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2015年1月29日 (木)

プリンスの新作

 今年、成人式を迎えた20歳に「欲しい車」についてインタビューしたところ、次のような結果が出たらしい。
 1位・・・プリウス(トヨタ)、2位・・・キューブ(日産)、3位・・・BMW3シリーズ/5シリーズ(外国車)1位がプリウスということは、それだけエコロジーという考え方が定着したということだろう。

 昔は、車といえば鉄の塊、排ガスをまき散らして走るということが当たり前の考え方で、環境に優しいこととは正反対の存在だった。まるっきり正反対のものが、いつのまにか共通の目標になり、ついに望ましい価値観にまで昇華された。いまや、スーパー・カーやレース車以外で、燃費がℓ5とか6では、消費者は見向きもしないだろう。

 それで、今回はプリウスではなくて、プリンスである。あの80年代に一世を風靡したプリンスだ。当時は、女性ではマドンナ、男性ではプリンスが、出すアルバム、出すアルバム、大ヒットさせていた。まさに時代の寵児だったのである。Prince240114
 さて、そのプリンスが90年代以降、所属会社のワーナー・ブラザーズとの関係が悪化し、さらにはその後の所属のレーベル会社も定まらず、プロモーションも不十分だったせいか、せっかくのアルバムも商業的に失敗するというスランプを迎えていた。

 また1994年から2000年まではプリンスという名前も捨て、クレジット名なしでアルバムを発表していた。まさに一般人にとって見れば、奇行としか言いようがないが、本人はそれなりに考えていたのだろう。(今となって考えれば、ひょっとしたらプリンス側のレコード会社に対する対抗策だったのかもしれない)

 個人的には、この時代は彼の才能の“安売り時代”だったと思っている。それまでゴールド・ディスク3枚、プラチナ・ディスク以上が7枚と、まさに天才としかいいようのなかった彼が、1994年以降、2007年まではゴールド・ディスク4枚、プラチナ・アルバム以上が2枚という(それでも素晴らしいと思うのだが)、明らかなスランプ状態を迎えていた。(チャートはすべてアメリカのビルボードを参照している。以下、同じ)

 それでも1996年に発表された3枚組アルバム「イマンシペイション」は名盤だと思っているし、2007年の「プラネット・アース」は傑作ポップ・アルバムだった。チャート的にも前作は3枚組というボリュームにもかかわらず11位、後者は3位まで上昇していた。

 そんなプリンスが、再び古巣ワーナー・ブラザーズに戻って、新作を発表した。それが「アート・オフィシャル・エイジ」である。しかもこの1枚だけでなく、彼がバックアップしたガールズ・グループ、サード・アイ・ガールと一緒の「プレクトナム・エレクトラム」も同時発売してしまったのだ。

 今までネット販売していた彼のアルバムも、ようやく正式な流通ルートで発表されることになった。そのせいか、プリンスのモティベーションも高まっていったに違いない。

 自分は一度に2枚も買えるようなお金も、心の余裕もないので、とりあえずプリンス名義の「アート・オフィシャル・エイジ」を購入した。しかも輸入盤である。しかもブックレットも何もついていない。確かに輸入盤だから、何もついていなくても不思議ではないのだが、だけどCD1枚だけというのは如何にも寂しいではないか。

 それだけこのアルバムに自信があるというか、純粋に音楽だけを楽しめというプリンス側のメッセージだろう。1
 実際、自信に満ちた力強いビートの"Art Official Cage"でアルバムは幕を開け、ミドル・テンポの"Clouds"では、ロンドン生まれの女性シンガー・ソングライター、リアーネ・ラ・ハヴァスとのデュエットを聞かせてくれる。

 相変わらずのファルセット・ボーカルで聞かせてくれる曲は、"Breakdown"である。この人の書きおろすバラードのメロディは、確かに美しいし、印象的でもある。

 ただこのファルセットを気持ちいいと感じるか、変態チックと思うかが、分岐点だ。気に入れば死ぬまで彼のファンになるだろうし、気に入らなければイントロを聞いただけでも、彼のアルバムを壁に投げつけてしまうだろう。

 また、彼はこの曲でアンディ・アローという女性シンガーとコラボしている。このアンディさんは、アフリカはカメルーン生まれの25歳。先ほどのリアーネさんと同様、なかなかの美人で、プリンスとは2011年から彼のバック・バンドに参加したり、一緒に曲を書いたりして活動をともにしているようだ。

 80年代の黄金期を髣髴させてくれるのが、"The Gold Standard"で、細かに刻まれたリズムと、カッティング主体のギター、短く挿入されるホーン・セクションとキーボードなど、まさに堂々のプリンス節が存在している。途中からリサ&ウェンディが登場してくるかと思ってしまった。

 次の曲の"U Know"と"Breakfast Can Wait"は繋がっていて、前者はスローなR&Bで、後者はそれよりややファンキーな彩が添えられた曲だ。ちなみに後者の曲は、ウェブ上で先行シングルとして発表されたもの。でもこの曲だけ聞いてもプリンスとは思えないだろうな。

 後半は"This Could Be Us"から始まる。プリンスの短いセリフからいつものファルセットが始まる曲だが、スローなバラードなので、思わず聞き惚れてしまった。後半にお約束のギター・ソロがあるのだが、ほとんど目立たないのが残念だった。

 "What It Feels Like"も同傾向の曲で、ここでもアンディ・アローがフィーチャーされている。
 "AffirmationⅠ&Ⅱ"でもリアーネ・ラ・ハヴァスがフィーチャーされているが、これは彼女のセリフだけで、約40秒しかない。そのセリフに続いて登場する"Way Back Home"は、このアルバムの後半を代表するバラードだ。

 この曲にはパロマ・アヤーナという人がバック・コーラスに参加しているが、パリ生まれのロンドン育ち、パロマは本名のようで、ミュージシャンとしては“デライラ”という名前で活動している。

 ここまでは比較的おとなしい曲が続いたが、一転して"Funknroll"では文字通り、ファンキーでリズムが強調されたパワフルな曲になる。後半のファズが効いたギター・サウンドがアナログチックで面白いし、やっぱりプリンスはこうでなくては...と思ってしまった。

 ただギターの演奏時間が短いのが不満だ。"Purple Rain"みたいに無理に延ばさなくてもいいので、もう少し余韻を持たせてほしかった。
 また、この曲と同名の曲が、サード・アイ・ガールのアルバムにもみられるが、たぶん同じ曲だろう。

 そしてこのアルバムの中で一番長い曲の"Time"もまた、アンディ・アローとのデュエット曲で、逆にこの曲は、もう少し短めにアレンジしてほしかった。

 最後の曲は"AffirmationⅢ"で、リアーネとパロマがフィーチャーされている。先のアンディも含めて、彼女たちはいずれも24~25歳の若い女性ミュージシャンである。50歳後半を迎えたプリンスは、彼女たちの若い才能に触発されながら、今後も作品を発表していくのだろう。

 このアルバムのクレジットには、レコーディングは彼のホーム・グラウンドのペイズリー・パーク・スタジオで、プロデュース、アレンジ、作曲、演奏は@サード・アイ・ガールとあるが、もちろんすべて手掛けているのはプリンスであることは間違いない。

 いくつかの部分ではまだまだ不満はあるものの(特に後半はもう少し元気があってもいいのではないか)、今後の活躍が期待されるプリンスである。彼の何度目かの黄金期が再び湧き起ってくることになるだろう。

 ちなみにこのアルバムは、アメリカでは最高位5位(R&B部門では1位)を記録した。
 


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コメント

わー今日ちょうどこのCD聞きながら、スマホを見たら!!
私はプリンスの大ファンなので、2枚同時購入しましたが、
じっくり聞く余裕が無く…ようやく先程2枚共聞き終りました。ま、サードアイガールの方は元気のいいお姉ちゃん達
に付き合ったって感じ。このアルバムはやっぱりプリンスだよね!!確かに少し物足りない感は有る…もっと、こう得意の
ブラックな感じで、ドカーン!!とやってほしい。
ところで、先日映画「121212 ニューヨークライヴ」見てきました♪盛りだくさんで、結構楽しめます。

投稿: 川崎の晴れ豚 | 2015年2月 5日 (木) 23時01分

 これはこれは、コメントありがとうございます。プリンスが好きと公言する人は、私の身のまわりには少なくて、みんな変な顔をします。

 日本人には彼の音楽性はわからないのだ、などと自分をごまかしてはいますが、理解者がいないとは悲しい限りです。

 U2も昔は好きだったけど、今はちょっとという人も多くて、悲しいです。逆に昔よりも最近の方が円熟味が増していて、なかなか素晴らしいと思っています。

 2000年以降の彼らのアルバムを聞いてみてください。かなりイケルと思うのですが、どうでしょうか。

投稿: プロフェッサー・ケイ | 2015年2月 6日 (金) 22時45分

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