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2012年9月10日 (月)

ヴィンテージ・トラブル

 さて今年の夏によく聞いたアルバムを紹介する第2弾。今回は今年デビューしたアメリカの新人バンド、ヴィンテージ・トラブルの登場である。

 このバンドはアメリカ人4人で構成されているのだが、昨年イギリスの雑誌で最優秀新人バンドとして掲載されたことから人気に火がつき、BBCのテレビ番組に登場したり、デビュー・アルバムがチャートの上位にランクインしたりした。

 こういう現象はジミィ・ヘンドリックスと同じだ。ジミィの場合もイギリスでのツアー中に噂が噂を呼び、クラプトンなどの有名ミュージシャンが会場に顔を見せるようになった。そしてアメリカに戻って、モンタレー・ポップ・フェスティバルに出場して人気を決定付けたのである。

 話を元に戻してヴィンテージ・トラブルも同じように、まずイギリスで人気が出てアメリカに逆輸入してきた。それでアメリカや日本でもようやく認知されるようになってきたのである。 
 さらにまた、彼らの実力は極めて高く、あのブライアン・メイやボン・ジョヴィも絶賛しているし、100日間で80回のライヴをこなし、40万人以上も動員したという記録も打ち立てている。日本でも輸入盤が好評で、国内盤が発表されるまでに1万枚近くが売れたそうだ。

 メンバーは以下の4人。
 ボーカル…タイ・テイラー、バンド唯一のアフリカ系アメリカ人。オーティス・レディングとティナ・ターナーがフェイヴァリット・ミュージシャンで、好きなアルバムはキャロル・キングの「つづれおり」だそうだ。

 ギター…ネリー・コルト、スウェーデン生まれのアメリカ育ち。ジミヘンに憧れてギターを始めた。U2の「ヨシュア・ツリー」が愛聴盤らしい。

 ベース…リック・バリオ・ディル、フロリダ生まれ。最初はギター小僧だったが、スライ&ザ・ファミリー・ストーンを聞いてベース・ギターを始めた。何でもチョッパー・ベース奏法をマスターしようと思ったらしい。好きなアルバムはダニー・ハザウェイの「ライヴ」とのこと。

 ドラムス…リチャード・ダニエルソン、カリフォルニア出身。70年代のシンガー・ソングライターが好きで、キャット・スティーヴンスやボブ・ディラン、ジェフ・バックリー、ダミアン・ライスのアルバムをよく聞くという。ダミアン・ライスが好きという点では、なかなかいいセンスをしていると思う。

 ボーカルのタイ・テイラーは幼い頃に教会の聖歌隊で歌っていた。だからリズム&ブルーズやゴスペル・ミュージックなどの基礎は子どもの頃から身についていったようだ。その後ロサンゼルスでバンドを結成してシングル曲を出したり、クラブでライヴ活動を行った。
 やがてゴースト・ハウンズというバンドを結成したのだが、そのバンドのギター担当がネリー・コルトだった。彼とは15年来の付き合いになるという。

 2010年にこの4人で活動を始め、ロサンゼルスのボム・シェルター・スタジオというところで3日間で収録したアルバムを発表した。このアルバムが2011年に世に出た「ボム・シェルター・セッションズ」である。
 国内盤アルバムには、正規の10曲とライヴ録音が4曲、未発表ボーナス・トラック2曲の16曲が収められていて、スタジオ録音の雰囲気とライヴの様子の両方を味わうことができる。 Photo_2
 まず1stシングルになった"Blues Hand Me Down"。この曲はノリがよくカッコいい。アルバムの冒頭を飾るにふさわしい曲だ。聖歌隊で鍛えられたタイ・テイラーのソウルフルな歌声が素晴らしいし、それを支えるグルーヴのあるリズム・セクションとその間に切り込んでくるファズの効いたネリーのギターという曲構成が見事である。

 続く"Still And Always Will"は、ミディアム・テンポだがインパクトのある曲。もろ70年代という匂いをプンプンさせてくれる。ドラムのフィル・インが特長的だ。
 3曲目の"Nancy Lee"もギターのリフがどこかで聞いたような気がしてくる。ジョン・レノンの"Cold Turkey"だ。この曲のライヴ・ヴァージョンがボーナス・トラックで収録されているのだが、アコースティック・ギター1本と最低限のパーカッションで構成されていて興味深かった。

 次の曲"Gracefully"はお約束のスロー・バラードで、タイの好きなオーティス・レディングに倣っているようだ。こういう風に曲の構成が予想できるところもまた、60年代から70年代の音楽が好きな人ならたまらない魅力になっているのだろう。
 5曲目の"You Better Believe It"はハーモニカがフィーチャーされたミディアム・テンポの曲。まさにソウル・ミュージックである。

 "Not Alright By Me"もスローな曲で、例えていうならロッド・スチュワートの"People Get Ready"みたい。(正確にいうとオリジナルはロッドではなくカーティス・メイフィールド)
 "Nobody Told Me"はミディアム・テンポの曲で、スタジオ・ライヴ・ヴァージョンと二通りアルバムに収められているが、両方ともあまり変わりはない。それだけメロディがしっかりしているから、アレンジしにくいのだろう。

 次の曲"Jezzebella"も同じような曲調なので、アルバムの後半になると正直だれてくるのだが、それを"Total Strangers"が救っている。ジェイムズ・ブラウンがロックしたらこんな曲になるだろうと思わせてくれた。ライヴではもう少し回転を早くしている。自分はライヴ・ヴァージョンの方が気に入った。

 そして最後の曲"Run Outta You"はアルバムのクロージング・テーマのように聞こえてくるバラードである。タイのボーカルと予定調和的なバックの演奏にしびれてしまった。最後のネリーのギター・ソロが印象的でもある。ジミヘンとまでは言えないが、演奏者の陶酔感が伝わってくる点では、近頃では珍しいと思う。

 とにかく、もしあなたがレニー・クラヴィッツの音楽が好きなら、あるいは70年代のソウルやロック・ミュージックのファンなら是非耳を傾けてほしいアルバムである。自分にとっては今年上半期で最も気に入ったアルバムになってしまった。


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