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2013年12月24日 (火)

FM

 カナダのプログレッシヴ・ロック・バンドの一つに、FMというのがある。現在でもメンバーを入れ替えて活動中なのだが、結成は1977年と古く、翌年にはデビュー・アルバムを発表している。

 メンバーは3人で、中心人物はキーボードやベース・ギターを担当しているキャメロン・ホーキンスというミュージシャンだ。
 
もともとこのキャメロンとバイオリン、マンドリンを演奏するジェフ・プレウマンが1976年に出合い、意気投合して結成したバンドだった。

当時は2人で演奏していて、かなり前衛的なものからシンフォニックなものまで幅広い音楽性だったらしい。何しろ2人ともキーボードを自由自在に操れ、しかもエレクトリック・バイオリンやマンドリンまで取り入れていたから、ユニークなものだったに違いない。

さらにライヴではマルチ・スクリーンを導入して、ライト・ショウまで展開していた。まるで当時のジェネシスのようだ。

そのせいか彼らのデビューは割とすんなり決まった。デビューの際には、ドラムス担当のマーティン・デラーを迎え入れて3人組になっている。また、それより以前にメンバーのジェフは、1920年代の古いコメディ映画からナッシュ・ザ・スラッシュという名前を頂戴して、自分のニック・ネームにしていた。Photo_2
 彼らのデビュー・アルバムは、「ブラック・ノイズ」というタイトルで1977年に発表された。このアルバムはなかなかの傑作だと思う。キャメロンのボーカルは高音がよく伸びてさわやかに聞こえるし、バックの演奏もジャズ風からテクノ風まで幅広い。さまざまな音楽性を自分流に解釈して、自分たちの音として確立されたものを持っている。

 基本的にキーボードはスペイシーに装飾されていて、当時としては最先端のテクノロジーに裏打ちされたキーボード類が使用されているようだ。ギターレスのバンドなのだが、そんなことを考える必要もないくらい演奏は素晴らしい。

 また当然のことながら楽曲自体もよく練られていて、これはデビュー前からステージ上で演奏していたものをレコーディングしたからだろう。

 カナダのバンドは、どちらかというとカラット乾燥していてブルージィな雰囲気はない。あの大御所であるラッシュにしても、ゼップの影響は受けながらもそんなに湿っぽくはない。それ以外のヴィジブル・ウィンドやビートルズの覆面バンドと言われたクラトゥ、前回紹介したサーガ等々も暗い酒場で安酒を飲みながら嘆くときに聞くBGMには不似合いである。

このFMも変則的な編成のプログレッシヴ・ロック・バンドでありながら、奏でる音楽は聞きやすく、ときおりポップな要素を持ち込んでいる。

1曲目の“Phasors On Stun”340秒少々と短く、2曲目の“One O’clock Tomorrow”6分を超えるものの、いずれもサビの部分は耳になじみやすい。両方ともデビュー前からライヴで演奏していた曲だそうだ。Fm1_2
 一番プログレッシヴ寄りの曲は、8曲目最後の曲になる“Black Noise”だろう。シンセが飛び交うイントロから盛り上げようとするドラミング、途中のまるでエレクトリック・ギターのようなフレーズを奏でるキーボードなど、ドラマティックな展開がいかにもプログレッシヴ・ロックですよと訴えているのだ。

ただ残念なことに、このアルバム発表後ナッシュ・ザ・スラッシュはバンドを脱退した。彼はさらにプログレッシヴな方向性を志向していたのだが、キャメロンはエイジアのようなプログレ・ポップな方向を目指したらしい。ナッシュはその後ソロ活動を開始し、ソロ・アルバムや映画のサウンドトラックを発表している。また1983年から96年まではソロ活動と並行して古巣に舞い戻り、再びFMでも活動した。

また何を思ったか配給元の会社は、このアルバムを本当に“ノイズ”と思ったらしく、アルバムのプロモートはおろか、何故か500枚限定の通信販売として発表してしまった。

アルバムの評判は良かったものの、当然500枚では商業的な成功は望めず、次のアルバム「ダイレクト・トゥ・ディスク」は全2曲という極めてプログレ的でありすぎて、デビュー作とは対照的でありすぎた。(もちろん一部のファンからは熱狂的に受け入れられたが…)

それで彼らは1979年に3枚目のアルバム「サーヴェランス」を発表した。全9曲トータルでわずか36分に過ぎないもので、1作目よりもさらにポップで疾走感のある楽曲で占められていて、プログレの衣装を身に着けたロック・バンドになったような気がした。例えていうと、E,L&Pがジャーニーやフォーリナーの曲をやっているような感じだ。ただしバラードは歌っていないけれど…

特に1曲目の“Rocket Roll”や6曲目の“Seventh Heaven”などは今聞いても十分ヒットするのではないかという要素を備えている。エレクトリック・ギターは使用されていないのだが、微妙なビブラードやサスティーンがギターのように聞こえてくる。ジェフ・ベックのアルバムで演奏しているヤン・ハマーのようだ。

このアルバムでも最後の曲“Destruction”6分と一番長い曲になっていて、緩急をつけた曲展開や途中のバイオリンやキーボードの音色が特徴的だ。Fm2_2
 リーダーのキャメロンも言っているように、この作品は新メンバーのベン・ミンクもバンドに慣れてきて水準の高い楽曲も用意して制作したアルバムだった。が、しかし残念ながら当時の親会社だったパスポート・レコードが倒産してしまい、このアルバムの発売は見送られてしまった。

しばらくたってキャピトル・レコードがパスポート・レコードを吸収合併したので、やっとこのアルバムが陽の目を見ることができたのである。

このアルバムにはヤードバーズの1966年のヒット曲“Shapes of Things”が収められているが、これはキャピトル・レコードの意向だったらしい。しかもシングル・カットされてそこそこヒットしている。

またドイツのバンド、ネクターのシンセサイザー奏者だったラリー・ファストがアドバイザーとして参加しているし、親会社からは制作に1か月という、当時としては長いレコーディング期間が与えられた。ちなみにデビュー・アルバムは8日間、セカンドはわずか1日で制作されている。

結局、このアルバムも話題になったものの商業的な成功には結びつかず、彼らはその後アルバムを出し続けるも、1989年に一度解散した。

再結成やメンバー・チェンジを繰り返しながら、キャメロンを中心に今もなお活動を続けているFMだが、結局デビュー・アルバムを超えることはできなかった。

ただ個人的には好きなバンドだし、3人編成にしては躍動感のあるアルバム作りには敬服する限りだ。再結成よりも再評価の方が望ましいバンドの一つなのである。


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