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2013年9月

2013年9月30日 (月)

アリーナ

 80年代には“ポンプ・ロック”と呼ばれていたのが、いつのまにか“シンフォニック・ロック”と呼ばれるようになった。いったい何時頃からそうなったのだろうか。

 個人的な感想を言わせてもらえば、マリリオンの1994年のアルバム「ブレイヴ」やペンドラゴンの同年の「ザ・ウインドウ・オブ・ライフ」あたりではないかと思っている。
 それまではジェネシスの亜流とかパクリなどと呼ばれていたが、90年代の半ば頃からはそれぞれがオリジナリティの確立されたサウンドを奏でるようになったからだろう。あるいは彼らがやっとそういう風に認知されたのが、90年代の半ばだったといえるかもしれない。

 だからマリリオンのあとに、雨後の筍のように続々と登場してきたこの手のバンドも、もう“ポンプ”とは呼ばれずに、“シンフォニック・ロック”とか“プログレッシヴ・メタル”などと呼ばれるようになったと思う。

 今回登場するアリーナもまたそうである。彼らは1995年に結成されたが、いわゆる“スーパー・バンド”だった。

 中心メンバーは、ペンドラゴンのオリジナル・メンバーでキーボーディストのクライヴ・ノーランとマリリオンのデビュー・アルバムにだけ参加したドラマーのミック・ポインターである。
 さらに2013年現在では、IQと兼任するベーシストのジョン・ジョーウィットに、イッツ・バイツでも華麗なギターを披露しているジョン・ミッチェルも加わっている。まさに“シンフォニック・ロック”界のスーパー・バンドと呼んで差支えないだろう。

 
 日本でもアリーナの国内盤は流通していて、現時点での最新アルバム「ザ・セヴンス・ディグリー・オブ・セパレイション」は当然のこと、2枚組ライヴ盤やライブDVDなども入手可能だ。
 自分も彼らのデビュー・アルバムからサード・アルバムまでは同時期に手に入れて、よく聞いたものだった。

 彼らが結成されたのは1995年で、その時のメンバーはクライヴとミック、ギタリストはキース・モア、ベーシストにクリフ・オルスィ、ボーカルがジョン・カーソンだった。
 ギタリストのキースは一時エイジアにも在籍していたテクニシャンだったが、ベーシストとボーカリストは、ほとんど無名に近いミュージシャンだった。

 デビュー・アルバムのタイトルは「ソングス・フロム・ザ・ライオン・ケイジ」というもので、このアルバムを購入するとき、アルバム・ジャケットが気に入らずにかなりためらったのだが、結果的には買ってよかった思い出がある。また無名のボーカリストにしては、何となく低音中心のラッシュのゲッディ・リーのようで、バックの演奏に負けていなかったことも評価できた。Photo アルバムはまたドラマティックな構成になっていて、全9曲のうち偶数番目の曲は"Crying for Help"シリーズⅠ~Ⅳが配置され、長尺曲の間に1分から5分程度のインストゥルメンタルが挿入されている。
 このシリーズの"Crying for HelpⅣ"にマリリオンのギタリスト、スティーヴ・ロザリーが参加しているのだが、たぶんエモーショナルなギターが彼なのだろう。ちなみに先にインストゥルメンタルと書いたが、このⅣだけはボーカル(歌詞)がついている。

 翌年彼らはセカンド・アルバムを発表した。タイトルは「プライド」というもので、タイトル的には前作とは関係ないものの、内容的には後継作品、双子のアルバムになっている。
 メンバー的にはボーカリストとベーシストが交代した。ボーカルはこれまた無名のポール・ライトソンが、ベースにはIQやジャディスでも活躍しているジョン・ジョーウィットが担当するようになった。

 このアルバムもクライヴとミックが中心となって制作されたもので、全9曲、偶数番目には"Crying for Help"シリーズのⅤからⅧが挿入されている。この辺の構成は前作と全く同じであった。
 前作よりも今作の方が曲が分かりやすくなっていて、奇数番目の曲は長くてドラマティック、場合によってはメタルっぽいものもある。

 キース・ムーアというギタリストはかなり上手なギタリストで、ハードなリフも刻めるし、デヴィッド・ギルモアのように伸びのある艶やかなサウンドも得意にしているようだ。今までスタジオ・ミュージシャンンとして活動していたせいか、あまり名前は売れていないが、もっと評価されてもいいミュージシャンだと思う。

 一方、"Crying for Help"シリーズは抒情的で、Ⅴはキーボードが、Ⅵはアコースティックやエレクトリック・ギター主体で作られている。またⅦは無伴奏のボーカルのみの曲、Ⅷは最終曲"Sirens"のプレリュード的扱いになっていて、キーボードによるコーラスやオーケストレーションが最後を飾るにふさわしい荘厳さを醸し出している。

 このアルバムの一番の聞き物はこの"Sirens"だろう。13分42秒というタイム・スケールもそうだが、フィッシュを思わせるポールの静かなボーカルから徐々に盛り上がるバックの演奏や、堰を切ったように一気に畳み掛けるギター・ソロなどの対比が美しい。2 ところが1997年になって、今度は緩急自在のギタリストだったキース・ムーアが脱退してしまい、代わりに様々なバンドで活躍していたジョン・ミッチェルが加入した。彼の加入でさらにテクニカルなギター・サウンドやギター・オーケストレーションを聞くことができるようになり、バンド自体も一段と進化したように感じた。

 そんな彼らが1998年に発表したのがサード・アルバムの「ザ・ヴィジター」だった。このアルバム・ジャケットは個人的に大好きで、店頭で見ただけで即購入してしまった。今にも雨が降りそうな薄暗い空の写真が、彼らの音楽を象徴しているかのように思えたからだ。前2作とは大違いである。
 

 曲数は14曲と一気に増え、そのうちインストゥルメンタル曲はわずか2曲だけだった。コンセプト・アルバムという前振りだったが、あまりそんなふうには聞こえず、1曲あたりの時間が減少した分だけ、それぞれの曲が引き締まっているように思えた。

 ジョンのギターは1曲目の"A Crack in the Ice"から縦横無尽に動き回り、新生アリーナを意識づけようとするかのようだ。もちろんクライヴのキーボードも休んでいるわけではなく、ジョンのギターに対抗するかのように時にバックに、時にリードにと活躍していて、良い相乗効果をもたらしている。特に"Elea"、"Serenity"のようなインストではそれが顕著である。

 自分はこの3枚目が好きで、何度も聞いた。マリリオンよりはメタリックだったし、ドリーム・シアターよりは抒情的でブリティッシュらしい繊細さがあった。
 また"The Hanging Tree"はギルモアズ・ピンク・フロイドの曲のようで、ここぞという時に切れ込んでくるギター・サウンドが感涙ものだった。またメロディ的にも優れていて、コマーシャル性も含まれている。アルバム前半のハイライトでもあろう。

 10曲目のインストゥルメンタル曲"Serenity"から後半に入り、"Tears in the Rain"は美しいバラード曲、"Enemy Without"はミディアム・テンポの80年代の産業ロック風でシンセがヨーロッパの"Final Countdown"に似ていて、次の"Running From Damascus"に続いている。この曲はボーカル入りだが演奏がメインの曲でもある。そして6分あまりの最後の曲"The Visitor"へと続いていく。

 前作や前々作のアルバムは曲構成で聞かせる部分があったが、このアルバムでは曲ごとのクォリティが上がっていて、どこから聞いてもアリーナというバンドの良質な部分に触れることができるだろう。3 このあと彼らは、4枚のスタジオ・アルバムを発表している。またボーカリストは現時点では4代目のポール・マンジィという人が担当しているが、このバンドのボーカリストに関してはいずれも無名に近い人が採用されている。バンドの運営理念なのだろうか。

 またクライヴ・ノーランは幼馴染のニック・バレットとともにペンドラゴンで活動しているが、そこでは楽曲への関与がないことから、自分のメインのバンドはペンドラゴンではなく、このアリーナやもう1つのバンドのシャドウランドだとコメントしていた。

 逆に言えば、クライヴがペンドラゴンに深くコミットしていれば、このアリーナは存在しなかったことになる。人生何がどうなるかわからないものだ。

 とにかくクライヴ・ノーランという人もまた、ロイネ・ストルトやスティーヴン・ウィルソン、ジョン・ミッチェルと並んで、プログレッシヴ・ロック界ではワーカホリックなミュージシャンなのであった。

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2013年9月25日 (水)

フロスト*

 今月は80年代からのイギリスでのポンプ・ロックの特集みたいになったが、特に意識したわけではない。ただ何となくそうなってしまった。やはり秋といえばプログレッシヴ・ロック魂に火がつくのだろう。

 それで今回は比較的新しいバンドの登場である。バンドというよりは、ユニットといった方が正しいのかもしれない。しかもこのバンド、バンド名の最後に記号“*”がつくのである。

 2004年に結成されたフロスト*がそれだ。結成当時のメンバーは以下の通りである。
ジェム・ゴドフレイ…キーボード&ボーカル
ジョン・ミッチェル…ギター&ボーカル
ジョン・ジョーウィット…ベース・ギター
アンディ・エドワーズ…ドラムス、パーカッション

 ポンプ・ロックに詳しい人はすぐに気がつくと思うのだが、ギタリストのジョンはキノやアリーナ、イッツ・バイツで活躍しているし、ベーシストの方のジョンは、IQやジャディス、アリーナでプレイしていた。また、ドラマーのアンディもまた、IQやロバート・プラント・バンドで演奏している。

 前回でも述べたが、こういう他バンドとの掛け持ちや交流が豊富なのも、80年代以降のイギリス、ポンプ・ロックの特色だろう。バンドというよりはプロジェクトみたいなもので、それなりの実績やテクニックのある人たちが集まって音楽をやるのだから、ある一定以上の高い水準を保った音楽が生まれるのだろう。

 それでこのフロスト*の場合もその例に漏れないのだ。2006年に発表されたデビュー・アルバムを聞けば、このプロジェクトのレベルの高さがうかがい知れるというものだ。

 このバンドというか、プロジェクトのリーダーはキーボーディストのジェム・ゴドフレイで、自分はてっきりジ・エニドのジョン・ゴドフレイのことだと早とちりしてしまったが、ジェムとジョン似ているといえば似ているだろう(と自己弁護している)。

 ただ音楽性はまったくの逆で、こっちのフロスト*の方は、テクニカル集団としての演奏技術の高さとジェムの書く曲のメロディアスな美しさが奇跡的に交錯していて、聞くものの心をつかんで離さない。

 ここでリーダーのジェムのことについて簡単に触れておくと、彼はもともとはポップ・ソングの職業的ライターで、アイルランド出身のローナン・キーティングやガールズ・グループのアトミック・キトゥン、シェイン・ウォードのクリスマス・ソング"That's My Goal"を含む数枚のNo.1ソングを手掛けている。

 彼曰く、“3分のポップ・ソングばかりを5年間作り続けた”そうだが、もともとは兄に誘われて17歳でフリーフォールというプログレッシヴ・ロック・バンドに加入して、自主制作のアルバムも発表していた。
 だから彼が追求したかった音楽は、もとはといえばプログレの世界観を有しているものであって、ポップ・ソングは生活の糧を稼ぐための音楽だったのだろう。

 だからそれまでの反動からか、26分もの大曲"Milliontown"を書き上げて、アルバム制作を行おうと決意したのである。

 ジェムがフロスト*を結成するに当たっては、当時のプログレッシヴ・ロック・アルバムを大量に買い込んで聞き倒し、自分の気に入ったミュージシャンやバンドにメールを出して、ユニット結成をお願いしたそうである。その中の一人がジョン・ミッチェルであり、彼を介してジョン・ジョーウィットやアンディ・エドワードが集ってきたそうだ。

 2006年のデビュー・アルバム「ミリオンタウン」には前述のメンバーにゲスト・ミュージシャンとして、かつてのバンドメイトだったフリーフォールのギタリスト、ジョン・ボーイズも参加している。Photo 1曲目の"Hyperventilate"からノリが良くてカッコいい。出だしはジョージ・ウィンストンのような哀愁漂うピアノ・ソロだったが、やがてそれに切れのあるリズム・セクションとハードがギターが絡まって、トランスアトランティックの兄弟バンドのように聞こえてくる。アルバム唯一のインストゥルメンタルでもある。

 1曲目は7分少々の曲だったし、2曲目の"No Me No You"も6分以上ある。ややデス・メタルのようなボーカルに始まり、ギターのハードなフレーズと相俟って、まるでドリーム・シアターのような曲展開に聞こえてくる。あそこまで重くならないのは、ジェムの演奏するキーボードのせいだろう。

 次の曲の"Snowman"はアルバム構成のことを考えたのか、ファンタジックなバラード・タイプの曲で、やや単調な3分少々の小曲。アルバムのブレイクと考えた方がいい。

 4曲目の"The Other Me"は一転してミディアム・テンポのハードな曲。味付けが仰々しくて、プログレッシヴ・メタルっぽい。個人的には嫌いではないが、好んで聞こうとは思わない傾向の曲だった。

 "Black Light Machine"はメロディアスで、ややポップな味付けがされている。この辺はジェムが今まで培ってきたシングル・ヒットのテクニックが応用されているのかもしれない。
 ジョン・ミッチェルの弾くギターは華やかで艶がある。彼が様々なバンドで演奏しているのも、彼でないと出せない味わいがあるからだろう。3分で終わる曲が10分以上に膨れ上がっているのも、ジョン・ミッチェルがフィーチャーされているからである。(もちろんジェムのキーボードも目立ってはいるが、ジョンほどではない)

 そんな彼のギターが堪能できるのが26分以上もある大作"Milliontown"である。もともとこの曲を発表したくて、メンバーを集めレコーディングをしたのである。力が入るのも当然だろう。
 6部構成になっていて、男性同士の会話のSEから静かなピアノが導き出されて、2分過ぎからテクニカルなギターとリズム・セクションが走り出す。この辺の感覚はドリーム・シアター系といっていいだろう。

 7分過ぎからはジェムのキーボードがリードして第3部が始まる。明るいタッチのポップなメロディが、余計にトランスアトランティックを思い出させてくれた。2部ではギターが目立ったが、ここはキーボードがメインだ。
 ピアノとシンセをバックにややメロウな第4部が始まる。静~動~静とつながるのは、プログレの常道のようで第4部から第5部への流れもこれに沿っている。

 エモーショナルなギターと分厚いシンセやキーボード群はクライマックスに欠かせない存在だが、最後は最初に戻るということもプログレでは欠かせない要素だ。いわゆるリプライズ、バック・トゥ・ビギニングというやつである。

 この曲では第6部の歌詞は繰り返されるものの、演奏は見事で最後を十分に盛り上げている。残り3分で、いったんフェイド・アウトしたあともう一度クライマックスを味あわせてくれるから素敵だ。26分という長さを全く感じさせない。また最後の最後でのピアノ・ソロは余韻を保つ工夫をしているのだろう。

 彼らは2008年に2枚目のアルバム「エクスペリメンツ・イン・マス・アピール」を発表したが、メンバーはジェムとジョン・ミッチェル以外は交代した。音楽性もテクニカルな面は後退して、やや抒情的な部分やポップさが前面に出たようだ。

 いずれにしてもフロスト*はプロジェクトなので、ジェムが引退を表明しない限りは活動はまだまだ続いていくだろう。ちなみに彼はまだ42歳。早く「ミリオンタウン」を超えるアルバムを発表してほしいものである。
 

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2013年9月20日 (金)

ジャディス

 さて今回は前回のバンドIQに関係したバンドを紹介することにした。それはジャディスというイギリスのプログレ・バンドである。

 彼らは、1982年にイギリス南部の港町サザンプトンで生まれた。やはり当時のポンプ・ロック・ムーヴメントを反映していたのだろう。当時メジャーになりつつあったマリリオンやペンドラゴンの後を追うように、IQやトゥウエルフス・ナイトにやや遅れて、ギタリストのゲイリー・チャンドラーが中心となって結成された。2 ところが結成されたのはいいが、彼らがデビュー盤を発表するまで約10年かかっている。この10年間彼らは何をしていたのだろうか。もちろんコツコツとロンドンのパブや小さなホールでライヴ演奏を行っていたのだろうが、それにしても10年とは長い。単純に考えても、オギャーと生まれた子どもが小学校4年生になるまでの時間がかかる。

 リーダーのチャンドラーはよく耐えたと思う。彼に尋ねて話を聞けば、そこには数々のドラマが隠されているに違いない。それだけで1冊の本が出来上がると思うのだが、それはまた別の話で、彼らの音楽性に話を戻したい。

 
 一説によれば、1986年にはマリリオンのギタリストであるスティーヴ・ロザリーをプロデューサーに迎えて「アウト・オヴ・リーチ/G.13」という曲をレコーディングしているが、公式に発表されていない。ただ"G.13"の方はのちにデビュー・アルバムに収録された。

 ともかく彼らのデビュー・アルバムは1992年に発表された。この時のバンドのメンバーのうちのキーボーディストとベーシストは、当時のIQに所属していて、要するに掛け持ちをしていた。
 もう少し正確に言うと、キーボードとフルートを担当していたマーティン・オーフォードは正式メンバーとしてクレジットされていたが、ベース・ギター担当のジョン・ジョーウィットの方はゲスト・ミュージシャンとしての扱いだった。

 ポンプ・ロックのミュージシャンにはこういう兼任をする人は多くいるようで、前述したスティーヴ・ロザリーはウィッシング・ツリーというユニットを結成していたし、ペンドラゴンのキーボーディストのクライヴ・ノーランはアリーナというバンドでも活躍している。
 ちなみにこのアリーナのベーシストはジョン・ジョーウィットだし、彼はまた2004年に結成されたフロスト*というプログレ・バンドのオリジナル・メンバーでもあった。

 マリリオンのベーシストのピート・トレワヴァスもまた、キノやウィッシング・ツリー、トランスアトランティックなどで活躍しているし、ギタリストのジョン・ミッチェルという人は同じキノやアリーナ、フロスト*、イッツ・バイツなどの複数のバンドに在籍していた。他にもこういうミュージシャンはいるだろうからキリがないので、ここら辺で止めておく。

  それで1992年のデビュー・アルバム「モア・ザン・ミーツ・ジ・アイ」は興味深いアルバムだと思う。何が興味深いかというと、異様に明るいのである。
 当時のほかのプログレッシヴ・ロック・バンドは、70年代の雰囲気を引きずったものが多く、どちらかというとマイナー・スケールを多用したダークな曲調が多かった。

 その理由の一つはリード・ボーカリストが歌う世界観や人生観によるものだろうし、音楽的には重厚なキーボードのバッキング演奏や情感的なギター・ソロなどにも求められるだろう。

 ところがこのジャディスのアルバムは、結構明るいのである。聞いているとこちらまで気持ちが明るくなってきそうで、マリリオンやIQのあとに聞くと、何か違うジャンルの音楽を聞いているような気になってしまった。

 これにはこれで理由があるようで、キーボード主体ではなく、ゲイリー・チャンドラーの演奏するギター・サウンドがライトでカラッとしているからだろう。曲によってはフュージョンっぽい感じもあって、器用なギタリストであることを印象付けられた。Photo 1曲目の"Sleepwalk"なんかは、"Jump"を歌う頃のヴァン・ヘイレンのようなキーボードにイエスというよりは、オランダのカヤックのようなクリアなギターが3分近く続いて、やっとボーカルが入ってくる。歌っているのはゲイリー自身だ。

 7分以上の"Sleepwalk"の次は4分少々の"Hiding in the Corner"で、これもまた軽快な曲。海岸線のドライヴのお供にピッタリな曲調で、夏の青い空に浮かぶ入道雲や果てしない水平線に浮かぶ船やヨットの群れを思い浮かべてしまう。中間やエンディングのギター・ソロもまた印象的だ。

 次の曲は一度録音してお蔵入りになった"G.13"。これもインストゥルメンタルと間違うほど、最初から演奏が続き、キャメルのアンディ・ラティマーのように艶やかでサスティーンを多用したギターが鳴っている。
 この最初の3曲を聞けば、このバンドはかなり水準が高いということがわかるだろう。その辺のB級バンドとは一線を画していると思うのは、私一人ではないはずだ。

 アルバム・タイトル曲の"More Than Meets the Eye"では静かなギターのアルペジオとフルートの演奏から始まり、力強く、しっとりとしたゲイリーのボーカルがそれに絡みつく。このアルバムの中での唯一のバラード曲でもある。

 "The Beginning And the End"はミディアム・テンポのよく練られた曲で、ここでもゲイリーのエモーショナルなギターとそれを支える堅実なリズム・セクションやキーボード演奏が見事だ。フュージョンになりそうで、踏みとどまっているところも面白い。

 "Holding your Breath"はインストゥルメンタルで、ちょっとチープなシンセサイザーが気になる。また最初はエンジンのかかりが悪いのだが、3分過ぎからのゲイリーのギターが炸裂するところからやっとノッテきた感じがした。
 また6分過ぎからはアコースティック・ギターがアクセントに使用されている。同時にマーティンのキーボードも全面に押し出されてきて、最後はギターによるエンディングを支えている。 

 自分はこの1枚しか持っていないのだが、できればこのアルバム以降も聞いてみたいと思った。2013年現在で彼らは7枚のスタジオ・アルバムと3枚のライヴ盤を発表していて、最新作は昨年の「スィー・ライト・スルー・ユー」である。ゲイリーのワンマン・バンドだけあって、音楽性はデビュー以来あまり変わっていないらしい。本人が楽しそうに演奏しているさまは、どのアルバムにも共通しているようだ。

 とにかく現在まで生き残ったプログレ・バンドだけあって、その存在感や音楽性は、侮れないものがある。イギリスのプログレ界のすそ野は、思ったより広そうだ。

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2013年9月15日 (日)

IQ

 朝夕も涼しくなり、いよいよ本格的な秋が訪れたような気がする。秋といえば、“勉学の秋”、“スポーツの秋”、“読書の秋”などと様々に形容されるが、自分にとっては“音楽の秋”であり、“プログレの秋”なのだ。

 このブログでも久しぶりにこのジャンルのアルバムを取り上げることになったが、プログレッシヴ・ロックを聞くことについては、やはり今頃の秋以降が一番ふさわしいような気がする。だからしばらくこの手のアルバムを取り上げていきたいと思っているのだった。

 それで最初はイギリスのプログレ・バンドのIQの登場である。以前、プログレのコンピレーション・アルバムでこのバンドの曲を取り上げたのだが、そのときは深く扱うことができなかったので、今回取り上げた次第である。Iq2 IQの結成は1981年とかなり古い。もう30年以上にもなる。当時はネオ・プレグレッシヴ・ロックのブームで、同系列のマリリオンやペンドラゴンとともに、IQを含むこれらのバンドは、“ポンプ・ロック”と呼ばれていた。
 この“ポンプ”という言葉には、「華麗な」という意味もあるが「虚飾の」という意味もあり、この場合は後者の意味で、あまりいい意味では使われず、やや侮蔑な感情を伴うような言葉だったようだ。

 IQを含むこれらのバンドは、単なるイギリスの70年代のプログレ・バンドの焼き直しみたいに思われていて、そこには音楽的な斬新さや革新性が見られなかったというのも理由の一つだったのだろう。
 確かにこのジャンルの音楽のアイデアは70年代の中でほぼ出尽くしていたし、期待できるといえば楽器の技術革新のようなハードの部分だった。だからそんなふうに揶揄されたのも仕方なかったのかもしれない。

 またマリリオンやこのIQも最初は、特にジェネシスの影響が色濃くて、特に両バンドのキーボードの音色やボーカリストの資質などは、もろに影響を受けていた。

 IQのボーカルはピーター・ニコルズという人で、名前だけでなく写真を見ても分かるように、もろに誰かさんに似たステージ・パフォーマンスをしていた。プログレのファンならきっと満足しただろうが、口さがないイギリスの評論家筋からすれば、やはりパクリとしか思えなかったのだろう。Iq またサウンド的にも最初の方はジェネシス的な雰囲気が漂っていたが、アルバムを発表するにつれて段々とオリジナリティが出るようになった。この辺も先のマリリオンやペンドラゴンと同じ道のりである。

 このボーカリストのピーターは一度バンドを離れている。結成から4年後の1985年に自分が中心となった新しいバンド、ナーデンズ・ゴーストを結成したのだが売れなかったのか、1990年にはIQに戻ってきて再び活動を始めた。本物のピーターは復帰することはなかったけれど、こちらのピーターはバンドを離れるところまでは本家と同じであった。

 もともとこのバンドは、ギタリストのマイク・ホームズとキーボーディストのマーティン・オーフォードが中心となって結成されていたから、オリジナル・メンバーとはいえピーターのエゴが満足する部分が少なかったのかもしれない。

 そのピーターが復帰して発表されたのが、1993年のアルバム「エヴァ」だった。自分はこのアルバムで初めて彼らに接したのだが、メロディアスでかつ重厚な作品だった。キーボードの使用方法やギターのアルペジオ奏法などは70年代中期のジェネシスに似ている部分もあったが、全体としてはなかなかの力作だった。Iq3_2 特にアルバム後半の3曲"Further Away"、"Leap of Faith"、"Came Down"の流れは素晴らしい。14分28秒もある"Further Away"では静から動への転換が見事だし、"Leap of Faith"ではマイクのギターが華麗に目立っている。
 もともとIQはキーボード主体のバンドだと思っていたが、なんのなんのギターも捨てておけない。バックに徹するときと自己主張するときのタイミングをよくわかっているギタリストだと思う。
 そして最後の曲"Came Down"は前の曲とつながっていて、余韻のあるエンディングを迎えている。すべての曲つくりは全員で行っていて、プロデュースはギタリストのマイクが担当している。ギターだけを取り上げるのではなく、バンドの良い部分を引き出そうとするかのようなプロデュースだ。ただ、アルバム・ジャケットはピーターが担当していて、このペインティングについては、個人的には如何なものかなと思っている。

 一般的に彼らの最高傑作と呼ばれているのが、2004年に発表された「ダーク・マター」である。これは彼らの8枚目のスタジオ・アルバムで、キーボーディストのマーティン・オーフォードが参加した最後のアルバムになった。
 別に彼は喧嘩別れしたわけではなくて、インターネットの違法ダウンロードや著作権侵害に愛想を尽くしてしまい、2008年には音楽産業自体から引退を発表してしまったのである。ちなみに今後はライヴ中心に活動を行うようだ。

 全5曲で、いきなり11分を超える"Sacred Sound"から始まり、5分程度の小曲"Red Dust Shadow"へと続く。まさに円熟の極みというか、ベテランらしい余裕の音使いである。確かに曲の展開はジェネシス風だが、これがプログレの王道というものだろう。

 今までの印象では、IQのアルバムではあまりギターが目立っていないと思っていたのだが、このアルバムではキーボードとバランスよく共存している。1曲目もそうだし、2曲目のバラードではアコースティック・ギターも効果的に使用されていて、メロトロンとともに哀愁さを醸し出している。

 続く"You Never Will"はシングル・カットされてもおかしくないほどのメロディアスな曲で、分厚いキーボードと暴れまくるドラムスがカッコいい。スペイシーなギターが目立つシアトリカルな曲風の"Born Brilliant"を挟んで本アルバムハイライト、24分29秒の6パートからなる"Harvest of Souls"が始まる。
 爽やかなギター・アルペジオから徐々に盛り上がるさまは、まさに彼らの本領発揮だろう。途中のアンサンブルは全盛期のイエスと聞きまがうほどだ。何となく"錯乱の扉"に近いところもあると思う。エンディングのギターもまたカッコいい。Iq4_2 80年代のポンプ・ロックは現在ではシンフォニック・ロックと進化していった。もちろんその中には、ついていけずに脱落したバンドもあっただろうが、IQは間違いなく、その進化の中でポピュラリティを獲得していったのである。
 日本ではあまり評価されなかったけれど、マリリオンやペンドラゴン等と比べても、決して遜色のないバンドだと思っている。
 

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2013年9月10日 (火)

ロッド・スチュワート(2)

 今年の夏は初盆があったり、痛風発作に苦しめられたりと、いろいろと大変だった。さらには全国的にも熱中症で倒れる人が相次いでいて、中には亡くなられた人もいたが、自分はそこまでいかなくても、日中にエアコンをつけずいると、頭がボーとしてきて、もともと思考力がないのに、さらに何も考えられなくなるようになってしまった。

 そんな中で、とりあえず何も考えられなくても印象に残るようなアルバムを聞こうと思ったのだが、そういえば少し前にロッドがアルバムを出したなあと思って、久しぶりに購入して聞いてみた。

 ひとつはBSの「ベスト・ヒット・U.S.A.」で小林克也氏が推奨していたのを思い出したからで、そこでのメロディが印象に残っていた。
 アルバムでも冒頭に収められている"She Makes Me Happy"という曲だったが、これがシンプルなメロディに、シンプルなリズム、おまけにタイトル通りのサビの部分が非常に覚えやすく、聞いているだけで口ずさめるようになってしまった。

 またこの曲だけではなくて、ほかの曲にもマンドリンが効果的に使用されていて、昔の"Maggie May"を思い出してしまった。オールド・ファンにはうれしい限りである。

 70年代後半にアメリカに渡って以降、ロッドというと“成り上がったセレブ”、“ハリウッドに毒された金満家”、“ロック・スピリットを忘れた単なるエンターテイナー”という印象が私の中では強かったのだが、今回のこのアルバムは今までの印象とは逆に、彼が“原点回帰”を図った久しぶりの好アルバムといった感がある。1986年に「ロッド・スチュワート」という自分の名前を冠したアルバムを発表しているが、それ以来の素晴らしいアルバムではないだろうか。Photo
 ご存知のように、ロッドは2000年に甲状腺癌の手術をして以降、思うようにシャウトできず、もう曲をかく自信もなくなったとまで周囲の人に漏らしていたらしい。そのせいか昔のスタンダード・ナンバーを中心に歌うようになってしまった。
 ところが彼には運命の女神がついていたのだろう。それが逆に功を奏し、アルバムはバカ売れ状態、全世界的にまたまた売れてしまったのである。“人間万事塞翁が馬”とはこのことを指すのだろう。

 そんな彼に、昔の盟友であるジム・クリーガンが一緒にアルバムを作らないかとなかば強引に説得して、多くのゲスト陣とともに作り上げたのが「タイム」だった。

 もともと彼の声は、しゃがれていたから年をとってもあまり変化がない(ように聞こえる)。確かにここは昔ならシャウトするだろうなあと思ってしまうところもあるのだが、全体を通して聞けば、そんなに違和感はなかった。

 またソングライティングについても、12曲中11曲にクレジットがあったから何らかの形で関わっていたのだろう。昔からひとりで曲を書くタイプではなかったし、これについてもそんなにこだわらなくてもいいと思う。

 それにかなりいい曲が多い。"Can't Stop Me Now"ではバグパイプが聞こえてきて、彼のルーツであるスコティッシュの香りが漂っているし、続く"It's Over"はストリングス付きのオリジナルのバラードで、バラードを歌わせたら天下一品のロッドだけに、コクのあるウィスキーを飲んでいるように、体中に浸みわたってしまった。

 "Brighton Beach"は先ほどのジム・クリーガンと一緒に作った曲で、これまたお涙頂戴のアコースティック・バラードになっている。
 また"Beautiful Morning"は、リフレインの部分が覚えやすく、キャッチーな曲になっていて、サックスもフィーチャーされ、ロッド自身もノリノリで歌っている。昔のフェイセズを思わず連想してしまう。

 "Live the ife"にはハーモニカやフィドルが、"Finest Woman"ではブラスが使用されていて、本当に40年前にタイム・スリップしたかのようだ。
 アルバム・タイトル曲の"Time"では"Time waits for no one, That's why I can't wait for you"、“歳月人を待たず、だから君のことも待てないんだ”とシンプルに歌っていて、次のトム・ウェイツのバラード曲"Picture In A Frame"に続く。この辺は1977年の「明日へのキックオフ」の後半部分を髣髴させてくれた。

 80年代のエレクトロニック部分を思い出させるのは"Sexual Religion"だろう。バックのシンセ・サウンドが懐かしい。また、この曲といい次の"Make Love to Me Tonight"といい、曲のモチーフは相変わらず昔のままだ。さすが20世紀のセックス・シンボルといわれたロッドだけあって、67歳の今でも考えることは中高生並みなのだろう。

 最後の曲"Pure love"もまた感涙のバラードで、1986年のアルバム「ロッド・スチュワート」に収められていた"In My Life"のようだった。

 ちなみに国内盤には3曲のボーナス・トラックが付属していて、1965年にヴァン・モリソンが歌った"Here Comes the Night"、トム・ウェイツの"Cold Water"、エルモア・ジェイムズの1961年の"Shake Your Money Maker"をきっちり歌っている。もう喉は良くなったんじゃないのと思わせてくれるほどだ。

 このアルバムは英国では堂々の1位、米国では7位を記録している。本人はフェイセズの再結成も視野に入れているようだが、ほかの人はどう思っているのだろうか。たぶん反対するだろうな、彼のバック・バンドになってしまうから。ただいずれにせよこのアルバムは、ロッド久々の傑作なのは間違いないだろう。まだまだ現役続行中のロッド・スチュワートなのである。

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2013年9月 5日 (木)

ワールド・ウォー・Z

 1週間くらい前に映画を見に行った。あの泣く子も黙るブラッド・ピット主演の映画「ワールド・ウォー・Z」だった。

 結論から言うと、自分にとっては駄作だった。制作費2億ドル以上という前宣伝だったが、その割にはストーリー展開が陳腐で、別にブラッド・ピットが主演するほどのものではないと思った。役者はA級だったが、作品自体はB級だったと思う。

 基本的には“ゾンビ映画”である。普通ゾンビは腕を前に出して、ゆっくりと歩いていくのだが、この映画では超速い。まるでボルトのように走り、駆け抜けていく。だから女、子どもあるいは老人の足では簡単に追いつかれて噛まれてしまう。結果、感染が拡大していったのだろう。

 しかも噛まれてからゾンビ化するのも早い。だいたい12秒くらいでゾンビになってしまうようだった。それに生身の人間を食することが目的ではなく、ゾンビ化を促進することが目的のようで、噛んだらすぐに次の獲物を探しに行くのだ。だから残酷なシーンは極めて少なく、ファミリーで見に行っても安心な映画だったと思う。さすがブラッド・ピット、その辺の配慮は万全なのである。Photo_2
 たぶん映画の中の設定としては、原因不明のウィルスの影響で感染が拡大したということだから、感染症の類だったのだろう。いわゆるパンデミックである。だから今までの映画の中のゾンビとは違うのだった。

 それで自分が納得できなかったのは、“ラスト・ホープ”とまでいわれた若き細菌学者が銃の暴発?でほとんどセリフを発することもなく簡単に死んでしまうところや、飛行機が爆発して墜落しても、主人公とその警護の女性兵士が生き残るところだった。ちょっと出来すぎの感が強い。

 確かに主人公が死んでは映画が制作できないのはわかるが、もう少し工夫があってもいいのではないかと思った。
 また、映画のクライマックスの演出も不足していて、ゾンビの群れの中から役立ちそうなワクチンを持ち帰るシーンは盛り上がりに欠けていた。もっと派手にしてもよかったのではないかなあ。

 個人的には、イスラエルの壁をよじ登っていくゾンビの大群やゾンビ対策のヒントに気がつくところなどが面白かった。
 一説によると、原作からかけ離れたストーリーになっているようで、幾度かシナリオも書き替えられたといわれている。2
 また興行収益としてはかなりいいようで、封切り後2週目で5億ドル以上稼いだようだ。プロダクション側は「バイオハザード」のような続編も考えているという。日本人の私から見たらそんなに期待できないと思うのだが、外国人(特にアメリカ人)からすれば面白いのだろう。ゾンビ映画は外国人受けがいいと言われているが、安心して鑑賞できるワン・パターンさがお手軽さを増しているのであろう。

 ロック・ミュージック的には、この映画のテーマ・ソングをイギリスのロック・バンド、ミューズが手がけていることだ。
 ミューズは3人組のバンドで、現在のイギリスでNo.1のライヴ・バンドといわれている。ロンドン・オリンピックのフィナーレでビートルズの曲を演奏していたし、キンラメのかなり目立ったファッションをしていた。日本のサマソニでもライヴを披露している。

 個人的にはライヴ映像は所持しているのだが、公式アルバムを1枚通して聞いたことはない。これから勉強しようと思っている。
 彼らは最新アルバムは2012年に発表された「ザ・セカンド・ロウ」で、シンセサイザーを多用した分厚いロックを展開している。Photo_3
 いずれにしても夏休み最後の映画にしては、ちょっと残念だったように思う。最近は洋画よりも邦画の方が勢いがあるが、もう少し見ごたえのある映画が出てくることを期待しているのだった。

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