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2016年8月 8日 (月)

21世紀のプリンス(2)

 21世紀になっても、プリンスの旺盛な創作力は続いていた。2004年に「ミュージコロジー」を発表した後も、同年にウェブサイトを通して通信販売できる「ザ・チョコレート・インヴェイジョン」と「ザ・スローターハウス」という2枚のアルバムを発表している。
 しかもこの3枚のアルバムは、アメリカ本国では同日(3月29日)に一斉に発売していて、いかに彼の創造性が高かったかが分かると思う。

 これは彼がファンとの交流を大事にしていて、レコード会社を通さずに直接ファンに届くようにしていたからで、この頃のプリンスは、商業的な利益よりも自分の芸術性の発露を求めていたようだった。

 それで2004年に3枚のアルバムを発表したプリンスは、2006年に31枚目のスタジオ・アルバムである「3121」を発表した。418xolt02l

 このアルバム・タイトルが何を表しているのか、はっきりしていない。いくつかの説があって、
①当時ロサンゼルスに借りていたマンションの番地を表している説
②旧約聖書の章と節を意味しているという説
③既発のアルバム枚数と発売日(3月21日)を表している説

 などが主に唱えられているが、どうもはっきりしないようだ。いずれにしてもアルバム・タイトルだけで充分世間からの注目を集めることができた。おそらくプリンス本人は、レコード会社の協力を得ずとも世間の注目を集められるぞと思っただろうし、まさにわが意を得たりという心境だったのではないだろうか。

 このアルバムもまた原点回帰というか、ソウル/ファンク路線に立ち還ったような雰囲気に満ちている。一方で、前作の「ミュージコロジー」のようなメロディアスでバリバリの売れ線狙いの曲は、めっきり減少していた。

 とはいえ、彼の書くバラード曲の素晴らしさは相変わらずで、"Te Amo Corazon"などは渋くて、個人的には大好きである。また、"Satisfied"も70年代のソウル・ミュージックぽくてなかなか良いと思った。

 ジミ・ヘンドリックスばりにギターがフィーチャーされているのは"Fury"という曲で、このアルバムからの3枚目のシングルになった曲だ。メロディ自体も比較的ポップで聞きやすい。この曲はプリンスひとりで制作したワンマン録音である。

 アルバムの後半になるにつれて、比較的メロディアスな曲が目立つが、女性ボーカリストのテイマーと共演した"Beautiful, Loved and Blessed"も美しいメロディを持つスローなR&B曲だし、プリンス自身が演奏するピアノが印象的な"The Dance"もまた5分以上もあるドラマティックな曲だ。こういう曲を聞くと、プリンスが自分の本来のあるべき場所に帰ってきたような感じがした。

 このアルバムは発売と同時にアルバム・チャートのNo.1を記録したが、これは彼のキャリアの中で初めてのことだった。また、No.1を記録したアルバムは、1989年の「バットマン」のサウンドトラック盤以来のことだった。

 だから何度も言うけれども、プリンスの才能は決して枯渇していたわけではなく、むしろより一層高みを目指して成長し続けていたのである。

 それを証明するかのように、翌年の2007年に「プラネット・アース」を発表した。前作はソウル/ファンク色が強かったが、このアルバムでは幾分ロックの部分が強調されていて、よりパワフルな音楽を聞くことができる。81zbu3v1bl__sl1500_
 1曲目の"Planet Earth"は静かなピアノの調べに乗ってプリンスのボーカルが始まり、徐々にリズムが刻まれていき、3分過ぎからは壮大なアンサンブルにつながっていく。エンディングにプリンスのギター・ソロが爆発しているが、なかなかの力作だと思う。

 次の"Guitar"はタイトル通りの曲で、前作ではあまり目立っていなかったギターが強調されていて、カッコいい。

 このアルバムは全体的に高揚感に満ちていて、聞いていて気持ちがよくなってくる。3曲目のバラード曲"Somewhere Here on Earth"もプリンス流の抒情性がよく表現されていて、思わず聞き惚れてしまった。

 これも何度も言うけれど、プリンスの作るバラード曲はどれも本当に優れていて、素晴らしいと思っている。この曲ではプリンスの弾くピアノとゲスト・ミュージシャンのトランペットがいい味を出している。

 また、"Future Baby Mama"も同様なバラードで、ファルセットで歌うプリンスはまさに性別も年齢も超越した存在のように感じられた。

 ゲストといえば、このアルバムにはシーラ・Eやかつての盟友ウェンディ&リサも参加している。だからというわけではないだろうが、メジャー調の明るい曲が目立っていて、だからアルバム全体を異様な高揚感が包んでいるのだろう。

 "The One U Wanna C"や"All the Midnights in the World"などを通して、音楽をやることの楽しさや喜びが伝わってくるし、シングル・カットされたディスコ調の"Chelsea Rodgers"などはホーン・アレンジが秀逸で、クラブでかかれば朝まで踊れそうな曲だった。

 興味深いのはラストの曲"Resolution"で、“解決”という意味のこの曲は反戦、平和の歌になっていることだ。今までのプリンスの曲の中で、これほどまでシンプルで直接的な平和を希求する曲は、覚えがなかった。

 曲自体もアコースティック・ギターのイントロで始まる超ポップな曲で、あまりひねりがない。その分だけストレートにリスナーに届くのだが、そういう効果を狙っていたのだろう。

 個人的には、久しぶりに明るくて肯定感あふれるアルバムを聞いたような気がした。「ザ・ゴールド・エクスペリエンス」以来の捨て曲なしのアルバムだと思った。
 全10曲45分と時間的に短いのが気に入らないのだが、それを除けば久しぶりに大衆受けしそうなアルバムだったと思う。

 実際、このアルバムはチャートで3位まで上昇して、ゴールド・ディスクを獲得しているし、隣国カナダでは1位を記録している。
 もう少し売れても良かったと思うのだが、CDを買って聞く時代から好きな時に好きな場所でダウンロードして聞く時代になったせいだろう。ゴールドディスクに認定されただけでも大したものだと思う。時代はもう80年代ではないのだから。

 このアルバムを発表した時、プリンスは49歳だった。40歳代の最後をこの絶対的高揚感に溢れたアルバムを発表することで締めくくったのだが、まさかこの9年後にこの世から去っていくとは、本人も思いもつかなかっただろう。Artistprince01
創造性あふれる天才児だったからこそ、神は早く召されたのだろうか。


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ソウル・ミュージック」カテゴリの記事

コメント

こんばんは。今回は今まで以上に素晴らしいブログで、何回も読み直してしまいました。プリンスの才能に対する深い理解と溢れる尊敬、愛情…色々な評価を読みましたが、ここまで細やかなものはなかったです。
3121は当時プリンスの新しい家の番地、との事で、内装も公開されてました。CDに同封されたハガキを返送すると、抽選でその家へ招待する、等のイベントもありましたね。

投稿: 川崎の晴れ豚 | 2016年8月10日 (水) 23時38分

 コメントありがとうございます。そうですか、やっぱり「3121」は当時のプリンスの家の番地だったのですね。そうとも知らず、いい加減なことを書いてしまいました。申し訳ないです。以後、気をつけます。訂正していただいてありがとうございました。

 ところで、このシリーズも次が最後になります。プリンスの新作を十分に聞きこんでいないので、中途半端な内容になるかもしれませんが、そこはまたカバーして下さい。だけど、川崎さんの“プリンス愛”もかなりのものだと思います。同好の士がいて、うれしいです。

投稿: プロフェッサー・ケイ | 2016年8月11日 (木) 00時03分

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