« ウォーリー | トップページ | ジェントル・ジャイアント(4) »

2015年10月22日 (木)

ジャン=リュック・ポンティ

 今年聞いたプログレッシヴ・ロック・シリーズ第3弾は、フランスのミュージシャン、ジャン=リュック・ポンティのアルバムについてである。

 彼はジャズ・ヴァイオリニストだ。自分はジャズは聞かないのでよくわからないのだが、それでもロックのフィールドに近いものについては聞くことがある。例えば、ウェザー・リポートやマハヴィシュヌ・オーケストラ、ジャコ・パストリアスなどだ。

 ロックの分野でも割とジャズに近い70年代のジョニ・ミッチェルや初期のフランク・ザッパ、イギリスのカンタベリー系の音楽なども、自分のテイストにあっていると思う。

 ただ、ジャン=リュック・ポンティについては、今までノー・マークだった。ロックのヴァイオリニストといえば、エディ・ジョブソンやダリル・ウェイなどが幅を利かせていたから、彼のことまで手が回らなかったのだ。

 最初は、ジャン・ミッシェル・ジャールと混同していた。ジャン・ミッシェルの方は有名なキーボーディストで、シンセサイザーを多用したアルバムを発表していたから、日本での知名度は上だったのではないだろうか。
 特に70年代半ばのアルバム「幻想惑星」などは、日本のFMラジオでもよく流されていた。

 だからジャン=リュック・ポンティのことを知った時は、彼はヴァイオリンも演奏するのかなどと、頓珍漢なことを思ったりもしていた。彼がフランク・ザッパのアルバムに客演していたのを思い出した時のことだった。1

 今回“プログレッシヴ・ロック生誕45周年記念”シリーズで、彼のアルバムが再発されたので、きちんと向かい合って聞こうと思った。最初に聞いたのは1976年の「桃源への旅立ち」だった。このアルバムには、ギタリストとしてダリル・ステューマーやドラマーとしてマーク・クレイニーが参加していた。

 ダリルは、ご存じのようにジェネシスのツアー・ギタリストやバック・バンドの一員として有名だったし、マークの方はジェスロ・タルの1980年のアルバム「A」に参加していたから、彼らのことは以前から知っていたので、聞く前からワクワクしていた。

 冒頭の曲"New Country"を聞いて、ビックリした。ポップだし、アイルランドのケルティック・ダンスのような軽快な曲だったからだ。また、時間も3分少々と短かったし、自分の中でジャズといえば、ダークで重くてグニャグニャしたようなものというイメージがあったから、ちょっとこれは違うのではないかとも考えた。

 ただ、ダリルの弾くアコースティック・ギターはキレがあり速かったし、トム・ファウラーの演奏するベースにはうねりがあって、新鮮に感じられたのも確かである。

 2曲目の"The Gardens of Babylon"は、自分がイメージしたようなややダークで、テクニカルなものだった。やはりジャズ・ロックはこうでなくてはいけないというお手本のような曲だった。
 リズム陣はタイトでしっかりしているし、メインのフレーズはわかりやすい上に、それぞれの楽器がソロ・パートを取ってくれるので、聞いていて安心感があった。もちろんジャンの演奏するヴァイオリンは流れるように美しい。

 3曲目の"Wandering on the Milky Way"はヴァイオリンによる多重録音。まさに天の川の中を漂うかのように幻想的で夢幻的な曲だ。時間的には1分50秒と短く、次の曲のプレリュードのような扱いだった。

 4曲目の"Once Upon A Dream"でやっとジャンのヴァイオリンが目立ってくる。彼とアラン・ザヴォットの演奏するシンセサイザーがスペイシーな雰囲気を醸し出していた。
 その4曲目をもっと複雑にしたような曲が次の"Tarantula"で、ダリルの弾くエレクトリック・ギターも目立っている。意外とダリル・ステューマーって、上手だったんだというのが分かる曲でもある。

 そしてこのアルバムでの一番のハイライトは、組曲"Imaginary Voyage"だろう。パート1から4まであるこの曲は、当時のレコードのサイドB一面を使って制作されたもので、それぞれのパートが“起承転結”を担っている。

 2分余りのPart1が終わった後は、ジャンのヴァイオリンとアランのシンセサイザーが目立つPart2に移行する。
 Part3ではテンポの良いリズムに乗って、ジャンのヴァイオリンが宙に舞い、8分もある最後のPart4で大団円を迎えるのである。

2
 なかなかの好盤だったこのアルバムに気をよくした自分は、さらに次の年に発表された「秘なる海」も聞いてみようと思った。このアルバムにはダリルだけでなく、アラン・ホールズワースが参加していると聞いたことも、そうさせた一因だった。

 前作はサイドBが組曲だったが、このアルバムには2つの組曲"Enigmatic Ocean"、"The struggle of the Turtle to the Sea"が収められ、それぞれがパート4とパート3に分けられていて、それを中心に間に"Overture"と他に3曲が挿入されるという構成になっていた。全体としては、“海”をテーマにした1枚のトータル・アルバムといった感じである。

 最初の"Overture"~"The Trans-Love Express"からリスナーを唸らせてくれる。ジャンの弾くヴァイオリンの短いパッセージとダリルの演奏する2分過ぎからのテクニカルなギター・ソロが素晴らしい。本当にダリルは、過小評価されているギタリストだと思った。

 次の曲"Mirage"はタイトルとは違って、ヴァイオリンとシンセサイザーがリードを取りながらテンションの高い演奏が繰り広げられている。
 この"Mirage"は海に浮かぶ蜃気楼のことだろう。だからラクダに乗ってゆっくり行くようなリズムではないのである。

 さて4曲目から、いよいよ組曲"Enigmatic Ocean"が始まる。これも“起承転結”に分かれているのだが、特筆すべきは5曲目のPart2だろう。3分35秒という短い間に、ヴァイオリン~ギター1~キーボード~ギター2とソロがあって、特にギター2のソロは速すぎてついていけない。もちろんアランが弾いているのだろうが、次のPart3では最初からソロを弾いていて、ある意味、ジャンよりも目立っている。

 さらに、まるで音のシャワーのように、ジャンとアランの掛け合いが凄すぎる。時に交互に、時にユニゾンで演奏する様が息もピッタリと合っていて、聞いているこちらまで息をひそめてしまうのである。窒息したらどう責任を取るつもりなのだろうか。

 8曲目の"Nostalgic Lady"もジャンとアランの独壇場だ。5分24秒と割と長めの曲の中で、最初にジャンが、3分過ぎからアランがリードを取っている。最初はアランはおとなしめだが、徐々に加速し、4分過ぎにはメイン・フレーズをジャンとユニゾンで演奏している。

 前の組曲もそうだが、ここでもジャンがギター・ソロのように、アランがヴァイオリンのソロのように演奏していて、まるでジェフ・ベックの"Blue Wind"や"Sophie"のようで、ジャンとアランはヤン・ハマーとジェフ・ベックのような気がした。だからこのアルバムは、ヴァイオリン版「ワイヤード」なのである。

 後半の組曲"The struggle of the Turtle to the Sea"は、テレビでのウミガメの産卵というドキュメンタリー番組から着想を得た曲らしく、3部形式になっている。
 Part1ではアラン・ゾイドのシンセサイザーが目立っていて、ジャンのヴァイオリンがメイン・フレーズを奏で、Part2では静かなエレクトリック・ピアノのイントロからバンドとしての演奏が始まってくる。このパートでのメイン・リードはヴァイオリンだ。

 そして最後の曲Part3になるのだが、最初に、ジャンとともにマハヴィシュヌ・オーケストラに在籍していたラルフ・アームストロングのフレットレス・ベース・ソロがフィーチャーされて、ダリルのギター・ソロ、スティーヴ・スミスのドラム・ソロと続いている。

 ドラマーのスティーヴは、この後ジャーニーに参加したが、彼がジャズ・ドラマーだったとは知らなかった。確かに正確なタイム感覚とキレのよいハイハットは素晴らしいと思う。
 そしてトリを飾るギター・ソロはアランだ。彼のギター・ソロはレガートが多用されているので、一聴してすぐに彼だとわかる。ここではエンディングに弾いているのだが、もう少し彼の演奏を聞きたかった。少し欲求不満が残るのである。Photo
 とにかくこの2枚のアルバム、特に「秘なる海」は歴史的な名盤だと思う。ヴァイオリン版「ワイヤード」と書いたが、今までこんな素晴らしいアルバムを知らなかった自分が恥ずかしかった。
 アメリカでは、チャート的にも成功し、ジャズ・アルバム・チャートでは第1位、全米アルバム・チャートでも35位まで上昇している。

 このあと彼はさらにアルバムを発表し、黄金の70年代、80年代を築くことになるのだが、それはまた別の機会に譲ることにする。別の機会があればの話だが…

 1942年9月生まれなので、現在ジャンは72歳だ。最近では、70歳になる元イエスのジョン・アンダーソンとアンダーソン・ポンティ・バンドというプロジェクトを組んで、「ベター・レイト・ザン・ネヴァー~真世界への旅」というアルバムを発表した。どんなアルバムになったのか興味津々である。このブログでも取り上げてみたいと思っている。


« ウォーリー | トップページ | ジェントル・ジャイアント(4) »

プログレッシヴ・ロック」カテゴリの記事

コメント

こんにちは。やはり、秋はプログレですよねー!!
ジャン・リュック・ポンティ懐かしいな。軽快なヴァイオリンの音色が印象的でした。私ももう一度聞き直してみよう。
先日ブルーノートでジョン・マクラフリン&4th dimension
聴いてきました。素晴らしいライブでしたよ。特にインド人ドラマーが凄い!!ヘビィでドライな超テクニカルなサウンドで。ニューアルバムはチェックすべきです。

投稿: 川崎の晴れ豚 | 2015年10月26日 (月) 06時44分

 お元気ですか?秋のプログレ祭り実施中です。ジャン=リュック・ポンティがこんなに素晴らしいとは思ってもみませんでした。生きててよかったというのが実感です。まさに”ヴァイオリン版ワイヤード”だと思います。

 それはともかく、ジョン・マクラフリン見たかったですね。うらやましいです。最近、衛星放送でモントルー・ジャズ・フェスか何かの昔のライヴ映像が放映されていましたが、あれは来日記念番組だったのですね。

 自分は「黙示録」や「火の鳥」などはよく聞きましたが、ジャズというよりは、やはりプログレッシヴ・ロックという意識でしたね。いやー、それにしてもうらやましい。DVDを早く出してほしいです。ジョンがチョイスしたミュージシャンなら間違いないでしょうね。

投稿: プロフェッサー・ケイ | 2015年10月26日 (月) 22時32分

コメントを書く



(ウェブ上には掲載しません)




トラックバック

この記事のトラックバックURL:
http://app.f.cocolog-nifty.com/t/trackback/257206/61985993

この記事へのトラックバック一覧です: ジャン=リュック・ポンティ:

« ウォーリー | トップページ | ジェントル・ジャイアント(4) »