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2013年6月 7日 (金)

ベーブ・ルース

 今回も“ハーヴェスト名盤復刻シリーズ”から引用させてもらう。はっきり言ってこのシリーズ、“名盤”というよりも“迷盤”の方が多いように思うのだが、それがこのシリーズのウリなのだろう。

 このハーヴェスト・レーベルの当初の方針は商業主義よりも芸術主義を重視するものだったから、売れる売れないは二の次だった。だからというわけでもないのだろうが、歴史的な名盤よりは、ユニークで個性的なアルバムの方が多く残されているようだ。

 それで今回はベーブ・ルースの登場だ。ベーブ・ルースといってもアメリカ人の野球選手ではない。れっきとしたイギリスのバンドなのである。
 中心人物はギター担当のアラン・シャックロックとベース担当のデイヴ・ヘウィット、ドラムス担当のディック・パウエルだった。

 彼らは、ザ・サンダーバーズやシャックロックと名前を変えて活動していたが、それにアメリカ帰りの女性ボーカルのジェニー・ハーンが加わってベーブ・ルースとしてスタートした。
 ベーブ・ルースという名前はジェニーが提案したもので、スライ・ストーンの妹のバンド、リトル・シスターで活動していたジェニーが、アメリカで有名だった人の名前をバンドに命名したのだ。ひょっとしたらアメリカでも売れるようにという願いが、こもっていたのかも知れない。

 彼らは1972年にアルバム「ファースト・ベイス」でデビューしている。このアルバムのジャケット・デザインは、イエスのアルバム・ジャケットで有名なあのロジャー・ディーンが手がけていて、その方面でも有名になった。Babe1
 肝心の音の方だが、イマイチ方向性がつかめない。1曲目の"Wells Fargo"でのギター・ソロはハード・ロックだが、後半はサックスがフィーチャーされてファンク・ミュージックに変容している。それにジェニーの声は女性ボーカルというよりも甲高い男性の声のようだ。最初聞いたときは分からず、ずっと男性だと思っていた。

 2曲目の"The Runaways"はストリングスがバックで盛り上げ役に徹するバラードで、確かにいい曲ではあるが、フランク・ザッパの1969年の曲"King Kong"とマッチしない。さらには続いてジェシ・ウィンチェスターの"Black Dog"のカバーも収められているし、映画「夕陽のガンマン」のテーマをギター・ソロで披露してしまうという"The Mexican"という曲もある。こうなるとバンドがどこに向かおうとしているのかまるでわからない。

 それぞれの曲だけを聞けば、水準以上、いやむしろ"Wells Fargo"、"The Runaways"などは忘れ難い印象を残してくれるのだが、アルバム全体をみると、普通というより平均以下に思えてくるのである。

 ただ共通しているのは、アランのギター演奏だろう。どの曲にも必ず聞かせ所が用意されていて、この演奏のお陰でアルバムとしての統一感が保たれている。逆に言えば、彼がいなければアルバムも、バンド自体も崩れ去ってしまっただろう。

 2年後、セカンド・アルバムを発表した。「Amar Caballero」という、たぶんスペイン語のタイトルだった。こんどのアルバム・ジャケットはヒプノシスが担当している。ロジャー・ディーンといい、ヒプノシスといい、アートワークは一級品である。この馬のジャケットなんかは来年用の年賀状に使えそうだ。Babe2
 前作が彼らの雑多性を象徴しているとすれば、このアルバムはそれからややプログレッシヴ・ロックの方向にシフトしているようだ。今回はアランのギターとともに、ストリングスやキーボードもやや多めに使用されている。
 ただこのストリングスも使い方を誤ると甘ったるいバラードになってしまうので、要注意だが、彼らはストリングスを基本としながらもサックスやトランペットも用意していたので、一本調子にはならなかった。ただそんなにストリングスが要るのかという疑問は残ったのだが…

 "Lady"、"Broken Cloud"など静かな曲で滑り出し、"Gimme Some Leg"ではストリングスの代わりに珍しくコンガが使用されて、ややハードな展開になる。
 このアルバムは全体的に静寂な趣に包まれていて、起伏に乏しいというマイナス面があるが、5曲目の"Cool Jerk"と7曲目の"Doctor Love"は、クール&ザ・ギャングのようなファンク・ミュージックである。この辺の感覚がよくわからない。曲が不足したから、しかたなくこういう曲を入れたわけでもないだろうに、全体としてこの2曲だけ浮いている。

 "We Are Holding On"はアランのアコースティック・ギターにストリングスが絡み合うインストゥルメンタルで、アルバム・タイトルの"Amar Caballero"は10分近い3部作になっている。

 この3部作、タイトルがスペイン語だけあってか、中盤はまるでサンタナのようなラテン・ミュージックに仕上げられている。特に3分過ぎから6分過ぎまでのスペイン劇場はなかなかエネルギッシュだ。ただ、リズム陣の腰がちょっと弱くて、もう少し粘っこいと本家サンタナにも負けないものになったと思う。

 このアルバムも中途半端の感が否めない。ストリングスが使用されたプログレッシヴな要素とファンク・ミュージック、ラテン音楽が雑然としているし、それぞれの曲にも魅力がない。この手の音楽が好きな人ならいいが、そういう人はあまりいないだろう。

 翌年彼らは3枚目のアルバム「ベーブ・ルース」を発表した。1曲目の"Dancer"を聞く限りでは、なかなか良いと思う。ミディアム調のハード・ロックであり、ギターとキーボードのバランスも素晴らしい。次の曲"Somebody's Nobody"もボーカルとバックの演奏がうまく調和している。Babe3
 ただ相変わらずマカロニ・ウェスタン好きは変わらないようで、"A Fistful of Dollars"は「荒野の用心棒」のカバー曲。それをハード・ロックに仕上げている点が面白い。たぶんアランの趣味だろう。

 このアルバムでお勧めなのは"Jack O'Lantern"だろう。これはシングル・カットされてもおかしくない曲で、まさにホームラン級の名曲だと思っている。またシュプリームスやスペンサー・デイヴィス・グループもカバーした"Private Number"も素晴らしい。これは原曲がいいからだろう。これらのような曲が他にももう2,3曲くらいあれば、このアルバムはきっと大ヒットしたに違いない。

 このアルバムは前作や前々作のようなバラツキが見られず、ハード・ロックで統一されている点が良い。アルバムの帯にはこう書かれている。“ストレートなハード・ロック・バンドへと見事に変身したサード・アルバム!演奏・楽曲ともに最も完成度が高く、ベーブ・ルースの最高作と称される超名盤!”

 “超名盤”は言いすぎだが、確かに3枚のアルバムの中では一番出来が良いだろう。もしあなたがベーブ・ルースの中で一枚だけ聞きたいと思うのなら、迷わずこの3枚目をお勧めする。いい印象を持っていてほしいからだ。

 バンドはこのあと、ギタリストのアランが脱退し、のちにホワイトスネイクで活躍したバーニー・マースデンが加入するのだが、その頃はもう引退に近づいていたベーブ・ルースだった。
 彼らは1976年に解散したが、2007年にはセカンド・アルバムのメンバーでダウンロード用のアルバムを発表している。

 彼らはプログレッシヴ・ロックのフィールドで語られることもあるのだが、自分としてはあくまでもハード・ロック・バンドだと思っている。でも彼ら自身では、ファンクやソウル・ミュージックもレパートリーにあるロック・バンドだと思っていただろう。たぶんアメリカで売れることを願って、バンド名を設定し、音楽的趣向もシフトしていったのだろう。

 そういう認識の乖離が彼らをマイナーなB級バンドのままにしてしまったに違いない。器用貧乏と呼ぶにふさわしいバンドではないだろうか。


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