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2016年3月25日 (金)

3人のトム(2)

 さて、2人目のトムは舞台をアメリカに移して、西海岸のロサンジェルスのシンガー・ソングライターを紹介したいと思う。

 日本ではどういう評価かわからないけれども、アメリカではグラミー賞も受賞するほどの有名なシンガー・ソングライターである。
 そのトム・ウェイツは1949年生まれだから、今年で67歳になる。1973年にデビューしているが、若いうちから音楽には興味があったようだ。

 16歳の時に高校を中退して、ピザ屋で働くようになったが、時間を見つけてはギターの練習や作詞、作曲をして腕を磨いていた。当時はまさにフラワー・ムーヴメントのようなサブ・カルチャー全盛の時代だったようで、そういう雰囲気の中で自分の可能性を探っていたのだろう。

 ただ、60年代の西海岸の音楽といえば、ジェファーソン・エアプレインやザ・ドアーズ、ラヴなどが思い出されるのだが、トムはそういうロック・ミュージックには興味がなかったようで、むしろボブ・ディランのようなフォーク・ミュージックや、ジェイムズ・ブラウンを含むR&B、ジャズなどを志向していたという。

 だから、彼の初期のアルバムを聞くとわかると思うが、ピアノによる弾き語りやジャズ的雰囲気を伴った楽曲が多くて、確かにロック的な音楽ではなかった。Photo

 自分が初めて聞いた彼の曲は"The Heart of Saturday Night"だった。この曲を聞いて、トム・ウェイツの優しさのようなものが伝わってきたのを覚えている。
 当時は、また新しいシンガー・ソングライターが登場してきたなと思っていたが、ジェイムス・テイラーやポール・サイモンとは何となく違うなという感じがした。

 たとえば、ピアノとストリングスがメインの"Martha"や"Grapefruit Moon"、歌というよりポエトリー・リーディングに近い"Small Change"などは、もはやジャズといってもいいだろう。

 だから自分の中では、確かにシンガー・ソングライターだけれども、どちらかというと、ランディー・ニューマンに近いような気がした。彼もシンガー・ソングライターだが、ピアノ曲中心だし、ロックだけでなく、ジャズやR&Bにも造詣が深いからだった。

 彼を語るときに外せないのは“酔いどれ詩人”というフレーズだが、確かに裏酒場で飲んだくれている客やチープなホテルで別れる恋人たちを描写させれば、彼の右に出る人はいないような気がする。

 何と言っているのかは全く分からないのだけれども、彼のしわがれた声とそれを包み込むような穏やかなストリングスを聞くと、なぜだかわからないけれど、何となく物悲しくなってしまうのである。"Tom Traubert's Blues"や"Blue Valentines"などは、その最たるものではないかと思っている。

 そういうトムではあるが、彼の音楽活動のピークは80年代半ばまでではないかと思っている。もちろんそれ以降も、グラミー賞を受賞した1992年の「ボーン・マシーン」などの傑作アルバムはあるにはあるのだが、印象としては70年代~80年代半ばまでだろうと思う。

 今の彼は、ミュージシャンというよりはアクターとしての活動が盛んなようで、1978年の「パラダイス・アレイ」出演後は、20作品以上の映画に出演している。主にジム・ジャームッシュやフランシス・フォード・コッポラの作品に出演することが多いようだが、1986年の「ダウン・バイ・ロー」では主演を務めている。

 だからトム・ウェイツの音楽を聞くと、何となく日本の泉谷しげるを思い出してしまう。泉谷も高校を中退したあと、数々の仕事やアルバイトを経験してフォーク・シンガーとして登場してきたし、歌も決して上手とは言えない。

 また、70年代後半からはテレビ番組や映画などの俳優業が目立ってきているし、年齢も今年で68歳と、トム・ウェイツに近い。こうしてみると意外と共通項が多いのだ。これもシンクロニティのなせる業なのかもしれない。

 とにかく、そういうトムの魅力が詰まっているのが彼のベスト・アルバムだろう。特に、1971年から1981年までのアサイラム・レコードのベスト曲集が入っているアルバムはお勧めである。
 彼の瑞々しい感性が素直に楽曲に反映されているし、ジャズやR&Bに影響を受けた様子がよくわかる。とても20歳代の若者が作った音楽とは思えないほどの老成した楽曲で占められていて、彼の原点がこのアルバムに収められている。611mkidwm1l_2

 このアルバムを聞くと、なぜか心が安らいでしまう。最後の曲"Ruby's Arms"は、映画のサウンドトラックに収められていてもおかしくない。エンドロールの場面には最適ではないだろうか。 

 実際に、コッポラ監督の映画のサントラ盤や舞台のミュージカルの楽曲も手掛けているし、最近ではノラ・ジョーンズも彼のサントラ曲をカバーしている(2002年の「ビッグ・バッド・ラヴ」から"Long Way Home")。

 ローリング・ストーンズのキース・リチャーズやレッド・ホット・チリ・ペッパーズのフリー、ロッド・スチュワートからエルヴィス・コステロまで、トム・ウェイツを敬愛してやまないミュージシャンは数知れない。
 2011年の「バッド・アズ・ミー」以来、まだ彼のニュー・アルバムは出ていない。最新アルバムが待たれるミュージシャンの一人であることは間違いないだろう。


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コメント

プロフェッサー・ケイさん、こんばんわ。
 ”3人のトム”シリーズ拝見しています。
 トム・ウェイツって、私はとっては完全に抜けている世界でした。どうも私の印象ではフォークっぽく感じていて、私自身の血気盛んな頃には、うまくマッチングしなかったんじゃないかと思います。
 しかし、そうですね・・・このように歳を取ってくると意外に息が合う世界なのかも知れません。実は最近歳を取ったレナード・コーエンのパターンが意外に良いと思ったりするんです。なんと最近の私は、それぞれのミュージシャンの味を感じ取れる歳になってきているとも実は思っていますので・・・・・・・(笑)。

投稿: 風呂井戸 | 2016年3月26日 (土) 21時53分

 コメントありがとうございます。日本ではマイナーな存在ですが、欧米では高く評価されているようです。こんなミュージシャンはいっぱいいます。

 レナード・コーエンとは鋭い着眼点だと思います。さすが風呂井戸殿、やはり違いますね。
 彼もまた日本ではやや低い評価ですが、欧米では新譜は必ずチャートインするというミュージシャンですね。

 私も近い将来取り上げたいと思います、このブログが続いていればのお話ですが…

投稿: プロフェッサー・ケイ | 2016年3月27日 (日) 09時28分

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