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2012年5月 8日 (火)

キンクス(2)

 1971年に発表されたアルバム「マスウェル・ヒルビリーズ」を、彼らの最高傑作アルバムと推す人もいるが、自分はそうは思えなかった。あまりにもアメリカ志向が強すぎて、とても彼ら本来の姿ではないと思ったからだ。

 1曲目の"20th Century Man"はスライド・ギターが目立つし、2曲目の長いタイトル"Acute Schizophrenia Paranoia Blues"ではブラス・サウンドがフィーチャーされて、まるでディキシーランド・ジャズとブルーズが融合したような感じだった。続く"Holiday"もバンジョーやアコーディオンが隠し味となって、レイ・デイヴィスのアメリカン・ミュージックへの憧憬がにじみ出てきているとしかいいようがないアルバムだった。4
 確かに悪いアルバムではないし、アメリカ南部の音楽が好きな人にはたまらないサウンドだと思うのだが、個人的にはちょっとニュアンスが違うと思った。

 マスウェル・ヒルとは兄のレイ・デイヴィスと弟でギタリストのデイヴ・デイヴィスが生まれ育った場所の名前で、アルバム・ジャケットにあるパブも実在するものだという。

 この場所で6人姉妹と2人兄弟の計8人+両親の10人家族で育ったレイは、生まれたときから音楽好きな姉や両親に囲まれていた。家族の愛情を一心に受けていたのだが、3年後に弟デイヴが生まれてからは、彼らの関心は末っ子に移っていった。彼ら兄弟の仲が悪いのも、幼い頃の兄弟関係のトラウマが原因だという人もいる。

 またレイヴンズというバンドを結成したのは弟のデイヴの方だったし、それに後から便乗する形で兄のレイが参加してキンクスが結成されたという経緯があった。弟からすれば、後から来て何を勝手なことを、という憤りみたいなものもあったに違いない。

 のちに彼ら兄弟が移動する飛行機も別なら泊まるホテルも別になったというのも、様々なささいなボタンのかけ違いが大きくなって、結局そうなってしまったのだろう。兄弟というのは仲がいいときは本当に美しいけれど、一旦仲違いが始まると徹底して嫌いあうから始末に終えない。流れている血がほぼ同じようなものだから、トコトン排除してしまうのだろう。困ったものである。

 ところでこの「マスウェル・ヒルビリーズ」は、当時のRCAレコードに移籍しての最初のアルバムでもあった。60年代の後半から彼らはトータル・アルバムを制作していたのだが、レコード会社を移籍してもこの傾向は変わらず、むしろ一層拍車をかけるかのように次々とその手のアルバムを発表していった。

 あくまでも個人的な趣味なのだが、自分の好きなアルバムは、アリスタ・レコードに移籍した最初のアルバム「スリープウォーカー」である。まさに原点回帰というか、ロックンロールの楽しさと、ソリッドでシャープな彼らの音楽性が戻ってきた感があるからだ。5
 ここでのデイヴのギターは見事だし、はっきりいってこんなに上手だったかなあという気がしないでもないのだが、とにかくどの曲も彼のギターはカッコいいのである。また4曲目のバラード"Brother"は涙なくしては聞けない。“2人でやっていけばうまくいく”というのはレイからデイヴに向けたメッセージなのだろうか。後半のコーラスやギターの盛り上げ方が素晴らしい。

 やはりロックはこうでないといけない。トータル・アルバムもいいが、音楽よりもアルバムの主張性に縛られてしまい、音楽が主なのか、思想性が主なのかはっきりしなくなる。時として共倒れになってしまうし、音楽が付け足しになってしまって、せっかくの内容やミュージシャンの才能が埋もれてしまう場合もある。

 だからキンクスは演劇志向もいいのだけれど、原点回帰というか、やはりこの「スリープウォーカー」のようなロックンロールを演奏してほしいと願っている。

 このアルバムが出たときは、まさにパンク・ロックの嵐だったが、キンクスは逆にモッズ再評価のブームを受けて、イギリスではストーンズとは全くの逆の立場になり、パンクの元祖とまで謳われるようになった。しかし、不思議なことに彼らはアメリカに留まったまま、イギリスに帰ろうとはしなかった。
 そして翌1978年には「ミスフィッツ」、79年には「ロウ・バジェット」とヒット作を連発していくのである。

 そしてもう1枚好きな作品を挙げるとなると、1970年の「ローラ対パワーマン、マネーゴーラウンド組第1回戦」である。いわゆるトータル・アルバムなのだけれど、シングル・ヒットもあり、音楽的に聞きやすくポップであり、内容的にも充分刺激的だった。3
 当時のデイヴの心象風景がそのまま描かれていて、特に当時のマネージャーだった人の暴利を貪る姿を描くところは、まさに英国流ブラック・ユーモア(というよりも暴露合戦か)でもある。

 自分は遅れてきたキンクス・ファンであり、彼らの作品を充分味わっているとは言い難い。むしろ半分以上は知らないだろう。自分にとって彼らの音楽がよく分からなかったのも、トータル・アルバムが多かったせいなのかもしれない。しかしそんな自分をもひき付けてくれる彼らの音楽は、やはりロックの歴史に残るような素晴らしいものなのだ。

 1996年以降、キンクス名義のアルバムは発表されていないけれど、正式に解散は表明されていない。できればもう1枚ノリノリのロックンロール・アルバムを発表してほしいものである。


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