロンデルもISBも、基本はアコースティックである。ただアメイジング・ブロンデルの方はさらにそこから中世音楽にアプローチをし、ISBの方は逆にサイケデリックで現代的なフォークに向かっていった。

 ISBはもともとはロビン・ウィリアムソンとクライブ・パーマーという人が、1963年にスコットランドで始めた2人組のフォーク・バンドだった。1966年にリズム・ギターの弾ける人が欲しいということでオーディションをした結果、マイク・ヘロンという人が加入してきた。

 この3人で1stアルバムを発表するも、クライブはアフガニスタン?に放浪の旅に出たらしく、残った2人でアルバム制作を続けていくことになった。
 ところがこの2人、あまり仲はよくなかったらしい。というかお互いに意識して曲作りに励んでいたそうである。だからアルバムの曲のクレジットを見ると、それぞれがそれぞれの曲を作って歌っているという感じである。ビートルズでは、ジョンとポールがそれぞれ曲を作っても、名義は“レノン=マッカートニー”で統一していたが、それとは正反対である。

 初期の彼らは、フォーク・ソングで有名なレーベル、エレクトラからアルバムを出していて、1970年まで7枚のアルバムを発表している。自分はそのベスト盤をもっているのだが、どこをどう聞いてもフォーク・ソングである。ただ、彼らも様々な聞いたこともない楽器をあやつることができたので、正統派フォーク・ソングではなくて、どこかヘンなフォーク・ソングだった。

Best of, 1966 Music Best of, 1966

アーティスト:Incredible String Band
販売元:Warner
発売日:2001/06/05
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 ちなみに彼らはあの有名なウッドストック・コンサートにも出場したのだが、それほどそのことは知られていないようだ。ジミ・ヘンやサンタナなどは、いまでも語り草になっているのだが、ISBはそうでない。ひとつはキャンド・ヒートとC.C.R.の間で演奏したので、いまひとつアメリカの聴衆には受けなかったのかもしれない。

 その後彼らは、メンバーを補充しながらレーベルをアイランドに移して活動を続けたのだが、1874年に解散するまで5枚アルバムを発表した。その中で一番有名なのは1971年の「リキッド・アクロバット・アズ・リガーズ・ジ・エア」だろうか。でもハッキリいって、自分の中ではどこがいいのかよくわからない。たぶんそれまでと違って、初めてエレクトリックなサウンドを導入したからだろう。そのせいかどうかはわからないが、彼らの中で一番売れたものになった。エレクトリック・シタールが印象的でもある。

Liquid Acrobat As Regards the Air Music Liquid Acrobat As Regards the Air

アーティスト:Incredible String Band
販売元:Sepia Tone
発売日:2002/09/03
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 彼らも時間がたつにつれて、だんだんと聞きやすい音楽をやるようになった。翌年出された「アーススパン」でもその傾向は強くなっている。またこのアルバムには、ドラマーにジェスロ・タルのアルバムにも参加しているデイヴ・マタックスがゲスト参加していて、気持ち的にはプログレッシヴ・ロックに近いかなという気にさせてくれた。Isb

 個人的にはこのアルバムと彼らの最後のアルバム「ハード・ロープ&シルケン・トゥワイン」が好きなのだが、ただ彼らのアルバムの中ではという意味であって、これらのアルバムを好んでターン・テーブルに載せるという意味ではない。Isb2
 それでも1曲目の"Maker of Islands"はストリングスが滅茶苦茶美しくて、思わず聞きほれてしまった。サイケなフォーク・ソングにまぎれて、こういうビューティフルな曲があるから彼らのファンにはたまらないのだろう。
 また2曲目"Cold February"も心に染み入るような静謐な曲で、インカの笛のような音とオルガンが微妙にマッチしていて、まるでロバート・ワイアットの曲に似ている。その次の"Glancing Love"もまたシンガー・ソングライターのような曲でなかなか素晴らしい。

 このアルバムは最初の3曲だけで充分おつりが来るくらい素晴らしい楽曲で始まっているし、最後の曲"Ithkos"は19分23秒もある組曲で、歌、演奏ともに聞かせてくれる。自分なら彼らのアルバムの中で1枚だけ推薦するとなると、迷わずこの1枚を押すだろう。

 彼らはこのアルバムの発表後、ソロ活動を始めるのだが、1999年にオリジナルの3人で再結成し2006年まで活動を続けた。

 自分の中では彼らをプログレッシヴ・ロックとして位置づけしているのだが、ひょっとしたらちょっと変わったサイケデリックなフォーク・バンドと考えている人も多いだろう。
 当時は世界的にこういう音楽が受けていたのだろうが、単なるフォーク野郎たちで終わらない革新的な音使いや使用楽器などがそういう気持ちにさせるのだろうか。彼らもまた通常のロック・ミュージックとプログレッシヴ・ロックの境界線上に存在するバンドなのである。

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2011年3月26日 (土)

アメイジング・ブロンデル

 プログレッシヴ・ロックも広義のブリティッシュ・ロックのジャンルのひとつかもしれないし、(あるいはその逆も言えるかもしれないが)、ジャンルのたて分け方次第で、いろいろな言い方ができるだろう。
 
 今回のお題は「アメイジング・ブロンデル」なのだが、このバンドもトラディショナル・フォークなのか、クラシック・ミュージックか、はたまたプログレッシヴ・ミュージックなのか、よくわからないのである。

 何しろリュートやダルシマー、リコーダーなどという古い楽器を用いて、フォーキィーな音楽を演奏するのである。その使用する楽器から見れば、中世音楽いわゆるクラシックの範疇に入るだろうし、1曲20分以上もある組曲を演奏することから考えれば、プログレッシヴな音楽といえるだろう。
 
 日本で考えれば、東儀秀樹がフォーク・グループを結成して、アンプを使用した20分近い雅楽をやるようなものだろう。
 そういう伝統的な側面と近代的な音楽が合体したのが、アメイジング・ブロンデルなのだが、基本はあくまでもトラディショナルな音楽なのである。

 最初はリュートやダブル・ベースを演奏するジョン・グラッドウィンとハープシコードやリコーダーを演奏するテリー・ウィンコットの2人で活動していたときに、演奏の幅を広げるため、才能豊かなギタリストのエドワード・ベアードを加入させた。

 要するに1stアルバムはジョンとテリーで録音され、1969年に発売されたのだが、結果はあまり芳しくなかったらしい。それで1970年頃に3人組になってレコード会社を移籍して発表したのが「イーヴンソング」だったということである。
 また移籍したレコード会社は当時新興レーベルだったアイランド・レコードで、これにはフリーのメンバーが紹介したという逸話が残されている。フリーとアメイジング・ブロンデルはまるで正反対だと思うのだが、そういう雑食性もまたロック・ミュージックの特質であろう。

 自分の持っているアルバム「ファンタジア・リンダム」は彼らの3枚目のアルバムで、1971年に発表されたものである。
 このアルバムはまた、元ヤードバーズのポール・サムウェル=スミスがプロデュースしていて、ゲスト・ミュージシャンとしてドラムスに元トラフィックのジム・キャパルディが参加していた。メンツ的には充分にロック的なのだが、聞こえてくる音楽は充分に古典的なのである。Photo_2

 このアルバムには20分少々の組曲"Fantasia Lindum"が収められていて、中世エリザベス朝の音楽と英国式アクセントで歌われるクラシカルなフォーク・ミュージックが融合する音楽を聞くことができる。"Lindum"というのはイングランドの街リンカンのことを意味していて、その街にある大聖堂をイメージしながら作られた曲らしい。

 当然のことながら、ロックの持つダイナミズムや衝動性、疾走感とは無縁の音楽観に触れるわけだが、何回も聞いていると、すぅーと心の中に入ってきて、こちらまで穏やかに癒される不思議な感覚を持った曲なのである。

 ひとつにはジョン・グラッドゥインのボーカルが上手というか、声質が心地よいということが挙げられるだろう。またハーモニーもきれいで、ポコやイーグルスなどのアメリカ西海岸のバンドに充分匹敵するくらいの出来なのである。これもまた彼らの素晴らしい才能のひとつであろう。

 そして曲自体もメロディアスで聞きやすい。組曲といっても1曲1曲は短いのが集まったものだから、全く長さを感じさせないのである。
 さらに組曲以外の曲、例えば"Safety in God Alone"などもまた美しい。全体がクラシカルでアコースティックだから目立たないのだが、こういう曲がビートの効いたロック調の間に収められていると、きっと目立つに違いない。そういう曲なのである。

 とにかく通常のロックン・ロールとは違うので、大音量で聞いてカタルシスを味わうというわけにはいかない。だからそんなに興味はなかったのだが、何度も聞いていると不思議にもっと聞きたくなってくる魅力を備えているのだ。いまだに聞かれ続けるクラシックの要素を備えている証拠だろうか。

 それでもう1枚、今度はそういう彼らのライヴを聞いてみたいと思って、ライヴ・アルバムを購入した。それが「フォーリン・フィールド・ザット・イズ・フォーレヴァー・イングランド」というアルバムで、彼らが1972年から73年にかけてのヨーロッパ・ツアーの実況録音盤であった。

 ヨーロッパ・ツアーだけあって、ベルギー、ドイツ、フランス、スイス、イタリア、オランダ、スペイン、ノルウェー、スェーデン、デンマークなどの諸国を巡っている。それだけ彼らのような音楽の需要は高かったということだろうか。さすが歴史と伝統があるヨーロッパである。また彼らはジェネシスやプロコル・ハルム、スティーライ・スパンなどとも一緒に活動していたようである。

 A Foreign Field That Is Forever England (Live) A Foreign Field That Is Forever England (Live)
販売元: iTunes Store(Japan)
iTunes Store(Japan)で詳細を確認する

 ライヴでの音源を聞くと、ほとんどスタジオ盤と変わらない。基本的にはアコースティック・セットみたいなものだから、たくさんのアンプを並べたり、舞台設備を飾ったりする必要はなかったのだろう。
 ただライヴでは3人で40種類以上の楽器を操って演奏していたというから、チューニングや使用状態を保つ準備などでは大変だったらしい。そのせいかどうかはわからないが、ジョンは1973年にバンドから離れてソロ活動を始めた。ジョンはバンドの歌の多くを手がけていて、もっと作曲活動やレコーディングに専念したかったらしい。

 残された2人は“ブロンデル”と名前を短くして活動を続けた。時にはスティーヴ・ウィンウッドやポール・コゾフなどをゲストに迎えてアルバムを発表したのだが、あまり大きな話題にはならなかったと思う。もともと彼らのような音楽を志向するマーケットの規模が小さかったから、ある程度は仕方はないのかもしれない。
 
 しかし彼らは1997年に再結成されてアルバムを発表し、2000年にかけてヨーロッパ・ツアーに出かけている。歴史は繰り返すということなのだろうが、根強いファンがいるのであろう。

 “アメイジング・ブロンデル”という名前は、イギリスのリチャード1世に仕えた宮廷楽師のことで、伝説ではリチャード1世が捕らえられ幽閉されたときに、ヨーロッパ中を旅行して、王の居場所を確認し、その脱出を手助けしたといわれている。
 そういう意味で、彼らは70年代でも90年代でもヨーロッパ中を旅しては、演奏活動を続けたのであろう。CDを通して、21世紀の今になってもヨーロッパの気品溢れる宮廷音楽の香りを保っていることが、まさに“Amazing”なのである。

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2011年3月22日 (火)

アフィニティ

 プログレッシヴ・ロックとブリティッシュ・ロックの境界線上のバンドの紹介をしているのだが、今回はどちらかというとブリティッシュ・ロック寄りのバンドについて書くことにした。

 なにゆえにプログレではないかといえば、基本的なバンドのフォーマットが通常のバンドと変わらないのと、使用楽器も当時最新の電子楽器などではなく、ごくごくノーマルだからである。また1曲あたりの時間数も曲によっては2~3分と短いからだ。

 それで紹介の順番が逆になってしまったが、1970年に発表された「アフィニティ」というアルバムについてである。このアルバムは同名バンドにより制作されたものであるが、バンドはこのアルバム1枚発表して解散している。ちなみに、これもヴァーティゴ・レーベルから発表された。こういう摩訶不思議な魅力を備えていて、商業性をあまり考慮しないものは、このレーベルの特徴みたいなものであろう。あるいはこの時代の新興レーベルの特徴といってもいいかもしれない。

 バンドのメンバーは5人で、紅一点のボーカリスト、リンダ・ホイル、ギタリストのマイク・ジョップ、ベーシストのモー・フォスター、ドラマーのグラント・サーペル、オルガニストのレイトン・ネイフだった。

 このうち比較的有名なのは、ボーカリストのリンダとベーシストのモー、ドラマーのグラントだろう。リンダは後にソロアルバムを発表しているし、ドラマーのグラントは、ポップ・バンドのセイラーに加入してヒット・シングルを出している。
 またベーシストのモー・フォスターは、セッション・ミュージシャンとしてジェフ・ベックやフィル・コリンズ等のレコーディングに参加したり、ツアーに同行している。近年ではロックやジャズだけでなく、TV番組のテーマ・ソングなども手がけていて、音楽プロデューサーとしても活躍しているようだ。

 それでこの「アフィニティ」というアルバムなのだが、自分の手元にあるのは全7曲プラスボーナス・トラックとして2曲追加されている。

Music Affinity

アーティスト:Affinity
販売元:Repertoire
発売日:2010/11/09
Amazon.co.jpで詳細を確認するPhoto

 全体としてはいかにもこの時代を反映したような陰鬱なブリティッシュ・ジャズ・ロックであり、オルガニストのレイトンのプレイとリンダのボーカルが強調されている。
 また数曲でレッド・ゼッペリンのジョン・ポール・ジョーンズがブラスとストリングスのアレンジで手を貸している。

 一聴してスカッと爽やかというわけにはいかず、もやもやとした霧の中で残響が残っているような印象を受けるのだが、ちょっとアルコールをきめて現実逃避というかトリップするのが趣味な人には、ピッタリの音楽ではないだろうか。そういう人がいるかどうかはわからないが…

 とにかくボーカル主体のアルバムなので、演奏はそれほど強調されていない。それでもボブ・ディランの"All Along the Watchtower"ではレイトンのオルガンがガンガン演奏されていて、全体として11分以上もある。また他の曲ではところどころにファズの効いたジャージィなギター・ソロも耳にすることができる。

 それにボーナス・トラックを入れて全9曲中オリジナル作品は2曲だけで、あとはすべてカバー曲である。その中にはディランのほかにも、エヴァリー・ブラザーズの"I Wonder If I Care as Much"やジョン・セバスチャンの"Cocoanut Grove"、ローラ・ニーロの"Eli's Coming"なども収められている。
 アフィニティというかリンダ・ホイルという人は、アメリカ音楽の影響を強く受けていたのだろう。あるいはイギリスのジャニス・ジョップリンになりたかったのかもしれない。

 つまりアフィニティは彼女のバック・バンドというわけで、ビッグ・ブラザー&ザ・ホールディング・カンパニーみたいなものである。

 リンダはアフィニティ解散後の1971年に「ピーシズ・オブ・ミー」というアルバムを発表したが、偶然だろうが、これなんかはジャニスのアルバム「チープ・スリル」の中にある"Piece of My Heart"を連想させる。ちなみにこのアルバムにはクリス・スペディングやソフト・マシーンのメンバーのジョン・マーシャルやカール・ジェンキンスも参加していた。
 ジャニスと違う点は、リンダはジャズ・ボーカルをやりたかったというところだろうか。

 結局のところ、このアルバム「アフィニティ」は彼女のボーカルが強調され、それが魅力でもあるのだった。特に"Night Flight"、"Mr.Joy"、"Three Sisters"などはそのバックの演奏の素晴らしさも含めて、しっとりと聞かせる曲に仕上がっている。"Three Sisters"のギター・ソロなどは、オルガン演奏が目立っているこのアルバムの中では名演ではないだろうか。

 ちなみにリンダは現在では大学でアート・セラピーのようなものを教えているというが、元々は英語の教師だった人であるから、元の職に戻ったようなものである。またときどきライヴでジャズやブルーズを歌っているともいわれている。

 とにかくこのアルバムは不思議な魅力を秘めていて、聞くたびに新たな発見というか、何度聞いても飽きない何かを持っている。これもリンダと彼女のバンドの織り成す音楽のマジックのせいに違いない。

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2011年3月18日 (金)

ベガーズ・オペラ

 プログレッシヴ・ロックとブリティッシュ・ロックの境界線上にあるアルバムを探していたのだが、今回はブリティッシュ・ロックというよりも、どちらかというとポップな味付けがなされたバンドになってしまった。

 ロックというのは貪欲な音楽で、なんでも吸収して消化してしまうというブラック・ホールのような音楽だと思う。だいたいその出生からして、黒人音楽と白人音楽の融合から始まっているし、そこからカントリー・ロックやサイケデリック、ハード・ロックにジャズ・ロックと次々と新しいジャンルが生まれている。

 プログレッシヴ・ロックもその派生されたロック・ミュージックの一種なのだが、このプログレの中にも、シンフォニックやプログレ・メタル、クラシカルなものからポップなものまで実に幅広いのである。

 今回のベガーズ・オペラは今までのバンドとは違って、1枚のアルバムだけ発表して解散したというものではなくて、けっこう息の長い活動歴を持っている。
 自分が持っているアルバム「宇宙の探訪者」は彼らの3枚目のアルバムで、1972年にヴァーティゴ・レーベルから発表された。

Pathfinder Music Pathfinder

アーティスト:Beggar's Opera
販売元:Repertoire
発売日:2006/10/31
Amazon.co.jpで詳細を確認する

 このアルバムは、キーボードが目立っていて、確かにプログレッシヴ・ロックに分類されるものだが、全体的な印象としては聞きやすく、どちらかというと、このブログでも取り上げたスタックリッジやスーパートランプのアルバムのようだった。

 10ccのようなポップ性はないものの、素直なメロディで、テンポよく最後まで一気に聞かせてくれる。曲数も7曲とプログレとしては多い方だろうし、時間も3分台後半から最大8分20秒と、これもプログレっぽくない気がする。だからマイナーなE.L.O.やスーパートランプのような感じなのだ。

 またアルバム・ジャケットも変わっていて、まるで紙でできた風呂敷のように6面開きになっていて、アルバムを包み込むような仕様になっている。CDなら小さいので可能だろうが、レコードのときもこんなふうになっていたのだろうか。ジャケット制作費用もバカにならないと思うのだが、やはり70年代初期は採算や収益よりも、新奇なアイデアの方が優先されていたのだろう。いま思えば幸福な時代といえるかもしれない。
 しかしこのアルバム・ジャケットに対抗できるのは、サンタナの「ロータスの伝説」くらいではないだろうか。

 それで肝心な音楽性については、幅広いもので、キーボード優先の音作りと思っていたのだが、ギターがメインのインストゥルメンタル"Stretcher"なども用意されていて、バラエティに富んでいる。この"Stretcher"から切れ目なく続く"Madame Doubtfire"がアルバムの最後を飾っているのだが、ボーカルの掛け合いや笑い声、バック・コーラスなどが彼らの持つ音楽的な雑食性や猥雑さをよりいっそう引き立てている。
 これが彼らのベースにあるから、プログレッシヴ・ロックのようでそうでなく、どちらかというとサイケデリックなポップ・ミュージックの部類に入りそうな雰囲気を醸し出しているのだろう。

 1曲目の"Hobo"は、オルガンやピアノがマーティン・グリフィスのボーカルを引き立てている。彼のボーカルはハッキリしていて、なおかつ哀愁味を備えている。だからプログレッシヴ・ロック・バンドのボーカリストというよりは、ポップ・ミュージックでも歌わせた方が似合っているような気がしてならない。中間部のギター・ソロとエンディングのピアノ&オルガン・ソロがいい味を出している。

 2曲目はあのドナ・サマーも歌った"Macarthur Park"で、何と8分20秒もあるアルバム一長い曲である。これもテンポのいい曲で、ハープシコードで全体が味付けされて、途中で少しだけメロトロンが挿入される。できれば逆にしてほしかったと思うのだが、是非もないことである。
 アメリカのSSWであるジミー・ウェッブが作った曲であるが、こういう曲を取り上げるあたりが、やはり通常のプログレ・バンドとは一線を画すのである。ボーカルに自信があるのだろう。

 "The Witch"のような曲を聞くと、初期のディープ・パープルのようである。オルガンがジョン・ロードのようであるし、ギターもけっこう走っている。車の中で聞くと、走り屋になったような気分になるのではないかと思う。

 彼らは1970年にスコットランドのグラスゴーで結成されていて、そのスコットランド民謡というか旋律を持つ曲"From Shark to Haggis"も用意されていて、なかなか面白い。後半はスコットランドの旋律というよりもアイルランドの舞曲ジグのような雰囲気をもっていて、聞いていて思わず踊ってしまいそうになる。もちろん実際に踊ったりはしないのだが。

 というわけで、ノリはよく、ギターもキーボードもなかなかの上級者で、一概にB級バンドという枠では括りきれない良さを持っている。
 ちなみにギタリストのリッキー・ガードナーはのちにデヴィッド・ボウイのアルバム「ロウ」やイギー・ポップの「ラスト・フォー・ライフ」に参加しているし、キーボーディストのアラン・パークは、クリフ・リチャードの音楽ディレクターを務めている。

 彼らはヴァーティゴ・レーベルからは最初の4枚のアルバムを発表して、のちにドイツのジュピター・レーベルからアルバムを発表した。その頃の彼らはメンバー・チェンジを繰り返していて、オリジナルの頃とはかなり音楽性が変わっているようだ。

 ともかく、プレグレのようなポップ・ロック・バンドのような、中途半端ながらも演奏技術の高いバンドだった。彼らのようなバンドが当時の音楽シーンを活性化させながら、発展させていったのだろう。音楽性といい、ジャケットの奇抜さといい、今でも語り草になっているバンドのひとつである。

【追記】
 東北地方に大災害が起きて1週間がたった。天災は如何ともしがたいが、亡くなられた方々や被災された方たちに、お悔やみを申し上げるとともに、同じ日本人として何かできることをしようと思っている。自分のできることを模索しながら、とりあえずつまらないブログを書いている。ともかく被災地の一日も早い復興を願っている。

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2011年3月14日 (月)

T2

 この項は、一応プログレッシヴ・ロックにカテゴライズされてはいるものの、その“プログレッシヴ・ロック”と“ハードなロック”の境界線上に位置するバンドの第4弾である。

 それで今回は3人組のバンドT2と彼らが1970年に発表した「イットル・オール・ワーク・イン・ブームランド」について紹介したいのだが、このT2というバンド名がどういう意味を表すのか、よくわからなかった。

 ただその音楽性については、まさにプログレッシヴ・ロックとハード・ロックの融合状態といえるものである。
 ハード・ロックの世界で、しかも1970年という時代背景を考えると、3人組とくればすぐに思い浮かぶバンドがある。クラプトン、ベイカー、ブルースの3人、つまりクリームである。

 基本的にこのT2もクリームによく似ている。確かにサイケデリックな部分やブルーズに影響されているところ、高いレベルの演奏技量など、この時代のロック・バンドの最高峰に位置していたクリームの影響を感じ取ってしまう。
 ただ、1970年代以降に結成されたハード・ロック・バンドでクリームの影響を受けなかったバンドがそんなにいるとは思えない。むしろ数少ないであろう。

 メンバーは、ドラムス&ボーカルがピーター・ダントン、ベースがバーナード・ジンクス、ギター&キーボードがキース・クロスだった。
 もともとはリズム隊のピーターとバーナードが同じ4人組のバンドで活動していた。それには後にガンというバンドを結成するエイドリアン・ガーヴィッツも在籍していたのだが、1969年にはピーターもガンに参加している。

 当時バーナード(バーニー)は、ブルドッグ・ブリードというバンドにいたのだが、そこにはギタリストとしてキースも活動をともにしていたが、結局、ピーターがガンを抜けて、バーニーとキースでT2を結成したのである。

 彼らは1970年に行われたワイト島フェスティバルにも出演したらしいが、記録映画「ワイト島フェスティバル」では見た覚えはない。マイナーな新人バンドだったからカットされたのだろうか。Photo

 ともかく、彼らは1970年にアルバム「イットル・オール・ワーク・イン・ブームランド」をデッカ・レーベルから発表した。

 曲数はたった4曲であり、なかには21分を超える"Morning"という曲も含まれている。この曲などまさにクリームのスタジオ・ライヴ盤のような感じで、キース・クロスというギタリストはもっと評価されてもいいのではないかと思った。
 とにかく静かなアコースティック・ギターからの叙情的雰囲気が徐々に熱を帯び、攻撃的なギター・フレーズが宙を舞う様は、キースの独壇場でもあるのだ。惜しむらくはもう少し耳に残るようなフレーズや速弾きがあればいうことはないのだが、その点が心残りである。

It'll All Work Out in Boomland Music It'll All Work Out in Boomland

アーティスト:T2
販売元:Lion Prod. Canada
発売日:2009/06/02
Amazon.co.jpで詳細を確認する

 アルバムの冒頭は"In Circles"で始まるのだが、これがスピードがあって、超カッコいいのである。手数の多いドラムやそれを支えるベース、起伏の激しいギターが渾然一体となって疾走している感じだ。この曲が冒頭に来たおかげで、このアルバムを最後まで聴いてみようという気になった。8分以上もある曲なのだが、長さを感じさせないところが素晴らしい。

 続く"J.L.T."は一転して穏やかな曲になる。ギターはアコースティックのみが使用されていて、激しい電気音は聞かれない。逆に、ピアノや後半ではメロトロンまで使われていて、この辺はプログレッシブ・ロックの影響が感じられる。ひょっとしたら、プログレよりも彼らの感覚では、サイケデリックな音楽の領域に入るのかもしれない。途中の手数の多いドラミングと意外とマッチしているという不思議な曲でもある。

 "No More White Horses"も8分30秒以上ある曲で、形式的にはT2流のバラードといえるような曲。もちろんバックにはエレクトリック・ギターやピアノ、パワフルなドラムス、はてはブラス・サウンドまで加わっていて、けっこう賑やかである。最後は渦潮が一点に集約されるかのように、混沌となりながらも収束されていく。

 このアルバムの帯には“キーボード・ファン必聴の作品”とあるのだが、これは間違いで正確には“全プログレ・ファン、全ハード・ロック・ファン必聴の作品”とあらねばならない。キーボードは味付け程度であって、やはりロックの最低構成メンバーであるギター、ベース、ドラムのトリオ演奏が中心だからである。

 しかし、それだけの誤解を与えるほど、彼らの音楽性は幅広かったということだろう。やはりロックは、その時々の時代性と深く結びついているのであろう。

 蛇足だが、彼らはこのアルバム発表後、メンバー間の軋轢から2枚目のアルバム制作途中の1972年に解散したが、1992年に再結成され、数枚のアルバムを発表している。ただし、ギタリストはキースではない。
 また、オリジナル・メンバーが途中まで制作していたアルバムは、再録されて1997年に「ファンタジー」(一般的には「T2」と呼ばれている)というタイトルで発表されている。この時にはピーターしかオリジナル・メンバーでは残っていなかった。

 ともかくT2ほどプログレッシヴ・ロックとハード・ロックの境界線上にあるバンドはないように思えるのだが、どうだろうか。

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2011年3月10日 (木)

スティル・ライフ

 60年代末から70年代の初めにかけてのイギリス・ロック・シーンでは、雨後の筍のように様々なバンドが現れては消えていったと思われる。
 実際に見聞したわけではないので、よくわからないのだが、例えば70年代半ばに興ったパンク&ニュー・ウェーヴ・シーンのようなものだと勝手に考えている。

 だから60's~70'sの新進バンドで、革新的な音楽性や新奇なアイデアを表現していたバンドは、ひと括りにされて“プログレッシヴ・ロック”と呼称されていたのだと思う。

 今回もその“プログレッシヴ・ロック”と“ハード”なロックの間に位置するようなバンドを紹介したいと思う。その名をスティル・ライフという4人組である。

 彼らも新興レーベルのヴァーティゴから1971年にアルバム「スティル・ライフ」を発表している。新しい時代にはそれにふさわしい新しいものが流行るものだが、このヴァーティゴ・レーベルから発表されたアルバムやバンドなどは、いずれも何らかの革新性を備えている。そういう意図で立ち上げられたレーベルなのであろう。

 このアルバムに触れる前に、この4人組のバンドは匿名性というか秘密のベールに覆われていて、メンバーの素性や名前、結成までの道のりなど一切が不明だった。
 アルバム・ジャケットも髑髏に花びらという対照的なものでデザインされていたし、内ジャケットにメンバーの写真はあるものの、曲名と作曲者などのクレジットしかなく、全く情報が不足していたのである。

Still Life Music Still Life

アーティスト:Still Life
販売元:Repertoire
発売日:2007/01/30
Amazon.co.jpで詳細を確認する

 ところが2002年になって、前年にアルバムが再発されたせいか、メンバーの名前と担当楽器などがやっと判明した。それによると…
 マーティン・キュア…ボーカル
 テリー・ハウェルズ…キーボード
 グラハム・エイモス…ベース
 アラン・サヴェイジ…ドラムス
ということになるらしい。それにしても30年以上たって、やっとメンバーの名前がわかるバンドというのも珍しい。これも当初からの意図があったのだろうか。

 この最初で最後のアルバムには6曲収められていて、いずれもハモンド・オルガンがメインで、楽曲を引っ張っている。またプログレッシヴ・ロックというよりは、ハードなR&Bのようで、自分が聞く限りは、ボーカルが黒っぽい。だからときどきプロコル・ハルムやヴァン・モリソンを想起させるのである。

 またメロディやリズムにもあまり無理がなく、無理に延ばして演奏しているところはあるものの、妙にひねくり回して作った楽曲という感じはしない。かわりに自分の感情からそのままストレートに浮かび上がった旋律を曲にしたという感じがする。
 確かにキーボードは、激しく動き回っているところがあり、ストラングラーズのデイヴ・グリーンフィールドのようだった。あるいはディープ・パープルのジョン・ロード風か。けっこう手数も多く技巧派なのである。

 曲のほとんどは、キーボード担当のハウェルズが作っていて、ときどき、マーティンやグラハムが手伝うといった様子である。
 1曲目の"People in Black"を聞けば、このアルバムのだいたいの傾向がわかると思う。最初はフルートの音色で始まるので、ひょっとしたらジェスロ・タル?と思ってしまったのだが、やがてはハモンド・オルガンが鳴り響き、最後までリードしていくのである。

 続く"Don't Go"はスローなバラード風で、それこそプロコル・ハルムの“青い影”を思い出させてくれるような叙情的な曲。ボーカルはソウルフルでR&Bっぽいし、バック・コーラスもそれっぽい。かなりゴスペルやブラック・ミュージックに影響を受けていると思われる。個人的にはアルバムの中で一番聞きやすく、気に入った曲でもある。途中から転調し、穏やかな雰囲気になるところがすばらしい。

 "October Witches"はサビの部分が60年代していて、ポップで耳に残るメロディ・ラインである。途中のオルガン・ソロはそんなに目立たないのに長く引っ張っているところがこの時代背景にマッチしている。もう少し曲全体としてコンパクトにまとめれば、もっといい曲になったと思う。これで8分は長すぎるし、特にエンディングは、くど過ぎる。

 "Love Song No.6(I'll Never Love You Girl)"はラヴ・ソングといいながら、失恋ソングのようである。この曲では、ハモンド・オルガンとともにベースの刻み方や手数の多いドラムも楽しむことができる。演奏陣はけっこう手馴れたミュージシャンたちだと思われる。
 ただ曲自体は無理に盛り上げようとしている感がある。この曲ももう少しコンパクトにまとめてもいいと思った。

 アルバムの中で一番の大作は5曲目の"Dreams"だろう。確かにオルガンやピアノのキーボード主体の曲であるが、静と動のバランスが見事で、ユーライア・ヒープ的なコーラスも面白い。
 これも8分近い曲であるが、間延びせずに最後まで聞かせてくれる。やはり途中のオルガンのソロが上昇、下降とスピーディで疾走感があるからだと思う。またさり気なく挿入されるピアノもなかなかである。こういう曲を聞くと、彼らはプログレッシヴ・ロックに分類されてもおかしくないということがわかる。

 最後の曲"Time"も長い曲なのだが、これもところどころに少しだけ顔を出す60年代風メロディが懐かしさを含んでいる。
 ただ曲全体を通して聞くと、そんなにいい曲でもない。やはり無理に6分以上に延ばしたという感じがする。要するに楽曲的に少なかったので、アルバムの構成上、曲が足りない分、時間で長くしたという感じなのである。これもこの時代の特徴なのかもしれない。 

 全体的に曲構成は巧みなのだが、無理に曲を延ばしているようなところもあり、聞いていてつらいところもあった。自分としては、2曲目、3曲目、5曲目あたりがよかった。本来ならまた次作を期待ということになるのだろうが、残念ながら彼らはこのアルバムしか残さなかった。やはり商業性に期待できなかったのだろうか。それともレーベルの決定だったのだろうか。

 この4人組もまたその特異なジャケット・デザインと音楽性とをいかして、ロックの歴史の中に名を残すことのできた人たちだった。当時はこのようなバンドがごまんといたのだろう。まさに音楽的にダイナミックな時代であり、人々は混沌の中にも希望を見出していたに違いない。本当に“歌は世につれ、世は歌につれ”なのである。

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2011年3月 6日 (日)

ドクター・Z

 “ハード”なロックと“プログレッシヴ・ロック”の境界線上にあるバンドの紹介の第2弾である。今回もヴァーティゴ・レーベルから発表されたアルバムを紹介したい。

 ドクター・Zというバンドが、1971年に「スリー・パーツ・トゥ・マイ・ソウル」を世に出したのだが、残念ながら彼らはこの1枚を残したまま、その後は音楽業界から消えてしまった。

 結局、売れなかったから、あるいは知名度が上がらなかったからということになるのだろう。ひょっとしたらバンドの中で諍いなどもあったのかもしれない。

 彼らはキーボード、ドラムス、ベースという3人組だったから、たぶんザ・ナイスやE,L&P、アフロディーテ・チャイルドなどを目標においていたのではないだろうか。

 リーダーは、キーボード担当のキース・リーズという人で、彼は音楽の博士号を授与されるくらい優秀だった。またドラムスのボブ・ワトキンスは、11歳からドラムスを学び、大学を卒業してからも、ポップ・ミュージックからオーケストラまで幅広く経験を積み、技を磨いていたらしい。
 そしてベース担当のロブ・ワトソンも理系の大学を優秀な成績で卒業していて、彼らは1969年にドクター・Zとしてバンドを結成した。

 最初は4人組でシングル"Lady Ladybird"を発表するものの、残念ながらヒットしなかった。それでメンバーが一人脱退したあとは、心機一転、3人で彼らは1971年にアルバムを発表したのである。Z_2

 音楽面でユニークなのは、ピアノやオルガンよりもハープシコードが多用されている点である。たぶんこれはキースの趣味だと思われる。他のキーボード主体のバンドとの差異を図るという意味合いもあったと思う。
 またドラムスが結構気ぜわしく叩かれている。まるで和太鼓のようであるが、それがまた呪術的というか、幻想的というか、彼らの持つ独特な猥雑性に拍車をかけている。

 特に11分36秒もある"Spiritus, Manes et Umbra"(スピリタス、マネスとアンブラ)では、そんな彼らの特長がよく表れていて、メロディは60年代風のビート・バンドのようであり、手数の多いドラムは、カール・パーマーに対抗しているかのように勢いがある。アルバムの中で一番印象に残る曲である。
 ちなみに“Spiritus”は“本来の人間が持つ良心”、“Manes”が“その下に潜む情け深い心”、“Umbra”は“存在を拒絶された暗黒の魂”を意味するようで、この3つが統合されたものが“魂”ということらしい。アルバム・タイトルもこのことを指していると思われる。
 こんな小難しいことをいうから売れなかったのだろう。やはり彼らはインテリ集団過ぎたのかもしれない。

 そして3分少々という短い"Burn in Anger"や"Too Well Satisfied"では、ポップなメロディを無理やりくっつけてひとつの楽曲にした感じがして、聞いていて違和感が残った。もう少し素直に作って、その中で各人のテクニックを披露していけば、もう2,3枚くらいはアルバムを作れたのではないだろうか。

 後半につれてピアノを演奏する比率が増えていくのだが、最後の曲(6曲しか収められていない!)"In a Token of Despair"では、静かなマイナー調のピアノ演奏から始まり、感傷的な雰囲気で始終まとまっている。もう少しコーラスやストリングスがかぶさるとか、メロトロンが滝のように多い尽くすとか、工夫があればもっとドラマティックになったのではないかと、思ったりもした。
 この曲も、最後はピアノ・ソロにベース・ソロが絡みあい、それをドカドカ走り回るドラムスが支えていくという構図なのである。

 曲の作りは普通なのだが、こじつけ、無理強いという印象が強くて、プログレ度となると中途半端でマイナスになってしまう。何か盛り上げ方が違うような気がした。

 逆にボーナス・トラックの2曲が新鮮に聞こえてしまう。これは1969年まだ4人組のときに発表されたシングルである。"Lady Ladybird"はポップなメロディと勢いのあるリズム、キース・エマーソンばりのピアノ演奏がカッコいい。無理にプログレに走らずに、この路線でいけばもっと売れたと思う。

 もう1曲の"People in the Street"もキースのピアノが目立つ曲で、この曲もフレッシュでいかにも60年代の時代の持つ匂いというか、息吹みたいなものを放出していて、けっこう面白いのである。例えていうなら"Go Now"を歌っていたムーディ・ブルースのような感じで、ピアノだけが目立つムーディ・ブルースといえばわかりやすいと思う。

 だから本編の6曲の方はダークで、混沌とした雰囲気を醸し出していて、逆に2曲のボーナス・トラックの方は、明るく、さわやかで、スーツを着て歌う新人バンドのようなのだ。このギャップがはまれば、何回も聞こうと思うようになるだろう。しかし、はまらなければ2,3回聞いて終わりになるだろう。

 一方で音楽面だけでなく、ジャケットが観音開きだったということでも、彼らはユニークであった。当時はこういうジャケットが流行っていたのだろうか。確かに耳目を集めるといった点では、効果的だったかもしれないが、それだけでそんなに安くもないアルバムを購入する人は、少ないような気がする。観音開きといえば、E,L&Pの「恐怖の頭脳改革」の方が印象的だった。H.R.ギーガーの描くデザインは、かなりインパクトがあったと思う。

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 彼らは音楽の形態や形式からいえば、プログレッシヴ・ロックに分類されるのだろうが、やはり60年代末から70年代初めにかけての混沌とした時代の空気を確実に反映しているバンドのひとつといえるだろう。

 当時は星の数ほど新しいバンドが生まれては消えていった。その中で今でも再発売される当時のアルバムには、ジャケット・デザインも含めて、何らかの際立った特長があると思うのである。

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2011年3月 2日 (水)

グレイヴィー・トレイン

 昔から思っていたのだが、プログレッシヴ・ロックとそれ以外のロック・ミュージックの線引きをどこでするかというのは、意外と難しいのではないだろうか。

 確かにイエスやキング・クリムゾンなどは、長尺な曲や電子楽器の使用、観念的な詞やテクニカルな演奏技能など、いくつかの特徴は備えているからわかりやすい。まさに典型的なプログレッシヴ・ロック・バンドである。

 しかし、それはある程度プログレ自体が淘汰され、時代が経ったあとだから、わかりやすいのである。つまりプログレとしての様式が定まり、形式を備えているからそう認知されているのであり、逆にいえば、時間の経過とともに形式化、パターン化してきた結果といってもいいだろう。

 おそらく当時の人からみれば、次から次へと音楽的なイノヴェーションが興っていたのだから、新しく出てきたバンドはいずれも何らかの面で、プログレッシヴなバンドに思えたに違いない。

 事実、「Prog Rock at the BBC」というイギリスのBBC放送で放映されたプログレッシヴ・ロックの番組を見たのだが、そこにはキース・エマーソンやピーター・ガブリエルのいたザ・ナイスやジェネシスとともに、何とまあウィッシュボーン・アッシュのビデオ・クリップも流されていた。今でこそ彼らはブリティッシュ・ロック伝統のツイン・リード・ギター・バンドとして有名であるが、70年代初頭のイギリスでは文字とおりプログレッシヴ(進歩的な)バンドとして扱われていたのである。

 今回は、そういうプログレッシヴ・ロックとブリティッシュ・ロックの境界線上のようなバンドを紹介することにした。1969年にマンチェスターで結成されたバンド、グレイヴィー・トレインについてである。

 彼らのデビューは1970年で、4人組だった。彼らの最大の特徴は、アヴァンギャルドで重いブルーズ系のサウンドとJ.D.ヒューズという人の演奏するフルートやサックスだった。

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 ロックにフルートといえばジェスロ・タルのイアン・アンダーソンが頭に浮かぶのだが、アルバム冒頭の曲"The New One"のイントロは、まさにジェスロ・タルの名曲"The Witch's Promise"を想起させるような雰囲気をたずさえている。

 また"Dedication to Sid"はブルーズというよりはジャズっぽい雰囲気をもっている曲で、途中で一旦フェイド・アウトしながらもまたフェイド・インして曲をつなぐという奇妙な形式をもっている。
 ギタリストのノーマン・バレットという人は、イギリスのミュージシャン、スクリーミング・ロード・サッチのバンド“ヘヴィ・フレンズ”も参加したハリウッドのフェスティバルで、バンドのギタリスト、あのジミー・ペイジの代わりに演奏したという経験を持つ人物だった。

 確かにジミー・ペイジの代役が務まるほどの演奏技量は持っているようで、なかなか渋いギター・プレイを聞かせてくれる。ただもう少し音がクリアだということないのに…残念!
 その彼のギターがリードを取るのが"Think of Life"である。この曲はアルバムで一番聞きやすいメロディを備えていて、シングルカットされてもおかしくない気がする。

 そして一番の聞かせどころは、最後の曲"Earl of Pocket Nook"だろう。何しろこの曲16分11秒もあり、まるでアシッド・ロックというか、フリー・フォームでギターとフルートが掛け合いを延々と続けている曲なのである。いかにも60年代末から70年代初めにかけての混沌とした時代背景や、拡散しつつある価値観などが伝わってきそうである。 

 とにかく全編にわたって、ブリティッシュふうの陰鬱で湿りのある音が広がっている。メインはフルートで、それに絡みつくようにファズのかかったギターと一部エフェクト処理されたボーカルが拍車をかけるように響き渡っている。擬音語で表すと、“ぐにゃぐにゃ”、“どろどろ”といったところであろうか。
 ところでアルバムのプロデューサーは、のちにDJとしてもU.K.を代表するまでになったジョン・ピールだった。当時はこんなこともしていたのである。ビックリしてしまった。

 彼らはヴァーティゴ・レーベルから2枚のアルバムを発表した後、レーベルをドーンに移籍してさらに2枚のアルバムを発表し、1974年に解散した。
 ヴァーティゴの2枚目「ア・バラッド・オブ・ア・ピースフル・マン」はオーケストラを導入したシンフォニックな内容になっているし、ドーンに移ってからの1枚目「セカンド・バース」は5人目のリード・ギタリストが加入して、ハード・ロック・サイドにシフトしている。

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 自分は日本編集盤の「ドーン・イヤーズ」というのを持っているのだが、ハード・ロック寄りの彼らの音は大好きである。"Peter"という曲で、ギターの音に、サックスの音がかぶさってくるところが結構スリリングなのである。
 また、"September Morning News"はアコースティック・ギターをメインにしたフォーキィーな曲で、途中のフルートが牧歌的な雰囲気を醸し出している。

 このアルバムは彼らの3枚目と4枚目をカップリングしたもので、「セカンド・バース」から7曲、ラスト・アルバムの「ステアケース・トゥ・ザ・ディ」(邦題;“暗黒の世界へ”)から5曲収められている。アルバム・ジャケットは「ステアケース・トゥ・ザ・ディ」と同じという点が面白い。ほかにジャケットになりそうな写真や資料が少なかったのだろう。蛇足だが、ジャケット・デザインは、ロジャー・ディーンが手がけている。

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 ドーンではもっと売れるようなアルバム作りを勧められたのか、1stアルバムよりも聞きやすく、メロディラインもはっきりした曲が多い。擬音語で表すと、“すっきり”、“くっきり”といった感じだろうか。
 でもジェスロ・タルをどうしても思い出してしまうのは、どういうわけだろう。やはりフルート音が似ているせいだろうか。

 後半は音楽性も広がり、ヒットも期待できそうな音作りになったのだが、やはりプログレともハード・ロックともつかぬ音楽性が災いしたのだろう。彼らは解散してしまった。ギター&ボーカルのノーマン・バレットはマンダラ・バンドの一員として2ndアルバムに参加したほか、1980年代には自身のバンドを結成して、アルバムを発表したようだが、その後は音沙汰がない。

 聞きやすさという点では、2枚目、3枚目のアルバムの方が断然よいし、初めて彼らを耳にするという人にはお薦めである。でも彼らの本質は、やはり1stアルバムにあると思う。“混沌”や“混乱”、“混迷”というこの時代の空気を表す言葉とともに、このアルバムはきっと、これからも繰り返し再発されるアルバムの中の1枚に違いないからだ。

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