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2011年4月 3日 (日)

メロウ・キャンドル

 いよいよ4月である。春も盛りなのだが、こういう時期になるとやはり春っぽい音楽を聞きたくなるもので、吉田拓郎の"春だったね"とか、ウィングスの"London Town"なんかを思い出してしまう。

 これまでこのブログでは、数回のシリーズでブリティッシュ・ロックとプログレッシヴ・ロックの境界線上にあるバンドのアルバムを取り上げていたのだが、いつのまにかブリティッシュ・トラッド&フォーク路線に走ってしまった。それだけロック・ミュージックの懐が深いと言えるからだろうし、音楽のジャンルに境界など存在しないということだろう。

 それでも区別しないと気がすまない人もいるだろうし、あるいはジャンル分けをして一応の目安にする場合もあると思う。

 今回は、ブリティッシュ・トラッドあるいはフォーク路線の中からジャンル分けの難しい1枚を選んでみた。それが1972年にデラム・レーベルより発売された「抱擁の歌」である。歌と演奏は、アイルランドはダブリン出身のメロウ・キャンドルという5人組だった。

 このアルバムはブリティッシュ・フォークの名盤といわれているのだが、人によってはプログレッシヴ・フォークと呼んでいたり、もろにプログレッシヴ・ロックのカタログに載せる人もいて、なかなかカテゴライズが難しいのである。

抱擁の歌(紙ジャケット仕様) Music 抱擁の歌(紙ジャケット仕様)

アーティスト:メロウ・キャンドル
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 自分が一聴した感じでは、ピアノ中心のロック・ミュージックであり、一般的なフォーク・ミュージックとは正反対だった。強いていえば、ルネッサンスのアニー・ハズラムのような声で、シンプルで美しい歌を歌うという感じだった。クラシカル・ロックではないが、それに近いものはあると思った。

 自分が持っているのは全12曲入りなのだが、新しい紙ジャケット盤ではボーナス・トラックも入っているらしい。
 どの曲もピアノが中心なのだが、ときおりギターのソロも聞くことができる。全体的なイメージを大事にしているのか、あまり自己主張をしないギター・サウンドである。

 1曲目"Heaven Heath"はハープシコードが活躍している軽快な曲であり、続く2曲目の"Sheep Season"では、女性ボーカルが引き立てられるように、ピアノ、ギター、フルート中心のシンプルなアレンジになっている。佳曲である。
 3曲目の"Silversong"は80年代に入って、オール・アバウト・イヴというグループがカバーした曲なのだが、静寂で荘厳な雰囲気を醸し出すような曲で、確かに女性ボーカルの美しさは際立っている。春霞の中で聞くといい雰囲気に浸れるような気がするし、あるいは秋の夜長に聞いても感動するような曲調である。隠れた名曲というたぐいだと思う。

 4曲目"The Poet and The Witch"はかなり躍動感のある曲で、このアルバムの中ではハードな部類に入れられるかもしれない。こういう曲も収められているせいか、このアルバムはフォークというイメージとは違うのである。確かにフォーク・ロックではあるが、比重はフォークよりはロックの方に重きを置かれているのではないだろうか。

 後半の"Buy or Beware"では女性2人のボーカルの掛け合いを聞くことができる。この曲もテンポがよく、しかもギター・ソロを聞くことができる。シングルカットしたら、ひょっとしたらヒットしたかもしれない。
 また"Lonely Man"ではピアノよりもエレクトリック・ギターの方が目立っていて、このアルバムの中では異色な曲になっている。

 確かに1枚を通して聞けば、これといった名曲は少なく、どれもこれもやや平均点より上という印象なのだが、全体的には美しい女性ボーカルのせいで、大変聞きやすいアルバムに仕上がっているのである。

 先に述べたように、彼らはアイルランド出身で、クロダー・シモンズとアリソン・ウィリアムスという2人の女性ボーカリストがフィーチャーされている。彼女たちはシュープリームスを目指しプロになったようで、すでに15歳のときにシングル・レコードを発表している。(このアルバムの中に収められている"Lonely Man"のことを指している)

 このアルバムは、残念ながら商業的に失敗してしまい、バンドも解散してしまった。メンバーは、それぞれソロで活動し、クロダーはシン・リジィやマイク・オールドフィールドと、ベーシストのフランク・ボイランはゲイリー・ムーアと、そしてドラマーのウィリアム・マーレイはケヴィン・エアーズやマイク・オールドフィールド、ポール・コゾフなどと親交を深めている。

 そう考えると、彼らはかなりのテクニシャンだったということになる。メロウ・キャンドルで活動するよりも、ソロの方で活動した方が知名度も上がって、結果的にはよかったという気がする。

 この70年代の初めに活躍した(商業的には活躍しなかった)フォーク・バンドに三大美麗バンドといわれるものがあって、それがスパイロジャイラ、チューダー・ロッジ、そしてこのメロウ・キャンドルだった。

 これを聞いて、洋の東西を問わず、人は何でも3とか5とかで、区分けするのが好きなのだなと思ったが、確かにこのメロウ・キャンドルに関しては、それが該当する気がする。たった1枚で解散するには惜しいバンドだった。まさに伝説のバンドの噂のアルバムなのである。


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コメント

 昔、プログレ愛好家の中では結構このメロウ・キャンドルって名は知れ渡っていた。プログレ好みのある一派は、こうしたトラッド系のもつ哀愁と美しい世界に弱いところに、透明感のある女性ヴォーカルというところのダブル・パンチを食らったせいであろう。私はリアルタイムには当時は、クリムゾンの世界に毒されていて(笑)、こうした世界にはそう関心がなかった。しかし、20年後のCDにて再発したころには、取り敢えず聴いておこうと思って聴いたのを思い出します。ケイさんのここでのお話で、何年ぶりに棚に寝ていたCDを取り出して目下聴き直しています。キー・ボードを中心とした結構テクニシャン集団ですね。

投稿: 風呂井戸 | 2011年4月 4日 (月) 22時45分

相変わらず守備範囲の広い風呂井戸氏であります。私も大人になってからこのアルバムを知ったのですが、意外に良かったのを覚えています。もしこの時代に聞いていたなら、もう少し違う音楽観を持ったかもしれません。
 それにしてもこの時代のこの手のグループには、女性ボーカルが活躍していたのだなあとあらためて思いました。

投稿: プロフェッサー・ケイ | 2011年4月 9日 (土) 00時05分

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