ザ・ポウジーズ
パワー・ポップのバンドを紹介する第2弾、ポウジーズの登場である。このバンドも前回のレッド・クロスと同じように、90年代にその人気のピークを迎えた。いわばパワー・ポップと呼ばれ始めた最初の世代といえるだろう。
自分が好きな彼らのアルバムは1990年のメジャー・デビュー・アルバム「ディア23」だった。(日本発売は1993年)
アメリカはワシントン州シアトル出身のバンドだったので、グランジ系のノイジーでパンキッシュな音楽だとばかり思っていたのだが、ラジオから流れてきた音楽はその真逆なもので、メロディアスでアコースティックな音色を備えた音楽だった。
それで早速CDショップでこのアルバムを購入したのだが、やはり予想通りの素晴らしいもので何度も繰り返し聞き直したものである。
特にシングル・カットされた"Golden Blunders"や"Suddenly Mary"などは彼らの代表曲といえるもので、そういう佳曲がさり気なく収められているところが素晴らしい。
このアルバムは後のアルバムとは違ってアコースティック色が強く、今時の季節にはピッタリだと思う。"Golden Blunders"だけでなく"Apology"、"Any Other Way"など、メロディアスかつポップで、幻想的な雰囲気もたずさえている。
それ以外にもチープ・トリック系列の曲に属するようなハード・ポップな"Help Yourself"やビートルズ・テイストのする"Mrs. Green"、"Everyone Moves Away"、サイケデリックな要素を含む"Flood of Sunshine"など、捨て曲無しのアルバムでもある。全10曲という曲を絞り込んだことも成功の一因であろう。
そしてこのアルバムの成功で自信を得て制作、発表したアルバムが1993年の「フロスティング・オン・ザ・ビーター」だった。このアルバムは前作のような美しいメロディを基調にしたギター・ポップ・アルバムになっている。本当の意味でパワー・ポップというアルバムはこういうものを指すのであろう。
前回はアコースティック色の曲もあったのだが、このアルバムではエレクトリックでグイグイ押してくる。特に最初の3曲"Dream All Day"、"Solar Sister"、"Flavor of the Month"でリスナーの心を掴み、続く"Love Letter Boxes"、"Definite Door"でまさに“ポウジーズ・ワールド”に引き込まれてしまう。
人によってはこのアルバムこそが彼らの代表作という人もいるのだが、個人的にはどうにも賛成できない。このアルバムにも"Earlier Than Expected"、"Lights Out"というアコースティックな曲もあるのだが、全体的に前作より電気的装飾が目立ち、曲調もミディアム・テンポが多い。だから何となく平板でつかみ所が少ないように思えた。
ザ・ポウジーズは基本的には4人組のバンドなのだが、中心人物はジョン・オウアとケン・ストリングフェロウの2人である。この2人が1984年に高校で出会い、曲を作り、演奏するようになった。そして1988年に制作費50ドルで作成したカセット「フェイリャー」をマイナー・レーベルから発表してライヴを重ね、徐々に名前が知られるようになったのである。
90年代前半の彼らは3年ごとにアルバムを発表していたようで、1996年には「アメイジング・ディスグレイス」を発表している。
前作発表後、約1年にわたってライヴ活動を続けていた彼らだったが、その反動からかベース&ドラムスのリズム・セクションが脱退してしまい、新しいメンバーで録音したアルバムになった。だからというわけでもないだろうが、全体的に音が引き締まった感じがする。
またグランジの影響も受けたような曲もあれば、まさにパワー・ポップの洗礼を受けたような曲もあり、96年当時の彼らの力を最大限に発揮したような力作に仕上げられている。たとえばアルバム冒頭を飾る"Daily Mutilation"は前者のようであり、シングル・カットされた"Ontario"や"Please Return It"などは後者に属するだろう。
また"Hate Song"には、70年代のパワー・ポップ・バンドの代表だったチープ・トリックからギターのリック・ニールセンとボーカルのロビン・ザンダーが参加している。こういうところでも新旧の交流があったようだ。
アルバム全体としては前作の流れを引きついでいて、大きな変化はないと感じた。ただ輸入盤では15曲、日本国内盤でも16曲もあり、全部を聞き通すとお腹一杯になってしまった。似たような曲もあるので、余計なお世話だが、もう少し曲を絞り込んで印象度を強くした方がよかったのではないだろうか。
この時期のアメリカのバンドのアルバムはやたらと曲数が多くて、いい曲もあるのだが、全体としては散漫な印象を残してしまったようなアルバムが目立つ。時代の流れみたいなものもあったのだろうが、ちょっと残念だと思う。
このあと彼らは1998年に「サクセス」というアルバムを発表したのだが、そのタイトルとは裏腹に活動休止になり、メジャーとの契約も失ってしまった。
その後2000年代に入って数枚のアルバムを出しているようだが、残念ながら90年代のような成功は収めていない。
彼らのバンド名の“ポウジーズ”とは英語で“花”を意味するそうだ。できればバンド名のように、もう一度彼らなりの花を咲かせてほしいものである。
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