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2011年4月

2011年4月30日 (土)

フェアポート・コンヴェンション

 フェアポート・コンヴェンション(以下略してFCとする)の音楽については、正直言ってよくわからなかった。今までのメロウ・キャンドルやペンタングルなどは、聞いていて、ああいいなあとか、ちょっとイマイチかな、などと思ったりしたのだが、FCのアルバムを聞いて、そういう感情まで出てこなかったのである。

 ただ1969年のアルバムを、21世紀の今現在聞いても、違和感は無い。それだけタイムレスというか、時代を超えた普遍的な音楽というか、末永く愛される音楽という証明にはなるだろう。それだけの魅力を秘めているということは、いくらおバカな私でもわかるというものである。

 FCは1967年に結成され、68年に1stアルバムを発表した。そして翌年には1年間で3枚のアルバムを発表している。いくら当時はインスタントなアルバム作りが行われていたにしろ、1年間に3枚とは多すぎる。彼らの創作意欲や能力が一番高かったときだったのだろう。

 ベーシストのアシュリー・ハッチングスとギタリストのサイモン・ニコルが中心となって結成されたのだが、これにもう一人のギタリスト、リチャード・トンプソンが加わり、さらに1968年に女性シンガーのジュディ・ダイブルに代わって、サンディ・デニーが参加したところから、彼らは一躍イギリスを代表するフォーク/トラッド・ミュージック・バンドになったのである。

 彼らの黄金時代といわれるのは、ちょうどこの頃(1968-1970)であり、アルバムでいうと「アンハーフブリッキング」から「フル・ハウス」にあたる。

 自分は最初に名盤といわれている「リージ&リーフ」を聞いたのだが、これがよくわからなかった。覚えやすいメロディがあるわけではなく、印象的なギターのリフがあるわけでもない。だから数回聞いて彼らのことは忘れてしまった。

リージ・アンド・リーフ+2 Music リージ・アンド・リーフ+2

アーティスト:フェアポート・コンヴェンション
販売元:USMジャパン
発売日:2010/11/24
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 いまから考えれば、彼らはプログレッシヴなフォーク・ロック・バンドだったと思っている。たとえば初期のジェファーソン・エアプレインがサイケデリックなフォーク/ブルーズ・バンドから始まったように、FCも単なるフォーク・バンドではなかったのである。

 このアルバムには8分を超える"Matty Groves"や7分以上の"Tam Lin"が収められていて、これはもうプログレの世界である。使用楽器も普通のロック・バンド編成にバイオリンやビオラが使用されていて、日常の世界から、古式豊かで陰影の深いトラッドの異界へと誘ってくれるのだ。

 だからプログレと思って聞けばよかったのである。そう思って聞くと、これはなかなか気持ちよい。演奏は初期のカンタベリー系に近いものがある。踊れるカンタベリー・ミュージックというべきか。
 中世のイギリスやアイルランドではこういう音楽で祭りの日や祝い事などに歌い、踊っていたのだろう。トラッド・ミュージックとは民謡なのである。

 まずサンディ・デニーの歌声が素晴らしい。イギリスのフォーク・バンドには女性が多いのだが、サンディの歌声はバックの演奏とマッチしていて、なおかつ自己主張できている。"Farewell, Farewell"の歌声は心に染み入る。前曲がリズミックでダンサンブルな曲だったので、よりいっそう印象的なのである。
 次に、デイヴ・スウォーブリックの演奏するバイオリンが宙を舞っている。まるでエディ・ジョブソンのようで、カッコいい。
 そしてリチャード・トンプソンのギターとデイヴのバイオリンが絶妙のハーモニーを奏でている。特に"Matty Groves"ではそれが際立っていて、聞いていて飽きない。

 このアルバムではドラマーがマーティン・ランブルからデイヴ・マタックスに代わっている。マーティンが交通事故で亡くなったからである。デイヴ・マタックスはイギリスの至宝と呼ばれている?ジェスロ・タルのツアーやアルバム制作にのちに携わっているが、FCのメンバーとジェスロ・タルの親交は深くて、他にもベーシストのデイヴ・ペグやドラマーのジェリー・コーンウェイなどがいる。そう考えるとジェスロ・タルもまたトラッド・ミュージックの要素を含む幅広い音楽性を備えたすばらしいバンドといえるだろう!(なにぶんジェスロ・タルのファンなので、すいません)

 またこのアルバムを最後に女性シンガーのサンディ・デニーとベーシストのアシュリー・ハッチングスがバンドを去っていった。サンディはフォーゼリンゲイを、アシュリーはスティーライ・スパンをそれぞれ結成した。当然のことながら2つのバンドともフォーク・ロック・バンドである。

 ちなみにサンディ・デニーは1971年のレッド・ゼッペリンの歴史的名盤「Ⅳ」の"限りなき戦い"でロバート・プラントとデュエットしているが、ゼッペリンの歴史の中で唯一のゲスト・シンガーだった。
 彼女は1978年に階段からの墜落事故が原因で亡くなっている。まだ31歳という若さだった。明らかにイギリス音楽シーンにとっての悲劇。まだまだこれからというときだっただけに残念でならない。

 今回あらためて聞いて、彼らのことをプログレッシヴ・フォーク・ロック・バンドと認識したところから、彼らの素晴らしさを理解できたように思う。
 続いて時代を遡るように「アンハーフブリッキング」を聞いたのだが、これもまたプログレッシヴ・フォーク・ロック・バンドと考えれば、なかなかよい。何しろ11分を超える"A Sailor's Life"という曲もあるし、ボブ・ディランやロジャー・マッギンの曲を彼ら流に解釈し、展開しているものもある。

アンハーフブリッキング+2 Music アンハーフブリッキング+2

アーティスト:フェアポート・コンヴェンション
販売元:USMジャパン
発売日:2010/11/24
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 個人的には「リージ&リーフ」の方が好きなのだが、「アンハーフブリッキング」でサンディが初参加したせいか、彼女の歌声が強調されているように聞こえる。
 "A Sailor's Song"では後半のバイオリンとギターのアンサンブルがすばらしいし、"Cajun Woman"ではフィドルやマンドリンも使用されていて、いかにもアメリカ南部に影響されたような雰囲気がある。

 リチャードが作曲した"Genesis Hall"はワルツ風の曲で、彼自身はダルシマーという中世の楽器を演奏している。

 またサンディが作った"Who Knows Where the Time Goes?"もまた彼女の美声が強調されているバラッド風の曲である。彼女は力強く歌うこともできるし、この歌のようにしっとりと歌い上げることもできる。確かに実力派シンガーであり、自分のバンドを持とうとしたのも正しかったように思う。

 前回のペンタングルでは初期はアコースティック・ギターが主で、のちにエレクトリックも使用されるようになったのだが、FCは最初からエレクトリック・ギターが使用されている。またこのアルバムでは5人組ったが、次の「リージ&リーフ」からはデイヴ・スウォーブリックが正式メンバーとして参加している。

 とにかくこの手の音楽が苦手な人は、先入観があるからではないかと思う。自分自身もそうだったし、意識を変えてプログレッシヴなフォーク・ロックと思って何度も聞き込んでいけば、気に入ると思っている。

 たとえ気に入らなくても、中世の昔から現在に至るまで時代を経て聞かれ続けられている音楽である。ある意味、ロック・ミュージックの中では一番長い歴史を有しているともいえるかもしれない。
 それだけの魅力というか音楽性は間違いなく蔵しているのである。目を閉じて、耳を澄ませば、きっと深い深い神秘の森の中にいる自分を見つけるのは、間違いないだろう。

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2011年4月26日 (火)

ペンタングル

 自分は普段はあまりトラッド・ミュージックをあまり聞かないのだが、最近はどうもそっちの方向に引きずられているようだ。

 それにしても不思議に思うのは、アメリカではフォーク・ミュージックとは言ってもトラッド・ミュージックとは言わない。やっている音楽は似ているところがあるのだけれど、言い方が違う。“トラッド”とは文字通り“トラディショナル”のことだから、いわゆる伝統や文化という背景がある音楽なのだろう。

 別にアメリカには伝統や文化が無いとは言わないが、イギリスのトラッド・ミュージックはフォーク・ミュージック的なところも含みながら、それ以外に、アイルランド音楽や古代ケルティック音楽の影響を受けている。だからトラッド・ミュージックと呼ぶのだろう。
 そして使用楽器もアコースティック・ギターが中心でありながら、それ以外の楽器も使用して音楽を形作っている。それがアメリカのフォーク・ミュージックとイギリスのトラッド・ミュージックの違いになっているのだろう。

 イギリスにペンタングルというバンドがあるのだが、このバンドもまたトラッド・ミュージックを支え、発展させてきた意義深いバンドだった。
 それにこのペンタングルには、スーパー・ギタリストが2人もいるのだ。一人はバート・ヤンシュ、もう一人はジョン・レンボーンといった。
  評論家に言わせれば、バートよりもジョンの方が技巧に長けているようなのだが、自分にはよくわからないし、アルバムを聞く限りにおいては特に気にする必要もないと思う。

 彼らは2人ともソロ・アルバムを発表するほどの才能豊かなギタリストなのだが、彼ら2人と女性シンガーのジャッキー・マクシー、ベーシストのダニー・トンプソン、ドラマーのテリー・コックスの5人で、1967年に結成されたのがペンタングルだった。

 今から考えれば、このバンドはいわゆるスーパー・バンドだったと思っている。ギタリストだけでなく、リズム・セクションも女性ボーカルも当時では群を抜くほどの技量を備えていたからだ。また1973年に解散をするまで、一度もメンバー・チェンジをしていないほどの結束の強さを誇っていた。(イギリスにはザ・ビートルズやレッド・ゼッペリンなどメンバー・チェンジをしなかったバンドが少なからずある。こういう点でもアメリカとは違う気質を備えているのだろうか)

 彼らは1968年に最初のアルバムを発表したのだが、これは個人的に名盤だと思っている。彼らの魅力が満載のアルバムだからである。

ペンタングル+10 Music ペンタングル+10

アーティスト:ペンタングル
販売元:USMジャパン
発売日:2010/11/24
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 彼らの魅力というのは、最初に述べたようにトラッド・ミュージックなのだが、単なるトラッドではなく、それにジャズやブルーズの影響を受けている音楽なのである。だからときにフォーキィで、時にジャジーなのだ。

 そんな彼らの魅力がさらに発揮されているのが、セカンド・アルバムの「スウィート・チャイルド」である。このアルバムもまた1968年に発表されていて、しかも2枚組でもある。

スウィート・チャイルド+11 Music スウィート・チャイルド+11

アーティスト:ペンタングル
販売元:USMジャパン
発売日:2010/11/24
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 1枚はデビュー直後のライヴ演奏を収めたもので、もう1枚はスタジオ録音になっている。現在のCDではボーナストラックを入れてライブが19曲、スタジオ録音が14曲の合計33曲というヴォリュームになっている。しかも2400円なのだから、これはマスト・バイではないかと勝手に思っている。

 とにかく彼らはデビュー直後の創作意欲は素晴らしく高くて、こういう内容の濃いアルバムを次から次へと発表していった。

 自分は彼らのアルバムを3枚しか持っていないのだが、もう1枚が初期の傑作といわれている「バスケット・オブ・ライト」である。
 このアルバムでは緊張感ある演奏と清涼感のある女性ボーカルが絶妙にマッチしていて、あっという間に1枚のアルバムを聞き終えてしまうのである。

Basket of Light Music Basket of Light

アーティスト:Pentangle
販売元:Ume Imports
発売日:2008/11/18
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 正直言って、2枚目の「スウィート・チャイルド」はあまりのヴォリュームに圧倒されてしまうのだが、このアルバムは聞きやすく、また耳に残りやすい。
 相変わらずギター・アンサンブルはお見事に尽きるのだが、それ以外にもリズム・セクションの正確さやシタールやバンジョーを使用した曲など、音楽性も相変わらず豊かである。

 タイトルにもあるように、“光の籠”のような、しかも柔らかな光で包み込まれている籠のようなイメージを抱かせる楽曲で占めている。ちょうどアルバム・ジャケットの写真のような感じなのだ。

 それにあらためて女性シンガーのジャッキーの歌の上手さに感動した。最初の2枚のアルバムはジャッキーのボーカルも見事だけれども、バックの演奏者のソロも聞かせるという趣向があからさまな所もあって、演奏の方に比重が置かれているところが多かった。

 ところがこのアルバムでは、インスト部分とボーカル部分のバランスが非常にうまく図られていて、そういう意味でもこのアルバムが商業的にも成功を収めたということがよく理解できるのである。
 だから商業性と芸術性が絶妙なバランスのもとに成立したアルバムがこのアルバムだった。

 彼らはこのあともアルバムを発表するのだが、アコースティックな音楽からエレクトリックな音楽へと変遷し、それが原因のひとつになったのであろうか、バート・ヤンシュが脱退し、彼らは1973年に解散してしまった。

 その後、ジャッキーやバートを中心に活動は続けられるも、それはもうペンタングルとは無縁のバンドであった。ただ2008年にはオリジナル・メンバーで記念コンサートを行ったが、和気藹々としたムードだったそうである。

 ともかく、トラッド・ミュージックの域を超えていたバンドであった。それはバート・ヤンシュとジョン・レンボーンの2人だけでなく、5人のメンバーが互いの能力を充分に発揮して、豊かな音楽を創り出したからである。彼らは、いまだにイギリスのトラッド・ミュージック界に燦然と輝く5人組なのである。

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2011年4月22日 (金)

ジョン・マーティン

「君はずっと深みにはまっていて
純粋な空気を吸って生きている
君はずっと眠りを失っていながら
確かなメロディを通して動いている」
(訳プロフェッサー・ケイ)

 これはニック・ドレイクのことを歌った"Solid Air"という曲なのだが、この"Air"には“空気”という意味と“メロディ”という意味があるというのをこのとき初めて知ってビックリした。ちなみに歌っているのはイギリスのフォーク・シンガーであるジョン・マーティンだった。

 この歌は、彼ジョンと生前親しくしていたニック・ドレイクのことを歌ったものである。同じレコード会社やプロデューサーが担当だったということもあって交流があったのだろう。

 自分がジョン・マーティンのことを知ったのは80年代に入ってからで、そのとき彼はアイランド・レコードを離れ、ワーナー・ミュージックに移籍して活動していた。そのときのアルバム「隠されし至宝」を聞いたのが初めての出会いだった。

 このアルバムは1982年に発表されたもので、彼のキャリアの中で一番売れたアルバムだといわれていて、全英20位まで上昇している。
 このアルバムのプロデューサーは、ジェネシスのフィル・コリンズで、当時のフィルはエリック・クラプトンのアルバムも担当していて、プロデューサーとしても脂の乗っていた時期だった。

 音的には、やはり当然というか、やっぱりというか、オーヴァー・プロデュースの感がある。

Well Kept Secret Music Well Kept Secret

アーティスト:John Martyn
販売元:Rhino
発売日:2008/08/26
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 もともとジョン・マーティンは、“イギリスのボブ・ディラン”といわれるほどのフォーキィかつトラッドなミュージシャンだった。アイランド・レコード初の白人ミュージシャンとしてデビューし、デビュー時にはフェアポート・コンヴェンションのメンバーなども彼をバックアップしていた。(この点もニック・ドレイクと同じである)

 だからこのアルバムもきっと情緒豊かなトラディショナル・ミュージック、もしくはフォーク・ミュージックで満ちているのだろうと思っていたのだが、あにはからんや、その対極に位置するような音楽だった。例えて言うならば、スティーヴ・ウィンウッドのようなソウルフルなボーカルを味わうことができるポピュラー・ミュージックだったのである。

 予想と違って、少々裏切られた感のあった自分は、それからしばらく彼の音楽から遠ざかっていたのだが、ニック・ドレイクやフェアポート・コンヴェンションを聞くようになってから、もう一度、今度は初期の彼の音楽を聞いてみたいと思って、彼のアイランド・レコード時代のベスト盤を購入してみたのである。きっとピュアで落ち着いた音楽を楽しめるに違いないと思ったからだ。

May You Never: Very Best of Music May You Never: Very Best of

アーティスト:John Martyn
販売元:Island UK
発売日:2009/03/31
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 アルバムはエリック・クラプトンも「スロー・ハンド」でカバーした"May You Never"から始まり、上述の"Solid Air"、"Bless the Weather"の代表曲が目白押しであった。

 でもよく聞くと、やはり普通のフォーク・シンガーとはちょっと違う事に気がつくのである。1973年に発表された"Solid Air"では途中からサックスやキーボードのバック演奏がついてくるのだが、幽玄的というかちょっとブルージィでジャズっぽいのである。
 また"Bless the Weather"でも、やはりどことなく雰囲気が異なっている。要するにこの人は時代が下がるにしたがって、その音楽性を拡大させることに自覚的だったようなのである。

 だからフィル・コリンズと手を組んだり、エリック・クラプトンと交流を持ったりしたのだろう。80年代の終わりにはミュージカル「オズの魔法使い」の挿入曲"Over the Rainbow"も歌っている。何でもやりたいことはやってみたいという意欲に満ちていたのだろう。そういう雑食性という意味では、充分ロックしていると思う。

 ただ残念ながら彼は2009年の1月29日に肺炎で亡くなった。享年60歳。日本ではほとんど報道されなかったが、本国イギリスでは国民的なシンガーらしく、大々的に発表されたという。彼もまた本国と日本と、その温度差の激しいミュージシャンだった。

 ともかくフォーク・ミュージックという範疇にとどまらない、表現意欲旺盛なギタリスト、ミュージシャンだった。ひょっとしたら彼は自分の影をニック・ドレイクの中に見つけていたのかもしれない。どちらも単なるフォーク・ミュージックに収まりきれないほどの才能豊かなミュージシャンだったのである。

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2011年4月18日 (月)

ニック・ドレイク

 ニック・ドレイクというイギリスのフォーク・ミュージシャンの音楽を聞いた。もう15年以上も前のことだが、一度聞いたことがあった。そのときの印象では暗くて、ダークな感じだったように思えたのだが、今回あらためて聞いたら全くそんな事はなかった。どうしてそんなふうに思ったのだろう。

 ニック・ドレイクという名前からくるイメージがそうさせたのだろう。彼は1974年に26歳でクスリの過剰摂取で亡くなっている。クスリといっても俗にいう大麻などのドラッグではなくて、鬱病を抑える本物のくすりのことなのだが、いまだに自殺だったのか、事故だったのかハッキリしていない。

 また彼はデビューが1969年で、そのときはまだケンブリッジ大学の学生だった。つまり活動期間が5年程度で、生前は3枚のアルバムしか発表していなかった。そういう彼の生きざまみたいなものが、彼の作品に暗いという印象を植え付けてしまったのだろう。

 そういうわけで自分は彼のベスト・アルバム「ウェイ・トゥ・ブルー」を手に入れて聞いているのだが、けっこうハマってしまった。

イントロダクション・トゥ・ニック・ドレイク Music イントロダクション・トゥ・ニック・ドレイク

アーティスト:ニック・ドレイク
販売元:USMジャパン
発売日:2008/06/25
Amazon.co.jpで詳細を確認する


 このアルバムには、彼の3枚のオリジナル・アルバムと、未発表テイクなどを収めた死後発表されたアルバム「タイム・オブ・ノー・リプライ」の4枚から16曲選ばれている。

 アルバムは、1stアルバムに収められていた名曲"Cello Song"から始まるのだが、これがまたタイトル通りチェロとアコースティック・ギターとの調和が素晴らしいのである。チェロの響きは物悲しいものがあるのだが、ニックの歌声は淡々としていて、むしろ明るさを感じさせるくらいだと思った。バックに鳴り響くタムタムの乾いた音がそう思わせるのだろうか。

 このベスト・アルバムの曲順は、どういう理由でこう並んでいるのかがよく分からない。選曲は元ニックのプロデューサー、ジョー・ボイドが行っているのだが、1曲目は1stアルバムから、2曲目は2ndアルバムから、3曲目はまた1stアルバムで、4曲目は3rdアルバムからという順番なのである。

 ちなみに1stと2ndからは5曲ずつ、3rdから4曲、「タイム・オブ・ノー・リプライ」からは2曲選ばれていて、ほぼ代表曲は揃えられているようである。

 順番は彼のアルバムの時系列通りにはなっていないのだが、なっていなくても彼の音楽は首尾一貫しているというか、デビュー時から完成されていたということを証明しているかのようで、彼の繊細なボーカルと美しい演奏を楽しむことができる。

 "Poor Boy"などは美しくはじけるピアノ演奏と女性バック・コーラスまで配置されていて、ジャジィーで官能的でさえある。ニックの才能の一端を示すような楽曲だと思う。
 それで1stと2ndではアレンジが施されているのだが、3枚目の「ピンク・ムーン」では、ほとんど彼の弾き語りでシンプルな音作りになっている。これは彼の病状が進行していったからといわれている。

 アレンジといえば、アルバムのストリングスはニックのケンブリッジ大学時代の親友、ロバート・カービーという人が担当していて、エルヴィス・コステロは彼のアレンジをかなり気に入っていたらしく、のちに自分のアルバムのストリングス・アレンジを担当させている。ニックのアルバムの魅力の一端はロバートのストリング・アレンジのおかげかもしれない。

 またニックは1stアルバムの「ファイヴ・リーヴズ・レフト」に"Fruit Tree"という曲を書いていて、そこにはこう書かれている。

「名声はフルーツの木のようだ
とても不健康だ
それは決して実ることはない
その茎が地中にあっても

だから人の名声も
道を見出せない
時が流れていっても
それらがなくなる日は来ない

あなたがここにいるということを
忘れて
しばらく覚えておいた方がいい

多くの時代遅れのスタイルから
新しい時代の廃墟が残るということを
人生はずいぶん前に起きた
追憶のようなものということを」
(訳プロフェッサー・ケイ)

 まるで数年後の自分の人生を予言していたかのような曲である。こういうところからもすでにデビュー時から完成された音楽性をもっていたことが分かると思う。

 ちなみにこの曲の収められた1stアルバムもまた手に入れて聞いているのだが、デビュー・アルバムということもあってか、当然のことながらこれもまた繊細で美しいアルバムだった。

ファイヴ・リーヴス・レフト Music ファイヴ・リーヴス・レフト

アーティスト:ニック・ドレイク
販売元:USMジャパン
発売日:2010/11/24
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 アルバム・タイトルは、ある手巻きタバコの最後から5枚目の巻紙に印刷されている言葉から引用されていて、“巻紙の残りは5枚”という意味のようである。

 なかなか洒落たタイトルなのだが、中身の音楽もタイトル以上の水準である。彼の楽曲は、まさに“フォーク・ソング”という名称にふさわしいもので、日本の“四畳半フォーク”のような湿度は伴ってはいないものの、マイナーな調べや、決して声高々にシャウトしない歌唱方法は共通点があるような気がする。

 しかし一方では、"Saturday Sun"のようなジャジーな雰囲気の曲もある。ひょっとしたら彼はフォーキィな音楽だけを目指したのではなく、ストリングスなどを配置していることからもわかるように、もっと柔軟なスタイルを目指していたのではないだろうか。セカンド・アルバムの「ブライター・レイター」はバンド型式の楽曲もあり、ファーストに比べるとかなりにぎやかな音楽になっているからだ。

 以前、アメリカ人の女性シンガー、エヴァ・キャシディの音楽を聞いてひどく感動したことがあったのだが、ニックと彼女とでは、歌い方やその音楽性も異なっている。
 でももうこの世にいない2人ではあるが、その歌声は決して消えることはなく、いつでも好きなときに聞くことができる。そう考えてみると、彼らが残した音楽は本当に素晴らしいと思うし、まさに芸術は永遠だと実感してしまう。

 ニックの音楽もまた、これ以上進化も変化もしない不変のものなのだが、変化しないからこそ、彼自身のピュアでソリッドな音楽性はいつまでも保たれる。彼の音楽に対する真摯な態度やそこから生まれる音楽性はエヴァーグリーンのままで、純粋さを保ったままだからこそ聞く人の心を打つのだろう。

 いまだに彼から影響を受けたと公言するミュージシャンは多い。コステロだけでなく、アメリカのサザン・ロック・バンド、ブラック・クロウズなどもそうである。やはり26歳で亡くなったという悲劇性と感性豊かな楽曲の魅力とが相まって、彼の評価をいっそう高めているのだろう。自分は残りの「ブライター・レイター」や「ピンク・ムーン」などのアルバムも聞いてみようと思っている。

【追記】
 実は「ブライター・レイター」が安売りだったので、つい購入したのだが、これが噂通りの装飾音に包まれすぎていて、彼の本質が見えにくいアルバムになっている。ドリス・トロイやジョン・ケイルなども参加しているのはいいのだが、やはり彼の追い求めていた音楽ではないと思うのである。

Bryter Layter Music Bryter Layter

アーティスト:Nick Drake
販売元:Universal Import
発売日:2003/04/15
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 商業的にも期待外れだったし、だからというわけでもないのだろうが、彼の病状の深刻化に手を貸したのではないかと思っている。やはり自分は1stアルバムが気に入っているのだった。

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2011年4月15日 (金)

ドノヴァン

 イギリスのフォーク・シーンを語る上で外せないのが、このドノヴァンだろう。何しろ“アメリカのボブ・ディランへのイギリスからの回答”とまで言われたらしいのだが、残念ながら個人的には、よく知らないミュージシャンの内に分類されてしまうのである。

 自分が持っている彼のアルバムは1枚しかなく、しかもタイトルが「グレーテスト・ヒッツ」である。本来ならあるいは現在なら「グレイテスト・ヒッツ」と記されるはずなのだが、このアルバムは「グレーテスト・ヒッツ」なのである。60年代的表記のままなのだ。

 このアルバムは、オリジナルとしては1969年に発表されているから、たぶんこのタイトルで当時も(そして今も)発売されたのだろう。やはり60年代的な雰囲気をアルバム・タイトルからして保持しているのである。

 ドノヴァンは当時は星の王子様ではないが、ファンタジーでメルヘン的な要素を持っていたらしく、彼の歌う雰囲気や歌詞の内容も含めて、世の中から受け入れられていたようだ。
 アルバムの帯には“60年代にメルヘンとファンタジーを歌って一時代を築いたフォーク・シンガー、青春はホロ苦い…”とあったのだが、自分は当時はまだ子どもで、残念ながら同時代を生きていたとはいえず、ホロ苦いとは思えないのであった。むしろこれが60年代のサウンドなんだと、逆に妙に納得できたのであった。

グレイテスト・ヒッツ Music グレイテスト・ヒッツ

アーティスト:ドノヴァン
販売元:エピックレコードジャパン
発売日:1999/11/03
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 ドノヴァンは、ステージに花を敷き詰め、お香をたき、胡坐をかきながら歌っていたらしいのだが、小さな会場ならともかく、大きなホールとなると後ろの人には見えなかったのではないだろうかと余計な事まで考えてしまう。当時はそういうメディテーション的な雰囲気を醸し出してライヴを行っていたのだろうが、それが単なる雰囲気作りではなくて、ライフ・スタイルとして行われていたというところが、60年代という時代性なのだと思う。

 とにかく、自分は彼の音楽とともに生きてきたわけではない。また彼の音楽に感銘を受けたというわけでもない。70年代に入って、彼が第一線を退いたというか、人気が下降線をたどっていたときに、ラジオで"Mellow Yellow"や"Sunshine Superman"などを数曲聞いたくらいである。

 フォーク・シンガーといわれるが、確かに自作自演という点では間違いないと思うのだが、ボブ・ディランと比べると装飾音が多すぎる。また時代を告発するようなメッセージ性は少なく、それこそファンタジックでメルヘンチックな内容の歌が多いように思えてならない。    だからアメリカのシンガー・ソングライターとは一線を画しているし、60年代という時代を反映した創作活動だったと思う。

 これはアニマルズやヤードバーズをプロデュースしたミッキー・モストの作戦だったのかもしれない。デビュー当初はディランのような音楽性だったのだろうが、時代はまさにフラワー・ムーヴメントを迎えようとしていたときだったから、ミッキーはそういう風潮を反映した音楽やファッションをドノヴァンを通じて、表現しようとしたのだろう。

 だからフォーク・ミュージックというよりはサイケデリック・ミュージックであり、アメリカ西海岸のフラワー・ムーヴメントの影響を色濃く受けているし、聞き方によってはドアーズのような雰囲気も湛えている。だから彼のことをフォーク・ミュージックに分類することには抵抗を覚えるのだ。

 特にオルガンやハープシコード、シタールやタブラなどは、この時代を象徴する楽器であり、サウンドだと思う。だからフォーク・ソングというよりサイケデリックなのである。アメリカ西海岸の音といってもおかしくないだろう。

 ドノヴァン自身もそういう時代性を充分楽しんでいるようで、ビートルズのメンバーと一緒にインド旅行をして、マハリシ・ヨギに会っている。またジョンやポールにスリー・フィンガー奏法を教えて、"Julia"や"Blackbird"誕生のきっかけを作ったという伝説も生まれている。だから彼の音楽にはそういう要素が満ちていて、いつ聞いてもすぐにBack to 60s'できるのだと思う。

 彼の曲は今でも耳にすることができるし、それだけ時代を超越した魅力を秘めているのだろう。
 彼は1946年生まれなので、今年で64歳である。1996年には有名なプロデューサーのリック・ルービンと組んで「スートラ」というアルバムを発表し、絶賛されたし、2004年にもオリジナル・アルバムを発表している。

 もう“メルヘン”や“ファンタジー”という形容詞は彼には似合わないと思うのだが、相変わらず影響力は侮れないものがある。これもまた60年代というマジカルな時代性の影響のおかげだと思うのだが、どうだろうか。

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2011年4月11日 (月)

ヘロン

 今どきの季節にピッタリのアルバムがヘロンのベスト盤だと思う。このヘロンというバンドは、1970年代初期のイギリスのフォーク・ミュージック・シーンを飾ったのだが、非常に牧歌的というか、春の陽を浴びながら草原で横になりながら聞くというシチュエーションにピッタリなのである。

 自分はヘロンというと、マイク・ヘロンを思い出してしまって、このバンドも彼のバンドなのだろうと思っていた。(マイク・ヘロンというのは、このブログでも紹介したインクレディブル・ストリング・バンドの中心メンバーだった人で、解散後、自身のソロ・バンドを結成したと思っていた)

 それは自分の思い込みであって、このヘロンというバンドは、1967年にロンドン郊外のメイデンヘッドで結成された。

 この1967年というときには、あのスティーヴ・ウインウッドも在籍していたトラフィックがアルバム・デビューしているのだが、彼らは1stアルバム・レコーディング時に郊外のコテージを借りて、寝泊りしながら録音をした。そういうスタイルが他のミュージシャンの間に流行っていたのだろう。イエスやハンブル・パイも同様なことを行っている。

 それでヘロンだが、ロイ・アプス、トニー・プック、ロバート・コリンズの3人が中心となって結成された。のちにマーティン・ヘイワードやキーボード担当のスティーヴ・ジョーンズも加わっている。メインのソングライターはアプスとムーアのようだ。ちなみに、スティーヴ・ジョーンズは後に有名になるパンク・ロッカーとは同姓同名の別人である。

 彼らもまた時代の波に乗るかのように、バークシャーのアップルフォードというところの農家で1stアルバムを録音した。続く2ndアルバムもまた、デボン州の郊外、通称“ブラック・ドッグ”と呼ばれる場所の農家の納屋を借りて録音している。1970年から71年のことであった。

トゥワイス・アズ・ナイス&ハ Music トゥワイス・アズ・ナイス&ハ

アーティスト:ヘロン
販売元:(株)ディスクユニオン
発売日:2008/12/19
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 ロイの回想によると、親会社のパイ・レコードが16トラックのタンク・ローリー型のモービル・ユニットを用意してきて、それを運転しながらデボン州まで赴いたという。
 納屋につく前にぬかるみで動かなくなり、トラクターを2台、村から借りてきて動かしたりしたという。またモービル・ユニット(移動式録音機材)からラインを引いてきて、台所のドラム・キットにマイクロフォンを置いたり、正面の部屋にキーボードを置いたりして録音作業を行った。

 要するにスタジオでは再現できないようなサウンドやぬくもりなどを表現したかったのだろう。ロイはスタジオでは緊張して全くくつろげなかったし、レンタル費用もかかるというようなことも述べている。

 また2ndアルバム録音中に、村のパブに出かけては、そこに集いあう村人と親しくなり、レコーディング終了時には、納屋の前で村人を集めてフリー・コンサートを行った。逆に困った事としては、近くの空軍の空港から離発着する飛行機に悩まされ、幾度となく防衛省に電話をしたという。

 そんなこんなで、彼らの歌には、目には見えないそういう土のぬくもりや日差しの温かさなども込められているようで、こういう季節に聞くと、まさにハマッてしまうのであった。
 実際、"Sally Goodin"や"Yellow Roses"などには鳥のさえずりが録音されていて、しかも曲調と微妙にマッチしているのである。

 自分が持っているのはベスト盤1枚と後に述べるアルバムの2枚だけなのだが、このベスト盤にはボブ・ディランの"Only a Hobo"やウディ・ガスリーの"Sally Goodin"、"The Great Dust Storm"以外は彼らのオリジナルで占められている。

Upon Reflection: The Dawn Anthology Music Upon Reflection: The Dawn Anthology

アーティスト:Heron
販売元:Castle Music UK
発売日:2006/10/24
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 特に"Little Angel"は、彼らを代表する曲だと思うし、彼らだけでなくイギリスのこの当時のフォーク・シーンを代表する名曲のように思えてくる。
 
 また"Lord & Master"はハーモニーも美しいし、"Winter Harlequin"は8分以上もある曲で、セカンド・アルバムでは一番の出来映えとメンバーも自信を持っているようだ。上手なのかどうかわからないのだが、確かにアコースティック・ギターを聞かせようとする意志は伝わってくる。ただ、自分は他にも佳曲は一杯あると思っている。

 彼らは2枚のアルバムを残して解散したようだが、その後再結成してアルバムを発表している。

ブラック・ドッグ Music ブラック・ドッグ

アーティスト:ヘロン
販売元:MSI
発売日:2005/06/25
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 1997年に結成30周年を記念して発表されたもので、2ndアルバム録音の地に再び集まって制作されたアルバムである。ただし、公式アルバムとして発表されたのは、2005年だった。当初はヘロンの公式ウェブサイトだけで発売されていたという。それがあまりにも好評だったので、きちんとした形で世に出されたのであろう。

 とにかくどの曲も瑞々しく、温かみがあって、聞く方としては癒されるのである。まさにタイムレスな音楽であり、こういう音楽を聞きながら一日が過ごせるなら、他には何もいらないと思ってしまうのだった。
 あるいはまた、新鮮さと同時に熟成された美しさが同居していると思う。デビューしたてのサウンドが30年の時を経て、もっと洗練されて再現されているからだ。これで悪いわけが無い。

 彼らのアルバムには周囲の音が混じっているということで評判になった。1stアルバムには全編にわたって周りの音が録音されているのだが、2ndには鳥の声は少なくなっているようだ。
 でもそれはあくまでも表面的なエピソードであって、本質は、彼らの音楽がエヴァーグリーンということである。

 ともかく彼らのライフ・スタイルと音楽性がマッチしたアルバム群であり、それはそういう時代背景も重なっているからでもあろう。とにかく自分にとっては、リラックスしたいときに聴きたい1枚でもあるのだった。

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2011年4月 7日 (木)

チューダー・ロッジ

 長い冬から解放され、いよいよ萌えいずる春がやってきた。万物が目を覚まし、その生命力を自ら伸ばそうとする季節でもある。こういうときにリラックスできる音楽がほしいと思うのは、私一人だけだろうか。

 今回も前回から引き続き、ブリティッシュ・トラッド・ミュージックとプログレッシヴ・ロック・ミュージックの境界線上に存在する音楽を紹介したい。ということで、メロウ・キャンドルと時をほぼ同じくして活動していたグループ、チューダー・ロッジの登場なのである。

 前回はピアノなどのキーボード中心の音楽だったのだが、今回のチューダー・ロッジは、確かにフォーク、トラッド・ミュージックを象徴するかのようなアコースティック・ギター中心の音楽なのである。

 最初から最後まで春の木漏れ日のような優しい音楽が続く。またメロディは、現代的なリズミックな曲もあれば、フルート、ピアノとコラボレートした古典派のような音楽もあり、音楽的な印象とは違って、このグループもなかなか一筋縄ではいかないのである。

Tudor Lodge (Dig) Music Tudor Lodge (Dig)

アーティスト:Tudor Lodge
販売元:Repertoire
発売日:2008/01/29
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 メンバーは、男性2人、女性1人の3人で、イギリス人、オーストラリア人、女性はニューヨーク出身のアメリカ人だった。
 イギリスのフォーク・ミュージックは、(というか基本的に60年代のイギリスの音楽シーンはアメリカからその影響を受けていたと思う)60年代後半から盛隆を迎えるのだが、彼らもそういう流行の波に乗って活動していたのであろう。

 彼らは1971年にシングル"The Lady's Changing Home"とアルバム「チューダー・ロッジ」を発表したのだが、残念ながら商業的には失敗した。翌年には女性ボーカルのアン・スチュワートはアメリカに帰国したために、代わってリンダ・ピーターズという女性が加入したのだが、結局、解散してしまった。
 リンダはその年に元フェアポート・コンヴェンションのリチャード・トンプソンと結婚して、デュオで活動を始めた。彼女はチューダー・ロッジに在籍していたことよりも、夫婦デュオで活動していたときの方が人気が高かったように思う。もちろん夫リチャードの力が大きいと思うのだが…

 シングルになった"The Lady's Changing Home"では、彼らには珍しくエレクトリック・ギターがフィーチャーされていて、商業的成功を狙ったせいか4分半もある長い曲に仕上げられているのだが、それ以外は基本的にアコースティックな曲で占められている。
 "Madeline"なんかはホルストの“惑星”の中の"Jupitar"も引用されているインストゥルメンタルなのだが、なかなか流暢に演奏している。ちなみにアルバム冒頭を飾る"It All Comes Back to Me"のサビの部分は、PP&Mの"悲しみのジェットプレーン"によく似ている。

 女性ボーカルのアンは、ピアノもフルートもできるということで、このアルバムでも"Two Steps Back"や"Help Me Find Myself"などで演奏している。特に"Help Me Find Myself"はなかなかの佳曲だと思う。
 また"Willow Tree"や"I See a Man"ではギターよりもフルートが目立っていて、演奏だけ聞けば、まるでキャメルである。この曲や次の曲"Forest"ではストリングスやオーボエなども装飾のために使用されていて、こういうところが“プログレッシヴ”・フォーク・グループと呼ばれた所以だろう。

 彼女はバンド解散後にイギリスのプログレ・バンド、カーヴド・エアの「ファンタスマゴリア」でフルート演奏でゲスト参加しているらしい。もう一度確認してみようと思う。そういう交流みたいなものもあって、チューダー・ロッジは純粋なフォーク・グループというよりは、プログレ系に近いと分類されたのだろう。

 しかしフォーク・グループには、なぜ女性ボーカルがフィーチャーされているのだろうか。これはイギリスのグループに多いように思われる。アメリカでは女性が強いせいか?もしくは同性愛傾向があるせいか?PP&M以外はあまりいないような気がする。ママス&パパスも男女同数だったし、女性一人で歌う場合の方が多いように思う。

 一方、イギリスではヒーリング効果があるのか、女性の声をフィーチャーしたバンドが多いと思う。次回はそんなフォーク系バンドを紹介したいと考えている。

 最後にこのアルバムは6面開きの変形ジャケットで有名になった。2000年に復刻盤でCD化された際も、それが忠実に再現されていて、コレクターの間では評判だったという。音楽的な面よりもそっちの方で話題になってしまったのが、彼らの悲劇だったのかもしれない。

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2011年4月 3日 (日)

メロウ・キャンドル

 いよいよ4月である。春も盛りなのだが、こういう時期になるとやはり春っぽい音楽を聞きたくなるもので、吉田拓郎の"春だったね"とか、ウィングスの"London Town"なんかを思い出してしまう。

 これまでこのブログでは、数回のシリーズでブリティッシュ・ロックとプログレッシヴ・ロックの境界線上にあるバンドのアルバムを取り上げていたのだが、いつのまにかブリティッシュ・トラッド&フォーク路線に走ってしまった。それだけロック・ミュージックの懐が深いと言えるからだろうし、音楽のジャンルに境界など存在しないということだろう。

 それでも区別しないと気がすまない人もいるだろうし、あるいはジャンル分けをして一応の目安にする場合もあると思う。

 今回は、ブリティッシュ・トラッドあるいはフォーク路線の中からジャンル分けの難しい1枚を選んでみた。それが1972年にデラム・レーベルより発売された「抱擁の歌」である。歌と演奏は、アイルランドはダブリン出身のメロウ・キャンドルという5人組だった。

 このアルバムはブリティッシュ・フォークの名盤といわれているのだが、人によってはプログレッシヴ・フォークと呼んでいたり、もろにプログレッシヴ・ロックのカタログに載せる人もいて、なかなかカテゴライズが難しいのである。

抱擁の歌(紙ジャケット仕様) Music 抱擁の歌(紙ジャケット仕様)

アーティスト:メロウ・キャンドル
販売元:USMジャパン
発売日:2008/11/26
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 自分が一聴した感じでは、ピアノ中心のロック・ミュージックであり、一般的なフォーク・ミュージックとは正反対だった。強いていえば、ルネッサンスのアニー・ハズラムのような声で、シンプルで美しい歌を歌うという感じだった。クラシカル・ロックではないが、それに近いものはあると思った。

 自分が持っているのは全12曲入りなのだが、新しい紙ジャケット盤ではボーナス・トラックも入っているらしい。
 どの曲もピアノが中心なのだが、ときおりギターのソロも聞くことができる。全体的なイメージを大事にしているのか、あまり自己主張をしないギター・サウンドである。

 1曲目"Heaven Heath"はハープシコードが活躍している軽快な曲であり、続く2曲目の"Sheep Season"では、女性ボーカルが引き立てられるように、ピアノ、ギター、フルート中心のシンプルなアレンジになっている。佳曲である。
 3曲目の"Silversong"は80年代に入って、オール・アバウト・イヴというグループがカバーした曲なのだが、静寂で荘厳な雰囲気を醸し出すような曲で、確かに女性ボーカルの美しさは際立っている。春霞の中で聞くといい雰囲気に浸れるような気がするし、あるいは秋の夜長に聞いても感動するような曲調である。隠れた名曲というたぐいだと思う。

 4曲目"The Poet and The Witch"はかなり躍動感のある曲で、このアルバムの中ではハードな部類に入れられるかもしれない。こういう曲も収められているせいか、このアルバムはフォークというイメージとは違うのである。確かにフォーク・ロックではあるが、比重はフォークよりはロックの方に重きを置かれているのではないだろうか。

 後半の"Buy or Beware"では女性2人のボーカルの掛け合いを聞くことができる。この曲もテンポがよく、しかもギター・ソロを聞くことができる。シングルカットしたら、ひょっとしたらヒットしたかもしれない。
 また"Lonely Man"ではピアノよりもエレクトリック・ギターの方が目立っていて、このアルバムの中では異色な曲になっている。

 確かに1枚を通して聞けば、これといった名曲は少なく、どれもこれもやや平均点より上という印象なのだが、全体的には美しい女性ボーカルのせいで、大変聞きやすいアルバムに仕上がっているのである。

 先に述べたように、彼らはアイルランド出身で、クロダー・シモンズとアリソン・ウィリアムスという2人の女性ボーカリストがフィーチャーされている。彼女たちはシュープリームスを目指しプロになったようで、すでに15歳のときにシングル・レコードを発表している。(このアルバムの中に収められている"Lonely Man"のことを指している)

 このアルバムは、残念ながら商業的に失敗してしまい、バンドも解散してしまった。メンバーは、それぞれソロで活動し、クロダーはシン・リジィやマイク・オールドフィールドと、ベーシストのフランク・ボイランはゲイリー・ムーアと、そしてドラマーのウィリアム・マーレイはケヴィン・エアーズやマイク・オールドフィールド、ポール・コゾフなどと親交を深めている。

 そう考えると、彼らはかなりのテクニシャンだったということになる。メロウ・キャンドルで活動するよりも、ソロの方で活動した方が知名度も上がって、結果的にはよかったという気がする。

 この70年代の初めに活躍した(商業的には活躍しなかった)フォーク・バンドに三大美麗バンドといわれるものがあって、それがスパイロジャイラ、チューダー・ロッジ、そしてこのメロウ・キャンドルだった。

 これを聞いて、洋の東西を問わず、人は何でも3とか5とかで、区分けするのが好きなのだなと思ったが、確かにこのメロウ・キャンドルに関しては、それが該当する気がする。たった1枚で解散するには惜しいバンドだった。まさに伝説のバンドの噂のアルバムなのである。

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