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2014年11月 2日 (日)

サンヘドリン

 11月を迎え、いよいよ晩秋を迎えた。今年は雨の多い夏だったせいか、梅雨から短い夏を経て、秋が長かったように思える。朝夕は肌寒くなったせいか、もうすぐ冬がやってきそうで、そう考えると、長い秋だと思う。

 それで秋といえば、自分の中では、プログレッシヴ・ロックである。それで今年もプログレ特集をするのだが、今回は欧米以外の地域に存在するプログレッシヴ・ロック・バンドを紹介しよう。

 第1回のバンドは、中近東はイスラエル出身である。その名をサンヘドリンという。5人組でシンフォニックなロックを展開している。

 5人組なのだが、中心メンバーはサギ・バーネスとアヴィヴィ・バーネスの兄弟で、どちらが兄か弟なのかは、よくわからない。ただサギの方はベース・ギターを演奏し、アヴィヴィはキーボードをプレイしている。

 他のメンバーは、ギター、ドラムス、フルートを担当していて、いずれもイスラエル国内では、著名なミュージシャンである。2
 1987年に、バーネス兄弟は初期のピンク・フロイドの音楽に啓発を受け、自分たちも音楽をやろうと思ったそうだ。
 それから約10年たって、1998年頃にキャメルのコピー・バンドとして、テルアビブ周辺のクラブや小さなホールで演奏活動を始めたらしい。

 その後、バーネス兄弟以外は、入れ替わりが激しくて、時には女性フルーティストを入れていたという。バンド名もサンヘドリンではなくて、一時、サンヘドリオンと名乗る時期もあった。
 ちなみにサンヘドリンとは、新約聖書時代のユダヤ人が司る最高法院のことを意味するようだ。

 彼らが有名になったのは、兄弟以外のメンバーがイスラエルではかなり有名なミュージシャンだったからだ。特にフルーティストのシェム-トヴィ・レヴィは、20枚近いソロ・アルバムを発表しているし、自分自身のバンドを持っている。ジャズ系のバンドらしい。また映画や演劇、TVドラマの音楽も手掛けていて、ヨーロッパでもかなり評判が高いという。

 そんな彼らは、2011年に、デビュー・アルバムを発表した。それが「エヴァー・アフター」という8曲入りのインストゥルメンタル・アルバムだった。

 さすがに元キャメルのコピー・バンドだったせいか、一聴すると、キャメル風の穏やかな印象を抱かせてくれるが、よく聞くと、時にフルートがイアン・アンダーソン風になったり、ギターがデイヴ・ギルモア化していたり、さすが21世紀のバンドだけあって、過去のプログレ・バンドのいいとこ取りのようなところもある。
 

 やはり一流ミュージシャンが集まっているだけあって、奏でられる演奏は間違いがないものだ。ただ基本は、やはりキーボード・バンドである。

 1曲目の"Overture"では、キャメル風の軽快なインストに、ジェスロ・タル風のフルートが絡んでくる。ギターには艶があり、テクニカルではないけれども、安定した演奏を聞かせてくれる。

 2曲目の"Il Tredici"は11分以上もある大作だが、フルートの美しい音に導かれて、ハモンド・オルガンとエレクトリック・ギターが絶妙なアンサンブルを奏でている。キャメルでもあるが、自分はむしろイタリアのバンド、レ・オルメあたりを連想してしまった。同じ地中海に面しているからだろうか。

 テンポが緩やかになると、フルートとギターが前面に出てくるし、転調も多く、途中で春霞のようなメロトロンをバックにハモンド・オルガン・ソロも飛び出してくる。さながらソリストの共演のようだ。エンディングには、うめき声と小鳥のさえずりの短いSEが添えられていて、演出を高めている。

 この2曲を聞いただけでも、このバンドは決して只者ではないとわかるだろう。透明感のある幽玄さと内に秘められた繊細さが絶妙に同居していて、70年代を経験しているプログレ・ファンには絶対に受け入れられるだろう。

 "Dark Age"はアコースティック・ギターとフルートで始まる。まさにトラッド色の強かったジェスロ・タルだ。1分40秒過ぎにはキーボードとギターが全体をリードしていき、徐々にアップ・テンポになっていく。中盤はキーボード中心で、ジャズ色の濃い部分もあり、静と動の対比が見事である。

 "The Guillotine"という物騒なタイトルの曲では、フランス革命を意識したのだろうか、群衆の声をバックに、チャーチ・オルガンとフルートが柔らかなハーモニーを披露し、それにキレの良いリズムとやや自己主張のないエレクトリック・ギターが絡んでくる。

 自分は、もう少しギターも頑張ってほしいと思う。だってキャメルでは、アンディ・ラティマーはこんな演奏をしたりはしないはずだからだ。

 5曲目の"Timepiece"も、どちらかといえばキーボード中心だろう。やはりバーネス兄弟の力が作用しているのだろうか。ちなみにプロデュースもこの兄弟が行っている。

  ところが、この曲の4分過ぎから急にギターがギルモア化して、まるで「おせっかい」の後半のギター・ソロを聞いているような気がしてきた。おお、これは…と思ったところで、エンディング。もう少し聞きたかったなあ。やはり欲求不満が募るのである。

 何となく「スノー・グース」の中の何かに似ている"Sobriety"は8分以上もあって、珍しくギターも最初から音を出している。ただしフルートと同時に鳴っているので、存在感はやや薄い。
 4分過ぎに、フロイド風のスペイシーかつサイケデリックな短い音響空間があった後、6分前から急にサックスが鳴り響く。これはアヴィヴィ・バーネスが吹いているもので、この辺はヴァン・ダー・グラフ・ジェネレイターに似ている。

 アコースティック・ギター1本による"Tema"は1分8秒と短く、次の最終曲"Steam"のプレリュードのようだ。このギタリストは、かなり器用なようで、このアコースティック曲も技術的な素晴らしさと同時に、曲に備わっている歌心も上手に伝えてくれている。このギタリスト、やればできるのに出し惜しみをしているかのようだ。それともバーネス兄弟に遠慮しているのだろうか。

 最後の曲では、最初からギターやフルートが飛ばしていて、あとからリズム・セクションが追いかけているみたいに聞こえてくる。ただギターが頑張るのはこの辺りまでだった。

 3分前のチャーチ・オルガン風のバッキングから普通はエレクトリック・ギターが飛び出してくるのだが、ここではフルートの音が流れてくる。同時にギターはバッキングに徹し、それはそれで趣はあるのだが、迫力には欠けてしまう。せっかく9分30秒もあるのだから、もう少しくらい目立ってもいいのではないだろうか。

 ただ流石に最後の1分間弱では、やっとギターも顔を出してくれて、最後のフィニッシュに持っていこうとしている。でもやはりこのバンドの持ち味は、フルートとキーボードのようだった。Photo
 このアルバムを発表後の彼らの詳しい状況は、よくわからないのだが、まだ解散はしていないようだ。基本的にはバーネス兄弟のバンドなので、彼らの意欲が続く限りは、何らかの形で作品を発表してくれるだろう。

 中東にも素晴らしいバンドがあることはわかったが、この美しい音楽をユダヤ人だけのものにするのではなく、アラブの人も、それ以外の国の人も、みんなで楽しめるような、そんな時代が一刻も早く到来することを願っている。音楽にはまだそんな力が残っていると信じている。


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コメント

 プログレの秋、良いですね。
 このバンド、このアルバム初めて聴かせていただきました。
 かってのピンク・フロイド(ライトのキーボードが活躍の頃)、キャメル(ラティマー主導となる「スティショナリー・トラベラー」より以前)の色彩を帯びたクラシック(笑)・ブログレッシブ・ロックですね。
 おっしゃるようにキーボード、フルートが描く世界が主力で、しかしなかなか味はありますね。ちょっと懐かしムードで聴かせていただきました。

投稿: 風呂井戸 | 2014年11月 2日 (日) 21時59分

 こんばんは、コメントありがとうございます。確かに昔のプログレ・バンドの良質な部分を受け継いでいるようで、それはそれでいいと思います。兄弟バンドなので、彼らを中心に構成されています。だからキーボード中心になっているようです。
 次作を期待しているのですが、輸入盤を探してもありません。日本ではこのまま消えていくような気がします。

投稿: プロフェッサー・ケイ | 2014年11月 3日 (月) 21時50分

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