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2014年10月28日 (火)

マグナム

 10月も終わりに近づいてきた。それで今まで続けてきたシリーズ、“プログレのようなヘヴィメタのような”ロック特集も、今回で最後にして、来月からは新しい企画を考えていこうと思っている。

 それで最後の今回も、英国産のバンドを紹介したい。1970年代の終わりにシーンに登場してきたバンド、マグナムである。
 彼らは1972年にバーミンガムで結成された。売れる前は地元のパブや小さなクラブで、コツコツとライヴ活動を続けていたようだ。

 彼らが売れるようになったのは、1978年にジェット・レコードと契約を交わしてからだった。知っている人は知っていると思うけれど、ジェット・レコードにはエレクトリック・ライト・オーケストラ(略してE.L.O.)が所属していて、彼らはマグナムと同じバーミンガム出身だった。そういう地元つながりという縁故みたいなものも、あったのだろう。

 結成当時のメンバーは5人で、中心メンバーは、ギタリストのトニー・クラーキン、ボーカリストのボブ・カトレイ、キーボーディストのリチャード・ベイリーだった。Magnum3
 彼らが普通のハード・ロック・バンドと異なるのは、リチャード・ベイリーの演奏するポリフォニックなシンセサイザーと、時折り聞こえてくるフルートの音のせいだろう。

 彼らのデビュー・アルバムは、1979年に発表された。ちょうどパンク・ロックからニュー・ウェーヴへと移行するときでもあって、彼らのようなロック・バンドにとっては逆風が吹き荒れていた時期だったが、ジェット・レコード所属ということも幸いしたのか、意外と受け入れられたようで、チャート・アクションでは58位を記録している。

 このデビュー・アルバム「キングダム・オブ・マッドネス」には9曲が収められていて、1曲目の"In the beginning"は、7分34秒という長丁場の曲だ。

 この曲だけ聞けば、とてもハード・ロック・バンドとは思えないだろう。アコースティックからエレクトリックまで、器用にギターを弾きこなすトニー、華麗なムーグ・シンセサイザーを披露するリチャードに、まさにヘヴィメタ野郎のようにシャウトするボブのボーカル、それらが一体となって、転調を繰り返しながら曲が進行している様子は、まさにプログレッシヴ・ロックの様相を呈していた。

 逆にハード・ロック・バンドの一面を披露しているのが、次の曲の"Baby Rock Me"で、細かく刻まれるスネア・ドラムとハイハットのリズム・パターン、さらには途中に挿入されるキーボードがユニークだ。この曲だけを聞くと、70年代前半に日英で人気が高かったスウィートを思い出した。よく似ていると思う。

 一転して3曲目の"Universe"は4分足らずのバラード曲になっていて、今度はリチャードのエレクトリック・ピアノとシンセサイザーが美しく響いている。
 彼らの曲は、メロディがはっきりとわかりやすく、ハード・ロックに伴う武骨さや暑苦しさなどは微塵も感じられない。

 アルバム・タイトルでもある"Kingdom of Madness"では、イントロのフルートとアコースティック・ギターの短い調べから一転してハードな展開が披露される。4分24秒とそんなに長くないのだが、アコースティック・ギターとエレクトリック・ギターの使い分けが効果的で、それにキーボードやフルートが絡んでくる。
 またボーカルをバックアップしているコーラスも綺麗にまとまっているし、鳥のさえずりのSEも含まれていて、全体的に長く感じられた。

 後半は3分台の短い曲が続いている。まず"All That is Real"では、曲の途中でいきなりギター・ソロが始まりハードな雰囲気を形造るも、エンディングにシンセサイザーが使用されて収束していく。

 ドライヴィング・ギターとキーボードのバランスがいいのは、"The Bringer"だろう。この曲もドラマティックな曲調で、アコースティック・ギターの使い方が上手だ。後半のカウベルから始まるギター・ソロも印象的である。

 "Kingdom of Madness"とともに、今でもライヴで歌われているのが7曲目に収録されている"Invasion"で、確かに性急感のあるリズムとそれに絡むオーヴァーダビングされたギターは、ライヴではより一層映えるだろう。

 このアルバムは曲間がほとんどなく、全9曲がまとまって聞こえてくる。"Invasion"の次の"Lords of Chaos"も同様で、中盤のキーボードとクィーンのようなオペラティックなコーラスがカッコいいし、アップテンポの2曲に続いて、エンディングの"All Come together"は、最後を締めくくるにふさわしいバラードでもある。重厚なキーボードが感動的だった。Photo_2
 最初の曲以外は、このアルバムの曲は比較的短いのだが、1曲1曲にドラマ性があり、非常に巧みに作られていることが分かる。曲はすべてギター担当のトニーが書いているのだが、アレンジはみんなで行っているのだろう。

 同時に、ギターだけが、あるいはキーボードだけが目立つということはなく、バランスよく配置されている点も見逃せないだろう。歌ものアルバムだが、ボーカルだけが目立つということもないし、演奏だけが際立っているというわけでもない。

 1979年という時代性を考えれば、当時のプログレッシヴ・ロックとハード・ロックの良質な部分をブレンドして絞り込んだ音楽、と言えるのではないだろうか。

 彼らの黄金期は80年代だった。1982年のアルバム「チェイス・ザ・ドラゴン」で英国内に名前が売れ、85年の「オン・ア・ストーリーテラーズ・ナイト」で世界的に有名になり、商業的にも十分な成功を収めるようになった。

 彼らのアルバム・ジャケットは、いずれも独創的で、中世的な幻想絵画を味わうことができる。彼らの音楽観をシンボライズしているかのようだ。

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 彼らは1995年に解散したが、21世紀に入って再結成し、コンスタントにアルバムを発表している。オリジナル・メンバーは、ボブとトニーだけで、キーボーディストは、黄金期を支えたマーク・スタンウェイに交代している。

 いずれにしても、軸足はハード・ロックに置きながらも、ポップでも単なるハードでもなく、また形だけのプログレッシヴ・ロックでもなく、それらを含みながら絶妙なバランスの上に位置していたマグナムだった。“プログレのようなヘヴィメタのような”ロック特集に、まさにふさわしいバンドだといえるだろう。


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