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2014年8月19日 (火)

ローン・スター

 中学生の時に、ギルバート・オサリバンの"Alone Again"という歌が流行っていて、その時に初めて"alone"という単語を知った。
 ところが"lone"という単語も同じような意味だということは、大人になるまで知らなかった。というか、今回登場するバンドのアルバムを聞くまでは知らなかった。"lone"は単なるスペル・ミスだと思っていた。

 今回登場するバンドは、イギリスの「ローン・スター」という名前である。日本語にすると、“孤独な星”という名前になるだろう。

 それでそっくりそのままのタイトルで、彼らのデビュー・アルバムが発表された。1976年のことだった。
 バンドの構成は、ツイン・リード・ギターにキーボード、ベースにドラムとリード・ボーカルという6人編成で、最初はイギリスのウェールズで活躍していたローカル・バンドだった。

 中心メンバーは、ボーカルのケニー・ドリスコールとギター担当のポール・チャップマン、ベース担当のピーター・フューリーの3人だった。

 ポール・チャップマンと聞けば、ロックに詳しい人にはわかると思うけれど、あのUFOに在籍していたギタリストのことだ。
 詳しく言うと、1977年のUFOの全米ツアーの途中に、元々のギタリストだったマイケル・シェンカーが疾走してしまい、急遽、代役に立てられたのがポールだった。

 ポールは、1974年に約半年間UFOに在籍してマイケル・シェンカーとツイン・リード・ギターを披露しているから、まるっきりの初めての経験というわけではなかったのだろうが、それにしてもいきなり声をかけられて、それに対応できるというのは、やはり大したものである。

 ところでこのポール・チャップマンというギタリストは、代役の声がかかることが多く、17歳の時にゲイリー・ムーアの代わりにスキッド・ロウに参加している。1971年頃のお話だ。やはり若い時から、それなりの才能豊かなギタリストだったのだろう。

 ちなみにポールの父親もギタリストで、あのデイヴ・エドモンズとは親戚だという。(ポールはいとこにあたるらしい)ポール自身もその影響を受けて、9歳からギターを弾き始めている。
 またボーカリストのケニーの父親もサックスやトランペットを演奏するミュージシャンだったようだ。

 それで彼らはバンド活動を始めるも、ポールがスキッド・ロウに移籍したので、新たなギタリストであるトニー・スミスを迎え入れて、ニュー・グループを結成した。

 一方でスキッド・ロウ加入後、体調を崩したポールは、またイギリスに戻ってピーターとともに活動を始めたのだが、「現象」を発表したばかりのUFOからツアー・メンバーとして声がかかり、そちらで約半年活動したあと、ケニーのいるローン・スターに加入したのである。1975年頃のお話だ。

 彼らのアルバム「孤独な星」のプロデューサーは、当時クィーンで名を馳せていたロイ・トーマス・ベイカーだった。クィーンのようなオペラティックなハーモニーや音を重ねたようなサウンド効果は聞かれないが、それでも随所随所にスペイシーでドラマティックな曲構成をとっている。やはりギタリストが2人とキーボーディストがバンドにいたから、音に厚みを重ねることができたのだろう。Photo
 何しろ1曲目がザ・ビートルズの"She Said She Said"である。しかも8分29秒もある。やはりこれは、プロデューサーの意向が強かったのだろうか。
 曲の途中にはキーボード・ソロがあるし、もちろんギター・ソロもあるのだが、ハード・ロック・バンドというよりも、まるでプログレッシヴ・ロック・バンドのようだ。そういえばイエスもザ・ビートルズの"Every Little Thing"のカバーをしていたような気がする。

 全体を通して聞くと、ちょっとバラバラで中途半端な印象を受けてしまった。せっかくのツイン・リード・ギターという強みを十分に発揮できていないと思うのである。
 2曲目"Lonely Soldierでも2分40秒過ぎに、爆撃のようなSEが加えられていて、逆に曲の盛り上がりを削いでいる気がしてしまう。

 ロックの持つ疾走感が味わえるのが、3曲目の"Flying in the Reel"で、こういう曲をもっと演奏してほしかった。逆に言えば、そういう良さがないところが、B級バンドとしての特質をよく表していると思える。

 ザ・ビートルズのカバー曲以外は、すべてケニーとトニー・スミスが作っている。たぶん歌詞はケニーで、作曲はトニーだろう。

 ギタリストが作った曲の割には、あまり目立つフレーズがない。逆にスペイシーなキーボードが目立つ"Spaceships"や"Illusions"など、やや複雑な曲構成を持つ曲が多くて、この辺もハード・ロック野郎には嫌われた原因になったのだろう。
 そういえば、何となくトッド・ラングレンの曲を聞いているような感じもしてきた。メロディアスでないトッド・ラングレンズ・ユートピアのようだ。

 また1976年という時代状況も、彼らに逆風をもたらしたに違いない。パンク・ロックの嵐が吹き荒れる直前でのハード・ロック、しかもややプログレッシヴな要素を持つ曲構成のバンドには、辛いものがあったと推測される。

 このアルバムで唯一ツイン・リード・ギターが目立っているのが"A New Day"だろう。この曲でのスライド・ギターともう1つのエレクトリック・ギターの掛け合いは、聞く価値があるかもしれない。

 アルバム後半は曲が連続していて、曲間がない。この辺の手腕はロイ・トーマス・ベイカーの得意とするところだろう。
 また最後の2曲"A Million Stars"と"Illusions"は3分少々と短い。"Illusions"の方は、シングル曲"She Said She Said"のBサイドになっている。

 このアルバムは全英チャートでは、47位を記録した。バンドは同じCBSレーベルのミュージシャンだったテッド・ニュージェントの前座として、全英ツアーに同行している。
 ところがこのツアーの途中で、ボーカリストのトニーと他のメンバーとの対立が生じてしまい、結局、トニーはバンドを脱退してしまった。

 代わりに当時20歳だった新人のジョン・スローマンを迎えて、セカンド・アルバム「炎の銀惑星」を翌年発表した。チャートでは36位を記録し、楽曲的には、こちらのアルバムの方が優れているといわれているが、自分はまだ未聴なので、何とも言えない。

 ただこの年には、メロディ・メイカー紙上でブライテスト・ホープ第5位に選出されているので、77年以降の方が人気があったのは間違いないだろう。
 ちなみにこの年のレディング・フェスティバルには、マイケル・シェンカーが彼らの陣中見舞いに訪れている。

 彼らは2枚のスタジオ・アルバムを残して解散してしまった。(最近では未発表だった3枚目のスタジオ・アルバムも発表されている!)

 新人ボーカリストだったジョン・スローマンは解散後、ゲイリー・ムーアのバンドやユーライア・ヒープの3代目ボーカリストとして活躍したし、ポール・チャップマンは再び、というか三度というか、UFOに参加した。

 もう一人のギタリストだったトニー・スミスはアメリカに渡り、“ライオン”というバンドを結成したが、間もなく脱退している。

 そしてオリジナル・ボーカリストだったケニー・ドリスコールは、1980年には短期間ながらゲイリー・ムーア・バンドに所属してライヴ盤を発表した。現在では地元のパブやライヴ・ハウスなどで歌っているようだ。

 もしローン・スターと同時代に自分がこのバンドのことを知っていたなら、その時"Lone"という単語も覚えただろう。でも知ることができなかったのは、残念ながら、やはり彼らがB級バンドだったということなのかもしれない。


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