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2012年9月15日 (土)

シェイプ・シフター

  今年の夏によく聞いたアルバム第3弾は、サンタナの「シェイプ・シフター」である。サンタナ名義では22枚目のスタジオ・アルバムになるこのアルバムは、まさに原点回帰といっていいほどの情熱と創造性に溢れている。

 それは久しぶりのインストゥルメンタル中心のアルバムというだけではない。オールド・ファンなら一聴してわかるように、70年代の彼の全盛期を髣髴させるような楽曲が収められているからである。

 65歳を越えたカルロス・サンタナであるが、音楽に対する情熱は一向に衰えてはいないようだ。まず自分で新しいレコード・レーベル、スターフェイス・レコーズを立ち上げていて、このアルバムはそこから発表されている。
 自分のやりたい音楽を、自分を表現できる場を求めてのことだと思うのだが、この意欲はやはり賞賛に値するだろう。

  そしてこのレーベルから3部作を発表するとなっていて、今回はその第一弾ということである。有言実行のサンタナのことだから間違いないだろうが、自分のレーベルを持ち、3部作を出すとコメントして、しかも最初がインスト中心とくれば、誰でもサンタナのエネルギーを感じ取ってしまうだろう。さらにその中身が久しぶりの傑作に仕上がっているのだから、往年のファンならずとも興味がそそられてしまうに違いない。

 考えてみれば1999年の「スーパーナチュラル」から2005年の「オール・ザット・アイ・アム」までの3枚のスタジオ・アルバムも3部作といわれていたが、あれらは“歌もの”のアルバムだった。下衆の勘ぐりで申し訳ないが、グラミー賞9部門も獲得した「スーパーナチュラル」の大ヒットのおかげで、それ以降の作品が売れ線を狙ったということも考えられるだろう。

 今回のアルバムはちょうどそれらの対極に位置するもので、原点に戻ったと言うか、揺り戻しがあったと言うべきか、彼の中でうまくバランスを取ろうとする気持ちが働いたのかもしれない。

 アルバムは全13曲で、国内盤では2曲のライヴ・ボーナス・トラックがさらに付いている。1曲目のアルバム・タイトル曲"Shape Shifter"はイントロのアコースティック・ギターがこれから始まる“サンタナ劇場”を想起させてくれる。続いて何やら呪術的なスキャットとハモンド・オルガン、さらにテンポのよいリズムとともに“官能的”と称されるギターが鳴り響くのである。1

 1曲目が6分以上もあるのに対して、2曲目の"Dom"は4分に足りない短いものになっている。基本はギターとリズムを刻むストリングスなのだが、全体的には昭和歌謡曲的なメロディが耳に残った。

 このアルバムの中で魅力的な楽曲のひとつが"Nomad"だろう。やはりこれこそがサンタナ節というか、サンタナはこうでないといけないという曲である。ドンドコドンドコという骨太いリズムに乗って、久しぶりに暴れるギターを聞いた感じがする。間奏に入るハモンド・オルガンとそれに対抗するかのようなギターが、かつてのグレッグ・ローリーvs.カルロス・サンタナを思い出させてくれた。

 4曲目の"Metatron"は何かのテーマ音楽のようで、うれしそうに弾きまくっているサンタナが目に浮かぶようだ。メロディ自体はこれまた昭和歌謡のようで、日本人には間違いなく受けるだろう。

 "Angelica Faith"は自分の娘に捧げたバラードで、"Europe"や"Moonflower"の系統に属する曲でもある。続く"Never the Same Again"は何となく高中正義を髣髴させるような、明るくてトロピカルな雰囲気をたずさえている。曲自体はいいのだが、自分にとっては避けたい曲調のひとつ。通して聞くときはたぶん飛ばして次の曲を聞くだろう。

 "In the Light of a Day"は壮大なシンセサイザーから始まるのだが、何となくジェフ・ベックの最近のテクノ&エロクトロニックな曲を思い出させてくれた。ゆったりとした曲で、夢幻の境地に運んでくれるのだが、ジェフ・ベックの方がこの手の曲には長けていると思う。

 "Spark of the Divine"は次の"Macumba in Budapest"の序曲といっていいだろう。1分あまりの中に、ストリングス、アコースティック・ギター、エレクトリック・ギターが壮麗な牙城を築いている。
 その"Macumba in Budapest"は21世紀の"Moonflower"で、まさにサンタナならではの曲。このラテン・パーカッションこそサンタナの命綱といっていいだろう。こういう曲をもっともっとやってほしいものだ。

 10曲目の"Mr. Szabo"はアコースティック・ギターがフィーチャーされたもので、パコ・デ・ルシアやディ・メオラにラテンの血を注いだようなリズムが印象的だった。
 一転して"Eres La Luz"は静かなアコースティック・ギターの序奏から始まるが、パーカッションが弾け、ラテン・ダンスに使用されそうな曲に変化していく。このアルバム唯一のボーカル入りの曲だが、サンタナは前曲と同じようにアコースティック・ギターを中心に演奏していて、後半の約50秒でエレクトリックに持ち替える。この曲はライヴでも盛り上がるだろう。

 "Canela"はイントロからサンタナと分かる曲。この曲も"Europe"、"Moonflower"の流れを持つ曲で、3分までは官能のバラードなのだが、途中のピアノの連打からアップテンポになり、ハモンド・オルガン、エレクトリック・ギターと続くところが予定調和的ながらも素晴らしい。アルバム最後を盛り上げるにふさわしい曲である。ちなみにピアノを弾いているのは彼の息子のサルバドール・サンタナらしい。

 そして最後は静かな"Ah, Sweet Dancer"で幕を閉じる。この曲も息子サルバドールのピアノとの共演だが、基本的にはメインのフレーズだけカルロスのギターが演奏され、それを引き継ぐかたちでピアノが奏でられる。余韻が美しい。

 サンタナにとっては歴史的な名盤とはいえないものの、久しぶりに彼らしいサウンドを堪能することができる傑作アルバムだ。特にアルバム・タイトル曲でもある"Shape Shifter"や"Nomad"、"Canela"、"Macumba in Budapest"などは一聴に値する曲だろう。

 シェイプ・シフターとは神話や伝説に登場する動植物などに変身する妖怪のことらしいが、このアルバムではまさにタイトル通り、変幻自在なサンタナ・サウンドを楽しむことができる。3部作ということなので、円熟したサンタナ・サウンドが次回作以降ではどのように展開していくのか、楽しみである。


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コメント

 このアルバムは、昔のサンタナの情熱のラテン・ロックという世界でなく、彼の感謝の心の世界に聴けました。
 しかし、かってサンタナの姿にみえた宗教的世界とは異なっているとは思いますが、見方を変えてみると”人生賛歌”という心境から生まれてきたものではないでしょうか?。

投稿: 風呂井戸 | 2012年9月19日 (水) 19時36分

こんばんは、風呂井戸様 なるほど“人生賛歌”という指摘は鋭いですね。充実した人生を送っているからでしょうか。生きとし生けるものへの感謝という考えはキリスト教世界観とは異なっているようです。
 今のサンタナはより進んだステージに入っているのでしょうか。そういう彼の意識が次のアルバムにも活かされることを期待します。

投稿: プロフェッサー・ケイ | 2012年9月20日 (木) 21時16分

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