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2013年1月

2013年1月28日 (月)

グラス・ハマー

 前回、イエスの後任ボーカリストにグラス・ハマーのジョン・デイヴィソンが決まったことを書いたが、彼は当分の間、両方のバンドを掛け持ちするようだ。まあイエスのことだから、メンバーの出入りは激しいし、ひょっとしたらジョン・アンダーソン復帰のことも想定しているのかもしれない。賢明な選択だと思う。2

 それで彼の在籍しているグラス・ハマーというバンドのアルバムを1枚だけ持っていたので、今回は簡単にそれについて述べてみたい。

 自分の持っているアルバムは、2007年に発表された彼らの10枚目のスタジオ・アルバム「カルチャー・オブ・エセント」だった。
 彼らは1992年、アメリカのテネシー州で結成されたプログレッシヴ・ロック・バンドである。現在のメンバーは4人だが、基本的には2人のマルチ・ミュージシャン、フレッド・シェンデルとスティーヴ・バブを中心にして活動しているバンドだ。

 以前にも書いたのだが、アメリカでプログレッシヴ・ロック・バンドとして成功することは大変難しいことで、要するにその音楽性(もしくは芸術性)と商業性の両方がうまくバランスを保たないといけない。

 過去の例で言えば、カンサスは成功した部類に入ると思うが、それでも彼らの全盛期は1976年から80年までのわずか4年間だった。
 他のジャーニーやボストン、スティクスなども商業的には成功したが、純粋なプログレッシヴ・ロックではなく、アメリカ特有の乾いたハード・ロック・テイストを散りばめたものだった。
 現在成功しているドリーム・シアターにしても、メタルという要素を抜きにしては語れないだろう。

 だからイギリスのプログレ・バンドのように変拍子や転調を多く取り入れたり、ヴィンテージな鍵盤楽器を多用しているアメリカのバンドなどは、一部のファンには認められても、バンド自体は短命に終わってしまう。売れないと親会社もプッシュしてくれなくなってしまう。ある意味シビアなところだが、それがアメリカというビジネス社会なのだろう。

 逆に言えば、ジャーニーやドリーム・シアターなどはプログレ以外の要素を持ち込むことで、見事に成功したわけで、アメリカのプログレ・バンドの特長もしくは成功の要因はそこに垣間見えるのである。(そういうふうに進化しているのが、アメリカにおける“プログレッシヴ”という意味なのかもしれない。ただその“進化”には「ポップ」や「ヘヴィ・メタル」等の要素が欠かせないのである)

 グラス・ハマーはもう20年以上も活動を続けている息の長いバンドだが、商業的にはビッグな成功はしていない。たぶん前述したバンドのような成功は今後も見られないだろう。理由はイギリス的なプログレッシヴ・ロックの亜流だからである。

 よく言えば、イエスやジェネシスのよいところを集めたような音楽であり、穿った見方をすると、残念ながらオリジナリティがあまり見られないのである。

 この「カルチャー・オブ・エセント」というアルバムも同様で、全6曲、6分33秒から19分14秒まで合計約1時間9分という長尺なトータル・アルバム形式にはなっているのだが、これぞという印象的なフレーズや曲展開が少ないのである。Photo
 唯一の救いは当時のイエスのボーカリスト、ジョン・アンダーソンが参加していることだろうか。

 このアルバムは、1996年に実際に起きたエベレスト登頂遭難事件を題材にしていて、音楽的にもダークでヘヴィな質感だ。日本人女性を含む12人もの遭難者が出たということで映画化もされ、当時は世界的な関心事として注目を集めたらしい。

 このアルバムの1曲目は、そのことに関連してか、"South Side of the Sky"が収録されている。御存知のように、イエスのアルバム「こわれもの」に収められていた曲だ。確かに遭難したパーティは南側ルートを通って登頂しているので、"South Side"には間違いないだろう。

 ジョン・アンダーソンは、この曲と3曲目の"Life By Light"に参加していて、スキャット風のボーカルを聞かせてくれている。ただし"Life By Light"は非常に分かりやすいのだが、冒頭の曲はスージー・ボダノヴィッツという女性が歌っているので、一聴しただけではよくわからなかった。また曲自体もオリジナルとほとんど変わりがない。

 またこのアルバムには“アドニア・ストリング・トリオ”という女性3人による弦楽器トリオが彩りを添えていて、16分33秒の"Ember Without Name"や19分以上もある"Into Thin Air"で大活躍している。部分部分ではエレクトリック・ギターよりも目立っていて、哀愁感や寂寥感を醸し出すことで、アルバム全体を盛り上げている。

 ただ残念ながら長い曲になると、サウンドが饒舌すぎて散漫な印象を受けた。音を詰め込みすぎるからで、もう少し整理して、聞かせるべき音を中心に組み立てていけば、スッキリとまとまった感じが残ったのではないだろうか。

 いずれにしてもこのグラス・ハマーというバンドは、構築美を主体としたバンドらしく、分厚いキーボード群にロバート・フリップ的な早弾きやエディ・ジョブソンのようなバイオリンが切れ込んでくるという展開が基本のようだ。

 ところでなかなかジョン・デイヴィソンの名前が出てこないなあと思っている人もいるかもしれないが、悲しいかな、このアルバムにはジョン・デイヴィソンは参加していない。彼が参加したのは2009年からで、アルバムは2010年に発表された「イフ」が最初である。

 それでこの「カルチャー・オブ・エセント」のボーカルは、カール・グローヴスという人だった。彼はまたテネシー出身のセーラム・ヒルというプログレ・バンドのリーダーなので、やはり自身のバンドでの活動を望んだものと思われ、ジョンと交代したのだろう。現在はセッション・メンバー的にグラス・ハマーに参加している。

 いずれにしても商業的には大成功しているとは言いがたいのだが、こうして海を越えた異国の地でもアルバムが発売されていることからみれば、本国では根強い人気を保っているバンドではある。このアルバム以降は作風を少し変えてファンタジックでシンフォニックになっているというから、さらにその芸術性を高めているのであろう。

 願わくばメタル色やポップ志向にならずに、このまま芸術性と商業性を止揚していってほしい。21世紀のアメリカでも、プログレッシヴ・ロックは、いい意味で商売になるということを証明してほしいのである。

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2013年1月23日 (水)

チャボのこと

 先日、チャボのライブに行った。チャボといっても鶏のことではない。あの有名な日本のロック・ギタリスト&ボーカリストの仲井戸麗市のことだ。

 知っている人は知っていると思うけど、70年代はフォーク・デュオの古井戸の一員として、80年代に入ると、かの有名な日本のロック・バンド、RCサクセションで忌野清志郎と組んでいた人である。そのチャボがわざわざ九州の片田舎まで、しかもキャパ100名くらいの小さなハコに来てくれるというのだから、これは是が非でも行かなければと思い、ひとりで出かけたのだった。

 自分が着いたときは、すでに19時をまわっていて座るところもなかった。それでも2階の片隅に何とか一人分の場所を確保して割り込み、モスコミュールを頼んでチビリチビリやっていると、脇を通ってチャボがひとりでステージに降りてきた。以外と小柄で飄々としていて、とても62歳には見えなかった。

 さっそくアコースティック・ギターを抱えて、数曲を歌った。今回は新旧とりまぜて歌うぜといいながら、次々と歌っていった。
 今回のツアー・タイトルは「
Fighting Guitar MAN TOUR2013」というもので、今年の1月10日から3月18日まで、北は北海道苫小牧から南は九州熊本まで、たった一人のアコースティック・ライヴを行っているのだ。

 もともとがギタリストだから、アコースティック・ギターの腕前も当然のことながら素晴らしい。流れるようなフィンガリングや的確なピッキングは流石と唸らせるものがあるし、ボトルネックを小指にはめて演奏した曲もあった。Photo

 洋楽のカバー曲も歌った。ジョン・レノンの曲は演奏のみだったが、キャロル・キングの“You’ve Got a Friend”やブルース・スプリングスティーンの“Hungry Heart”などを、自分で意訳して歌っていた。

 曲の合間にチャボは、よくしゃべった。彼の音楽的な原点はアメリカン・ミュージックやブルーズだと自分は思っていたのだが、彼自身のコメントによると、最初のロック体験は、やはり60年代のブリティッシュ・ビート・バンドだったようだ。ビートルズ、ストーンズはもとより、キンクス、アニマルズ、ゼムなど、ラジオを通して当時の最先端の音楽から影響を受けながら、それからヤードバーズやロバート・ジョンソンに走ったと言っていた。当時の曲のワン・フレーズを奏でながら、チャボはそんなロック原体験を語ってくれたのである。

 
 彼やRCの歌詞の中に“ラジオ”という言葉がよく出てくるが、子どもの頃からラジオを通して音楽を耳にしていたようで、その影響がミュージシャンになっても残っているのだろう。

 
 また初めてギターを買ったのもその頃のようで、とあるデパートの楽器店に毎日通いつめて、お小遣いが貯まるまで待ってから、やっと手にしたのだという。毎月貯めて10ヶ月くらいかかったらしい。当時で6000円程度だったと言っていたような気がしたが、詳しいことは忘れてしまった。

 カバー曲以外にも、昨年結成したTHE DAYというバンドのことや、交流のあるミュージシャンについても話してくれた。THE DAYにはチャーや金子マリの息子も参加しているらしく、ある意味スーパー・バンドかもしれない。そんなことを言いながら1曲だけポエトリー・リーディングをやってくれた。

 夏木マリに贈った曲“キャデラック”も歌った。日本のジャニスにふさわしい曲を作ろうとしたみたいで、何でも夏木マリがキャデラックに乗っていたので、そういうタイトルにしたそうである。
 ちなみに彼女はパーカッショニストの斉藤ノブと結婚していて、その関係から曲を作り、レコーディングにも参加したと言っていた。レコーディングには村上ポンタや後藤次利、高中正義にミッキー吉野も参加したそうで、想像するだけで涎が出そうな風景だと思った。

 それから“さなえちゃん”は歌わなかった。正確には鼻歌交じりで、本当の初恋の人はさなえちゃんではなくて、担任のノブコ先生だったとか、どうでもいいエピソードを教えてくれたのだが、最初からリストには上がっていなかったようだった。

 最後に1回だけのお決まりのアンコールをやってくれたけれど、やはりこの歌は欠かせない。“雨上がりの夜空に”である。清志郎が、ストーンズのようなカッテイングがカッコいい曲がほしいねといって2人で作ったという。この曲だけはエレクトリック・ギターを使って歌った。しかも歌いながら2階まで来てくれた。

 もちろん聴いているお客のためでもあるが、天井を仰ぎながら
まだ歌い続けるぜとシャウトしていた。58歳で逝った盟友、清志郎のためでもあるのだろう。忘れられない感動的なシーンだった。2

 結局7時過ぎから10時近くまで、2時間半以上の熱いライヴだった。60を過ぎて、手を抜くことを覚えたぞと言いながらも、微塵もそんなそぶりが見られない熱演だった。
 こういうライヴでは、音楽を楽しめることは当然のことながら、それを演奏するミュージシャン自身の背景や生き様が垣間見えてくる。そこもまた醍醐味というところだろう。まだまだ現役感覚一杯のチャボだと思った。

 終わったあと、40分かけて歩いて帰った。帰りは寒かったけれども、心の中は何となく温かかったのを覚えている。

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2013年1月18日 (金)

イエスのライヴ・アルバム

 新年早々、といってもすでに2週間以上過ぎているのだが、ショックだったことがある。それはイエスのライヴ・アルバム「イン・ザ・プレゼント~ライヴ・フロム・リヨン」を聞いてしまったことだ。
 このアルバムは2011年に発表されたもので、当時の新生イエスのメンバーによって、フランスのリヨンでライヴ録音されたものである。このライヴ時でのメンバーは次の人たちだった。

クリス・スクワイア…ベース、ボーカル
スティーヴ・ハウ…ギター、ボーカル
アラン・ホワイト…ドラムス
オリヴァー・ウェイクマン…キーボード
ベノワ・デヴィッド…リード・ボーカル

 演奏日時は2009年の12月1日で、リード・ボーカルのジョン・アンダーソンとキーボーディストのリック・ウェイクマン脱退後の新メンバーでのツアーだった。

 新しいボーカリストだったカナダ人のベノワ・デヴィッドは1966年生まれ。2008年にイエスに加入したときは42歳だった。
 一方、リック・ウェイクマンの長男のオリヴァーは1972年生まれだから36歳時での参加だった。ただし彼は2008年から2010年までの約2年間の在籍にしか過ぎず、このライヴ・アルバムには彼の名前がクレジットされているものの、スタジオ・アルバムの「フライ・フロム・ヒア」ではジェフ・ダウンズに代わっている。

 それで話を元に戻すと、何がショックだったかということだった。あまりのショックで内容を忘れてしまっていた。とにかく1曲目の"Siberian Khatru"を聞いたときにそのショックが襲ってきたのだ。3
 とにかくリズムが遅い、遅すぎる。ひょっとしたらハウのギターにハエが、あるいはホワイトの握るスティックにトンボが止まっているのではないかと思えるくらい遅いのである。当然のことながら疾走感はないし、爽快感も湧かない。途中で眠り込んでもおかしくないサウンドなのだ。
 1996年のアルバム「キーズ・トゥ・アセンション」にもこの曲のライヴ・ヴァージョンが収められているが、それよりも遅く感じてしまった。ちなみに当時のメンバーは、イエス黄金期を支えた不動の5人だった。

 ハウやホワイトだけでなく、スクワイアのベースも一音一音を丁寧に弾いているわけでもないだろうに、バンド全体を牽引していくというような緊張感も無い。
 ただ意外に良かったのはデヴィッドのボーカルである。ジョン・アンダーソンを一回り若くしたような歌声はフレッシュでパワフルでもある。さすがイエスのコピー・バンドで歌っていただけはあるというものだった。

 このベノワ・デヴィッドもこの時点ではほぼ1年間バンドとともに活動し、ツアーもこなしていたわけだから、経験不足ということも無いだろう。ひょっとしたら彼のためにわざとテンポを落として演奏したのではないかと思ったりもしたのだが、どうやらそれも違うらしい。それではこの遅さは一体何なのだろうか。

 また"Siberian Khatru"だけでなく"Yours is No Disgrace"もまたスローである。イエスのようなサウンドの構築美を誇るバンドにとっては、このことは致命的なことだと思うのである。いっそアラン・ホワイトをビル・ブラッフォードに、スティーヴ・ハウをトレヴァー・ラビンに換えてみたらどうだろうか。少なくともこんな演奏をすることはないと思う。

 スティーヴ・ハウといえば、たいてい"The Clap"か"Ram"をライヴで演奏するのだが、このアルバムでは"Corkscrew"と"Second Initial"を披露している。両方ともアコースティック作品なのだが、前者は"Mood For a Day"のような哀愁漂う叙情的な曲。後者はスリリングな"The Clap"を5倍遅くして演奏したような曲で、客席の拍手も途中からフェイド・アウトしてしまうほどだった。

 悲しいのは名曲"Heart of the Sunrise"でのハウの演奏である。この曲で一番の聞かせ所でもあるキーボードとギターの掛け合いの部分や、ギターが畳み掛けるところでは一音ずつピッキングしていない。音をスライドして、あるいはスラーなどで誤魔化している。ここは機械のように正確にピッキングしてほしかった。それがこのバンドのウリだったのではないだろうか。

 あまりケチをつけても申し訳ない。このアルバムにおけるリックの息子のオリヴァー・ウェイクマンの演奏については及第点だと思うし、デヴィッドのボーカルも既述したように若々しくてよい。

 また1980年のアルバム「ドラマ」から"Tempus Fugit"と"Machine Messiah"の2曲が演奏されていて、これはファンにとってはうれしい事だと思う。ジョン・アンダーソン在籍時では、おそらく自分の持ち歌、関与した歌ではないからということで拒否されていただろう。こうして陽の目を見ることができて個人的にもうれしい限りである。

 イエスは21世紀に入っても「シンフォニック・イエス」(01年)や「ライヴ・アット・モントルー」(03年)などで、ライヴを披露していて、そこではもう少しまともな演奏を見聞することができる。しかし何といっても彼らのベスト・ライヴ・テイクは1973年に発表されたライヴ・アルバム「イエスソングス」だろう。2
 ここでのオープニング"Firebird"から続く"Siberian Khatru"、"Heart of the Sunrise"での演奏は、文句なしに素晴らしい。まさにたった5人でレコードと同じ寸分の狂いもなく演奏するその姿は、ファンの感涙を誘うものだった。

 その頃と同じ演奏は望むべくもないが、せめてそれに近づくような高水準のサウンドをお願いしたいものである。そう考えればローリング・ストーンズは音楽のジャンルは違うとはいえ、たいしたものだと思う。

 残念なことにベノワ・デヴィッドは呼吸器障害で2012年の2月にバンドを離れて、代わりにアメリカのプログレ・バンド、グラス・ハマーのボーカリストであるジョン・デイヴィソンが歌うようになった。

 今年はまたバンド結成45周年の佳節でもあるので、ジョン・デイヴィソンを迎えてのニュー・アルバムも予定されているらしい。また、今春のアメリカ・ツアーでは、おそらくクリス・スクワイアの意向だろうが、1回のコンサートで「サード・アルバム」、「危機」、「究極」の3枚のアルバムを再演するという彼らにとって初の試みが行われるという。

 ひょっとしたら45周年ということで、それらのライヴ音源がアルバム化されるかもしれないが、願わくば、何度も言って申し訳ないが、少しでも全盛期に近いサウンドを期待しているのだった。

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2013年1月13日 (日)

プログ・ロック(2)

 ディスク2の10曲目は"No Chance"という曲で、ウォーホースが演奏している。自分はてっきりパトリック・モラーツがいたバンドだと思っていたのだが、実際は間違いで、彼はメインホースというバンドだった。
 ウォーホースは元ディープ・パープルのオリジナル・メンバーだったベーシストのニック・シンパーが結成したもので、一時期リック・ウェイクマンも在籍していたことがあった。
 
 この"No Chance"という曲は1970年に発表された彼らのデビュー・アルバムにあり、ボーカルはのちにリックのソロ・アルバムにも参加したアシュリー・ホルトが担当している。ちなみに華麗なハモンド・オルガンはリックの後任のフランク・ウィルソンという人が演奏している。全体の音楽性はニックのいた当時のディープ・パープルとあまり変わりはないようだ。ニックは自分の居場所を確保したかったのだろう。

 そしてその次の曲が何の因果か、これもディープ・パープルを脱退したイアン・ギラン・バンドの曲"Child in Time"で、ちょっとプログレとは違うような気がしてならない。1976年の同名タイトルのアルバムから。
 
 ラストの2曲は、これこそ80年代以降のプログレッシヴ・ロックといっていい曲で、最初がIQの"Born Brilliant"、次がトウェルフス・ナイトの"Creepshow"である。

 両バンドとも、イギリスの80年代以降の“ポンプ・ロック”と呼ばれた世代に属していて、あのマリリオンやペンドラゴンとほぼ同世代のバンドだ。ただ残念ながらこれら2つのバンドのような世界的な成功はしていない。

 IQの方は一時国内盤が出ていて、自分は「エヴァ」という5枚目のスタジオ・アルバムを持っているが、これがまたまた昔のジェネシスを髣髴させてくれるほど素晴らしい内容になっている。特にボーカリストのピーター・ニコルズのスィンギング・スタイルは驚くほどピーター・ガブリエルに似ている。Iq

 一方のトウェルフス・ナイトの方は自分は名前しか知らなくて、音源を聞くのはこれが初めてだった。ここでは10分以上のライヴ・ヴァージョンが収められていて、全体的な印象としては、やはりピーター・ガブリエル時代のジェネシスに似ている。特にこの曲はライヴのせいか、シアトリカルなボーカルと分厚いキーボードの音、最後に爆発するエモーショナルなギターと聞かせところが満載である。
 またこの曲は彼らの代表曲の1つらしく、1982年当時から歌われているもので、ボーカリストのジェフ・マンのファルセットが印象的でもある。残念ながら彼は1993年の2月に肝臓ガンで亡くなった。バンドは2007年に新メンバーを入れて再結成されている。

 いよいよ最後のディスク3に移る。1曲目は“キーボードの魔術師”リック・ウェイクマンの最初のソロ・アルバム「ヘンリー8世の6人の妻」から"Anne of Cleves"である。最初から7分50秒の長い曲で、中学生の頃このアルバムを聞いて感動したことを思い出した。確かに華麗な指さばきで、今聞いても新鮮に感じる。

 2曲目はコロッセウムの"The Kettle"で、1969年のアルバム「ヴァレンタイン組曲」の冒頭の曲。ギターはデイヴ・クレムソン、キーボードにデイヴ・グリーンスレイド、ドラムスにはジョン・ハインズマン他が配置され、見事なジャズ・ロックを展開している。これにボーカリストとしてクリス・ファーロウが加わるわけだから、まさに無敵のスーパー・バンドである。これも欧米人からすればプログレッシヴ・ロックなのだろう。

 続いてスピリットの"Fresh Garbage"が始まる。スピリットはロサンゼルス出身のサイケデリック・ロック・バンドで、あのジミー・ペイジも影響を受けたとされ、この曲は初期のレッド・ゼッペリンのライヴ・レパートリーの1つにもなっていたらしい。バンド・メンバーのギタリスト、ランディ・カリフォルニアは、1966年頃ジミ・ヘンドリックスと一緒のバンド、ザ・ブルー・フレイムでプレイしていたと言われている。

 "MacArthur Park"はベガーズ・オペラの曲で、1972年の彼らの3枚目のアルバム「宇宙の探訪者」に収められているもの。あのドナ・サマーも歌ったポピュラーな曲でもある。ここでは8分20秒にわたって、パワフルなボーカルとクラシカルなハープシコードが織り成すサウンドを味わうことができる。以前このブログにも彼らのことを紹介させてもらったので、詳細は省略したい。

 ムーディー・ブルーズの1969年のアルバム「子どもたちの子どもたちの子どもたちへ」に収められていた曲が"Higher and Higher"だが、個人的にはこの曲よりも1971年のアルバム「童夢」の中の"Emily's Song"か"The Story in Your Eyes"を入れてほしかった。この曲"Higher and Higher"は、アルバムの冒頭にあって、アルバム全体の導入部的な役割を果たしていると思ったからだ。

 ムーディー・ブルーズの次は、ユーライア・ヒープの"Rainbow Demon"で、1972年の彼らの代表作「悪魔と魔法使い」の中の曲である。これもハード・ロックで語られる分野の曲だと思う。
 ダブル・キーボードで有名なバンド、グリーンスレイドの"Beside Manners Are Extra"は、どちらかというと聞きやすいポップなバラードである。中盤のメロトロンの音が哀愁を誘う。

 8曲目の"O Caroline"はマッチング・モウルの1972年のアルバム「そっくりモグラ」から。メロトロンで演奏されるオーボエの音がたおやかな印象を与えてくれる。カンタベリー系といえばジャズ・ロックが連想されるのだが、同じカンタベリー系でもソフト・マシーンとはやや異なっていて、マッチング・モウルの方が音楽性が幅広い気がする。

 アーサー・ブラウンといえば、クレイジー・ワールドが相場だが、ここではアーサー・ブラウンがクレイジー・ワールドの次に結成したバンド、キングダム・カムの1973年のシングル"Spirit of Joy"が収録されている。3分あまりの短い曲で、かつてのようなおどろおどろしさは影を潜めている。

 10曲目はバークレイ・ジェームス・ハーヴェストが1998年に2つに分裂した片割れの方の演奏で、曲自体は1974年のアルバム「エヴリワン・イズ・エヴリバディ・エルス」の中の"Child of the Universe"。その1999年のライヴ・ヴァージョンになっている。ジョン・リーズの作品なので、自分のバンド、ジョン・リーズ・バークレイ・ジェームス・ハーヴェストで演奏しても問題はないのだろう。

 ランニング・マンというバンドもよくわからないのだが、ネオン・レーベルに所属していた3人組バンドのようだ。重く引きずるようなリズム・セクションとブルーズに影響されたギタリストのいるブリティッシュ・ロックをやっていて、たぶん1972年のアルバム1枚のみで解散したと記憶している。この"Running Man"という曲もそのアルバムの最後に収められている3分あまりの短い曲。これもプログレではなくて、ブルーズ・ロックだろう。

 "Dust"というしっとりとしたバラードを歌うのはロブ・トンプソン。彼は2003年に結成されたザ・ストーリーズという南ウェールズ出身のシンガー兼ギタリストでもある。バンドは70年代のウエスト・コースト風の音楽をやっていた。彼もまた基本的にはシンガー・ソングライターで、この曲でも感情を込めて歌いあげている。曲調はデイヴ・ギルモアのソロ作品に似ているが、ギター・ソロは含まれていない。この曲がプログレなら、ドノバンなどもプログレ・ミュージシャンになれるだろう。

 やっと最後の曲にたどり着いた。最後を締めるのは、マリリオンの"You're Gone"だ。これは2004年に全英のシングル・チャートで7位まで上昇した。最近の彼らの特長でもある美しいメロディを基調としたヒット曲でもある。彼らの13枚目のスタジオ・アルバム「マーブルズ」に収録されている。
 ちなみに昨年発表された彼らのアルバム「サウンズ・ザット・キャント・ビー・メイド」の国内盤には、この曲のライヴ・ヴァージョンがボーナス・トラックとして収められている。

 こうしてみると、日本人のプログレ観と欧米人のプログレ観は少し違うようで、サイケデリックな音楽やキーボードのあるハード・ロック、ジャズ・ロック・バンドもプログレッシヴ・ロックの範疇に入れられてしまう。ひょっとしたらクリームや初期のディープ・パープルもプログレッシヴ・ロックなのかもしれない。

 結局、欧米人と日本人のプログレ観のどちらが正しいというものではない。日本人はある程度ジャンル分けを好むが、欧米人は"Progressive"(進歩的な)という言葉の本来の意味にしたがって編集するのだろう。またバンド全体で見るのではなく、曲ごとに判断して、同じバンドの曲でも、これはプログレ、これはヘヴィ・メタと考えているのではないだろうか。

 とにかく1000円でいろんなことが学べた3枚組セットだった。できれば続編を期待したいし、それが無理なら同じような編集盤を探してみようと思っている。でも一番いいのは、自分なりのコンピレーション・アルバムを作って聞くことだろう。世界でひとつしかない大切なアルバムになるからである。

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2013年1月 8日 (火)

プログ・ロック

 日本ではプログレッシヴ・ロックを“プログレ”と呼び、外国では“プログ”と呼んでいることは、既に述べた。それで今回はその“プログ”のコンピレーション・アルバムを紹介しようと思う。

 このアルバムは3枚組で、しかも1000円という安さだった。もちろん輸入盤なのだが、各アルバムに13曲もしくは14曲も収められていて、合計40曲というヴォリュームだ。これで1000円なのだから、自分としては購入しない方がおかしいというものだった。

 このCDは海外の“グレイテスト Eレーベル”という怪しいところから出ていて、輸入盤だから、もちろん歌詞カードや解説の類いは一切ついていない。でもそれを補って余りある内容だと思う。
 それにこのグレイテスト・エヴァ・シリーズには、“プログ・ロック”以外にも、“ヘヴィ・メタル”や“ロカビリー”、“アコースティック”など様々なジャンルが用意されていて、その中には年代別のヒット曲で編成された“80's”、“90's”などもある。カタログを見ているだけでも結構楽しかった。Photo
 それではディスクごとに、どんな曲が収められているのか見ていくことにしよう。まずディスク1の1曲目にはイエスの"Roundabout"が置かれている。ただしシングル・バージョンということで、実際は8分以上ある曲が、3分少々で終わっていて、聞いていて奇妙な感じがした。このシングル、アメリカでは13位まで上昇している。

 2曲目はキャラヴァンの"In the Land of Grey and Pink"で、いわゆるカンタベリー系の音楽である。デイヴ・シンクレアのキーボードの音が懐かしかった。コンピレーション・アルバムの場合、知っている曲が登場するとホッとしてしまう。

 続いてアトミック・ルースターの"I Can't Take No More"なのだが、この曲が果たして日本での基準でいう“プログレ”に値するかは、判断が難しいところである。曲自体は1970年に発表された彼らの2ndアルバム「デス・ウォークス・ビハインド・ユー」に収められていて、ジョン・デュ・カンのギターがフィーチャーされている。バックのフレーズがE.L.O.の"Don't Bring Me Down"に引用されたのではないかと思うくらいよく似ている。ちなみにドラムスはカール・パーマーではなく、ポール・ハモンドが担当している。

 4曲目からはキャメルの"Metrognome"、ジェファーソン・エアプレインの"White Rabbit"、アージェントの"Hold Your Head Up"、ブルー・オイスター・カルトの"The Reaper"と続く。イギリスだけでなく、アメリカのバンドの曲も収録されていて、“プログレ”というよりも“ヘヴィ・メタル”や“サイケデリック”系のバンドの曲も聞くことができる。この辺が日本と欧米とのプログレ観の違いを象徴しているようだ。

 キャメルとアージェントはともかく、ジェファーソン・エアプレインとブルー・オイスター・カルトは少し違うと思うのだが…"White Rabbit"はサイケデリック・ロックの範疇に入るだろうし、"The Reaper"はヘヴィ・メタルの元祖といわれたブルー・オイスター・カルトの数少ないヒット曲だからだ。ちなみにこの曲は1976年のアルバム「タロットの呪い」からシングル・カットされ、全米12位まで上昇した。

 トラフィックの7分以上もある"Every Mother's Son"のあとは、クィンテセンスの"Sea of Immortality"が来ている。このバンドの音は、いわゆるインド音楽に影響を受けたラーガ・ロックで、1969年の1stアルバムは7人で制作されていたが、この曲が収められている2ndの「クィンテセンス」はシタール奏者が抜けた6人で演奏している。

 この曲を聞く限りでは、そんなにインド風なところはなく、ギターがグニャグニャした演奏を繰り返し、フルートが幻想的な雰囲気を醸し出している。
 結局、彼らは5枚のオリジナル・アルバムを発表して解散したが、現在は再び活動しているようだ。

 10曲目からはタンジェリン・ドリームの1986年の作品"Dolphin Dance"で始まり、以下、ジャズ・ロックに分類されるアフェニティの"Three Sisters"、ズィーブラの"Amuso Fi"、ナザレスの"This Flight Tonight"と続き、最後はギャラハドの"Empires Never Last"で締めくくられている。

 タンジェリン・ドリームは比較的新しい曲のせいか、ギターも使用されポップ度も高い。アフィニティは公式音源としては、ヴァーティゴ・レーベルに1枚しかスタジオ・アルバムを残していないし、ナザレスは基本ハード・ロック・バンドである。

 アフィニティの曲は1970年のアルバムからで、元英語教師のリンダ・ホイルのボーカルとバックの演奏、特にオルガンによるプレイがよくマッチしている。彼らはセカンド・アルバム制作中に解散してしまった。

 ナザレスの曲はジョニ・ミッチェルのカバーで、1973年の「威光そして栄誉」からシングル・カットされたもの。もともとこのバンドはスコットランド出身ながらアメリカ志向が強く、バンド名自体もザ・バンドの曲"The Weight"の歌詞から引用されたといわれている。ガンズ・アンド・ローゼズのボーカリスト、アクセル・ローズのフェイヴァレット・バンドとしても有名だ。

 またズィーブラはオシビサのようなアフロ・ロック・バンド。彼らは1974年にデビューしたイギリスのバンドで、この曲ではコンガやサックスが強調されファンクっぽいところもある。

 最後のギャラハドは、遅れてきたイギリスのプログレ・バンドで1985年にデビューしている。8枚のスタジオ・アルバムや4枚のライヴ・アルバムを発表していて、人気はあるがメンバーの出入りが激しい。理由は本国でのメジャー・レーベルとの契約が取れていないからだろう。
 彼らはライヴを中心に活動していて、アルバムはポーランドなどの海外のレーベルやインターネットを通じて発表している。音楽はプログレだが、その精神はパンクなのかもしれない。ここでもマリリオンのように、9分以上に渡って非常に密度の濃い演奏を展開している。こういうバンドこそもっと評価されていいと思う。

 さて今度はディスク2を見てみよう。1曲目はヴァンゲリスが在籍していたアフロディテス・チャイルドの"The Four Horsemen"で、彼らの最高傑作と呼ばれる1972年の「666」に収められているもの。当時は4人組だったためか、ヴァンゲリス一人が目立つということはなく、むしろ間奏のエレクトリック・ギターが効果的に鳴り響いているほどだ。

 続いてカーヴド・エアの2ndアルバムから"Back Street Luv"、マハビシュヌ・オーケストラのデビュー・アルバムの1曲目"Meeting of the Spirits"、ジェントル・ジャイアントの2ndから"Pantagruel's Nativity"が収められていて、この中ではやはりマハビシュヌ・オーケストラでのジョン・マクラフリンとヤン・ハマーの演奏は群を抜いている。

 カーヴド・エアの曲は彼らの2ndアルバムからシングル・カットされたもので、1971年に全英4位を記録した。モンクマンのキーボードやダリル・ウェイのバイオリンよりも、歌姫ソーニャ・クリスティーナの歌声が清々しい。

 ジェントル・ジャイアントの曲も1971年の作品。デビュー盤以上に実験的で技巧的な曲展開になっていて、70年代前半の彼らの音楽が様々なアイデアや実験精神に満ち溢れていたことがわかる。個人的には好みではないものの、玄人受けする音楽には間違いないだろう。

 5曲目からはプログレというよりはハード・ロック系、サイケデリック系の曲が並ぶ。まずはセンセイショナル・アレックス・ハーヴェイ・バンドの"Faith Healer"で、この曲7分以上もあるのだが、イントロが2分以上と長く、歌が聞こえてくるまでが異様に待たされた。アレックスがこのバンドでデビューしたのが37歳だったからか、リスナーにも待たされることを強要しているのだろうか。1973年の彼らの2ndアルバムからの作品。

 続いてスプーキィ・トゥースの"Lost in My Dream"。このバンドはフォーリナーのミック・ジョーンズが在籍していていたことで有名だが、この曲は1969年、第1期のメンバーでの最後のアルバム「スプーキー・トゥー」に収められているもの。したがってミック・ジョーンズは参加していない。作詞・作曲はゲイリー・ライトである。

 次はアメリカからエドガー・ウィンター・グループの"Frankenstein"で、これはこのブログを訪れる人なら知っているだろう。1973年に全米No.1になっている。このコンピレーションの中で全米No.1になった唯一の曲だ。

 イギリスのサイケデリック・バンド、ホークウインドの曲"Shot Down in the Night"も収められている。これは1980年の作品。このコンピレーションではシングル・ヴァージョンになっていて、イギリスでは59位まで上昇している。躍動感や疾走感のあるノリのよい曲調で、車の中で聞くには最適だと思う。

 このアルバムの中でよくわからないのが、コンソルティウムの"Where"という曲で、まずこのバンド自体がよく分からない。イギリスには同名のバンドがいて、60年代の終りから“ウエスト・コースト・コンソルティウム”と名乗って活動していたが、その名前の通り、ウエスト・コースト風のビーチ・ボーイズのようなハーモニーを重視したポップ・グループだった。
 
 やがて70年代に入ってから“ウエスト・コースト”を取って“コンソルティウム”と名乗るようになり、キーボードを重視したロック・バンドに転身したのだが、曲のクレジットを見る限りそのバンドのことではなさそうだ。またこの曲を聞く限りは、キーボードよりもギターを重視した7分以上のロック・サウンドになっていて、力の入ったボーカルとメロディアスなギター演奏を味わうことができるから、どうみても上記のバンドではない。今後さらに調査していきたいと思っている。(To Be Continued)

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2013年1月 3日 (木)

ザ・プログ・コレクティヴ

 2013年、平成25年が明けました。おめでとうございます。昨年よりも充実したブログになるように、今年も頑張って行きたいと思っています。
 最近は、というよりも昔から、読む人のことも考えずに、自分の信じる道を突き進もうとしている。ますます自己満足の内容になっているのは分かっているのだが、こうなったら行くところまで行くぞという感じだ。

 それで新年第1回目は、相も変わらず昨年から引き続きのプログレッシヴ・ロックである。ただ、その辺のマイナーなプログレ音楽ではなく、新年にふさわしい豪華なアルバムを紹介したい。

 日本ではプログレッシヴ・ロックを略して“プログレ”と称しているが、欧米では“プログ”と言うらしい。その名前を堂々と掲げたプロジェクト・チームが、昨年アルバムを発表した。それが一部で話題を呼んだ「ザ・プログ・コレクティヴ」なのである。

 このプロジェクトの中心メンバーは、アメリカ人のビリー・シャーウッドだ。知っている人は知っているけれど、あのイエスに1997年から2000年までに在籍していたマルチ・プレイヤーである。
 彼はラスヴェガスで1965年に生まれた。今年で48歳になる。まだまだ若いミュージシャンだが、プロ・デビューは16歳の頃だという。兄とその友人とでロジックというバンドを結成し、A&Mからスティーヴ・ポーカロとデヴィッド・ペイチのプロデュースでアルバムを発表したのだが、残念ながら売れなかった。

 その後、彼はストーン・フューリーというハード・ロック・バンドのギタリスト、ブルース・ゴーディと、映画音楽家ジョン・ウィリアムスの息子、マーク・ウィリアムスらとワールド・トレイドを結成し活動を始めた。1989年にはアルバムも発表したが、その時期と前後してイエスのベーシスト、クリス・スクワイアから声をかけられ一緒にデモ・テープを制作している。その頃のイエスは、ABW&Hと90125イエスに分裂していて、ボーカリストとキーボーディストを失った90125イエスがビリーたちに声をかけたかたちになったのである。

 残念ながらビリーがイエスのリード・ボーカルを担当することはなかったものの、8人組イエスが終了した後は、サポート・メンバーとしてツアーに参加したり、ワールド・トレイドのアルバムにイエスのメンバーが参加したりと、交流を続けていた。
 そのせいかどうかは不明だが、リック・ウェイクマンが4度目の脱退したあとに、クリス・スクワイアの口利きで?イエスの正式メンバーに昇格した。

 正確にいうと、クリス・スクワイアのソロ・アルバムにビリーが参加して制作されていたからで、そのうちの何曲かがイエスの1997年のアルバム「オープン・ユア・アイズ」に使用されている。

 ビリーは俗にいうところのマルチ・ミュージシャンで、作詞・作曲し、歌も歌えて、ギターやベース、キーボード、はてはドラムスまで何でもこなすことができる。しかもいずれもプロ級の腕前だから、当時のイエスのマネージメント側も放っておかなかったのだろう。

 彼はまたワーカホリックでもあり、自身のバンドのアルバムからトニー・ケイとのバンドであるサーカ、トニーと元TOTOのボーカリスト、ボビー・キンボールとのユニットYOSO、またプロデューサー、アレンジャーとしてはピンク・フロイド、イエス、ジェネシス、クィーン、レッド・ゼッペリン、AC/DC等々のトリビュート・アルバムに関わっている。Photo_2

 一般的にマルチ・ミュージシャンはワーカホリックが多いようで、古くはジェフ・リンから新しいところではロイネ・ストルトなど、何でもできる人は何でもトライしてみようと思うのだろう。

 それで最近ではスーパートランプのトリビュート・アルバム「ソングス・オブ・ザ・センチュリー」を担当している。ビリーは、ロジック時代にスーパートランプのオープニング・アクトを務めていたという経緯もあったので、その恩返しみたいな気持ちもあったのだろう。
 そのトリビュート・アルバムに参加していた有名ミュージシャンの一部を引っ張ってきて、一緒に制作したアルバムが「ザ・プログ・コレクティヴ」だった。だからこのアルバムには、ビリーが書いた7曲に多くのミュージシャンが参加している。

 冒頭の曲"The Laws of Nature"のボーカルはジョン・ウェットン、ベース&スティックはトニー・レヴィン、バイオリンは元マハヴィシュヌ・オーケストラのジェリー・グッドマンで、それ以外のギター、キーボード、ドラムス、バッキング・ボーカルはすべてビリーが担当している。途中のジェリーの演奏するバイオリンは躍動感があり、華麗かつ幻想的で、このアルバムの中でも白眉の出来である。

 2曲目"Over Again"は9分以上もある長い曲で、キーボードはジェフ・ダウンズ、リード・ボーカルはリチャード・ペイジである。リチャード・ペイジという人は、1985年に全米No.1になった"Kyrie"でメジャーになったバンド、Mr.ミスターのベース&ボーカルだった人で、TOTOやシカゴに誘われるほど実力のあるミュージシャンだ。このバンドのドラマーだったパット・マステロットはのちにキング・クリムゾンに加入している。

 この曲でもやはりゲスト・ミュージシャンに見せ場を(聞かせ所)を用意しているようで、途中のジェフのキーボード・ソロ(シンセサイザーとハモンド・オルガン)は短い時間ながらも、スリリングな展開を見せてくれる。ただボーカルがバックの演奏に対して少し弱いようだ。マックス・ベーコンのような、もっとパワフルなボーカリストだったら、この曲の印象もかなり変わっていただろう。

 "The Technical Divide"のボーカルは、何とアラン・パーソンズ、ベースはクリス・スクワイアでキーボードは元E・ストリート・バンドのデヴィッド・サンシャス、リード・ギターは元ジェントル・ジャイアントのゲイリー・グリーンという構成だ。曲自体は疾走感があり、起承転結も含まれていて、聞きがいはあるのだが、ボーカルが弱い。せめてクリス・レインボウかロジャー・ホジソンあたりに歌わせて欲しかったし、ギター、キーボードもトレヴァー・ラビンかキース・エマーソンあたりだともっと盛り上がっただろう。曲はいいので、人選ミスか?

 "Social Circles"のボーカルはアニー・ハズラム、リード・ギターはピーター・バンクス。この組み合わせが興味深い。ゆったりとしたミドル・テンポの曲で、アルバム全体の中でも息継ぎになる感じだ。間奏のブルージィで音数の少ないバンクスのギターが渋くてカッコいい。全体的には◎だと思う。

 5曲目の"Buried Beneath"でやっと御本人ビリーのボーカルを聞くことができた。キーボードはラリー・ファスト、リード・ギターはスティーヴ・ヒレッジで、リズミカルでテクノっぽいフレーズを刻み、例の空間に漂うようなギターが懐かしく聞こえてくる。
 キーボード担当のラリー・ファストはアメリカ人で、70年代と80年代はシナジーというプロジェクトで活動したあと、ドイツのプログレ・バンド、ネクターやピーター・ガブリエルのアルバムに参加した。クィーンやボストンの"No Synthesizers"に対抗して"No Guitars"というクレジットをアルバムに記していたこともあるほど、こだわりを持ったキーボーディストでもある。ここでも全編に渡り曲をリードし、途中ではピアノ・ソロも披露している。

 "Follow the Signs"は90年代のイエスを髣髴させるような曲調で、これこそジョン・アンダーソンに歌って欲しいと思ってしまった。リード・ボーカルとリード・ギターはジョン・ウェズリーで、悪くはないのだが、この曲にはイマイチという感じだ。彼はマリリオンやその元ボーカリスト、フィッシュとライヴを行ったり、最近ではポーキュパイン・ツリーのアルバムにも参加している実力派ギタリストでもあるが、フロントマンとしてのボーカリストには似合わないように思えた。もう少し穏やかな曲を歌うとマッチするのではないだろうか。
 一方、キーボーディストはトニー・ケイで、いつものようにハモンド・オルガンをはじめ、その他のキーボードを弾きこなしている。これもいつも思うのだが、もっと評価されてもいいミュージシャンだと思う。

 最後の曲ではリード・ボーカルに元XTCのコリン・モールディング、キーボードはあのリック・ウェイクマンが担当している。ちなみに曲名は"Check Point Karma"という。
 ボーカルの1ヴァース終わったあとで、リックのキーボード・ソロが入るのだが、彼の手癖は相変わらずで、「ヘンリー8世の6人の妻」の中のフレーズによく似たソロを聞くことができる。彼の音楽的原点はストローブスやそのあとのソロ・アルバムなのだろう。でも久しぶりに、たっぷりと煌びやかな彼のソロを聞くことができてよかった。Photo

 贅沢を言い出すときりがない。とにかく今の時点でこれだけの豪華なミュージシャンを集めることができただけでも夢のようだ。しかも今だに現役感覚バリバリでパフォーマンスを繰り広げているから、昔からのファンも新しいファンもきっと満足するに違いない。よくぞ制作してくれましたという感じがしてならなかった。

 ベストセラーになるようなアルバムではないことはわかっているが、こういう音楽的レベルの高いアルバムを通して、プログレッシヴ・ロックの存在価値や再評価が高まり、ファン層がさらに拡大していくことを願っている。“プログレ”は、決して“終わった”音楽ではないということを証明してほしいのだ。

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