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2012年12月14日 (金)

ムーン・サファリ

 いやはや、これはもうプログレッシヴ・ロック界の革命といっていい。あるいは意識変革の賜物か、はたまたアイデアの勝利か、いずれにしてもこれは新たなロックの地平の開拓であり、まさに“プログレッシヴ・ロック”という名にふさわしい音楽である。(しかしこれを果たしてプログレッシヴ・ロックと言っていいのかという疑念も浮かんでくるのもまた、確かだった)

 彼らの名はムーン・サファリ。スウェーデン出身の6人組である。同じスウェーデン出身のプログレッシヴ・ロック・バンドであるザ・フラワー・キングスとは異なる音楽性を有してはいるものの、これはスウェーデンというお国柄なのか、キャッチーで豊かなメロディとクラシカルで繊細な音楽性が同居しているという点では、共通性が見出せるだろう。

 ただこのムーン・サファリが優れているのは、これらの共通点の上に、彼らの独自性というものが見られる点だ。独自性というよりは、ユニークな点といっていいだろう。
 端的にいえば、イングランド・ダン&ジョン・フォードが、またはレターメンが、10分以上もある起承転結のある複雑な曲で歌っていると想像すれば、あるいはカラパナやオーリアンズがプログレ化したと考えれば理解しやすいだろう。Photo

 自分が聞いたのは「ラヴァーズ・エンド」という2010年に発表された彼らの通産3枚目のアルバムだった。日本ではこれが最初の国内盤ということで、今まで知名度が低かったのも仕方のないことだろう。しかし、これからは違う。「ラヴァーズ・エンド」の評判のよさに、セカンド・アルバム「ブルムルジャッド」も発売されたという。これでますます彼らの人気に拍車がかかるだろう。ひょっとしたら1stアルバムも発売されるかもしれない。

 「ラヴァーズ・エンド」は8曲で構成されていて、最初がアルバム・タイトル曲の"Lover's End part1"、最後の曲が"Lover's End part2"で、part2の方は、1分57秒の短い曲になっていてエピローグみたいな感じだ。

 最初にも書いたけれど、爽やかなコーラス・ポップ・グループが長い曲を歌っているようで、"Lover's End part1"ではちょうどスプリングスティーンの"Thunder Road"のイントロのように、軽やかなピアノをハーモニカが追いかけ、ボーカルやアコースティック・ギター、キーボード、コーラスが音を重ねていく。
 この曲を聞いただけでは誰も“プログレッシヴ・ロック”とは思いつかないだろう。コーラスはまるで10ccのようだし、メロディ・センスはアメリカ西海岸のAORである。強いてあげるならキーボードの音が豊かなことだろうか。エンディングはフルートが流れ、これだけならキャメルである。

 歌詞の方も恋人たちの破局を歌った純粋なラヴ・ソングだし、そこには社会の閉塞性や人生の不条理を歌うような思想性や倫理観などは微塵も見られない。
 そんなことを考えている間に、すぐに2曲目の"A Kid Called Panic"が始まった。この曲は13分58秒というアルバムの中では一番長いものになっていて、出だしでエレクトリック・ギターがファンファーレのように鳴り、続いてメロトロンが後ろでボーカルを支えている。

 躍動感のある軽快な曲で、こういう感じの曲によくあるように、長さを感じさせない。6分過ぎから急にドラムの手数が多くなり、キーボードがフィーチャーされる。リック・ウェイクマンを髣髴させるハモンド・オルガンを聞くと、やっぱりプログレなんだなあと安心したりする。
 キーボード・ソロを挟んでの後半は、爽やかなコーラスと起伏のある曲展開が続く。6人のうちキーボーディストとギタリストが2人ずついるので、サウンド的には厚みがあって問題はない。また全員が歌えるので、こういう複雑な曲も簡単にこなせるのだろう。

 アカペラ・コーラスで始まる"Southern Belle"は、日本の唱歌のような懐かしさと郷愁を誘う。3分46秒のバラードで、コーラス・パートが美しい。朝露に日光があたって輝いている蜘蛛の糸で絡め取られてしまいそうな楽曲だ。バックの演奏もほとんどキーボードのみでシンプルである。

 続く"The World's Best Dreamers"もメロディ・ラインが印象的で、幼い頃の憧憬みたいなことを思い出させてくれる魅力を備えている。このバンドが“プログレッシヴ・ロック・バンド”といえるのは、2人のキーボード演奏のせいだろう。この曲ではそれがよくわかる。ギターよりもキーボードが目立っているし、その手癖はリック・ウェイクマンに近いものがあるからだ。

 "New York City Summergirl"というタイトルだけを見ると、何となく単純なポップ・ソングみたいに聞こえるが、彼らが演奏すると複雑な様相を呈する。特にこの曲のコーラスはクィーン以上だと思うし、複雑な曲をいとも簡単に聞かせてくれる水準の高さはワールド・レベルを超えてスペース・クラスだ。また珍しく中間部では、長くはないギター・ソロを聞くことができる。

 いきなりメロトロンで始まる"Heartland"はプログレ色が期待できそうと思い聞いていたが、それまでになくギターも強調されていて、この曲だけ聞けば確かにプログレッシヴ・ロックの音楽といえるだろう。途中でのキーボードとギターは、スティーヴ・ハケット在籍時のジェネシスの何かの曲に似ていると思った。こういう曲ももっと聞きたいのだが、残念ながらわずか5分47秒で終わってしまうのである。

 万華鏡のような美しいコーラスから始まるのが"Crossed the Rubicon"。サビの部分が覚えやすく、これもまたポップだが、基本のメロディに様々な楽器がからんでいく様は何度聞いても飽きない。
 リード・シンガーが複数いるバンドは、その長所を生かせる曲作りができるから、聞く方も楽しみがある。コーラスだけで盛り上がれる音楽を聞いたのは久しぶりでもあった。後半にはサスティーンのよく効いたギター・ソロも耳にすることができる。このギター・ソロを聞く限りでは、なかなかのテクニシャンだと思った。

 そして最後を飾るのは"Lover's End part2"で、ボーカルとコーラス、それにアコースティック・ギターだけという構成が、それまでの音とボーカルの洪水と対照的だ。

 とにかく既成のプログレ・バンドの常識を破る音楽観を有している。ただ惜しむらくはそのアルバム・ジャケットのセンスだろう。できればもう少し絵画的というか、曲の印象に合うような爽やかなものにしてほしかったのだが、これはこれで違う意味で印象には残るだろう。Photo_2
 彼らもまた2013年1月12日ザ・フラワー・キングスとともに来日公演を行う。前日にはアネクドテンもフェスに参加するという。現在、本当のプログレッシヴ・ロックは北欧に活動の拠点があるようだ。今後とも目が離せないバンドたちである。

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