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2012年11月19日 (月)

NOSOUND

 話は半年以上に遡るのだが、自分に洋楽の素晴らしさを教えてくれた“師匠”からメールが来て、そこにはNOSOUNDというバンドのことについて述べられていた。そのときの“師匠”はそのバンドの音楽がいたく気に入っていたようで、是非ともすぐに聞きなさい、聞かないと一生後悔するぞみたいなことが書かれていた。

 “師匠”が気に入っている音楽なら、これはもう間違いのないことであり、自分にとっては至上命令と同じことでもあるので、さっそくアマゾンで購入して聞いてみた。その結果は…近年では稀に見る、“プログレッシヴ・ロック”という本来の意味にふさわしい音楽性が包含されていたのであった。

 NOSOUNDは基本的にはジアンカルロ・エラという人のソロ・プロジェクトから始まった。名前からもわかるように?イタリア人であり、イタリアから世界に向って発信された音楽だった。1998年頃のことである。

 最初は友人とデモ・テープを作っていて、彼は自分の音楽を“曲作りを通して、過去の記憶を鮮明に呼び起こすもの”と規定していた。
 2002年頃から自分の音楽をライヴで表現する必要に駆られたジアンカルロは、バンド形式でパフォーマンスを行うようになった。途中でギタリストとドラマーの交代はあったものの、現在も5人組のバンドとして活動を続けている。2
 それで自分が購入したアルバムは、彼らの最初の公式アルバムといわれている「ソル29」だった。
 このアルバムは世の中に3種類が流通していて、2005年のメジャー・デビュー・アルバムと2008年のリマスター盤、そして2010年のDVD付リマスター盤で、自分はそのうちのDVD付リマスター盤を手に入れて聞いみたのだが、これは確かに師匠の言うとおり幻想的、夢幻的、夢想的などという言葉がピッタリと来る音楽であり、久しぶりの必聴盤になってしまったのである。

 例えていうなら、「神秘」や「雲の影」のときのピンク・フロイドの演奏をブライアン・イーノがプロデュースしたような感じで、これだけでも自分は食指が動くのだが、色艶のある空間につぶやくような英語のボーカルがかぶさり、その印象度を忘れ難いものにしてくれるのである。Photo
 それに大事なことを忘れていたが、NOSOUNDは2008年にイギリスのプログレ・バンド、ポーキュパイン・ツリーの所属するKscopeと契約していて、このアルバムはそのレーベルから発表されている。ジアンカルロはポーキュパイン・ツリーのスティーヴン・ウィルソンやレーベル・メイトであるNo-Manのティム・ボウネスと親交があるようだ。因みにKscopeにはスウェーデンのアネクドテンや元ジャパンのリチャード・バービエリも所属している。

 このアルバムにはオリジナル10曲とボーナス・トラック3曲が収められていて、6分以上の長い曲の間に3分~4分程度(中には5分以上の曲もある)のアンビエントな曲が挿入されている。特に9分以上もある"The Moment  She Knew"ではギルモアばりの艶のあるギターとメロディアスなフレーズを堪能することができるし、アコースティック・ギターとメロトロンの調和が美しい"Overloaded"などは彼らの(正確にいえば彼の)最も特長的な部分といえるだろう。

 また9分以上もある"Idle End"や"Sol29"も名曲である。彼のボーカルは決してシャウトせず、呟くように歌うのだが、それがまた幻想的な演奏にピッタリと当てはまってしまう。2012年の現代でも、こういう良質な音楽が息づいていることにうれしくなってしまった。さらにはこれらの曲のイメージDVDも付属しているので、映像(フォト・ピクチャーみたいに固定されたもの)を見ながら彼らの曲を聞いていくと、自分が異空間にいるような錯覚にとらわれてしまうのだった。

 あまりのアルバムの素晴らしさに感動してしまい、次に2008年のアルバム「ライトダーク」を聞いてみた。このアルバムは2枚組CDになっていて、1枚は正規のアルバム、もう1枚はボーナスCDになっている。
 正確にいうと、このアルバムもまたリイシューされたもので、オリジナルはインターネットを通じてダウンロードされていた。それらの曲に音を付け加えて編集し、ボーナス・トラックとブックレットを添付してCD化したものである。3
 基本的な音作りとアルバム構成は前作と変わらない。ただ、「ソル29」はジアンカルロが基本的に一人で作ったものだが、この「ライトダーク」はバンド編成で録音したものである。

 ジアンカルロの演奏するエレクトリック・ギターがカラフルな色合いを醸し出す"Places Remained"、マリアンヌというゲスト・ミュージシャンのチェロとピアノの音色が印象的な"The Misplay"、繊細で華やかな音使いのある15分以上の大作"From Silence to Noise"など聞きどころは多い。

 またこのアルバムは前作よりもサウンド・コラージュというかアンビエントで前衛的な部分が少なくなり、全体的にすっきりとしている。それだけ曲作りに専念したということだろう。
 さらにボーナスCDの"Like the Elephant?"ではバリバリとギターを弾いているし、"You Said 'I am...'"ではキーボードをバックにしっとりと歌い上げている。今までのNOSOUNDとは少し色合いが異なるようだ。

 同じレコード会社ということでポーキュパイン・ツリーと共通しているところもあるのだが、ポーキュパイン・ツリーよりはキーボードの音が厚く、ドリーミィかつファンタジックだ。またギターの出番も、ここぞというときに効果的に鳴るのはNOSOUNDの方だと思う。

 まるで映画のサウンドトラックのような音場面もあるし、思わず聞き惚れてしまうサウンドもある。ただ全体的には起伏に乏しいところもあり、情熱的で激しいサウンドを求めるプログレ・ファンには物足りないかもしれない。

 しかしそれにしてもさすが“師匠”、常に一歩先を進んでいて、誰も知らないような、それでいて斬新な音楽を探す能力は、もはや人智を超えたものがある。これからも“師匠”の後を追いながら、刺激的な音楽を求めて行きたい。今年はペッカ・ポーヨラやNOSOUNDのような良質のプログレッシヴ・ロック・ミュージックにめぐり合えてよかったと実感している。


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プログレッシヴ・ロック」カテゴリの記事

コメント

 これは私の未知の世界で、しかも興味しんしんですね。いやはやあるんですね・・・・。
 しかもケイさんの喩えが、私にとって刺激的ですね、ピンク・フロイド、そしてイーノとくれば黙ってはいられません。早速注文して待機しています(笑い)。

投稿: 風呂井戸 | 2012年11月21日 (水) 12時49分

 コメントありがとうございます。このバンドは必ず気に入るのではないかと思っています。もし「狂気」が売れなかったら、ピンク・フロイドはこういう路線を走ったかもしれませんね。21世紀になってこういう音楽を聞けるとは思ってもみませんでした。
 ぜひ風呂井戸氏のブログでも取り上げてみて下さい。

投稿: プロフェッサー・ケイ | 2012年11月21日 (水) 20時54分

キシモトです。NOSOUNDを紹介してくれてありがとうございます。気に入ってくれて良かったです。
でもよく、彼らの事を調べましたね。自分は詳しいことは、ほとんど分かって無かったので参考になりました。
もう一枚 a sense of lossっていうアルバムも有りますね。基本的には、Lightdarkと大差はないですが。
あと、steve hackettのgenesis reyisitedⅡとかSquackettとか、彼の周辺が忙しいですね。結構おもしろかったです。それから、アドレスを変えました
前のパソコンがボロボロだったんで・・・・・・

投稿: キシモトです。 | 2012年11月22日 (木) 20時54分

 プロフェッサー・ケイさん、取り敢えず「sol29」から聴いてみました。なるほど”ピンク・フロイドの演奏をブライアン・イーノがプロデュースしたような感じ”という表現が面白い。ちょっと聴いたところでは、マリリオンの世界をアンビエントな雰囲気で仕上げたという感じでもあり、ヴォーカルは違いますが、ギターは、どちらかというとギルモアよりはスティーヴ・ロザリー寄りでしょうか?。これはイタリア・プログレっぽくない世界ですね。ちょっとスマートと言うか?。
 ニュー・アルバムも出そうなようですし、私にとっても楽しみを加えて頂いて有り難うございました。

投稿: 風呂井戸 | 2012年11月23日 (金) 20時58分

 もうアルバムが届いたのですか。早すぎますね。しかもちょっと聞いただけで、的確なコメントを寄せるところがさすが風呂井戸氏です。
 私にとっては、艶のあるギターはすべてギルモア流と表現するように思考回路が出来上がっているようで、その点では風呂井戸氏のほうが表現が正確なようです。
 nosoundはワールドワイドな活動を志向しているようで、だからスティーヴン・ウィルソンとも親交を結んでいるのでしょう。今後が楽しみなバンドですね。

投稿: プロフェッサー・ケイ | 2012年11月24日 (土) 20時55分

お久しぶりです、師匠殿。
 わざわざコメントを下さってありがとうございます。nosoundは稀にみる本来の意味でのプログレッシヴ・ロック・バンドです。こういう素晴らしいバンドを紹介してもらってよかったです。
 イタリアは英国とは違って、脈々とプログレの血がいまも流れているようです。今後も目が離せませんね。今後とも御指導をお願いします。

投稿: プロフェッサー・ケイ | 2012年11月25日 (日) 00時29分

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