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2015年1月22日 (木)

ソングス・オブ・イノセンス

 昨年の秋の終わりに、U2のニュー・アルバムが発表された。約5年ぶりの通算13枚目に当たるスタジオ・アルバムだった。タイトルを「ソングス・オブ・イノセンス」という。

 2009年に発表された前作「ノー・ライン・オン・ザ・ホライゾン」は、全体的に静かで、ロック的なダイナミズムに欠けていた気がした。そのせいか、個人的には2004年に発表された前々作「ハウ・トゥ・ディスマントル・アン・アトミック・ボム」の方が気に入っていて、いまだに愛聴しているほどだ。

 それでこの新作には通常盤とデラックス・エディションがあって、自分はデラックス・エディションを購入してしまった。
 デラックス・エディションは2枚組で、ディスク2には未発表曲やアコースティック・セッション、バージョン違いの曲などが収められていた。U2
 U2のアルバムで特徴的なことは、そのプロデューサーの起用方法である。例えば80年代初期ではスティーヴ・リリーホワイトがその役割を担い、後半ではブライアン・イーノやダニエル・ラノアが担当していた。

 スティーヴがプロデュースしたアルバムは、パンキッシュでありロックの初期衝動が保たれたサウンドだったが、イーノやダニエル・ラノアがプロデュースすると、よりエッジのたったギター・サウンドやロックのルーツに戻った音作りになっていった。
 また90年代に入ると、マーク・エリスなどを登用して、ダンサンブルな音作りを追及するようになった。

 それで今回のプロデューサーはというと、複数いるが主にデンジャー・マウスが請け負っている。
 デンジャー・マウス、本名はブライアン・バートンといい、ニューヨーク出身の37歳のミュージシャンである。

 彼が有名になったのは、ラッパーのジェイ・Zのブラック・アルバムのアカペラとビートルズのホワイト・アルバムをサンプリングして、グレイ・アルバムというネーミングで発表したことからだった。2004年のことである。
 また、このセンスを気に入ったデーモン・アルバーンが自分のバンド、ゴリラズのセカンド・アルバムのプロデューサーに起用したことから、グラミー賞にもノミネートされた。Photo
 これ以降、彼のもとにアルバム・プロデュースをお願いするミュージシャンが殺到するようになった。例えば、ジャック・ホワイトやベック、ノラ・ジョーンズ、ザ・ブラック・キーズ等々、主にアメリカン・ロック系のミュージシャンが多いようだ。

 それで今回はU2のエッジの招きに応じて、アルバムをプロデュースしている。基本的にU2というバンドは、複数のプロデューサーにアルバムを担当させて、いろんな視点から音作りを行ってきたが、この新作でも、その辺の方向性は変わっていない。

 しかし、ほとんどの曲でプロデュースを行っているのは、デンジャー・マウスである。リーダーのボノはその理由について、今までの音楽的水準に堕することなく、新しい音楽的方向性やエモーションに挑戦するためだと述べている。

 それで肝心の音の方だが、実験的要素やダンス音楽的な雰囲気は微塵もなく、タイトルにあるように、歌中心の、意外にオーソドックスな音作りになっている。

 実は今回のアルバムは、今後続く3部作の第1作目にあたるものらしい。前作からライヴ活動を主に続けてきた彼らだが、その間にかなりの曲がストックされてきたようで、今年中か来年の初頭には「ソングス・オブ・エクスペリエンス」を、2~3年後には「ソングス・オブ・アセント」(仮題)が発表されるという。

 それで今作は歌もの中心だが、次作はダンス・ミュージックっぽいサウンドのものを、3作目は実験的、瞑想的な作風のものを制作するといわれている。なるほど、だから今回は聞きやすく、覚えやすい曲で構成されているのだろう。

 特に1曲目の"The Miracle(of Joey Ramone)"は、ハードなリズム・リフとサビのメロディが、若干違和感はあるものの、巧みにマッチングしていて見事である。そういえばTVでも放映されていた。

 この歌がこのアルバムの方向性を決めているようで、だから1曲目に持ってきたのだろう。彼らがまだティーンエイジャーだった頃に、北アイルランドのダブリンにラモーンズが公演に来て、U2の面々は彼らの歌や演奏に衝撃を受けたという。
 それがきっかけとなって音楽活動を志し、今の彼らを形成したというのだ。そういう意味では、非常に意義深い出来事であり、またその意義が込められた曲なのである。

 またいかにものU2節の"Every Breaking Wave"やスローな展開から徐々に盛り上がっていく"Song For Someone"、アップテンポでクラブのBGMにでもなりそうな"Volcano"など、確かに80年代後半に回帰したようなU2の姿がここにある。U22
 それからアルバム・ジャケットのことについて一言いうと、このまるでゲイ・カップル写真のようなものは、メンバーのラリーとその長男とのフォト・セッションから生まれたものであり、長男は“イノセンス”の象徴として、バンドが純粋無垢だった頃の姿を表わしているという。
 

 要するに、自分の中にある純粋さを維持していくことが、いかに難しいかをテーマにして表現しているのである。

 このアルバムは、歴史的な名盤でもなければ、彼らの代表作でもない。個人的には「ハウ・トゥ・ディスマントル・アン・アトミック・ボム」の方が100倍は好きだ。

 しかしこのアルバムには、現在進行形の彼らの姿がある。70年代後半から活動を続けている彼らだが、いまだ現役のバンドとしての証しが、このアルバムに込められているのである。


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コメント

 プロフェッサー・ケイさんの感想からは、まだU2の彼らは現在進行形であるとの評価になるんですね。私のロック史においては、かっての彼らの台頭はロックの一つの転換期で、必ずしも好きだというタイプでなかったんですが、彼らの姿勢には大いに評価をしていました。出身地のアイルランドの宗教対立をテーマにした1980年代始めの「WAR(闘)」は懐かしいです。あの中では私の最も興味のあるヨーロッパの国ポーランドの民主化運動である独立自主管理組合「連帯」を歌った”New Year's Day”は今でも感動したのを覚えています。近年のポーランドのアンジェイ・ワイダ監督の描いた映画「ワレサ」でも、前編ロック・ミュージックが使われているところも、たぶんU2効果だと思っています。

投稿: 風呂井戸 | 2015年1月23日 (金) 13時16分

 コメントありがとうございました。確かに私の中ではU2は現役選手です。彼らはいまだに世界が直面している問題にコミットしようとしています。

 ただこれはロックバンドが内包する宿命みたいなものだと思うのですが、バンドが世の中に認知されればされるほど、その思想性、問題意識は薄れるようになります。

 思想性と大衆性は二律背反であり、思想性が薄らぐほどポピュラリティが獲得され、人気が出ないままだと、ますますトンガっていきます。

 この問題の前にはどんなミュージシャンやバンドも、一度はたじろいてしまいますが、これを超克したバンドやミュージシャンが歴史に名を残すように思えてなりません。

 たとえば、個人で言えば、ブルース・スプリングスティーンであり、ニールヤング、バンドで言えば、U2もその1つだと思っています。

 ただその濃淡については、バンドの歴史の長さに比例して薄められるようです。
 このロック・ミュージックにおける思想性と大衆性については、一度まじめに考えてみようと思っています。

投稿: プロフェッサー・ケイ | 2015年1月24日 (土) 19時54分

U2は好きになれなかったので、聞いていないんですが。
ポリティックなバンドだとは知ってました。
私もワイダ監督の「カティンの森」を見てポーランド
に興味が湧きました。トッド・ラングレンの昔の曲でも、
ケネディやソ連の政治家の名前を使った部分だけ音が小さくなってるんですよ!!レコード会社が気を使ったのか?な。
「ワレサ」見逃した…DVD探して見なければ。

投稿: 川崎の晴れ豚 | 2015年2月 5日 (木) 23時22分

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