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2016年4月15日 (金)

ホージア

 昨年は、この人のアルバムを、携帯音楽プレイヤーに入れてよく聞いたものだった。他の人のアルバムは、数ヶ月でニュー・アルバムに交代したが、この人のアルバムだけは、ずっとヘヴィ・ローテーションだった。

 個人的には、サム・スミスのアルバムよりもよく聞いたのではないかと思っているし、彼と同等か、それ以上の評価が与えられてもおかしくないと思っている。
 アメリカではグラミー賞にもノミネートされていたし、それなりの評価を伴っていると思うのだが、如何せん、ここ日本では、彼についての情報量が少ないせいか、なかなか評判にならない気がする。

 ホージアは、アイルランド生まれの26歳。本名は、アンドリュー・ホージア=バーンというらしい。父親が地方のブルーズ・ミュージシャンだったせいか、幼いころから音楽に親しみ、高校卒業後は、ダブリンにあるトリニティ・カレッジで音楽を専攻した。
 ただ、自分の目指す音楽と合わなかったようで、1年生の途中で退学している。在学中はオーケストラに所属していたり、退学後も2012年までは合唱団で活躍するなど、音楽の素地は培っていたようだった。

 その後、彼は2013年に5曲入りのEPを制作したが、その中の1曲"Take Me to the Church"がインターネットに流されると大ヒットし、iTunesでは1位を、アイルランドのシングル・チャートでは2位を記録した。2

 これで自信を得たホージアは、アメリカ進出を試み、数多くのフェスやクラブでのライヴ活動、テレビ出演をこなしながら、"Take Me to the Church"を始めとする自作曲を歌っていったのである。人気の出るきっかけとなったのがインターネットというのは、いかにも21世紀のミュージシャンらしい話だ。

 2014年に、13曲入りのスタジオ・アルバムが発表され、その冒頭に"Take Me to the Church"が収められていた。
 ホージアの声質は、低中音部がエルトン・ジョンのような深みのあるもので、それによく伸びる高音部が付属している。合唱団に所属してノルウェーやオランダをまわっていただけのことはあって、歌に表現力を含んでいる。

 アイルランドのシンガー・ソングライターといえば、ダミアン・ライスが有名だが、彼は正統派というか、ギター一本での弾き語りなどが主流で、全体的に静謐な印象が強い。
 一方、ホージアの方はオーセンティックな手法だけでなく、ロックやR&B、あるいはゴスペルの影響を強く受けた音楽などをやっていて、かなり音数が多いのだ。

 ホージア自身もギターにピアノ、シンセサイザー、曲によってはベース・ギターまで演奏していて、マルチな才能を発揮している。アルバムのプロデュースも共同で行っていた。まさに音楽的才能に満ち溢れたミュージシャンなのである。

 "Take Me to the Church"はピアノを基調とした力強いバラードだが、2曲目の"Angel of Small Death & The Codeine Scene"やその次の"Jackie And Wilson"などは、ボーカルがメインの力強いロック調の曲になっている。バック・ボーカルにゴスペルの風味が加えられていて曲に広がりが感じられる。3

 ホージアとエルトン・ジョンの声は似ていると書いたが、身長はかなり差があって、ホージアの方は190㎝以上の長身だ。また、写真を見ればわかると思うが、長髪でフサフサしている。エルトン・ジョンも若いときはフサフサだったけれど、だんだん減少していった。ホージアもやがてはそうなるのだろうか。
 また、アコースティックからロック、R&Bまで幅広い音楽性もホージアとエルトン・ジョンには共通しているように思う。

 ちなみに"Take Me to the Church"は、ホモセクシャルに対するカソリック教会の偏見についてホージアの不満を述べたもので、そういう点でも、エルトン・ジョンと共通しているかもしれない。
 「母は教会に育てられたんだけど、ものすごくそれに反対していた。その教理に関して僕ははっきりした意見を持っている。アイルランドでは、権力が乱用され、女性や子供たちはひどい虐待を受けてきた。あれは有害な組織なんだ。僕は子供の頃に影響は受けなかったけど、成長するにつれて、その偽善、女性の扱い方、そして同性愛嫌悪に気付いてしまった」とホージアは雑誌のインタビューに応えている。

 アイルランドにおけるカソリック教会に対する非難は、シンニード・オコナーも同じようなことを述べていて、体制側として民衆を抑圧してきたその姿勢には、多くのミュージシャンが反対の姿勢を示している。
 自分は詳しくないのでよくわからないのだが、プロテスタントが生まれてきたのも、カソリック教会の堕落からだったはず。昔も今も何らかの問題を抱えていることは否定できない事実のようだ。
 なお、この曲は2015年の第57回グラミー賞ソング・オブ・ジ・イヤーにノミネートされていた。Photo

 

 このアルバムの特徴は、詞と曲のバランスが良い点だろう。バランスというよりも、その両方のレベルが非常に高いところで実に巧みに調和されているところだと思う。
 "Take Me to the Church"だけでなく、セカンド・シングルの"From Eden"では、人間の原罪意識や罪と罰、現代社会における孤独感など、どのようにも受け止められる暗喩が散りばめられていて、読み手のその時の状態によって、幾重にも解釈できる。

 この特徴は、他の曲にも表れていて、こういう技術的な曲作りの高さも、多くの人の注目を集める理由になっているのだろう。曲調もアコースティック主体の"In A week"、"Like Real People Go"やバラード調の"Work Song"など、バラエティ豊かだし、彼のボーカルを最大限に生かせるような抑制のきいたアレンジもまた見事である。

 この辺は、父親の影響もあるかもしれない。子どもの頃からアメリカのブルーズのレコードを聞いて育ち、特にデルタ・ブルーズ、チェス・レコード、モータウンなどの音楽を始め、ビリー・ホリディ、トム・ウェイツなどのミュージシャンなどもお気に入りだったようだ。
 だから、このアルバムにもそういうレコードやミュージシャンの影響が反映されているのだろう。

 まだまだ26歳と若いし、これからのポピュラー・ミュージック界をリードしていく逸材の一人である。サム・スミスやアデルを始め、イギリスやアイルランドから世界的有名ミュージシャンが陸続と輩出されているが、ホージアもまたその中の一人であることは言うまでもないだろう。
 ただ残念なのは、イマイチ日本では人気が出ていないことだ。せめてこのアルバムだけでもいいから、国内盤が発売されてほしいと願っている。


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