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2011年5月12日 (木)

フォザリンゲイ

 サンディ・デニーのことについて調べていたら、彼女が1969年の終わりにフェアポート・コンヴェンションを脱退したあと、自分自身のリーダー・バンドを結成したということがわかった。

 少し付け足すと、彼女自身と彼女の恋人でのちに夫となったトレヴァー・ルーカスが中心となって結成したバンドである。それはイングランドの古城の名前からフォザリンゲイと名づけられ、1970年には唯一のオリジナル・アルバム「フォザリンゲイ」を発表した。

 実はこのバンドは1970年の3月から翌年の1月くらいまでしかもたなかった。公式には、プロダクションの方からサンディにソロ活動の話が出て、彼女がそれを了解したといわれているが、実際はどうだったのだろう。ひょっとしたら彼女とその恋人以外のメンバーにとっては、少々やりにくかったのではないかと穿った見方をしている。

 サンディがフェアポート・コンヴェンションを脱退した理由は、音楽的な見解の相違とともに、恋人ともう少し一緒の時間がほしかったからというものだったし、それが正しければ、せっかく同じバンドにいるのに、ソロ活動を始めるとまた生活のすれ違いが始まるのではないだろうか。だからバンド活動が途中でうまく行かなくなったのだろう。セカンド・アルバム用の曲まで用意されていながら、お蔵入りになったのはそういうことだったと勝手に解釈している。
 ちなみにそれらの曲は、のちに彼女のボックス・セットに収録され、発表された。

 それでこのアルバム「フォザリンゲイ」であるが、ブリティッシュ・トラッド/フォーク・ミュージックというよりは、もう少しロック的であり、ヴァラエティ豊かな彼らの音楽観が反映されている。

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 当然のことながら彼女の歌声は目立っているのだが、同時にリード・ギタリストのジェリー・ドナヒューの演奏するエレクトリック・ギターも目立っていて、後に彼がリチャード・トンプソン脱退後のフェアポート・コンヴェンションに加入したのも納得できるほどの熱演だと思った。

 彼のギターは1曲目の"Nothing More"から目立っている。例えていうならマーク・ノップラーの音に近いものがある。マイナーな曲調と憂いのあるサンディの歌声を強調するかのように彼のギターも鳴いている。
 続く"The Sea"もしっとりしたバラッド・タイプの曲で、こういう曲を聞くと、本当にサンディは素晴らしい女性ボーカリストだとわかる。繊細さと力強さが同居した不思議な曲である。

 3曲目は恋人のトレヴァーが歌っている曲で、作詞作曲も彼自身である。バック・ボーカルはサンディと後にリチャード・トンプソン夫人になったリンダ・ピータース。"The Ballad of Ned Kelly"というタイトルらしい曲でもある。

 "Winter Winds"はアコースティックな曲で、いかにも冬の厳しさが表現されているような感じだし、"Peace in the End"はサンディとトレヴァーの共作曲。2人のデュエットも堪能できるという計らいもある。
 アルバム前半は比較的おとなしい曲調で、サンディの歌声を最大限に生かそうとするプロダクション側の意図が見て取れる。

 ところが後半の1曲目の"The Way I Feel"はカナダのシンガー・ソングライターのゴードン・ライトフットのカバーで、リズム陣やエレクトリック・ギターも目立つハードなものになっている。
 ここでのジェリーのリード・ギターは素晴らしく、曲に緊張感を与えていて、最後まで一気に聞かせてくれる。リード・ボーカルはトレヴァーがとっている。

 続く"The Pond and the Stream"はサンディの作品。これもアコースティックな作品で、トレヴァーとジェリーのアコースティック・ギターが美しく響いている。
 また"Too Much of Nothing"はボブ・ディランの曲で、サンディは本当にボブ・ディランが好きなのだと思う。彼女自身のソロ・アルバムでも必ずといっていいほど、ディランの曲を取り上げている。ここではトレヴァーが歌っているが、おそらくサンディが歌えと勧めたのであろう。ちなみにこの曲は1967年にピーター、ポール&マリーによってヒットしたが、オリジナルは1975年のディランのアルバム「地下室」に収められている。

 オリジナル・アルバムでは最後の曲である"Banks of The Nile"はトラディショナル・ソングをアレンジしたもので、エジプトを植民地にしていた当時のイギリスの兵士のことを歌っている。最後になってトラッド・ソングが出てくるところがこのアルバムの特長なのだろう。

 ほとんどの曲はサンディが手がけていて、彼女の創作力の高さが示されているアルバムでもある。また曲自体のクォリティも高い。フェアポート・コンヴェンションの曲と比べても決して劣っていない。彼女は優秀なシンガー・ソングライターだったと思う。もう少し長く生きていれば、もっと素晴らしい曲を残せたに違いない。残念なことである。

 最新のSHM-CDではボーナス・トラックが追加されていて、その中には4曲ほど1970年のオランダ、ロッテルダムでのフェスでのライヴ音源を聞くことができる。
 40年以上も前の音源を今になって聞けるというのもうれしいことだし、ここでのサンディやバックの演奏は実に見事というか、たった1枚のアルバムを残して解散したとは信じられないほど完成している。

 結局、1971年に解散した彼らは、それぞれ各自の道を歩みだした。ドラマーのジェリー・コンウェイは一時ジェスロ・タルにも在籍していたし、ギタリストのジェリー・ドナヒューは、今もなお活動を続けている。

 ただ悲しいことは、中心メンバーだったサンディとトレヴァーがこの世にいないことである。サンディは1978年に、トレヴァーは1989年に心不全で亡くなった。それぞれ31歳と46歳だった。
 たった1枚しかアルバムを残さなかった彼らだが、その名前は永遠にトラッド史上に残るに違いない。


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