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2014年8月14日 (木)

リトル・エンジェルス

 それにしても英国は日本よりも面積も人口も少ないのに、多くのミュージシャンや音楽のトレンドを輩出してきた。しかも英語圏ということもあるのだろうが、中にはロックやポピュラー・ミュージックの頂点に立つ個人やバンドも出てくるのだから、まったく大したものである。

 今回のB級バンドは、同じB級でも一味違って、それなりの成功を収めた人たちだ。“真夏の暑さを乗り切るB級ブリティッシュ・ハード・ロック・バンド”の第8弾には、リトル・エンジェルスが登場する。

 彼らは1990年代のハード・ロック/ヘヴィ・メタル不毛の時代に、成功を収めた数少ないバンドの1つでもあった。
 結成は1984年頃で、イギリスの東北部スカボローのローカル・バンドだった。中心人物はボーカル&ギターのトビー・ジェプソンとベーシストのマーク・プランケットだった。

 彼らはミスター・スラッドというバンド名で活躍していたが、ギタリストのブルース・ジョン・ディッキンソンとキーボーディストのジミー・ディッキンソンの有望な兄弟が加入してきて、バンド名をリトル・エンジェルスに変え、全国的な成功を目指すようになった。

 ちなみにギタリストのブルースは、どこかのバンドのボーカリストと同姓同名だったので、間違われないように、ミドル・ネームのジョンをいつも入れていたそうだ。

 最初は、地元のレーベル会社と契約を結び、地道に活動を続けていった。やがては彼らはポリドール・レコードと契約を結ぶのだが、それが1988年か89年の頃だった。

 リトル・エンジェルスは3枚のアルバムを90年代に残している。彼らの成功の原因はいくつか考えられる。
①曲が分かりやすいということ…基本的に70年代のハード・ロックを90年代に再構築したような音楽を提供してくれている。妙に小手先だけのテクニックに走ることなく、堂々としたハード・ロックになっている。

②演奏がしっかりしている…プロなのだから当たり前なのだが、演奏が上手い。しっかりしたタイトなリズム陣と、ディッキンソン兄弟のプレイが素晴らしい。特にギタリストのブルース・ディッキンソンの速弾きはスリリングで、緩急の付け方が上手く、この時期のイギリスのギタリストでは5本の指に入るのではないだろうか。
 またドラマーだったマイケル・リーは、後にザ・カルトやペイジ&プラントとともにライヴやレコーディングに参加している。
 

③アメリカでの成功を意識しているのか、外部ライターとの共作が目立つ…例えば、レインボーの曲で有名になったラス・バラードやブライアン・アダムスやエアロスミスと共作したジム・ヴァランスと一緒に曲を書いている。だから曲によってはメロディアスで覚えやすい。

④ホーン・セクションが付随している…当時の(そして今も)ロック・バンドとしては例を見ないのだが、このバンドには“ビッグ・バッド・ホーンズ”という名前の3人組ホーン・セクションがくっついていて、レコーディングだけでなく、ライヴのステージにも登場して、時にファンキーなセッションを行っていた。日常的にいつも一緒に行動するホーン・セクションが存在するハード・ロック・バンドというのは、珍しいものだった。

 そんな特徴を備えていたリトル・エンジェルスである。彼らは90年代に、イギリスのシングル・チャートの40位までに12曲を送り込み、1枚のアルバムを全英No.1に押し上げた。

 また、ボン・ジョヴィやヴァン・ヘイレンなどとイギリス・ツアーを行い、ロイヤル・アルバート・ホールやハマースミス・オデオン(今はハマースミス・アポロ)ではヘッドライナーとして凱旋公演を行っている。

 彼らが1991年に発表した「ヤング・ゴッズ」は、全英アルバム・チャートの17位を記録したが、まさに昇り竜状態だった彼らの意気込みや情熱が伝わってきそうだ。Photo 特に3曲目の"Young Gods"は、スコティッシュなトラッド色も織り込んだミディアム・テンポの曲で、徐々に盛り上がっていく構成が素晴らしいし、4曲目の"I Ain't Gonna Cry"はブルースの演奏する泣きのギターと途中のナイロン・ギターがカッコいい。

 この1曲のためにこのアルバムを購入しても、損はしないだろう。冗談ではなく、90年代を代表するハード・ロック・バンドのバラードだと思っている。

 これらの曲以外でも、ファンキーなホーンが炸裂する"The Wildside of Life"やディッキンソン兄弟が活躍する"Product of the Working Class"、ラス・バラードとの共作の"Love is a Gun"など聞きどころは満載だ。

 また、このアルバムのジャケットにも注目してほしい。よく見るとジョン・レノンや「ロウ」時代のデヴィッド・ボウイのポスターが飾られているし、裏ジャケットにはジム・モリソンにジャニス・ジョプリン、ジミ・ヘンドリックス?やフランク・ザッパ?などの写真もあった。まさに70年代的な背景や発想で作られたジャケットであり、音楽だったのだ。

 1993年には「ジャム」というアルバムを発表して、見事全英No.1を獲得した彼らだったが、残念ながらアメリカでの成功は望まれず、メンバー間の対立も生じて、1994年に解散してしまった。

 その後、彼らはそれぞれ活動を始めたのだが、元ドラマーだったマイケル・リーが癲癇発作で2008年に39歳の若さで亡くなり、その葬儀をきっかけに再び集まろうということになり、2012年から1年間だけ再結成されて、いくつかのフェスに参加している。残念ながら再々結成の予定はないようだ。Little_angels_2012
 とにかく70年代のハード・ロックを90年代に甦らせようとして活動を続けたリトル・エンジェルスだった。ただ彼らはイギリス国内だけでなく、アメリカでの成功も目指そうとし、伝統的なブリティッシュ・ロックよりもカラッと爽やかなアメリカン・ハード・ロックを志向していったのが、失敗の一因かもしれない。

 ボーカリストのトビーは、まだ47歳だ。ミック・ジャガーに比べれば、まだまだ若造である。成功するとか失敗するとかいうことを抜きにして、もう一度自分のやりたい音楽を極めてほしいものである。これほどの素晴らしいアルバムを残したのだから。


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