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2016年8月 1日 (月)

21世紀のプリンス(1)

 最近はプリンスばかり聞いていて、新譜を購入してもほとんど聞く時間がない。自分でも勿体ないとは思うが、とりあえず後回しにしている。
 別にこのブログを書くためでもないのだが、何かと誤解されることの多かったミュージシャンだったから、その誤解を解きたかった。それで「1999」から発表順に聞いていて、やっと21世紀のアルバムに到達した。

 人の偉大さというのは、同時代に生きているものにとっては、理解するのが難しいのかもしれない。自分の仕事や趣味、生き方と全くかけ離れているのなら、ある程度評価できるかもしれないが、自分自身の何かと重なり合うところがあれば、どうしても自分と比べてしまい、真っ当な評価ができなくなってしまう。

 プリンスもデビュー当時は、“黒いミック・ジャガー”、“JB(ジェイムズ・ブラウン)とスライ&ザ・ファミリ・ーストーンのいいとこ取り”などと言われて、正当な評価を与えられていなかった。
 ストーンズのオープニング・アクトで全米を回った際は、観客から物を投げられ、ブーイングを浴び、30分程度で楽屋に引っこんでシクシク泣いていたという。感性豊かな彼のことだから、よほど悲しく、また悔しかったに違いない。

 彼が世界的に正当な評価を得るようになったのは、2枚組アルバム「1999」がヒットした時からだろう。ということは1982年の終わり頃からということになる。親会社のワーナーも、2枚組アルバムの制作の許可をよく出したなあと思っている。
 このアルバムが売れなかったら、間違いなくその後のプリンスなかっただろうし、プリンスも自信があったから、敢えて2枚組にして発表したのだろう。

 それで今回は21世紀に入ってからのプリンスである。彼が2001年に発表したアルバムが「レインボウ・チルドレン」だった。71zxamipotl__sl1395_
 このアルバムは、音楽的にはプリンスが最もジャズに接近した産物と言われているが、個人的にはプリンスの“プログレッシヴ・ロック”アルバムだと思っているし、もう少し正確に言えば“プログレッシヴ・ファンク・ロック”だと思っている。

 また歌詞的には、神や宗教(キリスト教)に対する独自の解釈と概念が散りばめられていて、非常に哲学的・宗教的なものだった。それに、このアルバムからは元の名前のプリンスに戻っていて、ある意味、心機一転して音楽活動に専念しようとする彼の姿勢もうかがえた。
 
 この時期、彼が宗教に啓発を受けていたのも、やはり子どもの死や最初の妻との離婚などのプライベートな出来事が重なっていたからだろう。また、2001年9月11日のニューヨークにおける同時多発テロを受けての影響もあったかもしれない。
 だから聞いていくうちに、何となく息苦しくなってしまった。1曲目の"Rainbow Children"は10分3秒もあるし、"Family Name"、"The Everlasting Now"なども8分以上もあった。

 自分がこのアルバムを“プログレッシヴ・ロック”アルバムと思ったのも、曲の長さや曲間がないという理由だけではなく、全体を貫くトーンや雰囲気が、極めてコンセプチャルでソリッドだったからだ。

 だからといって、音楽的に質が劣るかというと決してそんなことはない。そこはプリンス、ファンキーな"The Work pt.1"や、ブラスが炸裂しゴージャス感満載の"Everywhere"、彼のギター・ソロが聞けるインストゥルメンタルの"The Sensual Everafter"など、聞きどころもまた多いのである。

 実は自分は結構このアルバムを気に入っていて、時々引っ張り出しては聞いていたが、やはりそうさせる魅力をこのアルバムは秘めていると思う。特にプログレが好きな人なら、このアルバムから先に聞いた方が、プリンスの才能の豊かさが理解できるだろう。そんな人がいるかどうかはわからないけれども…

 アルバム最後の曲は"Last December"というバラードで、これまた優れた楽曲だった。以前にも書いたが、彼の書くバラードは一級品で、特にスローな出だしから徐々に盛り上がっていく"Purple Rain"のような曲を書かせれば、彼に右に出る人はいなかっただろう。この"Last December"もまたそんな感じで、時に中間部の彼のギター・ソロが印象的でもあった。

 この後、彼はインターネットを利用しての音楽活動(アルバム発表)に取り組んでいる。これは90年代の後半から彼が取り組んでいるもので、ひょっとしたら、ネットを利用しての音楽の可能性を、最初に提示してくれたビッグ・ネームのミュージシャンは、プリンスだったかもしれない。
 
 2004年になって、プリンスはグラミー賞でパフォーマンスを行ったり、ロックの殿堂入りを果たしたりして、プリンス再評価の機運が高まっていった。そんな中で発表されたのが28枚目のスタジオ・アルバム「ミュージコロジー」だった。51cahwdyggl

 このアルバムでは、久しぶりにポップでファンキーなプリンスの音楽を味わうことができた。当時は、“原点回帰”などと言われていたが、前作が異色だったためで、プリンス本来の姿が発揮されたという意味として受け取っていいだろう。

 最初の2曲はプリンスらしいファンキーなナンバーで、3曲目の"A Million Days"あたりから王道プリンス節を聞くことができる。このアルバムのキラー・チューンは、この"A Million Days"と6曲目の"Cinnamon Girl"だろう。前者はミディアム・テンポのポップな曲で、後者はそれに輪をかけてよりポップだった。特にセカンド・ヴァースからのフレーズは口ずさめるほどメロディアスで、一度聞けばすぐに覚えることができた。

 また、"Call My Name"は優れたバラードだし、"On The Couch"は珍しくプリンス流のスロー・ブルーズだった。ファルセットで歌うプリンスは1986年の"Kiss"を髣髴させるものだった。
 ラストの"Reflection"はタイトル通りの内省的で落ち着いた曲調になっていて、プリンスも40代後半になったせいか、年相応に落ち着いた印象を与えてくれた。

 とにかく、このアルバムは売れた。アメリカでは200万枚以上のダブル・プラチナ・アルバムに認定されたし、イギリスやドイツでもチャートの5位以内に入ることができた。
 そして、このアルバムに伴うツアーでは、2004年における全米年間最高観客動員数と最高収益を記録し、翌年の第47回グラミー賞ではベストR&Bボーカル・パフォーマンスとベスト・トラディショナル・R&B・ボーカル・パフォーマンスの2部門を獲得している。

 こうしてプリンスは、21世紀になってから元の名前に戻し、そして再び何回目かの黄金期を迎えていったのである。恐るべし、プリンス。

 今になって思えば、やはり彼は天才だった。日本では80年代のような人気はなかったけれど、その音楽性は常に時代と対峙していて、80年代と同等かそれ以上のものを備えていたのであった。


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コメント

こんばんは♪
はぁ、「レインボー・チルドレン」はプログレですか。そんな風に考えた事なかったな…再度聞き直しが必要ですね!!
プリンス特集もそろそろ終わりでしょうか?考えれば考える程、プリンスの死は早すぎました…せめてもう1枚ベストアルバムを出して欲しかったです。

投稿: 川崎の晴れ豚 | 2016年8月 3日 (水) 21時28分

 コメントありがとうございます。「レインボー・チルドレン」は、一般的にはジャズにアプローチしたアルバムと言われていますが、自分的にはジャンルを超えた“プログレッシヴ”なアルバムだと思っております。あくまでも独断と偏見ですので、お許しください。

 ところで、プリンス特集はまだまだ続きます。もう少しだけ書きたいことがありますので。あまり期待しないでお待ち下さい。

投稿: プロフェッサー・ケイ | 2016年8月 3日 (水) 22時22分

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