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2015年6月23日 (火)

トラヴィス

 すでに西日本は梅雨入りをしていて、毎日一日中雨が降ったり、雨は降らなくても蒸し暑い日が続いている。
 一方で、イギリスのスコットランド地方は6月にまとまって雨が降るということはなく、日本の約半分程度で、むしろ冬に雪が降ることの方が多い。だから、統計的には夏よりも冬に降水量が多いことになる。

 そんな北海道よりも高緯度のスコットランドにあるグラスゴー出身のバンドを見てきたが、今回も1990年代後半から現在まで活躍しているバンドを紹介する。1997年のデビュー・アルバム以来、現在まで7枚のスタジオ・アルバムを発表しているトラヴィスである。

 彼らは4人組のバンドで、活動は1990年頃から始めている。当時は女性ボーカリストを加えた5人組で、自らを“グラス・オニオン”と名乗っていた。もちろんこれはビートルズ時代にジョン・レノンが作った曲名から取られたものだった。

 1991年に女性ボーカルのキャサリン・マックスウェルが脱退してしまったので、バンドはオーディションを行い、それに合格したのが、当時美術学校に在籍していたフラン・ヒーリーだった。バンド名も、映画「パリ、テキサス」の登場人物から拝借して、ここから彼らの歴史が大きく変わることになった。

 当時から曲を書いていたフランは、バンドに所属してからのデモ音源をプライベートCDとして発表した。現在ではこれらのCDには10万円以上のプレミアがついていると言われている。

 その後、彼らはそれらのデモ音源をソニー・ミュージックに送り、彼らに興味を抱いたソニー側は彼らの演奏を確認するために、わざわざエジンバラまで訪れて契約書にサインをした。
 そのときのライヴ演奏は散々な出来で、PAは爆発するし、お客は暴動を起こすし、結局、2~3曲しか演奏できなかったそうで、フランは到底契約などはできないと落ち込んでいたという。

 なぜ彼らが契約できたかというと、当時から彼らはメロディの美しい曲を書き、それをストレートにリスナーに訴えていたからで、実力だけでなくそういう真面目な姿勢も評価されたからである。2

 バンドは、メンバー・チェンジ後、ロンドンに進出してアンディ・マクドナルドと出会い、1997年にデビュー・アルバム「グッド・フィーリング」を発表した。
 アンディ・マクドナルドは、彼らを第二のU2やオアシスにさせたかったようで、このアルバムのプロデュースをU2で有名なスティーヴ・リリーホワイトに任せている。

 だからかどうかはわからないが、彼らのワイルドな魅力の方が前面に出ていて、セカンド・アルバムのような落ち着いた美メロを味わうことはできない。それでもチャート的には全英9位まで上昇していて、新人バンドとしては異例のヒット・アルバムになった。

 彼らが世界的な評価を得たのは、セカンド・アルバム「ザ・マン・フー」が大ヒットしたからである。
 1999年に発表されたこのアルバムは、サウンドの繊細さやメロディの美しさ、フランの歌声の優しさなど、彼らの魅力が十二分に発揮されていて、本来あるべき彼らの姿がパッケージされていた。

 プロデューサーにレディオヘッドやベック、ポール・マッカートニーと作業したナイジェル・ゴッドリッチを迎え、フランスの古城やロンドンのアビー・ロード・スタジオで録音されたこのアルバムは、全英アルバム・チャートでは1位を獲得し、全世界で2700万枚以上も売れた。

 ミディアム調の"Writing to Reach You"の歌声は、優しい天使のようで、コード・ストローク中心のギター・ソロはかつてのU2やコールドプレイのようだ。
 続く"The Fear"はアコースティック・ギターを中心とした曲で、フランは丁寧に歌っているし、"As You Are"はストリングスを伴うバラードで、熱唱するフランの歌声を聞くことができる。

 マイナー調の曲が続く中で、"Driftwood"は明るいイメージを与えてくれる。また、エレクトリック・シタールがバックの味付けになっている"The Last Laugh of The Laughter"は夢の中を浮遊している感じだ。

 さらにハーモニカとアコースティック・ギターの絶妙なコラボが味わえる"Luv"も美しいバラードだし、"She's So Strange"もアコースティックを基調とした子守歌のような穏やかな曲だ。Photo
 これらの曲の多くは1995年から96年にかけて作られたもので、中には"Turn"や"She's So Strange"のように“グラス・オニオン”時代の曲も含まれていた。昔から彼らの音楽的姿勢は一貫していたということだろう。

 ところで、このタイトルは"The Man Who Mistook His Wife for a Hat"(自分の妻と帽子を取り違えた男)という精神分析の本から取られていて、このアルバムはなぜかスタンリー・キューブリックに捧げられている。

 自分はこのアルバムを聞いて、たぶん彼らは“一発屋”で終わるだろうと思っていた。確かに1曲1曲は繊細で美しいのだが、全体を通して聞くと、一本調子で起伏が少なく、ロック的なカタルシスを味わうことができなかったからだ。

 だから彼らのアルバムは、この1枚しか持っていない。眠りにつくときに聞くには最適なアルバムなのだが、高揚感や疾走感を味わうことはできないのが、残念である。

 2000年前後のトラヴィスは、レディオヘッドとコールドプレイとともに、21世紀のブリティッシュ・ロックを飾る新御三家と呼ばれていたが、最近ではこのトラヴィスだけが取り残されているようで、やや落ち目の感がある。

 それでも今年になって、ニュー・アルバムの録音に取り掛かったことが発表された。フラン・ヒーリーもまだ41歳の若さである。落ちぶれるのは、まだまだ早いようだ。


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コメント

ご無沙汰してます。
関係無い話しで恐縮ですが、イエスのクリス・スクワイアが亡くなったそうですね。
昨年来日した際には元気そうだったのに…
合掌。

投稿: 川崎の晴れ豚 | 2015年6月29日 (月) 23時32分

私もクリス・スクワイヤが亡くなったということをテレビで見ました。というよりも半分寝ながら見ていたので、後になってから本当だったのかどうなのか、はっきりしなかったです。

 いずれにしても唯一のオリジナル・メンバーだった彼を失ったわけですから、今後はどうなるかわかりませんね。あまりにも大きな痛手です。

 ある意味、最後の勇姿を見ることのできた川崎の晴れ豚さんは、幸せだったと思います。いい思い出をいつまでも大切にしてください。

投稿: プロフェッサー・ケイ | 2015年6月30日 (火) 22時24分

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