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2011年6月 1日 (水)

ザ・ウォーターボーイズ

 イギリスのトラッド/フォーク・ミュージックについて書いてきたのだが、これは本当に果てのないジャンルで、深みにはまってしまうと、エンドレスに書いていかなければならなくなる。
 だからこの辺で、そろそろ他の話題に移りたいのだが、その前にもう1つ、2つ気になるバンドについて書いてみることにした。

 面白い話を1つ。伝説的フォーク・シンガーのマーティン・カーシーだったと思うけど、アメリカ人のボブ・ディランにイギリスの民謡を教えたらしい。ところがディランはそれを自分名義の曲にしてセカンド・アルバム「フリー・ホイーリン」に収録したという。

 それを知ったイギリス・トラッド/フォーク・シーンのミュージシャンたちはディランとの親交だけでなく、アメリカのフォーク・ソングとも手を切り、自らのトラッド/フォーク・ミュージックを追求するようになったという。だから初期のイギリス・トラッド/フォーク・バンドには、アメリカン・ミュージックというか白人音楽の影響を感じさせる楽曲を作ることはあまりなかったということである。(ジャズやブルーズは別として)

 ところがそれ以外のバンドは、もろに白人音楽の影響を感じさせる楽曲を発表したりしている。時代が下がるにつれてその影響は顕著になってくるのだが、これもまた熱力学第二法則、物事は拡散していくというルールにしたがっているのだろうか。

 今回紹介するのは、1980年代にトラッド/フォーク・ミュージックを体現したバンドである。その名をザ・ウォーターボーイズという。決してスイミング・クラブに通っている人たちではないので、誤解なきように。

 バンドの中心人物は、マイク・スコットというスコットランドはエジンバラ出身のギター、ピアノ&ボーカルとサックス・プレイヤーのアンソニー・シスルウェイトで1982年に結成された。バンド名はルー・リードのアルバム「ベルリン」の中の曲"The Kids"にある一節から取られたものである。

 1983年に1stアルバムを発表したが、このブログですでに紹介したワールド・パーティのカール・ウォリンガーをキーボード・プレイヤーとして迎えている。
 デビュー当初はU2と比較されたりしたのだが、1985年に3枚目のアルバム「ディス・イジ・ザ・シー」を発表したあたりから、運命の扉が大きく開かれるようになる。

 このアルバムにはフィドル奏者としてスティーヴ・ウィッカムが参加していて、彼とスコット、カールの3人の協力が化学的変化を引き起こしたようだ。商業的に成功したのである。ひとつにはブリティッシュ・トラッド/フォーク・ミュージックへの新解釈が功を奏したようで、シングル・カットされた"The Whole of the Moon"はシングル・チャートの26位にまで、アルバム自体も37位まで上昇した。しかしマイクは、BBCのTV番組“トップ・オブ・ザ・ポップス”への出演を拒否した。理由は口パクを嫌ったからである。

 ただこのバンドはメンバー・チェンジが激しく、めまぐるしく入れ替わった。このアルバム後にはカールが脱退し、代わりにガイ・チェンバースが加入した。しかしやがてはガイもカールのあとを追うように彼のバンド、ワールド・パーティに参加することになる。

 このアルバムの成功後、彼らはアイルランドのダブリンに赴き、そこを拠点として活動を始めた。そして本格的なアイリッシュ・トラッド・ミュージックを追求するようになった。

 1988年には4枚目のアルバム「フィッシャーマンズ・ブルーズ」が発表されたが、タイトルと同名のシングルはアメリカのビルボードでは3位、イギリスでは32位と大健闘した。これもアイルランドの伝統音楽を現代的に解釈したことがよかったのだろう。

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 ザ・ウォーターボーイズのトラッド解釈はさらに進んでいき、1990年に発表された「ルーム・トゥ・ルーム」は本当にアイルランド出身のバンドと見間違うばかりの音楽性になっている。

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 ただ“過ぎたるは猶及ぶべからず”で、マイクはこのあと原点回帰を果たそうと、もっとロック寄りのアルバムを制作しようとしたのだが、フィドル奏者のウィッカムはそれに反対し、結局彼は、バンドを脱退してしまった。
 そしてまたマイク自身も、約10年間のバンド活動に区切りをつけようとして、ベスト・アルバムを発表し、ソロ活動を始めたのである。

 彼らの歩みを手っ取り早く知りたいのなら、ベスト・アルバムがお薦めである。ただ12曲しか入っていなくて、あまりにも歩みが急すぎるような気がした。もう少しトラッド寄りの楽曲があると、ザ・ウォーターボーイズの一番輝いていた頃の姿を知ることができたのではないかと思う。

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 1stアルバムからは1曲、セカンドからは2曲、サードの出世作「ディス・イズ・ザ・シー」から4曲、名盤「フィッシャーマンズ・ブルーズ」からも4曲、5枚目「ルーム・トゥ・ルーム」から1曲とほぼ年代順で、ファンの期待通りの選曲数になっている。

 このあとマイク・スコットは90年代に入ってソロ活動に専念するものの、2000年には再びザ・ウォーターボーイズ名義のアルバムを発表し、再び表舞台に戻ってきた。そして2005年には公式には初めてのライヴ・アルバムを、2007年にはスタジオ・アルバムを発表していて、今もなお精力的な活動を続けている。

 昨年はアイルランドの詩人W.B.イエーツの作品に曲を付けて舞台で歌うという公演を行っている。彼らのアイリッシュ・トラッド/フォーク・ミュージックへの愛情は、21世紀の今になっても消えることはなく、なおも赤々と燃え上がっていることを表していて、それはまた彼らも白人音楽から自国への音楽へと、舵を切ったことを意味しているのである。


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