« ジェフ・リン | トップページ | REOスピードワゴン »

2012年10月30日 (火)

スティーヴィー・ニックス

 “美魔女”という言葉がある。いわゆる中年の女性で年齢を感じさせない美しい熟女を意味する言葉なのだが、この言葉にふさわしい女性シンガーを思い出した。それはフリートウッド・マックの女性シンガー、スティーヴィー・ニックスのことである。

 彼女は今年で64歳。もはや熟女という域を超えて老女といっても過言ではない年齢であるが、まだまだティラー・スイフトのような若いものには負けじと現役で頑張っている超有名ミュージシャンなのだ。Photo

 実は自分は彼女の隠れファンみたいなもので、1981年のソロ・アルバム「麗しのベラドンナ」から2001年の「トラブル・イン・シャングリラ」までのすべてのスタジオ・アルバムとベスト・アルバム1枚を持っている。90年代のアルバムは全盛期から比べると少し質は落ちるものの、81年から85年までの彼女のソロ・アルバムは今でも愛聴しているほど気に入っている。

 彼女は当時の恋人だったリンジー・バッキンガムと一緒に1975年にフリートウッド・マックに加入して、その妖精のような服装、歌い方、曲調、歌詞、そしてよく言えばハスキー、悪くいえば場末の飲み屋のママのような酒に潰れた声で、バンドを一躍世界的なスーパー・バンドに導いてしまった。

 その後リンジーと別れた彼女は、バンド・リーダーのミック・フリートウッドやイーグルスのドン・ヘンリー、ジョー・ウォルッシュ、スタジオ・ミュージシャンのワディ・ワクテルなど、数多くの有名人と浮名を流した。それでも彼女がいまだに現役を続けられているのも、そのようなゴシップを芸術まで昇華して、数多くのヒット作を出し続けることができたからだろう。

 そんな彼女が昨年に新作を発表していたとは全く知らなかった。これでは本当の彼女のファンとは言いがたい。情けないことだがファン返上だ。

 日本での国内盤は出ていないので、国内の契約は打ち切られたのだろう。以前は東芝EMIからワーナー傘下のリプリーズに移籍してアルバムを発表していたのだがその影響だろうか。彼女ほどの人気もあり、超有名なミュージシャンの契約を打ち切るとはワーナー・ジャパンの重役は何を考えているのだろうか。見る目がないというか、聞く耳がないというか、そんなことだから音楽業界も下り坂になり、CDも売れなくなってしまうのだろう。(とついつい他人に非を押し付けてしまった、いけないことだ)

 それはともかく、このアルバム、彼女にとっては7枚目のスタジオ・アルバムだが、かなり気合いが入っていて、久しぶりに充実した内容になっている。

 それは今までとは違い、二人のミュージシャンの応援があるからだ。一人はグレン・バラード。古くはマイケル・ジャクソンやアラニス・モリセット、最近ではケイティ・ペリーなどと仕事をしているアメリカ人のミュージシャンで、このスティーヴィーのアルバムでは、プロデューサーとして協力している。

 もう一人は元ユーリズミックスのデイヴ・スチュワートで、このアルバムではグレンとともにプロデュースと、スティーヴィーに7曲提供し、ギターやキーボード演奏も行っている。アルバムの裏ジャケットに彼女と一緒に写っているのがデイヴ・スチュワートだろう。

 このアルバムの素晴らしいところは、スティーヴィーの年齢を感じさせない歌声とともに、このデイヴの提供した楽曲が今までのスティーヴィーのアルバム曲と比べて何ら遜色のないもの、というよりもむしろ今まで以上に彼女のイメージにピッタリフィットしている点だろう。歌っているスティーヴィーも自分の色で染めているところも凄いのだが、そういう曲を提供できたデイヴの能力もまた素晴らしいと思う。2

 冒頭の"Secret Love"は1976年にお蔵入りになっていたものを引っ張り出して録音したもの。ミディアム・テンポで聞きやすい。ただ想定通りの音になっているのはマンネリといわれても仕方ないだろう。スティーヴィーの作詞作曲によるもので、当時のフリートウッド・マックはピーター・フランプトンの前座としてツアーをしていて、そのときに作られたものだという。禁じられた恋について歌われていて、如何にも恋多き女にふさわしいトラックである。

 続く"For What It's Worth"はアコースティック・サウンドで彼女の得意なカントリー色がよく出ている。クレジットを見るとトム・ペティ&ハートブレイカーズのマイク・キャンベルが曲を提供していた。プロデュースにも関わっていて、その影響なのだろう。

 アルバム・タイトル曲の"In Your Dreams"はアップ・テンポのロックン・ロールで、とても64歳の人が歌っているとは思えない。作曲はデイヴ、作詞はスティーヴィーだ。その次の曲"Wide Sargasso Sea"もデイヴの手によるもの。結構ハードな曲で、たぶんステージではこの曲をバックにスティーヴィーはひらひらと舞い踊るのだろう。

 "New Orleans"はスロー・バラードで、"Moonlight(A Vampire's Dream)"もややスローな曲。今時の季節にはピッタリの情緒的な雰囲気を漂わせている。久しぶりに彼女の水準の高い曲を聞いた感じだった。

 80年代の全盛期時代の曲を思い出させてくれるのが"Annabel Lee"で、アメリカの小説家エドガー・アラン・ポーの同名短編小説にインスパイアされて作ったという。盟友というか元恋人のワディ・ワクテルがギターで参加している。

 そして元デュオで元祖恋人でもあったリンジー・バッキンガムがコーラスとギターで全面参加している曲が"Soldier's Angel"である。この曲はなかなか出来上がらなくて、ある晩、スティーヴィーがリンジーに協力を求めたところからデュエットが実現したという。徐々に盛り上がり最後はリンジーのギターが爆発するのだろうと期待を持って聞いたのだが、残念ながら最後まで淡々と、おどろおどろしいままだった。やっぱりリンジーの気持ちが表れたのだろうか。

 後半の"Everybody Loves You"から最後の曲まではデイヴとの共作曲で占められていて、中間部でストリングスとギターが盛り上げてくれる"Everybody Loves You"やこのアルバムでは一番ロックしていてカッコいい"Ghosts Are Gone"、一転してスローな"You May Be The One"など聞き所満載である。

 そしてストリングスが美しい"Italian Summer"がクライマックスを飾る。まるで映画のエンディング・テーマのように、スティーヴィーは熱唱し、ストリングスが盛り上げている。曲自体も美しいし、この曲をアルバムの最後の方に配置した点も納得である。

 アンコールに応えるかのように、最後の曲"Cheaper Than Free"が静かに始まる。この曲ではデイヴとデュエットしていて、スティール・ギターも使用されカントリーっぽい雰囲気で締めくくられている。

 このアルバムを制作するときに、スティーヴィーは、1977年の歴史的名盤「噂」以来のコラボレーションだと語っているが、グレン・バラードとデイヴ・スチュワートとのトロイカ体制は久しぶりの彼女の制作意欲を刺激したのだろう。全体的に90年代以降では充実したアルバムになったし、ビルボードのチャートでもいきなり6位でチャートインしている。

 今作では全曲の作詞を手がけているが、作曲に関してはあまり関わっていない。できれば次作では全曲彼女のオリジナルを聞きたいと思っている。


« ジェフ・リン | トップページ | REOスピードワゴン »

ポップ・ミュージック」カテゴリの記事

コメント

 昔の恋人に行き会ったような・・・・気持ちが感じられるアーティクルを興味深く拝見しました。
 こんな気持ちになれる方が幸せってものでしょうね。私はあまり深入りしなかっただけに羨ましく思います。

投稿: 風呂井戸 | 2012年11月 2日 (金) 09時01分

 コメントありがとうございます。昔の彼女はもっと輝いていたのですが、やはり寄る年波には勝てず、随分と年をとってしまいました。
 本当は醜態を見せずに引退してほしいという気持ちもあるのですが、彼女のポリシーは首尾一貫していて、そういう意味では今もなお魔女なのかもしれません。重ねてコメントありがとうございました。

投稿: プロフェッサー・ケイ | 2012年11月 2日 (金) 23時41分

コメントを書く



(ウェブ上には掲載しません)




トラックバック

この記事のトラックバックURL:
http://app.f.cocolog-nifty.com/t/trackback/257206/47362931

この記事へのトラックバック一覧です: スティーヴィー・ニックス:

« ジェフ・リン | トップページ | REOスピードワゴン »