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2013年12月14日 (土)

ウォブラー

  さて北欧のプログレッシヴ・ロックを少し垣間見てきたが、年末も近いことだし、そろそろ次の国に移動しようと思い、北欧については最後とすることにした。

 それで今回はスウェーデンのお隣の国、ノルウェーのバンド、ウォブラーの登場である。ノルウェーといえば、個人的には、ウィンター・スポーツが盛んで、冬季オリンピックではメダル獲得数が多いという印象が強い。また氷河と森林の国でもあり、自然との共生や教育熱心な国民性といった感じもする。

 そんな国からのプログレ・バンドだから、きっと素朴で牧歌的、土の香りのする民族性の強い音楽を奏でるだろうと思っていたのだが、ところがどっこい、21世紀のネット時代ではあっというまに過去の音楽や流行のものは、拡販していくのである。

 何もこれは音楽だけに限ったことではなく、事件や事故、ローカルな話題から個人的な意見までもが、フェイスブックやツィッターで世界の隅々まで広がってしまう。透明性や公開性が高まっていることはいいことだが、すべてが表面に出てくるのもまた問題だと思う。何でもすべてをオープンにすることが良いこととは限らないからだ。


 それでノルウェーのウォブラーである。80年代ではa-haの登場でノルウェーのポップ・シーンが紹介されたし、プログレではトラディショナルでフォーキィな味付けのホワイト・ウィローが有名だが、このバンドも個性的だ。その個性とは次の2点である。

 音楽性の基本コンセプトが変幻自在である。

 アンティークな楽器しか使用しない。

彼らは1999年にノルウェーのヘネフォスというところで結成された。結成当時は4人だったようで、デビュー・アルバムやセカンド・アルバムは、ゲスト・ミュージシャンを迎えて制作されている。
 自分が最初に聞いたのは、2005年に発表されたセカンド・アルバムの「アフターグロウ」だった。一言で言えば“傑作”の名前に値するもので、ノルウェーにはまだまだこういう素晴らしいバンドがいることを知って驚いた覚えがある。

基本的にはクリムゾンの亜流なのだが、単なるコピーに終わらせないオリジナリティーが加えられていて、ところどころに挿入されるフルートやチェロがいい味を出している。またメロトロンの使い方が本家クリムゾンを凌駕していて、ほぼ全編にわたって鳴り渡っているところが、メロトロン信者にはたまらないのだった。Photo

 アルバムは全5曲ながら、2曲目の“Imperial Winter White”4曲目の“In Taberna”をメインとして、その前後を短い曲でつないでいる。最初の“The Haywain”と最後の“Armoury”はアルバムの導入と終点になっていて、フルートやチェロが使用されている点がサウンドに奥行きを与えている。特に“Armoury”の方は約3分と時間的にも長く、ノルウェー流フォークロアのようで、最後は壮麗なメロトロンの洪水で占められているのが印象的だった。

また3曲目の“Interlude”はその名の通り、アコースティック・ギターと・アコースティック・ベースのみの挿入曲で、終盤にチェロ風味の味付けがキーボードによりなされている。何となくフルートのないジェスロ・タルの“Bouree”に似ている。

 

それで2曲目“Imperial Winter White”は、急迫なビートに変拍子の応酬が加わり、その間をメロトロンが鳴り響くという、まさにクリムゾン的な音響空間が展開されていて、アングラガルドと比べても全く遜色はない。それにフルートが加わるのだから「レッド」時代のクリムゾンにイアン・マクドナルドが参加した感じがした。ボーカルも7分過ぎと12分過ぎに加わるのだが、わずかに彩りを添える程度である。

また4曲目の“In Taberna”の方は、ほんの少しだけフリップ風のエレクトリック・ギターが目立っているが、基本はキーボードであり、中でもメロトロンの使用頻度は高い。

同時に、フルートもときおり主旋律を奏でているし、ハモンド・オルガンもジャズっぽいフレーズを聞かせてくれる。8分過ぎには民族調?のアレンジも施されていて、全体の完成度としてはかなりのハイ・レベルである。この辺はキング・クリムゾンの種子がうまく北欧に根付いたようで、単なるクリムゾン・フォロワーで終わっていないところが素晴らしい。

 ところで②にもあるように、彼らはヴィンテージの楽器しか使用しない。具体的には1975年以降に製造された楽器は使わないようで、だからギターやキーボード類もすべてそれ以前に作られたものだそうだ。したがってこのコンピューター全盛の時代に、多重録音でもすべて1つひとつの楽器やボーカル・パートを別々に録音してまとめている。
 それに彼らは楽器のメンテナンスに長けているので、古い楽器でも自分たちで修理をしながら使っているという。

 彼らの3枚目のアルバム「夜明けの儀式」は2011年に発表された。このアルバムではボーカルが正式メンバーとしてクレジットされていて、前作とは別人に交代している。またゲスト・ミュージシャンとして、フルートとバスーン奏者が加わっている。

 それで驚くべき点は、前作はクリムゾン的な音楽だったのが、今回はボーカリストの声質を生かしたのかどうかわからないが、イエス的な音世界に変質している点である。この変わり身は今作だけなのか、はたして恒久的なのか、その点については不明なのだが、よく言えば“変幻自在”、悪く言えば“変節漢”で、しかもこれほどの変わり身は尋常ではない。

ここまで音楽性を変えるのは、間違いなく意図的であり、自分たちはクリムゾンやイエス、あるいは他のバンドの音楽性を反映していますよと宣言しているかのようだ。それだけのテクニックと自信をもっているのは間違いないようだし、同時にとても前作のアルバムと同じバンドとは思えないのである。

このアルバムは全7曲で、最初の曲“Lucid”と最後の曲の“Lucid Dreams”のタイトルを見れば、トータル・アルバムの形式をとっているのがわかるだろう。両方ともアンビエントなインストゥルメンタルなので、円環的な流れになっている。2

 とにかく2曲目の“La Bealtaine”のイントロを聞けば、すぐにこれは例のバンドのパクリだということがわかる。しかもボーカリストの声も激似で、ここまでやるかという感じがした。リズム・セクションも似ているし、ボーカル・ハーモニーも「サード・アルバム」、「こわれもの」の頃に似ている。

似ていないのは、メロトロンの多用とギターが目立っていないところだろう。それからゲストのフルート奏者の存在も本家とは異なっている。

 アコースティック・ギターで導かれる“In Orbit”では、疾走感のあるリズムに乗って、手数の多いキーボードとジャズっぽいギターが目立っている。とにかく肯定感のあるメジャー調の曲はどこを切ってもイエス節である。ただどちらかといえばギターよりもキーボードの方が目立っているので、できればもっとソリッドなギター・ソロを含んでいてほしかった。

 続く“This Past Presence”はスローなバラードと思いきや、2分過ぎから急にテンポが速くなり、今度は今までの鬱憤を晴らすかのようなキレのあるギター・ソロが流れてくるが、ボーカル・パートが始まるとバラード調に戻って行く。最後はメロトロンの調べからリリカルなピアノの音で締められていった。まさに構築美を誇る音楽観が提示されているから、聞いていて興味深い。

 5曲目の“A Faerie’s Play”は、“Siberian Khatru”の彼ら流の再解釈かもしれない。途中でブレイクは入るものの、全体の流れは全盛期のイエスを髣髴させるものになっている。それは10分以上もある“The River”でも同様で、緩急をつけた曲展開やドラマティックな曲調などは、コアなイエス・ファンなら喉から手が出るほど待ち望んでいるものであろう。

 

ただ欲を言うなら、もう少しメロディアスなフレーズが欲しかったし、ギターの音色に彩色が欲しかった。テクニック的には申し分ないのだが、音色が単調でキーボードよりも目立っていないのだ。

 逆にキーボーディストはメロトロンを始め、ピアノにハープシコード、ムーグ・シンセサイザーにハモンド・オルガン、ミニ・ムーグ、クラビネット、チェンバレン、ソリーナ・ストリング・アンサンブルと名の通ったキーボード類はほとんど使用している。この人はホワイト・ウィローでもキーボードを担当しているようで、ノルウェーを代表するロック・キーボーディストなのだろう。

 歌詞はすべて英語で歌われているから、ひょっとしたらワールドワイドな展開を望んでいるのかもしれないが、果たしてどうなるのか、よくわからない。

とにかく2枚目までと3枚目では、その音楽性が一変しているウォブラーである。果たして次作以降どうなるのかわからないが、その演奏能力のポテンシャルについては、確かに優れてはいるバンドだ。

次はクリムゾンに回帰するのか、それともこのままか、さらにはフロイドや他のバンド風に変化するのかわからないが、いろんな意味で期待を持たせるバンドであることは間違いないだろう。

 そしてそれを支えているのは、1975年以前のヴィンテージな楽器なのである。楽器は時代錯誤かもしれないが、彼ら流の音楽は前向きであってほしいと願っている。


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